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Author: 長野 弘子

ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com 

スマホ・ゲーム依存とメンタルヘルス ~「使われる側」ではなく「使う側」になるためには~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

スマホ・ゲーム依存とメンタルヘルス 
~「使われる側」ではなく
「使う側」になるためには~

 「子どもがスマホを手放さない」「ゲーム時間を制限しようとすると激しく反発される」。こうした悩みは、今や多くの家庭にとって身近なものになりました。かつては「遊び」の一つに過ぎなかったビデオゲームやスマホですが、今やそれは子どもたちの脳やメンタルヘルス、さらには家族関係にまで影響を及ぼす「環境」へと変化しています。今回は、多くの子育て家庭が直面しているこの現代の課題にどう向き合うべきかを考えていきましょう。

WHO(世界保健機関)が2018年に「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を正式な精神疾患として認定してから8年が経ち、依存に関する研究は飛躍的に進んでいます。日本では国立病院機構久里浜医療センターが2025年に実施した調査で、10歳から29歳の14.5%にネット依存、10.3%にゲーム依存の疑いがあると報告され、事態の深刻さが浮き彫りになっています。アメリカでもコモン・センス・メディアの調査で、8歳から18歳の子どもの娯楽目的のスクリーン時間は平均8時間40分に達していることが示されています。

脳をハックする「報酬系」の罠

なぜ、これほどまでに子どもたちはデバイスに吸い寄せられるのでしょうか。それは、デジタルコンテンツが脳の「報酬系」と呼ばれるしくみを強力に刺激するように設計されているからです。ゲームで勝利した瞬間、SNSで「いいね」をもらった瞬間、脳内では報酬回路を刺激するドーパミンが分泌されます。発達途中の子どもの脳はこの刺激に極めて弱く、感情を制御する前頭前野は20代半ばまで発達が続くとされています。つまり、強力なアクセルに対しブレーキが未熟な状態なのです。

その結果、睡眠障害、情緒不安定、集中力低下、社会的孤立などにつながることがあります。特に近年問題視されているのは、「現実世界の刺激では満足できなくなる」ことです。短時間で強い刺激を得られるデジタル空間に慣れるほど、読書や会話、自然遊びのようなゆっくりした刺激が物足りなくなっていきます。

しかし、この問題は子どもだけに限りません。実は今、大人たちの間でも似た現象が急速に広がっています。近年よく使われる言葉に「AI疲労(AI Fatigue)」や「エージェント型AIフィーバー(Agentic Fever)」があります。AI関連のツールや機能が次々に登場し、仕事も生活も効率化される一方で、人間の脳は常に通知、比較、選択、判断を迫られています。昔と比べ、現代人が1日に処理する情報量は桁違いに増え、大人ですら脳を休ませることが難しくなっています。特にAI時代では、「もっと効率化しなければ」「AIを使いこなさなければ取り残されるのではないか」といった焦りが生まれ、脳が常に興奮状態に置かれています。

これは子どものゲーム依存と非常によく似ています。脳は刺激に慣れるほど、静かな時間に耐えられなくなります。スマホを触っていないと不安になり、何もしない時間に焦燥感を覚える。大人たち自身も、すでに「デジタル依存社会」の中にいるのです。だからこそ必要なのは、単なる制限ではなく、「脳を落ち着かせる訓練」です。これは子どもにも大人にも共通しています。

「家族メディアプラン」のすすめ

アメリカ小児科学会(AAP)は、家庭ごとに「家族メディアプラン」を作ることを推奨しています。単なる時間制限ではなく、食事中は使わない、寝室に持ち込まない、夜は通知を切るなど、生活の中に脳を休ませる時間を意識的に組み込むことが重要です。さらに重要なのは、親自身の行動です。子どもは親の言葉より行動を見ています。親が常にスマホを見ていれば、子どもにだけ制限を求めても説得力はありません。

現代社会では、脳を静かに保つこと自体が習得すべき技術になりました。散歩、運動、読書、料理、自然に触れること、会話、ぼんやりする時間。こうした低刺激の時間を取り戻さなければ、人間の脳は刺激を求め続けて疲弊していきます。AIやスマホなどのデジタルツールに「使われる側」ではなく「使う側」になるためには、情報から離れる勇気と静かな時間を意識的に作っていくことが不可欠でしょう。


参考文献 

自分の中の「いじめっ子」に気づいていますか? ~自己対話の重要性~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

自分の中の「いじめっ子」に気づいていますか?
~自己対話の重要性

子育てに追われる日々の中で、ふと「自分は今、何をどう感じているんだろう」と立ち止まる時間はありますか。朝から晩まで子どもや家族の世話、仕事などで忙しく、自分の気持ちは後回しになりがちです。その結果、常に何かに追われている感覚や、漠然とした不安を抱えることも少なくありません。こうした状態を少しずつ変えていく鍵になるのが、自分の内なる声と向き合う「自己対話」です。

心理学では、人は状況に応じて異なる側面を持つ存在として捉えられており、本来の感情や欲求に近い「内的自己」と、社会的役割に適応しようとする「外的自己」という観点が存在しています。子育て中は「良い親でいなければ」という思いから、外的自己が優先されやすく、内的自己が抑えられやすい状態になります。自己対話は、その内的自己に気づき、受け止めるための重要なプロセスです。

また、複数の自己が対話するという「対話的自己理論」によると、人は心の中で複数の、時に矛盾する視点を持ち、それらの対話によって感情の整理や意思決定を行なっていることが示されています。つまり、自己対話は「自分はどうしたいのか」という判断軸を育てるのに不可欠なスキルなのです。この軸があると、子育てにおいても周囲の評価に振り回されにくくなります。

自分との会話は、そのまま他者との関わりにも影響します。人に合わせがちな人、いわゆる外的自己が強く働きやすい人の中には、他者には優しくできるのに、自分には驚くほど厳しい言葉を使っている人も少なくありません。否定的な自己対話は、不安やストレスの増加と関連することも報告されています。多くの人は無意識のうちに、心の中に「いじめっ子」のような声を抱えています。「なんでうまくできないの?」といったダメ出しの言葉で、自分を追い立ててしまうのです。このような否定的な自己対話は、やる気を高めるどころか、自己否定感や焦りを強め、心の余裕を奪ってしまいます。

