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Author: 加藤 瞳

東京都出身。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨーク市立大学シネマ&メディア・スタディーズ修士。2011年、元バリスタの経歴が縁でシアトルへ。北米報知社編集部員を経て、現在はフリーランスライターとして活動中。シアトルからフェリー圏内に在住。特技は編み物と社交ダンス。服と写真、コーヒー、本が好き。

石けん、洗濯、洗剤のあれやこれやについて語る〜ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.23

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

昨年末、衝撃のニュースが飛び込んできた。愛用するおしゃれ着洗剤の全ラインナップ、デニムウォッシュ、ウールウォッシュ、デリケートウォッシュ、なんとこれらが軒並みリコールになってしまったのだ。 

昔、アメリカのクリーニング店にお気に入りのコートとニットを出し、どちらも縮んで返ってきた悲しい経験から、できる限り自宅での洗濯を常としている。そんな私にとって、このリコールは死活問題。ニット類の洗濯シーズンも間近に迫る中、急いで新たな洗剤を探さなければならなくなった。

ところで、わが家の洗剤事情について少し説明したい。私は幼い頃からアトピーがあり、シャンプーや石けん類、洗濯洗剤など、なかなかに気をつかう。強い合成香料が入っているとアレルギー症状を発症してしまうのだ。かと言って、自然由来であればなんでも良いわけでもなく、エッセンシャルオイルは肌への刺激が強いため、洒落た香りのシャンプーを使いたくても、その刺激がまたアトピーを誘発する。 

そうした理由から、わが家の石けん・洗剤関連はその多くが無香料。また、中学時代に熱心な家庭科教諭から、合成界面活性剤の入った洗剤の恐怖とその環境負荷について聞かされたことも刷り込みとなっている。なるべくなら、自然に優しく生分解されるものを選びたい。なので、普段の洗濯には、セブンス・ジェネレーションや、エコス、バイオクリーンなどの製品を主に使用している。 

さて、リコールとなったその洗剤は本当に気に入っていたのだが、成分からバクテリアが検出されたというのだから大ショックである。残念だが、安全じゃないならてんで意味がないのだ。 

そこで「ベストおしゃれ着洗剤・環境に優しい・アメリカ」といった英語のワードで検索してみたところ、見つけたのがダーティー・ラボ。名前だけ聞くと本当にきれいになるのか怪しかったが、お正月前、試しにウールのアンサンブル着物とニットを洗ってみた。無香料だが、石けん臭いこともなく、古い着物もさわやかな洗い上がり。そしてニットはふんわり、だ。 

高級ウール、シルク、手洗い専用の「ダーティー・ラボ・ハンド・ウォッシュ&デリケート」。染料・香料不使用で、敏感肌用処方。​​全米エグジマ協会(NEA)による毒性テストをクリアし、アトピー性皮膚炎などを悪化させる可能性のある成分を含まないことが証明されている。また、EPA(米環境保護庁)とUSDA(米農務省)から、生分解性製品として認定を受けている

濃縮タイプでしかも「ハイパー(!)」と付くだけあり、1回の使用量はほんのわずかなうえ、パッケージもおしゃれでコンパクト。ちなみにアマゾンの商品紹介欄には「より持続可能な製品」を示すクライメット・プレッジ・フレンドリーのマークが輝く。これは良いものを見つけた。ちょっとほかの商品も試してみようかな、なんて思い始めている。

わが家の​愛用ソープ​群​。文中にも登場したバイオクリーンの​食器用洗剤​(左上)と、全身にも使用できる​エブリワンのハンドソープ​​​(左下)は​​、合成香料・色素不使用だが柚子のような柑橘の香り。​​オネスト​​の無香料敏感肌用のシャンプー​と​コンディショナー(右)​は、散々​いろいろ試して最近やっと落ち着いたもの。水で薄めて使用する​​ドクター・ブラナーズ​​の​「​ピュア・キャッスル​​・リキッド・​​ソープ​」​(中央)​は、​濃度を変え​て​ハンドソープからシンク用洗剤​まで​と万能​だ

■Dirty Labs
https://dirtylabs.com
化学者であるピート・ヒー博士とプロダクト・デザイナーのデビッド・ワトキンス氏が設立。化学に根ざしながらも自然と調和する、持続可能な洗剤作りを目指す。オンラインほか、ホール・フーズでも購入できる。

■Seventh Generation
www.seventhgeneration.com
「次の7世代、さらにその先の世代のために」をモットーに、安全性と環境にこだわった原材料、リサイクルまたは生分解可能なパッケージと、業界のサステナブル化をリードする。

■ECOS
www.ecos.com
1967年にイリノイ州で設立し、2011年にはワシントン州レーシーに支部を開設。より安全な界面活性剤を取り入れ、2008年にEPAより最高レベルの認定を受ける。

■Biokleen
https://biokleenhome.com
80年代、ジル・リマー氏がオレゴン州ポートランドの自宅ガレージで開発した住まい用洗剤から始まり、現在は種々の家庭用洗剤を販売。ここの食器用洗剤を使い始めてから手荒れが改善!

■everyone
www.eoproducts.com/collections/everyone
1995年に創業。ピュア・エッセンシャルオイルの魅力を生かした製品には、持続可能な農法による原材料を選択。製造プロセスの全てを、家族経営の廃棄物ゼロの工場で完結させている。

■Honest
www.honest.com
女優のジェシカ・アルバさんが、家族のために立ち上げた育児・セルフケア用品ブランド。セレブのブランドを使うのはなんとなく悔しい……と初めは思ったが、高品質なんだから仕方ない。

■Dr. Bronner’s
www.drbronner.com
1948年、ドイツ系ユダヤ人の3代目石けん職人のエマニュエル・ブロナー氏が設立し、現在も家族経営を続けている。ほとんどがビーガンに対応し、オーガニック認証。合成保存料、発泡剤は一切使用していない。

2023年、電気自動車(EV)について考える〜ゆる〜くSDG’sな消費者生活Vol.22

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

昨年末、知人が日本へ本帰国することになり、愛用のワーゲン・トランスポーターを手放すことを決めた。カスタム仕様の真っ赤な愛らしいそのワゴンには思い入れが深く、持っていくべきかと悩んでいたが「どうせなら、そろそろハイブリッドかEVに乗りたい」と言っていた。ワシントン州は、2030年以降全ての乗用車の新車販売・車両登録をEVとする目標を策定した。ガソリン価格高騰の折、周囲でもEVに乗り換える人が増えてきている。これはそろそろ本腰を入れて、EVについて知る必要がありそうだ。 

公共交通機関も続々とEV 移行する中、「環境に良いはず」と漠然と考えていたが、いざ調べてみると、それほど単純ではないことがわかる。EVは、バッテリーに貯めた電気でモーターを回して車を走らせるため、環境汚染物質を多量に含む排気ガスを出さないという意味では確かにエコカーだ。ところが、その電気がどう作られるのかが重要な問題らしい。米国の電力供給は一般的に、化石燃料を使う発電と、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーによる発電が混在している。現在販売中のEVの大半は、従来のガソリン車よりも二酸化炭素排出量は少ないとされているが、もし石炭を大量に使った発電による電気で充電された場合、最新のハイブリッド車よりも環境に悪影響を及ぼす可能性があるのだ。 

また、バッテリーであるリチウムイオン電池の生産自体も、コバルトなどのレアメタルを使用することで、その採掘・製錬における環境汚染や鉱山労働者の労働環境など、さまざまな問題をはらんでいる。さらに、リチウムイオン電池の寿命は5年ほどだが、その推定リサイクル率は現在の米国でおよそ5%でしかない。そのまま廃棄されれば深刻な環境汚染に直結する物質を多く含んでいるというから大変だ。 

え、じゃあどうすれば? とはいえ、近年の米国では多くの石炭火力発電所が閉鎖され、風力や太陽光による発電に移行中。徐々にクリーンになりつつあるのはうれしい話だ。リサイクルの問題も、これから技術革新が進めば解決できる可能性も出てくるそう。つまり、EVが本当に環境に優しくなれるかは今後の技術の進歩にかかっている。 

Mr.ビーン」が大ブームになった頃に思春期を送った私には、主人公のシグネチャーであるMINIクーパー(当時はまだローバーミニ)に執念深いほどの憧れがある。そのMINIも、2025 年を最後に完全 EVブランド化するらしい。さて、目標は2030年。憧れのヨーロピアンEVに乗るお財布と心の準備は整っているだろうか。

ガソリン・モデルのクラシックMINIをEVに改造する「MINIリチャージド・アップサイクル・プロジェクト」が昨年発表。昔ながらのMINIを、よりサステナブルに乗り続けるための試みで、ファッション界の巨匠、ポール・スミス氏による「1998MINIポール・スミス・エディション」もEVとして生まれ変わった©BMW AG, Munich (Germany)
懐かしの「ワーゲンバス」も電気自動車​、​ID.Buzzとして復活し、ヨーロッパではすでに販売されている。北米での発売は2024 年予定だそう。ああ、かわいい​

 

■「電気自動車は本当にエコか 電気からバッテリーまで、あらゆる面からチェックした」
https://globe.asahi.com/article/14329785
『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載された記事の日本語版。専門家らが調査したデータを基に、ガソリン車と比較し、詳細な数字を交えながらEV の知られざる環境負荷について問う。

■次世代自動車基礎知識
www.cev-pc.or.jp/kiso
次世代自動車の歴史や用語がわかりやすくまとめられている。例えば、ゼロエミッション車(ZEV)とは? 走行時、二酸化炭素などを排出しないクリーンな車両のことで、EVや燃料電池自動車(FCV)などを指す。ただし、現時点では EV 製造時の二酸化炭素量は実はガソリン車を上回っている(ボルボ・カーズ 2021 年発表)という事実も重要なポイント。

■再生可能エネルギーとは
www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable
太陽光、風力、水力、地熱など自然環境を生かし、永続的に利用できるエネルギーを電源とするものが、再生可能エネルギーと呼ばれる。国際エネルギー機関(IEA)の 2021 年発表では、発電電力に占める再生可能エネルギーの割合は、米国で21%、日本で 22%だ。

新品のスニーカーと新年の抱負〜ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.21

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

昨夏、公園を散歩中に犬のフンを踏んだ。大ショックである。以前フンを踏んだ(かもしれなかった)時には、つい「お気に入りの靴で犬のフンを踏んだ時の心理的対処法」をググってしまったが、今回は少し心持ちが違った。確かに気に入っている靴ではあったものの、「いい加減に買い換えなさいという天のおぼしめしなのでは?」と思ったのだ。真っ黒なカンペールのスニーカーを愛用し、2 代にわたり履いてきた。この2 代目はなんとゴアテックスを採用! 雨のシアトルもなんのそのだ。あまりの履きやすさ、合わせやすさに、3年もの間ひたすら履き倒してしまった。コロナ禍でおしゃれをする機会がなくなったのもいけなかった。とはいえ、さすがに自称靴好きが聞いてあきれる。 

早速、カンペールのオンライン・ショップを見てみると、残念なことにお気に入りのブルータス・シリーズは、愛用の型が廃番となってしまったようだ。かと言ってその前に履いていたデザインに戻るのも悔しい。そこで新たな黒スニーカーを求め調査を始めた。まず気になっていたのは、九州は久留米のスニーカー・ブランド、ムーンスターの810s(エイトテンス)シリーズ、「スチューデン」だ。夫がグレーを愛用していて、良いなぁとずっと思っていた。しかも、黒ではないが限りなく黒に近く見えるチャコールを新たに発売している。良い! しかし、本当のところ、この靴を買うなら、いかにもおじさんっぽい色のトープが欲しい……うーん。 

2021年より展開するカンペールのユニセックス・モデル「カースト」。サトウキビから抽出した成分を使用したアウトソールや、100%リサイクルコットンのライニング、リサイクルPET 素材の靴紐を採用することで、廃棄物を最小限に抑える取り組みがなされている

次にチェックしたのは、最近見かけることの多いヴェジャ。エコ素材の使用や公正取引、透明性のある製造工程、ソーシャル・プロジェクトへの関わりと、あらゆる方向からサステナブルだと話題になっている。さすが仏ブランドらしく、デザインも素敵だ。しかし、どうにも気になったのは、真っ黒スニーカーはどれも甲部分がメッシュ素材だということ。これはいただけない。だって、この時期のシアトルで履いたらビッチョビチョになっちゃうもの。 

ムーンスターの810s(エイトテンス)とは、「腹八分目」が由来。スクール・シューズを始め、介護現場や厨房など専門分野で使用される靴作りのノウハウをデイリーユースに落とし込み、その名の通り「日常にちょうどいい」デザインを提案する

さまざまなブランドを検討したが、一周回ってやっぱりカンペールの、今までだったらきっと選ばなかったであろうデザインが気になり始め、ブラック・フライデーを待って……と思いつつ結局は割引対象外で買ってしまった。新しい靴を買うたび、「良い靴は履く人を素敵な場所へ連れて行ってくれる」というどこかの国のことわざを思い出す。フンを踏んで運を拾った2022 年。2023 年は、おニューでお気に入りの靴と共に飛躍の年にしたい。

■Camper
www.camper.com/en_US
スペイン・マヨルカ島で生まれたプレミアム・カジュアル・フットウエア・ブランド。世界約 40カ国で 400 店舗を展開する。職人のクラフトマンシップと最先端技術を融合し、極上の履き心地を追求。「A Little better, Never perfect(少しずつ より良く。でも、完成形はない)」をスローガンに、よりサステナブルな未来の実現を目指す。

■MOONSTAR
www.moonstar.co.jp
1873 年に福岡県久留米市で創業した、つちやたび店が前身。現在も同地に本社・工場を構える。昔ながらの職人技を維持し、日本国内でもわずかな工場でしか生産することのできないヴァルカナイズ製法などの技術で知られる。同ブランドのスニーカー・ラインのひとつ、SHOES LIKE POTTERY(シューズライクポタリー)の製品はフリーモントのブルー・オウル(www.blueowl.us)にて取り扱いあり。

■VEJA
www.veja-store.com/en_us
VEJAとはポルトガル語で「見る」の意。2005 年にフランスで設立されて以来、生産されたシューズの向こう側にあるもの、社会的責任や経済的正義など生産における透明性にこだわり、従来とは異なる方法でスニーカーを作り続けている。

西尾 由香さん〜四つ葉学院代表

ベルビューにある四つ葉学院の代表を務めながら、自身も大学院生として海外子女教育の研究を続ける西尾由香さん。教育への熱い思いを存分に語ってもらいました。

取材・文:加藤 瞳 写真:加藤 瞳、本人提供

西尾由香■日本で公立小学校教諭として長年勤務した後、夫のワシントン大学関連病院への転勤に伴い渡米。2012年、海外子女教育研究校の四つ葉学院を設立した。日本教師教育学会、小学校英語教育学会の役員会員、また都内の現職教員として日米海外子女教育の研究に携わる。現在、国立教育大学教職大学院の修士課程に在籍。

四つ葉学院
2022年で創立10周年を迎え、国立大学法人「教職大学院」の海外研究校として、教育カリキュラムを刷新。海外在住の子女を対象とした効果的な日本語教育の実践と、日本の大学院との学術的研究とを融合した、革新的な教育法を展開している。また、文科省の学習指導要領に準拠した学習活動を行い、在外教育施設重点支援プロジェクトの研究協力校として来年度も選出されている。
Yotsuba Gakuin
【土曜校】
14220 NE. 8th St., Bellevue, WA 98007(Stevenson Elementary School)
【事務所】
655 156th Ave. SE., Bldg. A, #290, Bellevue, WA 98007
☎425-736-3189、info@yotsubagakuin.com
https://yotsubagakuin.com


小学校の先生になることを夢見て

「情熱に満ちあふれた先生」、そんな第一印象を受けた。教職関係者ばかりの親族に囲まれて育った西尾さん。冠婚葬祭などで話題に上るのはいつも教育に関することだった。物心つく頃には将来の職を小学校教諭と決めていた。

母親は都内の公立小学校教諭で、同じ小学校に入学したため、普通とはちょっと違う幼少期を過ごしたと言う。「職員室の片隅で職員会議を聞きながら母の仕事が終わるまで待ったり、先生たちに頼まれ、放課後の仕事や授業準備を手伝ったりしていました」。そんな環境の中で、授業の進め方や指導法について強く興味をそそられた。「私だったら、もう少しわかりやすい説明をするなぁ、この先生が人気なのは子どもの話をちゃんと受け止めてくれるからだ、先生のこの対応は私も真似しよう、などと子どもながらに観察し、教師の理想像を思い描いていました」

その夢は成長後もぶれることがなかった。大学時代のアルバイトは、塾講師に、博覧会での歴史レクチャー・コンパニオン。大学卒業後は念願かない、神奈川県川崎市で小学校教諭としてキャリアをスタートさせた。「奇遇にも、初任で受け持ったクラスは、保護者の3分の1近くが小中学校の教諭だったんです。指導教官からだけでなく、保護者でもある大先輩方に、学級便りの内容から始まり、保護者への適切な対応、面談での留意点まで、毎日鍛えられるという新任教師時代でした」。授業参観は、まるで公開研究授業の様相。しかし、その緊張感さえ「恵まれている」と捉えるところに、西尾さんの向上心の強さがうかがえる。

西尾さんは大学生の頃、子どもたちに歴史を教える博覧会のコンパニオンを経験(前列右から2番目)

平成に入った頃には新設校への転任が決まり、小学校立ち上げに携わることに。「学区内から、すご腕のベテラン教師が集められていました。経験の裏付けをもとに語られる『子どもの持つ可能性』、『学級運営の極意』などの話から、学校創立の基本を学びました。そんな先生方との研修の日々は何年経っても色あせず、かけがえのない宝物です」

日本での教員生活は、毎日学校に行くことが楽しくて楽しくて仕方なかったと振り返る。早朝から夜遅くまで、土日、長期休暇の間もほとんどを学校で教材研究をして過ごした。「子どもたちや保護者からは、『西尾先生は学校に住んでいるらしい』とうわさされたほどでした」

活躍の舞台はシアトルへ

麻酔科医である夫の転勤に伴い、家族で渡米したのは2004年。「勤務校での離任式を終えた翌日に渡米し、その1週間後には、日系の小学校の教壇に立っていました。日本での教職経験をすぐに生かせたので、スムーズに海外生活をスタートできたように思います」。西尾さんの視点は常に教育活動にあるようだ。

アメリカに暮らす現在も、日本での教員勤務は継続している。「日本の『今』の授業スタイルを知ったうえで、その教育現場に沿った授業を海外でも構築していくことが必要。そう考え、夏休みを利用し、都内の公立小学校で臨時的任用教員や学習支援員として勤務しています。学校の現場で子どもたちと一緒に過ごす時間が何より幸せなんです」。教職に就き30年以上が経過したが、その情熱の炎は全く消えることがない。「教師を長く続けているのは、子どもたちと一緒に、自らも成長し続けることができるからです」

四つ葉学院設立には、教師としての「子ども主体の、本物の学校を作りたい」という熱意に加え、3つの願いがある。

「私が子どもだったら、こんな学校で、こんな授業を受け、こんな先生から学びたい」
「私が保護者だったら、こんな学校に通わせ、こんな先生に子どもを育ててもらいたい」
「私が教師だったら、こんな学校で、こんな同僚や上司と共に働きたい」

四つ葉学院が開校したばかりの頃。「試験管の中に虹」を作った理科実験教室

四つ葉学院のシンボルマークである四つ葉のクローバーは、3枚の緑の葉が未来に生きる子どもたちに必要な「確かな学力」、「豊かな心」、「健やかな体」を示し、赤いハート形の葉はそれらを育む「教育愛」を表現している。「学力や体力、徳力だけでなく、『幸せに生きる力』をバランスよく身に付けて欲しい。国際社会で主体的に活躍できる人材育成を目指しています」。今年、設立10年を迎えた同校。これまで大変だったことや苦労したことは全くないと、西尾さんは言い切る。「子どもたちにとって、楽しくて有意義なことしかしてこなかったからかもしれません」

四つ葉学院での算数授業の様子。「こんな風に教えてもらえたら、きっとわかりやすかっただろう」と、算数が不得手の記者も実感
授業の合い間も質問をする児童や生徒でいっぱい

教員には、子どもたちに「教える」のではなく「伝える」という気持ちで授業に臨んで欲しいと指導している。「『教える』だと、わからない子どもたちが悪いとなってしまうけれど、『伝える』だと、私の伝え方が悪い、になりますよね。私も、『もっとわかりやすく説明してよ』なんてクラスの子たちはきっと考えているだろうな、と思いながら授業をしています。自分がそんなちょっと性格の悪い子どもだったので」と笑う。「子どもって、感じ取る能力が本当に高い。『子どもだからごまかせるだろう』とか、『言ってもわからないでしょ』という姿勢は絶対に伝わります」

 

シアトル日本語補習学校で担任を受け持った小学4年生の児童が書いた作文。人を笑顔にする西尾さんの理科実験教室は、世界平和にもつながると締めくくられている。「教員人生でうれしかったことのひとつ。1回1回の授業を大切にしたいと改めて再認識させられました」

常に研究と進歩を続けるために

世界を襲ったパンデミックにより、土曜校校舎として借用してきた現地校の使用ができなくなったのが2020年2月。しかし、翌月中旬には、早くもオンライン授業を開始している。オンラインによって物理的な制限がなくなったことで、逆に学習の場は飛躍的に広がった。まず、オンラインでの全校学習発表会を開催。そして、日本や他国の補習授業校との交流授業を実現させるなど、地域や国を超えた児童・生徒間の探求的学びを模索した。

