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Author: 西東 円佳

2024年秋からシアトルへ。趣味はワシントン州の野生動物を見たり、自然の中で友人たちとハイキングをすること。大好物のブリトー、PBジェリーサンドイッチ、そしてプラントベース生活で心も体も元気いっぱいの日々をおくる。

ダルマ・サンド/ DARUMA SANDO〜人気のお店訪問

日本のサンドイッチはやっぱりおいしい! ガス・ワークス公園からほど近い「ダルマ・サンド」は日本のサンドイッチやサイドメニューを気軽に楽しめます。フリーモント周辺を散策中に立ち寄るのにおすすめの一軒です。

取材・文:西東円佳

ダルマ・サンド/ DARUMA SANDO

昨年7月、麺屋武双の系列店としてフリーモントにオープンした「ダルマ・サンド」。カフェが立ち並ぶこのエリアで、繊細な日本の味わいの虜になった人々が足を運び、連日にぎわいを見せている。特に天候に恵まれる春から夏にかけてはオーダーが後をたたないほどなのだとか。テイクアウトはもちろん、デリバリーやオンラインオーダーにも対応している。

たくさんのダルマの置物が出迎えてくれる店内は、開放的で居心地の良い空間

晴れた日には、サンドイッチを片手に近くのガスワークス公園まで足を延ばしてみたい。シアトルらしい開放的な景色の中で味わうサンドイッチは格別だ。

まず味わいたいのが、タマゴ・サンド。地元のパン屋「フジベーカリー」のやわらかな食パンは、ほのかな甘味があり、具材とよく合う。多くの店で見かけるようになったタマゴ・サンドだが、ここダルマ・サンドでは、ボリュームたっぷりの具材と丁寧な味付けが楽しめる。ほかのサンドイッチも食べ比べてみたい。

あふれんばかりのタマゴが入った、店自慢のタマゴ・サンド

新メニュー開発にも力を入れている。この時期に登場したのはフルーツサンド。現在は夏に向けた限定メニューを開発中だという。サンドイッチに加え、カレーやサイドメニューがそろうのもこの店の魅力。ビールやハイボールといった酒類もあり、昼の早い時間から思い思いにくつろぐ客の姿も見られる。洗練されつつも居心地のよい店内は、つい長居したくなる空間だ。

チキン・カツ・カレー(左)$14 、アゲパン(右上)$4(期間限定)、タマゴ・サンド(右下)$10

店主はベトナムで2年間店を営んだのち日本に帰国。麺屋武双に採用されてシアトルへ渡り、新たな挑戦の場としてこの店に立ったという。日々多くの客を迎えながら、「アメリカ中にダルマ・サンドを広めたい」と先を見据える。今後の新メニューや店舗展開にも期待がふくらむ。

日本の味が恋しくなったとき、こだわりのサンドイッチとカレーをぜひ味わいに訪れてみてほしい。

ダルマ・サンド/ DARUMA SANDO

1651 N. 34th St., Seattle, WA 98103
営業時間:月〜金11am〜8pm、土10am〜9pm、日10am〜8pm
夏季の営業時間は変更になる場合があります。
☎️206-644-8332
https://darumasando.us、instagram:@darumasando

 

 

寿司かしば/ Sushi Kashiba〜人気のお店訪問

大切なのは、流行に流されず、伝統の軸を守り続けること。シアトルの老舗寿司店「寿司かしば」で江戸前寿司と日本の食文化の奥深さを味わいたい。

取材・文:西東円佳

寿司かしば/ Sushi Kashiba

「寿司かしば」は、シアトルのダウンタウン、活気あふれるパイクプレイス・マーケット近くに店を構える老舗寿司店だ。半世紀以上にわたってシアトルに暖簾を掲げ、まだ寿司文化が根付いていなかった時代から、江戸前の伝統を伝え続けてきた。日本と似た気候に恵まれたパシフィック・ノ−スウェストの海と大地。その恵みを生かしながら、シアトル流江戸前寿司を表現してきた店でもある。