このような状態が続くと、子どもの些細な言動にいら立ったり、言うことを聞かせようとして厳しくなったりしがちです。また、安心感を外から得ようとして、他者からの承認を求める人もいます。つまり、自分に厳しい言葉をかけ続けるほど、他者の反応で自分の気持ちを落ち着かせたくなることがあるのです。その相手が、自分と心理的に近い存在である子どもになってしまうこともあります。

その逆に、自分に対して思いやりをもって接していると、子どもを同じような目線で見ることができ、子どもの中にも肯定的な自己対話が育ちやすくなります。この点については、発達心理学者レフ・ヴィゴツキーの理論が参考になります。ヴィゴツキーは、子どもは周囲の大人とのやり取りを通じて言葉を内在化し、それがやがて自己対話となり、思考や感情のパターンを確立するとしています。また、肯定的な自己対話は、感情の制御や課題への持続力と関連することが多くの研究で示唆されています。つまり、親の言葉や関わり方は、子どもの内なる声の土台になるのです。

それでは、自己対話をどのように整えていけばよいのでしょうか。大切なのは、「親友に話すように、自分に話しかけること」です。例えば、朝起きたときに、「今日もいい感じだね」「何飲みたい?」など、優しく自分に語りかけてみてください。自分の一番の味方がそばにいるようなイメージです。もし頭の中でうまく整理できないときは、ノートに気持ちを書き出してみてください。「疲れた」「イライラする」とそのまま書くだけでも構いません。そして「本当はどうしたい?」と問いかけてみましょう。「誰かに認めてほしい」などの承認欲求でも何でもいいので、そこに出てくる気持ちを否定せず、「そう思っているんだね」と受け止めること。この積み重ねが、心の安定につながります。

忙しい毎日の中で、ほんの数分でも構いません。自分に優しく話しかける時間を持ってみてください。自分の中の「いじめっ子」に気づき、その声を少しずつ「親友」の声に置き換えていくことができるでしょう。自分との会話は、やがて子どもの自己対話へと受け継がれていきます。内的自己を十分に認めてあげることで、子育ても人間関係も少しずつ楽しく楽なものに変えていけるといいですね。

 

 

家族関係を改善するには〜不安感を次世代に引き継がないために〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

家族関係を改善するには 
〜不安感を次世代に引き継がないために〜

「少しくらい手伝ってくれてもいいのに」「言わなくても分かってほしい」、家事や育児に追われ、1日が終わるとグッタリ。毎日が忙しく、気づけば会話は業務連絡だけになっている。そんな家庭は、子育て世代では決して珍しくありません。家事や育児の負担がどちらか一方に偏ると、夫婦関係や親子関係にすれ違いが生まれやすくなります。

近年の研究では、家庭内の協力関係や夫婦関係の質が子どもの心理的発達に強く影響することが明らかになっています。心理学者ジョン・ゴットマンの長期研究によると、夫婦が協力して育児に関わる家庭では、子どもの情緒は安定し、社会性も育ちやすい傾向があります。その一方で、対立や敵意の多い家庭では、子どものストレスホルモンが慢性的に高くなり、その後の追跡調査でも情緒面や行動面での問題を抱えやすくなることが報告されています。興味深いのは、「結婚しているかどうか」よりも「親の精神的な安定」の方が、子どもに強く影響する点です。たとえ離婚していても、親が満足度の高い生活を送っていれば、関係性の悪い家庭で育つ子どもよりも心理的に健康であることが示されています。つまり子どもにとって大切なのは、家族の形ではなく、「安心できる家庭環境」なのです。

家族関係を理解するうえで役立つのが、心理学者マレー・ボーエンの「家族システム理論」です。この理論では、家族を単なる個人の集まりではなく、相互に影響し合う一つのシステムとして捉えます。そして、個人の問題は、家族全体のコミュニケーションや関係性から生じるものと考えます。さらに、「不安感」を中心概念に置き、誰かひとりの不安感は家族全員に広がり、多世代にわたって引き継がれると説きました。

機能不全に陥った家族では、役割の偏りが起こりやすくなります。例えば、親がもう一方の親の悪口を子どもに伝えたり、「いい子」「問題児」といったレッテルで役割を固定したりすることがあります。その結果、誰かが過剰な負担を引き受けることで、ゆがんだ形のまま家族のバランスが保たれてしまうのです。

さらに、子どもの問題行動や配偶者の非協力的な態度を強く責めれば責めるほど、その行動が助長することがあります。これは、家族全体が無意識のうちにバランスを取ろうとして、対照的な役割を生み出してしまうためです。つまり、問題は個人の気質や性格ではなく、家族全体の関係性やパターンから生まれている場合が多いのです。

それでは、健全で機能的な家族にはどのような特徴があるのでしょうか。多くの研究で、次のような共通点が見られます。

•感情を安心して共有できる雰囲気がある

•お互いの個性や境界線を尊重している

•問題に対して家族全体で協力して向き合う

家庭は「誰かが我慢する場所」ではなく、協力して「支え合う場所」なのです。そのためにできる具体的な方法を三つ紹介します。

1)感情を言葉にする
日常の会話が業務連絡になりがちなときこそ、「今日は大変だったね」「うれしかったよ」といった感情の共有を意識しましょう。感情を伝え合うことで、心理的な安心感が育まれます。

2)ニーズを明確に伝える
「察してほしい」という期待は、すれ違いのもとになります。「少し休みたい」「話を聞いてほしい」といったニーズを具体的に言葉にすることが大切です。

3)公平性を見直す
家事や育児は見えにくいため、不公平が生まれやすいものです。家事の見える化や役割の見直し、忙しいときなど状況に応じた柔軟な助け合いが、心理的な負担を軽くします。

家族関係を良くするうえで大切なのは、「誰が正しいか、間違っているか」を決めることではありません。同じチームとしてどう支え合えるかを考えることです。お互いの気持ちを共有し、必要なことを言葉にしながら、無理のない協力関係を築いていく。その積み重ねが夫婦の信頼を深め、子どもにとって安心できる温かい家庭につながります。完璧を目指す必要はありません。対話と協力を重ねながら、それぞれが自分らしくいられる、そんなほっとできる場所になっていくといいですね。


