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Author: SHARE 日本語プログラム

1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。

乳がんとお酒の関係〜女性の命を守るヘルスケア Vol.30

女性の命を守るヘルスケア Vol.30

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

乳がんとお酒の関係

今回はJapanese SHAREで臨床アドバイザーを務める乳腺科医の田原梨絵が、乳がんとお酒の関係についてお伝えします。 


国際的ながん研究機関の報告では、アルコール飲料の摂取により乳がん発症リスクが高くなることはほぼ確実とされています。つまり、お酒を飲む方は乳がんになりやすいということです。 

これは日本人を対象とした研究でも確認されており、上のグラフは日本人約16万人を対象に飲酒と閉経前乳がんの発症リスクを調べた研究結果です。飲酒頻度で見ると、全く飲まない人を基準とした場合、ほぼ毎日飲む人は1.37倍も乳がんにかかりやすく、飲酒量で見ると、エタノールの摂取量が1日0グラムの人を基準にした場合、23グラム以上では1.74倍も乳がんにかかりやすいということです。また、頻度と量が増えるほど発症リスクが上がる傾向が見られました。 

では、お酒を飲むときにはどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか? まず摂取量についてですが、適切な量は性別や年齢、個人の体質により異なります。ひとつの目安として、厚生労働省では「節度ある適度な飲酒量」を純アルコールで1日平均約20グラムと定義しています。具体的にはビール中瓶1本、日本酒1合に相当します。ただし、乳がんの発症リスクは、飲めば飲むほど上がります。 

また、お酒の種類やアルコール度数問わず、摂取するエタノールの総量が、乳がんの発症リスクに関連すると考えられています。これくらいなら安心という閾いきち値はありません。飲酒が乳がんに影響を及ぼす仕組みはまだよくわかっていない部分も多いのですが、アルコールの代謝時にできる毒性物質、アセトアルデヒドの発がん性が関係しているのではないかという説があります。 

日本人は欧米人と比べ、このアセトアルデヒドの分解能力が低い体質の方が多いことが知られ、飲酒後すぐに顔が赤くなる方がその体質と考えられます。そうした方は、乳がん以外のがんについての研究でも、飲酒による発がんリスクがより高くなることがわかっていますので、飲酒の習慣がある方は量を控えたほうが良いかもしれません。飲酒後に顔色が変わらない方であっても、飲み過ぎはリスクを高めることになります。どちらにしても注意しましょう。 

すでに乳がんを発症している方の場合はどうでしょう。お酒を飲むと乳がんが再発しやすくなるのでしょうか? これまでの研究では、飲酒によって乳がんが再発しやすくなったり、乳がんで命を落としやすくなったりする可能性は低いと考えられています。ただし、乳がんを発症していない側の乳房、温存手術で残した乳房については前述の通り、新たな乳がんを発症するリスクが上がることになります。乳がん発症経験の有無にかかわらず、お酒を飲む際には知識を持ったうえで上手に楽しみたいものですね。


乳がん大事典【BC Tube編集部】YouTubeチャンネルで、乳房や乳がんに関する正確な情報を発信中!

田原梨絵■
Japanese SHARE臨床アドバイザー、一般社団法人BC Tube理事を務める、ボストン在住の乳腺科医、MD。ダナファーバーがん研究所研究助手、MDアンダーソンがんセンターのリサーチ・インターンを経験。


【参考文献】 

①World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research:Continuous Update Project. Diet, Nutrition, Physical Activity and Breast Cancer 2018. 

日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版 
Iwase M, et al. Int J cancer. 2021;148(11):2736-2747.


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ヘルプライン:☎347-220-1110(月~金6am~2pm)
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体験談「普通の人々、普通の暮らし、普通の人生」〜女性の命を守るヘルスケアVol.29

女性の命を守るヘルスケア Vol.29

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

体験談「普通の人々、普通の暮らし、普通の人生」

今回は、第 22 回(2022 年 7月22日号)に掲載した乳がんサバイバーの小杉祐子さんによる体験談の続編です。  

キラキラ輝いて見えていた世界が、いつからどんよりとしてきたのだろう? たぶん、フルコースの乳がん治療(外科手術、抗がん剤治療、放射線治療)を終え、残すところホルモン治療だけになり、1年半くらいが過ぎた頃だろうか。  

半年間の休職期間を終え、カツラで職場復帰をした時の気持ちをよく覚えている。ドキドキとワクワク、まるで新入社員のような新たな気持ちで仕事に臨んだ。がんになる前は、人生を無駄に使っているような気持ちになっていた単純な作業でさえ、「生きているからこそできること」に感じ、全てが有意義に思えた。きっとその頃は、オフィス内でポジティブオーラを出しまくっていたとの自負がある。  

CSR(コーポレート・ソーシャル・リスポンシビリティー)関係のボランティア・リーダーになり、企画を打ち出すところから始め、実行に移した案件がNPO団体から「今年いちばんの貢献者(会社)」として表彰されたりもした。しかしその頃、脳を含めた自分の身体の機能が、想像以上に「ぶっ壊れて」しまっていることにも気付かされることが多々あった。  

「ケモブレイン」という言葉をご存じだろうか? ケモセラピー(抗がん剤治療)による副作用の一種で、記憶力や集中力の低下などが起こる。これが、びっくりするレベルで覚えていないのだ。  他人との会話、その出来事を含め、読んだ書類、自分がやった仕事まで、あらゆるところで「記憶にございません」という事態が発生し、周りに迷惑をかけ、仕事の失敗につながり、何よりも自分の脳を信用できなくなった。そのことを想定し、一緒に仕事をするメンバーに、「私が忘れている可能性あるから、変だと思ったら言ってね」とは伝えていたものの、やはりそれが発生するたびショックを受けずにはいられなかった。  

また、その頃は身体的にも影響が残っていた。抗がん剤治療で抜けてしまった髪が、期待したようには戻らなかった。同時に、女性ホルモンを抑える治療を続けなくてはいけないこともあり、生えてくる髪の毛は頼りない細さで、前頭部は地肌が透けて見えた。落武者状態の自分の姿を鏡で見るのは相当つらく、鏡を見なくなった。  

見かけだけでなく、身体の機能の障害も明らかになっていった。がん治療前は、その当時の国際女性ランナーのレベル(フルマラソンを3 時間 15 分以内で完走)だったので、いきなりは無理でも、3 時間半を切って走れるくらいまでは戻れるだろうと期待をしていた。だが、3 度チャレンジしても無理だった。以前と全く違う身体になっていることを嫌でも思い知らされた。  

心肺機能の低下もだが、筋肉や関節などの障害が激しく、脳から送る信号を身体がうまく受け取れないのか、よくつまずいたり転んだりしていた。手術をした右側は常にバランスが悪く、ちょっとしたことで腕や肩が故障する。いろいろなことができなくなってしまったことを自覚させられる日々だった。  

しかし、それと反比例するように、周りは私ががん患者だということをどんどん忘れていき、「がんなのに頑張っている」と配慮することも次第になくなっていく。でも、現実は甘くないことを私は知っている。常に思い知らされ続けているから。キラキラしている世界は、死を意識した自分が抱いた幻想の世界だったのかもしれない。  

今、がん治療開始から7年が過ぎた。ケモブレインは2、3年くらいで消えたように思える。小説を集中して読めるようにもなった。最近の記憶障害は、普通に加齢から起こる程度だ。身体は、あっちが治ったら、こっちに問題発生という感じで、「ああ、お年寄りがよく言うのは、こんな感覚なのね」と思う。やや人より早く年を取らされている感じは否めないが、上手に付き合っていくしかない。

そして、今の私の世界は、キラキラに見える時もあれば、どんよりの時もあるといったところ。きっと、人生とは、そんなものなのだろう。それが、Ordinary People(普通の人々)の生活であろう。そして、それが実はいちばんなのだと、私は知っている。

乳がん治療中にニューヨーク・シティー・マラソンを完走した祐子さん


小杉祐子■

乳がんサバイバー。長距離ランナーとして、直近では2022年4月のボストン・マラソン、 10月のロンドン・マラソンに続き、11月のニューヨーク・シティー・マラソンで12回目の完走を果たしている。また、Japanese SHAREのアクティブボランティアとして、ウェビナーのMCやファシリテーターを務めるほか、患者とサバイバーが参加するJapanese SHAREランニング部でも活躍中。

 

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子宮頸がんの「予防」、していますか? 実は男性にも影響があります〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.28

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

子宮頸がんの「予防」、していますか? 実は男性にも影響があります

産婦人科専門医の鈴木幸雄です。1月は子宮頸がん予防啓発月間。今回は子宮頸がん予防について、女性はもちろんのこと、男性も知っておくべき内容をまとめました。

子宮頸がんにならないことを目指せます!
 
通常のがん予防は、早期発見を前提としたがん検診を行います。胃がん、大腸がん、乳がん、肺がん、子宮頸がんの5種類は、定期検診を受け、がんを早期発見すれば、進行する前の段階で対処できる可能性が高まります。健康で長生きするためのがん検診と言っても過言ではないでしょう。  
一方、子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus/HPV)に感染することが原因。そのため、感染を防ぐことでがんの発症自体を防げるのです。

①HPVワクチン:がんが発症する確率自体を大きく下げる 
HPVワクチンとは、ヒトパピローマウイルスの感染を予防するワクチンです。このウイルスは、主に性交渉によって感染し、がんの発症や性感染症の罹患につながります。ほとんどの人は一生に一度感染し、一部で持続感染状態(基本的に無症状)となり健康に影響を及ぼします。  
がんを発症しやすい16型・18型、尖圭コンジローマというイボを作る6型・11型があり、現在の日本では、これら4種を予防する「4価ワクチン」が主流。ですが、この4月からは9種類のHPV感染を予防する、さらに効果の高い「9価ワクチン」が無料に(公費による定期接種)。9価ワクチンはすでに、アメリカほか多くの国で普及しています。

②子宮頸がん検診:たとえ、がんを発症しても早期発見! 
子宮頸がんは二次予防(早期発見)のためのスクリーニングが確立されており、子宮頸部細胞診(Pap test/Pap smear)やHPV検査などの定期検診で早期発見できます。しかし、検診で見つかりにくいタイプも3割弱ほどあるため、HPVワクチンとコンビネーションで受けることが重要。子宮頸部細胞診は、日本では2年おき、アメリカでは3年おき、HPV検査を併用する場合は5年おきに受けるよう推奨されています。  
2010年頃から各国で始まった子宮頸がん検診とHPVワクチンによる予防プログラムによって、今では多くの国で前がん状態の減少が見られ、がんの予防効果もきちんと示されるようになりました。こうしたプログラムをいち早く始めた豪州は、2028年までに子宮頸がんの制圧が見込まれることを発表しています。

子宮頸がんはどんな病気?  

子宮の入り口(頸部)にできる子宮頸がんは、日本で年間1万1,000人が新たにかかります。がんになる手前の状態である「上皮内がん」を含めると約5万人が毎年かかり、40歳までの若い世代の男女がかかるがんの約半分に相当します。原因の99%はヒトパピローマウイルスなので、HPVワクチン接種による一次予防(がん発症自体を防ぐこと)が可能です。  
アメリカでは子宮頸がんの女性患者よりも、同じくヒトパピローマウイルスを原因とする中咽頭がんの男性患者数が上回っており、まさに男性にとっても切実な健康問題。実は肛門がんなどもヒトパピローマウイルスが原因です。つまり、ヒトパピローマウイルスは男女共に無視できない発がん性のウイルスであり、米国を始め多くの国では男女がHPVワクチン接種の対象となっています。  
日本では主に小6~高1相当(12~16歳程度)の女子のみとするのに対し、アメリカでは男女9~14歳が対象。「性交渉を持つ前に接種すること」が大切で、接種回数は日本では3回ですが、米国も含め世界基準は2回(半年間隔)です。米国の最新のデータによると、対象年齢の約77%が、少なくとも1回の接種をしています。「接種については、子ども本人に決めさせる」という意見も聞きますが、リスク・ベネフィットの意思決定を委ねるのは簡単ではなく、親の考えが大切になってきます。
子宮頸がんは、ワクチンと検診の2本柱でほぼ心配がなくなるがんです。改めて、皆さんにとって自分自身や家族を守る大切な手段であることを知ってもらえればと思います。


これだけは知っておいて欲しいポイント!
●子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルスは、男女関係なく、がんの発症に影響を及ぼす

●子宮頸がんの予防に必要なのはこの2つ! 15歳までのHPVワクチン接種 20歳以降の子宮頸がん検診

鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。Japanese SHARE臨床アドバイザーを務める。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。

 

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引用

  1. Hall MT, Simms KT, Lew J, Smith MA, Brotherton JM, Saville M, et al. The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study. The Lancet Public Health 2019 Jan;4(1):e19-e27 
  2. Van Dyne EA, Henley SJ, Saraiya M, Thomas CC, Markowitz LE, Benard VB. Trends in Human Papillomavirus-Associated Cancers – United States, 1999-2015. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2018;67(33):918-924. 
  3. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録) 
  4. Pingali C, Yankey D, Elam-Evans LD, et al. National Vaccination Coverage Among Adolescents Aged 13–17 Years — National Immunization Survey-Teen, United States, 2021. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2022;71:1101–1108. 

【特別編】お正月は要注意! お餅などによる窒息事故の予防と対策〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.27

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

【特別編】お正月は要注意! お餅などによる窒息事故の予防と対策

ソイソース読者の皆さん、こんにちは。今回は特別編として老年医学専門医の山田悠史が、喉に食べ物を詰まらせる「窒息」について、予防と対策を説明していきます。  日本ではお正月になると、高齢者がお餅を詰まらせて亡くなるというニュースが後を絶ちません。ニュースで聞いている分には他人ごとのように感じるかもしれませんが、実は誰にでも起こり得ることなのです。お餅は、誰もが想像しやすい窒息の原因になる食品ですが、アメリカでは何に注意すべきだと思いますか?

窒息が起きやすい食べ物とは?

基本的には大きくて、空洞のない食べ物には窒息のリスクがあります。ステーキやホットドッグ、飴などでも、よくかまずに飲み物と一緒に一気に飲み込んでしまうと、そのリスクは高まると言えるでしょう。  

また、パンも窒息に気を付けたい食べ物のひとつです。パンは空洞だらけではないかと思うかもしれませんが、ミルクやコーヒーなどの水分と一緒に摂取することで、水を含んだスポンジのように膨れ上がり、リスクが高まります。ケーキとコーヒーの組み合わせも同様です。  

食べ物が食道へ正しく送り込まれていれば、窒息が起こることはありません。しかし、食道の前方に空気の通り道である気管がつながっており、そこに誤って食べ物が入り込んでしまうと、窒息が起きるのです。この気管の入り口にはふたが付いていて、飲み込みの際にはこのふたがきっちりと閉まり、窒息や誤嚥ごえん を防いでくれています。ただ、この閉まりが悪かったり、持病などの影響でスムーズに閉められなくなったりすると、窒息や誤嚥が生じてしまいます。

窒息を防ぐには?