洗練された店内でのひとときは特別な時間に

店内に足を踏み入れると、オーナーシェフの加柴司郎さんがカウンター越しに客を迎える。55年以上前に渡米し、寿司店が一軒もなかったシアトルで最初に店を開いたパイオニアだ。「日本の文化を紹介したい」という思いから始まった挑戦は、今や多くの弟子たちを育て、この街の寿司シーンを形づくってきた。寿司にしても和食にしても、地元で採れた旬の食材こそが、おいしさを引き出す秘訣だと語る。野菜や果物も、できるだけ地元産のものを選んでいる。

地元産の食材にこだわり、選び抜かれたボタンエビ

そもそも江戸前寿司とは、約150年前の江戸で生まれた握り寿司のこと。江戸湾で獲れた魚を使い、コハダなどを素早く握って供したのが始まりとされる。寿司は新鮮であることが大前提だが、加柴さんによれば「寿司の価値の6割から7割はシャリで決まる」という。米の炊き方、酢の合わせ方、空気を含ませる握り加減など、そのすべてが一貫の完成度を左右する。ネタを引き立て、かつ主張しすぎない絶妙なバランスこそ、江戸前の真髄だ。

江戸前の技を礎にしながら、マグロや白身、貝類それぞれの持ち味を引き出していくのが「寿司かしば」の真骨頂だ。余計な演出はせず、包丁の入れ方や握りの加減に細やかに気を配り、素材そのもののうま味を際立たせる。加柴さんは、地元で獲れる巨大な貝、グイダック(ミル貝の一種)にも50年以上前から着目し、寿司ネタとしてその魅力を伝えてきた。いまでは世界中に輸出される人気食材だが、当時はクラムチャウダーに使われる程度だったという。ローカル食材に光を当て、グイダックに加え、オーシャンスメルト、レイザ−クラムも寿司という形で新たな価値を与えてきた。

春に味わいたい季節もののホタルイカ

もちろん仕入れは信頼する問屋から。その時季にいちばん状態のいいものを見極め、素材本来の持ち味をどう生かすかに心を砕く。つややかな地元産のボタンエビや、日本から輸入した初春の味わいを凝縮したホタルイカなど、目にも美しい一品一品に、加柴さんの細やかな仕事がにじむ。

寿司は今や世界的なブームとなっている。そんな中でも大切なのは、流行に流されず、伝統の軸を守り続けること。世代を問わず、ぜひ「寿司かしば」で一貫一貫丁寧に握られた寿司を味わってみてほしい。

寿司かしば/Sushi Kashiba

86 Pine St. #1, Seattle, WA 98101
営業時間:5pm〜10:45pm 定休:火 
☎️206-441-8844 
https://sushikashiba.cominstagram: @sushikashiba

 

シアトル日本語補習学校第26代校長 鹿屋純一さん〜スペシャルインタビュー

教育への思いを胸に、子どもたちの未来の扉を開く
シアトル日本語補習学校第26代校長 鹿屋かのや純一さん

取材・文:西東円佳

「教育とは流水に文字を書くようなはかない業である(森信三の言葉)。だからこそ、子どものためになることを真剣に考えて取り組んでいきたい」そう語る鹿屋さんはシアトル日本語補習学校を「子どもたちの可能性を限りなく広げる学校」と表現します。インタビューを通して鹿屋さんが大切にしてきた教育観と、シアトル日本語補習学校の魅力に迫ります。

鹿屋純一鹿児島県出身。大学時代は名古屋市で過ごし、法学部で刑法を専攻。卒業後、鹿児島県職員として帰郷。友人の勧めで勤務の傍ら教員免許を取得し、20代後半から公立小学校教員として再出発する。国語科の研究を志すも、次第に算数科や視聴覚教育に傾注。2023年3月の定年退職まで海外(シンガポール)を含む10校で勤務。現在は文部科学省派遣教員として本校に着任し、2年目を迎えている。
学び方次第で生きる、年間40日の「日本語留学」
 
シアトル日本語補習学校は、日本の学校教育を基本としてアメリカという環境の中で学ぶ、いわば二つの教育文化の「良いとこ取り」ができる学びの場。多様な背景を持つ仲間との出会いや、異なる文化や価値観に触れるなかで、違いを受け入れ、他者を尊重する姿勢が育まれる。子どもたちは教科学習にとどまらず、広い視野と多面的なものの見方を自然と身に付けていく。 
 
