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Author: 土井 ゆみ

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。

Minions & Monsters (邦題『ミニオンズ&モンスターズ』)〜注目の最新ムービー

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何を言ってるか分からないからこその魅力


Minions & Monsters
(邦題『ミニオンズ&モンスターズ』)

 

 

この世で最も恐ろしい悪人・ボスの手下になりたい謎の生物「ミニオンズ」を主人公にしたアメリカのコメディー・アニメ。ゴーグルをつけ、黄色くてちっちゃくて、かわいいけれど何を言っているのかよく分からないキャラはすでにおなじみ。本作は『怪盗グルー』シリーズのスピンオフで、『ミニオンズ』(2015年)、『ミニオンズ フィーバー』(2022年)に続くシリーズ第3作。本家『怪盗グルー』にも負けない人気を誇り、本作も大ヒット中だ。

物語は、原始時代から生きているミニオンズが、多くの怪物や怪獣、大悪人、独裁者などの手下となっては、なぜか彼らを破滅させてきた歴史が語られるところから始まる。そして1920年代のアメリカにたどり着き、悪の主人を探すうちにハリウッドの撮影現場へ迷い込み、自分たちも映画に出演することになっていく。

ミニオンズの出演作は大ヒットを重ね、彼らは映画スターとして大成功。しかし、音声付き映画、いわゆるトーキーの出現によって一転、干されてしまう。彼らの話す言葉が分からないからだ。そこで一計を案じたミニオンズの一人ジェームズ(ピエール・コフィン、監督・脚本も担当)は、仲間のヘンリーとエドを誘って、怪物が登場する映画を作ろうと動き出すのだが……。

本作の舞台は1920年代のハリウッド。当時人気の高かったバスター・キートンやチャップリンの映画を思わせるイメージが多用され、古典映画『カサブランカ』で知られる「As Time Goes By」も流れるなど、映画好きへのサービスも忘れない。子ども向けのアニメではあるが、最大公約数的に誰にでも届く視覚的ギャグと広く親しまれた音楽を取り入れて分かりやすく作る。それが本シリーズの特徴だ。やや臆面もなくという気がしないでもないが、世代を超えた観客への気配りが世界的なヒットにつながっているのは確かだろう。驚いたことに2015年の『ミニオンズ』は、公開当時、アニメ映画として歴代一の興行成績を上げていた『アナと雪の女王』に次ぐ世界的大ヒット作となったのだ。だからこそだろう、本作ではアリソン・ジャネイ、ジェフ・ブリッジス、クリストファー・ワルツ、ジェシー・アイゼンバーグら豪華な俳優陣が声の出演をしている。

無声映画で大成功したミニオンズが、言葉が意味不明でトーキーではお払い箱になるという設定だが、本シリーズの大ヒットの理由はむしろその逆。何を言っているか分からないからこそ、世界中の観客に届いたのだろう。シリーズを見直してみると、結婚し家庭的になってしまったグルーよりも、悪人大好きで正体不明なミニオンズの方が圧倒的に面白い。筆者が何度も声を上げて笑えたのは久しぶりで、夏のファミリー向けアニメとしてぜひ薦めたい。

Minions & Monsters
(邦題『ミニオンズ&モンスターズ』)

写真クレジット:Universal Pictures
上映時間:1時間30分
シアトル周辺ではシネコンなどで、標準、3D、IMAX等にて上映中。

 

Disclosure Day (邦題『ディスクロージャー・デイ』) 〜注目の最新ムービー

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地球外生命体の存在を問い続ける


Disclosure Day /(邦題『ディスクロージャー・デイ』)

スティーブン・スピルバーグ監督の最新作は地球外生命体を題材にしたSF大作。題名も「情報開示の日」と実に分かりやすい。スピルバーグ監督というとまず思い浮かぶのは、「インディ・ジョーンズ」「ジュラシック・パーク」「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」など人それぞれだろう。どれも大ヒットした作品ばかりだが、筆者がまず思い浮かべるのは1977年の「未知との遭遇」だ。暗闇から宇宙船が登場する驚異的な映像に目を見張り、宇宙人との交信というテーマに素直に感動して、その後も何度も見返している。本作はその続編を思わせる内容で、約半世紀を経てあの時の思いがよみがえってきた。

時は現在。世界には紛争が絶えず、第三次世界大戦への恐怖が渦巻いている。そんな頃、政府の秘密機関ウォーデックスで働くサイバーセキュリティー専門家のダニエル(ジョシュ・オコナー)が、機密ファイルを盗み出した。同機関は地球外生命体との接触の記録や歴史を所有し、その技術の仕組みを解析して再現するリバースエンジニアリングによって、人間に超人的な能力をもたらす装置を秘密裏に開発していたのだ。真実を白日の下にさらそうとするダニエルは、CEOのスキャンロン(コリン・ファース)によって外国のスパイと断定され、武装集団から追われていた。

同じ頃、テレビ局の気象予報士マーガレット(エミリー・ブラント)の身にも不思議なことが起きていた。生放送中に奇妙な音を発して倒れてしまうのだ。この様子をテレビで見ていたスキャンロンは、彼女が地球外生命体の言葉を話していると断定し、捕えようと部下を差し向ける。

ダニエルとマーガレットは執拗な追跡の中、ついに出会うことに。ダニエルはマーガレットの発した音の中に数式を見たという。一体二人の身に何が起きたのか。当の二人にも皆目分からなかった。

物語の中盤ではスリリングな追跡劇が展開する。だが、ウォーデックスの元オペレーターで、現在は地下で活動する内部告発者グループのリーダー、ヒューゴ(コールマン・ドミンゴ)らの登場で、次第に二人をめぐる謎が解けていく。

今年79歳になるスピルバーグ監督の宇宙と地球外生命体へのオプティミスティックな思いは少しも色あせていなかった。「未知との遭遇」を初見した時に感じた、宇宙や未知との出会いへの期待感があの映画のヒットにつながったのだと思う。今思えば、ナイーブに未来への期待が持てる時代だったのかもしれない。しかし今、このようなメッセージが観客の胸に届くのだろうか。嘘と不信、対立とヘイトが渦巻く今の世界に響くのだろうか。

いや、そんな時代だからこそなのだろう。この映画が描くのは対立でも敵対でもなく、融和と親和への可能性だ。そのメッセージを素直に受けとめたい。

Disclosure Day /
(邦題『ディスクロージャー・デイ』)

写真クレジット:Universal Pictures
上映時間:2時間25分
シアトル周辺では標準、IMAX、70mm、RPX、XDなどで上映中。

 

The Devil Wears Prada 2 /邦題『プラダを着た悪魔2』〜注目の最新ムービー

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またしてもストリープに魅了され


The Devil Wears Prada 2 /
邦題『プラダを着た悪魔2』

メリル・ストリープの快演で注目を浴び大ヒットした前作から20年。待ちに待った第2弾の公開だ。しかも公開直後から大ヒット中。ホラーでもアクションでもアニメでもない映画が、ここまで話題を集めるのは久しぶりではないだろうか。ミランダやアンディ、ナイジェルといったおなじみの顔ぶれがそろい、無愛想、見下し、裏切りが渦巻くファッション界をユーモアたっぷりに描いていく。

舞台は、前作から20年後。ミランダ・プリーストリー(メリル・ストリープ)が今も編集長を務めるファッション雑誌『ランウェイ』が危機に。ファストファッションを称賛するレビュー記事を掲載したことで大炎上した上、購読者数も下降し続けていたのだ。そこに現れたのは元アシスタントのアンディ(アン・ハサウェイ)。ミランダの元を離れた後、報道ジャーナリストとして世界を駆け回り、成功を収めていた彼女が、危機を救うために復帰する。ところが、ミランダは彼女を「誰?」と完全無視。ミランダの右腕ナイジェル(スタンリー・トゥッチ)の助けを得ながら、『ランウェイ』のイメージアップを図る企画を出し、記事を書いていく。

前作で意地悪な先輩だったエミリー(エミリー・ブラント)も出世して再登場。後半のドラマに大きく絡んでくる。

前作はジャーナリスト志望の新卒インテリ女子が、なじみのないファッション誌の世界でしごかれながら、自分なりの道を見つけていくサクセスストーリーだった。主人公はアンディのはずだったが、完璧主義のミランダを演じたストリープの冷酷無比なボスぶりに観客は釘付けに。ミランダのモデルとされる「ヴォーグ」の名物編集長アナ・ウィンターとは何者なのか。そんな好奇心もあってヒットにつながった気がする。

さて、本作のミランダは旧来メディアの衰退の中で、メディア界での高い地位を保とうと苦戦している。アンディは完全に脇で彼女を助ける役回りなのだが、演技が大げさで気になった。やはり見ていて心地よいのはストリープ。美しい衣装をまとい76歳とは思えない見事な姿勢と颯爽とした歩き方でまたしても観る者を魅了してくれた。また、ベテラン俳優トゥッチの渋く抑えた演技も絶妙で、浮ついて見えるハサウェイを脇からぐっと支え、作品に安定感をもたらしていた。この二人が登場すると画面が引き締まる感覚があるのだ。

本作は前作にあったウィンターへの興味から離れ、現在進行中の印刷メディアの衰退を背景としている。とはいえ、娯楽映画へのないものねだりと承知しつつも、物語にはやはりうそっぽさが残る。ハサウェイが、報道畑で長年実績を積んだジャーナリストに見えないのだ。彼女は、SNSやAIの台頭によって多くの報道メディアが消えていく現状を嘆き、真の報道が失われる危機を訴えるのだが、いくら力んでも説得力に欠け、その違和感はエンディングまで続いた。それでも、ミランダがなぜ仕事を辞めないのかについて語る短いシーンは、働く女性なら誰の心にも刺さる言葉ではないだろうか。納得とうなったのは、このシーンのみだった。

The Devil Wears Prada 2 /
邦題『プラダを着た悪魔2』

写真クレジット:20世紀スタジオ
上映時間:1時間59分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

 

 

The Drama 〜注目の最新ムービー

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幸せな結婚に投じられた一石


The Drama

今年、大作『オデュッセイア』など話題作への出演が続くゼンデイヤとロバート・パティンソンが主演するロマンチック・ダーク・コメディー。結婚を間近に控え、幸せの絶頂にいた二人の行く末を揺るがす「ドラマ」が描かれていく。

舞台はボストン。大英博物館館長のチャーリー・トンプソン(パティンソン)は、カフェで見かけたエマ・ハーウッド(ゼンデイヤ)に一目惚れ、二人はデートを始める。2年後、二人は婚約し、結婚を目前に控えていた。そんなある晩、花嫁介添人のレイチェル(アラナ・ハイム)と花婿介添人のマイク(ママドゥ・アティエ)にある相談をしているうちに、4人はそれぞれ自分がした最も悪いことを告白する流れになる。マイクはメキシコで犬に襲われた際、元カノを人間の盾として使ったこと。レイチェルは「頭の鈍い」近所の少年を廃虚のキャンピングカーのクローゼットに一晩閉じ込めたこと。チャーリーはクラスメートを激しくネットいじめ、その少年の家族が引っ越す一因をつくったこと。そんな黒歴史が次々と明かされる。ところが最後のエマの告白は別格で、皆に強い衝撃を与える。とりわけレイチェルはショックを受けてエマを非難し、チャーリーもエマを擁護しつつ、彼女のことをどれほど知っているだろうかという疑問を抱き始める。結婚式は目前。準備はぎくしゃくした中で進めれ、チャーリーはエマへの不信感から徐々に精神的に追い詰められていく。

ここから先は、弱り果てていくパティンソンの独壇場だ。題名「ドラマ」の持つ英語的な意味合いもにじみ、大げさな反応が際立つ一方で、シリアスなのにどこか笑えるエピソードが続く。パティンソンの演技は本作の見どころの一つだ。『トワイライト』のティーン・アイドルのイメージを脱し、近年は着実に役柄の幅を広げ、去年の『ミッキー17』でも演技派として実力を見せつけていた。

脚本・監督は風変わりな秀作『ドリーム・シナリオ』を手掛けたノルウェー出身のクリストファー・ボルグリ。プロデューサーには、特異な映画作りで知られるアリ・アスターやラース・クヌッセンら曲者が並ぶ。幸せな結婚という美しい水面に一石が投じられ、その波紋の広がりを見つめるような作風は面白いが、筆者自身はさほどの衝撃を受けず、ややから騒ぎのような印象を持った。それはエマの告白をどう受け止めるかという、観客の捉え方によるのかもしれない。

エマの告白はある計画についてのものであり、実行されたわけではない。にもかかわらず、結婚式に出席しないとまで言い出すレイチェルの怒りはやや過剰にも映る。むしろ、彼女自身の黒歴史のほうが酷いのではないか、という思いも残った。観客一人一人によって受け止め方が異なる作品なのだろう。観終わったあとに感想を語り合うには最適な映画と言えるかもしれない。

The Drama

写真クレジット:A24
上映時間:1時間46分 シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

Dracula: A Love Tale /邦題『ドラキュラ』〜注目の最新ムービー

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妻の生まれ変わりを探し続けるゴシックロマンス


Dracula: A Love Tale
(邦題『ドラキュラ』)

ドラキュラものは根強い人気のあるジャンルで、映画やテレビドラマなどで数多く描かれてきた。映画好きの方なら、一作ぐらい観たことがあるかもしれない。本作は、19世紀後半にブラム・ストーカーが書いた小説『吸血鬼ドラキュラ』を下地とし、フランスのリュック・ベッソン(『レオン』『LUCY/ルーシー』で知られる)が脚本・監督をした作品だ。ストーカー版の『ドラキュラ』というと、1992年に公開されたフランシス・フォード・コッポラ監督のアメリカ映画『ドラキュラ』(原題:Bram Stoker’s Dracula)を思い出す。当然といえば当然だが、鑑賞中はついついコッポラ版との比較になってしまった。果たして、何がどう違って、どちらが面白かったのか?