それでは、どのようにすれば窒息を防げるのでしょうか。これまで例に挙げた食品を食べないというのは、必ずしも正解ではありません。「リスクが高い」とはいえ、それらを全て避けてしまっては、食の楽しみが薄れてしまいますよね。  

まずは、どのような食べ方がリスクになるのかを知っておくことから始めましょう。前述の通り、あまりかまずに飲み物で一気に流し込む食べ方は窒息のリスクを高めます。よく咀そ嚼しゃくをして、食べ物と飲み物は別々に摂取するのが安全です。飲み物に関しては、アルコールもリスクになります。「お餅を食べながら日本酒」というのは、高齢者にとっては窒息のリスクの高い食べ方なのです。

また、前のめりになってかき込むような食べ方もリスクが高まります。なぜなら空気の通り道は食べ物の通り道の前方にあるので、重力がかかり、誤嚥を招いてしまうのです。姿勢良く、ゆっくり食べるようにしましょう。  

おしゃべりをしながらの飲食も避けたいところ。話をしている間は空気の通り道をふさぐためのふたが開いているからです。窒息を防ぐには、いったん食べ物を飲み込んでから話をすることが大切です。

 それから、高齢者が食べている間によく咳をしたり、むせたりする場合は注意が必要。あらかじめ食べ物を細かく切っておくなどの工夫も有効です。

窒息のシーンに遭遇したら

もし身近で窒息が起こってしまった場合は、すぐに救急車を呼んだうえで、いくつかの応急処置を行ってください。  

本人が咳き込んでいるなら、詰まらせた物が出てくる可能性があるので、咳を続けてもらうようにします。それができなければ、「Five and Five」などと呼ばれる処置が有効であると考えられています。  

この処置は、当事者の背後に立ち、前かがみにしたうえで背部から連続で5回ほど叩打する(背部叩打法)、または背後からお腹に手を回し、握り拳を作った手で腹部に5回ほど圧を加える(腹部突き上げ法)という2つの方法があります。できない場合は、急いで応援を呼ぶこと。レストランであれば、講習を受けたスタッフがいることも考えられるからです。  

リスクの話ばかり書いてしまいましたが、食べ物による窒息のリスクを知り、しっかりと防いだうえで、皆さんが楽しいお正月を迎えられることを願っています。

山田悠史■米国老年医学専門医。マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科所属。ニューヨークで臨床医として活躍する傍ら、日本のメディア「NewsPicks」の公式コメンテーター、新型コロナワクチンの正しい知識の普及を行う「コロワくんサポーターズ」の代表を務める。また、講談社ウェブマガジン「mi-mollet(ミモレ)」での連載や、音声コンテンツ「医者のいらないラジオ」配信なども行い、多岐にわたって活動。2022年6月に上梓された『最高の老後』が絶賛発売中。

最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM         著者:山田悠史 出版社:講談社

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フェムテックの活用で女性特有の悩みを解消〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.26

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第26回 フェムテックの活用で女性特有の悩みを解消

こんにちは、今回は産婦人科医で思春期相談士の玉田さおりが担当します。皆さんは「フェムテック(FemTech)」という言葉を聞いたことがありますか? Female (女性)とTechnology (テクノロジー)を融合させた造語で、生物学的女性の健康課題をテクノロジーで解決するヘルスケアの概念として、2012年から使われています。  

もともと、月経管理アプリの創業者が、多くの女性が抱える「月経による身体の変化の悩み」をテクノロジーで解決しようと考えたことから始まり、数年前から欧米を中心にフェムテック製品の市場が盛り上がり始めました。日本では2020年がフェムテック元年と言われているようです。

これまで、女性の性については社会的にも文化的にもタブー視されがちで、月経について隠す風潮があり、月経による体調不良は我慢しなければと思い込む方も多かったようです。近年、フェムテックが注視されるようになった背景としては以下が考えられます。

•Me too 運動が広がり、女性が声を上げやすい環境が整った。
•テクノロジーが進化し、生活向上のための知識も増え、多くの人が製品やサービスを取り入れやすくなった。
•月経による体調不良、妊娠・出産、不妊治療など、女性特有のライフ・イベントにより社会参加がかなわない期間の経済的損失の大きさが可視化された。  

女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックの製品やサービスは、主に6つのカテゴリーに分類されます。

フェムテックがサポートする分野

❶月経関連
月経管理アプリは、フェムテックの中でも多種類開発され、最も大きなシェアを維持しています。機能としては、月経周期とそれに伴う月経前症候群(PMS)の予測や過ごし方の提案、妊娠しやすい期間の予測、避妊時期の予測などがあります。中には、避妊期間の予測精度が90%を超える、FDA(米国食品医薬品局)承認のアプリも。また、月経カップや吸水ショーツなどの「フェムケア製品」もとても好評です。

 ❷妊娠、不妊関連
おりものを採取して排卵日をチェックできるものや、少量の血液を採取して検査機関に送ることで卵巣予備能(卵巣に残っている卵子数)の結果がわかるものなど、さまざまな検査キットが出ています。自宅で使える簡便な検査キットは、医療機関にアクセスしにくい方や婦人科受診に抵抗を覚える方にも利用しやすいというメリットがあります。また、自宅で子宮収縮をモニタリングするツールでは、胎児の状態や子宮収縮を客観的に評価でき、緊急受診を減らす効果も。これは、何度も切迫早産になったパートナーを持つ男性が開発したテクノロジーによるものです。

❸産後ケア 
産後、仕事に復帰しても母乳育児を続けたい場合、搾乳するのに時間、場所共に女性の負担が多いことが大きな問題でした。最近は搾乳器がきちんと下着に隠れ、その母乳を冷凍し、必要な場所に配達するシステムなども開発されています。

❹更年期 
多くの方が体調不良に陥る更年期についても、その特有の症状、膣ケア、性の悩みなどを相談できるサービスがあります。尿漏れを予防するためのトレーニング指導サービス、グッズの開発も行われています。

❺婦人科の病気 
自己採取で健診ができるキットなどが開発されているところです。

❻セクシャル・ウェルネス 
性にまつわることを、あらゆる面で健康な状態へと導くさまざまなグッズが、通信販売により入手できます。 

テクノロジーやアイデアを医療機関と共有することで、十分なデータの蓄積、分析から客観的な評価もできるようになります。フェムテックを活用することで、多くの女性の健康課題におけるポジティブなフィードバックが期待されています。一方で、この便利なツールを的確に扱えるか、検査結果を正しく理解し具体的な治療や健康向上に役立てられるか、という心配もあります。法的規制などについても、今後の重要な課題になっていくでしょう。

臨床現場で残念に感じるのは、さまざまな不調を「仕方がない」と我慢してしまう方が多いことです。フェムテックの普及によって、自宅での検査や匿名で相談できるサービスなどを受けられるようになれば、あらゆるウェルネス向上のきっかけにつながります。同時に、身体のことをよく学び、女性の人生で起こることを理解し、自分を大事にする教育もまた、改めて必要になるかと思います。

玉田さおり■産婦人科専門医、思春期相談士。北里大学卒業、自治医科大学で初期研修、専門医取得。山王病院産婦人科、副部長として周産期医療、婦人科全般、思春期専門外来を担当。日本産婦人科学会、周産期新生児学会、思春期学会、日本周産期、女性心身医学会の会員。3人の子どもの母親でもある。現在、夫の仕事の都合でニュージャージー州に一家で暮らす。

 

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乳がん検診で「要精密検査」と言われたら〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.25

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第25回 乳がん検診で「要精密検査」と言われたら

10月は乳がん月間です。今回は、乳がん検診で「要精密検査」と言われたときにどのような検査をするのかについて、Japanese SHAREで臨床アドバイザーを務める乳腺科医、田原梨絵が説明します。

乳がん検診で要精密検査になった方のうち、どれくらいの人が乳がんと診断されるかご存じですか? 知らせを受け取ってから、実際に検査を受け、最終的な結果がわかるまで、心配で落ち着かない日々を過ごす方がほとんどではないでしょうか。中には、「自分は絶対に乳がんだ」と思い込んで精密検査を受けに来る方もいます。

一般に検診のマンモグラフィーで要精密検査の通知を受け取るのは、1,000人のうちのおよそ50人です。そして、最終的に乳がんと診断されるのは約3人。つまり、検診でマンモグラフィーを受けた方で乳がんと診断されるのは約0.3%です。要精密検査となっても多くの方は「異常なし」または「良性」であり、乳がんと診断される割合は高くはありません。不安が大きいとは思いますが、結果を知るのが怖いからと放置せず、早めに医療機関で検査を受けることが大切です。

そもそも、精密検査ではどのような検査をするのでしょう? まず問診があり、視触診、マンモグラフィー、超音波検査、さらに医師の判断によって細胞診、組織診、MRIなどを行います。組織診で乳がんであることが確定すると、CTや骨シンチグラフィー、PET検査などで進行度を診断します。

問診 

問診票での、月経の状況や出産・授乳の経験、がんにかかった家族の有無などの回答は、乳がんにかかりやすいかどうか、すなわち乳がんのリスクを判断するために必要な情報です。自覚症状がある方には、いつ気付いたか、気付いてからの変化、痛みを伴うかなど詳細も記入してもらい、診断の参考とします。

視触診 

乳房の変形、乳頭の湿疹や分泌物がないかを観察します。また、乳房に直接触って、しこりの場所、大きさ、硬さ、しこりの境目がはっきりしているかどうか、よく動くかなど、しこりの状態を調べます。首や脇の下のリンパ節が腫れていないかどうかも、触れて確認します。 ●マンモグラフィー 精密検査時に乳がん検診での撮影画像を参照できない場合、あるいは診断するのに追加で必要な場合に、再度マンモグラフィーを行います。

超音波検査(エコー検査) 

マンモグラフィーで要精密検査と判断された所見に該当する病変が、乳房内にあるかどうかを調べます。病変があった場合には、その形や境目部分の性状などで、良性なのか悪性なのかを推測します。日本では精密検査の際に乳房全体の超音波検査を行いますが、米国ではマンモグラフィーで要精密検査となった乳房の部位のみ、部分的に検査するのが一般的です。

細胞診および組織診(針生検)など 

画像診断で良性か悪性かの区別がつかない病変や、がんを疑った場合に行います。乳房に細い針を刺して注射器で病変から細胞を吸い出して採取する細胞診や、局所麻酔下でやや太い針を刺して病変の一部を採取する組織診(針生検/バイオプシー)などが必要になります。これらの検査で採取した細胞や組織を病理医が観察し、良性か悪性か、どのような病気によるものかを判断します。通常、1、2週間で結果が出ますが、確定診断のための詳細を調べるのに数週間を要することもあります。

その他の画像診断 

その他の画像診断として、MRI検査を実施します。造影剤という検査用の薬を用いて乳房の病変を詳しく調べます。乳がんと判明した場合に、その乳房内での広がりを確認する目的で行うことが多いのですが、診断が難しい場合などにもMRI検査で乳がんか否かを判断します。乳がんと診断された後、必要に応じて、CTや骨シンチグラフィー、PET検査などで乳房以外の部位への病変の広がり(転移)を調べ、進行度(病期)を分類します。


 

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【特別編】上手な歳の重ね方〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.24

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第24回【特別編】上手な歳の重ね方

ソイソース読者の皆さん、初めまして。今回は特別編として老年医学専門医の山田悠史が担当します。

皆さんは歳を重ねることをどのように考えていますか? 「歳のせいで〇〇が痛くなった」とネガティブに捉える方もいることでしょう。老化が体に負の影響をもたらすことは認めなくてはいけませんが、実は歳を重ねるのは必ずしも悪いことばかりでなく、得られるものもたくさんあります。今回は、そんな見過ごされがちなメリットについてご紹介します。

老化と言うと、認知症など脳の機能が衰退していくようなイメージと結び付きやすいかもしれません。40〜50代の方から、「歳のせいで物忘れがひどくなった」などと嘆く声も聞こえてきますが、実際にはどうなのでしょうか。

ワシントン州ではシアトル縦断研究というものが行われ、加齢と共に認知機能がどう推移するのかを評価するため、1956年から約6,000人以上の観察を続けました。7年おきに各人の認知機能がどう変化したのかをまとめた研究論文によれば、計算能力や言語記憶などは、平均的に60歳頃まではあまり変わりないことがわかります。しかし、それ以降は衰退が見られるようになり、74歳頃までには全ての能力が衰退し始めることが観察されています。

一方、空間認識や言語記憶、言語能力などは、20代よりもむしろ40〜50代のほうが能力値の平均が高いことが明らかになりました。もちろん、70〜80代まで維持することは難しいものの、脳の機能は40〜50代まで成長し得るようです。

また、同研究では、認知機能が低下した参加者の一部に認知トレーニングを行い、一定の認知機能の回復が見られたことも報告されています。このことから、認知機能低下の一因は「頭を使わなくなること」にあり、トレーニングにより回復し得ると伝えています。脳は加齢と共に成長し、トレーニングによってそれを維持できる可能性があるのです。

さらに、年齢を積み重ねる中で得た「経験」は何物にも代え難く、それが知恵となり、衰えた部分を補う役割も果たしてくれます。私も医学論文を読むのが好きで、誰にも負けないほど日々知識を獲得しているつもりですが、それでもなお、年上の上司にはまだまだ勝てないと思うことばかりです。経験から得た知恵というのは、いくら勉強しても勝ることのない大きな力になるのだと改めて感じさせられます。

経験を得て賢くなっていくのは、脳だけではありません。実は免疫も同じです。人体は、日々さまざまな病原体にさらされ、感染症のリスクと向き合い続けていますが、頻繁に感染症にかからず済んでいるのは免疫の働きのおかげです。見知らぬ病原体が体内に侵入すると、免疫がそれに立ち向かい、細菌やウイルスといった病原体を駆除します。一度侵入した病原体に対して免疫を記憶しておくことができ、ウイルスによっては数十年もその記憶が続くと考えられています。

免疫を担当する細胞の働きの推移を見てみると、確かに70〜80代には多少の衰退が見られます。ただ40〜60代にかけては、若い頃と比べて、より多様な病原体への免疫を獲得できていることが知られています。

その例として、風邪を引く頻度が少なくなることが挙げられます。20代では年平均で2、3回風邪を引くのに対して、50代からは1、2回に減少する傾向があります。また、70代以降は免疫の衰退が見られるものの、適切な栄養摂取、運動、ストレス・マネジメントが免疫機能の維持に寄与することを示す研究もあります。エビデンスが十分とはまだ言えないものの、これらを心がけることで、年齢による免疫の低下も抑えられるかもしれません。

最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM                            著者:山田悠史 出版社:講談社

老化については、とかくネガティブに受け止めがちですが、このように、ポジティブな側面も見逃せません。生きている以上、加齢を避けることができないのであれば、そうしたメリットにもぜひ注目したいものです。歳を重ねることは生きること。「老化はいいことばかりだ」と言いたいわけではありませんが、「悪いことばかりでもない」と、加齢に対する考えを改めるきっかけになれば幸いです。

老化で何が起こるか、どうすれば予防ができるのかについては、拙著『最高の老後』に詳しくまとめていますので、より詳しく知りたい方はそちらもご覧ください。

 

 

山田悠史■米国老年医学専門医。マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科所属。ニューヨークで臨床医として活躍する傍ら、日本のメディア「NewsPicks」の公式コメンテーター、新型コロナワクチンの正しい知識の普及を行う「コロワくんサポーターズ」の代表を務める。また、講談社ウェブマガジン「mi-mollet(ミモレ)」での連載や、音声コンテンツ「医者のいらないラジオ」配信なども行い、多岐にわたって活動。この6月に上梓された『最高の老後』が絶賛発売中。

 

SHARE 日本語プログラム

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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、米国医療事情を日本語で提供。


参考文献

1 Schaie KW, Willis SL, Caskie GIL. The Seattle Longitudinal Study: Relationship between personality and cognition. Aging, Neuropsychol. Cogn. 2004. DOI:10.1080/13825580490511134. 

2 Gibson KL, Wu YC, Barnett Y, et al. B-cell diversity decreases in old age and is correlated with poor health status. Aging Cell 2009. DOI:10.1111/j.1474-9726.2008.00443.x. 

3 Naylor K, Li G, Vallejo AN, et al. The Influence of Age on T Cell Generation and TCR Diversity. J Immunol 2005. DOI:10.4049/jimmunol.174.11.7446. 

4 Heikkinen T, Järvinen A. The common cold. In: Lancet. Elsevier B.V., 2003: 51–9. 

5 Maggini S, Wintergerst ES, Beveridge S, Hornig DH. Selected vitamins and trace elements support immune function by strengthening epithelial barriers and cellular and humoral immune responses. In: British Journal of Nutrition. Br J Nutr, 2007. DOI:10.1017/S0007114507832971. 