最大の特徴は、週に1度、年間およそ40日の「日本語だけの環境」。アメリカの日常から離れ、日本の教科書を使用して学び、日本の生活習慣やマナー、文化の背景に触れる時間は、まさに「ミニ日本留学」だ。ここで得た経験は、子どもたちのアイデンティティーの核となり、将来の揺るぎない土台となる。また、多様な背景を持つ教職員や家庭が集まるコミュニティーも大きな魅力だ。経験や知識が共有され、子どもたちの「引き出し」が増えていく。さらに、幼稚園児から高校生までが同じ校舎で学ぶ環境では、年齢の異なる子どもたちが日常的に関わり合う。上級生が下級生を気にかけ、下級生が上級生の姿に学ぶ。高学年になるほど学びへの姿勢はより主体的になり、現地校と補習学校の両立を通して養った力は、卒業後の大学生活や社会でも確かな成果として表れている。 
 
日本語と英語に加え、現地校で第三言語へ挑戦する児童生徒も少なくない。ここで育まれる吸収力と異文化理解は、世界で生きていくための大きな強みとなり、柔軟で適応力のあるグローバルな人材へとつながっていく。
 
先生の話に真剣に耳を傾ける子どもたち
補習学校のボランティアグループ「おはなし会ひみつの本箱」による、子どもたちが大好きな読み聞かせの時間
 
児童生徒数が多いからこそできる行事で、子どもたちの心身の健康と成長を応援
 
補習学校の授業は、教師からの一方向の学びではない。子どもたち自身が考え、動き、学習活動をつくり出せる環境づくりを、常に大切にしているという。上級生の教室では、①自分で考える②ペアで話し合う③グループで深める④全体で共有する、というプロセスを繰り返す中で、子どもたちの自信が育っていく様子を日々実感しているそうだ。
 
補習学校では、日本の学校のように体育や道徳の授業があるわけではない。しかし、学びと運動は本来密接に結びついている。そのため、運動会やスポーツ大会は特別な意味を持つ。互いの力を認め合い、協力する喜びを知ること。人間関係が深まり、道徳的な心情が育つ時間。昨年できなかったことが今年はできるようになったと実感する瞬間。これら一つ一つが子どもたちを大きく成長させる。また上級生の姿を見て「自分もあんなふうになりたい」と憧れを抱く経験ができるのは、児童生徒数の多い補習学校ならではの価値だと語る。

設立当初から変わらない教育姿勢「きびしく学ぶ、たのしく学ぶ、ゆたかに学ぶ」

年に一度の中高部スポーツ大会。一致団結して臨み、クラスの絆と成長が刻まれる
 
シアトル日本語補習学校には、日本を離れアメリカで生活しながら豊かな経験を積んできた教職員がそろう。共通しているのは、児童生徒への愛情を持って向き合う姿勢。ただし、愛情と甘やかしは違うという認識のもと、身に付けてほしいことは毅然きぜん と伝える。そのバランスを大切にしながら授業をつくり、児童生徒の成長にしっかり寄り添っている。
 
校歌にも歌われている「きびしく学ぶ、たのしく学ぶ、ゆたかに学ぶ」という姿勢は、単に学力を高めるためのものではない。子どもたちが将来ぶれることなく成長していくための土台となるものだ。実際に、多くの卒業生が確かな力を培い、それぞれの道へと巣立っていった。
 
一方で、社会も教育も常に変化している。これからも日本の教育が目指す方向性をしっかりと理解し、その良さをシアトルで学ぶ子どもたちにどのように届けるかを考え続けたい。子どもの中にある「学びの種火」を守り育て、その火を子ども自らが燃やし続けられるような授業や学校づくり、さらには人生の生き方につながる種まきを進めていきたい。補習学校は「厳しい」というイメージを持つ家庭もある。宿題が多いなど、学びの定着には一定の負荷が伴うのも事実だ。しかし、それは子どもが確かな力を身に付けるために避けては通れないものと理解してほしい。
 
最後に、学び以外の魅力にも触れたい。例えば、毎週土曜日に持ち寄る手作り弁当。お弁当を頬張る子どもたちの姿は本当に幸せそうで、温かな空気が広がっている。子どもが学校に通う時期にしか育めない親子の絆が深まる時間。そんな温かな記憶を育む場所でもあってほしいと願っている。
 