特に合同授業の充実ぶりには目を見張る。ボストン補習校中学部とは国語とSDGsを、立命館小学校の5年生とは国語、社会、英語、IT、図工、SDGsの10回にわたる教科横断型授業を構成した。品川区の公立小学校の1年生と、国語の単元統型授業を試みたこともあった。「日本の小学校の教室や授業の様子をオンラインで体験でき、コロナ禍で一時帰国できなかった子どもたちにとって貴重な経験となりました」。まさに逆境を逆手に取る最先端の教育活動を、教員、子どもたち、保護者と共に実践した。

西尾さん自身、さらなる成長を目指し動き出している。今年4月から日本の教職大学院の学生として研究を始めた。「昭和初期の教育者、大村はま氏の言葉に、『教師の資格とは、研究を続けること。子どもと同じ世界にいない教師は、教師として失格である。研究をして、子どもと同じように伸びる気持ちを持つことが、教師の資格だ』とあります。私も、本物の教師であり続けたい。それで進学を決めました」。この夏には、大学院での夏季ゼミのため、日本で2カ月を過ごした。研究テーマは、「在外教育施設における令和の日本型学校教育の構築」。四つ葉学院が研究対象校だ。

「海外において、いまだに昭和的な教育を引きずり続ける補習校が少なくないことが問題になっています。その改善策として文部科学省が立ち上げたプロジェクト、AG5(在外教育施設の高度グローバル人材育成拠点事業)のモデル研究校に四つ葉学院が選ばれ、2020年には公開研究授業を行いました」。大学院ではこれまでの実践経験と理論を融合・一体化することで、教育の本質を探究。この夏、ゼミで行政業務に関わる研修を経験し、教育行政にも関心を持ち始めていると明かす。今後は大学院での研究職に関わりながら、行政の立場からも海外子女教育に携わっていきたいと考えているそう。

新たな段階に向け走り出した西尾さんだが、「半年先や1年後の自分の姿を思い描く」ということは難しいと話す。「これからやりたいことはと聞かれても、ないんです。だって、やりたいことがあったら、すぐさま始めてしまうから。やりたいなら、半年待たずに今やれば良いじゃない、と思っちゃう」

「社会に開かれた学校」として 10月 22日に行われた「出前授業」。シアトルのニチレイフーズ社員の田中香織さんを講師に迎え、食育などについて生きた知識を学んだ

最後に、子どもたちへのメッセージを聞いた。「今できることに、とにかく精一杯集中する。これは私自身にも言えます。現地校の授業やスポーツなどの課外活動、日本語学習と、今与えられていることやしたいと思っていることに全力を尽くすことが、何より大切ではないでしょうか」。過去を悔やみ、先を憂えても仕方がない。それより今を大切に生きて欲しい、と西尾さんは訴える。

「実は子どもって、そんなこと言われなくても今しか見てないですよね。だからそのままで良い、ということ。学力は、自己肯定感の上に育つものです。その自己肯定感を育むためには、家庭や学校で、ありのままの姿を認めてもらえるという安心感を与えることが必要。親が心配し過ぎると、子どもの教育や成長にとって邪魔になってしまいます。目の前にいる子どもの良さをどんどん見つけ、言葉で伝えてあげてください」

​私をファームに連れてって〜ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.20〜

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

私は今、悩んでいる。今年こそクリスマスツリーをどうするのか、についてだ。実家は生まれた時から団地住まい。スペースの都合上、クリスマスツリーがなかった。初めてホリデーのシアトルに遊びに来た2009 年、生木のツリーをくくりつけた古めかしい車とすれ違い、「おぉ! これぞアメリカ!」と感動したものである。  

この街に腰を据えることが決まった2017 年、私はついにリサーチを開始した。果たしてどんなツリーを選ぶべきなのか、と。ニューヨークに住んでいた頃、それは美しく飾られたツリーを毎年至るところで目にした。しかし、1月も1 週間を過ぎると、そのツリーがゴミ回収日に路肩に横たわっていて、胸が傷んだ。その記憶から、生木のツリーは非エコなのではと感じるようになっていた。毎年切られては捨てられるのであれば、繰り返し使える人工ツリーのほうが良いのでは、と。結局、生まれて初めてのクリスマスツリーは、IKEAの人工ツリーを購入した。ツリーのオレンジ色の明かりは、夜が長いこのシーズンを幸せなムードにしてくれる。  

全米で約1万5,000のクリスマスツリー農家があり、10 万人以上が働いているそう。天然ツリーを購入することは、地域経済を活性化させ、地元農家を支援することにもつながるのだ

ところが昨年、知人から「この辺りではツリーはリサイクルに出される」と聞き、衝撃を受けた。捨てるんじゃないの!? 実はニューヨーク市でも、使用済みツリーは回収され、リサイクルやコンポストに回されていたのだそう。そこで改めて調べ直してみたところ、さらに衝撃を受けた。生木のツリーのほうがエコかもしれない!? 2021年のCNNの記事によれば、人工ツリーの平均的使用期間を6年間とすると、そのカーボンフットプリントは確実に天然木より大きくなるそうだ。というのも、人工ツリーは一般的に石油を原料とするプラスチック製で、そのほとんどが中国から輸入されている。つまり、そのものの安全性は確認されていても生産の過程で有害物質を排出することがあり、その輸送においても大型輸送船や貨物トラックで二酸化炭素を発生させる。しかも廃棄するとなれば、分解に何百年もかかる埋め立てか、有害物質を放出する焼却炉での処理となる。一方で、アメリカの人々が手にする天然ツリーの多くは、近隣の農場で栽培されたものだ。ツリーとして完全に成長するのに平均7年かかり、成長するにつれ空気中の二酸化炭素を吸収する。伐採されても、農家が新たに苗木を植えることでバランスを取っているのだとか。使用後は埋め立ててしまうとメタンガスが発生するが、再利用されチップとして他の木の栄養となるなら言うことはない。 

マイIKEAツリーはもちろん引き続き使用するつもりだが、今年は初めてクリスマスツリーのファームに足を運んでみようかしら、なんて考えている。

ドライオレンジ作りにわが家も挑戦。オレンジの香りが部屋いっぱいに広がり、これまたハッピー気分に。しかしながら、「カラスが来ないかな」と言う夫にはがっかりだ

■カーボンフットプリントとは?
https://sustainablejapan.jp/2016/02/04/carbon-footprint/21073
それぞれの商品・サービスにおいて、原材料の調達から生産、流通、そして廃棄・リサイクルまでに排出される温室効果ガスの排出量を、CO2に換算したものを指す。上記サイトにて歴史から今後の課題まで詳しく知ることができる

■ドライフルーツ・オーナメントの作り方
https://stagetecture.com/christmas-decorations-make-dried-fruit-ornaments 
ドライフルーツを使ったクリスマス・デコレーションを紹介しているサイト。誰でも簡単に作れるうえ、おしゃれでサステナブル! ガラス製や木製など、オーナメントもプラスチック製ではなく、自然素材を選ぶのが SDGsの第一歩だ

■Buttonwood Farm
www.buttonwoodfarm.com 
レドモンドのバトンウッド・ファームは、ワシントン州唯一の 100% オーガニック認証クリスマスツリー農園。農薬や除草剤などの有害物質がツリーや環境に残らないよう、最も安全でサステナブルな農法を実践しているそう。わが家の近所だったらなぁ〜。

子ども服を考えることは未来を考えることである〜ゆる〜くSDGsな消費者生活 Vol.19

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

5 年前、姪ができた。それ以来、子ども服のリサーチが楽しくて仕方がない。2 年前には甥まで生まれたものだからもう大変。すっかり叔母は大忙しだ。調べ始めると子ども服は奥が深い。何しろ自分のものと同じ感覚では選べない。やたらと難しいサイズ選びに始まり、洗いやすさや素材に着心地、そして安全性。たとえば、モヘアのセーターは大人にはかわいくても、子どもの場合は目に毛が入ると痛いかも?などと気にし出したら切りがない。  

そして、どうやら子ども服の世界でも、しばらく前から「おしゃれ=サステナブル」というのがキーワードのようだ。大きなブランドから小さな街のブティックまで、オーガニックコットンは当たり前。リサイクル素材やフェアトレード、エシカル生産、メイド・イン・ローカルなどなど。さらに興味深いことに、素敵だなぁと感じるブランドは、実際に子を持つお父さん・お母さんが立ち上げている、なんてことも多い。子どもたちのために安心して選べ、しかもおしゃれに、という思いがあふれている。  

私自身がとても気に入り、友人にもおすすめした、ペアーというベビー用品ブランドがある。たまたまポールズボーのセレクトショップをのぞいた時に発見した。柔らかい色使いや遊び心のあるデザインが特徴的で、ジェン・ケリーさんとベッカ・ペレンさんという幼なじみのママふたりが創設者。女性オーナー企業として女性のサポートに積極的に取り組んでいて、作り手の女性たちとのフェアトレードほか、発展途上国の女性に教育機会を提供するための団体との連携もしている。  

ペアーの服は肌触りが柔らかく滑らかで、とにかく気持ちが良い。カラフルなのにソフトな色使いと動物などの柄がいかにもベビー用品らしく、見ていて幸せな気持ちになる。肘パッチも実用的(?)かつ愛らしさ全開だ

また、日本でも人気のクインシーメイは、イラストレーターでデザイナーのケリー・マレー・ラーソンさんが、3 人目の子どもの誕生を機に始めたブランド。GOTS 認証を受けたオーガニックコットンの使用や、化学薬品の不使用、生産に携わる工場の労働環境などにこだわり、社会的責任が評価されるブランドに与えられる賞も受賞している。ピクシースタイルのボンネットにニットのブルマーなど、クラシックなデザインが渋い色合いと相まってなんとも愛らしい。公式オンライン・ショップの「プレ・ラブド」セクションでは、同社製品の「お下がり」を店のクレジットと交換で引き取り、お得に販売している。

クインシーメイのピクシーハット。ちなみにタイツは、スウェーデン在住のママが開発したシリーサイラスのもの。北欧など環境先進国のブランドはやはり、子ども服に対しても意識が高いと感じることが多い

なるほど、子どもたちのために良いものを選びたい、作りたいという親たちの思いは、ひいては地球の未来を思うことにつながっている。だって子どもたちは私たちの未来そのものなのだから。

 

■Pehr

https://pehr.com 

アパレル、ベッドリネンの全てがGOT認証のオーガニックコットンで作られている。スワドル(おくるみ)やプレイマット、モビールなどもそろうカナダ発のベビー/キッズ専門ブランド。

■Quincy Mae

www.quincymae.com

ライリーアンドクルーのセカンド・ブランドとして、2018 年に立ち上げられた。ここ数年、日本人インスタグラマーがよく取り上げているのを見かけ、「日本で流行っている!?」と驚いていたら、なんと日本には実店舗までできていた。日本の消費者はファッション感度が本当に高い。

■Silly Silas

https://sillysilas.com

2019 年、チェコ系のバックグラウンドを持つテレジア・プラシュスカさんが育休中に創始。チェコの小規模工場で伝統技法によって生産されるタイツは、繊維製品の安全性を証明するエコテックス® 認証を取得している。特徴的な肩ひも付きタイツは、50~60 年代に旧チェコスロバキアで多く見られたデザインだそう。

秋の始まりとビオトープ〜ゆる〜くSDGsな消費者生活 Vol.18

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

以前、このコラムでも触れたが、この春から人生初ガーデニングに挑戦している。そんな中、ビオトープという言葉を知った。初めて聞いた時は「ん? 白金台のセレクトショップ?」なんて、全くピンとこなかったものである。ビオトープとは「動物や植物が安定して生活できる生息空間」のこと。もとはドイツ発祥の概念で、水や土などの環境要素や生物がそれぞれに作用し合って生まれる自然生態系を言うそうだ。つまり、森林や河川、湿地など、さまざまな生き物がその地域固有の自然生態系を構築している場所は全てビオトープということだ。  

本来は学術用語だったが、近年は環境保護意識の高まりからランドスケーピングやガーデニングの分野で注目されているらしい。ことガーデニングにおいては、水辺を設けることでより自然に近い環境を再現することを指すようだ。都市部では公共の場にビオトープを取り入れることで、ヒートアイランド現象や大気汚染の解決の一助となることが期待される。教育の現場でも90年代頃から、子どもが自然に触れ、学ぶ場を整える、「学校ビオトープ」なる活動が日本各地で行われているそう。福岡県壱岐南小学校が、2002年から九州工業大学環境デザイン研究室と経堂で行うビオトープ創生プロジェクトは、なんと2007年経済産業大臣賞を受賞している。  

田舎道をちょっと脇に入ったら、まさかこんなところがあったとはとうれしい驚き。それぞれの植栽にはプレートが付き、植物名がわかるようになっている。庭全体の景観をトータルに提案してくれている

先日、このビオトープの威力をまざまざと見せつけられる体験をした。以前から気になっていた、森の中の一本道にひっそり見える園芸店についに入ってみた時のこと。店自体は小規模で、老オーナーが家の敷地内で管理している様子。ところが、まず面食らったのは、大きなリンゴの木に設置されたブランコベンチ。ついついときめき、休憩していると、店舗の向こう側にそれは大きなアジサイと、しゃれた東屋が見えた。その一帯がオープン・ビオトープ・ガーデンになっていたのだ。  

赤トンボに秋の訪れを感じるのは久しぶりの感覚

ヤマモミジのそばの小さな池にはアメンボがたくさんいるし、蓮の浮かぶ隣の池には赤や青のトンボが飛び交っている。アメンボなんて、筆者が小学生の頃は近所で当たり前のように見かけたものだが、そう言えばずっと目にしていなかったことを思い出した。池から池へと流れる小川には木漏れ日が差し、小さな橋が架けられている。水音も心地良く、その脇には日陰を照らす白アジサイ。ヤマボウシの木陰にはシダや苔が茂り、まさに「小さな自然」だ。そこに、夏から秋へと季節が移り変わるのを実感したのだった。ビオトープ、すごい! 最近、わが家の庭にもカエルやハチ、チョウがやって来るようになったことだし、なんとか少しくらい真似できないものかと頭をひねる今日この頃なのである。

アメンボの池には、水量から構造まで細かく記した説明板も。これが人工のものだとは不思議な気がしてしまう

■Roadhouse Nursery

https://roadhousenursery.com 

ポールズボーで1985年から続く家族経営の園芸店。水生植物が特に充実している。隣接するオーナー住居の庭も、バラやアジサイなど色とりどりの植栽が見事で、通りがかりの目に楽しい。

■国土交通省「都市と生物多様性」

www.mlit.go.jp/common/001341502.pdf

日本の都市部の現状と、公園などでのビオトープ事例を紹介。蛇足だが、東京では2001年から条例で一定規模以上の建物の新築・増築の際には屋上緑化を義務付けているらしい。全然知らなかった!

■アクアフォレスト「ビオトープ(庭池・滝・小川)ガーデンの正しい作り方」

www.aqua-forest.jp/category/1246061.html

ビオトープに特化した日本の会社のサイト。環境保護としてのビオトープと、個人宅の庭造りにおけるビオトープの違い、その矛盾や限界、デメリットについても丁寧に解説されている。さまざまな角度から物事を見ることの必要性について考えさせられる。


参考資料

①ビオトープとは・意味 https://ideasforgood.jp/glossary/biotope/

②特定非営利活動法人 日本ビオトープ協会 https://www.biotope.gr.jp/

③”Growing Place” in Japan—Creating Ecological Spaces at Schools that Educate and Engage Everyone

www.thenatureofcities.com/2013/07/21/growing-place-in-japan-creating-ecological-spaces-at-school-that-educate-and-engage-everyone 

マスクだってサステナブルに選んでみタイ〜ゆる〜くSDGsな消費者生活 Vol.17

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

アメリカではほぼマスクなし生活に戻っている中、わが家は夫が医療従事者ということもあり、引き続き屋内ではマスク着用の慎重派。きっとしばらくはこんな生活が続くのかなぁと思う。ひと口にマスクと言っても本当にいろいろなものがあり、どれを選んだら良いものやらと最初は戸惑ったものだ。COVID-19ワクチン接種が始まる前には、混み合う場所では人相が変わるほど密着する医療用N95マスクを使用していたが、普段使いにはやはり窮屈だ。しかも当時のアメリカは、マスクが身近な存在だった日本と違い、商品も情報もよりどりみどりというわけにいかなかった。そこで頼れるGoogle 先生に「アメリカで手に入り、信頼できる商品は?」と聞いてみたところ、イボルブトゥギャザーというブランド名が挙がったので試してみることにした。結果的にこれが大変具合が良く、今でも愛用している。  

筆者は立体のKN95(0.3マイクロメートル以上の微粒子を95%カット)マスクを愛用。5枚入りで14.95ドル。カラーバリエーション豊富で、キッズサイズも
じゃばらの不織布マスク(7枚入り8.97ドル/30枚入り35.97ドル)もあり、キッズサイズにはマスク用ステッカーが付いてくる

さて、このブランドだが、何より興味深いのはそのビジネスのサステナビリティに対するこだわりよう。商品を受け取り、まず気付いたのはパッケージ。マスクは再利用できるジップ式バッグに入って届き、100%生分解されるとある。マスク自体も可能な限りリサイクルできるパーツとそのやり方についてホームページ上で解説されている。マスク以外にも日常のパーソナルケア用品がそろい、たとえばフェイスウォッシュのパッケージは水にさらすことで完全に溶解するというから面白い。使用後は全て跡形もなく消えてしまうのだ。そしてその売り上げの 5% は、海水汚染改善のために活動する団体、テイク・スリー・フォー・ザ・シーに寄付されるそう。さらに、非営利組織のワン・ツリー・プランテッドと提携し、会計時に1ドル寄付することで木が 1 本植樹され、森林再生の一助になるという徹底ぶり。イボルブトゥギャザーのブランド名はつまり、「今日良いことをし、明日もより良いことをするために常に進化している」ということらしい。毎日使うものだから、何を選ぶかは小さいけれど大事な選択なんだなぁと考えさせられたのだった。  

現在、ワン・ツリー・プランテッドと共同で、デンマークのユトランド半島西部に5万本の植樹計画が進行中だそう。124エーカーもの限界的農地が、多機能な保護林に生まれ変わる

余談だが、ニューヨーク在住の元 NHKアナウンサー、クボジュンさんが日本のテレビ番組に先日出演した際に、このイボルブトゥギャザーのマスクを着けていた。なんとなくウフフと思ってしまった。

■evolvetogether™  

https://evolvetogether.com

ジュエリー・ブランドのヴィータ・フェデのデザイナー、シンシア・サカイ氏が 2020 年にニューヨークで設立。「doing good. everyday.」をキャッチコビーとし、日用品の製造・販売を通じ人と地球にポジティブな影響を与えることを目指す

■Take 3 For The

Seawww.take3.org

海洋生態学者のロベルタ・ディクソン・ヴァルク氏と青少年教育者のアマンダ・マレシャル氏が、環境保護活動家のティム・シルバーウッド氏の協力により2010年に発足。「どこからでもゴミを3つ持って出れば、何かが変わる」を合言葉に、プラスチック汚染から海洋生物を保護するために活動。

■One Tree Planted

https://onetreeplanted.org

2013年、マット・ヒル氏が世界の森林再生を目的に設立。1ドル寄付されるごとに1本植樹するシステムで、47以上の国に4,000万本以上の植樹を実現している。アディダスやロクシタンなど、さまざまなブランドやショップと提携。ウェブサイトからの募金も可能だ。

 

レジ横陳列の効用  ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.16

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

 昨年のこと。クリスマスを間近に控え、ホリデーカードの駆け込みショッピングにと最寄りのホールマークに出向いた。店内は私と同じような人でかなりのにぎわい。カードを持ってレジに並ぶと、レジ横の棚に陳列されたチョコレートが目に入った。シアトル・チョコレートの冬季限定パッケージだ。そのかわいらしさについ手が伸びてしまった。シアトル土産の定番ブランドだが、実は食べたことがなかった。「そう言えば、良いチョコレートって最近食べてないな」なんて思ったが最後、店を出る時には手提げ袋の中にカードが1枚、そしてチョコレートの限定パッケージ2種類が鎮座していた。
 これが大正解だった。思わずパケ買いしたそのアソートがとってもおいしかったのだ。特にシャンパン味が良い。少しビターなチョコレートにくるまれたつぶつぶが、舌の上でパチパチパチと弾ける。これまで「やっぱりチョコレートは◯治」なんて、保守的に手を出さずにいてごめんなさい。パッケージデザインもなんだか個性的だし、シアトル・チョコレート・カンパニーってどんな会社なんだろう、と調べてみた。

パッケージデザインは、プライド・トリュフ・バッグ(左$24.99)がフルウ・メヒアさん、ハッピー・バースデー・ギフト・ボックス(右$17.99)がアリ・マックさん

環境や社会に優しいと近年話題のエシカル・チョコレートは、カカオ生産国の労働環境や自然に配慮した原料調達・製造方法で作られている。もちろん、パッケージも全てリサイクルやコンポスト可能というこだわりよう。何より、女性経営による、女性がより活躍できる社会の達成を目指す企業、というのが印象的だった。実際、パッケージデザインの多くは女性アーティストによるもので、フリーランスのアーティストのサポートになっている。現に、私も気に入ったアーティストをインスタグラムでフォローし、何か作品も欲しいな、なんて考えている。また、純利益の10%が次世代の女子の教育や健康をサポートする団体、ガールズ・インクへの支援に充てられているそう。
 女性経営であることを示す「ウーマン・オウンド™」のマークを最近目にする機会が多くなった。「女性経営企業を支援することは、女性が男性と同じ経済的機会を与えられる世界へとつながる」という同社による解説を読み、「なるほどなぁ」と改めて考えさせられた。

シアトル・チョコレートを通じて知った、コネチカット州在住のイラストレーター、アリ・マックさんのアート作品。アリさんのイラストは、上のギフト・ボックスのドッグ・プリントなど、現在4種類のデザインがシアトル・チョコレートの商品に採用されている