 
参考文献

子どもの睡眠とメンタルへの影響 〜 15分多く眠るだけで脳に良い変化が〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

子どもの睡眠とメンタルへの影響
〜15分多く眠るだけで脳に良い変化が〜

「うちの子、落ち着きがない」「集中できない」「すぐ怒る」といった不安を抱えている保護者は少なくありません。しかし、実は慢性的な睡眠不足がその背景に隠れている可能性もあります。睡眠は子どもの心と脳を整える大切なメンテナンス時間。睡眠不足が続くと、抑うつリスクの増加やイライラ、衝動性の高まり、学業成績の低下、さらには肥満との関連が指摘されています。アメリカの大規模追跡研究Adolescent Brain Cognitive Development(ABCD)Studyで、11歳から12歳の子どもを睡眠パターンから複数グループに分けて分析したところ、早く寝て長く眠るグループは脳の体積が大きく、認知テストの成績が高い傾向がみられました。さらに、情緒面でも落ち着いていたという結果が報告されており、睡眠と行動特性との関連が示唆されています。
 
子どもの必要な睡眠時間は年齢によって異なります。米国睡眠医学会(AASM)と全米睡眠財団(NSF)の推奨によると、目安は次の通りです。
 
•乳児(4~12カ月):12~16時間(昼寝含む)
•1~2歳:11~14時間
•3~5歳:10~13時間
•小学生:9~12時間
•思春期:8~10時間
 
この範囲を大きく下回る状態が続くと、心身への影響が出やすくなります。特に思春期は体内時計が遅れやすく、十分な睡眠が得られているかを確認することはとても重要です。
 
子どもで特に注意したい睡眠の病気には、次のようなものがあります。
 
夜驚症やきょうしょう (幼児期):睡眠中に突然叫んだり泣いたりするが、本人は覚えていない。多くは成長とともに改善する。
 
• 睡眠時無呼吸症候群:睡眠中に呼吸が浅くなったり止まったりする状態。強いいびきや口呼吸を伴い、日中の多動や集中困難の原因になることも。
 
• 睡眠不足症候群:慢性的な睡眠不足が続き、日中に強い眠気や集中力低下が起こる状態。生活リズムの見直しで改善することが多い。
 
• 睡眠相後退症候群:体内時計が後ろにずれ、夜遅くまで眠れず朝起きられなくなる状態。思春期に多く、生活と体内リズムのズレが問題になる。
 
発達特性のある子どもは、入眠困難や中途覚醒などの睡眠の問題が多いと報告されています。通常発達の子どもでは睡眠の問題が約25%みられるのに対し、注意欠如・多動症(ADHD)の子どもでは約64%、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもでは約65%とはるかに高い割合を示しています。さらに、「クロノタイプ」といわれる人それぞれの体内時計の傾向(朝型・夜型など)が生まれつき「夜型」の人が一定数存在することもわかっています。思春期には体内時計が後ろにずれやすく、一時的に夜型傾向になることが多く、10代で数10%前後が夜型になるという報告もあります。また、ADHDに関する研究では約19%が夜型のクロノタイプと報告されています。
 
このように、生まれつき睡眠の困難を抱えやすい子どもの寝かしつけは本当に大変です。しかし、研究によると、わずか15分多く眠るだけでも、脳の働きに大きな改善がみられることがわかっています。諦めずに、質の高い睡眠を得られるよう、次のような生活習慣を少しずつ整えていきましょう。
 
1️⃣ 起床時刻を固定する
体内時計は朝の光でリセットされ、それから約14時間から16時間後に眠くなります。週末も大きくずらさないことが大切です。
 
2️⃣ 就寝前1時間は刺激を減らす
蛍光灯の強い光やスマホのブルーライトは睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌を抑えるとされています。夜は暖色系の照明にし、動画やゲームは控えましょう。
 
3️⃣ 毎晩同じ入眠ルーティンをつくる
入浴、読書、消灯など一定の流れを繰り返すことで脳が自然と眠りモードに入ります。
 
4️⃣ 日中しっかり体を動かす
適度な運動は深い睡眠を促します。
 
子どもの時期に身に付けた良質な睡眠習慣は、生涯にわたる脳の健康の土台づくりにつながります。成人を対象とした研究でも、良質な睡眠は免疫機能の維持や成長ホルモンの分泌と関連し、アミロイドβなどの脳内の老廃物の排出を促し、アルツハイマーのリスクを軽減すると報告されています。だからこそ、良質な睡眠習慣は将来への大切な贈り物です。完璧を目指さなくても、昨日より15分早く眠れたら、それだけでも大きな一歩です。子どもの変化を信じ、焦らず、少しずつ安眠習慣を積み重ねていきましょう。
 

 
参考文献

▪️Extra sleep boosts teen brain power, study finds
https://www.thebrighterside.news/post/extra-sleep-boosts-teen-brain-power-study-finds/ 

▪️Sleep, chronotype, and sleep hygiene in children with attention-deficit/hyperactivity disorder, autism spectrum disorder, and controls 
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5799342/?utm_source=chatgpt.com 

不安の時代を生きる子どもたち〜気候変動、世界紛争、過接続社会とどう向き合うか〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

不安の時代を生きる子どもたち 
〜気候変動、世界紛争、過接続社会と
どう向き合うか〜

「動物や自然が失われていくのを見て悲しい」「将来のことを考えると不安になる」ーこうした声は、特定の家庭や性格の子どもに限られたものではありません。気候変動、経済格差、情報過多、不安定な世界情勢など、時代の空気が子どもや若者の心に影を落としています。こうした不安を個人の問題として切り離すのではなく、社会的な問題として理解することが大切です。個人の努力では解決できない不安にはどのようなものがあるのか。そして子どもとどう向き合えばよいのかを探ってみましょう。
 
気候不安(Climate Anxiety)
 
環境汚染や気候変動への慢性的不安は、若者層を中心に広がっています。ユニセフによると、世界各地の子どもや若者が環境問題に不安を感じており、睡眠や集中力、学習意欲への影響も報告されています。16歳から25歳を対象に10カ国で実施された国際調査(Hickmanほか、2021年)では、約59%が気候変動について「非常に心配している」と回答し、84%が少なくとも中程度の不安を感じていることが示されました。多くの若者が「将来が脅かされている」と感じ、「大人や政府が十分に行動していない」と考えています。こうした社会的不安は、「自分たちにはコントロールできない力に人生を左右される」という感覚を生み、悲しみや無力感、自己価値の低下につながります。
 
