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Author: FLAT・ふらっと

2013年から続く乳がん・婦人科がん患者サポート団体のJapanese SHAREが、2023年4月1日より、ニューヨークを拠点とした非営利団体、FLAT・ふらっとに活動の場を移行。乳がん・婦人科がんのほか全てのがん患者、高齢者、スペシャルニーズのある子どもの保護者を対象とし、在米日本人コミュニティーを健康と医療の面から支える。問い合わせ:info@flatjp.org

新団体として在米日本人の健康を支えて 1年〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

新団体として
在米日本人の健康を支えて 1年


「アメリカ在住の日本人に必要不可欠なサポート活動を」と立ち上げた新団体、「FLAT・ふらっと」がニューヨーク州から非営利団体の認可を得て、はや1年が経ちました。創立メンバーである6人の理事と、多くのボランティアの皆さんの協力により、現在は9種類のプログラムをオンラインで定期開催しています。 
 
5月のニューヨークでのキックオフ・イベントを皮切りに、サポート・グループを中心としたさまざまな活動も定着。この半年で300人ほどの方を支援できました。また、この1年間に医療関連のウェビナーを計8回実施し、約800人の参加がありました。YouTubeチャンネルも開設し、より便利な方法で必要な情報と知識を届けられるようになっています。 
 
当団体の活動は、ボランティアの皆さんの協力なしでは何ひとつ成り立たないと言っても過言ではありません。ボランティアの皆さんの多くは、自身の病気の治療、仕事と両立させながら、その経験を生かしてサポート活動を行いたいという方々、そして専門知識やスキルを惜しみなく提供したいという方々です。自ら病気の経験を持つボランティア・スタッフが、ファシリテーター・トレーニングを経て開催するミーティングには、田原梨絵医師(乳がん患者サポートミーティング)、鈴木幸雄医師・村上幸祐医師(婦人科がん患者サポートミーティング)、山田悠史医師(シニア・カフェ)もアドバイザーとして参加しています。 
 
新団体への移行を機に、その他のがんの患者さんや、スペシャルニーズの療育を行う家族、情報を必要としている介護者さん、緩和ケアを求める方々のためのプログラムも始動。それぞれ専門性の高い医師や関係者を招き、皆さんの助けとなれるよう、取り組みを重ねています。参加者だけでは解決できない問題などを、医師に直接、セカンド・オピニオンにならない範囲で尋ねることができ、充実したミーティングを提供できていると自負しております。一般の方の参加が多いウェビナーも、米国の病院などで臨床や研究に従事する医師や、専門性の高い分野を極めている優れた方から、日米の違いなども含め日本語でわかりやすく解説を聞けると好評です。 
 
病院などで日本語での医療通訳を手配できるようにはなっているものの、アメリカの医療情報にアクセスすることは、英語を得意としない方々にはまだまだハードルが高いと、日々の活動を通して実感します。米国の医療や保険については、これまでもウェビナーや勉強会を企画してきましたが、今後はウェブサイトやニュースレターからも情報を届けられるようにできればと考えています。治療にまつわる経済的負担を少しでも軽減するため、アメリカで受けられるサービスについての情報も発信していく予定です。家族から離れて米国に暮らす患者さんの付き添いや電話でのサポート、さらに2024年から自己免疫疾患を持つ方への支援と、すでに動き始めている活動に加え、健康と運動のほか、メンタル・ヘルスもカバーできるよう、活動の幅を広げていくことも視野に入れています。 
 
当団体は、アメリカで生活をするうえで欠かせない医療情報とサポートを日本語で提供することで、言語や文化の違いが皆さんのアメリカ生活の質に影響を与えないようにするために活動しています。何より、皆さんがアメリカで重い病気にかかったり、けがをして治療が必要になったりしたときに支えていくことが私たちの使命と心得ています。仕事を辞めることを考え、高額な医療費を心配し、アメリカでの生活を断念することがないよう、また持病のある方が渡米する際の不安を少しでも和げられるよう、尽力していく所存です。 
 
皆さんに、本コラムを通してアメリカにおける日本人コミュニティーの草の根活動を知っていただければ幸いです。これからのFLAT・ふらっとを見守ってください。
 

ブロディー愛子■「FLAT・ふらっと」代表。患者アドボケート。乳がんサバイバー。2013年に日本人の乳がん患者のためのサポート団体、Japanese SHAREを設立。ライフコーチ、アーキタイパルコンサルタントとしても活動。

 