■Seattle Chocolate Company 

www.seattlechocolate.com

1991年創業。ペルーの小規模農家や西アフリカのレインフォレスト・アライアンス認証農園と協力し、児童労働の防止、男女平等の推進、生産農家のより良い生活環境の実現に努めている。また、持続可能な農法、森林保護、殺虫剤の使用削減に取り組む。2012年には姉妹ブランド、ジェイココも始動。タクウィラにある旗艦店は、ウェブサイトを通じ工場見学の申し込みも可能。

 ■︎Girls Inc.

https://girlsinc.org

1864年、南北戦争後の混乱する社会の中で苦境にあった少女や若い女性のために設立。学校や地域社会と協力し、米国・カナダの350都市、1,500以上の施設で5~18歳の女子を対象に学習サポートや、ライフスキル・トレーニングなどのサービスを提供する。

■︎Woman Owned™ 

www.womenownedlogo.com

非営利団体の全米女性経営者協会(www.wbenc.org)とウィコネクト・インターナショナル(https://weconnectinternational.org)によって運営される。全米および全世界の女性経営者の成功を促進するため、ウーマン・オウンド™ 認証を行う。認証マークのあるビジネス、商品、サービスは女性によって51%以上所有、運営、管理されていることを示す。

​ ■︎レインフォレスト・アライアンス

www.rainforest-alliance.org/ja

1987年創設の国際非営利団体。社会と市場の力を利用して自然を保護し、途上国の農業生産者の生活を向上させ、持続可能な人と自然の共生を目指す。その認証マークは、森林や生態系の保護、労働環境の向上と生活保障などの厳しい基準を満たした生産者や企業の製品にのみ与えられる。

 

中嶋浩隆さん〜富士フイルムソノサイト

富士フイルムと聞くと「写真やカメラ」のイメージがあるかもしれませんが、現在は事業セグメントの中でも特にヘルスケアが売り上げ・営業利益に占める割合が最も大きく、先進医療企業として大躍進を遂げています。その一端を担うのが、ワシントン州の子会社、富士フイルムソノサイト。本社戦略の展開、財務、販売と幅広い業務に携わる中嶋浩隆(ひろたか)さんに、同社の製品と世界を股にかけ働く醍醐味について大いに語ってもらいました。

取材・文:加藤 瞳
写真:富士フイルムソノサイト、本人提供

中嶋浩隆■静岡県浜松市出身。2001年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、富士フイルム株式会社に入社。経理部、IR室(投資家向け広報)など本社部門を経験した後、2009年に米国ロードアイランド州の半導体材料製造・販売子会社、2012年にシンガポールの東南アジア地域統括子会社に赴任。2013年には東京の富士フイルム本社にてCEO秘書就任。2017年よりワシントン州の富士フイルムソノサイトで勤務。

海外に憧れて

海外志向は大好きなサッカーから始まった。「中学以来、イングランドなどサッカーの海外試合もよく観ていたのですが、そのサッカー場の芝生が本当にきれいに見えたんです。30年前はペンペン草が生えていたような日本のフィールドと比べて、すごく整備されていたことに驚きました。サッカーを通じて海外の自然や風景を多く目にするようになり、海外に漠然とした憧れを持つようになりました」

シンガポール赴任時代、数少ない休日を見つけては夫婦で旅行を楽しんだ。写真はバリ島にて

生まれは浜松だが、メーカーで働く転勤族だった父に連れられ引っ越しを繰り返し、今に至るまでの転居回数はなんと15回。大学時代には1年休学し、イギリス南東部の田舎町へ留学した。そのため卒業は1年遅れたが英語力は格段に上がり、就職氷河期真っただ中の2001年、富士写真フイルム(現・富士フイルムホールディングス)へ入社。経理部への配属となった。当時の上司から「その1年はロス(失ったもの)ではなくゲイン(得たもの)だったねと言ってもらい、自負になりました」

なぜ、富士フイルムだったのか。「まずは海外に行くためにはどうすれば良いかという視点で考えて、この会社であれば海外展開もしている、と」。念願かない、初の海外赴任ではアメリカ東海岸、ロードアイランド州へ。2009年のことだ。半導体材料の製造・販売を行う子会社で3年半を過ごした。「留学先はイギリスの田舎でしたので、その頃はまだアジア人に対する偏見も強かったですし、閉鎖的な印象がありました。それがアメリカでは、みんな陽気でオープンで……。良い国だなぁって感じましたね」。ロードアイランド州で出会った人々の温かさや前向きさは、自身の中でアメリカの原風景になっている。

散歩コースのメイデンバウアー・ベイ・パークにて。リフレッシュしたい時にはレイク・ワシントンを眺めに行くそう

そして2012年、シンガポールへ異動。約1年間、経営企画部員として会社統合や東南アジア地域の経営管理強化の仕組み導入に尽力した。実はロードアイランド州赴任中に大学時代の同級生と結婚した中嶋さん。すぐにシンガポールでの生活となったが、専門職のスタッフがそろうアメリカと違い、駐在員が何もかも対応する必要があり、目が回るような忙しさだった。「新婚なのに、妻には申し訳なかったですね」と苦笑する。

進化する富士フイルム

CEO秘書として富士フイルム東京本社勤務を経て、2017年にはワシントン州ボセルを本拠に医療機器製造を行う子会社、ソノサイトへ赴任した。携帯型超音波診断装置で世界的にも高いシェアを誇る。

富士フイルムホールディングスは現在、X線フィルムに始まり、機能性食品や医薬品を含むヘルスケア用品など、ヘルスケア部門が販売の30%以上を占める。意外に思うかもしれないが、これは写真関連部門の実に3倍近い数字だ。中嶋さんは、入社してからの20年ほどで同社が大きく変貌を遂げたと語る。

ソノサイトのマネジメントのメンバーが集合。5月の北米セールス会議にて

「デジタル化によって昔ながらの『写真フィルム』がなくなっていく。そんな中で事業の多角化が進みました。医療機器もラインナップが増えましたし、半導体の材料や液晶画面の視野角を拡大するフィルムなど、いわゆるBtoB(対企業向けビジネス)に力を入れています。写真フィルムの研究開発で培った技術を軸に応用展開し、多角化していったんですね」

同社はメディカルシステム事業の拡充を目指し、2012年にソノサイトを買収。中嶋さんは、ソノサイトのマネジメントと協力しながら、東京本社の経営戦略を遂行するほか、日本・中国への販売責任を負う。特に後者は、大規模なマーケットでいかにシェアを拡大させられるかがカギとなる。

最初の赴任先、ロードアイランド州での送別会。人の明るさに触れ、アメリカが好きになった

同社は、携帯型超音波診断装置の研究開発によって、POC(ポイント・オブ・ケア)超音波という領域の確立にひと役買ったことで知られている。「POCとは、医師がベッドサイドで診断や治療方針の決定をする行為で、ソノサイトが開発した携帯型超音波診断装置が貢献しています。ソノサイト製品の特長である使いやすさや堅牢性などを訴求し、アメリカでの販売ノウハウも用いて、日本や中国にも広く展開し売り上げを伸ばしていきたい。今はそれが目標です」

これまでの中嶋さんは、経理や経営企画などのコーポレート部門でキャリアを積んできており、販売部門に携わるのは今回が初めて。「私自身が急に商品について美しく完璧に説明できるようになったかと言うと、正直そんなことはありません。お客さまと直に接する代理店をいかにサポートしていくか、そこに自分の付加価値を見出し、専念するのみです」。まさに縁の下の力持ちなのだ。

富士フイルムグループ製品セグメント別売り上げ高

新たに見つけたやりがい

まさか自分が医療機器を取り扱うようになるとは、入社時は想像もしていなかった。しかし、そこに得難いものを感じていると言う。「病院で医師の方などに社名を言うと、『もちろん、使わせてもらっているよ』という具合に皆が知っている。実際に医師と患者の手助けができていると実感するんです。新卒で入社した当時、自分はこの会社で何をやるんだというビジョンを描けないでいました。でも今は、自分が担当する製品の普及を通じて、医療従事者を支援し、医療現場の質の向上につながるという感覚を持てる。ほかでは得ることのできない、大きなやりがいになっています」

ワシントン州赴任が決まり、心待ちにしていたアメリカ大陸の旅。カナダのバンフやメキシコのカンクンなども訪れた

そんな中嶋さんに、抱負を問うた。「今できることをしっかりとこなし、全うしていきたい。あまり先のことは考えないようにしています。えらくなりたいとか、そういう欲が出てくると仕事の本分からずれて、判断もぶれていくように思うので」。実直さが現れる回答に、ストイックな一面も垣間見える気がした。

富士フイルムソノサイトの先端技術

富士フイルムソノサイト

1998年創業。「いつでも、どこでも、どんな患者にも(Any Patient. Anywhere. Anytime.)」をコンセプトに、携帯型超音波診断装置の研究、開発、販売を行う。POC超音波診断医療という市場領域を確立し、業界をリード。2012年に富士フイルムホールディングスの完全子会社として、より広範に最先端医療を届ける。現在は世界中で14万台以上のソノサイトの装置が使用されている。

FUJIFILM SonoSite, Inc. 
21919 30th Dr. SE., Bothell, WA 98021
☎425-951-1200
www.sonosite.com

しょせん緑の指など持たぬ者の言うことですが ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.15

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

昨年末に引っ越しをした。家賃上昇はシアトル大都市圏に一応属するわが街も例外ではなく、長年の気楽なアパート生活についに終止符を打つ決心をしたのだ。そして人生で初めて、小さいながらも庭のある「家」に住むこととなった。 

今いちばん気に入っている園芸店は、ポート・オーチャードのブラザーズ・グリーン・ハウジーズ。商品の量と質もさることながら、何より敷地内で常時無料開放されているホビット・ハウスが最高だ。中に小人サイズの暖炉や椅子、掃除セットまであるこだわりようで、写真撮影をする人が絶えない

越してすぐ、まずは試しにとチューリップの球根を植えた。この春、その芽がカナディアングースの襲撃にもめげずににょきにょきと伸び始めたのを合図に、せっかくなのでガーデニングに挑戦してみようと思い立った。そして、いつか絶対植えようと決めていたラベンダーの苗を買いに、近所の園芸店を訪ねたのだった。 

芝生以外は基本的に土丸出しのわが家の敷地。店のおばさん(おそらく昔はヒッピーだったに違いない雰囲気)のアドバイスを聞きながら、ラベンダー2種のほかにクリーピングタイムや、ローマンカモミール、ついでにイチゴの苗も買い込んだ。早速庭をほじくり、なんだか粘土みたいな硬い土だなぁ、大丈夫かなぁと思いつつ植え付けたのが3月のこと。 

コンポストソイルは、ケントにあるカルピニート・ブラザーズ・ファームの品を使用。材料のせいか、しっかりと熟成されているのか(?)他社製品と違って無臭なのが良い

ところでその園芸店だが、「花を植えて地球に優しく」的な看板が置いてあった。ガーデニングがどう地球に優しいのかと気になり調べると、確かに庭造りを通じ環境保護に貢献することができるらしい。たとえば、緑が少ない街中では庭が虫や鳥などにとって貴重な生息の場となり、地域の生物多様性を支えている。実際、ハーブを植えたとたん、庭に蜂や蝶、鳥がやって来るようになった。野生の生物の嗅覚には驚かされる。また、ヒートアイランド現象の緩和や、街全体の雨水排水の手助けにもなるのだとか。もちろん、ガーデニング作業自体にもサステナブルな方法がある。なるべくプラスチックを含まない道具を使用する、肥料には野菜クズなどをコンポストし生ゴミも減らす、などなど。これはやらない手はないじゃないか。 

しばらくして、なんとなくローズマリーの元気がないことが気になった。するとやはり、あの粘土質の土壌が水はけを悪くしているのが原因のようだ。いろいろと調べ、土壌改良を試みることにした。ひたすら庭の土を掘り起こし、土壌改良剤のパーライトと、腐葉土代わりのコンポストソイルを混ぜ込む日々。サステナブルなだけでなくエクササイズにもなってしまった。 

余談だが、庭の至る所から建設作業時の資材ゴミが出土し、アメリカの土建事情に閉口するなんておまけもあった。結局、この春は苗の植え付けよりも穴掘りに終始してしまったので、来春に向け秋の球根植え付けを心待ちにしている今日この頃である。 

■Brothers Green Hoses  

www.brothersgreenhouses.com  

膨大な品ぞろえで、日本由来の植物も数多く見られる園芸店。質問すればすぐに学名まで出てきてしまうほど知識豊富なスタッフ陣も頼もしい。シアトルからはフェリーと車で、タコマからは車で30分程度。 

■︎Carpinito Brothers Farm

www.carpinito.com   

コンポストのほか、バークチップや堆肥、培養土などをオーガニックも含め幅広くそろえ、地域によって配送も行っている。ファームではクリスマスツリーの販売やハロウィンのパンプキン・パッチなど、シーズンごとのお楽しみも。 

■Houzz「庭から考えるサステナビリティ」 

www.houzz.jp/ideabooks/140404717/list  

「地球に優しいガーデニング?」と調べ始めてたどり着いたのが、インテリアや住宅建築に関する情報サイト、Houzzのこの記事。プロの造園家によるコラムに、庭造りの環境への効果がとてもわかりやすくまとめられている。  

■︎ガーデンストーリー「ビオガーデンとは?生き物と住み、心が癒やされる暮らし方」​ 

https://gardenstory.jp/gardening/103  

多様な自然・生物が生息できる空間を指す、ビオトープという言葉を知った。都市計画における屋上緑化など、国や自治体がさまざまな形でビオトープの導入を進めている。家庭でのガーデニングにも取り入れられ、ビオガーデン(ビオトープ+ガーデン)とも言うそう。試してみようかしら。 

 

初心に返りSDGsを考える、の巻(後編)ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.14

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

前回に続き、サステナブル・ビジネスのコンサルタント、田中めぐみさんから話を聞き、改めて今できること、買い物好きが買い物を諦めない方法を考えてみる。 

筆者(以下ひ):最近、ユニクロやH&Mなどのファストファッションを含め、さまざまなブランドがサステナブルな取り組みを打ち出しています(下記参照)。ですが、ファストファッションとサステナビリティーは矛盾するように感じます。 

©H&M
H&Mはファッション小売業で世界初となる、店頭での古着回収サービスを2013年に導入。スウェーデンの店舗では、古布がリサイクルされ、新しい製品となる様子をその場で見ることができる

田中さん(以下た):ファストファッションは、低価格で大量に商品を生産・販売するという点でサステナブルとは言えませんが、そうだとしても一律で批判すべきではないと思います。H&MがCSRレポート(企業の社会的・倫理的責任に基づく取り組みをまとめた報告書)を最初に公表したのは2002年と非常に早く、2004年からオーガニックコットンの使用を開始し、2010年にはその使用量が世界一に。あれだけの規模の企業だからこそ成し得たことで、オーガニックコットンの普及にひと役買ったはずです。製品の原料調達から製造、物流、販売、廃棄まで全体を通しての負荷削減にも取り組んでいて、ファッションのサステナブル化を世界的にリードする存在です。また、人々が安い製品を大量に欲し、需要があるから、ファストファッション企業はそれに応えて供給するのです。サステナブルな社会を希求するならば、まずは私たち自身も生活を見直す必要があります。 

ひ:調べれば調べるほど、消費とサステナブルな生活の共存が難しく思えてきます……。 

た:私たちが生きていくために、消費は不可欠です。現代社会の問題は、その消費の仕方なのです。環境や社会に配慮して作られた製品でも、不要なものを大量消費すればサステナブルではありませんよね。さらに、意義ある物やサービスの消費を増やすことで経済が発展したとしても、地球資源には限りがあり、永遠に成長し続けることはできません。気候変動への影響も懸念されます。ある時点で大きな社会変革が強いられることになるでしょう。 

©Toyota
田中さんが今気になるのは、自動車業界だそう。「EV・AV化が進み、100年に一度の大転換期と言われています」。トヨタからはこの春、同社初の量産型バッテリー式電気自動車、「bZ4X」が発売された

ひ:身近なことでは何ができますか?

た:知ることと行動すること、だと思います。まず環境・社会問題について知り、考える。そして足るを知り、不要な物をなるべく買わないようにする。買う場合はその影響にも心を配る、物は捨てずに寄付・交換する、などでしょうか。でも、無理をするとあとで反動が来るので、できる範囲で楽しみながら少しずつ実践してみてはいかがでしょう。また、学び始めると人は考えが偏りがちになります。極端な手法に走ったり、他人に押し付けたりしないように気を付けたいものですね。

ひ:ありがとうございます。これからも楽しく学んでいきます!

田中めぐみ■ニューヨーク在住21年。FBCサステナブル・ソリューションズ代表。慶應義塾大学を卒業後、経営コンサルティング会社勤務を経て渡米。ニューヨーク州立ファッション工科大学卒業の後、2002年米国で起業。環境・社会問題に関する事業・政策のリサーチ・コンサルタントとして、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを行う。ハーバード大学エグゼクティブエデュケーション サステナビリティリーダーシップ修了。著書に『サスティナブルシティ ニューヨーク』、『グリーンファッション入門』(共に繊研新聞社)などがある。

■Re. Uniqlo

www.uniqlo.com/jp/en/contents/sustainability/planet/clothes_recycling/re-uniqlo   

店頭に設置された回収ボックスでユニクロ製品の古着を回収。個々の状態によって、難民や被災地へ寄付されるか、リサイクル商品に生まれ変わる。   

■︎ZARA Used Clothing Collection Program

www.zara.com/us/en/sustainability-clothing-collection-mkt4892.html 

ブランド問わず中古衣料・服飾小物の回収を行い、非営利団体と提携しリサイクルする。各店舗での回収のほか、オンライン顧客には自宅からの引き取りサービスも提供。 

■︎Patagonia Worn Wear

https://wornwear.patagonia.com 

まだ着られるパタゴニアの古着を店頭または郵送にて回収。アイテムに応じてクレジットが付き、次回以降の支払いに利用できる(郵送の場合、送料がクレジットから差し引かれる)。また、中古品の販売も行っている。 

■︎Madewell Do Well Program 

www.madewell.com/inspo-do-well-denim-recycling-landing.html

ブルー・ジーンズ・ゴー・グリーン™️と提携し、ブランドを問わず古着のジーンズを店頭にて回収。住宅用断熱材に再利用する。同社のジーンズが20ドル引きとなるクーポンと引き換え。 

 

初心に返りSDGsを考える、の巻(前編)ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.13

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

春らんまん。このたび、本コラムは連載丸1年を迎えた。この1年でSDGsへの取り組みはますます至るところで耳に、そして目にするようになっている。せっかくなので今回は1周年記念として特別ゲストを迎え、お話をうかがうことにした。以前、本コラムにも登場した田中めぐみさん。ニューヨークを拠点にアメリカの環境政策・ビジネスに関する調査、コンサルティングを行う田中さんは、まさにサステナブル・ビジネスの先駆者。ここらでひとつ、プロフェッショナルの言葉を聞いて、気持ちを新たによりいっそうSDGs道に邁進(まいしん)しようじゃないか! 

改めてサステナブルなファッションって? と調べていたら、日本の環境省が出している情報シートを見つけた(下記参照)。現在、1日に焼却・埋め立てされる不要な衣類はなんと平均1,300トン、大型トラック130台分だそう。衣替えシーズンを前に、何かと考えさせられる

筆者(以下ひ):代表を務めるFBCサステナブル・ソリューションズで「サステナブル社会の実現に貢献する」という理念を掲げるまでに至ったきっかけは何だったのでしょう? 