社会経済的疲弊(Socioeconomic Burnout)
 
さらに若者の心を圧迫しているのは、インフレや極端な富の不平等による将来への不安です。スイスの金融大手ユービーエス(UBS)が発行する「UBSグローバル・ウェルス・レポート2024」によると、2023年時点で富裕層上位1%が世界の富の46.2%、上位10%が82.4%を所有し、下位50%はわずか1.8%にとどまっています。「努力すれば報われる」という社会の前提が揺らぐことで、希望は大きく損なわれます。経済学者トマ・ピケティは著書「21世紀の資本」の中で、約300年分に及ぶ富と所得のデータを分析し、富を持つ者はますます豊かになり格差が固定化されやすい構造があると指摘しました。そのため「どれだけ努力しても報われない」という感覚を抱く若者が増えるのも自然な反応といえます。経済的困難は、抑うつや不安のリスクを2.5倍以上高めると報告されており、無視できない問題です。
 
過接続ストレス(Hyper-connectivity Stress)
 
現代の子どもや若者は、常に誰かとつながっている状態に置かれています。SNSやチャットを通じ、友人関係や学校、地域の話題から、犯罪や世界紛争に至るまで、情報が途切れることなく流れ込みます。「すぐに返信しなければならない」「何か起きていないか常に確認してしまう」といった状態は、休むことのない心理的負荷を生みます。過剰な情報につながり続ける社会では、人生を長期的に見通すための心理的安定感が損なわれ、自分でじっくり考える力を弱めていきます。
 
子どもの希望を取り戻すためにできること

1)不安は自然な反応だと伝える
社会の問題に心が圧迫されるとき、「あなたが考えても仕方がない」といった言葉は逆効果です。不安を感じることは自然な反応だと教え、子どもの気持ちにしっかり耳を傾けましょう。

2)一緒に考え、信頼感を強める
社会問題について話し合い、困難や課題への対処法を一緒に考えましょう。親が真剣に向き合うことで、子どもは親への信頼感を深め、不安な気持ちが和らぎます。不安定な社会の中でも、家族の絆が心の支えになります。

3)小さな「できること」を実行する
社会全体を変えることは難しくても、日常の小さな行動なら実行可能です。リサイクルや植樹、家族内のルール作りなど、身近なことから始めましょう。世界を大きく変えようとするのではなく、家庭で環境や人への優しさを実践することで、子どもは「自分にもできる」という自己効力感や生きる力を育むことができます。

人の心は、社会の現実から切り離せません。社会的不安は確かに子どもやティーンの心に影響を与えます。しかし大切なのは、大人が能動的に向き合う姿勢を示すことです。小さな行動や選択が、未来を少しずつ形作る力になります。「自分にできることは必ずある」と繰り返し伝え、子どもと一緒に一歩ずつ積み重ねていきましょう。
 

 
参考文献・URL
 
⚫︎ UNICEF (2023). Climate Anxiety
 
⚫︎ Hickman, C. et al. (2021). Climate anxiety in children and young people.
 
⚫︎ The Lancet Planetary Health
 
⚫︎ Key Insights from the UBS Global Wealth Report 2024
 
⚫︎ Thomas Piketty (2014). Capital in the Twenty-First Century

 

SNS通知中毒・アルゴリズム不安とは? ~SNS疲れとどう付き合うか~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

SNS通知中毒・アルゴリズム不安とは? 
~SNS疲れとどう付き合うか~

食事中や子どもと会話をしている最中にスマートフォンの通知が鳴り、話が途切れてしまうことは珍しくありません。かつては、知りたいことを調べたり、分からないことを人に尋ねたりする過程の中に、考える余白や気持ちを整理する時間がありました。しかし現在、子どもたちは成長の早い段階から常にSNSと接続されている状態に置かれ、即時的な情報や刺激に囲まれています。若者の不安感や自己肯定感の低下とSNS利用との関連が繰り返し指摘される中で、こうした環境から生じる「通知中毒」、膨大な情報による「フィルター疲労」、「アルゴリズム不安」といった問題を整理し、子どもが直面する心理的負荷とその対策について考えます。
 
通知中毒(Notification Addiction)
 
絶え間なく届く通知によって常に圧倒されているような感覚に陥り、強い心理的負担やストレスを感じる状態です。研究では、ティーンがSNS上で「いいね」を受け取った際、報酬系の脳活動が顕著に高まりドーパミンの分泌が促されることが示されています。思春期の脳は刺激に特に敏感なため、通知が鳴っていなくても「確認したい」という衝動に駆られ、スマホを手に取る行動が強化されやすくなります。実際、「通知が気になって勉強に集中できない」「ついスマホを確認してしまう」という相談が増えています。スマホが近くにあるだけで、「いつ鳴るか分からない」という緊張した待機状態になり、心が休まらず深い集中に入りにくくなります。カリフォルニア大学アーバイン校の研究では、集中の中断そのものが作業中のストレスや時間的圧迫感を高めることが示されています。通知は一瞬であっても、そのたびに生じる心理的負荷が積み重なり、学習効率や思考の深さに長時間にわたる悪影響を及ぼすのです。
 
フィルター疲労(Filter Fatigue)
 
膨大な情報や意見、価値観に常時さらされることで、情報や選択肢が多すぎて大きな心理的負担やストレスを感じる状態です。情報過多に関する研究では、人は処理能力を超える情報にさらされ続けると、簡単な判断や意思決定に強い認知的疲労を生むと指摘されています。例えば、SNSを見たあとに「何もしていないのに疲れる」「頭がいっぱいになる」と感じる子どもがいます。これは、思考を整理する余裕がないまま情報が脳に流れ込み、「自分はどう感じるか」「どう考えるか」といった内省の時間が奪われている状態です。十分な時間がないまま判断や選択を求められ続けると、心の回復力が低下し、慢性的な疲労や不安感、無力感を抱きやすくなります。
 
アルゴリズム不安(Algorithmic Anxiety)
 