シアトル日本語補習学校
Seattle Japanese School919 124th Ave. NE. #207, Bellevue, WA 98005
☎425-643-1661、office@seattlejschool.org
https://seajschool.org

パシフィック・ノースウエスト・バレエ「くるみ割り人形」〜イベントクローズアップ

主人公クララとくるみ割り人形が繰り広げる温かくワクワクな冒険物語
パシフィック・ノースウエスト・バレエ
「くるみ割り人形」


チャイコフスキーの三大バレエの一つ「くるみ割り人形」がパシフィック・ノースウエスト・バレエ(PNB)によって12月28日(日)まで公演されています。アメリカで長く親しまれているジョージ・バランシン版の演出で、多くの子どもキャストが起用されたほほ笑ましい夢物語は必見です。

取材・文:西東円佳

バレエ団に所属する多くの子どもたちは、将来のバレリーナを目指し、「くるみ割り人形」の舞台に立つことを大きな目標としている。そんな子どもたちの舞台を楽しみに訪れた観客の中にも子どもの姿が多く見られた。会場のロビーには巨大なクリスマスツリーが飾られ、来場客を出迎えていた。家族連れが列をなしてツリーの前で写真を撮る光景はほほ笑ましかった。 

ドイツの作家E.T.A. ホフマンの物語『くるみ割り人形とねずみの王様』をもとにロシアの作曲家チャイコフスキーによってバレエ化された本作品は、時を越えて愛され続けるクリスマスの温かい物語である。主人公のクララは名付け親ドロッセルマイヤーからくるみ割り人形を贈られるが、大喜びするクララの前で、兄フリッツがそれを壊してしまう。修理してもらったものの人形のことが気になって眠れないクララは、夜中の12時に様子を見に部屋に戻ると、そこは……。 

© Angela Sterling, 2025.

PNBの生徒たちによるクリスマスパーティーのシーン

シアトルを拠点とするパシフィック・ノースウエスト・バレエによる「くるみ割り人形」は、地元の才能あふれる子どもたちが大活躍する舞台として知られている。無邪気な子どもたちの動きや表情をリアルに感じられる演出に、生演奏のハープが響き、どこか懐かしいクリスマスの情景がよみがえり、観客を夢見心地にさせる。有名なクリスマスツリーがどんどん高く伸びていく演出や、チョコミントパフェやキャンディーケーンの衣装でのバレエパフォーマンスは、クララが大好きなデザートに囲まれて喜んでいる世界を、ユーモラスかつ華やかに描き出す。 

© Angela Sterling, 2025.

雪の降る夜に舞う美しいシーン

第二幕ではプロのバレリーナによるソロパートが数多く登場し、世界各国のお菓子をテーマにした演出など、目が離せない場面が次々と展開される。 

公演中は終始柔らかな雰囲気に包まれていた。希望や純粋さが随所に込められた物語は、クリスマスの小さな奇跡が子どもたちの夢をそっと後押ししているように感じられた。毎年この時期に家族で観にいくことを恒例にしている人が多いのもうなずける。スタンディングオベーションが鳴り止まなかったのも、もちろん納得の舞台だった。

© Angela Sterling, 2025.

雪の降る夜に舞う美しいシーン

George Balanchine’s The Nutcracker®
日程:公演中〜12月28日(日)
場所:Marion Oliver McCaw Hall
   301 Mercer St., Seattle, WA 98109
料金:$39〜
問い合わせ:☎️206-441-9411、tickets@pnb.org
チケット:☎️206-441-2424、https://order.pnb.org/events?k=nutcracker
詳細:www.pnb.org/nutcracker

日本とインドの文化を継承する、布のアート〜ソイソースいち押し!