【新プログラム】スペシャルニーズの療育支援〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

【新プログラム】
スペシャルニーズの療育支援


 
皆さん、初めまして。在米日本人、日系人の健康と医療を支えるコミュニティー「FLAT・ふらっと」で、スペシャルニーズの療育支援を担当している倉本美香です。 
 
2003年に生まれた長女には、両眼性無眼球症と知的障害を含めた重度の重複障害があります。誕生した当時は、日本で「障害は“障がい”と記載すべき」とか、「障害者は社会のお荷物か」とか、問答が繰り返されていた頃でした。米国ではすでに「スペシャルニーズ」という言葉が使われていたことにとても驚いたものです。「障害児」ではなく「特別な助けを必要としている特別な子ども」という表現に、親として救われる思いがしました。 
 
前身団体「Japanese SHARE」では女性がん患者に向けたサポートが中心でしたが、新団体設立に動き出した昨年より「スペシャルニーズの療育支援」という部門が加わりました。私は医療の専門家ではないものの、手探りながらも障害児を育ててきました。その経験がどこかで役立つことがあればと、運営メンバーとして活動する日々です。 
 
今年はニューヨーク日系人会(JAA)主催のヘルスフェアにて、5月にはキックオフ・イベントを、10月には日本在住の岸田ひろ実さんをゲストに迎え、オンライン・セミナーを開催しました。ひろ実さんは、ダウン症で知的障害のある長男の出産から間もなく、夫の突然死を経験。自身の急性大動脈解離の手術後は、後遺症により車いす生活を送っています。2021年の東京五輪では、車いすに乗ったひろ実さんが長男と並走して聖火リレーをつなぐ場面も。TVの前で見守りながら目頭が熱くなったという方も多いことと思います。私たちの想像を絶するような人生、それでも「今がいちばん幸せ」と笑顔を見せるひろ実さん。セミナーでは、育児書が参考にならない子育てをどのように続けてきたか、当事者だからこそ語れるストーリーを惜しみなく話されていました。セミナー後、私たちの元に「勇気が湧いた」との声がたくさん寄せられました。 
 
ひろ実さんとの会話ではいつも、共通点も多いのですが、私たちのベースが米国であるという違いに改めて気付かされます。長女の子育てで何よりつらかったのは、同じ悩みを持つ方になかなかめぐり会えないこと。自分の意思で渡米し、出産したからこそ、日本にいる家族に心配や迷惑をかけてはいけないと思っていましたし、周囲を見渡しても障害児の子育てで悩んでいる友人は皆無でした。今ほどインターネットに情報が多くない時代、私自身が障害児、スペシャルニーズという固定観念にとらわれ、行動を制限してしまっていたのかもしれません。 
 
日本とは異なり、障害者手帳のない米国では、この症例ならこの支援を受けられるという一定の基準が存在せず、専門家や支援機構の門を一つ一つたたいて、その子なりの支援を受けられるよう療育計画を進めていかなくてはなりません。スペシャルニーズの場合、わが子にとって何がベストなのか周囲にも聞けないまま、常に正解のない課題を抱え、追い詰められたような気持ちになりがちです。ひと口にスペシャルニーズと言っても、目に見える障害、見えない障害があり、子どもの年齢も生後間もないうちから成人後までと幅広く、さまざまなケースが考えられます。 
 
毎月開催している定期オンライン・ミーティングでも、参加者それぞれの状況は異なります。その場に専門医がいるわけではないため、必ずしもお悩み解決とはならないかもしれませんが、子育てに行き詰まりを感じた時、わが子の成長にふと不安を覚えた時にふらっと参加できる、そんな集まりです。 
 
スペシャルニーズに直接関わりがなくても、何か力になりたい、特別支援教育に携わっているなど、いろんな立場の方々が気軽に立ち寄れる、居心地の良いネットワーク作りを目指しています。皆さんの参加をお待ちしております。

スペシャルニーズの療育支援ミーティング
www.flatjp.org/meeting-special-needs
参加にはウェブサイトの登録フォームにて連絡を。


倉本美香■
「FLAT・ふらっと」理事メンバーで、重複障害を持つ長女を含め二男二女を育てるワーキングマザー。世の中で埋もれている「助けて」の声を拾い上げる一般社団法人「TruBlue」理事も兼任。著書に『未完の贈り物』(産経新聞出版)、『生まれてくれてありがとう』(小学館)がある。
 

乳がん早期発見のためにできること〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

乳がん早期発見のためにできること


 
こんにちは、乳腺科医の田原梨絵です。新団体、FLAT·ふらっとでもこれまでと同様に、臨床アドバイザーとして皆さんの健康を支えていきます。どうぞよろしくお願いします。10月は乳がん月間。今回は、在米日本人の方が乳がんの早期発見のためにできることについて解説します。
 
日本人の乳がんが増加?
 