SNSのアルゴリズムによって、ネガティブな情報が優先的に表示され、多くの人が不安を喚起する内容に繰り返しさらされる状態です。SNS企業は、投稿がどれだけ表示されるか誰に届くかといった点を含め、利用時間を最大化する目的でアルゴリズムを設計しています。ヒトの脳は不安や恐れを誘う刺激に反応しやすいため、その結果として感情を強く揺さぶる情報が拡散されやすくなり、社会的な対立や分断を助長します。また、意識的にネガティブ情報を避けているティーンであっても、「いいね」や表示回数といった評価指標に影響を受け、注目度によって自己価値が測られる環境に常時置かれています。こうした状況は、持続的な緊張状態を生み、自己肯定感の低下につながります。
 
親にできる具体的な工夫
 
SNSや新しい技術を子どもから完全に遠ざけることは現実的でも有効でもありません。重要なのはSNS特有の心理的ストレスを理解し、それに対処する力を育てることです。そのためには、日常的な対話を通じてデジタルリテラシーを育み、子ども自身が自分の心の状態を言語化できるよう支援する必要があります。「インスタグラムを見たあと、気分はどう変わった?」といった問いかけは、無自覚な使用を振り返る手がかりになります。比較や評価から一度離れ、「自分はどう感じ、どう考えているのか」を整理する時間を意識的に確保することが大切です。こうした対話の積み重ねは、情報過多の中で思考を整理し、過剰な自己比較から距離を取り、自分なりの判断基準を回復する練習になるでしょう。
 

 
参考文献
 

The Cost of Interrupted Work: More Speed and Stress 
https://ics.uci.edu/~gmark/chi08-mark.pdf 

 Dealing with information overload: a comprehensive review 
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10322198/?utm_source=chatgpt.com 

心が元気になる一年へ ~ 新年のメンタルリセット術~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

心が元気になる一年へ 
~ 新年のメンタルリセット術~

新しい一年が始まり、「今年こそ心軽やかに過ごしたい」、「余裕のある一年にしたい」と願う方も多いでしょう。子育てや家事、仕事に追われていると、ふと落ち込んだり、不安でいっぱいになったりする瞬間が誰にでもあります。ここでは、新年にぴったりの心をリセットする知恵をご紹介します。 
 
落ち込みや不安の根源には、不確かな事項に対する恐れがあります。一昔前までは良い大学に行き大手企業に就職すれば人生安泰という風潮がありましたが、時代が急速に変化する中で、こうした画一的な人生観は消えつつあります。その結果、誰もが不確定な未来を常に考えさせられる状態に陥りやすくなっています。米国心理学会の2025年の調査によれば、労働者の半数以上が「雇用不安」によりストレスを感じていると回答しています。また、世界経済フォーラムの記事によれば、技術・経済・環境・社会の急激な変化が重なったことで、特にZ世代である若者層の幸福度が低下しており、不確実性への不安がストレス要因になっていると指摘されています。 
 
いったん不安思考が生まれると、意識して止めなければ、さらに不安が強化されていきます。不安なときの私たちは、「戦うか逃げるか」のサバイバル状態に近づき、心身が消耗します。外界に直接的な危険がなくても、頭の中のネガティブな声が脳をサバイバル状態にしているのです。この状態が続くと、睡眠の質の低下や集中力の低下など、生活全般に影響が出てしまいます。この状態では、いきなり前向きになるのは難しいものです。だからこそ、まず必要なのはサバイバル状態をニュートラルな状態に戻すこと。リセットの第一歩は「今ここ」の感覚を取り戻し、リラックスすることなのです。 
 
リラックス状態になれば、心はクリエイティブ状態へ自然と向かいやすくなります。クリエイティブ状態とは、新しいアイデアが生まれやすい「拡散的思考」が優勢な状態。脳内では、自由な発想を担う「デフォルトモードネットワーク」と、注意制御や判断を行う「実行機能ネットワーク」が柔軟に切り替わっています。内発的動機づけと軽い覚醒状態が保たれ、発想と集中が両立することで創造的なアイデアや革新的な発想が生まれやすくなります。
 
サバイバル状態とクリエイティブ状態の比較
不安でサバイバル状態に入った心を、まずは「今ここ」のリラックス状態へ戻し、そして少しずつクリエイティブ状態へなるように意識しましょう。リラックス状態に戻る習慣をつけるための簡単な方法を以下に紹介します。
 
1 深呼吸やマッサージ:副交感神経を活性化させリラックス状態に導く。

2 五感に集中:同じ色の物を五つ探して見る、四つの異なる感触に触れる、3種類の音を聞く、2種類の匂いをかぐ、何かを味わうなど、五感に集中して「今ここ」の感覚に戻る。

3 趣味:お気に入りの映画、音楽、絵画、香りなど、心を豊かにしてくれるものに触れる。

4 運動:スポーツ、ジョギング、トランポリン、ヨガなど、身体を動かす。

5 感謝の実践:家族の健康など「あるもの」に意識して感謝すると、ストレスホルモンが低下し、幸福度が上がる。
 
子どもは、完璧な親ではなく、サバイバル状態からどうやって落ち着いた状態に戻るのかを示し、さまざまな感情を一緒に感じて落ち着かせてくれる存在を必要としています。困難に直面して不安になったり落ち込んでも大丈夫。そこから回復していく姿を見せることで、ネガティブな感情は「リラックスしよう」という内側からのメッセージであり、悪いものではないと子どもに伝えることができます。今日、あなたがひとつ深呼吸できただけで、その瞬間、良い一年の始まりへと向かっています。どうか今年が、あなたと家族にとって心が軽く元気になる一年でありますように。
 

 
参考文献

 漂流する世代:若者の幸福度が低い理由とその対策
https://jp.weforum.org/stories/2024/04/suru-no-ga-i-tosono/?utm_source=chatgpt.com 

子どもをAIに依存させないために 〜非暴力コミュニケーションによる心の開き方〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