田中さん(以下た):最初にファッション・ビジネスのコンサルティング会社を立ち上げた2002年当時は、サステナビリティーに関する知識や関心は特にありませんでした。トレンドを前提に動くファッション業界に身を置いて仕事をする中で、次第に無駄の多さに疑問を抱くようになったんです。2005年頃から環境や社会に配慮したファッションや製品を提供するデザイナーと企業が出てきたことから、そうしたファッション・ビジネスの普及に取り組み始めました。ですが、トレンドを作り出すことで消費を促進する業界構造では、本質的にサステナブルにはなり得ないだろうという思いがありました。また、調べれば調べるほどに環境・社会問題の深刻さを実感する日々でした。そこで徐々に仕事の領域を広げ、業界を問わずサステナブルなビジネスや政策のための活動をするようになりました。 

ひ:最近では「SDGs」がトレンドと言えるほど話題ですよね。 

UNDPなどが主導する「ライオンズシェア基金」(www.thelionssharefund.com)というものを最近知った。ブランドや自然保護活動家、消費者が一体となって、世界の自然や生物多様性、気候などの危機に取り組むという活動で、企業が動物の登場する広告キャンペーンを展開するたび、広告媒体費の0.5%が同基金に寄付される。カルティエやグッチも参加している

た:SDGsが採択されたのは2015年ですが、アメリカでは業界関係者の間で少し話題になり、企業が対処すべき事項がまたひとつ増えた、という雰囲気でした。日本では2017、18年頃からでしょうか、政府の政策に加えメディアが取り上げるようになったようで、弊社への問い合わせも増えました。SDGsは専門用語なので、アメリカでは環境関連に携わっている人しか知らないと思います。日本では一般市民が使っていて、面白い現象でした。随分前に、「ロハス」という言葉が流行りましたが、その時と同じような印象を受けました。 

ひ:そうなんですか! 本コラムでも以前、日本のSDGsブームの背景として、日本の外務省や経団連の取り組みと国連開発計画(UNDP)のサポートについて紹介しました。

後編に続く 

田中めぐみ■ニューヨーク在住21年。FBCサステナブル・ソリューションズ代表。慶應義塾大学を卒業後、経営コンサルティング会社勤務を経て渡米。ニューヨーク州立ファッション工科大学卒業の後、2002年米国で起業。環境・社会問題に関する事業・政策のリサーチ・コンサルタントとして、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを行う。ハーバード大学エグゼクティブエデュケーション サステナビリティリーダーシップ修了。著書に『サスティナブルシティ ニューヨーク』、『グリーンファッション入門』(共に繊研新聞社)などがある。 

■環境省「サステナブルファッション」  

www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion    

ファッション産業の特徴や環境負荷の実態から、私たちがすぐに取り組めるアクションまで、ピクトグラムでわかりやすく解説。企業の取り組みの事例も紹介している。一読の価値あり。  

■︎UNDP「ミッション1.5」 

http://mission1point5.org/game/jp/ja/index.html   

UNDPが、ゲーム開発や気候科学、世論調査の専門家と共同で開発した無料オンライン・ゲーム。気候政策の立案者となり、地球温暖化の気温上昇を摂氏1.5度未満に抑えるための意思決定を行うのがミッションだ。ゲームを通して環境問題を学べるので、ぜひ試してみて欲しい。 

 

野菜をおいしく食べる方法。ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.12

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

4年半前、シアトルとフェリーでつながるこの街に暮らし始めて、まず調べたことのひとつに、有機野菜の宅配サービスがある。この辺りはスーパーが徒歩・自転車圏内にないうえ、ファーマーズ・マーケットもなぜか平日午後の開催であまり通えそうになかった。すっかりペーパードライバーの私にとって、おいしい野菜の入手経路は非常に重要な懸案だ。ところが、シアトルから海を隔てているせいか、どこも配達圏外だったのだ。地元のアマゾン・フレッシュでさえも! 唯一、フル・サークルというサービスを試してみたものの、配達が深夜だったため、アパートのオートロック事情と相容れず、利用を諦めてしまった。 

通常の店頭価格より最大40%ほども安く購入できるミスフィッツ・マーケット。この量でちょうど30ドルほど。米農務省によると、アメリカの食料供給における廃棄の割合は驚くことに30〜40%にも上るという。2030年までに半減させることを目標に掲げている

昨年末に同じ市内で引っ越しをした。そこでふと、もう一度調べてみようと思い付いた。今なら選択肢も増えているかもしれない。すると……なんということでしょう!コロナ禍によるオンライン・ショッピング需要増のおかげか、有機野菜の宅配サービスもよりどりみどりになっていた。パンデミックではつらいことばかりだったが、生活に関しては便利になった部分もあるなぁと感じる。人々の日常というものは、歴史の中でこんな風に変化してきたのだろうか。 

さて、話を戻そう。その中で候補に挙がったのが、ミスフィッツ・マーケットと、インパーフェクト・フーズだ。どちらも、見た目の良くない規格外品や過剰在庫の食品を安価で提供するというもので、食品ロス削減を目的とした定期購買サービス。最低購入金額や送料、ネット上のレビューなどを比較検討した結果、野菜のバラエティーがより豊富な(ナスとシシトウが決め手だった)ミスフィッツ・マーケットを試してみることに決めた。ちなみにパントリー商品の品ぞろえはインパーフェクト・フーズのほうが良いらしい。日常の買い物をひと通り、という人にはこちらが便利かもしれない。 

唯一気になったのは梱包資材や保冷剤の量。確認したところ、これらの資材は全てリサイクル可能だそう。しかも保冷袋の中身はリサイクルデニムのコットンで、「なんならアップサイクル(アレンジして新たな付加価値を持たせること)もできるよ!」とのこと。そこまでは、うーん……

ドキドキしながら迎えた最初の配達。開けてみて、なかなかの品質に驚いた。農作物は規格外として生産者が選り分けた後、通常の流通を経ずに消費者の元へ配送されるため、スーパーで買うよりも早く新鮮な状態で届くということらしい。今は毎週月曜に届くのを楽しみにしている。実は、配送中の揺れで一部の商品がつぶれてしまっていたことがあったが、カスタマー・サポートに連絡するとスムーズに返金手続きをしてもらえた。これなら何かあっても安心だ。 

新鮮な野菜が安く手に入り、生産者にもお金が入る。そして廃棄食品が減る。なんと、ウィン・ウィン・ウィンじゃないか!   

■Full Circle  

www.fullcircle.com    

1996年、ノースベンドの農家から始まったシアトル拠点の完全有機野菜宅配サービス。ボックスの大きさを選び、自由にカスタマイズできる。オレゴン州を含むノースウエストの農場の野菜や果物ほか、肉、魚、卵、乳製品などもそろう。      

■Misfits Market   

www.misfitsmarket.com   

2018年にフィラデルフィアで設立され、現在はニュージャージーを本拠とするスタートアップ企業。商品のほぼ全てがオーガニック、または非遺伝子組み換えとなっており、アメリカ産のものを主に取り扱う。最低購入価格は30ドルで、送料は6.99ドルから。  

■Imperfect Foods

www.imperfectfoods.com  

2015年設立。サンフランシスコに本社を置く。食品以外に化粧品などさまざまな商品から選べ、ほかにはない限定アイテムの取り扱いもある。送料が4.99ドルかかるが、60ドル以上の購入で無料に。梱包資材の回収・再利用サービスあり。  

 

参考資料

https://www.usda.gov/foodwaste/faqs(米農務省)

藤野亜紀さん〜音楽家

ベルビューを拠点に、クラシックピアノ奏者、ジャズ・ミュージシャン、ゲーム音楽クリエイターと、ジャンルを超えマルチに活躍する藤野亜紀さん。その豊かな創造性の根源にあるものは何でしょう。多才な音楽家の原点を探ります。

取材・文:加藤 瞳
写真:本人提供

藤野亜紀■ 幼少よりヤマハ音楽教室でクラシック音楽に親しみ、専門学校生時代からソロリサイタルなど数多くの演奏活動を行う。卒業後に日本銀行に勤務し、ヤマハ音楽教室講師へ転職。結婚を機に渡米すると、バークリー音楽大学ジャズ作曲科に入学し中退後、メリーランド州での生活を経てシアトルへ。現在はすぎのこスクールの音楽ディレクター、教会の専属ピアニスト、バイオリン/チェロと共演するコラボレーティブ・ピアニストを務め、ゲーム音楽のピアノ・アレンジを手掛けるなど多岐にわたって活動中。

音楽観を変えたバンド活動の日々

福岡生まれ、横浜育ち。3歳でヤマハ音楽教室に通い始めると、その才能が開花した。8歳で作曲活動を始め、ヤマハ音楽教室のジュニアオリジナルコンサート入賞の常連に。中学へ入る頃にはすでに音大進学を決意していた。ピアノの練習時間を確保するため、自転車で通える近隣の高校に入学すると、そこで思いがけない転機を迎える。

ヤマハ音楽教室幼児科に通う6歳の頃。前列右端が亜紀さん

ピアノが弾けるならと誘いを受け、気軽に始めた軽音楽部のバンド活動でフュージョン(ジャズにロックやラテンなどの要素を取り込み、60年代から70年代にかけてアメリカで誕生した新たなサウンド。日本では80年代に流行)と出合った。特に、当時絶大な人気を誇ったバンド、カシオペアにすっかり夢中になった亜紀さん。「それまでクラシックしか知らなかった私が、カシオペアのコピーバンドを始めたら、もう楽しくって! バンド活動は音楽観を変えてくれました。それが今の私のルーツなんです」。音大受験に向けクラシックの勉強を続けながらも、バンドに熱中する日々を過ごした。

バンド活動に目覚めた高校生時代
軽音楽部部長を務めた専門学校時代には、
さまざまな楽器に挑戦

ところが、迎えた受験は「悲惨」だった。一般的に、最も難関とされるピアノ科を志す生徒は、試験に向け1日8時間から10時間とも言われる練習時間を何年も費やし準備する。しかし入試当日、そうして仕上げた課題曲の演奏を、突然飛ばされるという事態が発生したのだ。その後、大学側の落ち度だったことが発覚し、再試験が行われ合格したものの、この出来事は、亜紀さんが改めて自身の進路について考え直す契機となった。同時に、日本のクラシック音楽界の閉鎖的な慣習について疑問を持ったと言う。

「音大でピアノを勉強して、私は一体何になりたいんだろう、と立ち止まってじっくり考えました。それで行くのをやめちゃいました。これが人生のターニング・ポイントだったと思います」

日本銀行では経営企画を任されるまでに。その傍らミュージシャンとして演奏活動を続け、目の回るような忙しさ

周囲の期待を背負った中での進路変更は、相当な覚悟が要ったはずだ。「私が音楽の道に進むことをいちばん応援していたのは祖母でしたが、半年も口を利いてくれないほどショックを受けていました。音大ひと筋に受験を目指してきた私は国語と英語しか準備しておらず、その2科目だけで受験できる学校を探して、津田スクール・オヴ・ビズネスという専門学校に進みました」

専門学校では自ら軽音楽部を立ち上げ、さらにバンド活動に没頭した。音楽留学を考え、就職活動もそっちのけ。そんな亜紀さんが卒業後、意外にも日本銀行に就職したのは、堅実な職に就いて欲しいという父の強い勧めがあったからだ。「今となってはそれで良かったと思います。音楽しか知らないで来たけれど、就職したことで、より社会的な物事の見方を学びました。何より、自分は本当に音楽が好きなんだと実感できたんです」。この頃に出会った夫との縁も、音楽がつないだものだった。「教会でピアノ奏者をしていた時に声をかけられたんです。『ピアノを勉強したいから、一緒に買いに行ってくれないか』って」。結婚を機にヤマハ音楽教室講師に転職。しかし、わずか1年ほどで渡米することに。

メリーランド在住時、自宅で開いたピアノ教室にて。育児真っただ中のレッスンは、保護者に子どもの面倒を見てもらうなどの支え合いが欠かせなかった

クラシックから、「なんでも弾ける私」へ

アメリカ行きの話には運命的なものを感じたと言う。「夫がボストンのマサチューセッツ工科大学に研究員として招かれたんです。ボストンと言えば、憧れのバークリー音楽大学がある街です。これはもう行くしかない!と思いましたね」

バークリーではひと回り年下の学生たちと共に学び、毎日が楽しくて仕方なかった。「ジャズの基本であるインプロビゼーション(アドリブ)に最初は苦戦しました」

代音楽の世界的名門であるバークリー音楽大学に、飛び級での入学を果たした。専攻はジャズ作曲科。バークリーでの日々は、「毎日がキラキラしていた」と回顧する。「クラシックは、譜面の1音も間違えずに弾くことが正しいとされる世界。それに対してジャズは、譜面に情報がほとんどないんです。たとえば、サックスのパートにはピアノのことは何も書いていない。じゃあピアノは何をしたら良いの?というところからわからなかった。毎日学ぶことがたくさんあって、あのバークリーの時代が人生の中でいちばん楽しかったかもしれません」。残念ながら、夫の転職と思いがけない妊娠によって卒業を前に去ることとなったが、それでもあの頃の思い出は色鮮やかに心に残っている。

コラボレーティブ・ピアニストとしての指導は亜紀さんのメインの仕事のひとつ。弦楽器の生徒に、伴奏者としてではなく共演者として演奏をすることで、総合的に「音楽」の作り方を教える

メリーランド州に引っ越し、産後は自宅でピアノ教室を開講。2005年にシアトルへ移ると、ますます活動の幅を広げることとなる。ベルビューのウエストミンスター・チャペルで、ボランティアとしてピアノを弾き始めたことから専属ピアニストに。さらにはレイク・ワシントン・シンフォニー・オーケストラ(以下LWSO)との共演をきっかけにオーケストラの一員としても活躍。「理想は、どんな音楽もこなせるピアニスト。クラシック音楽というのは閉ざされた世界ですが、クラシック以外の音楽との懸け橋になれる存在でありたいと思っています。さまざまな仕事に挑戦し、クラシックの世界に、ほかの音楽も素晴らしいんだと伝えていきたい」

そんな亜紀さんの仕事に対する姿勢は、LWSOの音楽監督で指揮者のローリー・バーティグ氏の影響も大きい。「クラシック、ジャズ、ポップス、どんなジャンルでも指揮ができる人なんです。初めて共演した時は、あまりに多様な要求にすごく戸惑いました。たとえば、ここはモーツアルト風に、ここはラフマニノフのように、そうかと思えば、ここはアドリブでといった具合。ほかの楽器は楽譜通りに弾くから、君は楽譜にないものを弾いてくれと言われたこともあります」。最初の2、3年はついていくために相当な努力が必要だったと亜紀さんは振り返る。「それで、なんでも弾ける私になる!と意識が変わりました。学べば学ぶほど、自由に弾けることがすごく楽しいんです」

指導者として音楽と関わる

演奏家である傍ら、指導者としての顔も持つ。幼児教育機関で音楽を教えて15年。そのきっかけは過去の苦い経験にあった。「日本のヤマハ音楽教室で教えていた時に、親とトラブルがあったんです」。グループ・レッスンが基本のヤマハ音楽教室では、10人ほどの幼稚園児を一度に指導する。その中に、じっとしていられず、つい周りの生徒の邪魔をして回ってしまう子どもがいた。当時、子どもを持たなかった亜紀さんは、どう対応して良いのかがわからなかったそう。

より日本の近くで暮らしたいと、一家でシアトルへ移住。中華系の夫、息子、娘と共に

「上手に叱ることもできず、先生として甘かったんだと思います。それを後ろで見ていた親が、『先生はあのように落ち着きのないお子さんがいる状況をどのようにお考えですか』って。でも、どのようにと聞かれても、全然わからなかったんですよ」。みんなで一緒に勉強できる環境作りをしたいと、「長い目で見て温かく見守りたい」と答えると、「そうですか、よくわかりました」とひと言。そして翌週、ほかにも何人か引き連れて辞めてしまった。「そのことがひどくショックで、ずっと心に引っかかっていました」

シアトルに転居してすぐ、子どもを通じてイーストサイドの日系幼稚園で働く女性と知り合った。子どもを育てながら働くことができ、またピアノが弾ける人材は重宝されると聞き、すぐに面接を受けた。「その根底には、子どもとの関わり方を学びたいという思いがありました。ピアノだけでなく、どう子どもに接するかがわからなければ教えられない。この15年、1日たりとも同じ日はなかったと言えるくらい、毎日が学びでとても刺激的です。目からウロコのことばかり起こっている感じです(笑)」

LWSOでは、オーケストラの一員であり、ソリストとしても活動。また、ゲーム映像とのコラボレーションという実験的なコンサートも。シンセサイザーを用い、いろいろな効果音を奏でる

パンデミックで考えたこれから

常に表現者として人前に立ち続けてきた亜紀さんにとって、このパンデミックはこれまでの人生で最も苦しい時間となった。ほぼ全ての公演や仕事がキャンセルとなり、「もう再起不能かも」と頭をよぎるほどに落ち込む日々を過ごした。

シアトルの日本人歌手たちとベルカント唱法を発信する活動も。コロナ禍の現在は動画で取り組んでいる

「音楽のことすら一切考えたくないという時期もありました。幸い、幼児教育機関での仕事はあったので、ひたすら専念することにしました。園に来られない子どもたちを元気付けられるように、動画作成も学びました」。このことが今は別の仕事に役に立っているそう。「ゲーム音楽に携わる仕事を通して、テクノロジーが音楽と切っても切れないものだとわかってきました。自分のしていることを相手に伝えるためには動画の活用が必須。どうやったらきれいに音が録れるのか、そういったことも含めて、パンデミックのような状況に左右されないためにも、ミュージシャンはテクノロジーを学んでいかなければならない時代ですね」

教会専属ピアニストとして活動するウエストミンスター・チャペルでバンド・ミュージシャンと。新リーダーに就任したシンガーソングライターのエリオット・リー氏(右端)とロック・スタイルに挑戦中

LWSOでの活動はいまだ再開していない。今後は、動画で伝えていく音楽の道を探りつつ、人を育てるということにも、より目を向けていきたいと考えている。また忙しい日々が戻ってきそうだ。

足元の贅沢という選択。ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.11

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

フレンチブルの靴下。ベーシックだけれど編地模様が凝っていたり、パンチの効いた色使いだったり、普通なのに普通じゃないのが良い

アメリカで暮らし始めてから、日本の良さを日々再発見している。やはり日本製が良い!と思うもののひとつに靴下がある。夫婦ともども靴下好きを自認するが、靴下に関してはデザイン、履き心地共に日本のものが断然優れていると感じる。そして価格と品質のバランスも。適当な服を着ても、靴下がちゃんとしていればそれなりにおしゃれに見える(気がする)し、夫はとにかく「気持ちが良い」ことにこだわっている。 

夫の靴下は靴下屋のワンポイント刺しゅう入り。定番はイニシャルや干支、星座のマークだが、クリスマスやハロウィン限定デザインも

というわけで、日本に帰省するたびに靴下をまとめ買いしている。愛用ブランドはおなじみの靴下屋。以前何かの番組で、タビオ(靴下屋の社名)の社長は靴下を自分の口で直接かむことで品質を確かめていると言っていた。「なんで?」とは思ったが、そのくらいこだわっているということだろう。うらやましいのは夫の靴下で、なぜかメンズのラインだけ無料でワンポイント刺しゅうのサービスがある。シーズン限定のデザインもあり、いつもズルいなあと感じている。 

前回の帰省(コロナのせいでもう3年前。夫の靴下もすっかり穴だらけ)の際、東京・国立駅内の書店で、フレンチブルというブランドの靴下にひと目ぼれしてしまった。最近の日本の書店は洒落た生活雑貨をたくさん並べていて、物欲を刺激し非常にキケンである。凝った編み込みのデザインに好みのふんわり感。フレンチブルドッグのゆるいロゴも妙にかわいい。しかし高い(確か2,000円くらい)。ウールで洗濯も面倒くさそうだ。すでにまとめ買いもしたばかり……。友人とカフェに行って散々しゃべり、駅に戻って店を2周してもやっぱり欲しかったので、思い切って2足購入した。大正解だった。とても×10くらい履き心地が良い。とにかく気に入り、冬に履くのを楽しみにしている。多少高くても良いものを長く大切に履けば、安価な靴下を使い捨てにするよりずっとエコなはず。 

ヤハエのアルパカケーブルパターンソックス(写真奥)は、飼育数が減る有色のアルパカの毛を自然のままの色で用いている。ガラ紡オーガニックコットンスリッパソックス(同手前)は、日本独自の紡績技術「ガラ紡」の手紡ぎに近い質感で、足に吸い付くようなフィット感。(購入時)各$35

そんな私のフレンチブルもだいぶ擦り切れて、「補修しなきゃなあ、アメリカじゃ売ってないよなあ」なんて思っていたところ、ニューヨークの杏というオンライン・ショップ(www.anzunewyork.com)でヤハエというブランドが目に留まった。日本の靴下生産の中心地、奈良県で100年続く会社のブランドで、オーガニックコットンを使用し、化学染色ではない自然由来の糸による色表現を追求しているそう。ビーガン製品もあるらしい。新年セールで早速ポチってしまった。アメリカで日本の古き良きものを新たに見つけるとは。あぁ、届くのが待ち遠しい。  

■タビオ  

https://tabio.com/jp    

1968年創業の靴下専業企業。靴下屋ほか、紳士靴下専門のタビオメンなどさまざまなブランドを展開する。近年ではエコソックスの開発、奈良の耕作放棄地を活用した綿の有機栽培など、SDGsへの取り組みも活発に行う。アメリカでもオンライン販売あり(https://tabiousa.com)。     

■French Bull  

www.french-bull.jp  

「日々の暮らしにそっと寄り添うような心地良さ」がテーマの、日本国内生産にこだわった服飾雑貨ブランド。社員7名が職人たちとタッグを組み、楽しみながらものづくりに励んでいる。系列ブランドにはメンズ靴下のJake(ジェイク)やレディース・インナーウエアのCion(シオン)がある。 

■yahae

https://yahae1921.com   

1820年に木綿業から始まり、1921年より靴下製造を続ける老舗企業のヤマヤが、2020年にスタートさせた新たな靴下ブランド。「100年先を見据えたものづくり」をキーワードに、理想の履き心地と人と地球環境に優しいアプローチを掲げて生産する。EMSでの海外発送も行っている。 

 

サステナビリティとジーンズと私。ゆる〜くSDGsな消費者生活Vol.10

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

2015年、ニューヨークで学生をしていた頃のこと。イーストビレッジでポップアップのビンテージ・ショップをのぞいた。若い店員さんが90年代のリーバイスを「ビンテージ」と呼んでいて、私もビンテージをリアルタイムで知る歳になったのか……と、いささかショックを受けた。そして70ドルというその価格にも。その数年前、ポートランドの古着屋で30ドル程度でリーバイスがずらりと並んでいたことを思うと衝撃的な値付けだった。小学生の頃(まさに90年代真っただ中!)、ちょっと背伸びをして兄のお下がりの501や505を履いていたが、「取っておけば良かった!」と切実に後悔した。 

上から「高い」と言いながら結局買ってしまった90年代「ビンテージ」2枚、LAのセレクトショップで見つけたリファビッシュの501、昨年にセールで購入したウォーターレス製法によるリーバイス。右はブルックリンの古着屋のお姉さんが「タグが最高だ」と評した、いかにも80年代なバルーンデニム

思えば、この時期くらいから古着ジーンズ(希少な、いわゆる「ビンテージ」ではない80年代以降のもの)の値段がまた上がり始めていた気がする。ちょうどマム・ジーンズ(お母さんのクローゼットから引っ張り出してきたようなデザインのジーンズ)の流行とも重なっていた。実際、2017年にもともと住んでいたシアトルへ戻って以降、結構なお値段のリファビッシュやリメイクのリーバイスを西海岸のおしゃれセレクトショップでも多く目にするようになった。 

