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Author: 中島雅紘

法学と国際関係学の学位を持ち、マネジメントと社会開発において豊富な実績がある。組織変革を主導し、診療所設立やスタートアップへの貢献、また、NPOの設立やボランティア活動を通じてコミュニティの幸福向上に尽力し、社会革新を推進している。 つくば学園ローターアクトクラブ2025年度幹事 シアトルロータリークラブ会員 WA show it LLC 創設代表  masa.nakashima@maripiyo.com

第11回「着たい服」を諦めない社会へ。 ーアパレル産業の構造を変える「キヤスク」の挑戦ー 発掘! あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

第11回「着たい服」を諦めない社会へ。 ーアパレル産業の構造を変える「キヤスク」の挑戦ー 

 

健常者前提のアパレル産業が見落としていた
「選択肢の格差」

今回ご紹介するのは、病気や障害のある人が抱える「服の不自由」を解決するオンラインお直しサービス「キヤスク」を展開する、前田哲平さんの取り組みです。

起業に至った原点は、前職のユニクロ時代に耳にした「障害のある人たちには、着られる服がない」という言葉でした。気になって自ら当事者や支援団体にヒントを求めていくと、アパレル産業の構造的な問題が見えてきました。既存の服飾業界は「健常者が着る」ことを前提に設計されています。そのため、体が不自由な人々は「自分が着たい服」ではなく「着脱しやすい服」を優先して選ばざるを得ず、おしゃれを諦めているという現実があったのです。障害や病気の程度は人によって千差万別であり、一律の「障害者用デザイン」では根本的な解決にはなりません。この「選択肢の少なさ」という課題をアパレル産業全体で変えていくため、前田さんは独立を決意しました。

当事者に寄り添う「キヤスク」のビジネスモデル

2021年にスタートした「キヤスク」は、既製服をその人の体や生活に合わせてお直しするオンラインサービスです。「Tシャツの前開き加工」や「車椅子ユーザー向けパンツ」など、ニーズの高いお直しメニューを標準化し、自宅からの発送と受け取りで完結する仕組みを構築しました。

お直しの相談から実作業までを担うのは、「キヤスト」と呼ばれるスタッフたちです。中には、障害のある子どもの服を日々工夫してきた経験を持つ人もいます。キヤストは単なる技術者ではなく、利用者の悩みや生活の場面を想像しながら、一人一人の細やかなニーズに応えています。

心折れずに進み続ける原動力と、
急拡大を追わない持続可能性

社会課題解決を掲げる事業は、収益化の壁に直面し、理想と現実の乖離に「心が折れそうになる」ことも少なくありません。そのような中で、事業を長年続けられる前田さんの原動力は、「お客様とキヤスト、双方からの喜びの声」でした。「お直しを通じてお客様が喜んでくれるだけでなく、キヤストも社会参画ができ、やりがいを持って取り組んでくれています。目の前に喜んでくれる人たちの存在が、自分自身の満足と大きな原動力につながっているんです」と語ります。

その理想を現実にするため、前田さんはスタートアップによくある「外部資本を入れて無理に事業を急拡大させる」アプローチを取りません。サービスを必要とする人たちに長く届け続けるための「持続性」を最優先し、固定費を抑えることで、利益至上主義に陥らないエコシステムを構築しています。

「外部資本を大きく入れると、出資者のために無理にでも急拡大させなければならなくなります。障害者向けのサービスが立ち上がっては撤退していく現状を見てきたからこそ、細々とでも『絶対にやめない、期待を裏切らない持続性』が何より大切だと考えました」

無理な急成長を追わず、着実に社会へのインパクトを残す。現在は、キヤスクで蓄積した独自の知見を大手アパレル企業向けの法人支援へと展開し、産業全体の構造を変えようと動き出しています。

SDGsへの貢献

キヤスクの事業モデルは、単なる福祉やアパレルの枠を超え、SDGsの複数の目標に深く合致しています。

まず、健常者との間にある「服の選択肢の格差」を是正するアプローチは、目標10「人や国の不平等をなくそう」に直結します。障害の有無にかかわらず、誰もが自分らしくおしゃれを楽しめる社会の実現です。

また、全国の「キヤスト」の存在は、目標8「働きがいも経済成長も」を体現しています。家族の介護などで外に働きに出ることが難しい人たちに、自宅にいながら自身の経験を生かして社会参画できる「働きがいのある仕事」を提供しているのです。

さらに、そのままでは着にくい服をお直しによって着られるようにする仕組みや、法人支援を通じてアパレル企業に多様な服作りを促す姿勢は、目標12「つくる責任 つかう責任」の達成に大きく貢献しています。

SDGsへの私たちの一歩

キヤスクの取り組みは、利用者と働き手の双方が救われるストーリーを中心に据えながら、アパレル産業全体を巻き込んで構造を変えようとする、まさに「SDGs経営」の理想形の一つです。自社の利益だけを追求するのではなく、社会全体にポジティブな影響を広げていく。一企業の挑戦であっても、本質的な課題に寄り添い続ける意思があれば、産業の常識は変革できるでしょう。 社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。

株式会社キヤスク代表取締役 前田 哲平■福岡県出身。地元銀行勤務を経て、株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)にて店舗運営、商品計画、Eコマース事業などに20年間従事。2018年から障害者の「服の不自由」についてヒアリングを実施、3年間で約800人の当事者の声を集める。2021年に起業し、翌年、オンラインお直しサービス「キヤスク」を立ち上げる。


参考文献

▪️キヤスク  https://kiyasuku.com

第10回 2030SDGsカードゲームが企業の対話を変える〜発掘!あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

第10回
2030SDGsカードゲームが企業の対話を変える

SDGsを「知っている」で終わらせず、実際の行動や意思決定につなげていく手法として活用が広がっているのが、日本発の「2030SDGsカードゲーム」です。2019年にはニューヨークの国連本部でも実施されたほか、9カ国語に翻訳され、世界各国で延べ40万人超が体験したとされています。楽しさと対話を入り口に、SDGsを自分ごととして捉え直すこの取り組みは、組織の見え方や仕事の意味を問い直すきっかけにもなっています。

SDGsを知っているだけでは終わらせない

HARI「2030SDGsカードゲーム」は、「なぜSDGsが必要なのか」「それによってどんな変化や可能性が生まれるのか」を、体験を通じて理解するために作られたプログラムです。参加者は、それぞれ異なる価値観や目標を持つ立場となり、限られた時間や資源を使って行動します。そうして重ねた選択は、自分の成果だけでなく、世界全体の「経済」「環境」「社会」の状態にも影響を及ぼしていきます。自分にとって合理的な判断が、必ずしも社会全体にとって望ましい未来につながるとは限りません。その構造を可視化する点に、このゲームの大きな特徴があります。SDGsが17の目標を相互に結びついた「不可分」のものとして位置づけていることを踏まえると、この体験はまさにSDGs経営の入り口だと言えるでしょう。

このゲームが企業研修として広がっている理由も、そこにあります。公式案内では、SDGsは社員にとって「新たにやらねばならないこと」と受け取られがちで、その「やらされ感」のままでは推進が難しいと説明されています。だからこそ、楽しさを入り口にしながら対話を促し、他人事だったテーマを「自分ごと」として捉え直す設計が重視されています。ゲームを通して、組織の意思決定の癖やメンバーの思考、行動の傾向が見えてくることもあります。

進めていくプロジェクトのカード

導入事例にも、その特徴が表れています。耐熱ガラスメーカー「HARIO」では、自社がすでにどの目標に貢献しているのかを探る契機として活用。世界最大級の消費財メーカー「ユニリーバ・ジャパン」では、社員がSDGsを知っている状態から、実務と関連づけて捉えられる状態へ進むことを重視し、導入しています。参加者の声として「自社の利益だけでなく世界の状況に目を向ける必要を感じた」「他社や他チームとの共同・連携が大切だと感じた」といった反応が紹介されています。

SDGs経営というと、新しい社会貢献活動を始めることだと受け止められがちです。しかし本質は、商品開発、採用、営業、調達、広報といった既存の経営判断が、社会や環境、そして未来の持続可能性とどう結び付いているかを見直すことにあります。2030SDGsカードゲームは、そのつながりを知識として学ぶだけでなく、体験として腹落ちさせる装置です。だからこそ、研修の場を超え、組織の意思決定の質そのものに問いを投げかける力を持っています。

SDGsへの貢献

プロジェクトを進めるためのお金と時間のカード

このカードゲームはSDGs全体のつながりを理解するためのものですが、とりわけ重なりが大きいのは、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標12「つくる責任 つかう責任」、そして目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」だと考えられます。まずは楽しみながら学び、対話を通じて理解を深める点は、質の高い学びや生涯学習の文脈と親和性があります。次に、自分たちの選択が資源、環境、社会にどう影響するかを考える構造は、持続可能な生産と消費の考え方に通じています。そして、個別最適ではなく、他者との連携によってより良い世界を目指す体験は、パートナーシップの重要性を示しています。

SDGsへの私たちの一歩

2030SDGsカードゲームの価値は、ゲームそのものにあるのではありません。大切なのは、その体験を通して「自分の仕事は社会と無関係ではない」と気づけることです。SDGsを遠い理想やきれいごととして眺めるのではなく、自分の所属する会社、自分が日々下している判断、自分が誰と協力し、何を優先しているかを見つめ直す。そこから初めて、SDGs経営は現実のものになります。社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。