日本人に乳がんが増えていることをご存じでしょうか? 次のグラフは1975~2017年の乳がん年間罹患者数(新たにがんにかかる人数)と死亡者数の変化を表したものです。 
 
最近のデータでは、年間約9万人が新たに乳がんにかかり、年間約1万4,000人が死亡していることがわかります。乳がん患者は年々増加しており、罹患数はこの40年間で約10倍にもなります。日本人女性の9人に1人が、アメリカ人女性では8人に1人が生涯の間に乳がんにかかるとされ、罹患リスクはほとんど同じ程度に近付いてきています。
 
乳がん検診開始年齢に注意! 
 
乳がん発症のピークは、日本人では40代から70代であるのに対し、アメリカ人では60代以降の高齢者と、違いが見られます。日本では乳がん発症が増える40代に合わせて、40歳以上の女性が2年に1回、マンモグラフィー検査を受けることを推奨しています。米国では州や病院にもよりますが、アメリカ予防医学専門委員会からの提言で、乳がん検診開始の推奨年齢が2009年以降に50歳となっていたのを、2023年5月に40歳と変更されました。近年、アメリカで若年の乳がんが増加傾向にあり、今や乳がん患者の6人に1人が40代。そのため、40代の乳がんを早期発見できるよう、検診開始の推奨年齢を早めたわけです。 
 
日本と同様に、在米日本人女性の方も、40歳から乳がん検診を開始しましょう。また、乳がんの家族歴(血縁に乳がん罹患者がいる)を持つ方は、遺伝子検査についての説明やカウンセリングを受けることができますので、必ず家庭医に詳細を伝えるようにしてください。
 
大切な習慣、ブレスト·アウェアネスとは? 
 
私たちが日々の生活の中で乳がん早期発見のためにできること、それは「ブレスト·アウェアネス」です。ブレスト(Breast)は乳房、アウェアネス(Awareness)は意識。自分の乳房の状態に日頃から関心を持ち、意識して生活することを指します。実践したいのは、次の4つのアクション。ブレスト·アウェアネスを、あなたの健康を守る新たな生活習慣にしましょう。

1.乳房セルフチェック月に1回程度、自分の乳房の状態を知るために、乳房を見て、触って、感じること。生理がある方は胸の張りが少ない生理後に、生理がない方は毎月タイミングを決めて行ってください。
2.乳房の変化を知る気を付けなければいけない乳房の変化は、乳房周りや脇の下のしこりだけではありません。左右のサイズの差·形の変化、皮膚のくぼみやひきつれ、むくみに赤み、乳頭の変形·へこみ、乳房に見られる赤み·腫れ·ただれ·分泌物など、さまざまです。セルフチェックを習慣付けることで、こうした変化に自分で気付けるようになります。普段の自分の乳房と違いがないかを確認しましょう。
3.乳房の変化を自覚したら医療機関へ乳房の変化に気付いたら、次の検診を待たず、ただちに医療機関で診てもらうこと。
4.40歳になったら乳がん検診 39歳までは月に1回、セルフチェックを。40歳になったら、加えて定期検診を忘れずに受けるようにしましょう。

 
田原梨絵■FLAT·ふらっとの乳がんプログラム臨床アドバイザー、一般社団法人BC Tube理事を務める、ボストン在住の乳腺科医、MD。ダナファーバーがん研究所研究助手、MDアンダーソンがんセンターのリサーチ·インターンを経験。
 

どう違う? 子宮頸がんと子宮体がん〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

どう違う? 子宮頸がんと子宮体がん


在米日本人の皆さんの健康と医療を支える非営利団体、FLAT・ふらっと運営メンバーの産婦人科医、鈴木幸雄です。前身であるJapanese SHAREの活動を引き継ぎ、さらに充実させられるよう努めていきます。今回は皆さんに知って欲しい子宮がんの基本情報について、改めて解説します。
 
ポイント!

・子宮がんは2種類。子宮頸がんと子宮体がんがあり、全く別物!

・子宮頸がん予防は子どもたちへのHPVワクチンと大人の子宮頸がん検診の2本柱。子宮頸部細胞診(Pap test/Papsmear)は3年ごとに、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus/HPV)検査は5年ごとに受ける。

・子宮体がんの検診は検査精度が高くないので通常は不要! ほとんどは不正出血から早期発見が可能で、閉経後の不正出血に要注意。

 
Q. 子宮がんにはどのような種類がありますか?
 
A. 子宮がんには主に子宮頸がんと子宮体がんの2種類があり、かかりやすい年齢が異なります。
・子宮頸がん(Cervical cancer):子宮の入り口(頸部)にできるもので、日本では年間約1万1,000人(がんになる前の状態である上皮内がん・高度異形成を含めると約5万人)が新たに罹患します。がんの直前状態まで含めると、40歳までにかかるがんの約半分が子宮頸がんです。アメリカでも年間約1万4,000人の新規患者がいます。
・子宮体がん(Endometrial cancer):ほとんどは子宮体部の内側にある子宮内膜にできるがんです。子宮体部は、妊娠中に赤ちゃんが育つ場所。子宮頸がんと違い、40代後半からよく見られます。世界中で増えており、アメリカでは年間の新規患者数が7万人に近づいているところです。
 