日本とインドの文化を継承する、布のアート
 
取材・文:西東円佳 写真:桑山幸
 
日本人の父とインド人の母を持つ桑山幸さんは、環境保護団体で働く傍ら、シアトルを拠点にアートを通して日本とインドの文化遺産を未来へつなぐことに情熱を注いでいます。12月4日(木)から2026年1月8日(木)まで、ギャラリーB612にて「小さいアート作品」というテーマで桑山さんの作品が展示されます。

シカゴで生まれ育ち、現在はシアトルで活動する桑山さん

日本とインド、二つの文化をつなぐものとして桑山さんが選んだのは「布」だった。  

幼い頃から両親とともに両国を訪れ、伝統文化に触れる機会に恵まれた経験は、彼女にとってかけがえのない記憶として残っている。社会人になってからは以前のように頻繁に旅行ができなくなり、代わりに料理を通して二つの文化を感じるように。両国の味を組み合わせた料理も試みたが、思うような味にはならず断念したこともあった。そんな折に思いついたのが、両国の衣服に用いられる独特で美しいテキスタイル模様を融合させることだった。日本の祖父母から見せてもらった伝統的な着物を手にしたとき、一枚の布の中に家族の物語や歴史が織り込まれていることに気づいた。継承していくことの尊さを改めて実感という。  

日本で愛されているスナック菓子と伝統的なテキスタイルを融合した作品

「着物」は日本の衣装、「サリー」はインドの衣装。どちらも長い歴史の中で大切に受け継がれてきたものだ。その二つの伝統を結びつけた布のアート作品は桑山さんにとって理想的な継承の形だった。  

アート制作を始めてまだ3年ほどだが、家族や友人をはじめ、作品に触れた人たちからの反響は大きい。なかでも日本のスナック菓子をモチーフにした版画シリーズは懐かしさとユーモアが混ざり合う独自の世界観で、多くの人から愛されている。版画技法を用いて、一つのテーマを少しずつ形にしながら発展させていけることも、彼女がこの手法にひかれる理由のひとつだ。  

織物と影絵を掛け合わせ、動物を表現した限定シリーズよ

シアトルのアマチュアアーティスト・コミュニティーはいつも温かく、アーティストとして活動するには理想的な環境だという。作品を通してアジアの文化や記憶を思い起こす観客も多く、アートが生む「つながり」こそが桑山さんにとっての創作の原動力となっている。  

「日本とインドの美しい芸術の伝統に深く感銘を受けており、出合えたことに心から感謝しています。私の作品を通して、喜びやつながりを感じていただければ幸いです。」と桑山さん。  

文化の記憶を布に込めた彼女の作品は、12月4日(木)からギャラリーB612で展示される。繊細な模様に込められたストーリーを、ぜひ会場で感じてみてほしい

GALLERY B612

1915 1st Ave. S., Seattle, WA 98134
☎️206-476-7385、 info@galleryb612.com
https://www.galleryb612.com

桑山幸/Saachi Kuwayama
ウェブサイト https://saachicreates.wordpress.com
instagram: @saachi_creates

 
 

大人気ブロードウェイ・ミュージカル、シアトルに上陸!〜特別レポート

 大人気ブロードウェイ・ミュージカル、シアトルに上陸!

取材・文:西東円佳

ブロードウェイのロングラン作品の一つであり、1997年にトニー賞6部門を受賞したジャズ・ミュージカル「シカゴ」。今も世界中で高く評価され続けているこの名作が11月2日(日)まで フィフス・アベニュー・シアターにて上演中されました。その魅力について、同作の音楽監督として活躍中のアンディー·チェン氏に話を伺いました。

「シカゴ」の作品紹介

1975年にブロードウェイで初演された「シカゴ」は、1920年代の禁酒法時代、いわゆる「ジャズ・エイジ」のシカゴを舞台にしている。劇中歌『オール・ザット・ジャズ(All That Jazz)』を耳にしたことがある人も少なくないだろう。当時は伝統的な女性観に縛られない生き方を求める「フラッパー」と呼ばれる女性たちが徐々に増え始め、メディアのゴシップが世間をにぎわせていた時代だった。「シカゴ」の主人公は、殺人罪で収監された2人の女性、スターを夢見る主婦ロキシー・ハートと元ナイトクラブのスター、ヴェルマ・ケリー。彼女たちはメディア操作を得意とする悪徳弁護士ビリー・フリンの助言を受け、有名になり無罪を勝ち取ろうと行動を起こす。その過程で当時の腐敗した司法制度や名声を追い求める人間の滑稽さが浮き彫りになる。

ジャズやタンゴを基調としたエネルギッシュな音楽が特徴的な本作は、大人向けミュージカルであると同時に、アメリカ文化を理解するうえでも一度は観ておきたい作品の一つだ。