参考文献

▪️United Nations. Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development. 
https://sdgs.un.org/2030agenda

▪️一般社団法人イマココラボ「カードゲーム2030 SDGs」「カードゲーム『2030SDGs』の紹介」 
https://imacocollabo.or.jp

▪️公益財団法人日本生産性本部「SDGs導入支援プログラム『2030 SDGsカードゲーム』研修」 
www.jpc-net.jp/seminar/inhouse/detail/006429.html

▪️一般社団法人イマココラボ 企業導入事例(HARIO、ユニリーバ・ジャパン) 
https://imacocollabo.or.jp

 

 

第9回 幻の「カンボジアコーヒー」がつなぐ未来―静岡のカフェが仕掛ける、 品質本位の静かなる意識改革〜発掘!あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

第9回
幻の「カンボジアコーヒー」がつなぐ未来―
静岡のカフェが仕掛ける、
品質本位の静かなる意識改革

静岡県富士市の閑静な住宅街の一角にある「ノーティス・コーヒー(notice coffee)」が、「幻のコーヒー」を通じて、カンボジアの教育支援と日本人の消費意識への問いかけという二つの大きなミッションに挑んでいます。代表の遠藤文美えんどうあやみさんが扱うのは、市場にほとんど出回らないカンボジア産コーヒー。彼女の取り組みは、本質的なビジネスと社会貢献の融合モデルを提示しています。

「幻」と呼ばれる理由と、産地の現実

世界第2位のコーヒー生産量を誇るベトナムの隣国カンボジアでのコーヒー生産は日本ではほとんど知られていない。遠藤さんによると、かつてフランス統治時代に栽培が始まったものの、その後の内戦により農園の多くが荒廃したという。実際、カンボジア国内の土産物店で「カンボジア産」として売られているコーヒーでさえ、安価なベトナム産のロブスタ種が詰められているケースが少なくない。遠藤さんが20年前に現地ガイドとしてカンボジアに滞在していた際も、多くのコーヒーはロブスタ種特有の苦味が強く、コンデンスミルクを多用して飲むスタイルが一般的だった。 

しかし、コロナ禍を経て再訪した際、友人に紹介された農園で飲んだコーヒーが、彼女の常識を覆した。「雑味がなくクリアで、酸味と苦味のバランスが取れたフルーティーな味わい」。この「本当においしいカンボジアコーヒー」が埋もれてしまっている現状に対し、遠藤さんは「カンボジアの名産品として胸を張れるものを世界に広めたい」と決意し、輸入・販売を開始した。 

「エシカル消費」や「フェアトレード」という言葉があふれるなかで、遠藤さんは「純粋においしいから飲んでほしい。その結果として、誰かのためになっていればいい」と語る。消費者はまず「商品価値」に対価を払い、その後に背景にあるストーリーを知る。この順序こそが、一過性のブームに終わらない持続可能な消費を生み出す鍵となる。

「15%」が変える子どもたちの未来、負の歴史を超えて 

ノーティス・コーヒーの最大の特徴は、利益の15%をカンボジアの子どもたちへの文房具支援に充てている点だ。ここには、カンボジア特有の歴史的背景が深く関わっている。 

1975年から1979年にかけたポル・ポト政権下(クメール・ルージュ)において、教師や医師などの知識層が徹底的に弾圧された。この歴史的傷跡は深く、現在もカンボジアでは慢性的な教員不足と教育インフラの欠如が続いている。 

そのなかで遠藤さんは、金銭的支援ではなく、子どもたち一人一人に直接届く支援を選択した。その理由は「公平性」と「確実性」にある。金銭的支援では横領や不透明な分配が課題となることがあるため、彼女は現地の教育局と連携し、支援が行き届いていない学校を選定。ノートや鉛筆を一人分ずつセットにし、学校を通じて直接子どもたちに手渡す手法を取っている。「階段の掃除は上からする」行政の上層部を通しながら末端の子どもたちに確実に届けるプロセスこそが、支援の透明性を担保している。

消費者への静かなる挑戦状 

遠藤さんがこの事業を通して本当に伝えたいことは、日本の消費者に対する意識改革の必要性である。「安くて良いもの」が当たり前とされる日本社会において、その安さが誰の犠牲の上に成り立っているのかを想像する機会は乏しい。コーヒー豆の国際価格は変動が激しく、末端の小規模農家が貧困に苦しむ構造的な問題、いわゆる「コーヒー危機(Coffee Crisis)」は長年指摘されてきた。 

遠藤さんは、コーヒーという身近な商材を通じて、「適正な価格で取引され、生産者の生活が守られること」の重要性を、味と体験を通じて伝えようとしている。「自分たちが享受している『当たり前』は、誰かの労働によって支えられている。そこに目を向けてほしい」という彼女のメッセージは、SDGsのゴール12「つくる責任、つかう責任」の本質を、私たち一人一人の生活レベルに落とし込むものである。

SDGsへの私たちの一歩
遠藤さんの活動は、単なるコーヒーの輸入販売にとどまらない。それは、内戦の傷跡が残る国での産業育成であり、教育支援であり、そして日本の私たちに対する「買い物」という投票行動への問いかけである。 社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。
 
遠藤文美■静岡県富士市を拠点に、地域連携や教育分野の企画・運営に携わる。株式会社ドットプラン取締役副社長。コーヒー事業「noticecoffee」を通じて、カンボジアの教育支援と産業づくりを結ぶ取り組みを推進している。
 

参考文献

Chandler, D. (2008). A History of Cambodia (4th ed.). Westview Press. 

Daviron, B., & Ponte, S. (2005). The Coffee Paradox: Global Markets, Commodity Trade and the Elusive Promise of Development. Zed Books. 

International Coffee Organization. (2023). World Coffee Production. Retrieved from www.ico.org/ 

United Nations. (2015). Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development. Goal 12: Ensure sustainable consumption and production patterns. www.ico.org/ 

 

 

第8回 日本の技術でエネルギーを革新「京都フュージョニアリング」〜発掘!あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

第8回日本の技術でエネルギーを革新
「京都フュージョニアリング」

京都大学発のディープテック・スタートアップでありながら、シアトルに米国拠点を構える京都フュージョニアリング(Kyoto Fusioneering Ltd.)は、核融合産業における「つるはしとシャベル」の提供者として、その実装力で世界的な存在感を高めています。SDGsでは主に目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標13「気候変動に具体的な対策を」、そして目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に貢献しています。 共同創業者の小西哲之さとし氏らは、日本の卓越した核融合工学とシアトルを中心とする活発なスタートアップ・エコシステムを橋渡ししてきました。同社は核融合を「究極的なエネルギーソリューション」として位置づけ、研究開発と産業化の両面で実現を進めています。技術の透明性と信頼性を重視し、世界中の核融合開発企業に対して、不可欠なハードウェアとエンジニアリングを提供しています。

技術:科学を産業へ変える「実装力」 

同社では、特定の核融合方式(炉の形状など)に依存せず、すべての核融合開発者が共通して必要とする「ジャイロトロンシステム(核融合炉を加熱する装置)」や「フュージョン燃料サイクルシステム(核融合燃料を供給・回収する仕組み)」といった基幹装置を提供しています。これまで研究室の中にとどまっていた科学技術を、産業レベルの製品へと昇華させることで、開発企業の成功確率とスピードを上げています。このアプローチは、核融合発電という人類未踏のプロジェクトにおいて、個別の企業競争を超えた「産業全体の底上げ」を実現するものです。日本の精密なものづくり技術が、世界のエネルギー問題の解決へと再投資される好循環を見据え、技術移転とサプライチェーン構築に取り組んでいます。

地域:イノベーションと雇用のハブ・シアトル 

シアトルのダウンタウンに米国グループ会社(Kyoto Fusioneering America Ltd.)を構え、現地のエンジニアやビジネス人材の雇用を生み、日米混合チームによる現場力とキャリア形成を後押ししています。シアトルにはヘリオン・エナジー(Helion Energy)やザップ・エナジー(Zap Energy)など世界有数の核融合企業が集積しており、同社はこのエコシステムの中で「技術の架け橋」として機能しています。地元の技術イベント「シアトル・フュージョン・ウィーク(Seattle Fusion Week)」などでは主要な役割を果たし、クリーンテック・コミュニティーとの対話を深めています。こうした活動は、日本企業への信頼を高めるだけでなく、シアトルが世界の脱炭素技術の主要都市として成長するための包摂的な基盤を支えています。

環境:脱炭素の「最後の切り札」を設計する 

エネルギー生産の視点では、運転時にCO2を排出せず、長期にわたって残る高レベル放射性廃棄物をほとんど出さない核融合発電の実用化を、エンジニアリングの力で加速させています。化石燃料に依存しないベースロード電源の確立は、気候変動対策における有力な選択肢となり得ます。  

また、開発プロセスにおいても、既存の産業技術を転用・応用することで無駄な開発リソースを削減し、効率的なシステム設計を徹底しています。米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)の国立研究所との共同研究プログラム「INFUSE(Innovation Network for Fusion Energy)」に複数回採択されている事実は、同社の技術が環境負荷低減とエネルギー安全保障の両面で、国際的に重要な役割を担い得ることを示しています。