子どもをAIに依存させないために 
〜非暴力コミュニケーションによる心の開き方〜

今年4月、アメリカで起きたある痛ましい事件が世界に衝撃を与えました。カリフォルニア州在住の16歳の少年、アダム・レインさんが日常的にAIチャットボットの「ChatGPT」と会話を重ねる中で命を絶ってしまったのです。両親は、AIが自殺方法を助言したり遺書を書くのを手伝ったりしたと主張し、OpenAIを相手取り訴訟を起こしました。昨年2月にもアニメや映画のキャラクターを模したAIと対話できる「キャラクターAI」を利用したフロリダ州の14歳男子が自殺したと報じられました。共感を得られず孤立する子どもが、現実の人間関係よりも、親身に振る舞うAIやSNSに心の拠り所を求めてしまうケースが増えています。アメリカ心理学会では、今年2月、連邦規制当局に対しAIチャットボットをセラピスト代わりに使うことの危険性を警告しました。
 
「正論」が子どもの心を閉ざすとき
 
子どもが共感を得られず孤立する理由の一つに、親が「正論」を言い過ぎることがあります。子育ての中で、私たちはつい「早くしなさい」「ちゃんとしなさい」という言葉を口にしがちです。しかし、子どもが反発しているときに親が正論でやり込めると、子どもは「どうせ何を言ってもわかってもらえない」と失望して心を閉ざしてしまいます。立派な社会人になってほしいという親心ゆえのしつけですが、こうした思考が強く刷り込まれすぎると、完璧主義や過剰な自己否定、他人への厳しさにつながり、やがては心の不調を引き起こす原因となることもあります。心理学者アルバート・エリスはこれを「べき思考」と呼び、うつや不安、怒りの原因になると指摘しています。家庭で理解されないと感じる子どもほど、優しく寄り添ってくれる外部の存在に依存するリスクが高まります。
 
子どもの心を開く鍵:正しさの前に「共感」
 
それでは、どのようにして子どもの心に寄り添い、本音を話し合える関係を築くことができるのでしょうか。アメリカの心理学者マーシャル・ローゼンバーグ博士が提唱する「NVC(非暴力コミュニケーション/Nonviolent Communication)」は、会話の背後にある満たされていない「ニーズ」に焦点を当て共感を深めるための対話法です。 
 
NVCでは、相手の心に届く伝え方として、「観察、感情、ニーズ、リクエスト」の4つのステップを基本としています。例として、子どもが朝の支度に手間取っていて、学校に遅れそうな状況を挙げてみましょう。「ぐずぐずしないで早く靴を履きなさい。何度言ったらわかるの?」と叱る代わりに、次のステップを試してみましょう。

1. 【観察】評価や判断をせず、事実だけを伝える
「朝の支度、まだ終わっていないね」

2. 【感情】その状況に対して、自分の素直な気持ちを伝える
「ママはちょっと焦っているよ」

3. 【ニーズ】その感情の奥にある、満たされていないニーズに気づく
「ママも仕事に遅れないようにしたいの」

4. 【リクエスト】ニーズを満たすための具体的な行動を提案する
「靴をすぐに履いてくれると助かるな」
 
このように伝えると、子どもは「命令されたからやる」のではなく、「自分で選んでやる」ことができます。これが内発的動機づけを高め、自律した行動につながります。最初は難しいかもしれませんが、慣れてくると自然に自分のニーズをそのまま伝えることができるようになります。相手もまた自分の気持ちが尊重されたと感じ、互いに深い信頼関係が築かれていくでしょう。
 
親の役割は、正しさを押しつけることではなく、子どもが自分の感情や考えを言葉にし、自分で決めて行動する力を育てることです。もちろん、危険な行動や他人に迷惑をかける場面では、毅きぜん然とした対応が必要です。しかしそれ以外の多くの場面では、共感と理解こそが子どもを守る最大の力になります。
 
共感には「あなたの気持ちを受け止めているよ」というメッセージが込められています。自分の気持ちが尊重されたと感じられたとき、子どもは初めて正論に耳を傾ける準備ができます。そして何よりも、日常の中で「わかってもらえた」と感じた経験の積み重ねが、AIチャットボットなどの擬似的な関係に引き込まれない、本当の正しさを見極める目を養うでしょう。
 
参考文献
Ellis, A. (1962). Reason and Emotion in Psychotherapy. 

Rosenberg, M. (2003). Nonviolent Communication: A Language of Life. 

スマホ時代の課題「ドゥームスクローリング」〜子どもへの影響と対策 〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

スマホ時代の課題「ドゥームスクローリング」
〜子どもへの影響と対策 〜

ニュースを見れば、相次ぐ自然災害や銃乱射事件、世界各地の戦争が連日報道されています。スマホとSNSの普及により、子どもたちは悲惨な情報に常時さらされるようになりました。こうしたネガティブな情報を延々とスクロールして見続けてしまう行為は「ドゥームスクローリング(doomscrolling)」と呼ばれ、近年メンタルヘルスや生活習慣に悪影響を及ぼす要因とされています。 

多くの研究で、ドゥームスクローリングが「生活満足度の低下」や「不安・抑うつ症状の増加」と関連していることが示されています。成人約1,200人を対象にした研究では、精神的幸福度が有意に下がる結果が出ており、ハーバード大学の調査でも心身への悪影響が警告されています。また、2024年の研究「Lost in the Feed」では、学生がネガティブなコンテンツを無自覚に見続けた結果、課題提出や時間管理が困難になり、成績が落ちるなど学習面で深刻な影響が出ていることが報告されています。単なる生活習慣にとどまらず、学習意欲や成績にも悪影響を与えている点が注目されています。 

さらに、アメリカの大規模調査では、1日4時間以上のスクリーン使用が、不安、抑うつ状態、行動上の問題、注意力の低下、睡眠不足と強く関連することが確認されました。特に子どもや思春期の若者は影響を受けやすいため、家庭での話し合いが重要です。ドゥームスクローリングが直接的に不登校を引き起こすという研究はまだ不足していますが、現場では、スマホ使用により朝起きられない、授業に集中できない、学校に行き渋るといった状況はよくあり、その影響は否定できません。臨床的にも、不安やストレスが背景となる不登校は学齢期全体の1%から2%見られ、さらにクリニックを訪れる子どもの5%から15%に上るとされています。不安傾向の強い子どもにとって、ドゥームスクローリングはリスク要因となり得ます。
 
親子でできるセルフチェックリスト(5項目)