観劇レポート

10月24日のオープニングナイト、会場はすでに開演を心待ちにする観客であふれていた。注目していた「セル・ブロック・タンゴ(Cell Block Tango)」は女囚たちがなぜ投獄されたのか、どんな心情でいるのかを描く情熱的なタンゴ調のナンバー。曲が始まると同時に、観客から歓声が沸き起こり、ステージには熱い視線が注がれた。女囚たちの怒りや主張、抑圧からの解放を刻むように踏み鳴らされるヒールの響きや、犯した罪に対する複雑な感情を宿した鋭いまなざしに圧倒された。キャストたちが『シカゴ』を心から愛していることが、舞台の隅々から伝わってくる。彼らはそれぞれのキャラクターに独自の色を与え、作品に新たな生命を吹き込んでいた。

東洋の雰囲気漂う歴史ある劇場にて

その情熱を、全ての曲を指揮した音楽監督のアンディー・チェン氏が音楽で導いていく。キャストや観客との掛け合いを楽しむ演出によって、演者・観客・オーケストラが一体となり、2時間半があっという間に過ぎた。終演後、観客から大きな拍手とスタンディングオベーションが送られたのはいうまでもない。

Credit : Jeremy Daniel

自分の名前が新聞に載り、努力が報われた瞬間のロキシー

Credit : Jeremy Daniel

6人の女囚たちが魅せる、迫力ある「セル・ブロック・タンゴ」

Credit : Jeremy Daniel

弁護士ビリーをめぐる女囚たちの魅惑的なナンバーに注目

「先人が築いた真実を尊重し、継承していきたい」
アンディー・チェン氏インタビュー

アンディー・チェン◾アジア系アメリカ人。️ニューヨーク州北部の小さな町で育つ。音楽監督の修士号を取得後、信頼と機会を与えてくれた人々との出会いがきっかけで「シカゴ」の全米ツアーに2年間参加。今年度から音楽監督に就任。「まるで夢がかなったような、言葉にならない思いだ」と語る。


演奏を通して表現する「掛け合い」とは

私の最大の責任は、「シカゴ」の作家たちの意図と、長年にわたって受け継がれてきたこのリバイバル公演の創造性を守ることです。このショーは、照明や美術、音響、テンポ、音楽といったあらゆる要素が調和し、舞台上で一つになって息づいています。先人が築き上げた世界観を尊重しつつ、観客がより深く物語を体感できるように演出しています。楽譜そのものは明快でありながら、想像を広げる余白を残すよう心がけています。

バンドがショーの中でこれほど生き生きと息づくミュージカルは多くありません。キャストやミュージシャン、そして舞台裏のスタッフが一体となり物語を紡いでいます。そんな掛け合いや呼応の瞬間にこそ、このショーの「魔法」が宿るのです。ぜひその瞬間を見つけてみてください。きっと心に残る時間になるはずです。

ショーが「一体化」する瞬間とは

今年のツアー初日、ワシントン州ヤキマで行われたプレビュー公演は、忘れがたい時間でした。観客の皆さんは実感していないかもしれませんが、会場にいることで生まれる音の響きや感情の反応が、キャストの演技に影響を与え、物語の緊迫感をいっそう高めてくれます。観客もまた、このショーを完成させる一員なのです。そのエネルギーを、私たちは音楽を通してお返ししたいと考えています。

人間味あふれる仕事

音楽監督という仕事は、多くの課題を抱えていますが、それ以上にやりがいのある仕事です。公演運営やスタッフの調整を行いながら、週に7、8回、2時間半に及ぶ上演を指揮し続けるという、肉体的にも厳しい役割です。それでも、仲間のアーティストたちが懸命に取り組む姿を見守り、彼らが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、その力を引き出せることが、何よりの喜びです。

シアトルの皆さんにメッセージ

シカゴ」は愛と情熱の結晶です。そして強いメッセージ性を持つ作品でもあります。風刺と繊細さを基調に、マスメディアの力やセレブリティーにまつわる幻想を鋭く描くこの作品は、舞台上の華やかさを楽しむだけでなく、どの時代にも響く深い気づきや共感をもたらしてくれます。