15世紀、ワラキア公国のヴラド・ツェペシュ王子(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、オスマン帝国との戦いで最愛の妻エリザベータ(ゾーイ・ブルー)を死なせてしまう。悲嘆に暮れた王子は神を捨て、天国を呪い、永遠の命を得てドラキュラとなり、妻の生まれ変わりを探し続ける。そして400年後の1889年、ようやく妻とそっくりなミーナを見つける。

ミーナは、ドラキュラ伯爵の城を訪ねてきたパリの弁護士ジョナサン・ハーカーの婚約者であった。それを知った伯爵はハーカーを城に幽閉し、ミーナを探しにパリへ向かう。同じ頃、パリでは司祭(クリストフ・ヴァルツ)が、ハーカーの友人の婚約者マリアと対峙していた。彼女は伯爵によって吸血鬼となっており、司祭から逃れて、友人であるミーナの元へ伯爵を案内する。再会した二人。初めは驚くミーナだったが、次第に記憶を取り戻し、ついには伯爵との永遠の愛を誓うのだった。

大筋では物語は同じで、登場人物もほぼ変わらない。コッポラ版はかなり原作に忠実で、物語の中心はハーカー、ミーナ、伯爵の三人それぞれの思いが描かれていく。一方、本作は妻の死に打ちひしがれた王子が、数世紀にわたって一人さまようゴシックロマンスとして描かれており、そこに大きな違いがあった。この設定で伯爵を演じたジョーンズは繊細さが際立ち適役だったと思うが、コッポラ版の伯爵は名優ゲーリー・オールドマン。彼の強烈な存在感と怪演と比較するのは、やや気の毒にも感じられた。違う映画なのだから比較自体に意味がないのかもしれないが、コッポラ版が重厚な大豪邸だとすると、本作はどうしても見劣りしたことは否めない。アクションに定評のあるベッソン監督だが、終盤のアクションシーンも安直に撮られた印象。しかも、400歳生きた後のドラキュラ伯爵を演じる際のオールドマンとジョーンズの髪型が似ている点も気になった。独自の解釈で描くのであれば、こうしたディテールも独自のスタイルで描くべきではなかったか。正直なところ、褒める点を見つけるのが難しかったが、コッポラ版とは切り離し、純粋にロマンスとして鑑賞すれば楽しめるだろう。

Dracula: A Love Tale
(邦題『ドラキュラ』)

 

写真クレジット:Vertical Entertainment
上映時間:2時間9分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

 

 

Zootopia 2/(邦題『ズートピア2』)

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大人も楽しめる大ヒットアニメ


Zootopia 2

(邦題『ズートピア2』)

2016年に大ヒットしたディズニーアニメ『ズートピア』の第2作だ。前作から9年とは随分と時間がかかった感があるが、新作も感謝祭の週末に公開され大ヒットを続けている。ウサギとキツネの刑事が事件を解決していくバディものの設定に、大人も十分楽しめる笑いの要素を詰めこんだ脚本で、コメディー映画としても大成功。何度も笑わせてもらった。

ズートピアとは大小さまざまな動物たちが仲良く暮らす街のこと。ただし、爬虫はちゅう類だけが見当たらない。その理由を明かしていくのが本作の筋だてだ。

前作で事件を解決して表彰を受けたウサギのジュディ・ホップス(ジニファー・グッドウィン)と、元詐欺師でその後警官になったキツネのニック・ワイルド(ジェイソン・ベイトマン)。二人は密輸組織の捜査でズートピアにいるはずのないヘビの抜け殻を見つけ、ジュディはヘビが街に潜んでいるのではと疑う。気にするなというニックだが、二人は正装してズートピア創設者であるオオヤマネコ一族が主催するズーテニアル・ガラに出席。そこでヘビのゲイリー・デ・スネーク(キー・ホイ・クァン)を見つける。ゲイリーは創設者一族が所有する彼の曽祖母が書いた天候壁の作成を記した古い日記を盗みにきたのだ。ゲイリーを追うジュディとニックだが、ゲイリーはヘビは悪い動物ではなく、日記には家族を助けるために必要な証拠が書かれているのだと主張する。

さて、ここから物語は急展開。日記を奪ったり奪い返したり、ゲイリーが拉致されたかと思うと、今度はジュディらが逮捕されたり。脱走と追跡を繰り返す中で、彼女らはさまざまな爬虫類たちと出会い、ズートピア創立の謎に迫っていく。

スピード感あふれる連続アクションの中、次々と登場する動物たちがユニークで楽しい。前作でおなじみの怖い上司、水牛のボゴ警察署長に始まり、小ネズミの犯罪組織ボスやDMV(哺乳類車両局)で働くナマケモノの再登場に加え、セイウチの船長、ビーバーの陰謀論ポッドキャスターや、爬虫類の重鎮であるグリーンバシリスクなど、個性的なキャラたちがジュディらを真実へと導いていく。そして彼らを阻むのが、絶大な力を握るオオヤマネコの実業家ミルトン・リンクスリーだ。前作では女子で小柄なジュディが警察署内でセクハラを受ける描写が多く、よくできたフェニミスト・アニメという印象を持ったが、本作では権力者リンクスリーが歴史を書き換え、爬虫類を排斥してきた過去が描かれ、米国の歴史を反映しているように感じられた。

とはいえ本作の狙いは、正義感が強く前向きなジュディと何事にも疑い深いニックが、署長命令でパートナーシップセラピーに参加する笑える導入部から、事件解決の過程で堅い絆を持つパートナーとして成長する姿を描くことにあったように思う。まったく正反対の二人が築き上げた信頼感は、見ていて心地よかった。

そこで最後に一言。エンドロールが始まっても席を立たず、最後まで観てください。お楽しみあり。

Zootopia 2

(邦題『ズートピア2』)

 

写真クレジット:Walt Disney Studios Motion Pictures
上映時間:1時間48分
シアトル周辺ではシネコンなどで、標準、3D、IMAX等にて上映中。

 

 

 

Springsteen: Deliver Me from Nowhere (邦題『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』)〜注目の最新ムービー

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偉大なシンガーの原風景に触れる


Springsteen: Deliver Me from Nowhere /
邦題『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』

米国で1970年代から音楽活動を開始し、2022年にもアルバムを発表するなど、今もなお根強い人気を誇る「The Boss」ことブルース・スプリングスティーンの伝記映画。50年以上にわたり音楽活動を続けるシンガーソングライターで、労働者の生活をリアルに映した歌詞と力強いライブパフォーマンスで知られる。本作は、そんな長い経歴を持つ彼が、1982年に殺人犯の心境を歌う異色のアルバム『ネブラスカ』を制作した時期を描いている。アメリカン・ロックのひな形を作ったといわれる偉大なるシンガーの伝記としては派手さはないが、彼の人間性に深く迫る好作品だった。

時は1981年。大成功を収めたツアーを終えたブルース(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、良き理解者でプロデューサーのジョン・ランドー(ジェレミー・ストロング)の勧めで、故郷ニュージャージー州の借家に落ち着く。当地のクラブで地元バンドと演奏していた彼は、昔の同級生の妹フェイ(オデッサ・ヤング)と出会い、彼女と付き合い始める。

同じ頃、レコード会社は次のアルバムを期待。ブルースはスタジオ費用を抑えるため、自宅でデモテープの録音を始める。読書をしたり映画を観たりしながら創作の方向性を模索する日々。テレビで放映されていたテレンス・マリック監督の映画『地獄の逃避行』に引き込まれ、実際の殺人犯の逃亡事件を題材に作詞を始める。そして、粗末な録音機材を使ってデモを録りためていくのだった。

こうして生まれたのがアルバム『ネブラスカ』だ。ブルースは「デモ録音そのものを採用する」「ジャケットに自分の顔は載せない」「宣伝もツアーも行わない」と主張し、レコード会社の反発を招く。それでも音源のノイズ問題を克服し、ついにリリースされる。殺人者の独白を一人称で歌うダークな作品である。制作の過程で彼はアルコールに溺れ母や彼に暴力を振るった父(スティーヴン・グレアム)との関係を何度も思い返す。それは、自身の原点、原風景に立ち返る時間でもあった。

終盤にロックスターの伝記にありがちな酒や麻薬、家族との離反といった悲劇的なドラマはない。『ネブラスカ』が高く評価され、続くアルバム『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』でブルースが世界的なスーパースターへ上りつめたことなど、誰もが知っている事実が描かれる。で

きすぎた話のようにも感じるが、それがブルースという人間なのだろう。主演のホワイトが好演している。ステージで見せるエネルギッシュなパフォーマンスの一方で、過去を見つめ静かに内省する姿を巧みに演じ分けていて深い説得力があった。また、どんな時もブルースの理解者、サポーターであろうとするプロデューサーを演じたストロングの演技も秀逸。特に心に残ったのは、怒りを抱え込む父を演じたグレアムの存在感だった。

本作を通してブルースがうつ病の治療を受けていたことを知り、驚くと同時に納得した。彼がなぜ、成功と富を得た後も働く人々の心をつかみ続けているか。それは、親から暴力を受けて育った人間には避けて通れない厳しい道のりをしっかりと生きてきたから、と思わずにはいられない。

Springsteen: Deliver Me from Nowhere
(邦題『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』)

 

 

写真クレジット:20th Century Studios
上映時間:2時間
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

 

 

The Smashing Machine〜注目の最新ムービー

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ドウェイン・ジョンソンの熱演が見もの


The Smashing Machine

総合格闘技の先駆者マーク・カーを主人公とした伝記スポーツドラマ。カー役をレスラー出身のドウェイン・ジョンソンが演じている。

本作の元になったのは、2002年のドキュメンタリー『スマッシング・マシン:エクストリーム・ファイター、マーク・カーの生涯と時代』。スマッシング・マシンと呼ばれたカーの目を背けたくなるほど激烈な闘いぶりが記録されている。だが本作はむしろ、カーという格闘技家の私生活や負傷の痛み、ガールフレンドとの争いの絶えない関係、ファイター仲間との友情など、人間的な側面に焦点を当てている。そんなカーを、これまでスーパーヒーローや漫画キャラなどを演じてきたアクションスター、ジョンソンが熱く演じている。9月に開催されたベネチア国際映画祭のワールドプレミアで上映され、銀獅子賞ぎんじししょうを受賞した。ベニー・サフディが脚本、監督、共同制作、編集を手掛けた。

物語はすでに総合格闘技家として活躍していたカーの1990年代後半から2000年までの短い期間を描く。当時、カーは日本の総合格闘技団体PRIDEでの試合に多く参戦していたが、私生活ではガールフレンドのドーン(エミリー・ブラント)とささいなことで衝突を繰り返していた。彼の試合や健康を気に掛けるドーンだが、同時に「子どもも欲しい」「自分にも関心を向けてほしい」という不満を抱えていたのだ。そんなトラブルを抱えつつ、彼は日本の格闘技組織とのミーティングでファイトマネーの低さを訴えるが、日本側から薬物使用を指摘されてしまう。彼はその頃、痛みを抑えるために危険な薬物を使用していたのだ。

その後、カーの親友でコーチでもあったマーク・コールマン(ライアン・ベイダー)の勧めでリハビリ施設に入院。退院後に再びドーンと言い争い、彼女は彼の元を去る。薬物から更生したカーは新たにバス・ルッテン(本人)をコーチとし、連戦連勝を重ねて全盛期を迎えていくのだが……。