経営:国境を超えたパートナーシップ 

経営面では、単独での成功ではなく「グローバルな協調」を戦略の核に据えています。米国CIAに関連する戦略投資機関インキュテル(In-Q-Tel)からの出資受け入れや、英国原子力公社(UKAEA:UK Atomic Energy Authority)との協業など、国境や官民の枠を超えたパートナーシップを構築しています。Bコープ(B Corp)のような認証制度とは異なりますが、同社は「いつまでに、どのような技術課題を解決するか」というロードマップ(KPI)を明確化し、日米の政府機関や投資家に対して高い透明性を打ち出しています。こうしたオープンな姿勢は、核融合という巨大な課題に対し、世界中の利害関係者が進捗を共有し、産業化を加速させる共通言語として機能しています。

SDGsへの私たちの一歩
京都フュージョニアリングは、日本の実験室で磨かれた技術と、シアトルの野心的なエネルギー市場を近づけ、地球規模の課題解決を強くしなやかにしています。 一見、遠い未来の話に思える核融合ですが、確かな技術と意図あるパートナーシップ、そして行動を促す資金循環がそろえば、SDGsは確実に根付いていきます。一企業の挑戦であっても、国を超えて連携し改善していく意思があれば、世界のエネルギー構造は変革できるでしょう。 社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。

参考文献

Kyoto Fusioneering. (n.d.). Our Mission & Technology.
https://kyotofusioneering.com/ 

Kyoto Fusioneering. (2023, August 2). Kyoto Fusioneering America Secures Three INFUSE Awards from the U.S. Department of Energy.
https://kyotofusioneering.com/en/news/2023/08/02/1670 

Kyoto Fusioneering. (2024, July 23). Kyoto Fusioneering Closes 2nd Round of 1.1 Billion Yen Series C Extension Led by In-Q-Tel (IQT), Marubeni and Nichicon.
https://kyotofusioneering.com/en/news/2024/07/23/2533 

GeekWire. (2024, July 23). CIA investment arm helps fund a Japanese fusion startup with U.S. HQ in Seattle.
https://www.geekwire.com/2024/cia-investment-arm-helps-fund-a-japanese-fusion-startup-with-u-s-hq-in-seattle/ 

Helion Energy. (2023, May 10). Helion announces world’s first fusion energy purchase agreement with Microsoft.
https://www.helionenergy.com/articles/helion-announces-worlds-first-fusion-ppa-with-microsoft/ 

第7回 世界の絶対的貧困の変化〜発掘!あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

世界の絶対的貧困の変化

先日、「絶対的貧困」の基準額が改定されたことをご存じでしょうか。SDGs経営を考えるうえで、「貧困」は避けて通れない重要なテーマの一つです。貧困には大きく二つの考え方があります。一つは、食料や住居など生命維持に必要な最低限のニーズすら満たせない「絶対的貧困」。もう一つは、その国や地域の平均的な生活水準よりも著しく低い状態にある「相対的貧困」です。今回は、こうした貧困の測定基準がどのように変化してきたのかを通じて、SDGs経営への示唆を探ります。

国際貧困ラインの変遷と基準が変わる理由

国際貧困ライン(IPL:International Poverty Line)は、世界経済の変化に応じて定期的に見直されています。これは、各国間で貧困の規模を公平に比較するために欠かせない仕組みです。国際貧困ラインの金額は、各国の物価水準を反映させた購こうばいりょくへいか買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)を基に設定されています。
 
以下は、その主な改定の推移です。
 
表1:国際貧困ラインの主な改定(PPP=購買力平価)
貧困ラインの額 改定年 基準となったPPPの年
1日1.90ドル 2015年 2011年PPP
1日2.15ドル 2022年9月 2017年PPP
1日3.00ドル 2025年6月 2021年PPP
 

世界銀行のデータによれば、世界の極度の貧困率は1990年代初頭の約36%から2015年には10%にまで大幅に減少しました。しかし、依然として貧困削減の進みが遅いサハラ以南のアフリカに、世界の最貧困層の約3分の2が集中しているのが現状です。

貧困ライン変更の経済学的根拠―PPPと生活水準の変化

金額の更新には、購買力平価(PPP)に基づいて行われます。PPPの更新によって、各国の物価水準や為替変動が反映され、より現実的な生活コストを国際的に比較できるようになります。PPPデータが改定されるたびに、世界の最貧国における「最低限の生活費」をより正確に示すため、国際貧困ラインも見直されます。 

近年の改定は、単なるインフレ補正にとどまらず、各国の所得上昇や生活環境の変化を踏まえ、貧困層が「基本的な生活水準」として認識する基準そのものが引き上げられてきています。

所得指標だけではない、多次元貧困指数の登場

 

貧困は、収入の低さだけでなく、健康、教育、住環境など、本来あるべき機会や環境が奪われる「剥奪」がいくつも重なって起こる複雑な現象です。この問題を補うため、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)とオックスフォード貧困・人間開発イニシアチブ(OPHI:Oxford Poverty and Human Development Initiative)は、所得だけでは捉えきれない貧困を測定するために、多次元貧困指数(MPI:Multidimensional Poverty Index)を共同で開発しました。

貧困を立体的に捉える三つの分野

多次元貧困指数(MPI)は、所得ではなく次の三つの分野と10の具体的指標で貧困を測定します。

1. 健康(栄養、子どもの死亡率)
2. 教育(就学年数、就学状況)
3. 生活水準(調理燃料、衛生施設、飲料水、電気、住宅、資産) 

MPIの特徴は、所得だけでは見えない困難(例:紛争地帯でのインフラ不足)を可視化できる点にあります。これにより、政策立案者は現金給付だけでなく、教育機会の提供やインフラ整備など、より効果的な支援策を設計できるようになります。

SDGsへの私たちの一歩
貧困撲滅に向けた包括的な視点が、いま世界で求められています。国際貧困ラインの進化と、多次元貧困指数(MPI)の導入は、貧困をより多面的に理解するための重要な一歩です。真の貧困削減には、国際的な基準による共通目標の追求と各国が抱える相対的貧困(例:日本のひとり親家庭の貧困率48.2%)への対応を組み合わせた包括的な取り組みが欠かせません。このような社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です

参考文献

▪️相対的貧困とは?絶対的貧困との違いや相対的貧困率についても学ぼう
https://www.worldvision.jp/children/report/20250325-492/index.html

▪️「貧困」をはかる指標 – 日本ユニセフ協会
https://www.unicef.or.jp/kodomo/teacher/pdf/fo/fo_45.pdf

▪️日本の貧困問題について知り、今、私たちに何ができるのかを考えよう – ワールド・ビジョン・ジャパン
https://www.worldvision.jp/children/report/20250325-512/index.html

▪️世界の貧困率を知る|各国の貧困の現状とわたしたちにできること – プラン・インターナショナルhttps://www.plan-international.jp/social_issues/causes-global_pobetyrates/

▪️貧困層とは?世界の貧困層の定義と割合を調べよう
https://www.worldvision.jp/children/report/20250326-641/

▪️世銀、国際貧困ライン、1日1.25ドルから1日1.90ドルに改定
https://www.ganas.or.jp/press/20151016povertyline/

▪️世界の貧困に関するデータ
https://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/01/08/open-data-poverty

▪️新たな推計公表:世界の子どもの6人に1人が極度の貧困 
https://www.unicef.or.jp/news/2023/0152.html

▪️国際貧困ライン2025年6月の改定 
https://www.worldbank.org/ja/news/factsheet/2025/06/05/june-2025-update-to-global-poverty-lines

▪️貧困線
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E7%B7%9A

▪️貧困層とは?世界の貧困層の定義と割合を調べよう
https://www.worldvision.jp/children/report/20250326-641/index.html

▪️第4節 世界の発展と残された課題 – 経済産業省
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/2020honbun/i2240000.html

▪️貧困をなくそう: 世界の貧困の近未来
http://datatopics.worldbank.org/sdgatlas/archive/2020/JP/goal-1-no-poverty/

▪️世界の貧困:測定方法をさらに強化
https://blogs.worldbank.org/ja/voices/further-strengthening-how-we-measure-global-poverty

▪️貧困の連鎖とは?その原因と貧困の連鎖を断ち切るための対策を考えよう
https://www.worldvision.jp/children/report/20250328-1457/

▪️貧困指数、民族集団間の厳しい格差を明らかに
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000075432.html

▪️Multidimensional Poverty Index
https://en.wikipedia.org/wiki/Multidimensional_Poverty_Index

▪️Multidimensional Poverty Index (MPI)
https://ourworldindata.org/grapher/multidimensional-poverty-index-mpi

▪️Global Multidimensional Poverty Index 2024
https://reliefweb.int/report/world/global-multidimensional-poverty-index-2024-poverty-and-conflict

▪️相対的貧困とは?先進国での現状や課題と私たちにできること
https://www.yoridori.jp/earth-note/relative-poverty/

▪️子どもの貧困の定義とは 年収いくらくらいを指すの?~貧困の子どもは日本に255万人(7人に1人)
https://3keys.jp/issue/c01/
 

 

 

映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』  俳優 西島秀俊氏 × 監督 真利子 哲也氏〜スペシャルインタビュー

「バベルの塔」で、僕らは何を見つけるのか
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』 
俳優 西島秀俊氏 × 監督 真利子まりこ 哲也氏