6 Duggal NA, Pollock RD, Lazarus NR, Harridge S, Lord JM. Major features of immunosenescence, including reduced thymic output, are ameliorated by high levels of physical activity in adulthood. Aging Cell 2018; 17. DOI:10.1111/acel.12750. 

7 Bauer ME, Muller GC, Correa BL, Vianna P, Turner JE, Bosch JA. Psychoneuroendocrine interventions aimed at attenuating immunosenescence: A review. Biogerontology. 2013; 14: 9–20. 

がんとライフスタイル 〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.23

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第23回 がんとライフスタイル

がんと診断されたことを、健康な人に打ち明ける難しさもさることながら、日本とは文化の違いがあるアメリカでは、その気持ちを共感してもらうことへのハードルの高さにも直面します。そんなとき、異国で同じ病気を経験した人たちと母国語で心情を話し合うことができれば、不安やストレスの軽減につながるのではないでしょうか。

Japanese SHAREは、がんと診断されたばかりの方から治療中の方、そして治療がすでに終わっているサバイバーの方を対象とした定期サポートミーティングを日本語で開催しており、今年で 11年目に突入しました。これまでに約2,000人の日本人、日系人が参加しています。

サポートミーティングの中では、がん経験者の食生活について質問を受けることがよくあります。ジューシング、ベジタリアン、ビーガン、マクロビなど、健康に良いと言われる方法は次から次へと登場します。「自分でコントロールできることは何かないか」と患者自身が模索し、たどり着くところが食事というわけですが、医師からは特別に避けたほうが良い食材のある場合を除き、「バランスの良い食事を」と勧められることがほとんどでしょう。特定の食事療法や食材に傾倒し過ぎると栄養が偏り、バランスを崩して結果的に健康を損ねてしまうとの懸念があってのことだと思います。

患者さんやサバイバーさんには、食事療法そのものに縛られて好きな食べ物を我慢したりすることで、逆にストレスになってしまわないようにとお伝えしています。ただし、自分の決めた食事療法が体に合い、気持ちが楽になるのであれば、また、好きな食べ物で心が穏やかになるのであれば、本人の決断を尊重し、治療との両立を前提にサポートしています。

また、「病気になる前と全く同じ生活に戻りたい」と話す患者さんも少なくありません。そんな方には、以前の自分の在り方が病気を招いてしまった可能性があるのではと、それまでの生活を振り返ってもらうようにしています。食事や運動だけではなく、1日の中でどれだけ自分のために時間をかけ、心身を癒してリラックスし、ストレスを軽減していたかを再確認することが重要です。病気になってから、自分の生活環境をどのようにリセットしていくかを考えることは、患者側に与えられた大きな課題のひとつだと考えています。

たとえば、がんを経験してから態度を改め、食事や運動など新しい生活習慣を取り入れると同時に、新たな気付きを得て人生の捉え方を見直す方もいます。一方で、治療を終えて以前のような忙しい日常に戻ると、家族や仕事にフォーカスした生活にシフトしていき、健康管理を含めた自分のケアを後回しにしがちという方もいます。サポートミーティングでは「治療が終わると病気のことを忘れて調子に乗ってしまい、定期検診のたびにヒヤヒヤする」と、笑いながら話すサバイバーさんもよく見受けられます。前述の食事療法もそうですが、がん患者は特定の何かにとらわれ過ぎず、心と体のバランスを整えながら、柔軟に生活していくことが求められるのでしょう。

そのためには家族や職場の理解が不可欠ですが、単身の方、子どもがまだ小さい方などは、自分のための時間を作ることさえままならない場合も多いのではないでしょうか。

患者さんやサバイバーさんには、Japanes SHAREのサポートミーティングに参加することで、同じ病気の経験者と心情を分かち合い、ひとりで悩むことなく、笑って生活できるようになって欲しいと心から思います。

ブロディー愛子■2013年に米国非営利団体、SHAREキャンサー・サポートに日本語プログラムを設立した、Japanese SHARE発起人。これまでにサポートした日本人、日系人の数は2,000人を超える。ニューヨーク日系人会理事でもある。国際コーチング連盟(ICF)認定ライフコーチ、アーキタイパル・コンサルタントとして活躍中。  www.alliswellcoaching.com

 

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体験談 「私は乳がんサバイバー」

女性の命を守るヘルスケア Vol.22

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第22回 体験談 「私は乳がんサバイバー」 

今回は実際に乳がんを乗り越えたサバイバー、小杉祐子さんに自身の体験を紹介してもらいます。

2014年11月、私は間違いなく健康だった。だって、ニューヨーク・シティー・マラソンを自己ベストの3時間10分で完走できたのだから。
なのに、2カ月も経たない12月31日の大晦日に、乳がんと宣告された。「冷静にならないと」と、自分に言い聞かせても、次から次へと涙がこぼれ落ちた。
2015年1月初旬、乳腺外科医から、現在の状態と今後の治療の流れを説明された。乳がん経験者や医師をしている友人たちからアドバイスを受けていたこともあり、落ち着いて話を聞けた。自分の乳がんは初期のものであり、切ってしまえば、終わりだと信じて疑わなかった。
しかし、検査が進むにつれ、状況はどんどん悪化した。私の乳がんは「トリプルポジティブ」という種類で、抗がん剤治療が必要。しかもそのうちのひとつ、ハーセプチン(分子標的薬)治療は3週間に1回を52週間、つまり1年間も続けないといけないという気の遠くなるものだった。さらに、全摘手術後、微小なリンパ転移が判明したため、より強い抗がん剤を使用することが伝えられた。

数カ月前まで健康だったはずなのに 

通院を重ねるごとに、どんどん病気が悪化しているような錯覚に陥った。「もう無理!」、「もう嫌だ!」、なんとかここまで頑張ってきたけど、どんなに頑張ったってどうせいつか死ぬんだし、もう苦しい治療なんてしたくないと、全ての治療を拒否したくなった。
そんな時、乳がんサポート団体であるJapanese SHAREの愛子さんと話す機会に恵まれた。
「祐子さん、“キャンサーギフト”って言葉、知ってる?」
私のネガティブな気持ちを聞き続けてくれた後、愛子さんに尋ねられた。「がんからの贈り物って意味ですよね?」
「そう、がんになった人だけもらえるギフトのことよ」
がんになったからもらえるギフトなんてものがあるのか? そもそも、そんなギフト欲しいのか?ギフトというからには、よっぽど、すごいものなんだろうな? そうじゃないとがんと引き換えなんて割に合わないよ……。
「どんなギフトなんですか?」と、いぶかしい気持ちで聞いたら、こう答えられた。「それは、治療を乗り越えた人にしかわからないのよ」
絶句した。もらえる内容次第で今やるべきことを決めようとしていた自分にとって、この答えは衝撃だった。だけど、同時に、その正体を知りたくてたまらなくなった。

絶対乗り越えて、キャンサーギフトをゲットする

その瞬間から、私は変わった。治療に前向きになれた。もちろん、辛い瞬間も苦しい時間もたくさんあった。だけど、キャンサーギフトのために「今」を乗り越えた。
そして、どうせ乗り越えないといけないのなら、「楽しく乗り越えてやる」と思い、手始めに数種類のウィッグを買った。ブロンドボブやピンクのロングなど、地毛ではできない髪型と色のウィッグで毎日を楽しんだ。
会社を休職したので、平日の散歩を日課にした。抗がん剤で身体が弱り、走れなくなったので仕方なく始めたことだったが、走っていた時には気付かなかった景色に数多く出合えた。
「あぁ、私はなんて美しい世界に生きているのだ!」
今まで住んでいた世界が、全く違うもののように感じられるようになった。見るもの全てが輝いて見えた。
7月、副作用の強い抗がん剤治療が終わり、ハーセプチン治療と放射線治療だけになると、かなり身体が楽になっていった。もちろん、足裏にしびれを感じたり、膝に力が入らなかったりはあったけれど、それでも、ゆっくり走れるようになった時、うれしくって仕方なかった。走るってこんなに気持ちいいものだったっけ? 身体が喜んでいた。
そして11月、私はまたニューヨーク・シティー・マラソンのスタートラインに立った。まだ、ポート(中心静脈から点滴を行うために皮下に埋め込む機器)が着いたままだったけれど、ブロンドボブのカツラをかぶり、ミツバチのコスチュームでニューヨークの街をブンブン駆け抜けた。街中が私を応援してくれた。
昨年のタイムよりずっと遅い。でも、昨年よりずっと生きていると感じた。そう、これがキャンサーギフト。今、私は生きている。それがギフト。

乳がん治療中にニューヨーク・シティー・マラソンを完走した祐子さん

小杉祐子■乳がんサバイバー。長距離ランナーとして、直近では2021年11月のニューヨーク・シティー・マラソンとフィラデルフィア・マラソンを、2022年に入ってからは4月のボストン・マラソンを完走している。また、Japanese SHAREのアクティブボランティアとして、ウェビナーのMCやファシリテーターを務めるほか、患者とサバイバーが参加するJapanese SHAREランニング部でも活躍中。


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婦人科で知っておきたい10のこと〜あなたの不安と疑問が一気に解決!?〜

女性の命を守るヘルスケア Vol.21

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第21回 婦人科で知っておきたい10のこと〜あなたの不安と疑問が一気に解決!?〜

Japanese SHAREの臨床アドバイザーで婦人科腫瘍専門医の鈴木幸雄です。今回は、女性からよく質問される健康問題や病気について一気にお答えします。個々の疑問に対して深堀りはせずに簡単な説明とし、重要なものについては別の機会に改めてフォーカスしていきます。これだけで「疑問が全て解消できた!」とは言えないと思いますが、少しでもきっかけになれば幸いです。

その① 生理痛は我慢で乗り切る? 

痛みによって日常生活に支障があれば、改善を図るべきです。我慢してしまう人も多いのですが、痛みを改善する方法はたくさんあります。実は子宮や卵巣に病気が隠れている可能性も考えられるので、症状がひどい方は産婦人科に相談を! 

その② 子宮筋腫は怖い病気? 

女性の2、3人に1人は子宮筋腫があります。子宮は筋肉でできており、子宮筋腫は筋肉の良性腫瘍でコブのようなイメージです。できる場所や大きさによって、経血が増え月経がつらかったり、生理痛が強かったり、子どもができにくくなったりします。ちなみによく聞かれますが、基本的にがんにはなりません。

その③ 子宮は老化する? 

子宮自体はほとんど老化しません。更年期に閉経するのは卵巣の機能が落ちる(老化)ためです。不妊治療などで50歳以上の方が妊娠するケースが見られますが、それは子宮自体がそれほど老化しないからです。 

その④ 卵巣のう腫は手術が必要? 

卵巣のう腫とは、卵巣にできる良性の腫瘍のことを指しますが、がんになる可能性を持つタイプもあるので要注意。本コラム第13回(2021年10月22日号)でも詳しく紹介した、チョコレートのう腫、粘液性のう腫、成熟奇形腫のいずれかの診断をされた場合、無症状でも大きさの変化を見ながら手術を検討します。4〜6センチを超えると、手術が大きな選択肢となるでしょう。チョコレートのう腫は手術以外の治療法(ホルモン剤など)もあり、定期的な受診が必要です。奇形腫は高齢の方以外、がんの心配はほとんどありません。

その⑤ チョコレートのう腫があると赤ちゃんができにくい? 

 チョコレートのう腫は、卵巣の中や卵巣の表面で月経が起こってしまう病気です。そのため、毎月の月経による炎症で子宮や卵管、大腸など周りの臓器に癒着をしてしまい、不妊になる可能性が高まります。診断された場合には定期的に受診し、適切な治療を受けましょう。 

その⑥ 30代なのに更年期症状が? 

更年期とは50歳前後の10年、45〜55歳くらいの時期を指します。30代で更年期のような自覚症状が見られる場合、ほかの原因が考えられます。症状がつらい方は一度受診を! 

その⑦ がん検診って、いつ、何を受けるの? 

女性特有のがんで検診の有効性が確立されているものは2つ、乳がん(マンモグラフィー)と子宮頸がん(細胞診、HPVテスト)のみです。子宮体がんや卵巣がんは、早期発見をするための有効な検査がありません。子宮体がんは、閉経後の不正出血で気付くことができれば、ほとんどが早期です。卵巣がんについては残念ながら決まった方法が見つかっていません。詳しくは本コラム第12回(2021年9月24日号)でも説明しています。 

その⑧ 日本で子宮頸がんが増えているって本当? 

日本での全体数はこの数十年変わっていませんが、40歳以下の患者が増えています。「子どもたちへのHPVワクチン」と「大人へのがん検診」の2本立てで予防に取り組むことが重要です。 

その⑨ 人間ドックで腫瘍マーカーが高いと言われました……

腫瘍マーカーは、がんを直接意味するものではありません。名前から誤解が生じるのかもしれませんが、何十種類、それ以上の腫瘍マーカーが存在しますので、数値が高いと言われても怖がらずにきちんと説明を受けましょう。

その⑩ がん家系かもしれません 

がんは2人に1人がかかる時代ですので、家族、親戚に多くて当然と言えます。「遺伝的ながん家系」はまた話が違い、特定の遺伝子に異常があることで、特定のがんになりやすい状態と考えられています。乳がんや卵巣がん、大腸がん、すい臓がん、前立腺がんなどは遺伝が関係している場合も。専門外来での問診や血液検査で家系やリスクについて知ることができます。

鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。Japanese SHARE臨床アドバイザーを務める。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在、コロンビア大学産婦人科・婦人科腫瘍部門の博士研究員。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。


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月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.20

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第20回 月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)

ソイソース読者の皆さま、初めまして。ニュージャージー在住の産婦人科医、玉田さおりです。 

私は医師、そして思春期相談士ですが、思春期の娘がいる更年期世代の母親でもあり、今まさに「女性の人生における大きなホルモンの嵐」に、母娘で振り回されているところです。そんな私から、女性ホルモンに関係した女性特有の疾患を中心に、皆さまが少しでもホッとできるような情報をお伝えしていきたいと思っています。今回はホルモンと月経に関連した2つの疾患について説明します。 

●月経前症候群(PMS/Premenstrual syndrome) 

まずは、ご存じの方も多いと思いますがPMSについてです。 

月経のある女性の8割程度が経験する、月経前の3〜10日に起こる心身の全般的不調を指します。原因は、月経によるホルモンの変動と関連すると言われています。情緒不安定になり、ささいなことで悲しくなったり、胸の張りや痛みを感じたり、頭痛に肩こり、体重増加、肌荒れ、ニキビ……と症状を挙げればキリがありません。 

症状の期間や重さには個人差が見られますが、月経が始まり、女性ホルモンと自律神経のバランスが元に戻ると調子が良くなります。 

特別な検査があるわけではないものの、症状が出る期間や月経周期との関連性に基づき、PMSと診断されます。月経が始まると症状が軽快することが、大きな特徴と言えます。月経が始まっても症状が改善されない方は、ほかの内科の病気、たとえば甲状腺疾患、肝臓の病気、糖尿病などがないか、かかりつけ医に確認してもらってください。 

また、PMSは「気付きの病」とも言われます。「これはPMSかな」と自覚するだけでも、症状が緩和されることがあります。なぜなら、原因不明の不調に対しては、必要以上に不安を感じてしまう方が多いからです。自分の月経周期を把握して、「そろそろ調子が悪いかも」、「少し落ち込んじゃうからリラックスしよう」などと意識すると、情緒不安定になるのをいくらか予防できます。周りの親しい人には「今はPMSで調子が悪い」と理解してもらうことも大事です。 

症状が深刻な方は、低用量ピルを服用して排卵を止め、ホルモンの変動を抑えることも検討しましょう。皮膚科からの治療薬が効かない月経前の肌荒れや、月経前にだけできるニキビの予防にも有効です。ピルはもともと避妊方法のひとつでもあるので、いくつかのメリットがある場合はぜひ試してみてください。 