Q. 子宮頸がんの原因と予防方法は?
 
A. 子宮頸がんの原因の95%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)です。HPVは性交渉によって感染するウイルスで、ほとんどの人が一生に一度は感染します。しかし、このがんは一次予防(病気にかからないようにすること)が可能。15、16歳までのHPVワクチン接種により感染を予防できます。さらに二次予防(早期発見)のためのスクリーニング(子宮頸部細胞診やHPV検査)をワクチンと組み合わせることで、ほぼ防げます。予防が成功している豪州などでは子宮頸がん患者が劇的に減り、制圧宣言も出ています。
 
Q. 子宮体がんの原因と予防方法は?
 
A. 特定の原因はありませんが、出産経験のない方や肥満症の方が子宮体がんになりやすいとされています。早期発見のための検査は、現時点では存在しません。ほとんどのケースは閉経後の不正出血で発見される早期がんで、治りやすく予後も良好です。閉経後の出血に気付いたら、早めに婦人科で診察を受けることが重要です。子宮体がんのうち5%ほどが遺伝性。大腸がんを発症しやすいリンチ症候群(Lynch syndrome)がその代表です。家族や親戚に大腸がんが多く見つかる場合、かかりつけ医に相談してみましょう。
 
【よく聞かれる質問】
 
Q. 子宮頸がんは遺伝しますか?
 
A. 子宮頸がんは遺伝しません。95%以上の原因がHPV感染であることがわかっています。個人個人がHPVワクチン接種とスクリーニングのための検査を行い、きちんと予防することが大切です。
 
Q. 子宮体がん検診は受けたほうが良いのでしょうか?
 
A. 子宮体がんのスクリーニングに検査を受ける必要はありません。子宮内部からの細胞診は可能ですが、正確さを欠くため推奨されていません。不正出血の自覚が早期発見につながります。
 
 
鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。在米日本人の生活と医療を支えるNPO、FLAT・ふらっとの代表メンバー。 
 

シニア・カフェ ~高齢者を対象とする新たなコミュニティー~私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

シニア・カフェ ~高齢者を対象とする新たなコミュニティー~


在米日本人、日系人の健康と医療を支えるNPO「FLAT・ふらっと」で新しく始めたプロジェクト、「シニア・カフェ」のアドバイザーを務める米国老年医学専門医の山田悠史です。毎月第1水曜日に定期開催しているこのカフェは、高齢者の皆さんにリラックスした雰囲気の中、身近な日常生活の話題から認知症などの健康問題まで、ざっくばらんに話し合ってもらえるオンライン・コミュニティーです。高齢者の社交の場であり、また、さまざまな健康問題について情報を共有し合える場としても機能しています。 
 
これまで数回実施した中でよく話題に上るのが、認知症の予防、サプリメントの適切な利用、骨粗しょう症との向き合い方、内服薬の注意点、大気汚染問題への対処など。現代社会で高齢者が直面する可能性の高い課題が中心です。一方で「米国で納豆を自作するには」といった、食べ物や料理のトピックで盛り上がることもありました。 
 
シニア・カフェは毎回1時間半ほど行われ、前半はファシリテーターの司会で参加者の皆さんが交流。後半は医師のアドバイザーも加わり、参加者からの質問に、科学的根拠を基に回答する形で進行します。私以外にも、FLAT・ふらっと代表で国際コーチ連盟認定ライフコーチのブロディー愛子などの専門家がアドバイザーやファシリテーターとして参加し、在米シニアの方々からの健康や生活に関する相談に応じると共に、介護を必要とする方の家族に対する支援も積極的に行っています。 
 
全てをオンラインで提供することにより、地域や国境を越えた高齢者同士の交流も後押しします。アメリカ国内にとどまらず、世界各地から参加者が集まるようになれば、さまざまな異文化に触れる機会も増えるかもしれません。単に情報提供の場にすることなく、参加者の交流を促し、同世代の友人を求めている方々が新しい交友関係を築けるよう、また、このカフェが孤独感を軽減する心の支えとなるよう尽力したいと考えています。 
 
カフェ参加者の皆さんにお願いしているのが、必ずカメラをオンにすること。お互いに顔を見ながら話をすれば、オンラインであっても直接会っているかのように、コミュニケーションを取りやすくなります。途中参加や途中退出は自由。それぞれの都合や体調に合わせて参加できます。 
 