この音楽と物語をシアトルの皆さんと共有できることを光栄に思います。どうぞお楽しみください。

Chicago

日程:開催中~11月2日(日)
場所:The 5th Avenue Theatre
   1308 5th Ave., Seattle, WA 98101
料金:$55.60〜
問い合わせ:☎206-625-1900、guestservices@5thavenue.org
チケット・詳細:www.5thavenue.org

 

常に感謝の気持ちを忘れない プロアイススケーター  ミハル・チャフィンさん〜スペシャル・インタビュー

大人気の「ディズニー・オン・アイス〜レッツ・ダンス〜」が西海岸を中心に2026年春まで公演予定です。今月には、ワシントン州ケントとエバレット、スポケーンでも公演が行われます。キャストとして活躍し、キャプテンやサポートディレクターの経験を持つプロアイススケーター、ミハル・チャフィンさんにお話を伺いました

取材・文:西東円佳

© Feld Entertainment, Inc.
ミハル・チャフィン■神奈川県海老名市出身。アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれ、兄がいる。 8歳のときにワシントン州ピュアラップに移住。11歳でフィギュアスケートを始める。16歳の頃、友人のフィギュアスケート公演を観たことをきっかけに、競技だけでなくパフォーマンスにも魅力を感じる。18歳の現役高校生のとき、『ディズニー・オン・アイス』(Feld Entertainment, Inc.)のオーディションに合格。卒業後より同社にてプロスケーターとしてのキャリアを重ねる。

「Have a good one」は、欠かさず伝えたい言葉

「ディズニー・オン・アイスで9年も活動しているなんて、自分でも信じられないくらいです。それほど毎日、心が満たされているんです。職場の仲間は家族のような存在なので、私はファミリーと呼んでいます。とても楽しい毎日です」。そう語るチャフィンさんは、アンサンブルキャストとして一つのショーで複数の役を演じ分ける。「昨日よりもうまくなりたい」という気持ちを持ち続けることが観客のためでもあり、自分自身のためにもなるという。「こうした姿勢で日々に向き合えば、舞台以外の場面でも同じように成長でき、良い経験につながっていくと思います」。観客のために技術と心を磨き続ける、その真摯な姿勢が伝わってくる。

本番前、チャフィンさんが必ず仲間にかける一言がある。それが「Have a good one! (頑張っていこうね!)」だ。大切なお客さまの前でパフォーマンスできる喜びと感謝を忘れないように、という思いが込められている。同じ演目を何度も繰り返す公演では心も体も疲れてしまう仲間は少なくない。そんな時、チャフィンさんの一言は「一人じゃないよ。みんながサポートしているよ」というメッセージとして響く。「ありがとう」と返されると、それが自身の励みになるという。「仲間から頼れる存在と思ってもらえるのは本当にうれしいこと。これからもそうあり続けたいですね

二つの文化を混ぜて作る食事の楽しさ
 
ツアー中は移動が多く、新しい料理や文化に触れることも楽しみの一つだ。宿泊先で仲間たちと食事を作ったり、食を通じて交流を深めることも多いという。そんなチャフィンさん流の異文化での食の楽しみ方を尋ねた。「どこに行っても日本と全く同じ材料がそろうことは少ないです。でも、二つの文化を組み合わせてみるのはどうでしょう。例えば、アメリカの卵料理をアレンジして豆腐料理にするのもいいですし、ゴマ油を使えば現地の食材でも日本風の味に近づけられます。餃子を作りたいときに具材がそろわなければ、ブタひき肉を別の種類に替えたり、キャベツの代わりに玉ネギとニンジンにしてもおいしくできます。日本人として『これはアリなの?』と思うかもしれませんが、その土地の文化と自分の文化を混ぜて作るごはんが、いちばん楽しめて、おいしいと思います」。完璧でなくてもいい。柔軟に文化をミックスさせることでより楽しく、異文化を身近に感じられる。そんな素敵な考え方を教えてもらった。
 
@Miharu Chaffin
得意料理の具だくさんカレーはほかのキャストにも大好評!


「地元」ワシントン州で観客のみなさんに会えるのが楽しみ!