症状は人によってさまざま。症状に合った治療方法をかかりつけ医とご相談ください。たとえば、むくみには身体の水分を外に出す漢方薬を使用することがあり、気持ちが落ち込む方には必要に応じて抗不安薬などを頓用する治療を行います。

●月経前不快気分障害(PMDD/Premenstrual dysphoric disorder) 

一般的なPMSの治療薬でも軽快しない時は、PMDDが考えられます。 

月経前に、気持ちの落ち込みやイライラが激しくなるほか、不安、緊張が高まり、攻撃的な気持ちになるなどの精神的な症状と、食行動の変化、睡眠障害などが現れます。 

月経のある女性の約1.8〜5.8%にPMDDの症状が見られ、これは重症PMSの患者と同じくらいの数に相当します。 

精神的に不安定な状態になっても月経が来ると治っていくので、後に「どうしてあんなに怒っていたのだろう」などと、後悔や自責の念から自己嫌悪に陥ってしまうこともあります。 

PMDDのメカニズムははっきりとわかっていませんが、月経周期に関連するため、女性ホルモン、特に排卵後に増える黄体ホルモンや、それによって調節を受けるセロトニンの低下が関係しているとも言われています。セロトニンは幸せホルモンとも呼ばれ、心の安定に必要な脳内のホルモンです。 

治療法ですが、ホルモン治療が効かないことが多いので、精神療法のほか、うつ病などの不安障害で使われているSSRI(Selective serotonin reuptake inhibitor/選択的セロトニン再取り込み阻害剤)を併用し、セロトニン値を上げてメンタルの改善を目指します。 

重症化すると、うつ状態が悪化し、社会生活や家族関係に大きな支障が出てしまうことも。決して軽く考えず、症状に心当たりのある方は専門医やメンタルクリニックなどに相談してください。 

玉田さおり■産婦人科専門医、思春期相談士。北里大学卒業、自治医科大学で初期研修、専門医取得。山王病院産婦人科、副部長として周産期医療、婦人科全般、思春期専門外来を担当。日本産婦人科学会、周産期新生児学会、思春期学会、日本周産期、女性心身医学会の会員。3人の子どもの母親でもある。現在、夫の仕事の都合でニュージャージー州に一家で暮らす。


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【特別編】米国におけるホスピスケアについて〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.19

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第19回 ​【特別編】米国におけるホスピスケアについて

ソイソース読者の皆さま、初めまして。今回はコロンビア大学医学部、緩和医療科入院部門ディレクターの中川俊一が担当し、「女性の命を守るヘルスケア」の特別編としてアメリカのホスピスケアについて説明していきます。 

ホスピスはもともと巡礼者や貧しい人のための宿泊施設という意味です。発祥は欧州で11世紀にまでさかのぼります。その後19世紀後半から欧州各地で施設の設立が盛んになり、アメリカでは1970年代に広がりました。 

日本では「ホスピス」という言葉が、しばしば終末期ケアを提供する施設のことを指すのに対し、アメリカでは終末期に提供されるケアそのものの呼称に用いられます。 

ホスピスケアのゴールは終末期の患者とその家族の苦痛を取り除き、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)を高めることにあります。医師、看護師、ソーシャルワーカー、チャプレン(臨床宗教師)から構成されるチームによって自宅、ナーシングホーム、独立したホスピス病棟などで提供されます。主に訪問診療を行い、急変時には24時間対応となります。基本的にはできるだけ住み慣れた家での暮らしを続け、家族のそばで最期を迎えることを目標としますので、そういった意味では日本の在宅医療に近いイメージかもしれません。 

ホスピスケアのプログラムは全米で年々増加し、現在はその数も6,000近くを数えます。アメリカの公的保険であるメディケアのデータによると、2018年には全死亡者のほぼ半数である約155万人がホスピスケアを享受し、51.5%が自宅で、17.4%がナーシングホームで最期の時を迎えています。 

医師による「余命が6カ月以内であろう」という診断が、ホスピスケアを考慮するきっかけのひとつになります。ただ実際には「その疾患に対する治療のオプションがあるかないか」、「自分の具合が悪くなったときに急性期病院で治療を受けたいかどうか」の2点が重要な問題になることが多いでしょう。 

たとえば悪性疾患では、がんが進行するか体力が落ちて、化学療法や放射線治療などのがんに対する治療がこれ以上できない(患者が望まない)という場合が考えられます。そのような状態では、肺炎、脱水、またはがんの進行により具合が悪くなってERに行き、急性期病院で治療を受けても劇的な改善は望めないことから、穏やかに、苦しまずに残された時間を過ごしたいと、ホスピスケアを選択する方がいます。 

ホスピスケアではナースが中心になってチームが組まれます。ナースが患者の自宅へ訪問診療をして、痛みや呼吸苦の症状をモニターし、必要であれば薬剤の調節をします。訪問の頻度は患者の状況によりますが、安定していれば週に2回、症状が落ち着いていないケースではさらに頻回となります。ナース以外に医師、ソーシャルワーカー、チャプレンも訪問します。 

このホスピス・チームには24時間アクセス可能で、夜間に具合が悪くなるなど不安な状態に陥っても、連絡をするとすぐに、電話で薬剤の調整を指示したり、担当のナースを翌日に派遣したりするなどの対応をしてもらえます。 

ホスピスケアは公的保険であるメディケアのパートAを始め、ほとんどの医療保険でカバーされています。前述の訪問診療、苦痛を取り除くための薬剤のほか、介護用ベッド、酸素吸入などの医療器具にも適用されます。 

一方、ホスピスケアでカバーされないものもあります。たとえば、家事や買い物、入浴のサポートなど身の回りの世話をするホームアテンダントのサービスは、ホスピスケアでカバーされるのは最大で週20時間と決まっています。そのため、自宅でホスピスケアを受ける方は、助けなしに日常生活を送れるくらいに自立していることが理想です。そのように元気な方でない場合は、家族が世話をすることになりますが、それができなくても、何らかの施設に入りホスピスケアを受けることは可能です。それぞれケースバイケースですので、わからないことがあれば遠慮せずに担当の医師やソーシャルワーカーに尋ねるのが良いでしょう。 

中川俊一■北海道大学医学部卒業後、クリーブランド・クリニックの肝移植フェロー、同クリニック内科レジデント、マウントサイナイ老年内科フェロー、同院緩和ケアフェローを経て、現在はコロンビア大学医学部にて緩和医療科入院部門のディレクターを務める。


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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。


参考資料

Edition 2020. NHPCO Facts and Figures.  

乳がんの発症リスク〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.18

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第18回 ​乳がんの発症リスク

今回はJapanese SHAREで臨床アドバイザーを務める乳腺科医の田原梨絵が担当し、乳がんの発症リスクについてお伝えしていきます。 

日本人女性のがんで最も多いのが乳がんです。国立がん研究センターによる最新の統計では「9人に1人」が罹患し、また発症は2018年までの15年間で年間4万人から9万人に急増しています。以前は欧米人に多く、日本人には少ないと言われていた乳がんですが、現在の割合としては欧米人と変わらず、食生活の欧米化やライフスタイルの変化などが影響しているのではないかと考えられています。 

乳がん発症のリスク要因はさまざまですが、日本乳癌学会編集による『患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版』を参考に、4つに分けて説明します(以下、 =乳がん発症リスクが高まる可能性がある)。

①食生活・生活習慣・持病 

肥満 

生活習慣病の原因にも。太り過ぎないように気を付けることはとても大切です。 

アルコール 

飲む量が増えるほど発症リスクも高まります。 

喫煙 

受動喫煙(他人が吸うたばこの煙を吸うこと)も発症リスクを高める可能性があります。 

健康食品やサプリメント  

乳がんの予防を目的として摂取することはおすすめしません。 

ストレスや性格 

ストレスについては結論が出ていませんが、個人の性格に関連性はありません。 

糖尿病 

糖尿病の人は発症リスクが高くなります。 

②ホルモン補充療法や経口避妊薬(ピル) 

更年期障害の治療向けホルモン補充療法 

中でもエストロゲンとプロゲスチンを併用するホルモン補充療法では、わずかながら確実に発症リスクが高まります。 

経口避妊薬(ピル) 

わずかながら発症リスクが高くなる場合も。 

※ホルモン補充療法とピルについては、利益とのバランスを考えて使用するかどうかを判断することになります。 

③妊娠・出産と授乳および月経歴 

妊娠・出産の経験なし 

初産年齢が高い人も発症リスクが高まります。 

授乳の経験なし 

授乳の期間が長いほど発症リスクが低くなることもわかっています。 

月経歴が長い 

初経が早いほど、閉経が遅いほど、発症リスクがほぼ確実に高まります。 

④遺伝 

身内に乳がん患者がいる 

乳がんの5〜10%は遺伝性と言われますが、それを判断するには専門的な評価と検査が必要です。身内に乳がん患者がいる場合は、血縁関係が近いほど、患者数が多いほど発症リスクは高くなります。また、家族に乳がん経験者がいなくても、遺伝性乳がんの可能性はあります。 

以下、発症リスクを低くする可能性があると言われているものを紹介します。 

大豆食品やイソフラボン:大豆食品を摂取することで発症リスクが低くなることが最近の研究でわかってきました。しかし、サプリメントでイソフラボンを摂取した場合の効果や安全性は証明されていませんので、サプリメントは避け、大豆食品からの摂取を心がけましょう。 

乳製品:発症リスクを下げる可能性はあります。ただし、牛乳そのものと発症リスクの関係についてはよくわかっていません。どのような乳製品をどの程度摂取すれば発症リスクが低下するかは不明です。 

運動:閉経後の女性では、定期的な運動によって発症リスクが低くなります。

 発症リスクというのは、あくまでも「かかりやすさ」であり、該当していてもかからない人もいれば、発症リスクが低くてもかかる人はいます。なるべく発症リスクを抑えるために、バランスの良い健康的な食生活と運動を心がけること、生活習慣に「ブレスト・アウェアネス」を取り入れ、乳房を意識して生活すること、40歳からは定期的に検診を受けることが大切です。 

ブレスト・アウェアネスについては、本コラムの第8回で詳しく書きましたが、下記のYouTubeチャンネルの動画でもわかりやすく解説しています。ぜひ生活に取り入れてみてくださいね。 

乳がん大事典【BC Tube編集部】 

​【5分で分かる】ブレスト・アウェアネス〜自分の乳房を意識しながら暮らす〜 

田原梨絵■Japanese SHARE臨床アドバイザー、一般社団法人BC Tube理事を務める、ボストン在住の乳腺科医、MD。ダナファーバーがん研究所研究助手、MDアンダーソンがんセンターのリサーチ・インターンを経験。


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参考資料

国立がん研究センター がん統計2018年版 

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html 

8回 ブレスト・アウェアネス 

http://soysource.test-alba.com/beauty-health/womens-health-care/breast-awareness/ 

アメリカで初めて医師に診てもらう際の準備

女性の命を守るヘルスケア Vol.17

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第17回 ​アメリカで初めて医師に診てもらう際の準備

今回はアメリカで初めて医師にかかるときに知っておくと良いポイントを紹介していきたいと思います。 

アメリカでは、プライマリー・ケア医(かかりつけ医)と言われる一般診療医をあらかじめ決めておく方がほとんどです。プライマリー・ケア医は一般的な検査・治療を行いますが、専門的な検査・治療が必要なケースでは、専門機関や専門医を紹介されます。 

アメリカであなたの健康状態を知り、記録を管理する医師がいることは重要です。急に専門医が必要になり、プライマリー・ケア医を探してリファーラル(紹介状)を出してもらうのは、時間もかかれば余計なストレスにもなります。 

一般診療医に限らず、医師に初めて診てもらうとき、事前に準備しておくべきことがあります。まず、健康保険カードは必ず持参してください。健康保険加入者は誰なのか、配偶者の勤める会社から提供される健康保険に家族として追加されているのか、それとも個々に加入している健康保険なのかを知っておきましょう。加入者の生年月日や電話番号ほか、勤務先情報、ソーシャル・セキュリティー番号が必要な場合がありますので控えておくと安心です。また、専門医に会う場合は、プライマリー・ケア医からのリファーラルを持参します。 

病院ではまず、受付でフォームを渡され、記入を促されることがありますが、初診時は特に量が多いため、予約時間より15分ほど早く来るように言われます。最近はタブレットを利用するところもあります。記入項目は、持病や既往歴、これまで受けた手術や検査をした年と月、接種したワクチン、アレルギーの有無、服用中の薬やサプリメントとその期間、緊急連絡先、処方された薬を受け取る薬局など、たくさんのチェック項目があります。すぐに記入できるように準備をしておきましょう。また、親族の病歴と罹患時の年齢を聞かれる場合もあるため、事前に親族に確認すると良いでしょう。もし日付など、はっきりわからない箇所があれば、受付でフォーム提出の際に伝えます。 

血液検査や画像診断の結果は、プライマリー・ケア医にも送ってもらうようにしてください。医師間の情報共有は、今後の治療にも関係してきますし、飲み合わせの悪い薬が処方されるなどのトラブルを防ぐことにもなります。今では検査結果をオンラインで共有して見られるようになってきているので、それを医師にファイルしてもらうのも良いかもしれません。 

アメリカでは、患者は自分の診断を母国語で聞く権利があります。予約の際、診療時に通訳をつけてもらうように依頼しましょう。通訳は立ち会いの場合と、電話やオンラインなどによる対応の場合がありますが、通訳料を別途請求されることはありません。ただし、これはどの病院でも対応しているわけではないので、通訳をつけてもらえない時は、英語の堪能な方に電話などで一緒に診断を聞いてもらえると心強いでしょう。 

そして、診察後は料金をその場で支払わずに、必ず請求書を郵送してもらうようにしてください。アメリカの医療請求書の約80%が間違っているという話もあります。請求内容に誤りがないかをよく確認し、腑に落ちない場合は保険会社に問い合わせ、その金額がなぜ健康保険でカバーされないのかを確認してください。 

バランス・ビル(差額請求)やサプライズ・ビル(高額請求)もあります。特に後者では、健康保険のネットワーク外の医師にかかると、思いもよらない額を請求されるケースが見られます。これは州によって法律が異なります(www.commonwealthfund.org/publications/maps-and-interactives/2021/feb/state-balance-billing-protections治療費が高額になり支払えない、生活への負担が大きいという場合は、ソーシャルワーカーや看護師に相談して病院内の担当者につないでもらい、なるべく無理のない支払い方法を検討してもらってください。 

がんのような大病の診断では、患者サポート団体に問い合わせることでいろいろな情報を得られます。また、病院内でさまざまな病気のサポート・ミーティングを開いているところもあります。事前にこうした知識があると、アメリカでもあわてることなく受診に臨めるでしょう。 


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日本のHPVワクチン接種個別勧奨が約9年ぶりに再開

女性の命を守るヘルスケア Vol.16

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第16回 ​日本のHPVワクチン接種個別勧奨が約9年ぶりに再開

Japanese SHAREの臨床アドバイザーを務める鈴木幸雄です。今回はアメリカにいる日本人の皆さんに特に知って欲しい、がん予防のトピックを取り上げます。この話題は男性にもぜひ知って欲しいことで、女性の命を守るのと同時に、男性の命を守ることにもつながる内容です。婦人科がん専門医の立場から大切なことをお伝えできればと思います。 

HPVワクチンとは、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus/HPV)の感染を防ぐワクチンです。HPVは主に性交渉によって感染し、がんの発症や性感染症の罹患につながります。ほとんどの人は一生に一度感染し、一部で持続感染状態(基本的に無症状)となり、健康に影響を及ぼします。 