物語は彼がドーンと別れたりよりを戻したりを繰り返しながら、戦歴を追っていく。大怪我で入院する場面もあるが、戦友ともいえるコールマンの友情が彼を支える様子や、当時全盛だったPRIDEの試合でエンセン井上(石井さとる)や藤田和之(ヨコ・ハマムラ)ら日本人選手と闘うシーンも描かれる。大沢たかおなどもカメオ出演している。

筆者は総合格闘技オンチだが、激烈な闘いをする巨人、超人的な選手たちの舞台裏が丁寧に描かれていて興味深かった。コールマンとのあつい友情や、選手を気遣うルッテンの誠実な姿も印象深い。強さと弱さを併せ持つファイターたち、ジョンソンはまさにはまり役で、演技派として新境地を切り開いた感があった。残念だったのは、映画『オッペンハイマー』で妻役を怪演していたブラントが、ただ感情を爆発させる面倒なガールフレンド的存在として描かれていたことだ。ブラントならもっと複雑な女性の不満を表現できたのではないかと思う。

本人が登場する最後のシーンはファンサービスだろうか。映画の終わり方としては疑問が残った。

The Smashing Machine

 

 

写真クレジット: A24
上映時間:2時間3分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中

 

 

 

 

Hamilton (邦題『ハミルトン』)〜注目の最新ムービー

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大ヒットミュージカルの映画版、劇場上映始まる


Hamilton (邦題『ハミルトン』)

9月に入り、2本の音楽映画の再上映が始まった。

一つ目は2005年に日本で大ヒットした青春映画『リンダ リンダ リンダ』。学校祭で女子高校生のバンドが、伝説的パンク・ロックバンド「ザ・ブルーハーツ」のカバーを演奏するまでを描いた作品。少女たちがバンド結成に奮闘しながら、それぞれの思いを抱いてひたむきに練習を重ねる姿がすがすがしい。当時29歳だった山下敦弘監督の抑えた演出と、日本映画初出演となったぺ・ドゥナの肩の力が抜けた好演も光る、女子高校生映画の金字塔。公開20周年を記念して4Kデジタルリマスター版が制作され、米国各地で上映が始まった。決して派手とは言えない本作が20年を経ても米国で根強い人気を得ているのはうれしい限りだ。残念ながら今月のSIFFフィルム・センターでの上映は終わっているが、またの機会を期待したい。

@ The Val, Viz pictures
@ The Val, Viz pictures

2作目はブロードウェイでメガヒットしたミュージカル「ハミルトン」の映画版。独立戦争でワシントンの副官だったアレクサンダー・ハミルトンを主人公に、憲法制定と連邦政府の樹立を巡る波乱に満ちた生涯を、政治的・個人的事件を交えて描いた歴史ミュージカル。音楽的にはヒップホップ、ラップ、ジャズ、R&B などと伝統的なブロードウェイの曲をブレンドし、親しみやすさを生んで大成功した。さらに、白人だった建国の父たちの多くを有色人種の俳優が演じることで、建国の歴史に現代的な解釈を加えたと評価され、大ヒットにつながった。本作の脚本・作詞・作曲を一手に担ったリン=マニュエル・ミランダの卓抜した才能がブロードウエイの常識を変えたとされ、絶賛の声が絶えない作品。オバマ元大統領が何度も鑑賞し賞賛したことでも知られている。

2015年の初演以来ロングランを続け、2020年にはディズニープラスで映画版が配信され、今回初めて劇場での映画鑑賞が可能になった。シアトルではこの春、新キャストによる舞台上演があったばかりだが、映画版は2016年に上演されたオリジナルキャスト版でミランダ自身が主演を務めている。

斬新なユニークさと力強さを感じさせるミュージカルだが、英語を母国語としない観客が予備知識なしに観ると、ラップの速さなどに戸惑うかもしれない。歴史的背景や人物相関などを少し仕入れていくとさらに楽しめるだろう。ふと仮に「伊藤博文ミュージカル」のラップ版を外国人が予備知識なしに観たら楽しめるかしら? と思ってしまった。

なお、日本で配信されたディズニープラスには日本語字幕があるという。

 

 

Hamilton (邦題
『ハミルトン』)

上映時間:2時間40分。シアトルはシネコンなどで上映中。
写真クレジット:Walt Disney Studios Motion Pictures

 

 

 

 

The Naked Gun(邦題『裸の銃を持つ男』)〜注目の最新ムービー

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笑わない俳優リーアム・ニーソンが適役


The Naked Gun/邦題『裸の銃を持つ男』

最近はヒット作のリブートが続いている。本作も1988年に公開され、計3作が制作された同名の人気犯罪アクション・コメディー・シリーズのリブート。なんと31年ぶりの新作で、オリジナルを楽しんだ世代は50代プラスということになるだろうか。近年、コアなコメディー映画の劇場公開は減少傾向にあり、新作であっても即ネット配信されることが多い。そんな中で、本作はあえて強気の劇場公開。大丈夫か? 筆者が心配しても仕方がないが、公開時の全米興行成績は第3位と、まずまずのスタートを切ったようだ。

主人公は、かつて向こう見ずで知られたロス市警の警部補フランク・ドレビン(レスリー・ニールセン)の息子、フランク・ドレビン・ジュニア警部補(リーアム・ニーソン)。彼は父親譲りの無鉄砲さで、少女の扮装ふんそうをして銀行強盗の現場に入り、一人で強盗団を全員片付けるという神業を見せる。ところが、主犯の狙いは、貸金庫に保管されている「P.L.O.T.デバイス」と呼ばれる装置を盗むことにあった。

このデバイスは脳に働きかけて人を凶暴化させるもので、大富豪リチャード・ケイン(ダニー・ヒューストン)ら億万長者たちが世界支配をもくろみ利用しようとしていたのだった。このデバイスを悪の手から奪還するというのが本作のメインプロット。そこに、ケインに謀殺されたエンジニア、サイモンの妹ベス(パメラ・アンダーソン)が絡んでいき、大真面目なフランクとのロマンスも描かれる。もとよりシリアスで渋い役柄が多いニーソンは、全編ニタリとも笑わないドレビン役にピッタリ。その存在感が作品の成功につながっている。

そもそも本シリーズは、1982年のテレビシリーズ『フライング・コップ 知能指数0分署(原題:Police Squad!)』という今ならまず使えない名前の刑事コメディーの映画化から始まった。典型的な刑事もののパロディーで、かなりのスピードで打ち出されるおふざけやギャグ、ジョーク、身体的に絶対あり得ないアクションなどが特徴。その伝統はリブート版にもしっかりと受け継がれている。この作風を生み出したのは、映画製作チーム「ZAZ」のデヴィッド&ジェリー・ザッカー兄弟と幼なじみのジム・エイブラハムズの3人。2000年代には『絶叫計画(原題:Scary Movie)』シリーズなど、数々のコメディー映画を手掛けた。本作を観ていると80年代、90年代コメディーの奇抜なトレンドがぎっしり詰まっていて懐かしい。どちらかというとおじさんギャグが多いように感じた。

本作ではZAZは関わっておらず、製作はアニメ『ファミリー・ガイ』でヒットを飛ばしたセス・マクファーレン、監督は『サタデー・ナイト・ライブ』の制作に携わっていたアキヴァ・シェイファーが務めている。電気自動車が暴走したり、大富豪が世界制覇をたくらんだり、刑事たちがやたらにコーヒーばかり飲んでいたりと、今風のギャグも散りばめられ、笑わせてくれた。

The Naked Gun(邦題『裸の銃を持つ男』)

写真クレジット:Paramount Pictures上映時間:1時間25分シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

Jurassic World: Rebirth (邦題『ジュラシック・ワールド/復活の大地』)〜注目の最新ムービー

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ちょっと物足りない娯楽大作


Jurassic World: Rebirth
(邦題『ジュラシック・ワールド/復活の大地』)

32年前に誕生し一大ブームを巻き起こした『ジュラシック・パーク』(1993)から続くシリーズ第7作目となる最新作。独立記念日を祝う週末を狙った家族向けの娯楽大作で、予想を超えるヒットとなった。監督は2014年の『GODZILLA ゴジラ』を成功に導いたイギリス人のギャレス・エドワーズ。舞台は2022年公開の6作目『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』のその後の世界。人々の恐竜への関心はすでに薄れ、恐竜たちは隔離された熱帯地域でのみ生息している。そんな中、製薬会社の営業マーティン・クレブス(ルパート・フレンド)が、秘密工作を専門とするゾーラ・ベネット(スカーレット・ヨハンソン)に接触する。目的は、恐竜のDNAサンプルの入手。サンプルを用いて不治の病を治すワクチンを開発できるとし、大金を提示して彼女を説得する。ベネットは、古生物学者のヘンリー・ルーミス博士(ジョナサン・ベイリー)、実行部隊リーダーのダンカン・キンケイド(マハーシャラ・アリ)らを招集し、立ち入り禁止の島へ向かう。航海中に恐竜の襲撃を受けつつも、かろうじて最初のサンプルを入手。さらに道中で救出した家族も仲間に加わり、恐竜に追われつつ命からがら上陸を果たす。犠牲者を出しながらも、彼らの前途多難なミッションが幕を開けるのだった。

登場人物は全て新キャラクター。恐竜と人間との対峙を描くシンプルな構成で、第1作目を彷彿とさせる。出演者が多すぎた前作の反省から、原点回帰を図ったのかもしれない。本シリーズの特徴は、恐竜で金儲けを目論む人物(悪役)と、恐竜を守ろうとする学者ら(正義)が対立するというパターン。だが、本作は製薬会社とその利害を共にする工作員たちが主人公側として描かれる。人間が初めて恐竜のクローンを作って30年以上が経ち、恐竜はもはや最強で怖い存在だが殺すのはかわいそうという善悪図式ではなく、共に生きていく道を探ろうという世界観にシフトした物語になっている。

とはいえ、物語にはやはり悪玉は必要で、当然ながら強欲で冷血な製薬会社のクレブスがサンプルに固執し混乱を引き起こす。一方、屈強な男たちのリーダーを務めるベネットを演じるヨハンソンは小柄だが自信に満ち、説得力ある演技とアクションで作品を牽引していた。

終盤には、突然変異で生まれたディストートゥス・レックスが登場。インジェン社のクローン実験の失敗により誕生した変異種で、島に残された秘密研究施設の崩壊後も生き延びていた。このシーンでは破壊と攻撃の連続が派手に描かれるが、この時点で観客はすでに恐竜アクションを堪能しきっていた感もある。むしろ、問うべきは、なぜこのような事態に至ったのか? 人間が命をもてあそび放置した結果としての企業の責任や人間の傲慢さをより明確に描くべきではなかったか。

家族連れで満席となったシアターは、これぞ夏休みの娯楽と思わせてくれるにぎわいだった。しかし、多くの子どもたちが見る娯楽作品だからこそ、伝えるべきメッセージを際立たせてほしかった。それが見えないアクションはどこか虚しく、物足りなさが残る一本となった。

Jurassic World: Rebirth
(邦題『ジュラシック・ワールド/復活の大地』)

写真クレジット: Universal Pictures
上映時間:2時間13分
シアトル周辺ではシネコンなどで標準、3D、3D PX RPX、PX RPX、ScreenX等にて上映中。

 

From the World of John Wick: Ballerina(邦題『バレリーナ:The World of John Wick 』)〜注目の最新ムービー

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シリーズの中でも遜色のない出来栄え


From the World of John Wick: Ballerina/
(邦題『バレリーナ:The World of John Wick 』)

キアヌ・リーブス主演の大ヒットアクション映画「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフ。本作はシリーズ第3作と第4作の間を描いている。第3作『ジョン・ウィック:パラベラム』にチラッと登場したバレリーナを主人公に据え、彼女の視点から物語が展開される。リーブスに代わって、彼女のアクションが全編を牽引する内容となっているが、ハイレベルなアクションが見どころのシリーズの中でも遜色のない出来栄えでファンにも好評だ。

カルトに母を殺され、父とともに逃亡した少女イブだが、目の前で追っ手に父を殺される。その後、彼女はニューヨーク・コンチネンタルホテルの支配人ウィンストン(イアン・マクシェーン)に助けられ、主席連合の傘下にある組織「ルスカ・ロマ」のディレクター(アンジェリカ・ヒューストン)のもとに預けられる。そこでバレリーナでありながら、暗殺者としてのスキルを身に付け成長したイブ(アナ・デ・アルマス)は、再びカルトに命を狙われるようになる。彼女はディレクターに復讐を願い出るが、カルトとの間には休戦協定があるため、その願いは退けられる。

そこでウィンストンに相談に行くと、プラハ・コンチネンタルホテルに滞在中のダニエル・パイン(ノーマン・リーダス)もまたカルトに狙われていることを知らされる。イブはカルトに迫る手がかりを求めてプラハに向かうのだった。