シニアがより自分らしい人生を送り、学び、交流を通じて社会とつながり続けること。このプロジェクトによって、そのためのお手伝いができればと願っています。ここには、余生を豊かに過ごすための情報、共感し合える仲間たち、新しい友人が待っています。地域コミュニティーの活性化、国際交流の促進、健康生活のサポートと、多岐にわたる役割を果たす新しいプラットフォームに、ぜひご参加ください。その一歩が、人生の新章の始まりになるかもしれません。皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。 
 
一般的にシニア(高齢者)は65歳以上の方を指しますが、当シニア・カフェは60歳からご参加いただけます。詳細、申し込みは下記ウェブサイトにて。

シニア・カフェ
www.flatjp.org/cafe-senior
参加にはウェブサイトの登録フォームまたはinfo@flatjp.orgへのメールにて連絡を。

健康の大疑問                 著者:山田悠史出版社:マガジンハウス新書
 
山田悠史■米国老年医学専門医。マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科所属。ニューヨークで臨床医として活躍する傍ら、日本のメディア「NewsPicks」の公式コメンテーター。また、講談社ウェブマガジン「mi-mollet(ミモレ)」での連載や、音声コンテンツ「医者のいらないラジオ」配信なども行い、多岐にわたって活動。2023年1月に上梓された『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)が絶賛発売中。在米日本人の生活と医療を支えるNPO、FLAT・ふらっとの代表メンバー。
 

「介護者さんカフェ」へようこそ〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

「介護者さんカフェ」へようこそ


ソイソース読者の皆さん、初めまして。在米日本人、日系人の健康と医療を支えるコミュニティー「FLAT・ふらっと」の新プログラム、「介護者さんカフェ」でファシリテーターとしてお手伝いするテキサス州在住のジャーナリスト、片瀬ケイです。 
 
介護者とは、英語で「ケアギバー」のこと。自分も家族も幸い元気でいるという場合、ケアギバーと聞いてもピンと来ない方は多いのではないでしょうか。でも、長い人生の中では、自分や家族がさまざまな疾患、けがで助けを必要とする日がいつ来てもおかしくありません。 
 
大切な家族が助けを求めているなら、何かしてあげたいと思うもの。それは誰しも同じですが、在米日本人、日系人ならではの苦労や制約に直面することも。また、介護が長期にわたる場合には、介護を受ける側、する側のそれぞれの人生についてバランスを考えていくことも大切になってきます。 
 
私は15年ほど前に米国で卵巣がんの診断を受け、手術と5カ月にわたる化学療法を受けている間、配偶者にいろいろと助けてもらいました。昨年は、日本で大腸がん治療を続けている高齢の母に認知障害が発覚。ひとり暮らしの母の生活をどう支えていったら良いのかと、途方に暮れる経験もしました。 
 
卵巣がん治療の際は、がんと診断されたショック冷めやらぬまま、自分の病気や治療法について、医学英語を辞書で必死に調べながら医師の説明を理解しなければなりませんでした。開腹手術なのに3、4日で退院と言われ、はうように帰宅したことも。仕事の調整や長期休業保険の手続きをする中、調べれば調べるほど謎が深まる米国の医療保険制度にはうんざりさせられました。 
 
一方、抗がん剤で大腸がん治療をしていた母は、認知障害で日時の感覚がなくなると、適切な服薬も通院もままならない状態に。金銭管理、食事の準備、火元の管理ができなければ、がん治療どころか、ひとり暮らしも難しくなります。日本に介護保険制度があることは知っていましたが、もう27年も日本を離れて暮らしている私は、制度の利用について一から調べなければなりませんでした。 
 
やはり母国を離れて暮らす分、自分や家族が病気になった時にわからないこと、不安なことが山ほど出てきて、心の中でどんどん膨らむと孤独感も強まります。これは介護される側も、介護をする側も同じでしょう。両者とも自分たちの日々のことだけに集中して、孤立を深めてしまうこともあります。 
 
私もがん治療時、たとえ配偶者であっても、周りの人と話をしていてどこか「がんを体験したことのない人にはわからない」という気持ちがありました。また、日本にいる母の認知機能が急速に悪化していった時も、「同じように経験したことのない人には、この窮状はわかってもらえない」といういら立ちを覚え、孤独感にさいなまれました。 
 
しかし最終的には、少しずついろいろな人と話したり、情報収集をしたりすることで、「なんとかなるかも」という気持ちが湧いてきました。特に、同じような経験をした人に体験談を聞いたり、相談に乗ってもらったりすることで、気持ちが落ち着きます。つらい境遇に置かれているのは「自分ひとりじゃない」と実感できるからでしょう。 
 