日本ではがんを発症しやすい16型・18型、尖圭コンジローマというイボを作る6型・11型の4つを予防する「4価ワクチン」が主流です。16型・18型のみの「2価ワクチン」も同等の予防効果があります。アメリカでは主に、この4型に加え、がん発症のリスクの高い別の5つの型を組み込み、より効果が高いとされる「9価ワクチン」を接種します。しかし、これは日本では無料接種の対象にはなっていません。 

2010年頃から始まった、子宮頸がん検診とHPVワクチンによる予防プログラムにより、多くの国で前がん状態の減少が見られ、がん予防効果もきちんと示されるようになりました。いち早く開始したオーストラリアでは、2028年までに子宮頸がんの制圧を見込むことを発表しました。一方アメリカでは、男性の中咽頭がん患者が女性の子宮頸がん患者数を上回り新たな健康課題となっています。この中咽頭がんや肛門がんなどもHPVが原因となります。HPVは男女共に注意すべき発がん性のウイルスであり、米国を含む多くの国で男女がワクチンの接種対象になっています。 

さて、子宮頸がんについて改めておさらいしておきましょう。子宮の入り口(頸部)にできるがんで、日本では年間約1万1,000人の新規患者(がんになる手前の状態である「上皮内がん」も含むと約5万人)がおり、40歳までの若い世代の男女がかかるがんの約半分が子宮頸がんです(上皮内がんも含む)。原因の99%はHPVのため、一次予防(病気を未然に防ぐ)が可能ながんです。二次予防(早期発見)のためのスクリーニングとして、子宮頸がん細胞診(Pap test)やHPV検査が確立され、定期検診での早期発見も可能です。しかし、検診で見つかりにくい腺がんというタイプも3割弱ほど見られるため、ワクチンと検診のコンビネーションが重要になります。 

ワクチンが推奨されるのは、日本では主に12〜16歳の女児、米国では9〜14歳の男女児。このワクチンは「性交渉を持つ前に接種すること」が大切です。接種回数は、日本は3回ですが、アメリカも含む世界基準は2回(半年間隔)。米国では対象年齢の約65%が少なくとも1回の接種をしていますが、日本では対象世代への推奨がストップしていたため約1%にも満たない状態が長らく続いていました。しかし最近では、対象世代の接種率が10%を超えてきていると予測されています。私が2020年夏に行ったオンライン調査(約2,200名)でも8%程度の結果でした。 

将来的に日本へ帰国予定で対象年齢の男女児がいる場合は、在米中にHPV関連がん予防効果が90%以上期待される9価ワクチンを接種しておくのも選択肢です。「もう大きいので子どもの意見を尊重します」と言う方もいますが、リスク・ベネフィットの意思決定を委ねるのは簡単ではありません。やはり、親の考えが大切になってきます。わが家でも対象世代の娘に接種を開始しました。 

コロナ禍で受診控えも問題になってきている中、改めて予防医療が自身や家族を守る大切な手段であることを今一度お伝えしたいところです。

  これだけは知っておいて欲しいポイント!

  • HPV(ヒトパピローマウイルス)は男女関係なく健康に影響を及ぼす
  • 日本でHPVワクチンの接種率が回復してきており、厚労省の個別勧奨は2022年4月から再開
  • 接種を逸してしまった世代も2022年4月から3年間、キャッチアップ接種が無料に(1997〜2005年度生まれ) ※日本在住者対象
  • アメリカ在住の接種対象世代(9〜14歳男女)には無料9価ワクチン接種の選択肢がある

鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。Japanese SHARE臨床アドバイザーを務める。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。

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引用: 

  1. Hall MT, Simms KT, Lew J, Smith MA, Brotherton JM, Saville M, et al. The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study. The Lancet Public Health 2019 Jan;4(1):e19-e27 
  2. Van Dyne EA, Henley SJ, Saraiya M, Thomas CC, Markowitz LE, Benard VB. Trends in Human Papillomavirus-Associated Cancers – United States, 1999-2015. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2018;67(33):918-924. 
  3. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録) 

遺伝子検査〜女性の命を守るヘルスケアVol.15

女性の命を守るヘルスケア Vol.15

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第15回 ​遺伝子検査

最近は、がんと診断された方のほとんどが、MRIやレントゲンの検査をするように、遺伝子検査も受けるようになりました。 

私が乳がんと診断された20年前は、遺伝子検査費をカバーする健康保険に加入している、がん家系の患者だけが対象でした。そして、保険がカバーしない場合の検査費用は3,400ドルだと言われたのを覚えています。当時、患者だった私は、遺伝子検査を受けるメリットが何なのかはよくわかっていなかったものの、とにかく自分の娘もかかる可能性の高い病気なのかどうかを知りたいという気持ちを優先し、この検査を受けました。 

その頃はまだ、医療従事者にとっても開拓途中の分野だったようで、がんになりやすい遺伝子を次世代が受け継ぐか否か、というくらいの説明しか患者にできない状況でした。しかし今では、遺伝により、がんに罹患する可能性の高い方への予防策として治療方法が提示されています。

2013年に女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、BRCAという遺伝子の変異を理由に、予防策として両乳腺を切除する手術を受けたというニュースは、私たちに遺伝子と病気のつながりを身近に感じさせてくれました。また、この遺伝子の変異が乳がんと卵巣がんを引き起こしやすいと広く知れわたったことで、患者にとっても受けたい検査のひとつになっています。 

当時のアメリカでは、たった1カ所のラボで遺伝子検査を請け負っていたそうです。現在はどこでもできるうえ、がん家系の方やがんと診断された方のほとんどに保険が適用されます。日本でも最近になって、乳がんまたは卵巣がんと診断された方に保険が適用されるようになりましたが、それまでは希望者だけが高額な費用を自己負担して遺伝子検査を受けていました。 

アメリカではこの遺伝子検査の結果によって、手術の範囲や、術後の治療方針内容まで変わってくるため、治療前に検査を受けます。また、遺伝子をターゲットとした分子標的薬の研究も進んでおり、乳がん、卵巣がん、甲状腺がん、肺がん、直腸がん、皮膚がんなどの新薬が開発され、すでにFDA(米食品医薬品局)の承認を受けているものもいくつかあります。 

前述のアンジェリーナ・ジョリーさんの報道が出た頃、ある乳腺専門医が「乳がんの治療法が、昔から変わることなく乳房を切除する方法しかないのなら、医学が進歩したとは言えない」と発言したのを覚えています。現在は研究が進み、BRCAの遺伝子変異を持つとわかった若い人たちに、切除以外の選択肢が与えられるようになってきています。乳がんの遺伝子検査の場合、100以上の遺伝子をテストします。自分が遺伝子変異を持っているか否かを知っておくことで、がんを防ぐための方針を医師と相談できる体制が整いつつあります。 

これらの研究は、いろいろな製薬会社や研究機関で盛んに進められています。1971年に当時のリチャード・ニクソン大統領が「がん対策法(The National Cancer Act of 1971)」に署名し、「がんとの戦争(War on Cancer)」と称して、がんセンターの設立、研究者や医療従事者の育成を開始してから、ちょうど50年が経ちました。新型コロナワクチンの開発が猛スピードで行われ、大きな成果を生み出した今、そうした経緯が、がんのワクチンを作るうえでの大きな一助になると期待されています。 

遺伝子研究を多くの製薬会社や医療機関が行っていたことが、がんのワクチン開発に結び付いていく、という内容のウェビナーなども見かけます。これからは、生後すぐに遺伝子検査を受けるのが当たり前になる時代が来るのかもしれませんね。  

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​日本での人間ドック受診、持病がある方の渡米で注意したいこと

女性の命を守るヘルスケア Vol.14

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第14回 ​日本での人間ドック受診、持病がある方の渡米で注意したいこと

「人間ドックを一時帰国中に受け、アメリカに戻ってから要再検査とわかったのですがどうしたらいいですか?」 

このような相談が、当団体のヘルプラインに届くことがよくあります。日本に一時帰国した際、人間ドックを受ける方は多いのではないでしょうか。中には、日本の人間ドックを受けているからアメリカの医療機関で診てもらう必要はない、と考える方もいるようです。日本の人間ドックは、総合的な検診を1度に受けられる、患者にとっては大変便利な日本ならではのシステムですが、実は注意点も。今回は、アメリカから日本へ一時帰国中に人間ドックを受ける場合、また、持病のある方がアメリカへ引っ越す場合に気を付けたいことを取り上げていきます。 

検査を日本で受け、アメリカに戻ってから結果を知った場合、直面する問題がいくつかあります。乳がんを例に挙げましょう。「マンモグラフィーの画像に何か怪しい影があるようだ」と言われたとします。この情報だけでアメリカの乳腺専門医に再検査をしてもらおうとすると、アメリカの医師は必要のない検診で患者の健康に悪影響を与えることを恐れるため、患者は日本からそのマンモグラフィー画像を取り寄せるよう促されます。 

アメリカの場合、18歳以上の患者の検診結果や画像、病理レポート(病理診断報告書)は、患者自身の物とされ、病院は本人の要求に応じてそれらを渡す義務があります。しかし日本では医師や病院の物となるため、患者に渡すことを拒否しないとしても、料金が発生したり、本人への手渡しのみ許されていたりすることもあるようですが、一般的には家族が取りに行き、アメリカに住む本人に郵送することになります。患者本人はその間、これらの画像や病理レポートが届くのを、再検査の不安を抱えながら待たなければなりません。 

また、病理レポートは英訳したものが必要となります。大都市の病院であれば、ほぼ問題なく対応してもらえるものの、地方の病院では翻訳ができないために渡せないと言われることもあります。日本から画像も病理レポートも入手できなければ、医師に予約を入れることも難しくなります。 

持病があって渡米する方も、日本で処方された薬と同じ薬をアメリカでも出してもらえるものと単純に考えているかもしれません。しかし、アメリカの医師は本当にその薬を処方しなければならない症状があるのかを見極める必要があります。そのため、薬が処方された経緯を示す病理レポートや画像を日本から取り寄せなければならず、もちろん英訳も欠かせません。日本語で書かれた薬がアメリカではどんな名称で呼ばれているのか、分量はオンスなのかグラムなのかなど、詳細な情報がそろって初めて、医師は薬を処方できるわけです。 

コロナ禍で、これまでのように日本へ一時帰国をして人間ドックや検診を受けることや、薬を処方してもらうことができなくなってしまったという方もいるのではないでしょうか。パンデミックの長期化によって、必要な書類や画像を日本から入手することさえも困難な状況となり、初めてアメリカで医師に予約を入れることを余儀なくされ、右往左往する患者さんからの相談も多くなっています。 

一時帰国の際に人間ドック受診を考える方は、日本滞在中に結果を受け取れるタイミングで予定を組むようにすると良いでしょう。また、持病のある方が日本からアメリカに引っ越しする場合は、過去3年分の画像と病理レポートの英訳を持参することをおすすめします。そして、アメリカで早めにかかりつけ医を見つけ、自分の健康状態や病歴を記録しておいてもらえるようにしてください。そうすれば、いざという時に慌てることを避けられるのではないかと思います。 

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卵巣がんになりやすい人とは?子宮内膜症や家族性がんについて知る(後編)

女性の命を守るヘルスケア Vol.13

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第13回 卵巣がんになりやすい人とは?子宮内膜症や家族性がんについて知る(後編)

今回も引き続き、Japanese SHAREの臨床アドバイザーを務める鈴木幸雄が担当します。前編では卵巣がんの特徴について、有効な検診方法がなく、見つかった時には進行していることが多いとお話ししました。「じゃあ、どうしたらいいの?」という疑問が出てくるのは当然ですね。乳がんや子宮頸がんと違い、早期発見が難しいことは事実ですが、卵巣がんを発症しやすいリスクを持つ方は早期発見が可能なケースもあります。当てはまる方は、主治医と相談のうえ定期的なチェックを行うことで、予防的治療も選択肢となるでしょう。

卵巣がんになりやすいリスクは大きく分けて2パターンです。ひとつはある特定の良性の卵巣腫瘍(卵巣のう腫)が見つかっている場合と、遺伝的素因(生まれつきの潜在リスク)がある場合です。

卵巣腫瘍は、子宮頸がん検診の際、一緒に経腟超音波検査をして気付くケースや、妊娠初期に気付くケースなどがあります。妊娠初期に「少し卵巣が腫れている」と言われたことがある方もいると思いますが、これは妊娠を維持する役割の黄体が一時的に大きくなる(5センチ以内が多い)もので心配は要りません。卵巣腫瘍が疑われる場合は、MRI検査が行われることもあり、MRIでは卵巣のう腫の種類が推測できます。また、腫瘍マーカー検査で、良性、悪性などによる変化の特徴を確認します。こうして卵巣腫瘍のタイプまで診断できるのですが、卵巣がんになりやすく注意が必要な良性腫瘍には、子宮内膜症性のう胞、粘液性のう腫、成熟奇形腫の3つがあります。

特に注意が必要なのは、子宮内膜症性のう胞、別名チョコレートのう腫です。子宮の内側で毎月生理としてはがれ落ちる子宮内膜が卵巣にもできてしまい、生理周期に卵巣の中でも出血し、その血がたまって卵巣が慢性的に腫れる病気です。4センチを超えるとがん化リスクが懸念され、10センチを超えるとさらにリスクが高まります。生理がある50歳前後までの方に多く見られますが、日々の多忙な生活の中で、きちんとフォローアップに通うことが難しい場合もあるでしょう。私はこれまで、チョコレートのう腫を放置してしまい、進行卵巣がんになった方をたくさん担当してきました。そのたびに、事前にもう少しリスクが伝わっていれば……と、悔しさを味わいました。

そして、ふたつ目の粘液性のう腫は腫瘍の中にねばっとした粘液がたまるタイプで、長年放置するとがん化のリスクがあります。3つ目の成熟奇形腫は、若い人によく見つかる良性腫瘍ですが、高齢になるとごくまれにがん化するケースが見られます。こうしたがん化リスクがあるタイプの卵巣のう腫は、ある程度の大きさ(一概に言えませんが6センチ以上など)では手術での摘出を考えるべきですが、大きさや年齢などにより薬物治療が有効な場合もあります。

最後に、生まれつき卵巣がんになりやすい素因について説明します。卵巣がんになる方の1割強は、生まれながらにBRCA遺伝子の異常を持っています。これは、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の原因となる遺伝子です。日本人の場合200〜500人に1人がBRCA遺伝子に異常を持つと言われています。家族や親戚に乳がん、卵巣がん、前立腺がん、すい臓がんの方がいる場合は注意が必要で、男性も関係します。HBOCの方は、がん発症リスク低減のための予防的乳房切除や卵管卵巣摘出が選択肢になります。米国では女優のアンジェリーナ・ジョリーさんの予防的乳房切除術を受け、脚光を浴びた経緯がありました。

さて、2回連続で卵巣がんの話をしてきました。いわゆるがん検診では発見が困難ですが、がん化のリスクがある場合には、正しい理解と適切なフォローアップや予防的治療を受けていくことで予防も可能です。卵巣がんについて少しでも知るきっかけになればと思います。

これだけは知っておいて欲しいポイント!