取材・文:中島雅紘

ニューヨークを舞台に、家族の断絶と再生を描いた映画。息子の失踪を機に、夫婦はそれぞれの過去と向き合います。アメリカ人の話す英語の奔流、妻の家族が交わす中国語、また、無意識に割り振られた社会的役割、貧困と隣り合わせの生活感……あらゆる隔絶が緻密に描かれる中で、それでも生きることを決意する西島さん演じる賢治の姿。本作を通して突きつけられた「破壊の先に創造はあるのか」という問いを胸に、主演の西島秀俊さんと真利子哲也監督に話を聞きました。

西島秀俊■大学在学中に俳優活動を開始し、1992年に本格デビュー。『ニンゲン合格』(1999/黒沢清監督)、『Dolls ドールズ』(2002/北野武監督)などに出演。主演作『ドライブ・マイ・カー』(2021/濱口竜介監督)では、米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞。近年は『首』(2023/北野武監督)、『Sunny』(2024/Apple TV+)など国内外の作品で活躍中。
真利子哲也■独自の創造性で注目を集める映画監督。長編デビュー作『イエローキッド』がバンクーバー国際映画祭で受賞。『ディストラクション・ベイビーズ』ではロカルノ国際映画祭最優秀新進監督賞などを受賞。『宮本から君へ』では日本と海外で高い評価を得た。2019年よりハーバード大学客員研究員として滞在し本作の構想を練った。
Photos courtesy of Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

真利子哲也監督。言葉の先にある「感情の輪郭」を見つめて

―今回の映画制作を、作中でも描かれた「バベルの塔」に例えると、どのくらいの高さまで到達できたと感じますか。
 
真利子監督:まさに「バベルの塔でどこまで行けるか?」という大きな挑戦でした。想像していたよりもずっと高く到達できた実感があります。現場では英語や韓国語、スペイン語、手話が飛び交う中、関わった全ての人が、我々が何をしようとしているのかを懸命に理解しようとしてくれました。「良い作品を作る」という共通目標があったからこそ、お互いを理解し合えたのだと思います。
 
西島さん:真利子監督同様に想像していたより高い塔になったと思います。まず、素晴らしい脚本がありました。そして「映画を作る」ということ自体が共通言語のようなものを生み出し、撮影は想像していたよりもずっとスムーズに進みました。もちろん、言葉が分からないことによる戸惑いはありました。例えば、劇中でジェーンの両親の家を訪ねるシーンでは、脚本があるので何が起きているかは分かっているものの、交わされている言葉自体は全く分からない。言語はただの音の違いではなく、その背景には文化があり、そこには全く違う世界があると感じました。そういう異なる文化や価値観が交わる中で、我々は塔の土台を築いたのだと思います。そして、この塔の本当の高さは、これから観客の皆さんがどう積み上げ、どう受け止めてくれるかで決まるのかもしれません。
 
Photos courtesy of Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

本音をぶつけ合うジェーン(グイ・ルンメイ)と賢治(西島秀

―作品作りの中で、記憶に残った場面はありましたか?
 
西島さん:グイ・ルンメイさんの演技は本当に素晴らしかった。撮影初日から最後まで、彼女の全てが素晴らしかった。同じシーンを何度繰り返しても、毎回違い、どのテイクもパーフェクトな演技をする。すさまじい集中力でしたね。僕自身は見ることができなかったのですが、初日に撮影された一人人形劇のシーンでは、「ここまでのことをやるのか」と現場の空気が、高まったといいます。
 
真利子監督:ダイナーの外でジェーンが賢治に激しく感情をぶつけるシーンは、脚本では描ききれなかった部分を書き足して、実際、どうなるか分からないまま新たに撮影したものでした。編集でその映像がつながったとき、「撮ってよかった」と心から思いました。
 

―映画全体を貫くテーマとして「破壊と再生」があると感じました。破壊の先に創造はあると思いますか?

真利子監督:創造的なことに限らず、日常の中で「もうどうしようもない」と感じるようなことがあっても、その先にはきっと何かがあるはずだと信じたいですね。
 
西島さん:僕はこれまで、常に「破壊して創造する」という姿勢でキャリアを歩んできました。昨年の独立もその一環です。より世界を理解し、良い演技を追求する。自分を前に進めるための未来は「破壊の先」にしかないと思っています。もちろん、無理に壊す必要はありませんが、どうしても行き詰まる瞬間は、誰にでもあるのではないでしょうか。
 

―最後に、シアトルのような多文化都市で暮らす日本人や日系人に向けてどんなメッセージを届けたいですか?

真利子監督:僕自身は多文化社会の当事者ではありません。だからこそ、そうした人たちに丁寧に取材を重ねながら脚本をつくりました。おそらく、観る人それぞれが持ち帰る感情は違うと思います。世界のさまざまな場所で暮らす人たちが、自分ごととして感じてもらえる作品になったらうれしいです。

西島さん:僕が演じた賢治は、不完全で矛盾を抱え、トラウマにとらわれた人物です。母国でない国で暮らしていると、自分が何を信じ、何を大切にし、何を愛しているのかを、より試される機会が増えると思います。自分の愛情が独りよがりでなく、相手をおもんぱかるものなのかを突きつけられることも多いでしょう。そうした思いを抱えている方にこの映画を観ていただきたいです。観終わったとき、不思議な爽快感があると言われます。きっと何か一条の光のようなものを感じてもらえるのではないかと思っています。

 

インタビュー後記

現代社会は新たなバベルの塔を築いている最中なのだと感じました。さまざまな人が共に生きる日常の中で、たった一人の「親愛なる見知らぬ誰か」とつながろうとする努力が、一条の光になり得るのではないでしょうか。破壊の先で、私たちは何を、そして誰のために築こうとしているのでしょうか。バベルの塔は伝説の中で未完の象徴として廃虚のように描かれていますが、その物語には今なお語り継ぐ価値があるように思います。果たして、現代のバベルの塔はいつか完成するのでしょうか。そんな問いが渦巻く深い時間を過ごすことができました。

第6回 東アフリカと地域経済を結ぶ、シアトル発「ブーン・ブーナ・コーヒー」〜発掘!あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

東アフリカと地域経済を結ぶ、
シアトル発「ブーン・ブーナ・コーヒー」

東アフリカ産に特化するロースター兼カフェ、ブーン・ブーナ・コーヒー(Boon Boona Coffee)は、小さな焙煎所ながら大きな実装力を発揮し、調達から店舗運営までSDGsを軸に据えた事業で存在感を高めています。SDGsでは主に目標1「貧困をなくそう」、目標8「働きがいも経済成長も」、目標12「つくる責任つかう責任」に貢献しています。創業者のエフレム・フェセハ氏はエリトリア系アメリカ人で、東アフリカの伝統的なコーヒー文化とシアトルの現代的なコーヒー文化を橋渡ししてきました。同社は「社会的インパクトを組み込んだビジネス」を掲げ、生産地と地域社会の双方で価値を還流させています。サプライチェーン全体の透明性を重視し、価格決定の根拠や品質情報を顧客にも分かりやすく提示しています。

調達:女性主導農家との直接取引

同社はエチオピア、ケニア、ルワンダなどの小規模農家、とりわけ女性主導の生産者と直接かつ長期的な関係を築いています。中間業者を減らし、前払いや品質向上支援を組み合わせることで、価格の透明性と生産者の利益を上げています。女性の所得が教育・医療へ再投資される好循環を見据え、取引安定化と技能移転に取り組んでいます。

地域:雇用と包摂、文化発信のハブ

レントンおよびシアトル市内の店舗では、BIPOC(アフリカ系、先住民、有色人種)を含む多様な人材の雇用を生み、研修を通じて現場力とキャリア形成を後押ししています。店内はアート展示やポップアップ、ワークショップの場としても利用され、起業家やクリエイターの挑戦を支援。週末にはエチオピア式コーヒーセレモニーをはじめとする文化プログラムを開催し、消費者教育と相互理解を深めるとともに、誰一人取り残さない包摂的成長を支えています。 

こうした活動はブランドへの信頼を高め、意識的な購買行動を後押しします。さらに、イベントや講座を通じてコーヒーの背景を伝える取り組みを継続し、地域との対話を深めています。

環境:ある生産と消費の設計

生産地では水使用量の少ない精製手法(ナチュラルプロセスなど)や土壌・森林に配慮した持続可能な栽培を支援しています。 

消費地ではコンポスト可能なパッケージや再利用カップを導入し、来店客が環境負担の低い選択をしやすい設計を徹底しています。リユース容器ブランドとの協働は、店舗の枠を超えて行動変容を広げる取り組みです。 

さらに、 素材選択や在庫管理、エネルギー使用の見直しを重ね、日々のオペレーションでも環境負荷の低減を図っています。

経営:測り・直し・伝えるB Corp

経営面では国際的な第三者認証制度「B Corp(ビー・コーポレーション)」を2023年春に取得しています。B Corpはコミュニティー、従業員、環境、ガバナンスの各分野で社会的・環境的責任を果たしているかを外部基準で評価する制度です。同社は、寄付や生産地還元を販促の付随にとどめず、商品企画・仕入方針・空間運営へ埋め込む点が特徴です。 

女性生産者との取引比率や価格プレミアム、地元雇用者数・賃金水準、再利用容器の利用率などのKPI(重要業績評価指標)に基づき、社会的成果と収益の両立を検証しています。  