近年、ジーンズ業界にもサステナブルな製品作りのブームが押し寄せているようだ。そもそもジーンズは、その製造から販売の過程で、環境に大変な負荷がかかるらしい。ジーンズ一着を製造するにはおよそ7,500リットルもの水を使用し、原料のコットン生産には大量の化学肥料や農薬を用いる。インディゴ合成染料を使うことで、有害な化学物質を川や海へ流してしまう……。が! この10年ほどで続々とサステナブルなアプローチで生産するブランドが登場してきている。 

Photo by Quang Nguyen Vinh 
コットンの生産はそのほとんどがインドや中央アジアなどの開発途上地域で行われており、児童労働など働き手の人権問題は深刻。オーガニックコットンの認証はその点も考慮している。2019-2020年度は総生産高の1%とまだわずかだが、年々増加している

たとえば、最近よく耳にするのはLA発のリフォーメーション。製品製造のトレーサビリティにこだわることで、個々の製品がもたらす環境負荷や生産の労働環境を明らかにしている。日本産ジーンズ発祥の地、倉敷発のジャパンブルージーンズは、大量廃棄され大気汚染の一因ともなるバナナの茎を再利用した「バナナデニム」を開発。大手ブランドでも、ユニクロがデニム生地製造にかかる水の使用量を99%削減するなど、エコロジカルな取り組みを始めている。 

ちなみに私が今いちばん気になっているのは、メゾンエウレカのビンテージ・リワーク・ジーンズだ。古いモノをアレンジして新たな付加価値を持たせるアップサイクル(この言葉も最近知った)もまた、サステナブルな取り組みのひとつ。大好きで毎日履くものだから、これからも持続可能な商品を選んで大切に使っていきたいものである。 

 

■Levi’s   

www.levi.com   

サステナブルな製品生産において業界を牽引するリーバイス。独自のウォーターレス製法の導入で2011年以降、42億リットルもの水を節約してきた。また、使用する全コットンを2025年までにサステナブルなものに切り替えると発表している。    

■Reformation  

www.thereformation.com  

「裸がいちばんサステナブルなファッション、2番目は私たち」を合言葉に2009年、ビンテージ・ショップとしてスタート。さまざまなオリジナル・アイテムを展開し、SDGsへの取り組みを毎年ウェブ上で公開している。シアトルではユニバーシティー・ビレッジに出店。 

■Japan Blue Jeans 

https://japanblue-jeans.com   

「桃太郎ジーンズ」で知られるジャパンブルー社によって、海外向けラインとして2011年に販売開始。生産にかかる水80%の再利用を実現するなど、「世界一エシカルなデニム」を目指している。オンラインにて購入できるほか、シアトルのブルー・オウル(www.blueowl.us)でも取り扱いあり。 

■MAISON EUREKA  

www.maisoneureka.de/m   

ベルリン在住の日本人デザイナー、中津由利加氏によるブランド。ビンテージ・リワーク・ジーンズは、ビンテージ・アイテムを解体し再構築するため、1点1点風合いが異なる。  

 


国連(https://news.un.org/en/story/2019/03/1035161 
リーバイス(https://www.levi.com/CA/en_CA/features/sustainability 

鹿取しおんさん〜すぎのこスクール園長

イーストサイドにて日本語環境での保育・幼児教育を提供する、すぎのこスクール(以下すぎのこ)。創設メンバーでもある鹿取しおん新園長に、日米を行き来した自身の生い立ちと、すぎのこのこれまで、そしてこれからについて語ってもらいました。

取材・文:加藤 瞳
写真:すぎのこスクール提供

鹿取しおん■父親の仕事の関係から家族と幼少期に渡米。高校1年までをシアトルとロサンゼルスで過ごした後、帰国子女として日本の高校に編入する。卒業後はシアトルに戻り、ベルビュー・コミュニティー・カレッジ(現ベルビュー・カレッジ)にて幼児教育を専攻。アメリカで幼児教育・保育者として約30年、インクルーシブ・クリエイティブ・カリキュラムを軸とした教育を推し進める。2020年、すぎのこ幼稚園・保育園園長に就任。現在、すぎのこスクール園長を務める。

すぎのこスクール Suginoko School

1997年の開園以来、「よりそう保育」をモットーに日米の懸け橋となる教育を続ける。2021年にレドモンドの新園舎への移転を完了し、すぎのこ幼稚園・保育園から、すぎのこスクールに改称。さらに充実した環境でシアトル近郊の子育てファミリーをサポートする。

8460 160th Ave. NE., Redmond, WA 98052
☎425-869-7651
contact@suginoko.com
www.suginoko.com

日本人としてのアイデンティティーを育んだ子ども時代

生まれは北海道。高知、東京での幼少期を経て、8歳でシアトルに家族と移住したというしおんさん。どんな子ども時代を過ごしたのだろうか。「パスポートの署名の仕方だけ教わって、英語は全くわからないまま、いきなりスクールバスに乗せられて現地校に放り込まれたような感じでした」。それでも柔軟に適応していたほうだと振り返る。「姉や妹はそれこそ固まってしまって、学校では座りっ放し。私は兄と姉、妹に挟まれた真ん中だからか、もう少し要領が良かったのかもしれません。自分の容姿に近いアジア人の子を見つけて、とにかくその子について回っていました」。身振り手振りに始まり、しどろもどろの英語から、徐々に打ち解けられるように。「担任はミセス・ジョーダンという日系人の先生でしたが、日本語はあまり話せなくて、おはようございます、ありがとうくらい。日本語を話す『日本人』は本当に少ない時代でした」

アメリカで過ごした幼少期に家族で集まるクリスマス。中列右から2番目がしおんさん。

そんな中でも、両親は子どもたちに日本人としてのアイデンティティーを持ち続けてほしいと強く望んでいた。家の中では全て日本語。学校の勉強についてとやかく言われることはなかったが、夏休みには日本語の読書感想文を父親に提出していた。「両親は日本人らしい思考やマナーに関してはとてもうるさかったんです。そんな両親に感謝しています」。しかし、ひどくショックなことも経験した。「日本に遊びに帰った時、税関で読めない漢字があって、職員の方に聞いたんです。そうしたら『日本人のくせにこんなのも読めないのか』ってすごく怒られて。私はパスポートも日本のものだし、見た目も日本人。見た目からは内面の文化的背景までわからないんだと気付いて、そこから自分のアイデンティティーについて考えるようになりましたね」

教育者として駆け出しの頃に子どもたちと

尊敬する恩師との出会い

両親の思いもあり、高校は神奈川県茅ヶ崎の帰国子女受け入れ校へ編入。卒業後にシアトルへ戻ると、コミュニティー・カレッジで教育学を学んだ。「幼少の頃からずっと、小学校の先生になりたかったんです」。若干の路線変更をしたのは、オープンしたばかりの日系保育園で働く姉から助っ人を頼まれてから。「ちょっと手伝ってと言われて行ったら、もう子どもたちがかわいくてかわいくて! 小学校の先生と違って、黒板に向かって教えるのではなく、子どもの目線に立って一緒に考えて、一緒に泣いたり笑ったり。体力的には疲れるけれど、すごく充実していて、いいなぁって思ったんです」

ぬくもりあふれる第1回卒園式

大学での恩師との出会いも後押しとなった。教授がいなければ、今の道に進んではいなかったかもしれないと顧みる。ネイティブ・アメリカンの出自というその教授は、「クリエイティブ・マインドを育む・差別をしない子どもたちを育てる」という教えを徹底していた。「衝撃的でした。最初の授業で『この中で何人が実の両親に育てられたか、手を挙げてみて』と教授が聞くと、30人くらいのうち6人しかいない。継父母、養父母、里親と、次第に手が挙がっていき、教授は『私たちは、そういうダイバーシティー(多様性)の社会で子どもたちを教育していく。両親がそろった家庭が必ずしも幸せとは限らないし、決めつけないことが必要』と。もう目からウロコでした」

近年では、文化的マイノリティーへの配慮から、「メリークリスマス」というフレーズの非使用が認知されつつある。しかし、その教授は30年前からすでに提唱していた。「たとえば、ネイティブ・アメリカンにとってのサンクスギビング(ヨーロッパ系入植者からの侵略と迫害の歴史の始まりの日と捉えられている)のように、ホリデーというのは、『一部の人にとっては自分たちの文化を失った日かもしれない。だから私たちは、ホリデーを敏感に捉えなければいけない』と強調していました。物事は、『これが正しい』という考え方だけでは測れないということを教えられました」

幼稚園立ち上げに携わる日々

新しく大きくなった園舎では、幼稚部、保育部が同じ敷地内で活動

大学卒業後の2年間は姉の勤める日系保育園で働いたが、結婚を機にアイダホ州への転居が決まっていた。転居までの猶予となる1年の間に、またしても運命的な出会いを引き寄せる。「たまたま日系新聞に、ベルビューの新幼稚園オープニング・スタッフ募集の広告を見かけて、立ち上げだけならお手伝いできると思い、電話してみたんです」。それは、すぎのこの前身となる園だった。初代園長とのデニーズでの面接は、今でもはっきりと覚えている。大学を出て間もないしおんさんは、自身の理想とする教育について、あふれる思いが止まらなかった。「『じゃあ、あなたが園長やる?』っておっしゃって(笑)。いやいや、自分は未熟だから、とにかく教授から学んだことを実践できる園作りのお手伝いをさせてください、と伝えました」。まさにゼロからのスタート。スタッフで毎日のように勉強会をして、どんな園にしたいかを話し合った。本当に何もない状態だったため、家にあった本箱にペンキを塗って子どもたちのロッカーにしたり、手描きの紙芝居を作ったり。おやつも手作りした。「本だけは園長先生になんとかお金を出してもらって、私が日本に一時帰国した際に買ってきました。そこからちょっとずつ教材を増やしていったんです」

レドモンドへの移転をきっかけに保育時間が延長となり、幼稚部でも給食が開始。満面の笑顔から、そのおいしさが伝わる

その時に集まった4人の創設メンバーには、今では同志とも呼べるマルケヒー真知子前園長もいた。シアトルを離れてからも密に連絡を取り合い、日々起きる問題や悩みへの解決策を探った。アイダホでは、インクルーシブ・チャイルドケア・センター(子どもの年齢や国籍、障がいにかかわらず、さまざまな背景を持つ子どもを受け入れる保育施設)にフルタイムで勤務する傍ら、すぎのこのカリキュラムを作り、FAXで送るリモートワークを続けた。「シアトルへ戻ると決まった時には、すぐに真知子先生に連絡をしました。それで、私が帰ってくるならと午後クラスができ、今の形のすぎのこになったんです。真知子先生とは、離れていても常に熱く保育を語り合っていました。実の親と過ごした年数よりも長く一緒にいたと思います」

ミミズの観察。植物や虫を育てることで、命の尊さを学び、社会性を養う。「すぎのこを卒園していく子どもたちは底抜けの明るさがあって、命や自然に目を向ける子が多いです」

すぎのこで働きながら、自身も2児の母として奮闘した。その経験から保育園の新設を提案したのもしおんさんだ。「私自身、働くお母さんの大変さをわかっていて、それでも日本語教育を諦めて欲しくなかった。『働く親御さんを応援します』というのが、すぎのこ保育園のモットー。おむつも食事も一切気にしなくて良いし、シーツや毛布の洗濯は全て園で行います。持ち物は着替えくらい。それは、限りある親子の時間を有効に使ってほしいから。そうして始まり、15年になります」

マイナスをプラスに変える力を養うコロナ禍での保育

パンデミックさなかの2020年暮れ、突然の知らせに耳を疑う。「すぎのこ幼稚園の建物が売りに出されている」と知人から聞かされたのだ。その3カ月ほど前に園長職を急きょ引き継いだばかりだったしおんさんには、青天の霹靂(へきれき)だった。年明けから、クラスを持ちながらの慣れない園長職に加え、週末には物件探しで駆けずり回ることに。「どこを探してもないんです。しかも家賃が5倍にも値上がりしている」。そんな中、保育園の入居先までも売却が決まった。「結局、保育園の建物が先に、年内で出ていってほしいと言われてしまって。親御さんになんて説明しよう、これは私も真知子先生と一緒にリタイアか、なんて頭をよぎるくらいでした」。すぎのこでは、保護者に医療従事者含めエッセンシャル・ワーカーも多く抱えている。なんとかしなければという一心で、州のチャイルドケア・ライセンス管理機関にも情報を問い合わせた。「ギリギリの9月半ばになって連絡があり、レドモンドの元保育施設の物件を紹介してもらえました。ただ、問い合わせが殺到しているから難しいかもしれないとのことでした」。電話を切るやいなや内見を申し込み、足を運んだ。それが新園舎だ。「チェックをすぐに切るから貸してくれという方もいたそうです。それでも、すぎのこの長年の実績から信頼できると選んでくださった。頑張ると、運って本当に開かれるんだなと思いましたね」

園内に足を踏み入れたらそこは日本! アメリカにいながら日本の文化や行事を楽しめる。現場第一主義のしおんさんも参加

コロナ禍で見えないウイルスの怖さはあれど、保育の現場は何ら変わることはないと言う。「逆に工夫する楽しみを教えられたように感じています。コロナだから『これができない』のではなく、『これだったらできる』。たとえば、なるべく外に出て青空教室にしましょう、とか。すると、子どもたちもうれしそうに『ピクニックだね』って」。時代の変化を察知し、常に新しいものを生み出していかなければならないのは保育も同じこと。自分たちが率先して見せることで、マイナスをプラスに変える力を子どもたちにも養ってほしいと語る。幼稚園を閉めなければいけなかった4カ月の間、YouTube動画も配信した。「大人もパニックを起こしているのを実感しました。親がストレスを感じていると、子どもはもっと感じます。子どもを守るのは親の仕事。恐怖を感じるのは当然です。せめて私たち保育者はリラックスして、お歌など、普段と変わらないような時間をなるべく楽しく、幼稚園とずっとつながっていられるように提供してあげたいと考えました」

新生すぎのこスクールの今

昨年末に移転し、新園長としてうれしい忙しさにてんてこ舞いのしおんさん。「私自身は30年、純粋な保育者としてここまで来ましたので、本当はオフィス仕事に向いていないんです」と笑う。前園長から「しおん先生は子どもと一緒にいるのがいちばん合っている。オフィスに留まるような園長にならないで」と、エールをもらった。その言葉通り、今も現場の先生たちと一緒に保育に入り、一緒に悩む日々を送る。「30年やっても、子どもはみんな違う。あの子にこれができたからこの子にもこれができるっていうことは全くないんです。だから常に、共に学んでいる感じです」。やりがいは、日に日に変化する子どもの姿を見ていられること。「できないことをずっと助け続けるのではなくて、ちっちゃなハードルを少しずつ一緒に考えながら越えていく。それぞれの歩幅はあるけれど、先生が必要な子じゃなくて、『できた!』という気持ちを知って自分に自信を持てる子になってほしいんです」

「五感を使った教育」を重視するすぎのこでは、科学の実験や調理実習も大事な体験学習のひとつ。「プロダクト(完成品)ではなくプロセスが大事。実際に見て、指先を使って、クリエイティブ・マインドを育みます」

今後の展望はという問いに、「在アメリカの日本語教育機関として、文化だけでなく日米それぞれの幼児教育の良さを融合していきたい」と語る。「先生にもそれぞれ個性があって、いろんな先生がいるから、いろんな子どもに対応できる。子どもたちが自分らしくいられ、先生もその個性を生かせる場所にできたらと思います。そして、子どもたちだけでなく、パンデミックで不安を抱える親御さんの気持ちにも寄り添っていきたいですね」

ピンクが好きだとか青が好きだとか。ゆる〜くSDGsな消費者生活

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

私はピンクが好きだ。赤も好きだがくすんだピンク色が何より好きだ。ところが小学生の頃、「ひとちゃんは何色が好き?」と聞かれると決まって「青」と答えていた。幼い頃からずっと、くるくる天然パーマのショートヘア。男の子と間違われることの多かった私は、「男勝りでいなければ」と思い込んでいたふしがある。女だからって女っぽい色を好きと言うのはかっこ悪いと考えていた。しかし問題なのは、「女の子はピンクで男の子は青」と周囲が決めつけることであって、女の子の私がたまたまピンク好きなことになんら問題はないのだ。むしろ女の子らしさ、男の子らしさにいちばんとらわれていたのは自分自身だったと、今になってわかる。 

ローシルク素材で着心地の良さは折り紙付き、アリ・ゴールデンのジャンプスーツを着た旅先での1枚

70年代の女性解放運動家たちは、ブラジャーを「女性を締め付けるもの」の象徴として燃やしたけれど、それはまぁそれとして。かわいいと思う下着、着けていて元気になれるブラジャーを選ぶ楽しみだって大切なことだ。さまざまなジェンダーの人が、そのありのままを尊重されるべきであるように、私が女性であるという事実も尊重されるべきだし、まず自分自身が大切にしなければと思う。 

さて、なぜこんな話をしているかと言うと、持続可能な開発目標「SDGs」の5番目が「ジェンダー平等を実現しよう」だから。残念なことに、この社会ではまだまだ女性はマイノリティー(立場が弱いという意味で)。2020年の統計で日本の女性フルタイムワーカーの収入は男性の74.4%に過ぎない。アメリカでさえ82.3%だ。う〜ん、平等への道のりは長い。 

Photo courtesy of Rujuta Sheth
ルジュタ・シェスより、2021年秋冬新作のリラ・ドレス($238)。カラフルなインド綿がシェスらしい。同社はNGOを通じ、デリーのスラム街に住む女性や子どもの教育支援に売り上げの一部を寄付するイベントなども行う

そんな中、最近は女性によるサステナブルなブランドがとても多いと気が付いた。特に西海岸が熱い。たとえば以前にも紹介したリサ・セズ・ガーなんかは、その筆頭。同じく西海岸ではオークランドのアリ・ゴールデンや、ベイ・エリアの黒人女性デザイナーによるアリヤ・ワネックなど、注目の女性ブランドを挙げれば切りがない。東海岸なら、ルジュタ・シェスが気になっている。どのブランドの服も、ナチュラルで気持ちが良いという印象。そして洒落ている。 

ジェンダー・ニュートラルなファッションももちろん素敵だが、女性による、女性が美しく、そして心地良くいられるための服、というコンセプトもまた素晴らしい。同じ女性がこうして頑張っていて、人と地球に優しいものづくりをしていると聞けば、協力せずにいられようか……否! そして今日も、ついつい新シーズンのコレクションのチェックに励んでしまうのであった。 

2022年、みんながますます、そして少しずつでもハッピーになっていけますように。  

 

■Ali Golden 

https://aligolden.com   

デザイナー、アリ・ゴールデンさんの、サステナブル・ファッションをより手の届きやすいものに、という思いから始まった婦人服ブランド。ペルーやインド、香港などの職人・工場とフェアトレードでの商品生産を行っている。今年からキッズラインも登場し、ますます目が離せない。  

■Aliya Wanek 

https://aliyawanek.com   

言語聴覚士でもあるアリヤ・ワネックさんが2016年にスタート。黒人女性としてのアイデンティティーとスタイルの融合を目指す。また、自然素材のみを使用するなど、環境に配慮したものづくりをミッションに掲げる。ナチュラルで美しい染色が魅力。 

■Rujuta Sheth

https://rujutasheth.com    

インドからの移民1世、ルジュタ・シェスさんによるニューヨーク発のブランド。織物職人の村に育ったシェスさんのバックグラウンドを色濃く反映し、伝統的な手織り技法によるオーガニックコットンのテキスタイルとモダンなシルエットを掛け合わせたデザインが特徴的。   

 

今や手編みのセーターは時代の最先端である(たぶん)

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

編み物が好きだ。どのくらい好きかと言うと、許されることなら2週間くらい引きこもってひたすら編み続けていたいくらい好きだ。 

思い起こせば、出合いは小学1年生の頃。通っていた学童保育で編み物やフェルト人形の作り方を習い、せっせと手芸にいそしんでいた。しかし時は90年代。手編みのセーターなんてダサい、重い、恥ずかしいという時代だ。やがて日々の生活が忙しくなり、すっかり編み物とは疎遠になっていた。 

ウール・アンド・ザ・ギャングの極太糸で編むケーブル・ボンバー($163〜)は、ザックザク編めてあっという間に出来上がるうえに暖かい。ウィー・アー・ニッターズの毛糸(上段)は、バリエーションに富んだニュアンスカラーが特徴的。どちらも定期的にセールを行うので、ウェブサイトをチェック

編み物と「再会」したのは10年前、シアトルに来てからのこと。ユニバーシティー・ディストリクトの自宅アパートそばにニッティング・ショップがあり(残念ながら現在は閉店)、興味本位でのぞいてみたのがきっかけだった。毛糸はもちろん、ものすごい種類の編み針が並んでいて、そのほとんどがなじみ深いクロバー製品であったことに驚いた。「編み物業界では日本製がこんなに人気なのか!」と感銘を受け、ついクロバーの「匠」8号輪針とニットキャップの編み図を購入してしまったのだった。 

シアトルの人は編み物が好きだと思う。外で編み物をしているとほぼ必ずと言っていいほど声をかけられるし、手編みのアイテムを身に着けている人もよく見かける。日本よりもずっと当たり前に、そして気軽に編み物を楽しむ人が多いような気がする。気候のせいかしら? だって、冬の寒い雨の日にお気に入りのカフェでモカでも飲みながら……なんて想像するだけで幸せだ。 

ちなみに、久しぶりに編み針に触れる私に基本の輪編みを指南してくれたのは、当時のアルバイト先で一緒に働く男性だった。今、世界的に手芸が男性の趣味としても注目されているそうだが、その同僚との出会いは編み物に性別なんか関係ないのだと知るきっかけになり、とてもうれしかった。 

私の編み物熱をさらに加速させるきっかけとなった著名ニッター、三國万里子さんのパターンで編んだアランセーター(左上)とフェアアイルセーター(右)。母製カーディガンは私と同い年(左下)。母から譲り受けたり古書店で見つけたりした昔の編み物本は、どれもリアルなビンテージ・スタイルが見られるのが魅力

編み物って実はすごくサステナブルな活動だと思う。手編みのニットはとっても暖かくて、暖房代は節約になるし(笑)、丈夫で長持ち。ボロくなったらなったで、糸を解いて編み直すこともできる。母が私を妊娠中に編んだカーディガンを、今私が愛用している。ここ数年、日本でも手編みのざっくりニット(びっくりするほど高価!)が流行っているが、その母製カーディガンは自慢の品だ。このコロナ禍で、実際に編む人は増えているんじゃないかと思う。 

毛糸も、オーガニックウールやボタニカルダイ(植物染め)などサステナブルな選択肢がたくさんあり、こだわり出したらキリがない。これ以上語り始めたら止まらなくなるので、今回はこの辺で。私のお気に入りニッティング・ショップは、右記をご参照あれ! 