1)寝る前にネガティブな情報を長時間見てしまい、なかなか眠れない。

2)翌朝起きるのがつらく、登校や授業参加への意欲が低下する。

3)課題を後回しにしてスマホを見てしまい、提出が遅れる。

4)日中にネガティブな情報を思い出し、不安や悲観的な思考が続く。

5)スクリーン時間を減らそうとしてもやめられない。

家庭でできる具体的対策 

子どもをドゥームスクローリングから守るためには、どうすれはいいのでしょうか。日常生活の中で無理なく取り入れる工夫が大切です。まずは「デジタル境界」を設け、使用時間や就寝前のスマホ禁止などシンプルなルールを決めること。親も一緒に守ることで子どもが納得しやすくなります。また、ニュースやSNSの内容を一緒に確認し、信頼できる情報かどうか話し合うことは情報リテラシーを育む良い機会です。「このニュースは誰が発信しているのか」「感情をあおる内容ではないか」と話し合うだけでも、子どもの情報リテラシーを高めるきっかけになります。生活リズムを安定させることも重要です。夜の画面使用を控えて十分な睡眠を確保することで、集中力や気分の安定につながります。さらに、運動や自然との触れ合い、趣味などオフライン活動を増やすと、スクリーン依存を防ぎやすくなります。また、子どもが不安を抱えていると感じた場合、家庭内だけで抱え込まないことも大切です。スクールカウンセラーや医療機関など専門家につなげ、子どもの心のSOSを早期にキャッチしてサポートすることが、長期的な予防につながります。 

現代において世の中の出来事を知ることは必要ですが、ドゥームスクローリングに特別なメリットはありません。むしろ情報を選び取り、あえて減らす努力をすることが心身の健康につながります。家庭でできることはたくさんあります。スクリーンとの付き合い方を見直し、日々の対話と習慣づくりを通じて、子どもを支えていきましょう。
 
参考文献
 

■世界中で検索数が急増!カウンセラーが解説する「ドゥームスクローリング」の原因と対策 
https://dime.jp/genre/1329290 

 ■Harvard Health Publishing: Doomscrolling dangers 
www.health.harvard.edu/mind-and-mood/doomscrolling-dangers 

 ■Multiresearch Journal: Lost in the Feed: Exploring the Lived Experiences of Students on Doomscrolling 
www.multiresearchjournal.com/admin/uploads/archives/archive-1716463381.pdf 

 ■The association between screen time and adolescent mental health 
https://arxiv.org/abs/2508.10062 

怒りと依存 ~子どもと自分を守る、怒りとの付き合い方~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

怒りと依存
~子どもと自分を守る、怒りとの付き合い方~

子どもに向かってつい声を荒らげてしまい、あとで自己嫌悪に陥り「もっと優しく言えたのに」と後悔する親は少なくありません。実はその「怒り」、依存のような性質を持っていることをご存じでしょうか?
 
「怒り」に依存してしまう仕組み
 
キレやすい人は、ストレス、疲労、トラウマ、発達特性などさまざまな要因により、感情を抑制して理性的な判断をする脳の部位「前頭前野」が未発達のまま、もしくは機能低下を起こしています。ストレスを感じると「扁桃体」が「敵だ!」という信号を出し、交感神経が優位になり闘争・逃走反応を引き起こします。通常は前頭前野がその反応を抑制して理性的に問題を解決するのですが、前頭前野がうまく機能しないと、力で無理やり問題を解決しようとします。さらに、怒鳴った後にスッキリする感覚や、相手を黙らせて「勝った」という気持ちが「線条体」などの報酬系の脳回路を刺激して、その行動を強化します。つまり、怒りを使って人をコントロールしようとすればするほど、攻撃行動が報酬的に処理され、その行動が強化されて「怒り」に依存していくのです。
 
子どもを怒鳴ると「負のループ」に
 
親が子どもを頻繁に怒鳴ると、子どもの心にどのような影響が出るのでしょうか。例えば、食事中に食べ物をこぼした、テストで良い点が取れなかったなどの理由で怒鳴る・叱ることを繰り返していると、子どもは「安心して失敗できない」「常に顔色を伺う」ようになります。怒りの爆発を繰り返す家庭環境では、子どもは情緒不安定になったり自分の気持ちを表現するのを恐れるようになります。多くの研究で、怒りを頻繁に受けた子どもは、脳の扁桃体が過敏になり、将来的な不安障害や攻撃性のリスクが高まる可能性が示唆されています。
 
子どもは、感情の扱い方を親から学びます。親に向かって抵抗できない場合は、その怒りを無意識のうちに自分よりも弱い立場に向け、妹や弟、クラスメートへのいじめ、もしくは自分を傷つける自傷行為へと向けることもあります。怒りは生存本能に直結した感情なので、悲しみや喜びなどの他の感情よりも影響力が強いことが最近の研究で分かっています。北京航空航天大学の研究者たちは、7,000万件以上の投稿から4つの基本感情をマッピングし、怒りがほかの感情よりもより速く、より広範囲に広がり他人に「伝染」することを報告しました。親自身が怒りを子どもに伝染させないことが、何よりの教育だといえるでしょう。
 
「怒り」に支配されない習慣づけ
 
怒りを感じたとき、私たちがするべきは、相手に怒りをぶつけることではなく、まずは自分で怒りを静めることです。怒りは二次感情とも呼ばれており、その奥には元となる別の感情「恐れや不安」「罪悪感」「悲しみ」などの本当の気持ちや「相手にしてほしいこと」といった期待感が隠れています。落ち着いて怒りを処理すれば、自分の本当の感情や期待に気づくことができます。
 
以下のような方法が、怒りに支配されない習慣づけの一部です。
 
1. 書いて捨てる頭に浮かんだ怒りや不満を紙に書き出し、それを破ったり捨てることで感情を外に出します。これは感情処理に有効な手段として支持されています。

2.
呼吸を深くする普段から意識して4秒吸って8秒吐くというリズムでゆっくり呼吸すると、自律神経が落ち着きます。

3.
本当の気持ちや望みに気づく「なぜ怒ったのか」「分かってくれなくて悲しかった」「話を聞いてほしかった」と本当の自分の気持ちを聞いてあげます。

こうした自己対話の習慣を続けていけば、怒りを感じたときに6秒間深呼吸をすれば怒りは収まるという「6秒ルール」をマスターできるかもしれません。怒りは私たちの防衛本能の一部です。完全に無くす必要はありません。ただ、それに飲み込まれるのではなく、うまく扱えるようになることが大切です。
 