本作の舞台は、殺人カルトや暗殺集団が暗躍する極めて物騒な架空の世界。どこもかしこも暗殺者だらけで、全編の約6割は主人公が襲撃を受け、逆襲する戦闘シーンの連続だ。そんな世界で、華奢なデ・アルマスが緻密に振り付けられた格闘や銃撃シーンを、時にユーモラスに、時にキレ良く、次々と見せつけてくれる。超人的な役柄で、この役のためにかなり鍛えたはずだ。単に体が動けば良いというものではなく、バレリーナ訓練生だった時期から、体に傷を負い徐々に復讐に燃える暗殺者へと変貌していく姿には迫力があった。

映画『アンダーワールド』シリーズの監督や製作を担当したレン・ワイズマンが務めている。本シリーズのクールかつスタイリッシュな映像も健在で違和感がなかった。

リーブスはあまり多く登場しないが、イブにこの世界から抜け出すよう忠告しているシーンの語り口には、大ヒット作『マトリックス』のネオを彷彿とさせるものがあった。

リーブスにとってジョン・ウィックが当たり役となったのは彼のカリスマ性ゆえんだが、そのカリスマ性自体がネオという役から生まれたのではないだろうか。まったく違う映画なのに、ジョンにネオのイメージを重ねて見ている観客はわたしだけではないだろう。

From the World of John Wick: Ballerina /
(邦題『バレリーナ:The World of John Wick 』)

 

写真クレジット: Lionsgate
上映時間:2時間5分
シアトル周辺ではシネコンなどで標準、4DX、PX RPX、DBOX、DBOX XD、Dolby Cinema等にて上映中。

 

Thunderbolts*原題は公開後に『*The New Avengers』に改題/(邦題『サンダーボルツ*』)

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アクションでは解決できない混沌の時代


Thunderbolts*原題は公開後に『*The New Avengers』に改題/(邦題『サンダーボルツ*』)

スーパーヒーロー(以下SH)が大量に登場して大ヒットを重ねてきた『マーベル・シネマティック・ユニバース』(MCU)シリーズの最新作。2019年の『アベンジャーズ/エンドゲーム』の続編にあたり、主要メンバーだったアイアンマンやブラック・ウィドウが命を落とし、ほかのSHたちも引退や離脱により第一線から姿を消した後の世界を描く。『アベンジャーズ』だけで4作、MCUシリーズ全体ではなんと40作近く制作されている長大なシリーズ。正直全ては観ていないし、観た作品のストーリーをはっきり覚えているわけでもない。だが、落ちこぼれや悪役キャラが結集した本作は際立っており、これまで観たMCU作品の中でもダントツに面白かった。

物語は英雄的な死を遂げたブラック・ウィドウの義妹エレーナ(フローレンス・ピュー)が自殺を図ろうと高層ビルから飛び降りるシーンから始まる。CIA長官ヴァル(ジュリア・ルイス・ドレイファス)の指揮下で暗殺や破壊といった裏仕事を請け負わされていた彼女は、虚無と孤独に支配される日々に、SHとして表舞台で活動したいと申し出る。するとヴァルは最後の任務として、辺境にある研究施設に潜む工作員の排除を命じる。現地に赴いたエレーナはゴースト(ハナ・ジョン・カーメン)、2代目キャプテン・アメリカ、現U.S.エージェント(ワイアット・ラッセル)、そしてタスクマスター(オルガ・キュリレンコ)と遭遇。激しい交戦へと発展する。だがやがて、それぞれがヴァルによって別々の人物を抹殺するように指示されていたことが明らかになり、この任務がヴァルの罠であることに気づく。そこへ、病院服を着た青年ボブ(ルイス・プルマン)が現れ、彼女らは困惑しながらも彼とともに施設からの脱出を図るのだった。

敵は強大で明快だが、SH同士の個性が強すぎて折り合いに時間がかかる、というのが本シリーズのお家芸。本作でもエレーナらをヴァルの手先とみなして追撃するウィンター・ソルジャー(セバスチャン・スタン)が登場。さらに娘のエレーナかわいさに助っ人で現れる義父レッド・ガーディアン(デヴィッド・ハーバー)までがからんで、追いつ追われつのドタバタ風アクションが展開される。酒浸りの中年男レッド・ガーディアンが自分たちは悪と戦う「サンダーボルツ」だと宣言するのだが、エレーナは義父への不信感が強く、ほかのメンバーたちもそれぞれに屈託を抱えていて、チームとしてまったくまとまらない。ところが、ついに謎の青年ボブの正体があらわになると、否応もなくエレーナらは力を合わせざるえなくなっていく。

アクション重視の本シリーズ。エレーナを演じるフローレンス・ピューは冒頭のビルからの転落シーンをスタントなしで演じ、トム・クルーズばりの役者魂を見せている。しかも本作ではロシアで暗殺者として育てられたエレーナの内面が物語を牽引する。これはピューのボールドな魅力と優れた演技力に追うところが大きい。またエレーナが、悪玉ヴァルの手先となったボブの特殊能力を逆手にとり、彼の空疎な心に入り込み、自分自身を重ねていく過程は、敵か味方かでは割り切れない、アクションでは解決できない混沌の時代を鮮やかに描き出しており卓越していた。エンディグは勝利ともハッピーとも無縁。これもまた本シリーズの特徴だ。その上、今回は公開後に大きなサプライズ。タイトルを『サンダーボルツ*』から『*ザ・ニュー・アベンジャーズ』へと、「ニュー・アベンジャーズ」の誕生が正式に発表されたのだ。

Thunderbolts*原題は公開後に『*The New Avengers』に改題/(邦題『サンダーボルツ*』)

写真クレジット:Walt Disney Studios Motion Pictures
上映時間:2時間6分
シアトル周辺ではシネコンなどで、標準、3D、4DX、IMAX等にて上映中。

 

Mickey 17/(邦題『ミッキー17』)〜注目の最新ムービー

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笑えない近未来図


Mickey 17
(邦題『ミッキー17』)

 

 

6年前、『パラサイト』でアカデミー賞作品賞等を受賞した韓国のポン・ジュノ監督の最新作。近未来を舞台に政治と社会への痛烈な批評が込められたSFブラックコメディーである。エドワード・アシュトンの小説『ミッキー7』の原作に、監督が自ら脚本を手掛けたハリウッド映画だ。

時は2054年、何をやってもうまくいかない青年ミッキー(ロバート・パティンソン)は、借金取りから逃れるため、親友のティモ(スティーブン・ユァン)と共に惑星移住計画の宇宙船に乗り込む。ティモはパイロットに選ばれるが、ミッキーが与えられたのは「使い捨てワーカー」としての仕事だった。地球で禁止されているプリンター技術を使い、死んでも記憶を引き継ぎながら何度も再生される「消耗品」として契約を結び、危険な任務のたびに死と再生を繰り返すことになる。それでも、彼を愛してくれる警備員のナシャ(ナオミ・アッキー)とそれなりにハッピーに暮らしていた。ところが、ある日、危険な探索の事故で死亡したはずの17番目のミッキーが宇宙船に生還。しかし、そこにはすでにミッキー18がいた。2体のクローンを認めない宇宙船の規則の下、2人のミッキーの命をかけた戦いが始まる。

ここまではトントンと分かりやすく話は進んでいくが、2人のミッキーの存在に気づいた独裁的な船長ケネス・マーシャル(マーク・ラファロ)と彼を操る妻イルファ(トニ・コレット)が登場して、物語がやや混迷、迷走していく。どちらか一方を排除しようとケネスらは動き出し、ナシャは2人とも助けよう奮闘する。一方、宇宙船内で発見された惑星生物クリーパーの子どもに危害を加えたために、クリーパーの大群が宇宙船を取り囲む事態に。物語はSFアクション風に大きく展開していく。しかし、クローン問題という本作のコアである2人のミッキーの行方が後半でややかすんでしまい、から騒ぎ感が否めなかった。

それにしても体の部位を再生できる「ヒューマン・プリンター」が現実に登場しつつある今、この近未来図は決して笑えない。チューブから裸のミッキーが生まれ出てくるシーンは、まるでソーセージが押し出させるような異様さで強く記憶に刻まれた。危険な仕事はクローンまかせ、なんでもテックで解決する世界が本当に明るい未来なのか? ジュノ監督の問いかけはそこにあるのだろう。ただ、独裁的なケネスの暴走を見ていると、どこか現実の社会と重なるように感じられるのも事実だ。フィクションのはずの物語が、妙にリアルに思えてしまうのは、私だけではないだろう。

Mickey 17
(邦題『ミッキー17』)


写真クレジット:Warner Bros. Pictures
上映時間:2時間17分
シアトル周辺ではシネコンなどで標準、IMAX、4DX等にて上映中。

 

The Brutalist(邦題『ブルータリスト』)〜注目の最新ムービー

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米国の戦後史を俯瞰する重厚なドラマ


The Brutalist
(邦題『ブルータリスト』)

長い上映時間にひるんでいたが、意を決して映画館で本作を鑑賞できたのは幸せであった。久しぶりに映画を観ることの喜びを心から堪能できたと思う。

本作は、ハンガリー系ユダヤ人の建築家でホロコーストの生存者である主人公が米国に移住後に経験する希望と称賛、迫害と挫折など、波乱に満ちた人生を描いていく。

第1章は1947年から始まる。船でニューヨークに到着したラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)は、窓から自由の女神を見上げる。港にはいとこのアッティラ(アレッサンドロ・ニヴォラ)が迎えに来ていた。彼の家具店を手伝うラースローは、ある日、実業家ハリソン・リー・ヴァン・ビューレンの息子ハリー(ジョー・アルウィン)から屋敷の図書室改装の仕事を依頼される。建築家としての本領を発揮しシンプルで機能的な図書室を作るが、それを見た父ハリソン(ガイ・ピアース)は激怒。報酬も支払われず、ラースローはアッティラの家から追い出されホームレスに。しかし後になって、ハリソンはラースローが著名な建築家であると知り、壮大なプロジェクトを依頼する。

第2章では、ラースローがハリソンの敷地に住みながらプロジェクトを進める苦闘の日々が描かれる。その頃、ハリソンの弁護士の助けで長年欧州にとどまっていた妻のエルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪のジョーフィア(ラフィー・キャシディ)が米国に到着。エルジェーベトは飢餓による骨粗鬆症こつそそうしょう で車椅子生活を余儀なくされ、ジョーフィアは言葉を発せない状態だった。ラースローの仕事はトラブル続きで、ハリーから差別的に扱われたり、設計を勝手に変更されたり、誰にもビジョンを理解されず孤立感に苛まれる。やがてヘロイン中毒に陥るラースローをエルジェーベトが支え続ける。一方、理解あるパトロンを装っていたハリソンも、次第にその怪物性を露わにしていく。

本作の特徴は、建築家とパトロンの関係、家族の絆を軸に、ホロコースト生存者のトラウマ、移民の苦境、人種差別、創造性を抑圧する資本の論理、さらには己のビジョンを守る困難や、激痛と闘いながら夫を支える移民の妻の姿などが絡み合う重層的な構造にある。米国の戦後史を俯瞰ふかん する重厚なドラマは、まるで実在の人物を描いたかのようだ。脚本は監督でもあるブラディ・コーベットと彼のパートナー、モナ・ファストヴォールドが手掛け、ゴールデングローブの監督賞と作品賞を受賞している。映像はビスタビジョンで撮影され本作の核心ともいえる建築物に差し込む光と影を見事に映し出していた。

「ブルータリスト」は、「冷酷」「野蛮」といった意味を持つブルータリズムから派生している。第二次世界大戦後、破壊された欧州の都市を急ピッチで再建するため、コンクリートやガラスなどを用いて工業的に建物が造られ、「ブルータリズム」と呼ばれた。本作のタイトルは、その荒々しい外観の建築様式と主人公の生きた道を阻む冷酷な現実という二重の意味が込められているのだろう。

しかし、冷酷さや野蛮さばかりではない。終盤には、ブルータリズムに「ノー」をたたきつける意志が感じられ、長い上映時間の末に迎えたそのシーンは、待った甲斐があったと心から思えた


The Brutalist(邦題『ブルータリスト』)

 


写真クレジット:A24
上映時間:3時間35分
シアトル周辺ではRegal Meridian、SIFF Cinema Uptown、
Majestic Bay Theatreで上映中。

A Complete Unknown(邦題『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』)〜注目の最新ムービー

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ボブ・ディランの初期5年間を描く


A Complete Unknown
(邦題『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』)

伝説的シンガー・ソングライター、ボブ・ディランの伝記映画が公開された。現在も音楽活動を続ける彼のキャリアの中でも、本作で描かれているのは1961年のデビューから1965年までの5年間。短い期間ではあるが、この時代はベトナム戦争やケネディ大統領の暗殺、公民権運動の高まりなど、アメリカ全体が激動していた。ディランはそうした時代への心情を楽曲に反映させたフォークソングをアコースティックギターを手に歌い、多くの人を魅了する。だが、その後、その殻を破り、さらなる変化を遂げていく。本作は、そんな初期の歩みを鮮やかに描き出す。