こうした数値管理は、社内外の利害関係者が進捗を共有し、改善を加速させるための共通言語として機能します。

SDGsへの私たちの一歩
ブーン・ブーナ・コーヒーは、遠い生産地の暮らしと都市の消費を近づけ、地域の経済循環を強くしなやかにしています。規模の大小にかかわらず、意図ある調達、包摂的雇用、行動を促す設計がそろえば、SDGsは根付いていきます。小さな店舗であっても、戦略と実装を繰り返し改善していく意思があれば、都市の持続可能性は確実に発展するでしょう。 社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。

参考文献
 

▪️B Lab Global. (n.d.). Boon Boona Coffee – Certified B Corporation.  
https://www.bcorporation.net/en-us/find-a-b-corp/company/boon-boona-coffee/ 

▪️Boon Boona Coffee. (n.d.). About us.  
https://www.boonboonacoffee.com/pages/about-us 

▪️MiiR. (2025, January 21). Boon Boona Coffee x MiiR: A story of tradition, community, and custom partnerships.  
https://www.miir.com/blogs/learn/boon-boona-coffee-x-miir-a-story-of-tradition-community-and-custom-partnerships 

▪️PCC Community Markets. (2025, February). Boon Boona brews coffee with a purpose. https://www.pccmarkets.com/sound-consumer/2025-02/boon-boona-brews-coffee-with-a-purpose/ 

▪️Redmond Reporter. (2022, April 27). Boon Boona owner, Efrem Fesaha wins Washington Small Business Person of the Year.  
https://www.redmond-reporter.com/news/boon-boona-owner-efrem-fesaha-wins-washington-small-business-person-of-the-year/ 

第5回 日本の「ボトル toボトル」から学ぶシアトルの未来〜発掘! あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

日本の「ボトル toボトル」から学ぶ
シアトルの未来

茨城県を中心に医療・福祉サービスを提供する北水会グループと、栃木県小山市に拠点を置くリサイクル企業、協栄産業が連携して進めている「ボトルtoボトル」プロジェクトが世界的にも注目されています。この取り組みは、廃棄物削減と資源循環の推進において非常に先進的で、シアトルでも参考になるモデルといえるでしょう。

北水会グループとは?

北水会グループは1979年創業され、現在では茨城県を中心に50以上の施設を運営しています。構成法人には医療法人社団北水会や社会福祉法人北養会、株式会社ケアレジデンスなどがあり、医療・福祉・教育・保育・健康にわたる包括的なサービスを提供しています。従業員数は約2,500名を超え、地域社会のさまざまなニーズに応える中核的存在です。グループの理念は「医療と福祉のチカラで未来につなぐ」。この理念に沿って、高齢者介護から小児保育、在宅医療支援まで幅広く展開し、地域に根ざしたサービスを提供しています。人材育成にも力を入れており、医療・福祉分野の専門学校も運営しています。

協栄産業の「ボトルtoボトル」技術

協栄産業株式会社は、使用済みPETボトル(いわゆるペットボトル)を再び飲料用ボトルとして再生する「ボトルtoボトル」リサイクルを実現している日本でも数少ない企業の一つです。代表取締役社長、古澤栄一氏のもと、高度なメカニカルリサイクル技術を活用し、高品質な再生PET樹脂「MR-PET®」を製造。国内外の飲料メーカーに供給しています。また、JFEエンジニアリングの関連会社と共同でPETボトル再生樹脂の製造を行う合弁会社を設立し、国内最大級のリサイクル工場を運営しています。この工場は、大量のボトルを効率的に処理する能力を持ち、日本のリサイクルインフラを支えています。

北水会グループと協栄産業の協力

北水会グループでは、各施設で出る使用済みPETボトルを丁寧に分別し、協栄産業に引き渡します。キャップとラベルを除去したうえで回収されたボトルは、高品質なリサイクル素材として再生されます。キャップは別途回収され、その売却益は発展途上国へのワクチン支援に活用されるなど、環境と社会の両面への貢献を実現しています。北水会グループ全体では年間約13.1万本のPETボトルが回収され、そのうち約8.2万本が協栄産業により再生されています。この再生によって削減されるCO2の量は、年間で約4.9トンに相当します。これは50年生のスギ約350本が1年間に吸収するCO2量(スギ1本=約14kg CO2/年で試算)に相当します。

グローバルな背景と課題 

世界では、使用済みのPETボトルがリサイクルされずに焼却・埋め立て処理されるケースが多くあります。特に北米や日本などの先進国においては、かつて多くの使用済みプラスチックが「リサイクル」と称して、東南アジアやアフリカなどの途上国に輸出されてきました。しかしその実態は、受け入れ先の国々で適切な処理がされずに放置される、あるいは海洋流出するなど、「輸出されたごみ」として新たな環境問題を引き起こしていたことが国際的に問題視されました。こうした背景から、ボトルtoボトルのような水平リサイクルの取り組みは、使用済みPETを責任ある形で国内で再資源化し、循環型社会を構築する手段として極めて重要です。日本国内で使用されたペットボトルを再び国内でボトルに戻す、北水会グループと協栄産業のモデルは、倫理的にも環境的にも持続可能な形といえます。

SDGsへの貢献 

この取り組みは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」や目標13「気候変動に具体的な対策を」に対する優れた実践例です。PETボトルの再資源化を推進することで、石油資源の使用削減とプラスチックごみの削減に貢献し、持続可能な資源循環型社会の実現に寄与しています。さらに、北水会グループでは、SDGsに関する教育活動も積極的に実施しており、子ども向けのワークショップやキャップ回収イベントなどを通じて、次世代への環境教育にも力を入れています。

SDGsへの私たちの一歩
シアトル市では、シアトル公共事業局(Seattle Public Utilities)によるリサイクル回収は行われているものの、現時点では「ボトルtoボトル」リサイクルを行う施設は存在していません。使用済みPETボトルは市外の再処理施設に輸送されるのが一般的で、循環型社会を目指すうえでの課題となっています。しかし、ワシントン州では2025年以降、包装材メーカーにリサイクルシステムの費用負担を義務づける法案が検討されており、今後は市内に「ボトルtoボトル」型の施設が設けられる可能性もあります。日本の北水会グループと協栄産業の先進的な取り組みは、シアトルにおける新たなモデルとして大きな示唆を与えてくれるはずです。社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。

参考文献
 

 

 

ネルソン・マンデラの軌跡をたどる 「マンデラ:ザ・オフィシャル・ エキシビション」〜イベントクローズアップ

ネルソン・マンデラの軌跡をたどる
「マンデラ:ザ・オフィシャル・
エキシビション」


シアトルの歴史産業博物館(MOHAI)では現在、マンデラ家公認の巡回展「マンデラ:ザ・オフィシャル・エキシビション」が9月7日(日)まで開催されています。

取材・文:中島雅紘

マンデラとは誰か

そもそも、ネルソン・ホリシャシ ャ・マ ン デ ラ(1918 年 ~2013年)を知っているだろうか。筆者は高校時代にその存在を知り、生き方の指針として大きな影響を受けた。南アフリカのアパルトヘイト体制と闘った象徴的指導者で、27年間に及ぶ獄中生活を経て、1993年に当時の大統領フレデリック・ウィレム・デクラーク氏とともにノーベル平和賞を受賞。翌1994年には同国初の黒人大統領として民族和解と民主化を主導した。退任後も教育・保健・人権分野で活動を継続し、国連は彼の誕生日である7月18日を「ネルソン・マンデラ国際デー」と定め、世界中に奉仕活動を呼びかけている。

マンデラの家系図

展覧会の見どころ

本展はゲイツ財団やボーイング社など地元企業の支援を受け、ワシントン州ブラック・ヘリテージ協会のステファニー・ジョンソン・トリバー会長が展示制作に協力している。展示はマンデラの生家のレプリカに始まり、当時の街並みや監獄を再現したセットの中に、東ケープ州ムベゾ村の遺品、ロベン島で使用した工具、27年間の獄中で家族に宛てた手紙など、300点を超える実物資料が並ぶ。未公開映像と没入型音響が来館者を時代の渦中へと誘い、マンデラが重視したウブントゥ(他者への思いやり) を体感的に学べる構成となっている。出口に設置されたアクション・プレッジ・ウォールには、展示を通じて得た気付きを具体的な行動宣誓として書き残すことができる。

当時、当然とされていた黒人差別の標識

シアトルとの深い結び付き

「なぜシアトルでマンデラ展?」と不思議に思う人もいるだろう。実はシアトルは全米有数の反アパルトヘイト運動の拠点だった。ワシントン大学などの学生団体「反アパルトヘイト学生運動(Students Against Apartheid)」は大学基金の南アフリカ関連投資からの撤退を実現し、市議会は石油大手シェル製品の不買決議を可決。年金基金も全面撤退を決定するなど、市民・自治体・労働組合が連携した草の根運動は全国的なモデルとなった。こうした連帯を背景に、1999年12月、マンデラ夫妻はシアトルを公式訪問し、ボーイングフィールド(キング郡国際空港)では約800 人の児童が歓迎し、ワシントン大学での講演では「ウブントゥを都市外交の基盤に」と訴えた。本展では、その3日間の写真や新聞見出しも展示され、地域史の一部として再解釈されている。

マンデラの生きざまが至るところに記されている

今こそ「ウブントゥ」を行動に

分断やヘイトが顕在化する現代において、「ウブントゥ」 を掲げ、差別と闘い続けたマンデラの足跡に触れる意義は大きい。本展は歴史的事実を学ぶ場であるだけでなく、「自分に何ができるか」を問い直すきっかけを与えてくれる。展示を見終えた後は、アクション・プレッジ・ウォールにあなた自身の宣誓を書き込み、日常生活で小さな一歩を踏み出してみてほしい。シアトルに住む私たちがかつて示した連帯の精神を、今再び行動として体現する機会となるだろう。