「ディズニー・オン・アイス~レッツ・ダンス~」は、まるでパーティーのような華やかなショーだ。開演15分前から流れるディズニー音楽で、すでに会場のボルテージは最高潮に。ミッキーたちも登場し、観客と一緒に歌ったり踊ったりして盛り上げてくれる。
 
キャラクターだけでなく本格的なフィギュアスケートのパフォーマンスも見どころ。中でも注目は、スケーターが氷上から9メートル以上も舞い上がる「アクロバティック・フープ」! 観客のすぐ近くまで滑ってくるシーンもあり、臨場感たっぷりだ。
 
「『ディズニー・オン・アイス』はどの年代の方にも幸せな時間をお届けできると思います。ぜひ観に来てください!  ワシントン州での公演をとても楽しみにしています!」
 
なお、ケントでの公演は今月26日(日)まで。エバレットでの公演は今月30日(木)から11月2日(日)までだ。その後も西海岸でのツアーが続く。最新の公演情報は公式ウェブサイト
 
© Feld Entertainment, Inc.

DJブースで会場を盛り上げるミッキーとたくさんのキャラクターたち

info.
ケント公演
期間:開催中〜26日(日)
場所:accesso ShoWare Center 
   625 W James St., Kent, WA 98032
料金:$38 .60〜

エバレット公演 
期間:10月30日(木)〜11月2日(日)
場所:Angel of the Winds Arena 
   2000 Hewitt Ave., Everett, WA 98201
料金:$44.06〜
詳細・問い合わせ:www.disneyonice.com/en-us/lets-dance-kent-everett

※スポケーン公演は公式ウェブサイトにて確認を

ユーモアも皮肉もたっぷり、イケアの創業者がミュージカルとなって現る!「イングヴァル!(INGVAR!)」〜行ってきました

ユーモアも皮肉もたっぷり、イケアの創業者がミュージカルとなって現る!
「イングヴァル!(INGVAR!)」

取材・文西東円佳

7月26日から8月24日まで、スウェーデン発のヒットミュージカル「イングヴァル!:ミュージカル・ファーニチャー・サーガ」が英語版の世界初演としてシアトルセンターのアーモリー・ホールで上演されました。

かの有名なイケアの創業者、イングヴァル・カンプラードは、貧しい移民の子からどうやって世界で8番目に裕福な男になったのか。市場が大幅に低迷した最悪の状況下で、イングヴァルならどうするだろうか? とブローカーたちが歌と踊りを通して彼の人生の旅を観客に伝えていく。

© Elizabeth Ogle

主人公イングヴァルとしっかり者マグダレナの見事な掛け合いシーン

同作品はスカンディナビアで人気の資本主義風刺劇が初めて英語化され、歌と音楽のみで構成されたポップオペラスタイル。このたび英語版の世界初公演として、シアトルセンターに登場した。

幕が開くと、観客は瞬く間にその世界に引き込まれる。北欧の伝統的な嘆きの歌声が美しくおごそかに響き渡り、登場人物たちが不安定な経済の中で抱える絶望と不安、そしてその奥に見え隠れする希望が描かれる。作品後半にはなんと日本語でのセリフ(歌詞)も盛り込まれていた。

© Elizabeth Ogle

近距離でバイオリンの生演奏を聴けるのもミュージカルの楽しみの一

シアトルを拠点とする劇団ラティチュード・シアター(Latitude Theatre)が手掛けたことも、この作品をより魅力的なものとしたに違いない。才気あふれるシアトルのアーティストたちが描くスウェーデンの物語を、笑いと一体感に満ちた会場で楽しむことができる。同劇団は主に翻訳作品を上演してきたが、今回の挑戦は特に大きな意味を持つものとなった。

マグダレナ(Magdalena)を演じたソフィア・アヤラ(Sofia Ayala)に話を聞くと、リハーサル中はキャスト全員が役に真剣に向き合い、演出家は褒めるときもノーと言うときも、笑いでキャストを包んでいたという。そんな温かな雰囲気の劇団によるイングヴァル! は一味も二味も違う魅力を放っていた。

© Elizabeth Ogle

キャスト勢ぞろい! 繰り広げられるダンスと曲に拍手が鳴り響く

本作品の上演はすでに終了しているが、ラティチュード・シアターの今後の作品に注目したい。時間を見つけてまたほかの演目にも足を運んでみたいと思わせる劇団だ。