・卵巣がんになりやすい良性の卵巣腫瘍のタイプは3つ。

・生まれつきの素因として、BRCA遺伝子に異常がある場合、卵巣がんや乳がんになりやすい。

・卵巣がんを予防する検診はないが、リスクのある方は適切なフォローアップで予防できる場合も。


鈴木幸雄■医学博士。Japanese SHARE臨床アドバイザーを務める。コロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員、産婦人科専門医・指導医、婦人科腫瘍専門医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医、横浜市立大学医学部産婦人科客員研究員。世界と日本の子宮頸がんを含むヒトパピローマウイルス(HPV)関連疾患の予防に関する最新情報を発信するプロジェクト「YOKOHAMA HPV PROJECT」(http://kanagawacc.jp)に参加。

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参考: 

  1. 日本HBOCコンソーシアム Website URL: http://hboc.jp/about_hboc/index.php 
  2. 産婦人科診療ガイドライン -婦人科外来編2020. 日本産科婦人科学会 日本産婦人科医会編 
  3. ACOG Practice bulletin, Number182. Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome. URL: https://www.sgo.org/wp-content/uploads/2012/09/PB-182.pdf 

 

検診が役に立たない?発見の難しい卵巣がんについて知る(前編)

女性の命を守るヘルスケア Vol.12

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第12回 検診が役に立たない? 発見の難しい卵巣がんについて知る(前編)

ソイソース読者の皆さま、初めまして。今回と次回は、コロンビア大学メディカルセンター産婦人科の博士研究員であり、Japanese SHAREで臨床アドバイザーをしている婦人科腫瘍専門医の鈴木幸雄が担当します。

卵巣がんは、卵巣にできる悪性の腫瘍のことで、日本では毎年1万3,000人(1)、アメリカでは毎年2万人(2)が新たに診断される病気です。40歳頃から増え始め、ピークは50、60代(3)。いわゆる検診(スクリーニング)では発見されにくい病気のひとつで、ステージ3以上の非常に進んだ状態で見つかることがほとんどです。卵巣がんのステージ3とは、腹水がたまる、リンパ節に転移がある、腹膜に播種(大小さまざまな病変が散らばった状態)が見られるような状態です。

卵巣は左右にあり、エストロゲンという女性ホルモンや、アンドロゲンという女性にも必要な男性ホルモンを産生する大切な臓器です。卵巣では、月経が始まる思春期から月経が終わる50歳前後まで月に1回程度、定期的に排卵が起こります。この排卵によって卵巣の表面が傷付きますが、皮膚にできた傷と同様に、自然に修復されます。しかし、こうした傷の修復過程でがんが発生しやすいと言われています。その証拠に排卵の回数が少ない人、つまり出産経験の多い方や低用量ピルなどで排卵を止めていたことがある方は、卵巣がん発症のリスクが低いことがわかっています。(4)

実は卵巣がんと似た特徴を持つがんが、ほかにふたつあります。ひとつは卵管がん、もうひとつは腹膜がんです。これまでの研究から、これらはほとんど同じ性質を持つことがわかっており、同じ内容の治療を受けることになります。ちなみに、卵管は卵巣から出た卵子をキャッチする吸い込み口のような臓器です。腹膜は、お腹を部屋にたとえると、壁紙のように全体を覆っている薄い膜のことを言います。腹膜に播種が多くできると、腹水を調節する壁紙としての腹膜の機能が狂ってしまい、腹水がたまります。

どうして検診では見つけにくいのか、ほかの女性のがんと比べてみましょう。年単位でゆっくり進行する乳がんや子宮頸がんなどとは違い、卵巣がんはそのほとんどが数カ月単位で大きくなってきます。卵巣はもともと非常に小さい臓器で、月経がある年代では親指の先程度、閉経後では小指の先ほどの大きさです。仮に卵巣が大きく腫れたとしても5〜6センチの鶏卵くらいのサイズにとどまり、伸縮性の高いお腹の中に納まっているために、自覚症状はほぼ出ません。15〜20センチくらいの大きさになって初めて、「なんだかお腹が出てきた感じがする」、「最近急にジーンズが入らなくなった」などの兆候で異変に気付く方もいますが、自分で見つけることがとても難しい病気なのです。

今年、イギリスで20年かけて卵巣がんスクリーニングの有効性を検証した研究の結果が出ました(5)。超音波検査とCA125(卵巣がんで変化が出やすい腫瘍マーカーのひとつ)という血液検査の組み合わせで早期発見を試みましたが、死亡率を下げる効果を証明することができませんでした。中には「卵巣がん検診を受けた」「子宮頸がん検診のついでに超音波で卵巣も大丈夫と言われた」という方もいるかもしれませんが、これは卵巣がんの二次予防(早期発見すること)を意味しているものではありません。

さて、ここまでで卵巣がんの発見が難しいこと、進行してから見つかることが多いこと、卵巣がん以外にも卵管や腹膜からも同じ病気が発生することを解説してきました。次回は、卵巣がんに進展するリスクのある良性の病気と遺伝的素因(生まれつき持っているリスク)について解説していきます。

これだけは知っておいて欲しいポイント!

・卵巣がんは早期では自覚症状がほとんどなく、進行してから見つかることが多い。

・卵巣がんのほかに、卵管がん、腹膜がんという同じ特徴のがんがある。

・検診でこれらを見つけるのは難しく、がん早期発見のために検診は有効でない。


鈴木幸雄■医学博士。Japanese SHARE臨床アドバイザーを務める。コロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員、産婦人科専門医・指導医、婦人科腫瘍専門医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医、横浜市立大学医学部産婦人科客員研究員。世界と日本の子宮頸がんを含むヒトパピローマウイルス(HPV)関連疾患の予防に関する最新情報を発信するプロジェクト「YOKOHAMA HPV PROJECT」(http://kanagawacc.jp)に参加。

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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。


  1. 最新がん統計. 国立がん研究センターがん情報サービス.URL: https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html 
  2.  United States Cancer Statistics. Centers for Disease Control and Prevention. URL: https://gis.cdc.gov/Cancer/USCS/#/Trends/  
  3.  国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録).URL: https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html 
  4.  卵巣がん.メルクマニュアル家庭版.URL: https://www.msdmanuals.com/ja-jp 
  5. Menon U, et al. Ovarian cancer population screening and mortality after long-term follow-up in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening (UKCTOCS): a randomized controlled trial.  
    Lancet 2021, 397:2182-2193. DOI: 10.1016/S0140-6736(21)00731-5 

患者と医師の関係のあり方~女性の命を守るヘルスケア Vol.11

女性の命を守るヘルスケア Vol.11

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第11回 患者と医師の関係のあり方

先日、日本の乳がん学会のセミナーを視聴する機会がありました。そのつながりで、これからの患者のアドボカシーのあり方について、医師と患者を含む参加者たちと討論をする会議にも参加しました。

その中で、アメリカの学会などでは多くの女性医師が活躍の場を与えられているのに、日本ではまだ少ないという指摘がありました。ある男性医師は、このような意見が出たことに驚いた様子ではあったものの、これから日本も考えていかなければならない課題だと発言していました。また別の男性医師も、その指摘に戸惑いを隠せない様子だったのが印象的でした。そのほかに、アメリカでは患者が医師にとってのお客さんのような印象を受けるという話題もありました。国民皆保険制度の中で医療を受ける日本と、各自で異なる種類の健康保険に加入するアメリカでは、医療従事者の態度も違うのかもしれないと感じました。

日本では臨床試験に参加してくれる患者が集まらないという問題点も医師側から提示されましたが、患者側からは臨床試験に関する十分な説明を受けられないとの意見が出ていました。まだ、研究材料にされるという悪いイメージが拭い切れないようです。 アメリカでは治験と言われる新薬の効果を計るための研究などでもきちんとした説明を受け、よく理解したうえで、自分の協力した研究が次世代の役に立つのであればと、承諾する患者が少なくありません。私自身、アメリカのリサーチ・ホスピタルで乳がんの治療を受けた際、待合室で研究員から説明を受け、「これから血液検査で摂取するあなたの血液を、私たちの研究にも使わせてもらえませんか?」と協力を依頼されたことが何度かありました。また、治療が終わってからも、マンモグラムを使った新しい研究などに参加しています。

患者に臨床試験への参加を承諾してもらうためには、医師側から納得のいく説明が不可欠です。その研究がどんなに崇高かということだけで協力を得るのは難しいでしょう。医師側もその現状に気付く必要があり、どのようにしたら納得してもらえるのか、患者の目線で考えるべきかと思われます。患者会の持つ影響力を知らない医師も多く、全ての問題が自分たち医師だけで解決できると考えているようにも見受けられます。しかし、このような場面で手助けができるのは、患者のアドボカシーを推進する患者会です。治験で命を救われた経験者などの協力の下、医師側と手をつなぐことで、患者と医師、双方にとって大きな助けになるのではないでしょうか。東京だけでも乳がんの患者会は200ほどあります。それらをまとめる機関がまだないなど問題点も見られますが、患者会を通して患者と医師の距離が縮まることで、これからの医療のあり方が良い方向に変わっていくのではないかと期待しています。

アメリカには相手が誰であれ自分の意思を主張する文化があり、患者も医師と対等に自分の意見を伝えます。しかし、日本人は相手の立場を考慮したうえで、自分の意見を尊重すべきか否かを決めるところがあるようです。自分の考えを押し付けがちな医師もそうですが、医師任せの患者が多いことにも危惧を抱いています。新型コロナの影響で、テレメディスンが取り入れられるようになってから、アメリカのとある記事では「担当医とコミュニケーションがうまくいっていないと感じている患者は、医師の替え時だ」とも報じています。日本人は穏便に物事を解決しようとする方が多いため、扱いやすい患者だという誤解を与えているのではないかという懸念もあります。自分の健康を守るためには、勇気を持って意見を主張することが大切です。

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病気を治すために大切なこと~女性の命を守るヘルスケア Vol.10

女性の命を守るヘルスケア Vol.10

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第10回 病気を治すために大切なこと

病気と診断されてから自分でできることは何でしょう。食事に気を付け、適度な運動をすれば病気の悪化は避けられると考える人はたくさんいますが、いちばん大切なのは、自分の病気をよく理解することではないでしょうか。

ヘルプライン相談者の中には、何もわからないまま医師の言いなりになることに違和感を覚える反面、自分で考えないでいいことに安心感を持つ方が時々います。しかし、このコロナ禍で患者さんをサポートしながら感じるのは、病院や医師らのルーティンがこれまでとは変わってきているのではないか、ということです。これはあくまでも個人の見解ですが、はっきりとした説明のないままオーバー・トリートメント(過剰診療)を行っているのではないかと感じることや、本来なら不要な検査や医師への予約を入れられているように思えたことが何度もあります。このような経験から、病気と診断された方にとっての健康管理とは、診断された病気についてわからないことや疑問に思う点を、正しく知ることから始まるのではないかと思うのです。

多くの日本人の特徴として、医師に対していろいろな面で気を使い過ぎるところがあります。たとえば、医師が忙しそうだから質問を控えてしまう、医師の意見に同意できないことを伝えられない、自分の意思を主張しにくい、医師の都合に合わせようとする、などが挙げられます。あとから「やっぱりどうすれば良いかわからない」とヘルプラインに電話をくれる方もいて、質問したいことをメモしておいて、診察時に尋ねるように勧めています。ただ、説明されたことが理解できないために何を質問して良いのかわからないともよく聞きます。医師の説明が理解できなかった時に聞き返したり、もう少しわかりやすい説明をお願いしたり、わからない言葉や薬品名などを書いてもらったりすると良いでしょう。診察時に使える英語をあらかじめ覚えておくことも必要だと思います。

私たちの患者サポート・ミーティングでは、複雑な医療システムの中でどのように治療と向き合うべきか、同じような問題を乗り越えた方々の経験談を通して必要な情報を交換しています。参加者からは「もっと早くJapanese SHAREを知っていたら」と口々に言われます。異国で病気になってしまった不安な気持ちもそうですが、治療の最中に保険会社と病院の間で板挟みになりながら対処していかなければならないことなども多く、家族や周りの助けなしには治療に専念できないのが現実です。

「日本帰国時に受けた人間ドックでがんが見つかったが、これからどうしたらいいのかわからない」、「相談できる人が周りにいない」、「夫には迷惑をかけたくない」など、同じような悩みが10年近く経っても尽きません。日系企業、日本人コミュニティーに向けて啓発活動を行っていますが、なかなか興味を持ってもらえず、病気になったら日本に帰るという選択肢のある方などは特に関心が低いようです。米国での治療を選択した場合も、妻の病気のことを職場で隠している日本人男性がほとんどで、そういう方が妻を支えたJapanese SHAREの存在を職場で公表することはまずありません。

アメリカに住む日本人にとって、「日本人は自分の意見を持たない、扱いやすく金払いの良い患者」というイメージを持たれていることは大きな問題です。米国で病気と診断された時の早期回復につながるシステムが、私たち日本人コミュニティーには欠けている気がします。日本語を話す医師に診てもらえばいい、と言う方もいますが、病気と診断される前にしなければならない検査を始め、患者の立場にならないと見えてこない迷路のように入り組んだ米国の医療システム、日本人だから起こり得る問題があることを知っておいて欲しいと強く思います。

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在米アジア人の医療格差~女性の命を守るヘルスケア Vol.9

女性の命を守るヘルスケア Vol.9

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第9回 在米アジア人の医療格差

私たちJapanese SHAREの母体であるSHARE Cancer Supportが、アメリカの医療格差をなくすためのカンファレンスをこの6月、2日間にわたり開催しました。この1年は大統領選挙、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動の盛り上がりなどが重なり、アメリカの白人至上主義の歴史がもたらした問題に、ようやく歯止めをかけようという動きが出ているように見えます。

その問題のひとつに、医療格差があります。アメリカ国民は公民権のひとつに健康の平等が約束されています。その内容は、人種、民族、性別、年齢、宗教、地理的事情、性的指向に関係なく、全ての人々が健康的な生活を送る機会を平等に持つという基本原則です。

今回のカンファレンスで医療格差問題を取り上げることになった背景には、乳がんで亡くなる黒人女性の数が、白人女性のそれと比べ倍近い人数というデータが出ていることがあります。「トリプルネガティブ」という、やや進行の早いタイプの乳がん発症が黒人女性に多く見られることも原因のひとつと言えますが、それ以外の原因も深く広く探ることが求められています。経済力、医療教育、人種差別などが、黒人社会での病気による死亡率を高めている要因とされているようです。

私たちJapanese SHAREも、この医療格差をなくすためのカンファレンスにアジア・太平洋諸島系アメリカ人(AAPI:Asian American and Asian Pacific Islanders)のくくりで参加しました。カンファレンス開催に当たり、ほかにも在米アジア人のための医療に対するアドボカシー活動をしている個人や団体を探したところ、全米レベルで見ても数が少ないことがわかりました。そこで、この機会に在米アジア人の医療格差の研究について調べてみました。

アメリカに住む日本人/日系人の経験する医療格差の問題とは何でしょうか。たとえば、医療提供者からの違法請求に対して素直に支払ってしまうことや、「日本語が通じる」とうたっている医師が日本語での会話どころか単語すらわからず、受付に日本人スタッフがいるだけといったことはよくあり、日本人の人の良さを逆手に取られていると感じる場面も。アメリカの医療システムが理解できていなかったり、健康保険に加入していなかったり、英語力が壁になっていたりなどの理由で、思うような医療サポートを受けられていない方は予想より多くいるのではないかと、日本人、日系人のがん患者さんをサポートする中で意識するようになりました。

在米アジア人はアメリカの人口の約6%に当たります。一般の調査で「あなたはどこの国の人をアジア人と呼びますか?」という質問に、中国人、日本人、韓国人の順番で答えた人がいちばん多かったそうです。経済力の高さはインド人、フィリピン人に次いで日本人の順番です。それにもかかわらず、アメリカの貧困者の全体図を見ると、驚いたことにアジア人が黒人やヒスパニックを抜いて最多となっています。戦争から逃れるためにアメリカに移住したモン族、カンボジア、ラオス、ベトナムの人々は、母国で教育を受けられないままアメリカに難民として渡っています。家庭内の問題を表には出さないというアジア人にありがちな文化・習慣が生活の改善の妨げになって、医療格差へとつながっているとも考えられます。

乳がんやその他疾患の最新治療についてのセミナーなどに参加する中で気になるのは、講師の発表する研究結果のグラフに白人、黒人、ピスパニックの人たちのデータはあるものの、アジア人の統計が含まれていないことです。日本人、日系人のがん患者さんをサポートする立場としては、こういうところにいつも不満を抱いてしまいます。しかし、アジア人の医療格差について調べていくうちに、これを大きな問題として取り上げ、在米アジア人がどのように取り扱われているのかを研究し、活動しているグループをいくつか見つけることができました。