アパルトヘイトに対抗するべくマンデラは各国を巡った

Mandela: The Official Exhibition
日程:開催中~9月7日(日)
場所: Museum of History & Industry (MOHAI)
   860 Terry Ave. N., Seattle, WA 98109
料金:一般 $25、65歳以上$20、学生$19、14歳以下無料 ※毎月第1木曜は無料
問い合わせ:☎︎206-324-1126、information@mohai.org
詳細:https://mohai.org/exhibits/mandela-the-official-exhibition

第4回 美しさの裏側にある闇:ブラッドダイヤモンド問題と、キンバリープロセスの役割〜発掘!あなたの身近にあるSDG’S経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

美しさの裏側にある闇:ブラッドダイヤモンド問題と、キンバリープロセスの役割

ダイヤモンドは美しく輝く宝石として愛されていますが、その裏側には「ブラッドダイヤモンド(紛争ダイヤモンド)」と呼ばれる問題があります。これは、紛争地域で違法に採掘されたダイヤモンドが武装勢力の資金源となり、内戦や暴力を助長しているという深刻な課題です。このような取引は人々の安全や生活を脅かすだけではなく、労働環境の悪化や環境破壊にもつながっており、倫理的な観点から国際的な批判を集めています。こうした状況に対応するため、2003年に国連主導で「キンバリープロセス証明制度」が導入されました。

キンバリープロセス証明制度とは?

キンバリープロセス証明制度は、ダイヤモンド原石の輸出入に際して、参加国の政府が「紛争と無関係であること」を証明する書類を発行する仕組みです。証明書を取得するためには、インボイスに「紛争と無関係であること」を示す文言を記載する必要があります。輸出時にはこの証明書の提出が義務づけられており、違法に採掘されたダイヤモンドの流通を防ぐことを目的としています。シエラレオネ、アンゴラ、リベリア、コンゴ民主共和国、コートジボワールなど、過去に紛争ダイヤモンドの被害を受けた国々では、この制度の導入によって大きな進展が見られました。現在では世界で流通しているダイヤモンドのほぼ全てバリープロセスを経た「コンフリクトフリー・ダイヤモンド」とされています。国連もこの取り組みを支持しており、SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の実現に貢献する制度と位置づけています。

日本とシアトルの取り組み

日本の経済産業省が「外国為替および外国貿易法(外為法)」に基づき、ダイヤモンド原石の輸出入管理を行っています。タサキ、ギンザタナカ、ミキモトなど日本の宝飾ブランドも、倫理的な調達を重視し、信頼性の高い製品の提供に努めています。 

一方、アメリカでも違法なダイヤモンドの取引は禁止されており、シアトルを拠点としたシアトル・ダイヤモンズや、ブルーナイル、ベンブリッジなどの企業がコンフリクトフリー・ダイヤモンド提供に力を入れています。これらの取り組みは、地域経済と倫理的ビジネスの両立を目指す動きとして広がっています。

消費者としての選択

ダイヤモンドを購入する際、私たち消費者にもできることがあります。購入前に証明書や保証書を確認し「キンバリープロセス認証済み」のダイヤモンドであるかを見極めることです。こうした選択は武装勢力への資金供給を断ち、平和構築への一助となるのです。実際に、筆者もプロポーズの際にはアントワープ・ブリリアントでコンフリクトフリー・ダイヤモンドの指輪を購入し、認証書を添えてパートナーに渡しました。

SDGsへの私たちの一歩
キンバリープロセス証明制度は、ブラッドダイヤモンド問題に対する国際的な対策として大きな役割を果たしています。労働搾取や環境破壊といった課題は依然として残されていますが、違法なダイヤモンド流通を抑制し、平和で公正な社会の構築に貢献しています。日本やシアトルにおける政府・企業・市民の取り組みを通じて、私たち一人一人が倫理的な選択を行うことが、社会全体を動かす力となります。社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。

 

IT の枠を超えてつながる知のサークル〜あんなグループこんなグループ

取材・文:中島雅紘

IT の枠を超えてつながる知のサークル

シアトルITジャパニーズ・プロフェッショナルズ(SIJP)は、ITを通じたコミュニティーの発展や技術者支援、次世代の育成を目的とする非営利組織だ。2010年10月に発足し、現在約60名のメンバーが所属している。シアトルのIT企業で働く日本人が中心となり、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、ニンテンドーUSなど、さまざまな企業のエンジニアやIT関連職者が参加している。

伊従総領事も来場し、挨拶を述べた

活動の一環として、子ども向けのコンピューターサイエンス講座「CS in English」を開講し、9歳から15歳の子どもたちを対象にプログラミングやAIを英語で学ぶ機会を提供。ITスキルだけでなく、英語でのコミュニケーション力の育成も目指している。

また、学生や社会人向けに、現役のエンジニアと直接話をしながらIT業界の最新情報を学び、実践的な知識を深められる講演会を開催。さらに、内部交流会を通じてメンバー同士の情報交換やネットワーキングが行われている。

1月18日には、研究者の相互扶助を目的とするシアトル日本人研究者の会と共催で「量子コンピューターの現状と未来 by IonQアイオンキュー」と題した講習会を実施。会場は、フレッド・ハッチンソン・がんセンター。学生から社会人まで約60人が参加し、量子コンピューターの最前線に触れる機会となった。

当日は、IonQのシステムオペレーションズエンジニアの円尾芽衣まるおめいさんと、相京祐飛あいきょうゆうひさんが登壇し、量子コンピューターの基礎から最新動向まで幅広く解説した。

IonQ社でシニアエンジニアを務める相京さん

イベント前半では円尾さんがIonQの企業紹介や量子コンピューターの仕組みをわかりやすく紹介し、安定稼働のための取り組みや、技術者ならではの苦労とやりがいについて語った。

後半では相京さんがユーザー視点から量子コンピューターを実際に利用する際に必要な知識や、 IonQの今後の展望を紹介。大学院時代からイオントラップ研究を続けてきた経験をもとに、粒子の状態が相関し、遠く離れても同時に影響し合う「エンタングルメント(量子もつれ)」という現象について詳しく掘り下げた。

イベントには、研究者やIT関連企業の関係者だけでなく、学生も参加し交流を深めた

セッション後には、実際の活用や技術に関する質問が相次ぎ、IonQの量子コンピューターが研究室レベルを脱し、実用フェーズへ移行していることがうかがえた。「難しいけど、面白い!」という声が多く、当初2時間の予定だったが、質疑応答が白熱し、さらに2時間延長。交流会を含めると合計7時間にも及ぶ盛り上がりを見せた。

SIJPでは、今後もさまざまなITや最先端技術をテーマにした勉強会を実施する予定だ。興味のある人はぜひ一度参加してみてほしい。さまざまな分野の有識者と話すことで、AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」の先にある世界がもはや空想ではなくなりつつあることを実感できるかもしれない。

量子コンピューターとは?
IonQ社の量子コンピューターと、その隣に立つ円尾さん

量子コンピューターとは、従来のコンピューターでは解くのに膨大な時間がかかる複雑な問題を高速で処理できる次世代の技術。技術が進めば、金融市場分析や創薬など幅広い分野での応用が期待されている。実装方式には極低温環境が必要な超伝導方式やイオンを電磁場で閉じ込めて制御するイオントラップ方式と呼ばれる方法などがある。 

2015年にメリーランド州で創業したIonQ社では、社名の由来でもあるイオントラップ方式を採用し、室温でも動作可能な特性を持つ量子コンピューターを開発。シアトルにも拠点を構え、量産体制を強化している。IonQの量子コンピューターはアマゾンやグーグル、マイクロソフトなどの大手クラウドを通じ、誰でもアクセスできる点も大きな特徴だ。

 
シアトル IT ジャパニーズ・プロフェッショナルズ

参加費:無料
問い合わせ:contact@sijp.org

詳細:https://sijp.org

グーグルのソフトウェア・テストエンジニアの今崎憲児氏が代表を務める非営利組織。約60名のメンバーが所属し、IT分野の専門家や技術に関心のある人々が交流し、学び合う場を提供している。キャリア支援イベントや子ども向けのプログラミング講座など、多様な活動を展開中。入会を希望する方は、下記メールアドレスまで。

第3回 未来サミット:持続可能な未来への道〜発掘!あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

未来サミット:持続可能な未来への道

2025年を迎え、SDGsの期限まで残り5年となりました。しかしその進捗は十分とはいえず、気候変動に加えて、急速なデジタル化の進展による社会の変化などの新たな課題も浮上しています。こうした状況を踏まえ、2024年9月22日・23日にニューヨークの国連本部で「未来サミット(Summit of the Future)」が開催されました。このサミットは、従来のSDGsを進化させ、現代の課題に対応するための新たな国際的枠組みを提示する場として大きな注目を集めました。

サミット開催の背景

地球規模の課題がますます顕在化する一方、多国間主義への信頼が揺らぎ、国際協力の基盤が不安定になっています。国連憲章の理念を改めて確認し、未達成のSDGsを補完するとともに、AIやサイバーセキュリティーといった新たな領域にも対応する必要性が高まっていました。そこで、各国代表に加え、民間企業やNGO、地域コミュニティーなど多様なステークホルダーも参加し、多角的なアプローチを模索する場として開催されたのが今回のサミットです。本サミットでは現代の課題に対応し、国際社会の協力を強化するために、次の4つの目的が掲げられました。