脚本・監督はジェームズ・マンゴールド。彼はカントリー歌手、ジョニー・キャッシュを描いた『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でも知られている。

1961年、19歳のボブ・ディラン(ティモシー・シャラメ)は、憧れていたフォークのレジェンド、ウディ・ガスリー(スクート・マクネイリー)に会うためニューヨークにやって来た。すでに声を失い病床に伏すガスリーを見舞ったディランは、見舞いに来ていたもう一人のフォーク・レジェンド、ピート・シーガー(エドワード・ノートン)とも出会い、ガスリーのために書いた曲を弾き語る。ガスリーもシーガーも共に社会の不正に抗議するメッセージソングやプロテストソングを歌い続けてきたフォークの活動家で、彼らはディランの才能に瞠目。

シーガーは彼を援助することを申し出るのだった。シーガーの助けで、フォークの世界で歌うチャンスを得たディランは、反戦運動を行うシルヴィー・ルッソ(エル・ファニング)と出会い、彼女の部屋に転がり込む。金のないディランを支えるルッソだったが、ディランは、クラブで出会った人気フォークシンガー、ジョーン・バエズ(モニカ・バルバロ)と音楽的にも個人的にも親密になっていく。

ディランのフォークシンガーとしての成功への軌跡や恋愛模様を描く展開にあまり面白みはないが、息の長い現役ミュージシャンの長いキャリアの中で初期のみを描いたのは正解だった。特筆したいのは、シャラメとノートンが全編で作中の歌をギターを弾きながら歌い上げていること。シャラメはちょっと鼻にかかったディランの癖のある歌い方を見事に再現し、その歌声は聴き応えがあった。

本作が描き出すのは、自我が強く、何よりも自分の音楽へ情熱を優先していく男の姿。反戦歌を共に歌いディランの成功を後押ししたバエズも、支えてくれたルッソも彼の不実さに耐えられず離れていく。好感度抜群のシャラメが演じることでその特異性が薄れる面もあるが、2016年にノーベル文学賞受賞授賞式に現れなかったエピソードを引き合いに出すまでもなく、彼の独自性は際立っている。フォークシンガーと呼ばれることを嫌い、反戦集会で歌われた「風に吹かれて」を「反戦歌を書いたつもりはない」と言い切る彼は、フォークロック・ミュージシャンの枠を超え、彼のみが知る音楽世界を追求し続けているのだろう。

とはいえ、彼の書いた楽曲は文句なしに素晴らしく、世界中のミュージシャンに影響を与え、カバーされ、歌い継がれている。エンディグで絶唱される「ライク・ア・ローリング・ストーン」の力強い歌声は、60年代を知らない世代の人でも思わず胸が熱くなるのではないだろうか。


A Complete Unknown
(邦題『名もなき者/
A COMPLETE UNKNOWN』)


写真クレジット:Searchlight Pictures
上映時間:2時間21分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

Wicked /『ウィキッド ふたりの魔女』〜注目の最新ムービー

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舞台が大ヒットした理由に納得


Wicked
『ウィキッド ふたりの魔女』

ホリデーシーズンにぴったりな、家族で楽しめるミュージカル映画を紹介しよう。2003年の初演以来、トニー賞やグラミー賞をはじめ数々の賞を受賞し、大ヒットを続けてきた舞台ミュージカルの映画化作品だ。生い立ちや風貌、性格が全く異なる2人の魔女が、反目し合いながらも友情を築いていく物語。本作はその第一部を描いている。

物語の舞台はオズの国。魔術師や魔女が存在し、動物が人間のように話す世界だ。冒頭、人々が西の悪い魔女の死を祝う中、善き魔女グリンダ(アリアナ・グランデ)も喜びの歌を披露する。しかし、彼女はその「悪い魔女」を知っていたと語り、シーンは数年前のシズ大学時代へ。

車椅子に乗る妹(マリッサ・ボーデ)とともにやってきたエルファバ(シンシア・エリヴォ)は、全身が緑色の肌を持つ。奇異の目で見られる彼女とは対照的に、山ほどの荷物を持ちピンクづくめで登場したグリンダは注目の的だ。そんな2人を同室にしたのは、魔法学部モリブル夫人(ミシェル・ヨー)で、2人は正反対の性格からたびたび衝突する。モリブル夫人は生まれながら協力な魔法の力を持つエルファバの可能性を見抜いて個人指導を始める。やがてエルファバは念願だったオズ大王に会う機会を得る。彼女は学内で動物の教授たちが不当に締め出されている現状を訴えるために大王に会いたいと思っていたのだった。しかし・・・。

肌の色で親からも疎まれてきた地味で大真面目なエルファバと、能天気で人気者グリンダの対比が面白い。彼女が、エルファバのメイクオーバーを試みるのだが、全くの的外れ。ピンクのドレスをまとって自己愛を歌い上げ、ハンサムな王子(ジョナサン・ベイリー)が現れれば近づき結婚を夢見る。自己中の極みとも思えるキャラなのだが、どこか憎めない。難役だと思うが、歌唱力抜群のグランデが好演している。

同時に、背景ではアメリカ社会に根を広げるさまざまな差別を描きこんでいる。エルファバが直面する差別や、高い知能を持つ動物を檻に押し込めて自由を奪うシーンは現実の移民政策や社会的な不平等を思い起こさせる。また裏切られた障害のある女性の心情も描かれ、それぞれをわかりやすい歌詞にのせて訴え、歌い上げられていく。まさにミュージカルの真骨頂、舞台が大ヒットした理由も納得だった。作詞・作曲家は数々の音楽賞を受賞しているベテラン、スティーブン・シュワルツ。監督はダンス映画などを多く手掛け、「クレイジー・リッチ!」を大ヒットさせたジョン・M・チュウだ。
圧巻なのは、エンディングだ。自らの力と使命を知ったエルファバが大ヒットした「ディファイング・グラビティ」を歌う。スピード感のある映像と共に、他人のルールに逆らって制限なく生きたい、とエリヴォが力強く歌い、飛び回る最高のクライマックスだ。

果たして、魔力のないグリンダがどうして善き魔女となったか、なぜ西の悪い魔女は死んだのか? 謎を残したまま第1部は終わり、スクリーンにクレジットが流れ出す頃には、第2部が待ち遠しくてならなかった。


Wicked(邦題『ウィキッド ふたりの魔女』)

写真クレジット:Universal Pictures
上映時間:2時間40分
シアトル周辺ではシネコンなどで標準、3D、IMAXにて上映中。

The Wild Robot/(邦題「野生の島のロズ」)〜注目の最新ムービー

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ロボットがヒナの親になったら?


The Wild Robot
(邦題「野生の島のロズ」)

子どもだけでなく、子育て真っ最中の親や大人の心もグッとつかむファミリー向けアニメ映画を紹介しよう。製作は大ヒットした「シュレック」シリーズのドリームワークス・アニメーション、監督はやはり大ヒットした「ヒックとドラゴン」シリーズのクリス・サンダースだ。

舞台は近未来。ある無人島で人間をサポートするために作られたアシスト・ロボットが目覚める。事故で島に流れ着いたROZZUM(ロッザム)7134、通称ロズ(ルピタ・ニョンゴ )。周囲にサポートすべき人間はおらず、島の動物たちに「何か御用はありませんか」と聞いて回るが、反応はない。挙げ句に崖から落ち、ガチョウの巣をつぶしてしまう。親鳥はいなくて卵だけが残されているのを発見したロズは、手にとって守ろうとするが、そこへ現れた空腹のキツネのフィンク(ペドロ・パスカル)に卵を奪われる。取り返そうと追いかけている最中に卵がかえってしまう。ヒナは初めて見たロズを親だと思い込み懐いてくるが、鳥の育て方などプログラムされていないロズは困惑するのだった。

自然界に放り出されたロボットが、幼いガチョウの子の親になったらどうなるか? そんなユニークな設定から膨らんでいったストーリーだ。ロズはオポッサムの母(モーリン・オハラ)から子育てのアドバイスをもらいながら、油断ならない存在ではあるものの自然界について教えてくれるフィンクと共にヒナのブライトビル(キット・コナー)を育てていく。

成長したブライトビルは体が小さく、ロボットみたいな話し方をして仲間にからかわれるが、そんなことに構っている暇はない。渡り鳥で水鳥でもあるガチョウたちは、冬になったら温暖な地へ飛び立たなければならない。ロズはフィンクと共に、ブライトビルに泳ぎ方や飛び方を教えようと必死だ。飛び方を教えるワシ(ヴィング・レイムス)、ガチョウの長(ビル・ナイ)、森の王者のクマ(マーク・ハミル)といったキャラクターたちが手助けする中、ロズに親としての感情が次第に芽生えていく。

アクションや笑いをふんだんに織り込みながら、自然と機械という対照的な要素を、限りなく優しく、時おり厳しく見つめ豊かに展開していく。ピーター・ブラウン原作の絵本『野生のロボット』の世界観がよく描けていた。

ロボットがハートを持ったら? 愛を感じたら? そんなテーマはこれまでにも多くのSF映画やアニメショーンで描かれてきた。筆者が好きなピクサーの「ウォーリー」では、地球に一台だけ取り残されたロボットの孤独と恋が描かれていた。ChatGPTのようなAIが普及し、人間と機械の会話が日常になりつつある今、ロボットが人間と同じように振る舞うことをただプログラムされているからという説明だけでは納得できない。ひょっとしたら? と心揺さぶられるのは当然のことだろう。しかし、現実はどこへ向かっていくのか? 楽観的になれない怖さを秘めた未来が私たちの前に迫っている気もする。


The Wild Robot

(邦題「野生の島のロズ」)

写真クレジット: Universal Pictures
上映時間:1時間42分
シアトルはシネコンなどで上映中。

 

Beetlejuice Beetlejuice /邦題「ビートルジュース ビートルジュース」〜注目の最新ムービー

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マイケル・キートン、当たり役で大活躍


Beetlejuice Beetlejuice
(邦題「ビートルジュース ビートルジュース」)

 

 

1988年に大ヒットしたティム・バートン監督のホラー・コメディ「Beetlejuice」が、なんと36年ぶりに続編として戻ってきた! オリジナルキャストがほぼ全員再集結し、年月を反映した設定になっているものの、主人公のビートルジュース(マイケル・キートン)だけは進化なし。36年前のまま「不適切にもほどがある」活躍を見せている。監督はもちろん、バートンだ。

オリジナルは、そうと知らずに幽霊屋敷に住むことになったディーツ一家が、人間界の誰かと結婚したい幽霊ビートルジュースの登場で、ひっかき回される話。両親に反抗的な一人娘、ゴス系女子のリディア(ウィノナ・ライダー)が、ビートルジュースと結婚する羽目に陥るが、紆余曲折を経て彼を霊界に追い返してメデタシメデタシとなる。

続編では、リディアは幽霊を信じない反抗的な16歳の娘アストリッド(ジェナ・オルテガ)を育てつつ、サイキックTV番組の司会をしている。彼女の夫は亡くなり、今は番組制作者のロリー(ジャスティン・セロー)と婚約中だ。

リディアの継母デリア(キャサリン・オハラ)は今でもアート三昧。ソーホーのギャラリーでアートショーのホステスをしているが、夫チャールズが事故死する。一家は夫・父の埋葬のために再び幽霊屋敷に戻るのだが、アストリッドが霊界に誘拐されてしまう。慌てたリディアは屋敷の屋根裏にある模型に住むビートルジュースを仕方なく呼び出し、助けを求めるのだった。

物語はここから一気に加速。待ってましたとばかりにビートルジュースが霊界と人間界を行き来し暴れ回っていく。続編につきものの新キャラとして、ビートルジュースの元妻(モニカ・ベルッチ)や霊界の刑事(ウィレム・デフォー)なども登場するが、さほど面白味はなく、見どころはやはりキートン。彼の当たり役であり、本人も一番好きな役柄と公言するビートルジュースをイキイキと演じ、36年の歳月を感じさせない圧倒的な存在感を放っている。

バートン監督は今回もAIによるCGを極力避け、低予算で手作り感のあるオリジナルの映像スタイルを継承。ホラーでありながら、どこかホッとする映像で、これは大成功と言える。

ただ、反抗的なティーンの娘とそれに悩む母の対立を描く前半の展開は新鮮味が感じられなかった。オリジナルのアーティストで娘に関心のない継母と大人の裏を見透すゴスの娘という関係性の方が絶妙で、また、金と投資に執着する父という設定も88年当時の時代性を感じさせてくれた。