■Drygoods Design 

https://drygoodsdesignonline.com  

パイオニアスクエアのおしゃれ手芸用品店。併設のワークスペースでは、ソーイング・クラスもある(現在は休止中)。ソーイングがメインのため、毛糸の品ぞろえはそこまで多くはないが、編み物小物などセンスの良いグッズが豊富。   

■Little Knits 

www.littleknits.com  

オンライン販売がメインの毛糸専門店。事前予約をすればソードーの店舗(巨大倉庫?)でのピックアップも可能だ。膨大なランナップを誇り、日本では手に入りづらいブランドの毛糸も手頃な価格でそろうのがうれしい。 

■Wool and the Gang

www.woolandthegang.com/en   

オリジナル・デザインのニットウエアや雑貨を、オリジナルの毛糸と編み図、編み針など難易度ごとにキットで販売するオンライン・ショップ。手編みニットなんてダサいという概念を覆す、トレンドを意識したプラクティカルなデザインは、初心者にもぴったり。 

■We Are Knitters

www.weareknitters.com   

キット販売も行っているが、オリジナルの毛糸が特におすすめ。編み針から包装資材に至るまで、サステナビリティーを重視した製品作りに取り組んでおり、毛糸もリサイクル・コットンやバンブーなどバラエティー豊か。キッズ用キットもあるので親子でリンクコーデも。 

 

そうだ、買い物という名の選挙へ行こう。ゆる〜くSDGsな消費者生活

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

「国連開発計画(UNDP)の山角さんに聞く、消費活動とSDGsは共存できるのか?」後編では、いよいよ本題に切り込む。

筆者(以下ひ):どんなにエコな物でも、生産によって環境に負荷がかかるのであれば、消費とSDGsの両立は無理なように感じます。私たちに何ができるでしょう?

ⒸLes Kaner
トゥー・グッド・トゥー・ゴーのアプリ利用は、レストランや商店を検索し予約、オンライン決済で支払いを済ませた後、指定の時間にピックアップと手軽だ。食品や料理はオリジナル紙袋に入って手渡される

山角さん(以下や):私は、一市民、一消費者の行動が実はすごく大切だと思っています。まずひとつには、投票権を持つ私たちは政府を形作るその一角だということ。政府によるSDGs政策やサステナブルな環境作りのためのシステムを変えていくのも、私たちひとりひとりの声なんです。だからこそ、自分たちの思いを声にしていくことが大事。そして、もうひとつが、何を買うのか。これは投票と同じで、自分たちがお金を出してどの企業を支持したか、ということなんです。どうやって循環型経済にしていくのかを考えながら物を買う。「これは本当にサステナブル?」と、調べるワンステップが変化につながる。ここ数年、自分たちの商品がどれだけサステナブルなのかをうたい始めた企業がたくさんあると感じませんか? これって、今私たちがそれを求めているからだと思うんです。そして、私たちがその企業メッセージを知って物を買うのは、毎日何かに投票しているのと同じこと。こうした動きは、より多数派の人たちを巻き込んで大きな流れになっていくのではないでしょうか。 

:山角さんが最近気になる企業や商品はありますか?

山角さんおすすめ、フー・ギブズ・ア・クラップの再生紙100%のトイレットペーパーと竹100%で森林に優しいティッシュを早速お試し。カラフルでポップなラッピングがかわいい。モットーは「世界に人にお尻に優しく」だそう

:このティッシュ! フー・ギブズ・ア・クラップって、ちょっとバカバカしい名前のブランドなんですけど(笑)。サステナブルを意識し、自分たちでウォーター・プロジェクト(誰もが安全な水にアクセスできるようにするための支援活動)を元NGOの人たちを雇用して進めるなど、すごく面白いなと思う企業のひとつです。あとテクノロジーでは、トゥー・グッド・トゥー・ゴーというアプリ。飲食店がその日売り切れなかった食品を、アプリを通じて安く売ることができるんです。これだと食品ロスを減らせるし、店側も少しだけど収入になる。周りでも使っている人は多いですよ。

:それはぜひ試してみたいです。私たち消費者の選ぶひとつひとつのアクションの積み重ねが、瑠璃色の地球を守るんですね! これからも地道に、そして自信を持って消費者生活を続けていこうと思います。

:目先の経済回復を理由にCO2排出を許容していくモデルはもう難しいし、環境配慮のある社会モデルを今作っておかなければ私たちの次の世代はより険しい道を歩むことになってしまいます。小さい一歩でも良いので、多くの方がこの重要な変化の担い手となることを願っています。

山角恵理■兵庫県芦屋市出身。英国マンチェスター大学大学院修了(経済学学士、開発学修士)。UNDP本部総裁室(プログラム専門官)にて気候変動を担当。元外務省・専門調査員(在ウガンダ大使館)およびG7伊勢志摩サミット・外務大臣会合事務局・専門員。2016年よりUNDPケニア事務所へ。その後UNDP本部の対外関係アドボカシー局およびファイナンスセクター・ハブ勤務を経て2020年1月より現職。

■Who Gives A Crap

https://us.whogivesacrap.org 

2012年にオーストラリアでサイモン・グリフィスさんらが創設したトイレットペーパー会社。世界総人口の約40%が安全な水にアクセスできないという事実に衝撃を受け、クラウドファンディングでスタート。目標金額達成までトイレに座り続けるというアピールで資金調達に成功した。エコフレンドリーな生産・販売方法にこだわり、利益の50%を発展途上国のトイレ建設や水道整備のために寄付している。 

■Too Good To Go

https://toogoodtogo.com/en-us 

2016年にデンマークで誕生した食品ロス削減対策アプリ。登録店舗にある廃棄寸前の売れ残った食品を探し、格安で買うことができる。ヨーロッパを中心に人気となり、今年6月にはシアトルでもサービスを開始。今後、ワシントン州全体に拡大する見込みだ。また、シアトルのフードバンク団体、フード・ライフラインとの提携も発表している。

 

キティちゃんもピコ太郎もとっくにSDGsを歌っていたらしい

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

前々回の本コラムで、どんなエコな素材でもその生産には必ず環境への負荷がついて回ると知り、消費者生活と共存できるのかと、すっかり行き詰まってしまった旨を書いた。ひたすら嘆く私に友人が紹介してくれたのが、国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部で活躍する山角恵理さん。なんということでしょう。まさにSDGsの総本山! 持つべきものは顔の広い友人である。というわけで、前編・後編の2回にわたって山角さんの話を紹介しようと思う。

筆者(以下ひ):UNDPとはどういうところですか?

山角さん(以下や):UNDPは国連の開発機関として、貧困の根絶、構造的変革、強靭な社会の構築など幅広い分野でのSDGs達成のために世界の国や政府と共に歩んでいこうという組織です。現在、約140カ国で気候変動や環境問題に関する活動をしています。今年は10月末から英国で開かれる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向けて、たとえば1.5度(パリ協定で「世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度未満、可能な限り1.5度までに抑える」と掲げられた努力目標)に抑えるにはどうしたら良いかアドバイスを行うなど、各国の取り組みのお手伝いをしています。ニューヨーク本部には4年半前に着任し、初めの2年半は日本の政府開発援助に関する仕事、この2年は気候変動を担当しています。

ⒸUNDP駐日事務所
第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)でアフリカ人間開発報告書のローンチをサポートする山角さん(前列右)

:今年のアメリカの政権交代で変化はありましたか?

:バイデン大統領の環境政策の影響はとても大きく、気候変動が着目されるきっかけになったと思います。CO2排出量の多い経済大国であるアメリカがパリ協定に正式復帰し、環境政策に力を入れ始めたことは、日本や各国政府が本腰を入れるに至った理由のひとつと考えられます。

:日本のメディアでも急に「SDGs」と耳にするようになりました。

Ⓒ1976, 2019 SANRIO CO.,LTD.
2019年、ハローキティがアミーナ・モハメッド国連副事務総長に会いにニューヨークの国連本部を訪問!

:SDGsが日本のお茶の間にも浸透し始めたのが、4年前頃だったように感じます。日本政府も本格的にSDGsに取り組みたいということで外務省が乗り出し、いろいろな企業から関心を寄せてもらい、吉本興業では芸人さんによるPR動画が作られました。YouTubeで「吉本SDGs」で検索すると見られます。サンリオでもキティちゃんがSDGsについて歌っているんですよ。あと2017年のちょうど今頃、国連総会の時期にピコ太郎さんが歌を披露したりとか!経団連がSDGsの推進を活動戦略に含めたことで、日本の大企業も動き始めています。日本では各企業にもともと自助努力があって、私たちはそれをサポートしただけなんです。

なるほど、昨今のSDGsブームの背景にはそんなことがあったのか〜! と理解できたところで、次回は本題「消費とSDGsの共存」についてお伝えする。

山角恵理■兵庫県芦屋市出身。英国マンチェスター大学大学院修了(経済学学士、開発学修士)。UNDP本部総裁室(プログラム専門官)にて気候変動を担当。元外務省・専門調査員(在ウガンダ大使館)およびG7伊勢志摩サミット・外務大臣会合事務局・専門員。2016年よりUNDPケニア事務所へ。その後UNDP本部の対外関係アドボカシー局およびファイナンスセクター・ハブ勤務を経て2020年1月より現職。

■吉本興業のSDGsへの取り組み

www.yoshimoto.co.jp/sdgs

SDGsをネタに盛り込み、いかに楽しくわかりやすく伝えられるかを競う「SDGs-1グランプリ」を開催するほか、人気コンビのEXITが米ブランドのレスポートサックとコラボし、環境に優しいバッグを開発するなど、笑いを通してのSDGsの推進にさまざまな形で取り組んでいる。PR動画「SDGsについて考えはじめた人々」を国連広報センターのYouTubeチャンネルで見ることができる。

■#HelloSDGs 

www.hellosdgs.com

ハローキティのYouTubeチャンネルを通じて、SDGsについて発信し日本で活動する人たちを応援。また、2019年から国連との共同企画「#HelloGlobalGoals」がスタートし、世界中のSDGsに向けての取り組みを日英2カ国語で紹介している。

■ピコ太郎×外務省(SDGs)〜PPAP〜 

https://avex.com/jp/ja/sustainability/about-sdgs/sdgs

2017年に外務省からの要請でSDGs推進大使に就任したピコ太郎さんは、大ヒットした「PPAP」をSDGsバージョンで歌い、ニューヨークの国連本部でのPRイベントにも参加した。また、ピコ太郎さんをプロデュースする古坂大魔王さんも国連環境計画(UNEP)主導による新しい取り組み「UNEPサステナビリティアクション」のアドバイザーとして活動している。

 

風呂上がりの足元をエシカルに。ゆる〜くSDGsな消費者生活

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

うっかりポチったゼブラ柄のクッションカバー(筆者私物)は、インドの職人が糸を染色した後、刺繍ミシンでチェーンステッチの生地に編み上げられる。かわいらしいカードが添えられて手元に届いた。これでまたしばらくバスマットはおあずけか……

ここ数年、ずーっと気になっているが買えずにいるものがある。コールドピクニックのバスマットだ。最初に見かけたのは、実は日本。渡米前に足しげく通っていた都内のセレクトショップに、一時帰国の際訪れた時のことだ。その店のオーナーさんは本当にセンスの良い人で、とにかく彼女の選ぶものは間違いがない。そのバスマットも、ひと目で「かわいい!!」と思ったものの、お値段なんと9,000円……。バスマットに9,000円! シアトルに戻り、「アメリカの物なのだから、日本で買うよりもお得なはず!」とチェックしてみたが、それでも60ドル。う〜ん、なんでこんなにするんだろう。オーガニックコットンだから? 

Photo Courtesy of Cold Picnic
新作ラグ・コレクションの「インチャンテッド・フィースト」は、スタジオジブリの映画「千と千尋の神隠し」にインスピレーションを受けデザインされたとのこと。(手前)ザ・サンセッツ/(奥)アン・アソートメント・オブ・スピリッツ(各$210)

オーガニックコットンがアパレル製品によく見られるようになったのは、2000年代の終わり頃だったか。当時、お気に入りの服屋さんでもTシャツを見かけ、一体何が違うのかと店員さんに聞いたのを覚えている。しかし、「すごく肌触りが気持ち良いですよ〜」と、非常に頼りない返答だった。確かに滑らかな触り心地で高品質の品だったが、「それってオーガニックだからなのか?」と、全く腑に落ちなかった。

Photo Courtesy of Cold Picnic
「スリーピング・ジャイアント・バスマット」($60)。GOT認証オーガニックコットンを100%使用

今ではすっかり世の中に定着したオーガニックコットン。農薬を使ってないんだし、きっと肌や環境に良いに違いない、と思う。しかし、風呂上がりに一瞬、足の裏に触れるだけのバスマットに60ドルの価値はあるのだろうか。自身を納得させるため、そして、締まり屋の夫を説得するため、十ウン年を経た今、改めて調べてみたのだった。

日本オーガニックコットン協会によれば、「基準に従って2 〜 3 年以上のオーガニック農産物等の生産の実践を経て、認証機関に認められた農地で、栽培に使われる農薬・肥料の厳格な基準を守って育てられた綿花のこと……(中略)……化学薬品の使用による健康や環境的負荷を最小限に抑え、労働の安全や児童労働など社会的規範を守って製造したもの」(http://joca.gr.jp)とある。つまり、オーガニックコットンは、ただ有機農法で作られているだけでなく、その生産過程もエシカルでなければならない。地球にも人にも優しく、ということだ。しかもコールドピクニックはビニール包装を極力避け、ソーラー発電での製品製造、途上国の職人との公正なやり取りなど、ブランドを挙げてサステナブルな活動を推進している。私が6枚の安いバスマットを買う代わりに、コールドピクニックのバスマットを1枚買って大切に使うことは、これらの活動に貢献することなのだ! と、納得できたところで、セールになっていたクッションカバーを、うっかり先にポチってしまったことはあと2日くらい夫には秘密にしておこうと思う。

■︎Cold Picnic   

https://coldpicnic.com   

共にデザイナーだったフォエベ・サンさんとピーター・ブアーさんカップルが2010年に立ち上げたテキスタイル・ブランド。ブルックリンに拠点を置き、ニュージャージーやインドの家族経営工場で、職人の手作業によりラグ、バスマット、ブランケットなどを製造している。

ファッションはサステナビリティの夢を見るか。ゆる〜くSDGsな消費者生活

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

ベースレンジのアイテムは、ベーシックだけどどこかひとクセあるデザインが特徴。竹レーヨンのTシャツとシルクの靴下(右)。着回しに活躍するリブカットソー(左)。薄手のオーガニックコットンはタートルネック(中央)でも首元の肌触りが優しいうえにへたらないので、シーズンごとに色違いで購入するほど気に入っている(全て私物、現在は販売終了)

「サステナブルファッション」とは言うけれど、本当のところファッションとサステナビリティは共存できるのだろうか。幼い頃からのアトピーに加え極端なアレルギー体質の私にとって、服を選ぶ際、どんな素材でできているかは重要な要素のひとつだ。3年前のクリスマス、日本の友人がベースレンジのTシャツと靴下をプレゼントしてくれた。近頃アメリカのセレクトショップでも人気が高いこのブランド。環境にも、身に着ける人の身体にも優しいデザインにこだわり、GOTS認証のオーガニックコットンやシルク、竹レーヨンなどを使用し、「2枚目の肌のような着心地」を目指しているそうだ。実際に袖を通してみると、特に竹レーヨンのしなやかな着心地がすっかり気に入ってしまい、以来少しずつ買い足して大切に着ている。「気持ちが良くて、サステナブルなんてイイネ!」と思っていた。

ユングメイブン今シーズン新作&限定のワイルド・アイズ・タホー・スエットシャツ($136)。ヘンプ55%、オーガニックコットン45%組成。だいぶパンチの効いたデザインは、LAのテキスタイルアーティストが手作業でスタンプしている

ところが先日、衝撃的な事実を目にした。竹レーヨンが実は環境に優しくない(かもしれない)らしいのだ。えぇ、そうなの!? きっかけは、以前から気になっていたユングメイブンのヘンプTシャツを購入したこと。ユングメイブンによればヘンプは「非常に優れたサステナブル素材」。そこで、実際どんな繊維なのかしらと調べてみたついでに、さまざまな素材に関する情報に当たってみたのだ。ヘンプとは、そう、ご存知大麻のこと。ちょっと驚いたが実は麻の一種で、そもそも古来、日本で麻と言えばリネン(亜麻)よりもヘンプだったそうだ。とても強い植物で、農薬や化学肥料が必要ないうえ、びっしり張りめぐらされる根のおかげで土壌が改良されるんだそうな。近年改めてその良さを見直す動きが出てきているんですって。一方で竹レーヨン。当初は、これまた丈夫な竹を使用するため自然に優しいと言われていたのだが、実はその製造過程で使用する化学薬品が環境を汚染するらしい。大ショックだ。しかも、オーガニックコットンでさえ、コットン栽培にはたくさんの水を使うので、大量に生産されれば環境に負荷をかけてしまうと言う。じゃあ再生繊維ならどうかとリサイクルポリエステルを見てみれば、化学繊維の服は洗濯をするだけでマイクロプラスチックが海洋に流れ出すという研究が……。

一体どうすれば良いんだ。すっかり行き詰まってしまっていたところ、「ニューヨーク・グリーンファッション」(www.nygreenfashion.com)というウェブ・メディアを見つけた。いわく、できる限りオーガニックの天然繊維の製品を選んだうえで、さまざまな種類を偏ることなくバランス良く選ぶことが大切だそう。そして必要な分を必要なだけ。そう考えると、「衣」も健康を守る「食」と大切なことは同じなんだなぁ。とりあえずベースレンジの服はこれからも愛用していきたい。 

■Baserange   
https://baserange.com  

フランスとデンマークを拠点に、2012年に設立されたアンダーウェア/リラックスウェア・ブランド。環境への影響を最小限に抑え、「着る人と作る人双方に利益のあるものづくり」を理念に掲げる。 

■Jungmaven 
https://jungmaven.com

地球環境に負荷をかけるファッション産業への代替案として90年代からヘンプに着目し、その有用性を広めるべくスタート。ファッションを、世界を変えるための第一歩と捉え、高品質かつスタイリッシュで機能的なヘンプTシャツを提案する。 

■『グリーンファッション入門—サステイナブル社会を形成していくために』
田中めぐみ著 繊研新聞社

グリーンファッションとは素材の生産から販売まで全ての過程において環境や社会に配慮したサステナブルなファッションのこと。それでいてファッション性も諦めない。そんなアメリカのグリーンファッションへの取り組みについて詳しくわかる入門書。著者は、「ニューヨーク・グリーンファッション」の創設者で、ニューヨークを拠点に活動するサステナブル・ビジネスのコンサルタントの田中めぐみさん。

ワンマイルウェアかジョージジャーゲか。ゆる〜くSDGsな消費者生活

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

このところすっかりスエットにハマっている(トレーナーって、いつからスエットって呼ぶようになったんだろう?)。きっかけは数年前、ロサンゼルス近郊にに住む義妹を訪ねた際に夫が「良い」スエットを買ったことだ。レディ・ホワイト・カンパニーというLAブランドのもので、どう「良い」のかと言うと、まずお値段が高かった。あまりスエットを選ぶ機会の多くなかった私には、100ドル超えはなかなかだ。しかし説明を聞いて納得。メイドインUSAにこだわり、米国産のコットンを使用し、素材の編立から縫製までをLA本社から10マイル内にある家族経営の工場で行っていると言うではないか。また、デザインにも凝っていて、リブ部分は「びよーん」と伸びてこないように2種類の編み方が採用されている。とりあえずと試着した夫は、「気持ちが良い」とひと言。彼がそう言う時は本当に気に入っているのだ。なかなか服を買わない人だから、高くても気に入ったのなら買えば良いじゃないかと購入した。

S.K.U.のスーピマ・スエットシャツ(現在ウィメンズは販売終了)。なんと左記の原稿執筆直後に2日間限定半額セール(!)になったLSGのウィノナ・オーガニック・テリー・スエットシャツ(通常価格$89)とベック・オーガニック・テリー・スエットパンツ(同$99)。あっという間に届いてクローゼットに仲間入り。胸元のシンプルなロゴがかわいいリーバイス®RED TAB™のスエットシャツ($69.50)

それがうらやましかったのである。触発されて自分も「良い」スエットが着てみたくなっちゃったんだもの。帰宅後、前から気になっていたセーブ・カーキ・ユナイテッドのスエットがセールになっていたのを良いことに、ポチっとしてしまった。そしたらば……なんとも気持ち良ーい! こちらも米国産の最高級スーピマ・コットンを使っており、表面がすべすべで柔らかく軽い。何より着心地が良い。パンデミックでおうち時間が増えた昨年からは、穴が開きそうなほどひたすら着倒している。おかげで最近、スエットが気になって仕方がない。