「FLAT・ふらっと」で始まった「介護者さんカフェ」も、そんな気付きを提供できる場になればと願っています。いつも何かと忙しい介護者の皆さんが、似たような経験をしている人とちょっとおしゃべりしてみたい時に、オンラインでどこからでも集えるサロン。介護の状況は家庭ごとに違いますし、「介護に正解はない」とも言われます。それでも、仲間との会話を通してヒント、笑い、相通じる気持ちを得られたら、「とりあえず明日も頑張ってみようか」と思えるのではないでしょうか。飲み物は自前になりますが、ふらっとカフェに立ち寄ってリラックスするつもりで、顔を出していただけたらうれしいです。
 
片瀬ケイ■ジャーナリスト、翻訳者。東京の行政専門紙記者を経て1995年に渡米。カンザス大学よりジャーナリズム修士号取得。米国人の夫とテキサス州在住。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサーとして、「米国がんサバイバー通信」でがんや医療に関わる情報を発信中。共著書に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓―家族と多様性の各国事情』(ちくま新書)がある。「米国がんサバイバー通信」
https://news.yahoo.co.jp/byline/katasekei
 

さまざまながん患者さんをサポートする新プログラム〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

さまざまながん患者さんを
サポートする新プログラム


ソイソース読者の皆さん、初めまして。在米日本人、日系人の健康と医療を支えるコミュニティー「FLAT・ふらっと」で、がん患者さんとサバイバーさんのための無料サポートミーティングをお手伝いしている、ほまりきょうこです。この4月より、性別・年齢に関係なく、乳がんと婦人科がん以外の「その他のがん」(大腸、胃、肺など)を経験した方を対象とする無料サポートミーティングも月に1回、オンラインでスタート。私はそのファシリテーターを務めています。参加する方々が治療での心配事や困り事ほか、逆にためになったこと、うれしかったことなど、それぞれの経験や気持ちを分かち合えるよう、サポートしていけたらと思います。 
 
私自身、がん経験者で、検査、告知から治療までの全てをアメリカで受けています。それまでずっと健康だったにもかかわらず、立て続けに甲状腺がん、乳がん、大腸がん(転移がんではない)にかかり、受診の際は毎回、担当医に「Perfect, healthy cancer patient!(完璧で健康な、がん患者だね!)」と、笑顔で言われています。子育てと仕事に追われながら治療をしていた時には、日本語でのサポートプログラムにずいぶん助けられました。 どのがんにしても、告知を受けるのはつらいもの。そのショックを引きずりつつ、自分の病気についてまだ何もわからないままでも、治療内容を選んで決断をしていかなければなりません。ほとんどの医師は、こちらから質問をしなければ基本的なことしか説明せず、初めのうちは何を質問して良いのかすら、わからないという人がほとんどでしょう。 
 
3度のがん経験を通して学んだのは、「ひとつとして同じがんはない」ということ。同じ名前、同じステージでも、ひとりひとり、がんができる場所も、その範囲や状態も違います。検査結果や医師との会話から、自分自身の唯一無二のがんについて理解していくことが求められます。最適な治療を選択していくのは、自分にしかできないことなのです。 
 
一方で、確かな情報や経験者の話から、正しい知識を増やしていく難しさも感じます。ネット上にはたくさんの情報が飛び交うものの、医師、専門家、がん経験者から学べば学ぶほど、間違った情報の多さと危険性に気付くことになります。当団体のブロディー愛子代表を始め、専門家や多くのがん仲間との交流がなければ、果たして元気と自信を持って自分の治療を進められていたかどうかもわかりません。 
 
新しく「その他のがん」プログラムを開始するに至ったのは、そうした自分の経験があったから。例えば、乳がんだと、患者サポートミーティングやヨガ・クラスなど比較的多くのプログラムを見つけられますが、その他のがんになると一転、ほとんど提供されない現実があります。大腸がんのサポートグループにしても、全米規模の信頼できる団体の中にたった1件という具合です。 
 
国立がん研究センターの統計データ(2019年)によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性66%、女性51%であり、がん罹患総数は、1位大腸、2位肺、3位胃、4位乳房。それがアメリカとなると、アメリカがん協会(ACS)の2019年までの5年間のデータでは、がんの発生率が1位乳房、2位前立腺、3位肺、4位大腸と順位が変わるということも、その他のがんのサポートが少ない理由のひとつかもしれません。 
 
海外にいる私たちにとって、がんに限らずどんな病気であっても、身近に日本語で病気について話せる人がいるだけで大きな心の支えとなります。新プログラムでは、患者さんの個々の状況に応じて必要な時に寄り添い、情報や経験を共有したり心情を分かち合ったりしながら、最善の道を探れるよう支援していきます。多くの方を後押しできる場を作ることを目指していますので、このようなサポートを必要とする方はもちろん、今は病気でない方も、ぜひ活動に参加してもらえればと思います。ボランティア、寄付も受け付け中です。 
 