未来サミットの4つの目的

1. 国連憲章の再確認:国際社会の基本ルールである国連憲章を現代に即した形で解釈し直し、国同士が協力する意義を再確認すること。

2.  多国間主義の再構築:気候変動や貧困、人権問題などの地球規模の課題に対応するため、国連をはじめとする国際機関への信頼を回復し、合意形成のしやすい仕組みを整えること。

3. SDGsの進化版への対応:2030年のSDGs達成に向けて、デジタル技術や社会の不平等といった新たな課題に対処するため、従来の目標を見直し、より効果的な対策を検討すること。

4.  現代の課題への対応:デジタル化の進展やジェンダー格差など、さまざまな分野で深刻化している課題に対し、具体的な行動計画を策定し、今後の国際社会が進むべき方向性を示すこと。
 

採択された成果文書「未来のための協定」

こうした議論を踏まえ、最終的に「未来のための協定(Pact for the Future)」が採択されました。この協定には、国際社会が協力して目指すべき目標と、その実現に向けた具体的な施策が盛り込まれています。

「未来のための協定」の5つの柱

1. 持続可能な開発と資金調達:「グローバル連帯基金」や「グリーンボンド」などの新しい資金調達モデルを活用し、発展途上国のインフラ整備や技術開発を支える仕組みづくり

2.  平和と安全保障:紛争地域への人道支援や難民保護体制の強化を通じ、平和を持続するための施策の充実

3. 科学技術とイノベーション:AIや遠隔医療の恩恵を誰もが享受できるようになることと、それに伴う情報流出やサイバーセキュリティの課題に対処するルールづくりやガイドライン策定

4.  未来世代の権利保護:若者が政治や政策形成に参画しやすくなる制度の整備や、教育機会の拡大を図り、次世代が社会の持続可能性を高める主体となるための取り組みを強化すること

5.  グローバルガバナンスの改革:国際機関の意思決定プロセスを見直し、女性や性的マイノリティーなど、多様な主体が議論に参加できる包摂的なガバナンスモデルへの移行

一人一人の行動が未来を創る 

この協定が実際に機能するかどうかは、国や企業だけでなく、私たち一人一人の主体的な行動にかかっています。例えば、公園でゴミを見つけたら拾う、電気自動車などの再生可能エネルギーを利用するといった小さな行動の積み重ねが、環境保全や持続可能な街づくりにつながります。また、フェアトレード商品やグリーンボンドといった債権への投資を通じて、経済的・社会的・環境的に意義のあるプロジェクトを支援することも重要です。さらに、SNSやイベントを活用して情報を発信し、多くの人と問題意識を共有することも、大きな変化の波を生み出す一歩となるでしょう。

SDGsへの私たちの一歩
 「未来サミット」と「未来のための協定」は、多国間主義の再構築やSDGsの進化といった重要な課題に包括的に対応する、新たな枠組みを提示しました。国連憲章の理念を再確認し、デジタル技術やジェンダー平等などの現代的な課題に取り組むことで、持続可能な未来への道筋が明確になっています。しかし、どれほど優れた合意や制度があっても、それを実行するのは各国政府や企業、そして私たち一人一人にほかなりません。社会を一歩前進させるのは、持続可能な未来への道を知った、あなたの一歩です。

 

がん支援の知識を深めるイベント「転移性乳がん:生存から繁栄へ」〜行ってきました

がん支援の知識を深めるイベント「転移性乳がん:生存から繁栄へ」

取材・文:中島雅紘

シアトルでは、医療に関する無料イベントが多くの施設で開催されています。2024年11月2日にはフレッド・ハッチンソン・がんセンターにて開催されたがん患者やその支援者向けイベント「転移性乳がん:生存から繁栄へ」に参加してきました。「もしも明日、自分ががんだと診断されたら……」そんな問いが頭をよぎる一日でした。

当日は、がんサバイバーやがんにまつわる研究を行う専門家たちによる講演が行われた。特に乳がんのステージ4患者を対象とした内容で、会場には実際にがんを経験した人々が多く集まっていた。参加者一人一人が真剣に耳を傾け、サバイバーが人生を語る場面では涙を流す人もいた。

プレゼンテーションやパネルディスカッションでは、がんと共に生きる人々が直面する困難について、多角的な視点から議論が行われた。経済的負担や精神的挑戦、健康的な性生活、人間関係の変化といった多岐にわたるテーマが議題となり、具体的な支援策も提案されていたことが、ほかにはない貴重な機会だと感じた。

とりわけ、腫瘍学の専門家で自身もがん患者であるシャヴェタ・ヴィナヤ博士の講演は印象深かった。博士の乳がん研究にかける強い情熱、医療従事者としての使命感、そして自身の経験に裏打ちされた言葉の重みが多くの参加者の心を動かした。自らの体験を踏まえながら研究に取り組むその姿勢が希望とインスピレーションをもたらし、「自分にもまだできることがあるのではないか」という前向きな思いを呼び起こしたように思う。その反響は大きく、講演後には積極的に質問を投げかける人や、イベント終了後、個別に感謝を伝える参加者の姿も見られた。

筆者自身も何名かの参加者と会話を交わした。中には、「自身ががんを経験しているからこそ世の中に伝えたい」という思いで活動している人や、「残りの人生をどう生きるか」を深く考えている人がいた。その一言一言には重みがあり、人生を見つめ直す機会となった。

当日登壇した、医師のクリストファー・スー氏(公衆衛生学修士)

筆者はこれまで、病院や高齢者施設の経営を通じて多くの患者やその家族に接してきた。病気と向き合いながら日常生活を送る中で、患者自身が情報を探して学び、時には職場や家庭の理解を得ようと向き合う姿に何度も触れてきた。その努力や負担は想像を絶するものがある。特に、経済的・精神的な支援が行き届かないケースを目の当たりにするたび、個人や家族の力だけでは限界があることを痛感する。今回のイベントでは、ワシントン大学助教授のクリストファー・スー氏と、投資会社でウェルス・マネジャーを務めるクリス・バークハート氏によって、がん治療に伴う経済的な問題への対処法や、利用可能なリソースが紹介された。こうした解決策を広く共有し、多くの人々に役立ててもらうことの重要性を改めて感じた。

また、更年期障害の専門医であるリンダ・ミハロフ博士の「健康的な性生活とエストロゲンを用いた治療」に関する講演によって、がん患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を高めるうえで欠かせない視点だ。患者や家族は、治療に加え、普段の生活や仕事、人間関係といったあらゆる面で影響を受ける。特に性に関するトピックは避けられがちだが、実際にはがん経験者やそのパートナーにとって深刻な問題となる場合が多い。だからこそ、こうしたテーマに関して社会全体で対話を進め、理解を深める土壌を育てる必要がある。

がんは患者家族やコミュニティー、さらには社会全体にも影響を及ぼす存在だ。治療費や看護体制の整備、職場での理解やサポートなど多くの課題が複雑に絡み合うため、一つの組織や立場だけでこれらの問題を解決するのは難しい。だからこそ、医療従事者、政策立案者、企業、NPO団体などが協力し合い、包括的で柔軟な支援体制を構築することが重要だ。その第一歩として、こうしたイベントや情報発信の場を拡充し、誰もが気軽に参加できる環境を整えることが求められる。

今回のイベントに参加して改めて感じたのは、社会にはまだ見えぬ課題が多く存在するということだ。必要な人に情報が十分に行き届いていないことや、偏見や無理解といった問題はがんに限らず医療全体における大きな課題である。

社会全体でがん患者を支えるためには、一人一人が自分にできることを考え、行動に移すことが重要だ。たとえ小さな行動でもそれが社会を変える起点になることは少なくない。

がんは「歳を重ねたらなるもの」という認識ではなく、「もし明日、自分ががんと診断されたらどうするか」という視点で考え、行動することが社会の常識として根付くことを願っている。

フレッド・ハッチンソン・がんセンターによるイベント・セミナー情報 
www.fredhutch.org/en/events.html

第2回 あなたの「おにぎり」が世界を救う〜発掘!あなたの身近にあるSDGs経営

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

あなたの「おにぎり」が世界を救う

おにぎりアクションは、2015年に特定非営利活動法人TABLE FOR TWO(TFT)が開始したキャンペーンです。おにぎりを通じて世界の飢餓問題の解決に貢献できるこの取り組みは、日本のみならず世界中で多くの人々に支持されています。これまでに66か国以上からの参加があり、1160万食を超える学校給食が届けられました。

 

おにぎりアクションの背景と理念

おにぎりアクションは、「世界の食の不均衡を解消する」というTFTのミッションのもと、気軽に参加できるアクションとして生まれました。先進国では栄養過多が問題となる一方で、開発途上国では十分な栄養が行き渡らない現実があります。この2つの課題を、みんなの「おにぎり」でつないで解決しようというアイデアです。 

参加方法はとてもシンプル。毎年10月16日の「世界食料デー」に合わせて実施されるキャンペーンに、おにぎりの写真を特設サイトや指定のSNSにハッシュタグ「#OnigiriAction」を付けて投稿すると、協賛企業によって1投稿につき5食分の給食がTFTを通じて開発途上国の子どもたちに届けられる仕組みになっています。投稿が増えれば増えるほど、支援の輪が広がります。紙や布で作った創作おにぎりもOKなので、誰でも気軽に参加できるのも魅力です。 