アジア人は政府の言う「マイノリティー」の中にすら入れてもらえていないという状況が、これから変わっていくのではと、そんな気配も感じられるようになってきました。

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ブレスト・アウェアネス~女性の命を守るヘルスケア Vol.8

女性の命を守るヘルスケア Vol.8

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第8回 ブレスト・アウェアネス

ソイソース読者の皆さま、初めまして。今回はJapanese SHAREで臨床アドバイザーを務めるボストン在住の乳腺科医、田原梨絵が担当します。

乳がんの早期発見のために、皆さんが日頃から心がけていることはありますか? 「セルフチェックしているから大丈夫」と、マンモグラム検診を受けていない方、あるいは「定期的にマンモグラム検診を受けているから」とセルフチェックをしていない方、どちらも早期発見のチャンスを失っているかもしれません。

実はマンモグラム検診で見つかることが多いと思われがちな乳がんですが、マンモグラム検診で見つかるのは全体の半分です。残りの半分は何らかの自覚症状から見つかります。また、まれですが「中間期乳がん」という、検診と検診の間に主に自覚症状から見つかる乳がんがあります。これには前回の検診で発見されなかったもの、画像で見えにくいもの、しこりが急に大きくなったものが含まれます。検診で異常なしだったとしても、乳房の変化に気付いた場合、「検診で異常なしだったから大丈夫」と自己判断せずに、医療機関を受診することが大切です。

「ブレスト・アウェアネス」という言葉をご存知でしょうか? 自分の乳房の状態に日頃から関心を持ち、乳房を意識して生活することを言います。乳がんの早期発見のために役立つブレスト・アウェアネスを生活習慣として身に付けるために、以下の4つの項目を実践しましょう。

①自分の乳房の状態を知るために、日頃から自分の乳房を、見て、触って、感じる(乳房のセルフチェック)

②気を付けなければいけない乳房の変化を知る

③乳房の変化を自覚したら、次の検診を待たずに、すぐに医療機関へ行く

④40歳になったら定期的に乳がん検診を受ける

「セルフチェックさえしていれば良い」「検診さえ受けていれば良い」と過信することなく、この4つの項目に気を付けてブレスト・アウェアネスを習慣にすることで、乳がんを早期発見できます。この項目のうち、2.については以下のポイントを押さえておきましょう。乳がんと聞くと「しこり」のイメージがあるかもしれませんが、しこり以外にもさまざまな症状があります。

乳房

・左右サイズの差・形の変化
・突出したしこり、乳房内・脇の下のしこり
・皮膚のくぼみやひきつれ
・むくみや赤み

乳頭

・変形・へこみ・ひきつれ
・赤み・腫れ・ただれ
・分泌物

セルフチェックを習慣にすることで、これらの変化に自分で気付くことができます。普段の自分の乳房と違う変化がないかどうかを確認しましょう。

また、生理周期、妊娠、授乳中の乳房の変化など、正常な乳房の変化を理解することもブレスト・アウェアネスには重要です。乳房の変化が必ずしも乳がんとは限らず、痛み・乳頭分泌・しこりなどの症状があっても、乳がんであるケースはそれほど多くはありません。変化に気付いたら慌てずに、かつ次の検診を待たずに、医療機関をすぐ受診しましょう。

セルフチェックは、月に1回程度行うようにするのがおすすめです。生理がある方は胸の張りが少ない生理後のタイミングで。生理がない方は毎月〇日、月初め、月末など時期を決めておきましょう。乳房セルフチェックは、いつでもどこでも気軽にできます。「入浴前後に鏡の前で」「寝ながら」「着替えのついでに」「シャワー・入浴中」など、自分のやりやすい時と場所を選んで行います。乳がんは、自分でも見つけられるがんです。ぜひ、セルフチェックを習慣にしてください。

最後に、乳腺・乳がんに関する正しい情報を届けるために乳腺科医の仲間と一緒に運営する非営利のYouTubeチャンネルを紹介させてください。乳房の症状、乳がん検診に関する情報から、乳がん治療の解説まで、さまざまな動画を配信しています。今回の内容をイラストでわかりやすく解説した動画もありますので、ぜひご覧ください。 

乳がん大事典【BC Tube編集部】

・「ブレスト・アウェアネス〜自分の乳房を意識しながら暮らす〜」

・「2分でできる、乳房セルフチェック」

・「3分でわかる、この症状って乳がん?」

田原梨絵■Japanese SHARE臨床アドバイザー、一般社団法人BC Tube理事を務める、ボストン在住の乳腺科医、乳腺腫瘍内科医、MD。ダナファーバーがん研究所研究助手、MDアンダーソンがんセンターのリサーチ・インターンを経験。

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がん患者と新型コロナウイルスワクチン接種~女性の命を守るヘルスケア Vol.7

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第7回 がん患者と新型コロナウイルスワクチン接種

FDA(米食品医薬品局)からファイザー社、モデルナ社、そしてジョンソン・エンド・ジョンソン社(4月13日より投与を一時停止中)の新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの緊急使用許可が下り、アメリカ政府は接種を推進し始めました。皆さんの中にもすでに接種を済ませた方がおられることでしょう。がん分野の学会であるASCO(アメリカン・ソサエティー・オブ・クリニカル・オンコロジー)からの情報を少しまとめてみました。

この3社のワクチンの副反応は、注射部位の痛み、疲労感、筋肉痛、頭痛、悪寒、関節痛、発熱、および吐き気など、ほとんどは軽度から中等度で、3日以内に消えるとされています。これらの副反応は一般的に、免疫システムが本来の機能を果たし、病気に対する防御力を高めていることを示し、55歳未満の人によく見られるそうです。ファイザー社、モデルナ社の2回接種が必要なワクチンは、1度目よりも2度目の投与の際に副反応が多く見られるようですが、長くとも1週間以内、通常は数日で消えるとされ、ワクチンの効果を確実にするためにも、2回の接種を推奨しています。

また、1回目と2回目のワクチンは同じ種類にする必要があり、ファイザー社とモデルナ社のワクチンを混合して使用することは推奨されていません。最初の接種は免疫システムを刺激して身体にウイルスを認識させ、2回目の接種で免疫システムからの反応を強化する効果が期待されています。これらのワクチンは、最近発見されている伝染性の高い変異性ウイルスに対しても有効であると考えられており、引き続き研究が行われている最中です。

新型コロナウイルスのワクチン接種では、まれな副反応のひとつとして、脇の下のリンパ節の腫れがあります。これは、乳がんの兆候と誤解される可能性があり、マンモグラム検診はワクチンを接種してから少なくとも1カ月の間隔を空けるようにと報告されています。これらワクチンの研究には、慢性肺疾患、糖尿病、肥満などのある人が含まれていましたが、がんを経験した人やがん治療を受けている人は含まれていなかったため、こうした方々におけるワクチンの安全性と有効性は現時点では不明のようです。

がん患者におけるワクチンの安全性に関する情報が不足しているにもかかわらず、肺炎球菌肺炎ワクチンやインフルエンザワクチンなど、多くのワクチン接種ががん患者に推奨されています。一部のワクチンは免疫系が弱くなるがん治療中に接種しても問題のない一方で、生ウイルスワクチンなど、がん治療中に投与すべきではないワクチンもあります。新型コロナウイルスのワクチンは生ウイルスワクチンではなく、医師らも、がん経験者はもちろん、化学療法や免疫療法を含む治療を現在受けているがん患者への推奨に同意しているようです。ワクチンを提供されるべきではないのは、特定のワクチン成分に対してアナフィラキシーなどの有害な反応を起こす可能性がある人で、がん経験者やがん治療中の方は、担当医に相談するように言われています。

化学療法、免疫療法、放射線療法などを受けているがん患者は、免疫力が下がっている傾向があり、新型コロナウイルスに感染しやすい状態と言えます。がん患者はワクチン接種のために治療を中断しないように勧められていますが、治療によってはワクチンの効果が低下する可能性も指摘されています。現在治療中の方は担当医師とご相談ください。

ワクチン接種が、がんの治療に影響を与えることはなく、骨髄/幹細胞移植を受けた場合、またはキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法などの細胞療法を受けた場合は、ワクチン接種を延期する必要があるかもしれないと報告されています。CDC(米疫病対策センター)は、ワクチン接種を管轄する郡または州の保健局で詳細情報を確認するように呼びかけています。

4月15日より、ワシントン州居住者は、誰でも新型コロナウイルスのワクチン接種を受けられるようになりました。ワクチン接種の対象年齢であれば、ビザ・ステータスや市民権、保険の有無に関わらず、無料で接種することができます。

ワシントン州保健局からのCOVID-19およびワクチン日本語情報
www.doh.wa.gov/Emergencies/COVID19/Japanese

ワクチン接種予約が可能な医療機関の検索はこちらから
https://vaccinelocator.doh.wa.gov

問い合わせ:
COVID-19情報ホットライン
☎1-800-525-0127

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がんのイメージを変えるには ~女性の命を守るヘルスケア Vol.6

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第6回 がんのイメージを変えるには

医師が患者さんにがんと伝えることは、本人の知る権利を尊重するアメリカでは一般的のように思います。しかし、移民の集まりであるアメリカにおいては、異なる文化とモラルを持った国で生まれ育ったり、そのような親に育てられたりした人も多く、本人にがんと伝えることが当たり前ではないと考える人たちも少なからずいます。ひと昔前の日本でも、患者本人にがんであると伝えるかどうかは、家族の判断に任されていました。今でも場合によっては家族に判断を委ねることがあるようです。

患者にがんであることを伏せながら、がん治療を行わなければならない状況では、医師が治療方針をストレートに患者と話し合うことができないという難点が生まれます。真実から離れた言葉を用いなければならないもどかしさもあるでしょう。どういった背景で、このようなことが起きるのでしょうか。

ひとつは、がんは長らく不治の病だとされていたことや、がん治療をしても体が抗がん剤に耐えきれずに亡くなってしまうなど、いまだに昔のイメージを引きずっている人の多さも挙げられます。生きたいと願う患者は、それでも治療に挑むわけですが、苦しむ姿を見るのが辛いと思う家族もいます。また、精神的にも大きなショックを受けるがんの告知は、患者自身が受け入れられるかどうか家族の意見を仰ぎ、医師がそれを優先する場合もあります。

新しい検査方法と新薬のおかげで、これまで治らないと言われていた病気も治るようになっている現在、医師らの治療方針も以前とはずいぶん変わってきています。これまでの治療方法は必要か不要かが検査でわかるようになり、手術のタイミング、術式、治療処方薬、副作用抑制方法など、以前とはかなり異なります。いわゆる医師のオーバー・トリートメントと言われる治療は、患者のQOLを下げることにつながってしまうとの懸念から、治療中や治療後に起こる副作用を薬で治すのではなく、統合医療(Integrative Medicine)で緩和する方法に移行してきているようです。最近、乳がんと診断されて患者ミーティングに来られる方には、「良い時代に乳がんと診断されましたね」などと冗談を言えるくらいです。

検診方法も進化しており、がん疾患は早期発見をすることで、今までの生活を取り戻すことも可能です。仕事復帰を果たし、治療をしながら働く方が増えています。このように、各々が今の医療の進化を知ることで、がんのイメージは変えることができると思います。

日本ではマンモグラム検診を受けてもらうために、クーポン券の提供までしていますが、乳がんの検診率は50%にも満たず、早期発見が困難になっています。そこで、「大人に検診に行ってもらえないのなら、子どもから教育をしていこう」という取り組みが始まり、がんに対する認識向上を図っています。3年前、日本の中学校で行われた、がん教育の授業に立ち合う機会を得られました。がん患者会の方が授業を行ったのですが、父兄から寄せられた声を不安視し過ぎて協力的でない学校もあれば、生徒たちの心に気を配りながらサポートしてくれる学校もあり、受け入れられ方はさまざまだと感じました。一般的にアメリカでは、宗教の影響か、生まれて死ぬということに関して、日本人より自然に受け入れられているように思います。ホスピスだけでなく、病院内に教会があったり、牧師さんが聖書を読みに来てくれたりと、日本との文化の違いを大きく感じるところもあります。

2人に1人ががんと診断されると言われるこの時代、治療方法が大きく変わっていく中で、私たちのがんに対する考え方や付き合い方も変えていかなければならないと感じています。

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進化する乳がん治療 ~女性の命を守るヘルスケア Vol.5

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アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第5回 進化する乳がん治療

2013年、私がJapanese SHAREで乳がん患者ミーティングを始めた頃、「アメリカ人の乳がん発症率は、以前は5人に1人、今では8人に1人に減少したけれど、日本人の割合はどのくらいなの?」という質問に、「18人に1人」と答えました。その頃の日本は、残念ながら先進国の中で最も乳がんに対する関心が低い国とされていました。

それから毎年のように日本での乳がん発症率は増えていき、現在では、日本人女性の9人に1人が乳がんと診断され、アメリカ人女性とほぼ変わらなくなっています。この背景には日本人女性が、マンモグラム検診を以前よりも受診するようになり、発見される乳がんの数が増えたこともあると思います。しかし、日本国内でマンモグラム検診を受ける40歳以上の女性の割合は、アメリカや韓国での受診率が80%前後であるにもかかわらず、50%にも満たないのが現状です。ちなみに在米アジア人は、長くアメリカに住んでいる人ほど乳がんの発症率やタイプが白人に類似しているというデータもあります。

患者ミーティングを始めてから8年の間に、乳がんの治療は大きく変わってきています。2013年と言えば、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんの手術が話題に。乳がんを発症する可能性の高い遺伝子を持っていたため両側の胸を切除したという衝撃的なニュースが、乳がんに対する意識を変えさせるほどの大きな議論を呼びました。その頃は彼女の影響で部分的摘出をせず、あえて全摘出手術をして再建手術を選ぶ女性の数が倍増したようです。しかし、その後の研究結果で、腫瘍だけ取り除いても、乳房を全摘出しても、がんの再発率が変わらないことがわかりました。全摘出手術が身体に与える負担の大きさを、医師がテレビで伝えているのを見たことがあります。

今はFDA(米食品医薬品局)から認可された治療薬の種類が増え、髪が抜けてしまう抗がん剤だけでなく、がん細胞だけを標的にする薬や、がんの増殖を防ぐ薬なども開発されています。ステージ4と呼ばれる病期は「末期がん」とされた時代もありましたが、現在では「転移がん」と言われるようになり、新薬の開発のおかげで治療を続けながら生活ができる年数が長くなっています。さらに、手術で取り出した腫瘍のタイプを調べることで、抗がん剤治療が必要であるかどうかまでわかるようになってきました。また、10年前から乳がんワクチンの開発も始まっており、FDAの許可の下、研究が進んでいるようです。

しかし、乳がん治療に関してこれだけの発展を遂げているにもかかわらず、乳がんの発見は現在もマンモグラム検診か、自分で胸の変化に気付いたり、一般検診や婦人科検診などで乳房の異変を指摘されたりするケースがほとんどです。マンモグラム検診は、一般診療医や婦人科医などからオーダーを出してもらい、放射線検診クリニックや病院内の放射線科に予約を取って受けます。

マンモグラムの結果が出たら、自分の胸が「デンスブレスト」(高密度乳房)であるかどうかを確認してください。デンスブレストは、マンモグラムの検診画像から腫瘍を見つけ出すのが難しく、日本人女性には多いタイプと言われます。デンスブレストとわかった場合、ソノグラム(超音波検査)のオーダーを医師に出してもらいましょう。数カ月前にマンモグラム検診をした時には問題ないと言われたのに、突然乳がんと診断されるケースは、ソノグラム検診を怠った場合によくあるようです。