今後は、医師、研究者、栄養士などの専門家をアドバイザーとしてミーティングに迎えたり、健康や医療に関するセミナーを企画したりと、さまざまな活動をしていく予定ですので、どうぞご期待ください。
ほまりきょうこ■在米、複数がんサバイバー。子育てと仕事をしながらの治療を経て、現在がん寛解中。2017年よりJapanese SHAREのサポートミーティングに参加し、ボランティア・ファシリテーターを務める。今年から「FLAT・ふらっと」の「その他のがん」部門を立ち上げ、活動中。

 

「FLAT・ふらっと」へ活動の場を移行〜私たちの命を守るヘルスケアVol.32

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

「FLAT・ふらっと」へ活動の場を移行


こんにちは、「FLAT・ふらっと」代表のブロディー愛子です。いつも本コラムをお読みいただきありがとうございます。 
 
2013年より在米日本人女性のがん患者とサバイバーを支援してきたJapanese SHAREですが、母体であるアメリカのNPO、SHAREキャンサー・サポートの運営資金がないことを理由に、この3月で活動を打ち切られました。4月からは新たに、非営利団体「FLAT・ふらっと」として活動を始めています。
 
Japanese SHAREでこれまで支援を行った日本人がん患者女性の過半数は、夫のアメリカ赴任に帯同して渡米した方々です。異国の英語環境に不慣れな中で仕事が忙しい夫を支え、子育てを担っていました。また、日系企業に現地採用された社員の方々もおり、米国の一般的な企業と比べ、がん治療と就労の両立はまだまだ困難なのが現状だと感じさせられました。ほかに、自身が駐在員という方からも連絡を受けますが、その大半は治療のためにアメリカで仕事を続けられなくなるのではないかとの不安を抱えていました。
 
 
日本からの短期滞在者が入っている比較的良い健康保険プランだと、種類によっては患者を病院や医師につなぐところまでのサポートをしています。しかしながら、現地に住んでいないナビゲーターが選んだ病院に、日本の医療機関がそろえた資料を手に問い合わせても、情報不足のために予約すら取れないことも。困り果てた方から連絡をもらうことも少なくありませんでした。アメリカでは実際に病院の世話になってからわかることがたくさんあるのです。 
 
このような方々へのサポートを継続していくため、長島・大野・常松法律事務所ニューヨーク・オフィス共同代表の大久保涼弁護士の賛同・協力を得て、在米日本人の健康と医療を支えるコミュニティー作りをミッションとするFlatJP Inc.を設立し、非営利団体「FLAT・ふらっと」を立ち上げました。具体的なプログラムは、次の通りです。
 
 
婦人科がん患者のサポート 
本コラム執筆も行う婦人科腫瘍専 門医の鈴木幸雄医師と、企業研究 者で患者アドボケートの清水佐紀 氏が担当

女性限定・転移がん患者のサポート 
「FLAT・ふらっと」代表、ブロディー愛子が担当

乳がん患者のサポート 
本コラムでもおなじみ、乳腺専門医 の田原梨絵医師が協力

その他のがん患者のサポート NEW 
乳がんと婦人科系がん以外のがんに罹患した方への支援もスタート

シニアへのサポート NEW 
老年科専門医の山田悠史医師による

特別支援を必要とする子どもを持つ保護者のサポート NEW 
全ての子どもたちに向け療育環境を整えるアドボケートの倉本美香氏による

 
 
これらのプログラムでは、サポートミーティングなどを定期開催するほか、在米日本人向けのセミナー(ウェビナー)も企画中。この5月には、ニューヨーク日系人会にてキックオフ・イベントを開催し、無料セミナー「子育てや療育の悩み、何でも座談会」「シニアとがん」「認知症を防ぐ9つの方法」には、オンライン含め大勢の参加がありました。今後の活動やイベントについての詳細はウェブサイト(www.flatjp.org)をご覧ください。2017、2019年に日本から多くの医療者やアドボケートがニューヨークの医療現場を視察した「ニューヨーク医療視察ツアー」と、2021、2023年にオンラインで実施したセミナー「日米の視点から見る、患者と医師の関係」の継続も計画しています。 
 
さらに、これまで米国で対象外にされてきた在米アジア人への医療研究や、医療格差をなくすための働きかけも行っていく予定です。そして、女性を対象とした内容が中心だった本コラムも「私たちの命を守るヘルスケア」とタイトルを変更し、リニューアルしました。健康や医療に関する情報をこれまで以上に幅広くお届けできたらと考えていますので、引き続きよろしくお願いいたします。
 