2024年にはおにぎりアクション10回目を記念して、アメリカ各地でもさまざまなイベントが行われました。サンディエゴでは「オタク・スマッシュ・フェスト」、ワシントンD.C.では「MLK・ライブラリー・ワークショップ」など、地元の特色を生かした催しが開催されました。アメリカ全土10都市で実施された「ザ・おにぎりカップ2024」では、人気のおにぎりの具材を投票で決める企画も登場し、話題を呼びました。

心もおなかもいっぱいで賞supportedbyセイコーエプソンせなママさん

スポンサー企業へのメリット

おにぎりアクションには、日産セレナやセイコーエプソン、オイシックスやニッスイ、またJFCインターナショナルインク、象印アメリカコーポレーション、MUFGユニオン・バンクといった企業がスポンサーとして名を連ねています。これらの企業は寄付を通じて活動を支えるだけでなく、イベントへの協力や広報活動にも積極的に参加しています。 

みんなで力を合わせたで賞神戸市立科学技術高校「私達の体はおにぎりでできてます!」さん

キャンペーンを立ち上げる際には、明確な目標を設定したり、参加しやすい仕組みを考えたり、協賛企業との協力体制を整えたりといった工夫や効果的なPR戦略も欠かせません。さらに成果をきちんと報告し透明性を確保することで、支援する側からの信頼が生まれ、より多くの人々に取り組みを届けることができます。企業にとっては、社会貢献という形でブランドの信頼を高めると同時に、ブランドイメージの向上や商品のプロモーション、そして消費者との距離を縮める絶好の機会にもなっています。おにぎりアクションは、社会課題の解決を進めながら企業の持続可能な成長も後押しする、理想的なモデルといえるでしょう。

子どもおにぎり賞supportedbyニッスイすあさん

 

SDGsへの私たちの一歩
おにぎりアクションは、SDGsの目標1「貧困をなくそう」、目標2「飢餓をゼロに」、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の5つの目標に大きく貢献しています。写真投稿という、手軽で身近なアクションを通じてSDGsへの貢献を感じられるこのキャンペーン。社会貢献に興味はあるけれど一歩を踏み出せなかった人にとってもハードルの低い第一歩です。「好きなおにぎりを写真に撮って投稿するだけ」というシンプルなアクションで、どこか遠い国の子どもたちの笑顔につながる。そんな温かい連帯感を、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。(※2024年のおにぎりアクションは11月16日に終了。2025年も10月より開催予定) 

このキャンペーンは、一人一人の小さな行動が連鎖して企業と個人の協力を生み出すことで、社会全体に大きな変化をもたらすことを教えてくれます。あなたの決断と行動が、より持続可能で豊かな未来を育み、次世代への大きな力になります。 

社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。

 

PSPINC主催ビジネス交流会〜行ってきました

PSPINC主催
ビジネス交流会

取材・文:中島雅紘

IT業界にとどまらず、民間企業やNPO法人、スタートアップ、大学関係者など、さまざまな分野から26名が参加したビジネス交流会が開催されました。業界の枠を超えた活発な交流の様子をレポートします。

© John Cornicello

10月24日、パシフィック・ソフトウェア・パブリッシング・インク(以下、PSPINC)主催のビジネス交流会が開催された。

1987年に内倉憲一さんが設立したPSPINCは、ウェブサイト制作やシステム開発、オンラインマーケティングなど幅広いサービスを提供している企業である。今回のビジネス交流会は、7月に新たに着任した徳留健介さんがコーディネートし、多様な業界から参加者が集まった。普段なかなか接点を持つことが難しい人々が会する機会となり、会場は熱気に包まれていた。参加者たちは事業内容や人となりについて語り合い、活発に名刺交換を行うことで新たなコネクションや、ビジネスチャンスにつながるきっかけをつかむことができた。すでに面識のある面々に新たなメンバーを紹介し合い、交流の輪を広げていた場面も多く見られた。

会場では次回の会合の日程を決めたり、他のイベントへの招待をしあったりと今後のつながりを期待させる交流が行われた。筆者自身も、名前は知っていたものの対面する機会がなかった人たちと会うことができ、シアトル日本人研究者の会や福岡県人会のイベントへの招待を行うなど予想以上の交流の広がりを実感した。さらに、昨年始めた事業の顧客開拓について相談をする機会にも恵まれ、アドバイスも得ることができた。

参加者たちは自身の経験や業界の最新トピックについて熱心に話し合い、特にIT技術の進化や地域社会への貢献に関する意見交換が活発に行われるなど、異なる視点からの知見が共有されることで非常に価値のある議論が展開され、新しいアイデアも創出された。新たな協力関係の構築にもつながり、参加者にとって大変有益なものとなっただろう。

交流会の最後には次回の開催を期待する声が多くあがり、こうした場が今後も継続されることの重要性が再確認できた。PSPINCの取り組みにより、異業種間のつながりが深まり、地域全体のビジネスネットワークが強化されていくことを期待している。

新連載:発掘!あなたの身近にあるSDGs経営〜日本発! シアトルで見る世界の衛生改革:SATOトイレ

今や誰もが知る「SDGs(持続可能な開発目標)」。この目標の達成を目指して経営する企業が、世界にはたくさんあります。もしかしたら、あなたが実践者になる日が来るかも? 意外と知られていない、身近にあるSDGs経営を紹介します。

日本発! 
シアトルで見る世界の衛生改革:SATOトイレ

簡易式トイレシステム「SATO(Safe Toilet)」って? 

ディスカバリー・センター入口にあるトイレ型の水飲み場

「SATO」は、SDGs 17個の目標のうち、目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成に貢献すべく、日本の大手建材・住宅設備メーカーLIXILが2012年に開発した革新的なトイレシステムです。世界では約20億人が衛生的なトイレにアクセスできず、感染症の蔓延まんえんによって毎年数百万人が命を落としています。この深刻な問題に対処するためにSATOトイレは生まれました。 

特筆すべきは、そのシンプルで効果的なデザインです。排泄物が落下するとフラップ(中ぶた)が自動的に閉じ、臭気や害虫の侵入を防ぎます。また、わずか200ミリリットルの水で作動するため、水資源が限られた地域でも使用可能です。設置も簡単で、特別な工具や専門知識がなくても、トイレ用に穴を掘った場所に取り付けることができます。排泄物の適切な処理により、水質や土壌の汚染を防ぎ、環境保護に貢献するだけでなく、疾病が減少することで、医療費の削減労働生産性の向上が期待でき、経済的な効果も生まれます。さらに、安全でプライバシーが守られたトイレが学校や職場に提供されることは、少女の教育機会と女性の社会参加を支援し、ジェンダー平等にもつながってゆくのです。

実物のSATOトイレ。和式トイレのような形をしており、簡単に取り付けられる。

シアトルとのつながり

シアトルに本部を置くビル&メリンダ・ゲイツ財団(BMGFは、マイクロソフトの元会長ビル・ゲイツ氏と元妻メリンダ氏によって2000年に創設された世界最大の慈善基金団体で、現在は「ゲイツ財団」として活動しています。同財団は、世界の衛生問題解決に向けて大規模な資金と資源を投入し、先進的なトイレ技術の研究開発や衛生インフラ改善プロジェクトを支援しています。LIXILも共同プロジェクトとして新しいトイレ技術の開発や普及活動も行っています。 

アメリカ国内での人口あたりのトイレ数を示すパネル

シアトル・センターの向かいに位置するビル&メリンダ・ゲイツ財団ディスカバリー・センターでは、SATOトイレのモデルが展示されており、無料のワークショップを通じて、その重要性を学ぶことができます。「What to do with all the poo?」というワークショップでは、新しいトイレを考案したり、国際的な衛生問題についてディスカッションを行うコーナーが設置されており、毎年11月には「世界トイレの日」に合わせて水の味見、臭い体験といったワークショップも開催されています。2024年は11月16日(土)に予定されています。詳しくはこちら(www.discovergates.org)。 

また、LIXILはシアトルの大学や研究機関とも連携し、技術開発や効果測定に関する共同研究を実施。シアトルで開催される国際会議やイベントにも積極的に参加し、情報共有やネットワーキングを行い、より多くの人が衛生問題の改善に興味を持つよう働きかけています。

©A Better Way to Go: Toilets and the Future of Sanitation/Gates Foundation Discovery Center

SDGsへの私たちの一歩
私たちの生活に必要不可欠なトイレ。アメリカや日本といった国で生まれ、暮らしていると、毎日清潔なトイレを使えるということがいかに特別なことか、ついつい忘れてしまいがちです。LIXILは、国連が定めたSDGsの達成期限である2030年までに「1億人に安全な衛生環境を提供する」という目標を掲げ、一人でも多くの人が当たり前に清潔なトイレと手洗いにアクセスできるよう、「みんなにキレイをプロジェクト2024」を今年12月まで実施中です。LIXILのトイレ事業にまつわる目標や具体的な活動が書かれてありますので、ぜひウェブサイトをご覧ください(www.lixil.co.jp/corporate/sustainability/minnanikireiwopj)。  

社会を一歩前進させるのは、SDGs経営に取り組む企業のちょっとした工夫を知った、あなたの一歩です。