がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。
日本語で参加できる乳がんサバイバーの
心と体の臨床研究
「臨床研究」や「治験」と聞くと、新薬開発のためのものという印象を持たれる方も多いかもしれません。でも病気の治療や療養に必要なのは、治療薬そのものだけではありません。治療中や治療後の人がより健やかに過ごせるよう、どのような支援が有効かを探る研究もあります。
テキサス大学オースティン校看護学部の研究チームもその一つで、在米日本人を含むアジア系の乳がん患者やサバイバーを対象に、痛みや抑うつ症状のセルフマネジメントを支援する研究に取り組んでいます。今回は、この研究に参加した「FLAT・ふらっと」の乳がん患者ミーティングでファシリテーターを務めるロング容子さんと研究チームの服部知子さんに、この研究について教えてもらいました。
はじめて臨床研究に参加してみて −ロング容子
私は2014年にアメリカで初めて受けた乳がん検診でステージ3のがん宣告を受けました。化学療法、放射線治療、手術を経て、昨年ようやく10年にわたるホルモン治療が終わりました。がん治療は思っていた以上に長丁場で、患者は身体的にも精神的にもアップダウンを経験することが少なくありません。
「FLAT・ふらっと」には、治療中に同じ乳がんを経験している方々と日本語で交流したくて参加し、最近では乳がん患者ミーティングのファシリテーターも務めています。アメリカでは患者会活動がさかんで、患者やサバイバー同士が助け合ったり、最新治療について学んだり、医学研究に協力したりしています。
数々の乳がん治療法が確立されてきたのは、これまで多くの乳がん体験者、いわゆるピンク・シスターズが臨床研究に協力してくれたおかげです。私も何らかの形で貢献したいと思っていましたが、研究や治験に参加することには抵抗がありました。がんの治験は標準治療が効かなくなったときに検討するものだけだと思い込んでいたからです。でも、紹介されたテキサス大学オースティン校の研究は、それとはまったく違いました。
この研究は、在米アジア人(日本人・中国人・韓国人)の乳がんサバイバーを対象に、乳がんを経験した後の心と体のケアに関する支援を探るものです。「頑張る」ことや「耐える」ことを美徳とするのは日本人の国民性でしょうか? 私自身、治療中は痛くても我慢したり、体調が思わしくなくても笑顔で対応したりと、今思うと心身ともに無理をしていたと思う時があり、この研究は私にぴったりだと思いました。
参加方法も簡単でした。インターネットで登録し、1時間ほどの選択式の質問に回答しました。参加条件を満たしていることが確認されると、Fitbit(腕時計型のウェアラブル端末)が送られてきました。Fitbitで参加者の毎日の活動量を記録するそうです。
その後、担当の方と毎週約1時間、チャットで治療中の様子や健康管理についてやりとりをしました。チャットも日本語なので、友人と話しているような感覚で楽しく参加できました。「FLAT・ふらっと」もそうですが、母国語を使える安堵感は大きいもの。アメリカで日本人を含むアジア系女性に焦点を当て、母国語で参加できる研究が行われていることを非常に心強く感じました。
研究参加の期間は3カ月で、3回に分けて合計150ドル分のギフトカードとFitbitをいただきました。Fitbitは今でも毎日着用しており、健康管理にとても役立ってます。
在米日本人乳がんサバイバーに適した支援を探る −服部知子
この研究は、テキサス大学オースティン校看護学部の研究チームが、米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受けて行っている健康研究プロジェクトの一環です。主要研究者は、ウノク・イム教授らです。
在米アジア系の乳がんサバイバーの中には、文化的背景や言語の違いなどにより、症状をうまく伝えられなかったり、痛みを我慢したりして、十分なサポートにつながりにくい方がいます。そのため、それぞれの背景に合った支援が必要だと考えています。この研究では、パソコンやモバイル機器を使い自宅から気軽に参加できる「情報提供・サポートプログラム」を開発しています。参加者一人一人のニーズに合わせて情報提供や目標設定を行い、痛みや抑うつ症状の軽減を目指します。
私も研究チームの一員として介入看護師を務めています。本研究では、参加者の方の母国語で文化的背景を大切にした一対一の対話を通して、日常生活に良い変化が生まれることを期待しています。
在米日本人の乳がん体験者から、100人分のデータを集めたいと考えています。よりよいサポートづくりに向けて、乳がん体験者の方は、ぜひお気軽にお問い合せ、ご参加ください。
この研究に関する問い合わせ・申し込みは、以下のサイトでご確認ください。https://cai.research.nursing.utexas.edu
ロング容子■FLAT・ふらっとの患者ミーティング・ファシリテーター。1987年に渡米し、米国の大学を卒業後、働きながらMBA取得。金融機関勤務、会社設立を経て、現在は専業主婦を満喫中。
服部知子■看護師。1998年に渡米し、米国の大学・大学院を卒業。テキサス大学にて脳科学研究に携わった後、2016年に看護の道へ転身。現在は同大学看護学科のCAI研究において介入看護師を務めるとともに、外来消化器クリニックでクリニカルナーススペシャリストとして勤務している。