本当はこちらが欲しかったが売り切れ&セール対象外だったLSGウィノナ・オーガニック・テリー・スエットシャツ・カラーブロック(価格同上)と、ケリー・オーガニック・テリー・ショーツ($79)。LSGのデザインは、日差しの強いサンフランシスコのブランドらしく、いつも底抜けにポップでカラフルだ。 Photo Courtesy of Lisa Says Gah

少し前に発売されたリーバイスのオーガニック・コットン・ラウンジウェア(要はスエット上下)。ウェブ・ショップ上でおしゃれなお姉さんたちがおしゃれっぽく部屋着として着こなしていて、「ちょっと上着を羽織ればお出かけもできちゃうわよ!」的なことが書いてあったので、つい買ってしまった。しかも普段は選ばないターコイズブルー。Zoomで友人に、念のため「おしゃれワンマイルウェアのつもりで」と説明したら、「休日のお父さんのジャージ上下みたい」と言われてしまった。とてつもなく無念だった(それでも気に入っているけれど)。ちなみに、ちょっとその辺(1マイル圏内)までの外出もできるようなこぎれいな部屋着を最近はワンマイルウェアと呼ぶらしい。日本人ならワンキロウェアと言いたいところだが。とにかくジョージジャーゲ(ジャージ上下)とは別物なのだ。そして今は性懲りもなくリサ・セズ・ガー(以下LSG)のラウンジウェアの購入を目論んでいる。だってこんなご時世、「気持ちの良い生活」は大切なこと。とはいえ、買い過ぎは地球にもお財布にもサステナブルじゃないから、本当に必要なものをじっくり検討しなければならない。しかしセール・シーズンに突入しようとしている。危険だ……危険過ぎる。

 

■Lady White Co.
https://ladywhiteco.com
2015年、LAのジーンズ・ブランドから独立したフィリップ・プロイスさんが、日本の高品質なカットソーなどに刺激を受け立ち上げたブランド。Tシャツやスエットをメインに、伝統的なアメリカ的美観を独自に再構築した製品をそろえる。

■Save Khaki United(S.K.U.)
https://savekhaki.com
2006年にニューヨークで設立。「デニムばかりがもてはやされている中でカーキ(チノパン)を救いたかった」というのがブランド名の由来。メイドインUSAで作り上げる、流行にとらわれない大人のための上質なベージックウェアを提案する。

■Levi Strauss & Co.
www.levi.com
ゴールドラッシュ期の1853年、サンフランシスコにてドイツ出身ユダヤ人移民のリーバイ・ストラウス氏が創業。金鉱労働者向けに作られたワークパンツは現在のジーンズの元祖だ。近年、独自のウォーターレス製法などサステナブルな生産に力を入れている。

■Lisa Says Gah
https://lisasaysgah.com
リサ・ブーラーさんが2014年にサンフランシスコで立ち上げたオンライン・セレクトショップ。アンチ・ファストファッションを掲げ、商品から包装資材に至るまで環境に配慮し、またハンドメイドや倫理的な雇用による女性職人のサポートを目標とする。

30年先も、私は毎日コーヒーを飲みたい〜ゆる〜くSDGsな消費者生活

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

スターバックスが3月で50周年を迎えたそうだ。同時に日本でも上陸25周年。銀座に日本1号店がオープンした当時を知る世代としては、「スタバ」と言えば日本ではまだまだ新しいしゃれた企業という印象だったが、どうやらすっかりベテランのコーヒー屋さんになってしまった。

国際フェアトレード認証ラベル

思えば、私が「フェアトレード」という言葉を最初に認識したのは、スターバックスがきっかけだった。2005年頃のことだったと思う。当時、「カフェ・エスティマ・ブレンド」という豆があり、そのパッケージに国際フェアトレード認証ラベルが付いていたのだ。フェアトレードとは、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することで、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」のこと。私たち先進国の人間は毎日当たり前にコーヒーを飲んでいて、でもその裏では、途上国の生産農家が貧困に苦しみ、その子どもたちが学校に通うことすらできずに裸足でコーヒー豆を収穫している。そんな衝撃的な事実をそれまで意識したことがなかった。フェアトレードのコーヒー豆を買うことは、コーヒー農家の皆さんへ適正にお金が支払われるために私たちにもできること、とその時知った。

©Starbucks® Starbucks Sustainability Commitment Coffee Processing スターバックスは2004年から、長期的に高品質なコーヒー豆の生産を実現するための持続可能な調達モデル「C.A.F.E.プラクティス」を導入した。2015年にはフェアトレードなどの認証基準を満たしたエシカルなコーヒー豆の調達99%を達成したそう(……はて、残りの1%は?)

スターバックスは昨年、新しいサステナビリティー目標も発表している。二酸化炭素やゴミの50%削減、環境に配慮したメニューの拡充などなどに取り組むそうだ。10年ほど前には、スターバックスがローカルの小規模カフェ・ビジネスを圧迫しているとひどく嫌われた時期もあったが、大企業だからこそ、こんな風に率先して声を上げてくれるのは良いなぁと思う。昔の私のように、誰かの意識が変わるきっかけにもなる、ハズ。何しろ、このまま温暖化が進むと2050年にはコーヒーの栽培地が減少し、収穫量も減ってコーヒー農家の存続が危うくなり、おいしいコーヒーが飲めなくなってしまうのだ!(コーヒー2050年問題と言うらしい)。

15年以上使い続けるスターバックスのステンレスマグ(前左)。2007年バレンタイン限定タンブラーもまだまだ現役(奥左)。かつて通ったユニバーシティー・ディストリクトのブルドッグ・ニュースのタンブラーも愛用(奥右)。まろやか抽出が魅力の「ハリオ・ダブルメッシュ・メタルドリッパー」($34.50)は、ペーパーフィルター不要で資源の節約にも(前右)。※スターバックスのカップ持参割り引きサービスはコロナ禍のため現在休止中

そんなことになっては困るので、私も日々できることを地道に実践していく所存だ。コロナのご時世、なかなかカフェには行けないが、サブスクリプションで豆を取り寄せおうちコーヒーを楽しんでいる。シアトルならハーキマー・コーヒー(ローカル・ビジネスのサポートも私たちのできるSDGs!)、ちょっと遠くからであればブルーボトルコーヒーが好きだ。どちらも農家との公正な取り引きや、持続的な方法で栽培されたコーヒー豆の提供などにこだわる。私の人生になくてはならないものだから、持続可能なコーヒー生活を続け、30年後も毎日おいしい1杯を味わっていたいと思う。

■Starbucks Coffee Company
www.starbucks.com
1971年、パイク・プレース・マーケット内に最初の店舗を出店。現在は全世界に3万店以上を有する世界最大コーヒー・チェーン。イタリアン・スタイルの深煎りが特徴で、「シアトル系コーヒー」文化を確立した。50周年記念アニバーサリー・ブレンドや限定アイテムを販売中。

■Herkimer Coffee
https://herkimercoffee.com
2003年創業。シアトル市内に4店舗を構える。フィニーリッジ本店では週4日焙煎を行っているため、いつでも新鮮な焙煎豆が手に入るのがうれしい。サブスクリプションで12オンスまたは2パウンドの焙煎豆を取り寄せられる。

■Blue Bottle Coffee
https://bluebottlecoffee.com
エスプレッソ主体のシアトル系とは一線を画した、ドリップを得意とするカリフォルニア州オークランド発のコーヒー・ショップ。浅煎りの香り高い焙煎が特徴で、サードウェーブ・コーヒー・ブームの立役者。米国外での初出店は2015年、日本の清澄白河店。

出産・産後ドゥーラ:中島 香揚子さん

ドゥーラという職業を知っているでしょうか? 産科医や助産師などの医療サポートとは別に、妊娠中から出産そして産後にその家族の心や体を支えるスペシャリストです。シアトルでドゥーラとして活動し始めて10年目を迎えた中島香揚子さんは、これまで約300もの家族に寄り添ってきました。さまざまな出産事情、コロナ禍の現在を含め、話を聞きました。

取材・文:加藤 瞳 写真:本人提供

中島香揚子(かよこ)■出産・産後ドゥーラのほか、チャイルド・バース・エデュケーターなど資格多数。ドゥーラ・サポートに加え、ラマーズ、スピニング・ベビーズ、ベビーマッサージのクラスなどを通じ、妊娠中から女性とその家族を支える。また、出産や育児について誰でも気軽に集まっておしゃべりできる場として「おはなし会」を隔週火曜日に開催している(現在はZoomを利用)。家族と共にシアトル近郊に在住。「えんドゥーラ」ホームページ:www.nadeshikodoula.com

出産には「チョイス」がある

もともとはグラフィックデザイナーとして日本で活躍していた中島香揚子さん。仕事上、英語が必要だと実感し、語学留学先にと選んだのがシアトルだった。「外資系の仕事なんかだと、英語が全然わからなくて。通訳が入らないと交渉が全然できないような感じでした。これはちょっと勉強しようかなと始めたら、中学英語からやり直さないといけないくらい忘れてた。それでもう仕事いいやって、こっちに来ちゃった(笑)」。そこからドゥーラへの大転換、何があったのだろうか。

「実はそれも、グラフィックデザインの仕事がきっかけだったんですよ。不思議でしょう」。香揚子さんはシアトルでの結婚、出産を経て、フリーランスとしてグラフィックデザインの仕事を受けていた。その頃、コミュニティー・センターで知り合った日本人のお母さんを通じて、助産師としてなでしこクリニックを開業する押尾祥子さんの著書(現在は絶版)のデザインを手伝うことに。「この本では、女性の体が思春期から妊娠・出産を迎え、そして更年期に入っていく流れを説明しているのですが、それがとても面白かった。自分の体なのに全然知らなかったから。もし2人目ができたら、絶対に押尾先生にお願いしようと思ったんです」

カークランドのエバーグリーン病院で第1子を産んだ時はまだ、出産にはさまざまな選択肢があることを知らずにいた。「妊娠したら、病院に行ってドクターに診てもらって、ドクターが言う通りにやっていたら全部うまくいくと思っていたの。それが、押尾先生と出会って、こんなに、お産も産後もいろんなチョイスがあるんだって」。香揚子さんにとっては、まさに目からウロコだった。

2013年から開催する「赤ちゃんプレイグループ」で100回目を迎えた際の記念写真。こちらも現在はZoomで行う。 赤ちゃんにも使えるサイン・ランゲージやヨガの講師を招くことも

2人目を授かってから出産までの道のりはとても楽しいものだったそう。妊婦健診は毎回約1時間。と言っても、通常の健診は最初の15分くらいで、そのあとはいろんなおしゃべりをしながら、プライベートのことまで話し合える関係を築いてくれる。「お産の時には、それは心強いですよ。あの人が来てくれる、と思うだけで安心できる。ただ、私の場合はめちゃくちゃ早かったんです。病院に着いてベッドに上がったとたん5分で生まれちゃった!(笑)。押尾先生がしっかり取り上げてくれました。先生の顔を見ただけで、あぁ良かったと思って、つるんと出てきた。私にとって、押尾先生はそういう存在」。この時の経験が、ドゥーラとしての香揚子さんの原点にもなっている。

産後ドゥーラ、そして出産ドゥーラへ

出産してしばらく経った頃、香揚子さんの心の師匠「押尾先生」から「近所にお産をした人がいるんだけど、大変そうだから様子を見に行ってあげてくれない?」と、意外な頼まれ事をする。

産後のお母さんには手製の赤飯をお祝いに届けているそう。香揚子さんの手料理は絶品と評判だ。また、産後の心と体の回復を助けるとされる胎盤(プラセンタ)を粉末にして摂取しやすいようにカプセルを作成するサービスも行う

「本当に気軽に頼まれて、それが最初です。そうしたら、まあ大変。座布団の上でギャンギャン泣いている赤ちゃんを前に、『どうすれば良いんでしょう、これ』という感じ。とりあえず抱っこしようか、おっぱいあげようか、というところからのスタートでした」。2度、3度と通い、1カ月も経つ頃には夫婦も変貌を遂げていた。「最初はカチカチだったふたりが、愛情あふれる素晴らしい親へと変わっていきました。顔つきはすっかり穏やかになって別人のようだし、赤ちゃんを抱っこするお父さんの揺らし方も全然違う。うわぁ面白い! すごいなぁって思ったの。それで押尾先生に、また紹介してくださいと頼んだら、『じゃあ、ちゃんと資格取りなさい』と言われたんです。それで調べてみると、ちょうど自宅から車で5分くらいの距離に、自然医療専門大学として世界的に知られるバスティア大学がありました」

そこには、世界最大のドゥーラ養成認定組織であるドーナ・インターナショナルの共同創設者、ペニー・シムキン氏を擁するシムキン・センターというドゥーラ養成教育機関も。偶然にも、香揚子さんはドゥーラ教育の本場で、産後の育児や家事のサポートをする産後ドゥーラのワークショップを受けることができた。「ワークショップは1週間くらいの集中講義でしたが、それだけで資格が取れると思ったら大間違い。講義後に実地研修があり、産後ドゥーラを経験できるクライアントを自分で探します。認定までは4カ月から6カ月くらいかかります」

バッグにはドゥーラの必需品がいっぱい。陣痛緩和のためのマッサージ器具やエッセンシャル・オイルなどのほか、たくさんのスナックも欠かせない

こうして2012年、香揚子さんは産後ドゥーラ資格を取得する。さらに同年にベビーマッサージ、2013年には出産ドゥーラの認定も受け、次々と仕事の幅を広げていく。当時は小学生の子育て真っ最中。出産ドゥーラの呼び出しは夜に突然ということもある。「学校やサッカーの送り迎えができない時は同じサッカー・チームの人に助けてもらったり。そのおかげで人のつながりができた部分もあります。夕ご飯を大慌てで作って、出がけに子どもへ『朝もお母さんがいなかったら、ランチ買ってね!』なんてこともありましたね」と、笑いながら振り返る。そんな忙しい日々の中でもドゥーラの仕事を継続できた理由とは何だったのだろうか。

「産後ドゥーラから始めたけれど、産後とは、もちろんお産があってのもの。産後のお母さんの気持ちは、妊娠・出産前の日常から全てつながっていて、産後はほんの1片でしかない。この人が今ここで泣いているのは、出産の痛みだけではなく、大きく複雑な背景があるんです。何年もの間赤ちゃんを待ち続け、やっと妊娠した喜びで泣いていたりね。だから、この1片につながる点を増やしたいと思って、出産ドゥーラを始めたんです」

出産ドゥーラは出産に付き添い、医療外の陣痛促進や陣痛緩和などの手助けをする。「実際にお産に入るようになったら、びっくりしちゃったんです。あまりにもフィールドが広過ぎて深過ぎて……。産後だけなら、基本的に赤ちゃんとその家族だけとのつながり。ところがお産もとなると、ドクターや産院とのやり取りがあるし、妊娠に関わる症状や経過、病気のこともある程度知っておかなければなりません」

ラマーズ、出産準備クラスを共にした家族のリユニオンでは、新しく増えた家族と共に、幸せな笑顔がいっぱいだ。
コロナ禍の今はZoomで

そこで、次に学んだのがラマーズだ。香揚子さんはラマーズ・インターナショナル認定のチャイルド・バース・エデュケーターとして、2015年から出産準備教室も行っている。ラマーズの特徴は、さまざまな情報の提供にある。「妊娠、出産、産後というのは人によって違います。たとえば、お産の流れはこう進むもので、それに合わせて体や心はこう変化しますよ、病院に入るとこういう医療介入があり、それぞれにこんなリスクとベネフィットがありますよ、という風に個々の状況に合わせて情報を提供できるようにします。ドゥーラや出産準備教室は、栄養学からエクササイズまで、とにかく浅く広い知識を必要とします」

香揚子さんの探求心、向上心はとどまるところを知らない。2016年からは、スピニング・ベビーズの情報提供も開始している。「日本ではあまり知られていないので、何だろうっていう人がほとんどです。これは、人間の体がどういうものなのか、赤ちゃんがどうやって骨盤から産道に下りていくのかを知り、体のバランスを整えることで、お産がスムーズになるように学んでいくクラスです」。認定は更新制なので、3年に1度、コンスタントにトレーニングを受けている。こうして、さまざまな団体の資格を取得する香揚子さんは「どれも全部つながってはいるけれど、奥が深いのでついていくのが大変!」と言いながらも、多方面にわたる知識に自信ものぞく。

ドゥーラは影武者のような存在

特に記憶に残るお産はあるか聞いてみた。「いっぱいあります。陣痛が始まったから産院に行くと言うので私も向かったのですが、あと10分で着くというところで生まれてしまったことがありました。この方のお産は陣痛開始から1時間半の早さでした。かと思えば、数日かかった人もいます。でも、みんな元気な赤ちゃんを産んでいます」

2019年秋、シアトルで開催されたペアレント・エデュケーター・トレーニングに参加した際、スピニング・ベビーズ創設者のゲイル・タリーさんと対面を果たす。「再会がうれしくて、思わず目をつぶっていました」

初産で自宅出産をした人もいれば、長い間待ちに待った赤ちゃんを精一杯準備して迎える家族もあり、お産は実にさまざまだ。計画通り、もしくはそれ以上の結果が出る人もいる一方で、いろんな準備をしたけれど全然違うことになってしまう場合も当然あり得る。そんな時に、母親が前に進めるよう足元を照らすのもドゥーラの役目だと香揚子さんは言う。「帝王切開などの医療介入の判断も、赤ちゃん、お父さん含め、家族にとってこれが最善の選択だと自信を持って選べるように情報を提供してお手伝いします。お産の時、私自身は影武者。お父さんをそーっと後ろから押しながら、見えないように、お母さんをサポートするのがドゥーラなの」

コロナ禍の現在、出産を取り巻く状況も大きく変わっている。病院には、子どもをビジターとして連れて行けなくなったため、2人目以降の出産の場合、子どもを預けるか、お父さんが見ていなければならない。「もちろん、お母さんひとりではなく、どんな環境でも家族が一緒にいられることが理想。最後まで検討を続けてもらいますが、万が一立ち会えない場合には、ドゥーラと2人で、ということもあります」。そんな中でも変わらず赤ちゃんは生まれてくると、香揚子さんは顔をほころばせる。「お兄ちゃんお姉ちゃんは来られなくなったけれど、ドゥーラの私は、お父さんがしっかり愛情を持ってお母さんをサポートできるように、その後ろからサポートするんです」

最後に、ドゥーラとして大切にしていることを聞いた。「ひとりひとりを尊重すること。出産への考え方はみんな違います。私は家族が目指す方向へ動けるようにサポートするだけ。赤ちゃんのお産の記憶は生涯残ると言われ、誰にとっても人生での一大イベント。家族に見守られ、安全な環境でのお産がかなえば、たとえ大変だったとしても、暖かい記憶が心に残ると思います」。そんな香揚子さんは、月に1〜4家族の出産を抱えながら、クラスもラマーズを隔月で、スピニング・ベビーズやベビーマッサージを2、3カ月に1回開催し、今日も大忙し。シアトルでお産を経験する家族にとって、実に心強い、頼れる存在だ。

手仕事プランターに魅せられて〜ゆる〜くSDGsな消費者生活

​SDGsとは「持続可能な開発目標」。環境対策や貧困撲滅、ジェンダー平等などなど、大きな目標はたくさんあるけれど、私にもできることって? サステナブルで豊かなおうち時間を目指すべく「地球に、人に、そして自分に優しく」をテーマに、今気になるモノやコトを紹介!