続編制作は何度も試みられてきたが、Netflixの「ストレンジャー・シングス 未知の世界」でライダーが再注目されたことが追い風となって、本格的に続編制作が動き出したようだ。続編はつまらないという定説があるが、オリジナルのファンがガックリするほどではなく、キートンの大活躍は見る価値がある。ただし、本作で新しいファン層を取り込めるかはまだ未知数だ。

Beetlejuice Beetlejuice/
(邦題「ビートルジュース ビートルジュース」)

 

 

写真クレジット:Warner Bros. Pictures上映時間:1時間44分シアトル周辺ではシネコンなどで、標準、IMAX、4DX等にて上映中。

Deadpool & Wolverine(邦題「デッドプール&ウルヴァリン」)〜注目の新作ムービー

注目の新作ムービー

真逆キャラで大ヒット


Deadpool & Wolverine
(邦題「デッドプール&ウルヴァリン」)

2024年、全米の映画ファンが最も期待する作品第1位がこの「デッドプール」シリーズの第3作目だ。R指定のスーパーヒーロー映画として大ヒットを記録したシリーズが、ついにX-MENシリーズで絶大な人気を誇る「ウルヴァリン」とのコラボレーションを果たした。別シリーズで活躍してきた2人のキャラクターが同じ画面に登場するという設定には、まずマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の独特な世界観を理解する必要があるかもしれない。2018年の「デッドプール2」から6年、しかも死んだはずのウルヴァリンの復活はファン待望の展開。加えておしゃべりなデッドプールと寡黙なウルヴァリンという真逆のキャラクター同士が繰り広げるミスマッチの妙で大ヒットを続けている。

前作で時間軸を移動して最愛のヴァネッサの命を救ったものの、結局フラれてしまったウェイド/デッドプール(ライアン・レイノルズ)。現在は、アース10005のタイムラインで中古車販売をしていた。そんな彼が、誕生日の夜、突如、時間変異取締局(TVA)のエージェントに連れ去られる。エージェントのパラドックス(マシュー・マクファディン)によれば、ローガン/ウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)の死以来、アース10005が消滅の危機に瀕しているという。ウェイドは、パラドックスの持つタイム・パッドを奪い、マルチバース(別のタイムライン)でまだ生きているローガンを探し始める。アルコール依存症のローガンを説得しTVAに連れ帰るが、2人ともパラドックスの陰謀により虚無の世界(ヴォイド)に送られしまう。ヴォイドはX-MENのリーダーだったエグゼビアの双子の妹カサンドラ(エマ・コリン)によって支配され、彼女はマルチバース全体を消滅させ、ヴォイドだけの世界に統一するという野望を抱いていた。

その後も、性格の異なる主人公2人が渋々協力しあって、アース10005を救うアクション重視の展開が続く。下品なジョークやおしゃべりを連発するデッドプールと彼に辟易しながらも協力する渋い男ウルヴァリンとの対比が実におかしい。冒頭から、ウェイドが時間軸を移動してアベンジャーズに参加しようと面接を受けるが断られたり、ヴォイドがマッドマックスのパクリだったりと笑いのツボが満載。さらに、ヴォイドに閉じ込められたスーパーヒーローたちのカメオ出演も数えきれないほどで、デッドプールらしい畳み込むような笑いの嵐が観客を沸かせた。

前作までは20世紀フォックス映画によって製作されていたが、2019年にウォルト・ディズニー・カンパニーに買収され、今作からはディズニー製作となっており、異端児デッドプールもMCUに組み込まれた。

冒頭シーンでは、20世紀フォックスのロゴが砂に埋もれているという『猿の惑星』のパロディシーンもあり、何でもかんでも笑いのネタにしてしまう軽妙なデッドプールらしさが際立っている。これは主演のライアン・レイノルズが製作・脚本にも関わっているからかもしれない。

スーパーヒーローものが飽きられている今、主人公自身がスーパーヒーローのあり得ないばかばかしさを揶揄したり、映画という架空の世界にシビアな現実を取り込んで笑いにする旺盛さが、観客目線に合致した。そういう意味では、デッドプールがスーパーヒーローものを消滅させるかもしれない? と思ってしまった。

Deadpool & Wolverine
(邦題「デッドプール&
ウルヴァリン」)

 

 

写真クレジット:ウォルト・ディズニー・
      スタジオ・モーション・ピクチャーズ上映時間:2時間7分シアトル周辺ではシネコン
などで、標準、3Dにて上映中。

A Quiet Place: Day One(邦題「クワイエット・プレイス:DAY 1」)〜注目の新作ムービー

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予想外のホラー作品


A Quiet Place: Day One
(邦題「クワイエット・プレイス:DAY 1」)

ホラー映画ファンなら、ホラー色控えめの本作にやや期待外れだったのではないだろうか。だが、それこそが美点だった。残酷なシーンはあるが、ホラーは苦手という人にもおすすめできる秀作映画だ。

3作目となる本作は2018年に公開された「クワイエット・プレイス」シリーズのスピンオフだ。

前2作は、ろうあの子どもがいる家族が音にだけ反応して人間を襲うどう猛な宇宙生命体の脅威と闘う物語。絶対に音を立てることも言葉を発することもできない厳しい環境下で、家族が団結してサバイバルしていく展開は、ホラー映画ファン以外からも広く支持され大ヒットとなった。

本作は謎の生命体の襲撃が起きたニューヨークを舞台に、一人の女性に焦点が当てられている。詩人でがん末期患者のサミラ(ルピタ・ニョンゴ)は、猫のフロドと共にホスピスで暮らしていたが、その生活にうんざりしていた。そんなある日、気晴らしに看護師のルーベン(アレックス・ウルフ)らとニューヨークのチャイナタウンに出かけたのだが、その日がまさにDAY 1だった。空からは火球が降りかかり、見回せば生命体が人々を襲う地獄絵の様相。逃げ惑う人混みの中を、サミラもフロドを抱えて逃げる。しばらくすると、港に船がありシェルターに行けるという情報を得る。だが、死期が迫っていたサミラは逃げることに絶望していた。そんな時、イギリス人の若い男、エリック(ジョセフ・クイン)が彼女の後をついてきた。サミラは、彼には港へ行くように促し、自分は行かない、生まれ育ったハーレムに行ってピザを食べるのだ、と言い張るのだった。

後半は、助け合いながらハーレムに向かうサミラとエリックの姿が描かれていく。生命体はあちこちに潜んでおり、小さな音さえも立てないように神経を張り詰めながら、筆談などを通して互いの意思を伝え合う。

危険を承知でハーレムに帰ることにこだわり続けたサミラの強い思いを、ニョンゴが会心の演技で体現している。言葉を発することができない状況下、目の動きと表情だけでこんなにも多くのことを伝えることができるのか、と感嘆し、脚本に命を吹き込む演技とはこういうことなのか、と彼女に釘付けとなった。

本作はホラー映画という枠の中で、極限状況に置かれた人間が持ちうる人間性と自己回復について描いた作品ではないだろうか。サミラとエリックの間に芽生えた優しさと信頼。ホスピスでふてくされていたサミラが、恐怖で逃げ惑う中、死と向き合い、尊厳を取り戻し、自分なりの終わり方を選ぶ。たった1日だったが彼女は生きた、そのことがくっきりと描き出され、感動的ですらあった。

脚本と監督は、2021年のデビュー作『PIG/ピッグ』で注目を浴びたマイケル・サルノスキが担当している。

A Quiet Place: Day One
(邦題
「クワイエット・プレイス
:DAY 1」)

 


写真クレジット:Paramount Pictures
上映時間:1時間39分

シアトル周辺ではシネコンなどで、
標準、3D、IMAX、IMAX3D、4DX にて上映中。

 

Furiosa: A Mad Max Saga(邦題「マッドマックス:フュリオサ)〜注目の新作ムービー

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アニャ・テイラー・ジョイの活躍に瞠目どうもく 


Furiosa: A Mad Max Saga
(邦題「マッドマックス:フュリオサ」)

見終わって時計を見たら、なんと2時間半も経っていた。激しいアクションの連続にぐったり気味ではあったが、長い時間飽きずに見続けられたことに驚き、アクション映画の醍醐味を堪能した快感があった。この感覚は、ブルース・リーの映画を見終わったときと似ている。

2015年に予想外の大ヒットを記録したオーストラリアのアクション映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の前日譚ぜんじつたん 。ディストピアで復讐に燃える警官マックスの死闘を描いた「マッドマックス」(1979年)の4作目が「デス・ロード」。5作目となる本作はマックスから完全に離脱し、若い女性主人公フュリオサの生存と復讐に向けた闘いが描かれる。第1作目から脚本・監督を手掛けてきたジョージ・ミラーによる最新作。シリーズファン待望の大作だ。

世界崩壊後、放射能に汚染されたオースラリアの砂漠地帯ウェイストランドが舞台。少女フュリオサ(アリーラ・ブラウン)は、水や資源あふれる「母なる緑の地」で育った。ある日彼女は、ディメンタス将軍(クリス・ヘムズワース)をリーダーとする「バイカー・ホード」という暴走ギャングに誘拐されてしまう。ディメンタス将軍はフュリオサに「母なる緑の地」まで案内させようとしたが、彼女は案内を拒み続けた。荒野を放浪する彼らは砂漠の地下水を支配するイモータン・ジョー将軍(ラッキー・ヒューム)が統治するシタデルに辿り着く。2人の将軍はシタデルの指導権をめぐり争い、フュリオサはジョーの手に落ちる。

シタデルでの困難を経て成長したフュリオサ(アニャ・テイラー・ジョイ)は、口のきけない少年のフリをして補給タンカー「ウォー・リグ」のメカニックとなり、リグの指揮官であるプレトリアン・ジャック(トム・バーク)の信頼を得ていくのだった。前作では片腕のリグ指揮官としてシタデルからの脱出を図るフュリオサ(シャーリーズ・セロン)が描かれたが、本作ではなぜ彼女が腕を失ったのか、どのようにしてリグ指揮官となっていくのか、彼女が目指す「緑の地」とは? など謎であった部分が描かれている。

主演を演じたテイラー・ジョイの目を見張る活躍を特筆したい。華奢な体型で、美貌の女性をエレガントに演じる印象だったが、バイクでの疾走や格闘などのスピーディーな身のこなしはアクション俳優さながら。全編を通じて30行しか台詞がなく、グリースを塗った真っ黒な顔の中の大きな瞳だけで主人公の意思を伝える凄みがあった。

アクションの白眉は、撮影に78日かけたという15分のリグ襲撃シーン。砂漠を舞台に爆風で舞い上がるオレンジ色の砂塵、追撃してくる改造バイクや改造車をジャックとフュリオサが見事な連携と素早さで撃退していく。火炎放射器やらマシンガンやらが吹き荒れ、爆破で異形なウォーボーイズたちと襲撃者たちが吹き飛び、ほとんどが実写とは思えない危険な場面が次々と畳み掛けてくる。ケガ人が出ないよう何千枚と描かれた絵コンテを元に、入念な準備と安全対策が施されていたとのことだが、その危険と表裏一体の場面を演出した監督の周到さ、綿密さに感服。次作も期待せずにはいられなかった。

最後に、グロテスクなシーンもあるのでバイオレントな映画は苦手という方にはおすすめしない。

Furiosa: A Mad Max Saga
邦題「マッドマックス:
フュリオサ)

 


 
写真クレジット:Warner Bros. Pictures
上映時間:2時間28分
シアトル周辺ではシネコンなどで、標準、3D、IMAX、IMAX3D、4DX にて上映中。

 

Challengers(邦題「チャレンジャーズ」)〜注目の新作ムービー

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テニス界の元スター選手の新たな0ラブ ゲーム


Challengers
(邦題「チャレンジャーズ」)

男性同士の恋愛を描いた「君の名前で僕を呼んで」で世界の注目を浴びたイタリアのルカ・グァダニーノ監督の最新作。「スパイダーマン」「デューン」シリーズなど、多くの大作に出演するアメリカの人気女優ゼンデイヤを中心に据え、世界トップを走るテニスプレイヤーたちの恋愛と友情を描いた秀作だ。

幼なじみのパトリック・ツヴァイク(ジョシュ・オコナー)とアート・ドナルドソン(マイク・ファイスト)は親友同士で、2006年の全米オープンテニス・ジュニア男子ダブルスで優勝。そんなふたりが、同大会の女子シングルスで、タシ・ダンカン(ゼンデイヤ)の驚異的なプレイを観戦し、同時に電撃的な恋に落ちる。