ブロディー愛子■「FLAT・ふらっと」代表。患者アドボケート。乳がんサバイバー。2013年に日本人の乳がん患者のためのサポート団体、Japanese SHAREを設立。ライフコーチ、アーキタイパルコンサルタントとしても活動。

 

認知症患者が、がんなどの重い病気になったら〜私たちの命を守るヘルスケア Vol.31

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

認知症患者が、がんなどの重い病気になったら


このたび、Japanese SHAREはFLAT・ふらっととして新体制へ移行することになり、本コラムをリニューアルしました。今後は女性のがん患者を対象とした内容にとどまらず、幅広い分野を扱っていきます。今回は、老年医学専門の山田悠史医師と婦人科がん専門の鈴木幸雄医師による、がん治療についての談話をお届けします。

認知症患者が、がんなどの重い病気になった場合、どのように治療を進めますか?

山田:鈴木先生を始めとする、がん治療医にかかる前の段階が、私たち老年医学科の役割と言えます。認知症患者では、本人に治療を選択する意思決定能力があるかどうかで状況が大きく変わってきますので、まずはその判断をします。もし、意思決定能力に欠けているということであれば、本人だけでなく、家族など本人を理解する意思決定代行人と共に、治療の方向性を決めていかなければなりません。ですので、認知症でない患者さんよりもひと手間かける必要がありますが、治療を始めるに当たっては重要なプロセスです。 

本人との意思疎通が全くできない状況では、何事も家族に意思決定を委ねることになりますが、実際にはそうでないケースがほとんど。本人、家族での共同作業により意思決定がなされます。その際に必ず注意したいのが、家族は「自分だったらこうしたい」という視点で語りがちだということです。「本人だったらどうだろうか?」と、想像しながら治療を決められるように意識することが大事だと、常に伝えるようにしています。

鈴木:私も基本的なスタンスは同じです。認知症患者のがん治療における大きなポイントは2つ。まずは山田先生のお話の通り、治療前の段階ですね。患者さんが治療に耐えられるかどうかに加え、本人の意思決定能力が十分でない場合には本人の意思をそのままダイレクトにくみ取って治療していくことが困難なため、代理決定のプロセスについて確認していきます。代理決定を行ううえでは、もし本人だったらどこまでの治療を求め、どういった目的で治療し、何を希望するのか、その話し合いを丁寧に進め、チームみんなで想像しながら治療方針を決めます。どうしても、家族の中で強い意見を持つ方に引っ張られがちなので、本人の代わりに決定していくということを、全員の共通認識として持つことが大切です。 

そして2点目は、治療のゴール設定についてです。がん治療医としてはこちらも重視することになります。一般的には「がんの治癒」が目標かと思いますが、認知症患者や高齢者では、体力やADL(日常生活動作)が下がっている場合にゴール設定を変えることがあります。例えば、寝たきりにならないようにする、出血などのある場合には止血をする、という具合に、体調の向上と日常生活のクオリティーを最低限保てるような目標を立てます。

認知症患者ということで、特に気を付けたい点は?

山田:そもそも認知症を発症している時点で、そうでない人と比べて寿命が限られる可能性があります。例えば、それまで特に健康状態に問題がなくて40歳でがんが見つかった患者さんの場合、「この抗がん剤治療を」「この手術を」などとストレートに話をしますが、認知症の患者さんではそうはいきません。意思決定能力に問題ないかはもちろん、残された時間がどのくらいあって、その時間の中で何を優先したいのかということを明らかにしていきます。つまり、必ずしもがん治療が優先とは限らないのです。 

準備段階にかなり時間がかかりますし、40歳の患者さんと比べるとプロセスがより複雑になることが多いかと思います。そこが、大きな違いだと感じます。

鈴木:そうですね、具体的な治療に関しても、がんを取り去るとか、再発させないとかではなく、制限のある中でゴール設定を考えていかなければなりません。がん治療医と家族は、どうしても病変を治すことばかりに集中してしまうので、たとえ本人の体力から考えて行き過ぎた治療でも、やめられなくなることがあります。 

きちんとゴール設定をして、本人の望む方向、生活の質が保たれるようにすることが何より大切だと考えています。

山田悠史■米国老年医学専門医。マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科所属。ニューヨークで臨床医として活躍する傍ら、日本のメディア「NewsPicks」の公式コメンテーター。また、講談社ウェブマガジン「mi-mollet(ミモレ)」での連載や、音声コンテンツ「医者のいらないラジオ」配信なども行い、多岐にわたって活動。2023年1月に上梓された『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)が絶賛発売中。在米日本人の生活と医療を支えるNPO、FLAT・ふらっとの代表メンバー。
 
鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。在米日本人の生活と医療を支えるNPO、FLAT・ふらっとの代表メンバー。