乳がんは、早期発見により治療が軽く済むケースもあります。マンモグラム検診を後回しにせずに、1年に1回の検診を受けるようにしましょう。Japanese SHAREは企業、団体、グループへ乳がん啓発セミナーを提供しています。ぜひご利用ください。 

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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。

テレメディスン ~女性の命を守るヘルスケア Vol.4

女性の命を守るヘルスケア Vol.4

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第4回 テレメディスン

新型コロナウイルス(COVID-19)感染対策のひとつとして始まったテレメディスン(遠隔診療/オンライン診療)は、すでに経験された方も多いと思いますが、コロナ終息後も継続が見込まれており、各医療機関でテクノロジーの強化が図られているところです。医療現場でのウイルス感染を防ぐという点では、とても良いアイデアであることは確かです。

では、テレメディスンは患者にとって、どのような利点、欠点があるのでしょう?まず、医療機関に足を運ぶ手間が省けることと、医療提供側と同じく病院などでのウイルス感染を防ぐ効果があります。また、これまでは遠方のために行けなかった病院でもセカンドオピニオンを仰ぐことが可能になりました。しかし、スマートフォンやタブレットなどでの検診では、医師が患者の匂いに気付いたり、実際に肌に触れることにより病状を察知したりすることはできません。それらを補うために、患者は自分の体の状態を言葉で伝える必要がありますが、どのように話すかで、診断の結果も少なからず変わってくる可能性が出てきます。

そこで患者に今求められるのが、「コミュニケーション・スキル」です。がんに限らず、これまで実際に対面して診察をしてもらった中で、うまく自分の痛みや症状を伝えられなかった経験を持つ方は少なくないでしょう。

たとえば、「痛みの強さを1から10までの数字で言うと、どのくらいですか」との質問に、日本人の多くは遠慮した数字を答えてしまいがちです。そのため重要視されず、あらぬ結果を招く場合もあるので注意が必要です。

このコラムでも、医師に会いに行く時は聞きたいことをあらかじめメモしておき、医師に質問するなり、そのメモを渡すなりするように勧めてきました。これは、テレメディスンでも重要なポイントです。テレメディスン診断を始める前に、今回の診断では何を伝えたいのか、優先順を決めておきましょう。

前回の診断から比べて何か変化はあるか、処方された薬の副作用、困っていること、気になっていることなど、どんなに小さなことでも医師に知っておいてもらう必要があるため、きちんと書き留めておきます。そのメモを見ながら順番に、痛みや感覚、不安、受けたいアドバイスなどをはっきり伝えられるように準備をしましょう。

また、診断が終わりそうな時に伝えるのではなく、診断が始まる前に、伝えたいことやいくつかの質問があると最初から医師に知らせておくことも大切です。

病院での診察時、忙しくしている周囲の様子から、質問することを躊躇してしまった経験があるという方もいるでしょう。その点、テレメディスンの場合は、医師との目線が同じことや、周囲の様子もあまり目に入って来ないことから、自分のペースを作りやすいのではないかと思います。テレメディスンでも、対面での診察と同様に日本語の通訳を付けられるので、予約を入れる時にお願いしておきましょう。アメリカでは患者が母国語での説明を要求した場合、無料で通訳を付けることが医療機関に義務付けられています。これまでに経験したことのない病気や精神的な問題などで診断を受ける場合は特に、自分で理解できると思っていても通訳をお願いすることで、勘違いなどを防ぐことができ、要らぬ不安を抱えずに済みます。通訳のほかに、家族や友人などにオンラインで参加してもらうのもおすすめです。

画像検診や血液検査などをした場合は、その結果を他の専門医や、かかりつけ医にも必ず報告してもらってください。最新の医療情報が届いていると、次の診察の際に相性の悪い薬を処方されるのを防ぐことができます。また、スマートフォンやタブレット、パソコンなど、自分が使いやすいデバイスの種類、インターネットの接続状況なども事前にチェックしておくこと。一緒に診察に参加してくれる家族や友人にもぜひ確認をお願いしておきましょう。

もし、遠隔での診察だけではきちんと診断してもらえていないと感じた時は、面会して診察して欲しいと、遠慮せずにきちんと希望を伝えることも大事です。

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患者力 ~女性の命を守るヘルスケア Vol.3

女性の命を守るヘルスケア Vol.3

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第3回 患者力

アメリカでは患者が医師を訴えることは、残念ながらよくある話です。テレビでは弁護士たちが「けがをしたのはあなたのせいではない」「悪い空気を吸って病気になったのはあなたのせいではない」と宣伝をしています。裁判で勝ったとしても、けがや病気が治るわけではありません。全ては医師のせいなのでしょうか? 実際に病気から自分を守るのに必要なのは「患者力」だと考えます。

患者力とは、病気を医者任せにせずに自分のこととして受け止め、自分の病気に対する理解と知識を得たうえで医師とコミュニケーションを十分に取って治療に向かうという、患者としての心持ちのことです。まずできることは何かと考えた時、ひとつには、「周りの言葉に惑わされないようにする」ということがあると思います。病気がわかると、インターネットなどで自分と同じ症状に当てはまるケースを検索したくなるもの。その人がどのような生活を強いられているかなども気になるところです。自分を待ち受けているかもしれない最悪の状況を知り、自分はそれをどう乗り越えられるだろうか……などと不安を募らせます。しかし、世の中には最悪の状況にある人ばかりではなく、同じ診断を受けても、快適に生活をしている人や、それをきっかけに新しい人生を見つけた人がいることにも気付くはずです。治療の選択をする時に、今までの自分はどのように物事を決めていたかを振り返ることで、自分が選択をする時のパターンが見えてくることもあるかと思います。ネガティブなことを考えがちな方は、ネット検索をやめることも、不安を軽減することにつながります。

また、人に選んでもらった道を歩く、周りがみんなそうするから自分もするという選択の方法を取ってきた人は、病気になった時も医師任せになってしまいがちです。「先生を信じていたのに……」と、医師を責めても、病気と戦うのは結局自分なのです。まずは私たちひとりひとりが、自分のガイドラインを設定する必要があります。たとえば、がんの場合など、勧められた化学治療をせずに自然治療に頼るのも、自分のガイドラインで決めるということ。それには、自分であらゆる選択肢を明確に理解してから決断しなければなりません。薬を投与されることを恐れるあまり、自然療法を選ぶ人もいるのではないでしょうか。薬を投与されると死んでしまうと思われるのでしょうが、私は薬を投与しないで亡くなってしまった方を何人も見てきました。容態が改善しないことに気付いた時、そういう方たちが決まって発する言葉があります。

「もう少し早く気付いていれば……」

このような言葉は往々にして医師の勧める治療法を避けてきた人が言うものです。気付いてはいるものの、正面から受け入れる勇気がなかった自分を責めているとしか思えず、かける言葉もありません。残念ながら完璧な治療法はないのが現状です。あなたにとって何がベストなのかをよく考え、治療法を選択すべきではないでしょうか。勇気を持って自分でガイドラインを引かなければ、自分の弱みにつけ込んだ治療法の上手なうたい文句に誘われるまま、自分の命の舵まで取られてしまうのです。

この数年で、今までにはなかった数多くの新薬が生まれ、それと共に、がんと診断されても患者が生き残れる時代になりました。さらに最近は、ホリスティックを含めた統合医療(Integrative Medicine)完備の病院も出てきました。統合医療は通常の化学療法に加え、漢方、鍼灸、マッサージヨガ、食事療法、ホメオパシー、アロマテラピーなども取り入れ、副作用の緩和や患者の生活の質を向上させることを目的としています。これらの統合医療と呼ばれる分野にも保険が適用されるようになってきています。これからもっと身近になり、誰もが利用できるように普及して欲しいものです。

よく考えることをせず、感情に流されて治療を選択することは、自分自身にとって無責任な結果を引き起こしかねません。医師は「患者はすでにわかっているもの」と思い込み、詳しい説明をしない場合もあります。患者力を持ち、医師に面倒な患者と思われるくらい、いろいろな質問をする患者になってください。与えられた選択肢の中から冷静に選んだ治療を行った結果であれば、後悔することもなく、「自分はできるだけのことをした」と思えるのではないでしょうか。

 

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もしアメリカでがんと診断されたら?

乳がん、卵巣がん、子宮がん患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポート。現在のアメリカの医療制度で今、私たちができることを探ります。

第2回 もしアメリカでがんと診断されたら?

日本人がアメリカで病気になってしまった場合、どうしたら良いのでしょうか? 日本とアメリカにおいて、治療法に大きな違いはないにしても、その治療を受けるプロセスや保険制度、治療の流れ、システムの違いがあります。私たち日本人がアメリカでの治療を選択する場合は、その点に留意しなくてはいけません。 ここでは、乳がん治療を例に挙げて説明していきます。

通常は日米共に40歳を過ぎたらマンモグラフィーの検査を受けるよう推奨されています。それ以前に胸に異変を感じたとしても、アメリカではいきなり患者自身が、乳腺外科に直接コンタクトを取ることはできません。日本の治療の流れとして、基本的には一般のクリニックから紹介を通して総合病院など大きな病院に移ってからは、初診から治療終了まで乳腺外科の同じドクターが担当となることがほとんどです。一方、アメリカでは通常、かかりつけ医にまず予約を入れ、そこから検査や専門医に予約を入れるためのリファーラル(紹介状)を出してもらいます。この時、各自の医療保険によるものの、どの専門医に診てもらうかは自分で選択することもできます。マンモグラフィーなどの画像診断、病理レポートは、かかりつけ医にも報告され、いよいよ治療方針を決めることになります。この場合、病気の種類やステージにもよりますが、外科医、放射線科医、腫瘍内科医(Oncologist)、放射線腫瘍医(Radiation Oncologist)などが関わってきます。

ここで、治療に当たり、ぜひとも参考にしてもらいたいことがあります。

1.治療法を決める時は焦らずに

病状にもよりますが、治療方針を決断するということは複雑で、容易ではありません。初めてドクターと会って、その日のうちに最終的な決断をするのはおすすめしません。いったん家に持ち帰り、他の選択肢があるか否かも十分考慮したうえで決定すべきです。また、そのためにセカンドオピニオンを得ることも大切です。

2.医師に質問をする

日本人は遠慮がちで、医師にいろいろと質問をすることに躊躇を覚える方もいます。納得する治療法を選択し、その結果に後悔しないためにも、積極的に質問しましょう。

3.医師と会う際には誰かと一緒に行く

医師との予約の際は誰かと一緒に行きましょう。がんと診断され、動揺する中で、ドクターの話をきちんと把握することは困難です。付き添ってくれる人がメモを取ったり、質問をしてくれたりするとかなり助かります。また、もしがん経験者が一緒であれば、あなたが未経験のため考え付かない質問などをしてくれることもあります。

4.次回のフォローアップをアレンジしてもらう

今後の流れや予約がわかれば、患者にとっては安心できるものです。

5.躊躇せずセカンドオピニオンを仰ぐ

この点においては日本とは違い、医師も推奨しています。場合によってはアレンジもしてくれます。セカンドオピニオンを聞くことで、治療方針に、より確信が持てるようになります。また病院は、初診とは別系列の病院を選ぶことをおすすめします。

6.副作用の対処法を知る

抗がん剤や放射線治療などを受けることによって体調が悪くなり、生活に支障を感じて、仕事や家庭を犠牲にすることにもなりかねません。治療後も場合によっては長期にわたり仕事を休まなければならないケースもあります。そのため、担当医師とスケジュールについて相談し、治療方針を検討する必要があります。また、サポートグループなどの利用は、心のケアだけでなく、その他のさまざまな支援を受けることができ、メリットは大きいでしょう。

個々の状況や州によって違いがありますので、この限りではありませんが、海外で病気になる不安、不便さは想像以上でしょう。病気に立ち向かい、克服するためには、情報を集め、支えてくれる人やサービスを探すことも大切です。皆さんにとって、より良い選択肢が見つかり、適切な治療が受けられることを願っています。 

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気になる女性特有のがんについて日本語で相談できる窓口

乳がん、卵巣がん、子宮がん患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポート。現在のアメリカの医療制度で今、私たちができることを探ります。

第1回 気になる女性特有のがんについて日本語で相談できる窓口

私たちSHARE​日本語プログラムでは、​2013​年からニューヨークを拠点に、乳がんまたは卵巣がんと診断されたアメリカ在住の日本人や日系人の方々をサポートしてきました。​2020​年に子宮がん患者への支援も開始し、この​8​月に西海岸でもサービスを無料で届ける活動をスタートしました。西海岸の日系コミュニティーは長い歴史の背景から、ニューヨークとはまた違ったところもあるかと思いましたが、想像していた以上に温かく迎えられ、とてもうれしい気持ちです。

以前、ニューヨークの日系コミュニティー紙にコラムを寄稿していたのですが、改めて読み返すと今の生活には当てはまらない内容の多いことに気付きました。5、6年前と比べると今では医療制度も変わっています。また、多くの新薬の研究が実を結び、次々と認可され、患者には治療の選択肢が増えています。たとえば、乳がんに関しては化学治療だけでなく分子標的薬が開発され、ステージ4のがんは転移がんと呼ばれるようになり、末期がんとは区別されています。今では多くの方がサポートミーティングなどに参加することで、お互いを支え合いながら毎日を明るく過ごしています。また、遺伝子の研究が進み、早期発見のがん患者さんが化学治療を行う必要があるか否かまで、わかるようになりました。

このように、現在のがん治療は、昔のテレビドラマのような恐ろしいイメージを持ったものではなくなっています。それに伴い、私たちもその変化を知る必要があります。

SHARE​日本語プログラムではこれまで「医師に言われるがままの患者」ではなく「自分のために自分の健康を自分で守れる患者」になれるよう、セミナーや勉強会を実施し、ニュースレターでの最新医療情報の発信などをしてきました。たとえ日本でがんと診断されたとしても、すぐにその現実を受け入れるのはとても困難で、医師が治療方針を説明してくれても、その場で全てを理解するのは難しいことだと思います。アメリカに住む私たちは、さらにその「理解が難しい」という気持ちを日本語で話せる人が周りにいないという困難とも向き合うことになるのです。自分が思っていたよりもアメリカの生活に対応できていなかったと落ち込むかもしれませんし、ひとりで向き合っていかなければならない不安はつのるばかりで、「自分は外国でひとりぽっちだ」と孤独感を覚えるはずです。

そんな時、長く外国生活をしていても私たちから消えることのない日本人の価値観や気質を共有できる人が、自分の思いを聞いてくれたらどれだけ心強いでしょう。私たち日本人は他のアジア人とは違い、家族と離れて単身で渡米するケースが多いように感じます。留学、起業、結婚など理由はさまざまですが、他のアジア人のようにアメリカの市民権を取って日本の家族を迎え入れる人はまれではないでしょうか。

SHARE​日本語プログラムは、アメリカで病気になった時、ひとりで治療に向き合わなくても済むネットワークを作る活動をしています。これまで多くの方々をサポートする中で、皆さんに共通する悩みも見えてきました。たとえば、病院や医師をどう決めるか、医療保険でどのようにカバーされるのか、想定外の請求書はどう扱えば良いのか、支払えない時はどうすれば良いのか、仕事と家庭との両立の問題、まだ小さい子どもや日本にいる高齢の親にどのように自分の病気を伝えれば良いのか、そんな中で自分は病気とどう向き合えば良いのか、などです。

SHARE​日本語プログラムは、皆さんそれぞれに合った答えを出すためのお手伝いをしてきました。皆さんの経験は、これからの患者さんを助けるための貴重な情報源にもなります。今後はこのコラムを通して、シアトルの皆さんにも乳がん、卵巣がん、子宮がん治療の選択肢や日米での医療制度の違い、抗がん治療の乗り越え方のヒントなど、役立つ情報をお届けしていく予定です。病気が回復して元気になるまでお互いに寄りかかれる輪を作る活動を、西海岸でも広めていきたいと思います。

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