山田悠史■米国老年医学専門医。マウントサイナイ医科大学、老年医学・緩和医療科所属。臨床医として活躍する傍ら、ニュースメディアや音声コンテンツなど多岐にわたって活動中。『最新科学か覆す 体にいいのはどっち?』(サンクチュアリ出版)など、科学的根拠に基づく健康関連の著書多数。在米日本人の健康と医療を支える「FLAT・ふらっと」の代表理事。X:
高森英治■1989年よりニューヨーク在住。日米の金融機関での勤務を経て、現在はヨガセラピスト、ヨガ講師、ストレス軽減スペシャリスト、ストレッチおよびマインドボディ・ウェルネスコーチとして日米で活動中。心身のバランスを整え、健康寿命の延伸をサポートするプログラムを対面およびオンラインにて提供している。個々の状態や目的に合わせ、安全で無理のないアプローチを大切にする。
倉本美香■「FLAT・ふらっと」理事メンバーで、重複障害を持つ長女を含め二男二女を育てるワーキングマザー。世の中で埋もれている「助けて」の声を拾い上げる一般社団法人「TruBlue」理事も兼任。著書に『未完の贈り物』(産経新聞出版)、『生まれてくれてありがとう』(小学館)がある。
がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。
伊藤純一■2005年に渡米。ニューヨークを拠点にフォトグラファーとして活動している。2児の父。自身のがんの経験をきっかけに、FLATなどがん患者のサポートミーティングに定期的に参加している。
清水佐紀■ FLAT・ふらっと理事。薬学学士、医学博士。東京科学大学(旧:東京医科歯科大学)大学院にて医学博士を取得後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校AIDSインスティチュートでエイズの遺伝子治療開発に関する研究に従事。現在はサンフランシスコ・ベイエリアのバイオテック企業で遺伝子治療研究者として勤務。





尾谷知亮■奈良県生駒市出身。京都大学医学部卒業。日本医学放射線学会放射線診断専門医、日本核医学会核医学専門医、日本インターベンショナルラジオロジー学会(IVR)専門医。現在はスタンフォード大学の核医学・分子イメージング部門で客員研究員として研究に従事。趣味は将棋、水泳、ランニング、経済の勉強。
相馬真子■
七条由佳
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ブロディー・愛子 「FLAT・ふらっと」代表



田原梨絵■


安川康介 ■
清水佐紀 ■
中川俊一■内科医、老年医学医、ホスピスおよび緩和医療医。北海道大学医学部卒業後、クリーブランド・クリニックの肝移植フェロー、同クリニック内科レジデント、マウント・サイナイ医科大学老年内科フェローなどを経て、現在はコロンビア大学医学部で緩和医療科入院部門のディレクターを務める。
村上幸祐■
鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。在米日本人の生活と医療を支えるNPO、FLAT・ふらっとの代表メンバー。