ホテルの部屋でどうしたら彼女の気を引くことができるかと話す2人の元に、なんとタシが訪ねてくる。3人は打ち解けしばらく楽しい時間を過ごすのだが、帰り際に男子シングルで勝った方に自分の電話番号をあげる、という言葉を残して、タシは部屋を後にする。宿敵となったパトリックとアートは決勝で対戦し、パトリックが優勝。タシとパトリックは付き合い始めるのだった。数年後、プロになったパトリックと、スタンフォード大学に進んだタシとアートはテニス界のトッププレーヤーとして活躍していた。だが、タシが致命的な負傷したことで、3人の運命が交錯していく。

テニスプレイヤーとしての夢をくじかれたタシは、コーチになってテニスへの夢を実現しようとするが、夢を打ち砕かれ屈折した思いを抱え、ときにアートらの信頼を裏切ってしまう。そんなタシをそれぞれの思いで愛し続けるふたりの男たちの姿は、切なくも清々しく好感が持てた。作品の多くの部分を占めるテニスプレーの激しさ、厳しさ、美しさをとらえた映像と主演3人の渾身の演技も見応えがあった。

いわゆる三角関係ものであるが、とかく描かれがちな互いへの憎しみや嫉妬などのドロドロとした感情には一切フォーカスせず、男ふたりの友情・信頼やふたりを同時に愛するタシの揺れる思いという3人のデリケートな心情を丁寧に描きあげ、感動のエンディングへ導いていくストーリーは、出色の出来栄えだった。

脚本は今年のアカデミー賞作品賞・脚本賞ノミネートを始め、数々の賞レースを席巻した映画「パスト・ライブス/再会」を手掛けたセリーヌ・ソン監督の夫である劇作家のジャスティン・クリツケス。2人にはこれからも繊細な大人の恋愛を描き出し、観客をハッとさせてほしい。

Challengers

(邦題「チャレンジャーズ」)

 


 
写真クレジット:Amazon MGM Studios
上映時間:2時間11分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

Ghostbusters: Frozen Empire(邦題「ゴーストバスターズ/フローズン・サマー」)〜注目の新作ムービー

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40年前のゴーストバスターズと現在をつなぐ


Ghostbusters: Frozen Empire
(邦題「ゴーストバスターズ/フローズン・サマー」)

「ゴーストバスターズ」シリーズは、2016年のリブート版を含めて全5作。1984年の1作目はユニークなSFコメディーとして大ヒットし、1989年の2作目のマイナーヒットを経てアニメやゲームまで作られる人気の高いフランチャイズとなった。本作は、2021年の第3作「ゴーストバスターズ/アフターライフ」の続編。

前作では、元ゴーストバスターズ・メンバーの故スペングラー博士(故ハロルド・レイミス)の娘とふたりの子どもたちが科学教師と共に、田舎町に起きたゴースト騒動を経て、ゴーストバスターズとして復活する様子を描いた。このシリーズ最新作では、その一家がニューヨークで大活躍する。

1作目から40年後、懐かしい消防署を舞台に、ゴースト捕獲に奔走しているのは、スペングラー家の長でシングルマザーのキャリー(キャリー・クーン)、物理や機械に詳しい娘のフィービー(マッケナ・グレイス)、やや頼りない息子のトレヴァー(フィン・ウルフハード)、そして前作で母と親しくなった教師のゲイリー(ポール・ラッド)の4人。ところが、ビルを破損したことから市長(ウィリアム・アザートン、1作目でゴーストバスターズを目の敵にした役人)に呼ばれ、活動の自粛と15歳のフィービーの就労禁止を言い渡される。ゴーストバスターズの中で誰よりも奮闘していたフィービーはガックリ。同じ頃、初代ゴーストバスターズのレイモンド・スタンツ博士(ダン・エイクロイド)は、オカルトのグッズや本を扱う鑑定ビジネスをしていた。そこに得体の知れない骨董品が持ち込まれ、これに閉じ込められていた魔物が解放されて、一大騒動に。

本作の特徴は、現在のスペングラー家と1作目の3博士、新旧ゴーストバスターズを引き合わせ、ファンサービスに徹したことだろう。ティーンを主人公にして子どもたちにアピールし、長年のファンも取り込む、という二兎を追ったものの、成功したとは言い難い。

1作目からは、スタンツ博士のほかに、ヴェンクマン博士(ビル・マーレイ)やゼドモア博士(アーニー・ハドソン)、受付担当のジャニーン(アニー・ポッツ)らがスペングラー一家を助けて、ニューヨークを氷の街にしてしまったガラッカという魔物と対決する。これだけでバスターズが8人という大所帯。そのうえ、店に骨董品を持ち込んだ男(クメイル・ナンジアニ)の家族の秘密や、少女の幽霊とフィービーの出会い、幽霊の正体を見極めたいゴースト研究者、難解な物理の話なども詰め込んだサイドストーリーが盛りだくさんで、食傷気味となってしまった。

これなら前作の「アフターライフ」の方がずっとスッキリしていて楽しめた。前作が成功すると次作はもっと面白くしようと話を盛り過ぎ、かえってつまらなくなる、ハリウッド映画特有のトラップに落ちた感がある。

熱烈なファンがいる一方で、女性だけのゴーストバスターズとなった2016年のリブート版は一部で大不評を買い、あからさまな女性蔑視が問題化した。迷走するシリーズという印象は否めない。

Ghostbusters: Frozen Empire

(邦題「ゴーストバスターズ/フローズン・サマー」)

 

 
写真クレジット:Sony Pictures Releasing
上映時間:1時間55分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

Drive-Away Dolls(邦題「ドライブアウェイ・ドールズ」)〜注目の新作ムービー

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ややお下品でコミカルなロードムービー


Drive-Away Dolls
(邦題「ドライブアウェイ・ドールズ」)

「ファーゴ」「ノーカントリー」などで知られるコーエン兄弟は、カンヌ国際映画祭監督賞を3回も受賞した米国を代表する映画人だ。兄のジョエルが監督、弟のイーサンが脚本とクレジット表記されることが多いが、彼らの映画作りは常に共同作業。そんなふたりが2018年に映画製作を休止した。この2月にようやく、ホラー映画を共同監督する予定があることが発表されたばかりだ。ただ、2021年には、ジョエルが単独で監督・脚本を担った「マクベス」が公開。イーサンも単独監督作品を手掛け、その第1作が本作である。兄の「マクベス」とは趣が違うが、筆者の予測を超える仕上がりだった。

舞台は1999年のフィラデルフィア。主人公は親友同士の若いレズビアンふたり、性欲旺盛なジェイミー(マーガレット・クアリー)とコンサバなマリアン(ジェラルディン・ヴィスワナサン)だ。ジェイミーが恋人の警察官、スーキー(ビーニー・フェルドスタイン)を裏切り、アパートから追い出されてしまうところから話が始まる。

ジェイミーは気分転換に旅へ出ようとマリアンを強引に誘い、ふたりはマリアンの叔母がいるフロリダ州タラハシーへ。片道は車の配送サービスを利用したのだが、この車には思わぬブツが積まれていた。それが原因で、ふたりはギャング風の男たち3人に追われることに……というストーリーだ。

長旅の途中、モーテルで読書するマリアンをよそに、ジェイミーはレズビアン・バーの女子をお持ち帰り。マリアンと共に女子サッカー・チームと合流も。充実した性生活を謳歌するジェイミーだが、お堅いマリアンを性的に解放したい思いもあって、ドタバタ旅行が続いていく。

そして、ついに車のトランクに隠されたブツを発見。これがまたエロくて、設定がブレない。とうとう追い付いた悪人たちに拘束されたふたりは、ブツも取り上げられ、さらなる騒動へ。危機を乗り越えていく過程で性欲求に目覚めていくマリアンと、彼女を助けるジェイミーのコミカルな演技が愛らしく、全編にコーエン映画ならではの知的でひねった笑いも散りばめられている。

これまでメジャー映画ではあまり描かれてこなかった、レズビアン・コミュニティーのリアルを作品の真ん中にドンと据えた点が面白い。旅先の町々のレズビアン・バー(現在は全米からほぼ消滅)では、毎夜女たちが盛り上がるが、性をわいせつ感なしに見せる演出に感心した。イーサンの妻、トリシア・クックとの共同脚本。トリシアはコーエン兄弟作品の編集担当であり、レズビアンだ。90年代後半の自身の体験を下地にしているとのこと。トリシアとイーサンは婚姻関係にあるが、それぞれ別にパートナーを持つ異色のカップル。そんなふたりが生み出したユニークな作品を観ていくうち、ふたりの関係についても映画にしてほしい気がした。

カメオ出演で、ペドロ・パスカル、マット・デイモン、マイリー・サイラスなどが顔を出しているのも楽しい。が、映画としては、コントを次々と見ているような感覚に陥り、騒がしさばかりが際立ってしまったのが残念だ。

Drive-Away Dolls
(邦題「ドライブアウェイ・ドールズ」)

 

 

 

写真クレジット:Focus Features
上映時間:1時間24分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

Poor Things(邦題「哀れなるものたち」)〜注目の新作ムービー

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主人公の姿が想像力を刺激


Poor Things
(邦題「哀れなるものたち」)

「ロブスター」や「女王陛下のお気に入り」など異色な作品を多く撮っている鬼才、ヨルゴス・ランティモス。この監督の作品を観る時は、期待と共にちょっと構えてしまう。一体どんな映画なのか予想がつかず、常に思わぬ展開が待っているからだ。本作もまた、ファンを裏切らないシュールでコミカルな作品。本年度のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞など11部門にノミネートされている話題作だ。

舞台は19世紀後期ビクトリア時代のロンドン。異能の外科医、ゴドウィン・バクスター博士(ウィレム・デフォー)は、子どものような立ち振る舞いをする奇妙な女性と暮らしていた。実は彼女、橋から身投げしたベラ・バクスター(エマ・ストーン)で、博士は妊娠中だったベラの胎児の脳を移植して蘇生させたのだ。弟子のマックス・マッキャンドレス(ラミー・ユセフ)に彼女の行動を観察させるが、マックスはベラに恋してしまう。

博士はベラとマックスとの結婚を計画。だが、結婚契約書を依頼した放ほうらつ埒な弁護士、ダンカン・ウェダバーン(マーク・ラファロ)に誘われ、ベラは出奔。性の快楽に目覚めたベラは、ダンカンと遊ゆうとう蕩の旅に出かけ、欧州各地を回る。ベラの急速な成長は止まらず、次第にダンカンの手にも負えなくなっていく。

このベラの変化が実に面白い。ディナーの席で豪華な衣装をまといながら、素手で食べ物を口に突っ込み、性について思ったままを語る。ダンカンは無作法を止めようとするが、彼女には無駄なこと。ベラは自由奔放に関心の赴くまま動き、世界を知っていく。屈託なく言葉を口にするベラが痛快だ。独特なユーモアのある脚本は、「女王陛下のお気に入り」も担当したトニー・マクナマラ。

そんな台詞のニュアンスを見事にくみ取り、ストーンが生まれたままの女性を快演している。全裸で体当たりする性行為シーンの数々に驚くが、感心したのはわいせつ感やエロティシズムの強調がなかったこと。ストーンの持つ個性と、ランティモス監督の演出手腕によるものでもあるが、本作はそこに主眼を置いていないということなのだろう。ただし、レーティングはR18。

後半になって明かされるベラの自殺の理由が、作品理解へのキーとなる。「ビクトリア時代の抑圧の中に生きた女性が、大人の体のまま子どもの脳で生まれ変わったら?」と仮定して展開される、女性の冒険の物語。女らしさのすり込みや偏見のないまま生きることの解放感を見せつつ、ベラのように自由になれたらと、観る者の想像力を刺激してくれる。原作を手掛けたのはスコットランドの小説家、アラスター・グレイだ。

最後に、アカデミー賞でもノミネートされた衣装デザインや美術の素晴らしさも特筆したい。モノクロとカラーを織り交ぜた映像の美しさと、時折見せるグロテスクさ。スタジオだけで撮影した背景は、美術監督らによってゴージャスな唯一無二の世界観が引き出され、目も心も奪われた。一度観ただけでは堪能し切れない凝ったディテール。ぜひリピートして楽しみたいという思いにさせてくれた。

 

Poor Things
(邦題「哀れなるものたち」)

 

写真クレジット:Searchlight Pictures上映時間:2時間21分シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

The Boy and the Heron(原題「君たちはどう生きるか」)〜注目の新作ムービー

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謎こそが宮崎作品の魅力


The Boy and the Heron
(原題「君たちはどう生きるか」)

 

世界中が待ち焦がれていた名匠、宮崎 駿監督の新作アニメ。1月7日発表のゴールデングローブ賞のアニメ映画賞に日本の作品で初めて選ばれた。ほかにも数々の映画賞にノミネートされており、米国での評判は上々だ。ただ、日本では難解との声も聞こえてくる。