夜の砂漠を思わせるウォルフ・セラミクスの「ハーフ・ムーン・プランター」($62)は、サボテン君と抜群の相性。ちなみに手前はサンドボックス・セラミクス、最奥はミミ・セラミクスのプランター

サステナブル(持続可能な)、エシカル(社会に配慮した)、なんて言葉を至るところで目にするようになった昨今、「地元◯◯作家さん手作りのXX」といった手仕事の良さが見直されるようになって久しい。その流れはどうやらアメリカでも本格的になってきたようだ。シアトルにも進出するインテリア雑貨店のウエスト・エルムでは、小規模メーカーやアーティストの雑貨をコラボ・アイテムとして取り扱っているし、同じくシアトルでもおなじみ、ファッション・ブランドのメイドウェルも「ホームタウン・ヒーローズ・コレクティブ」というプログラムを通してさまざまな地域のアーティストの活動をサポートしている。

Photo courtesy of Peaches
​ピーチズのプランターは、オレゴン州の自然をイメージしたデザイン。練り込みのパターンや、夕日のようなグラデーションが美しい。各$50

かく言う私も、旅に出れば地元作家さんのマグや器を買うのが楽しみのひとつだ。オレゴン州ポートランドで買ってきたのは、製陶スタジオ、ウォルフ・セラミクスのプランター。どうやって知ったのだったか忘れたが、「次にポートランドに行ったら絶対に欲しい!」と意気込み、街外れの小さなプラント・ショップまで探しに行き、入手したものだ。オレゴン出身のサラ・ウォルフさんが2016年にスタートさせたスタジオで、日の出や月食を模した幾何学模様のミニマル・デザインが、いかにもポートランドっぽくて気に入っている。中に入れるサボテン(英語ではカクタス)も合わせて購入し、なかなか勇気の要るお値段だったが、毎日目にするたび、水をやるたび、気持ちがウキウキする。

プランターなんて、いくらでも安く買うことができるという考えもあるかもしれない。でも、顔の見える誰かによって丁寧に作られたものは愛着が湧き、長く大切に使っていこうと思える。オレゴン州はほかにも、ミミ・セラミクスやサンドボックス・セラミクス、ピジョン・トウ・セラミクスなど、女性が活躍するスタジオが多く、同じ女性として、なおさら応援したくなる。最近気になっているのは、ジュリア・シャーマンさんとトーマス・スプロットさんの男女ふたりで活動するピーチズだ。環境や社会への影響を配慮したモノ作りに力を入れていると言う。

パンデミックで家にこもっている間に、わが家のサボテン君たちがニョキニョキとかなり伸びてしまった。それぞれ大きな鉢に植え替えを検討している。あぁ、また新しいプランターを入手しなければならない。こまったこまった、次はどんなのを買おう。こんなご時勢だしオンラインでオーダーしちゃおうか。つい顔がニヤけてしまう。ふふふ。

■Wolf Ceramics
https://wolfceramics.com
マグカップなど人気商品はすぐに売り切れてしまうので再入荷情報を要チェック。オンライン・ショップのほか、ポートランド内のインテリア店、マンテル(https://mantelpdx.com)などでも取り扱いがある。

■Sandbox Ceramics
www.sandboxceramics.com
白い砂浜をイメージさせるような風合いと曲線のデザインが特徴。陶芸家の祖母を持つペトラ・カイザーさんが、独学で陶芸を習得しスタジオを立ち上げた。インスタグラムで最新アイテムなどを見ることができる(@sandboxceramics)。

■Mimi Ceramics
www.mimiceramics.com
ミカ・デマルケスさんによるカラフル・ポップなデザインが人気で、フランスや日本にも取り扱いショップがある。シアトルではバラードのセレクト・ショップ、プリズム(https://prismseattle.com)で購入することができる。

■Peaches
www.peachesthestudio.com
独特な淡い色調のグラデーションや、流線型のデザインが印象的なピーチズの作品は、スリップキャスティング(鋳込み成形)という技法で作られている。上記のマンテルや、同じくポートランドのウーンウィンケル(www.woonwinkelhome.com)などで販売。

■Pigeon Toe Ceramics
https://pigeontoeceramics.com
リサ、サマンサ・ジョーンズ姉妹によるスタジオ。スモーキーカラーと極めてシンプルなデザインで、テーブルウエアからインテリア雑貨まで幅広く制作している。

切り絵作家 曽我部アキさん

切り絵作家 曽我部アキさん

美しいマウント・レーニアや、満開の桜の向こうに顔をのぞかせるスペース・ニードルなど、どこか日本を思わせる素朴なタッチでワシントン州の風景を切り取る曽我部アキさんの作品は一度目にしたことがあるのでは。シアトルを代表するアーティストの創作の源はどこにあるのでしょうか。制作の裏側を探ります。

取材・文:加藤 瞳
写真:本人提供

曽我部アキ■静岡県出身。ベルビュー在住。1978年の渡米後、プロのアーティストとして活動開始。ワシントン州内30以上の公立校に作品が展示されているほか、パイクプレイス・マーケットの壁画、宇和島屋シアトル店エントランスの鉄塔など、パブリック・アートも数多く手がける。ベルビュー美術館のアート・フェアには1983年のエントリー以来37年連続で選出(2020年はコロナ禍のため開催中止)姉妹紙『北米報知』にて1998年より「今月の切り絵」コーナーを持つ www.akisogabe.com

いつもアートがそばに

「プロのアーティストなんて、なろうともなれるとも思っていなかった」。そう語るアキさんだが、その半生は常にアートと共にあった。

静岡県に生まれ、富士を望む環境でのびのびと育った子ども時代。活発だったアキさんは男の子ともよく遊んだ。お絵描きも得意で、地元の風景をスケッチしたり、手塚治虫氏による『リボンの騎士』など好きな漫画を読んではまねして描いたりした。当時の様子がよくわかるエピソードがある。「昔、家の襖に、うさぎとカエルが相撲を取っている鳥獣戯画をまねして描いたことがあるの。でも、全然怒られなかったどころか『うまいね、アキちゃん』なんて言われて。すごく面白かったのを覚えています」

やがて就職が決まったのは、アートとは程遠い遺伝学研究所。アキさんは人類遺伝学教授のアシスタントとして働き始めた。そして、ハワイ大学での研究活動に同行した際に現地で出会った日系アメリカ人と、その後結婚することになる。

夫の駐在に伴い、1974年から2年半、シンガポールに住んでいた。横に立つのは長男のスティーブさん(当時2歳)

夫は船舶会社に勤めていた。シンガポールへの駐在が決まると、アキさんはそのままずっと外国暮らしの身となった。海外生活での育児に奮闘する中で、アートは変わらず心のよりどころだった。「結婚前に、当時流行り始めたフラワー・アレンジメントを習って資格を取っていたんです。シンガポールでは近所の子に絵を描いたり、お花を作ってあげたりと、いつも子どもたちと触れ合っていた楽しい思い出があります」

そんなアキさんに、地元のデパートから「お花を売りませんか?」とのオファーが舞い込んだ。話はとんとん拍子に進み、300束ほどのブーケを作り、販売するようになる。それでも、いつもちょこちょこと何かを作っているのが好きだったアキさんは、あくまで趣味の一環として、自分が楽しいからやるというスタンス。「プロになろうだなんて全く思っていなかった。まあ、子育ても大変だったんですけれどね」と、笑いながら振り返る。

歯科医院で人生の大転換

1978年、シンガポールからシアトルに移住した。そこでひょんなことから人生が大きく変わることになる。

趣味で制作していたちぎり絵は写真でしか残されていない。「当時は人物を描くのが好きだったようです」

ちょうど切り絵を始めた頃だった。「最初はちぎり絵でした。でも、すごく細かいんですよ。面倒になって切り絵に(笑)」。山下 清作品に感銘を受け、「面白そう!」と始めたという当時のちぎり絵作品を見せてもらうと、その完成度に目を見張る。切り絵は滝平二郎作品や中国の切り絵細工、また芸術的には葛飾北斎の影響が大きいと言う。「富嶽三十六景を初めて見て、なんでこんな絵が描けるんだろうって。北斎は漫画家でもあり、ちょっとした表情や体の姿勢が本当に素晴らしくて、いろんなことを学びました」

始まりは、歯科医院の待合室でのたわいない会話からだった。「受付のおばさんの趣味が水彩と言うので、私も切り絵をやるって応えたら、『そんなの見たことがない、今度持ってきて』って」。次の来院時、アキさんは切り絵とちぎり絵を1点ずつ持参した。そこにちょうど居合わせたのが、歯科医の妻と歯科器具販売員の男性だった。「奥さんがね、『これ、いくら?』って聞いたの。とっさに50ドルと返すと、奥さんもその男性もパッと買ってくれたんですよ。え、売れるの……って、心臓がドキドキしました。帰り際、受付のおばさんも、『あなた、絵をおやりなさい。売れるわよ』と。おばさんの後押しで私はアーティストになったのかな(笑)」

しかし、アキさんは「絵が売れたのは珍しいから。思い上がってはいけない」と、自分に言い聞かせていた。当時、アーティスト活動を始めながら語学学校で日本語を教える仕事も続けており、育児との両立に苦労していたアキさん。「若かったからできたんだなぁ、頑張ったなと、今は思います。子どもたちは私が賞をもらうと、ものすごく喜んでくれました」

運命の出会いから絵本挿絵画家に

絵本挿絵画家として受賞歴を持つアキさんが、初めて絵本制作に携わったきっかけもまた、運命的なものを感じさせる。

州内に住む長女の愛犬、ミニチュアハスキーのルナちゃんと。現在、長女は中学校のアート教員で、アーティストの血を受け継ぐ

当時在籍していたアーティスト団体、イーストサイド・アソシエーション・オブ・ファインアーツ(現エバーグリーン・アソシエーション・オブ・ファインアーツ)のメンバーがオレゴン州フッドリバーへ移住してギャラリーをオープンすることになり、そこに作品を5、6点置かせて欲しいと依頼された。そして、その小さなギャラリーでたまたま作品を見かけたという出版社の編集者から手紙が届いたのだ。新人の絵本作家とイラストレーターによる新刊の出版を企画しているので、もっと作品を見せて欲しいという内容だった。

アメリカの絵本についてあまり知らなかったアキさんは、まず出版事情に詳しい知人に相談した。すると、「すぐに返事を書きなさい。これは有名な会社で、イタズラじゃないわよ」と、背中を押された。手紙の主は出版社、ハーコート・ブレイスに勤める編集者のリンダさん。普段は通らない田舎道でコーヒー1杯のために偶然立ち寄った小さなホテルの隣が、そのギャラリーだったのだそう。実際にほかの作品を見てもらうと、リンダさんから「すぐに連絡します」と言われ、「やった!」とアキさんは手応えを確信。「その時、運命の扉が開いたと感じましたね。そこから始まったんです」

出版後、全米で行われる司書ミーティングに次々と足を運んだ。「シカゴやニューオーリンズ、いろんな街を旅しました。あの頃はすごく楽しかったし、うれしかったですね。地元のアート・フェアに参加しても、範囲が狭いわけですよ。絵本の場合は全米で売ってくれる。アメリカ中で誰かが読んでくれる喜びがありました」

作品作りは「お客さま第一主義」で

アキさんの作品「A Gorgeous View」(2020年)。猫をモチーフとした作品が多いが、実は犬派だ。「猫はすごく売れるの(笑)。これもお客さんに喜んでもらうためです」

制作に当たって大切にしているのは、買い手となる「お客さま」だと強調するアキさんは、いつも感謝を忘れない。ある年、ベルビュー美術館のアート・フェアで、オリジナル作品を注文した女性がいた。やっと子どもが大学を卒業し、生活に余裕ができたので、念願だったアキさんの絵を買うことに決めたと言う。「本当にうれしかったから、お祝いに、かなりおまけしてあげました(笑)。ありがたいじゃないですか。絵なんて、食べ物と違って、なくてもいいものなんだから。そういう感謝の気持ちで作るの」

人気作家でありながら、その謙虚な姿勢が印象的だ。「作ったあとは、自分の絵を2、3日経ってから見る。そうすると『何これ、ここがおかしいや』っていうのが見つかる。『人前に出せない!』なんて絵は何枚もありますよ。作品は愛しているけれど、うぬぼれない、満足しちゃいけない、という精神でいます」。何枚か絵を作ると必ず壁にぶつかる時期がやって来る。自分の作品を卑下すると、息子に「そんなことはない。これがいいって言うお客さんもいるはずだ」と叱られることも。「こんな絵でいいのか、全然上達していない、と悩むことはしょっちゅう。でも、夕飯のおかずを作っていても何をしていても、結局は頭のどこかで次の絵のことを考えている。とにかく続けて続けて、次はもっと良いものを作ろう、お客さんに喜んでもらおうって、いつもそれだけです」

Reflection Lake」(2017年)。いちばん好きなモチーフ、マウント・レーニアを切った作品。「シアトルに来て初めてI-5からマウント・レーニアを見た時、富士山と重なりました。静岡県人なので、ホームシックになると見たくなる私のスピリチュアル・マウンテンですね」

ストップしたら終わりだと、常に走り続けてきた。「月の絵がとても好きなんです。月の昇り始める頃の木々の風景を見て、昔はドライブしながら、『いつか、こういう絵を切りたいな」とよく言っていたのですが、最近は夜景を見ると息子が『お母さんの切り絵みたい』と言ってくれます。こういう絵が切れるようになったんだなぁと思います」

アーティストとしてのチャレンジ

2016年、ワシントン州日本文化会館(JCCCW)による「シアトルのハントホテル」展のプロジェクトに参加した。第二次世界大戦後に強制収容から帰還した日系人が、日本町にあったシアトル国語学校(1902年設立の全米最古の日本語学校で、現在のシアトル日本語学校)の建物をハントホテルと名付け、仮住まいとした1945年から1959年の歴史を掘り起こすプロジェクトだ。当時の写真はその多くが消失しているため、実際に居住した日系人の証言などから、アキさんの切り絵でその様子を再現した。

2014年、ワシントンD.C.の日本商工会を通してワシントン大学に新たな桜の木が寄贈され、アキさんの絵がその返礼品となった。大村昌弘総領事(当時)と

「当時を知らないから、こういう絵を描いてくださいって言われても大変なんです。まず、どんな服装だったのかがわからない。帽子ひとつにしても今の人たちとは違う。でも、探すと家族写真は割とあるんですよ。それよりも、生活風景の資料がない。何回も何回もスケッチを繰り返しました」。ハントホテル展の作品は1冊の本としてまとめられている。「新しい本の香りをかいだ瞬間、やって良かったという充実感に満ちあふれますね」

アキさんが初めて挿絵を手がけた絵本『Cinnamon, Mint, & Mothballs: A Visit to Grandmother’s House』

チャレンジングなことが好きだと話すアキさん。アーティストは少なからずそういうところがあるものだと続ける。「これまでの自分の作品でいちばん好きなものを聞かれて『ネクスト・ネクスト・ワン』と答えました。ピカソがね、そう聞かれて『ネクスト・ワン(次の作品)』と言ったんですよ。次はもっとうまくやってやるという気持ちが、何かものを作る人には絶対にある。だから私も、ピカソをまねしてみたの。新しいことに挑戦するのは、大変ですけれど」と笑う。

コロナ禍での活動はどうだろうか。「ほとんど変わらないです。コロナ下の生活になってから絵がダメになったとか、描きづらくなったとかも一切ない。むしろこの機会にもっと作ろうと思いました」。アート一色。意気込むその頭の中はいつも作品のことでいっぱいだ。切り絵にはX-ACTO(エグザクト)ナイフのNo. 11を愛用している。「1日に1回、ナイフを持って5分でもいいから指を動かさないと気持ちが悪いんですよ」。制作中はジャズや、最近ではスマートフォンからいろいろな朗読を聴くのがお気に入りだ。「友だちが天童よしみのCDをくれて、切りながら聴いてみたけれど、これは合いませんでした(笑)」

ベルビュー市と大阪府八尾市の姉妹都市提携50周年を迎えた2019年、八尾市からの親善訪問団に、ベルビュー市内の八尾ガーデンをモチーフとしたアキさんの作品が贈られた

今が本当に楽しいと語るアキさん。「今までやってきたこと、学んだことを毎日楽しめるのは幸せなこと。このままずっと続けていきたいですね」

トモ・ナカヤマさん – シンガーソングライター 

カテゴリーを超える、新しい挑戦
シンガーソングライター トモ・ナカヤマさん

シアトルを拠点に活動する人気ミュージシャン、トモ・ナカヤマさん。日本でも、「奇跡の唄声」と注目を集めています。その幼少期から現在までを振り返り、自身の音楽への向き合い方について語ってもらいました。

カメラを構えると、「お母さんが見るからね」と満面の笑みを見せてくれたトモさん。その人柄が窺える

トモ・ナカヤマ(Tomo Nakayama)■シアトル在住のシンガーソングライター。日本人の母、ベトナム人の父の元に高知県高知市で生まれ、幼少期を東京都町田市で過ごす。2000年に大学の友人と共にバンド、Asahiを結成し活動を開始。その後Grand Hallwayを経て、現在はソロアーティストとして米国内外で活躍している。これまでに北米ツアーのほか、4度の日本ツアーを敢行している。2013年、映画「タッチー・フィーリー(米)」出演。

音楽が大好きだった子ども時代

小学校低学年の頃、家族で日本からベルビューに移住。アメリカで暮らすことが夢だったという母の思いからだった。「アメリカなんてミッキーマウスくらいしか知らなかったけれど、子どもだったから辛くはなかったかな」。最初は半年、ESL(第2言語としての英語クラス)に通い、普通校に移った。日本語は『スラムダンク』や『ドラゴンボール』など日本の漫画で勉強。弟は土曜日にシアトル日本語補習学校に通っていて、エミ・マイヤーさん(シアトル育ちの日系人シンガー)とは同級生だったそう。幼い頃から歌うことが好きだったというトモさんは、小学5年生で現地校のオーケストラに加入し、ビオラを習い始めた。「バンドかオーケストラを選択できたのですが、ビバルディなどクラシックが好きだったので」。中学でバイオリンに転向し、同じ頃、ギターも買ってもらった。「ちょうどニルヴァーナなんかの、シアトルのロック音楽がブームになった。日本人の友だちが尾崎 豊の大ファンで、ベーシックなコードの『卒業』を教えてくれて、ギターも面白いなって練習を始めたんです。だから初めて弾いたのは尾崎(笑)」

子ども時代のトモさん

高校では合唱グループやバンドに入りつつ、音楽を独学で学んだ。「あの頃のロックは上手過ぎてもダサいってイメージがあった。自分のスタイルを持ちたかったんです。ルールを気にせず、友だちと弾きながら曲を作っていく感じでした」。ワシントン大学では映画学を専攻した。「映画監督になりたかった。でも、始めてみたら音楽ほど真剣になれないと気付いて。進学はしたけれど、もっと音楽をやりたいという気持ちがありました」。音楽の道を志した時、家族の反応はどうだったのだろうか。「家族はまともな職に就いて欲しかったみたいで心配していました。理解してもらうにはかなり時間がかかりました。今でも心配はしていると思います(笑)」

プロミュージシャンへの道

©Kyle Johnson
Grand Hallwayのメンバーと

2002年には、大学の友人と結成したAsahiというバンドでアメリカ・ツアーを行った。「全然お金にはならなかったけれど、地元のラジオ局のKEXPに出たり、EMP(現MoPOP)主催の音楽コンペに出場したりできました」。2007年、Grand Hallwayを新たに結成。バイオリンやチェロなど、クラシック要素を取り入れたスタイルで、日本でのレコードリリースも果たす。高い評価を受けたが、それでも生計を立てるのは難しかった。長い間、映画館での仕事やカフェのバリスタもこなす中、大きな転機が訪れたのは2013年のこと。シアトル在住のリン・シェルトン監督による映画「タッチー・フィーリー」への出演が決まったのだ。以前から音楽を通じて交流のあった監督からのオファーだった。「最初は小さい役だろうと思ってイエスと答えたら、あとから映画の規模を聞いてびっくり。バリスタでミュージシャンという役柄でした。まさに『僕』を演じたんです」。同年のサンダンス映画祭では審査員大賞作品にノミネートされた。「僕が撮影に参加したのは5、6日間。映画製作の裏側を見られて面白かった。

出演映画「タッチー・フィーリー」は、人に触る恐怖から仕事が続けられなくなった姉のマッサージ心理療法士と、「癒しが得られる」と人に触られることで評判を呼ぶ弟の歯科医師の物語

もともと興味がありましたからね。映画祭に参加して初めて、これは大変なことだと気付きました。プレミアでは一日中、インタビューや写真撮影に応えるんです。俳優さんのそういう大変さを知りました」。アフターパーティーでは、映画のために制作した楽曲も披露した。「撮影後すぐは演技をもっとやってみたいとも思ったけれど、やっぱり歌っている時が最高にハッピーな瞬間だった。それで、音楽で生きていこうと決意が固まりました。バンドではなく、ソロ中心に活動することにしたんです」。現在はテレビや映画音楽の作曲も手がけるなど、仕事の幅が広がっている。「ソロになってやっと、フルタイムで音楽に取り組めるようになりました。今はいろんな人と協力しながら楽しんでいます」

シアトルに住む今も日本は「ホーム」

愛犬のモチと一緒に

「作曲をする時は、たくさん歩きます。シアトルに住んでいると、自然の中からインスピレーションを受けられる」。愛犬、モチと散歩中に思い浮かんだ曲が「Walking for Two」だそう。「その日はちょっと落ち込むことがあって、どんより歩いていたら、モチまで同じ歩き方をしていたんです。モチには元気でハッピーに跳び回っていて欲しい。そして誰かを思って行動すれば、自分もハッピーになれると考えたんです」。トモさんの音楽スタイルは常に変化してきた。「子どもの頃はオルタナティブ・ロックやグランジ・ミュージック。20代ではシアトルで全盛だったインディー・ロック 。ここ5年くらいは、フォークとかアコースティックとか、懐かしい音楽をよく聴いて、影響を受けています」。ニューアルバム「メロンデイ」は、ダンス・ポップ。新しいチャレンジだ。「新しくコンピューターを買って勉強していたら、独学で作曲し始めた子どもの頃みたいな感覚が戻ってきて。新しいことに挑戦してみたくなったんです。日本のバンドのコーネリアスを聴いて、エレクトロニックなサウンドを作ってみたいと思いました」

1月23日、フリーモント・アビーで行われたライブにて。20年来の音楽仲間であり、元Grand Hallwayメンバーでもあるアリーナ・トウさんもバイオリンで参加

ここ数年でシアトルのミュージックシーンは大きく変貌を遂げたとトモさんは感じている。家賃の高騰により、ミュージシャンの多くが他都市に拠点を移す中で、少数精鋭化が進んでいると言う。「真剣な人だけが音楽を続けているからレベルが高い。今まで続けてこられてラッキーだなって思います」。日本人の母、ベトナム人の父を持ち、日本とアメリカで育ったトモさんは、いつもどこかで自分をアウトサイダーだと感じてきた。しかし、今ではそれも大切なアイデンティティーだと語る。「自分を何かのカテゴリーに当てはめるのではなく、ただその人であって欲しい。でも日本に帰るとやっぱり『ホーム』と感じます。前回のツアーはもう4、5年前になる。また行きたいですね」

ニューアルバム「Melonday(メロンデイ)」 発売ライブ決定
4月17日、ポーチライト・レコーズよりリリースされるのは、日本で見かける豪華にラッピングされたメロンのように、日常の「普通」を素敵にアップデートしたい、そんな思いが込められたアルバム。バラードのサンセット・タバーンにて記念ライブが開催される。

日程:4月30日(木)8pm〜
場所:The Sunset Tavern   
       5433 Ballard Ave. NW., Seattle, WA 98107
問い合わせ:☎︎206-784-4880
チケット・詳細:http://sunsettavern.com