舞台は第二次世界大戦中の日本。主人公の眞人(山時聡真)の最愛の母、ヒサコは開戦から3年後の空襲による火事で亡くなっていた。翌年、眞人は父(木村拓哉)と母の実家へ疎開。そこには母そっくりの妹、夏子(木村佳乃)がいて、夏子が父の再婚相手であること、眞人がお腹の赤ちゃんの兄になることを告げられる。

母親が忘れられず、疎開生活にもなじめない眞人の元に怪しいアオサギ(菅田将暉)が何度ものぞきに来て、ちょっかいを出す。気になった眞人は敷地内の塔に棲むアオサギを追うが、入り口はふさがれていた。夏子は、この塔は大伯父(火野正平)が建てたもので、彼は塔に入ったまま帰らないと言う。その後、つわりがひどくなっていた夏子も失踪。眞人は、年老いた女中のキリコ(柴咲コウ)と共に夏子を探しに森へ行き、謎の塔の入り口へと導かれ、迷い込んでしまう。そこでは眞人には想像もつかない、異界での体験が待ち受けていた。

異界では、若き日のキリコや火炎を操る少女ヒミ(あいみょん)、さらにワラワラと呼ばれる、人が生まれる前の魂(滝沢カレン)、それを食べようとするペリカンの群れ、異界で王国を築く人間大のインコなどが現れる。眞人はアオサギと共に何度も危険を乗り越え、夏子を探し続ける。

多くの人物や異界の生き物、それぞれの不可解な役割や行動など、決してわかりやすい物語ではない。前後の辻つじつま褄を合わせ、隠れた意味を見出そうとしているうちに、観ている側も迷路に入り込んでしまうだろう。

「となりのトトロ」、「千と千尋の神隠し」、「ハウルの動く城」など、これまでも宮崎作品では、異界に迷い込んだ少女たちの冒険と現実への帰還という物語が描かれてきた。どの作品をとっても、「辻褄合わせ」をすることに意味はない。なぜ猫がバスなのか、なぜ海の上に電車が走っているのか、なぜ城が空を飛ぶのか、その謎こそが宮崎作品の魅力だった。現実では味わえない異界の摩訶不思議、そこに生息する異形の愛すべき存在。そんな夢の世界を、飛びきり美しい映像で見せくれる宮崎作品だからこそ、世界中の子どもたちや映画ファンの心をガッチリつかんできたのだと思う。

確かに、本作の難解さは他作品と比べても飛び抜けている。夢と謎の世界に浮遊することを拒むようでもある。だが、観る者をグイグイと引き込む物語性は卓抜し、その作家性は世界でも比類なきものだ。

本作の難解さもまた、謎のひとつと言えるのではないだろうか。辞めると言って何度も復帰した宮崎監督が、80歳を超えて発表した本作には、きっと過去作で伝え切れていなかった何かが込められているに違いない。何度も見返しながら、その何かを探ってみたい。そう思わせてくれるのが宮崎作品の奥深さでもある。

本編が終わってエンドロールが流れる間、隣で食い入るようにスクリーンを見つめるローティーンの少女ふたりがいた。終わって欲しくないとスクリーンを見上げる彼女たちの真剣な横顔。筆者もまた、ふたりと同じであったのだろう。

 

The Boy and the Heron
(原題「君たちはどう生きるか」)

写真クレジット:東宝、GKIDS
上映時間:2時間4分
シアトル周辺ではシネコンなどで字幕、吹き替えの両方を上映中。

 

Napoleon /ナポレオン〜注目の新作ムービー

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壮大さゆえの虚無感


Napoleon
(邦題「ナポレオン」)

フランス革命後の混乱期に登場し、皇帝にまで上り詰めたナポレオン・ボナパルトの伝記映画だ。監督は「エイリアン」や「ブレードランナー」、「グラディエーター」など数々の大作ヒット映画で知られる名匠、リドリー・スコット。生涯で60以上もの戦争を率いた、英雄であり怪物のナポレオンを、ホアキン・フェニックスが演じている。

1793年のフランス革命期、マリー・アントワネットの処刑場面から物語は始まる。若い将校だったナポレオンは、革命期の政治家で指導的立場にあったポール・バラス(タハール・ラヒム)に任命され、王党派の反乱に対し共和派が勝利を収めたトゥーロン攻囲戦を指揮。その後も王党派の反乱を鎮圧し、勇名を馳せていく。

そんな頃、魅惑的な貴族の未亡人、ジョゼフィーヌ(バネッサ・カービー)と結婚するが子に恵まれず、特異な夫婦関係が続いていた。エジプト遠征ではフランスに残した妻の情事を知り、急きょ帰還。敵前逃亡と非難されるが、逆にクーデターを起こして総裁政府を倒し、1799年にナポレオンは新政府の第一統領に就任する。これが皇帝への足ががりとなり、1804年のノートル・ダム寺院での戴冠式へとつながる。その様子はルーブル美術館にある有名なルイ・ダヴィッドの絵画そのままに再現され、実に絢けんらん爛豪華だった。

本作では主に1796年から1815年までの一連のナポレオン戦争が描かれる。オーストリア軍とロシア軍を氷上で砲撃して溺死させたアウステルリッツの戦い、約50万人の兵を失った悲惨なロシア侵攻、そして、最後のワーテルローの戦いを含む。戦闘シーンはスコット監督らしいダイナミックな映像で見ごたえ抜群。特にワーテルローでは8,000人のエキストラを使った歩兵隊の闘いぶりを上空、地上などさまざまな角度から撮影し、壮観、圧巻であった。ただ、ナポレオンの天賦の才、カリスマ、怪物性の再現において、怪優フェニックスの個性に頼り過ぎではないだろうか。結果として、ナポレオンの人物像が不鮮明で、300万人もの戦死者を出したとされる戦争へと駆り立てた動機も、野望の在りかもついに見えてこなかった。

フランス革命に対する外国の干渉への防衛から始まり、権力獲得後は「革命の理念の拡大」が大義となったが、結果的にはナポレオンによる一方的な侵略戦争に終わった。歴史的評価としては、欧州の封建体制の崩壊、傭兵に依存した絶対王政期の軍隊から徴兵制に基づく国民軍を主体とする戦争への決定的な転換をもたらし、市民社会の誕生を促した、と言われる。しかし、残念なことに、この映画からそのような側面はうかがいしれない。ナポレオンのジョゼフィーヌへの強い思いだけが印象に残る展開には、作品が壮大であるだけに、むなしさを禁じ得なかった。

 

 

Napoleon

写真クレジット:Sony Pictures Entertainment、
                       Apple Original Films
上映時間:2時間38分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

Killers of the Flower Moon /キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン〜注目の最新ムービー

注目の最新ムービー

米国の黒歴史を暴く渾身の一作


Killers of the Flower Moon
(邦題「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」)

米国の名匠、マーティン・スコセッシ監督の最新映画。語られることなかった米国の黒歴史を暴いていく。舞台は1920年代のオクラホマ州オセージ。物語の中心に、あまり賢いとは言えないアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)と狡猾な策士である叔父、ウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)のふたりがいる。共に実在した人物だ。

当時、居留地から発掘された石油によって、先住民のオセージ族は裕福な暮らしを謳おうか歌していた。一方で、白人たちの欲望の対象となり、使用人として働く者、資産を管理する者、結婚によって富の分け前や利権を狙う者などが町に群がっていた。

戦争から帰還したアーネストは、叔父のウィリアムを頼ってオセージへやって来る。体を壊して仕事ができないアーネストに、ウィリアムはオセージ族の女性と結婚することを勧める。そして、アーネストはオセージ族の女性、モリー・カイル(リリー・グラッドストーン)の運転手をしながら、彼女と恋仲になって結婚する。だが同じ頃、オセージ族の人々が何人も殺される事件が起き、ついにはモリーの妹も無惨な姿で発見される。モリーの母も不審な死を遂げ、モリー自身もまた糖尿病が悪化していった。まともな捜査がなされない中、業を煮やしたモリーたちは大統領に会いに行き、捜査を懇願するのだった。

物語はその後の難航する捜査と公判の行方を背景に、アーネストを操るウィリアムのどす黒い策謀と、モリーとアーネストの不可思議な夫婦関係を両輪に展開していく。グラッドストーンが、夫の裏切りを予感しながらも信じ続けようとする敬虔な女性、モリーを凛々しく演じていて瞠目した。

3時間半の大作。確かに長いが、無意味なシーンはなかった。丁寧に描かれたオセージ族の儀式や服装、日常のディテールと共に、白人至上主義団体のKKKとパレードをする白人保安官など、人種差別という言葉すら存在しなかった当時の様子を綿密に描写することで説得力を生んでいる。オクラホマ州では1921年、アフリカ系住民が繁栄を築いていたタルサで大量虐殺が発生。この事件も80年以上、闇に葬られてきた。それを隠し続けた米国の歴史を思うと震撼する。

スコセッシ監督は「ディパーテッド」でアカデミー賞監督賞を獲得し、「グッドフェローズ」などギャング映画で知られる。生涯をかけ、作品を通して邪悪さ、冷酷さ、暴力性という人間の醜い一面をえぐり出してきたが、それは米国という国の成り立ちと向き合うことではなかったか。また、モリーのような高貴で民族の誇りを持った人物と対比させることで、全体に重厚なバランスを持たせている。この世界観は遠藤周作原作の小説を映画化した「沈黙‐サイレンス‐」でもくっきりと打ち出されていた。

今年、81歳になるスコセッシ監督。作品を長年観続けてきたひとりとして、本作が最後でないことを願うばかりだ。

Killers of the Flower Moon

 

写真クレジット:Paramount Pictures、
Apple Original Films
上映時間:3時間26分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。

 

Dumb Money〜注目の最新ムービー

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小さな魚が集まり、巨大な魚を食い尽くす


Dumb Money

新型コロナウイルスの感染拡大が確認された2020年、「自分は何をしていたのだっけ」と妙なことを考えてしまった。2021年初めにかけて全く先の見えない状況が続いたが、株式の世界は革命的な事態で沸いていた。経済通の方なら覚えているだろう「ゲームストップのショートスクイズ」。その顛末をわかりやすいコメディーとして描き出したのが本作だ。

主人公はオタク度高めの貧しい金融アナリスト、キース・ギル(ポール・ダノ)。優しい妻(シャイリーン・ウッドリー)と幼子がいる。キースは株式市場のSNS、レディット上のオンライン・コミュニティーのひとつ「ウォールストリートベッツ(WSB)」への書き込みから市場調査をし、Roaring Kittyという自身のYouTubeチャンネルで情報発信をしていた。ある日、ゲーム専門店のゲームストップの株価が下落していることに気付いて情報を流し始めると、WSB上の書き込みで、ゲームストップの株をメルビン・キャピタル・マネジメント創設者のゲイブ・プロトキン(セス・ローガン)といくつかのヘッジファンドや投資会社が空売りしていることが判明。もとより、つぶれかけた会社を食い物に利益を上げるヘッジファンドを嫌っていたキースやRoaring Kittyの視聴者、看護師(アメリカ・フェレーラ)、ゲームストップの店員(アンソニー・ラモス)ら多数の個人投資家たちは、証券取引アプリのロビンフッドを使い、ゲームストップ株を買いに走った。その結果、株価が大幅に上昇し、ヘッジファンドや他の機関投資家が巨額の損失を被る。ところが、キースは株式操作をしたとみなされ、証券詐欺で訴えられてしまう。

タイトルのダムマネー(Dumb Money)は、マーケットで冷静な状況判断ができない投資家の資金を指す。当初、ヘッジファンドの連中は、キースらの金をダムマネーと見下し、甘く見ていたが、その金にしてやられたわけだ。小さな魚が集まり、巨大な魚を食い尽くす、こんな痛快な出来事がコロナ下で起きていたとは。個人投資家たちのワクワクが本作からも伝わってくる。

ただ、ショートスクイズ、空売りの仕組みなど株式に疎い人にはちょっとわかりにくい展開かもしれない。詳しく知りたい人にはNetflixのドキュメンタリー「イート・ザ・リッチ ~ゲームストップを救え!~」(日本語字幕付き)がおすすめだ。本作がかなり単純化され、明快に作られていることがよくわかる。

後半、手数料ゼロの株式取引をうたうロビンフッドが、2011年に起こった「ウォール街を占拠せよ」で知られるウォール街批判運動から生まれ、「収入によらず誰もが利用できる金融サービス」を目指したにもかかわらず、裏ではウォール街とつながっていたことなどが明るみに出る。たった数年で次々と不正が暴かれていく、この国のスピード感を思い知った。ちなみに、打撃を受けたメルビン・キャピタル・マネジメントは2022年に閉鎖している。

 

 

Dumb Money

写真クレジット:Sony Pictures Releasing
上映時間:1時間44分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。