感情と向き合う親の背中を、子どもはしっかりと見ています。自分と子どもを怒りの連鎖から守るために、怒りを感じたときこそ「自分の本当の望みを知るチャンス」と解釈を変えてみましょう。
 

忙しいのに満足感がない「心理的回避」とは? ~心の中で避けていることが子どもに伝わるとき〜子どもとティーンのこころ育て

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忙しいのに満足感がない「心理的回避」とは? 
~心の中で避けていることが子どもに伝わるとき〜

育児、仕事、家事に追われる毎日。自分の時間が欲しいと思っているのに、いざ時間ができると落ち着かず、つい予定を詰め込んでしまうことはありませんか? 表面的にはちゃんと生活しているし、やるべきこともこなしているのに、ふとした瞬間に「これでいいのかしら?」と感じてしまう。そんな人は、もしかすると隠れた回避行動である「心理的回避(covert avoidance)」が原因かもしれません。 
 
忙しさは、ときに自分の感情と向き合わなくて済む理由づけになります。例えば、こんな行動に思い当たることはありませんか?

いつも忙しくしていて、予定が埋まっていないと不安になる
自分の感情を後回しにして、「とにかく動く」ことを優先する
落ち込むと、動画やSNS、ゲームに没頭して現実逃避する
怒り、
悲しみを表に出すのが怖く、「ポジティブに切り替えよう」とする 

これらの背景には、「恐れや不安、孤独などの気持ちを直視したくない」という心の中の回避反応、つまり「心理的回避」があります。いつも忙しく頑張っている母親、頼りになる職場のリーダー、明るく社交的な人の中には、無意識に心理的回避を防御としている人がいます。特に育児世代は、家族や子どもの世話を優先し、自分のニーズや気持ちを置き去りにしがちです。子育てや家事に追われて「感情と向き合う余裕」がそもそも生まれにくいのです。こうして自分の気持ちを深く感じないままに日々が過ぎていくと、心の奥底で「なんとなく満たされない」「誰とも深くつながれていない」「自分の居場所がわからない」と感じることが増えていきます。
 
親の「心の回避」は、子どもの「回避行動」に影響 
 
親がこうした心理的回避を続けていると、子どもはそれらを学習して「表面的な回避行動(overt avoidance)」を取るようになります。これは「社会的学習」と呼ばれる現象で、言葉だけではなく態度や空気感から子どもは多くを学び取るのです。例えば、自分の気持ちを表現しなくなったり、深い友達付き合いを避けたり、不安や恐れ、ストレスなどに向き合わずに過ごすようになります。
 
回避から抜け出すための小さなステップ 
 
では、心理的回避から抜け出すにはどうしたらよいのでしょうか? その第一歩は「自分の本音を避けようとするのではなく、少しずつ認める」ことです。以下に具体的な方法を紹介します。

❶ 夜に「心のメモ」をつける
置き去りにしていた気持ちを少しずつ感じていきます。「今日は何がうれしかった? 何が不安だった?」と自分に問いかけ、1日数行でメモしましょう。例えば、「子どもと笑い合ったのがうれしかった」「パートナーに無視されて悲しかった」など。紙に書くことで、自分の気持ちを落ち着いて受け止めることができます。

❷ 自分の「本音の欲求」に気づく
「本当はどうしたい?」を問いかける時間を持ってみてください。例えば、「自分の時間がほしい」「誰かに話を聞いてほしい」「旅行に行きたい」など。気づくだけで、少しずつ自分の本当の欲求を知ることができるようになります。

❸ 安全な本音を意識的に伝える
信頼できる友人やパートナーと、1日1回でも本音を話す時間を作ってみましょう。「今日は疲れた」「ちょっと落ち込んでる」と言葉にするだけでも、心のつながりが感じられるようになります。自分の弱音や本音を受け止めることで、他人との距離感も自然と変わってきます。 
 
ネガティブな感情の奥には「本当はこうだったらいいのに」という願いが必ずあります。怒りや悲しみは、心の奥底の望みから生まれる自然な反応です。それを認めることで、自分の本音にも気づきやすくなります。親が「自分の気持ちと向き合おうとする姿勢」は、子どもにとって何よりの学びになります。「自分の気持ちを大切にしていいんだ」と子どもが感じられるようになるのです。そうして子どもは、自分の恐れと向き合いながら、願いの実現に向けて人生を歩んでいけるようになります。まずは今日、ひとつだけ、「今、自分はどう感じているのか」に目を向けてみませんか?
 
 

恋愛依存「リマレンス」とは? ~愛と空虚感の関係~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

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恋愛依存「リマレンス」とは?
~愛と空虚感の関係~

子どもがティーンになると、恋愛にのめり込んでしまうことは珍しくありません。だけど、四六時中好きな人のことを考え勉強やほかの活動がおろそかになったり、相手の言動に一喜一憂したり、「これって健全な恋愛なの?」と戸惑ったことはありませんか? 近年、心理学の世界で注目されている概念に「リマレンス(Limerence)」という言葉があります。これは、単なる「好き」という気持ちを超えて、恋愛感情が依存や執着に変わる心理状態を指します。

リマレンスとは、1979年に心理学者のドロシー・テノフによって提唱された言葉で、以下のような心理状態を特徴とします。

•一日中その人のことを考えてしまう
•相手の反応に感情が大きく左右される
•相手を理想化し、非現実的な期待や幻想を抱く
•相手の小さな好意を「脈ありサイン」と解釈し、過剰反応する
•相手が冷たいと、自分には価値がないと落ち込む

「恋をしている」というより、「心の空白を埋めるため、相手に執着している」という状態です。健全な恋愛感情とリマレンスとの違いは何でしょうか?健全な恋愛感情は、互いを尊重し、心が通じ合った状態に喜びを感じますが、リマレンスは、相手に理想のイメージを重ねて一方的に幻想を抱きます。その結果、相手に執着したり、相手の言動に振り回されたりと不安定な心理状態が続きます。

ティーンが陥りやすいリマレンス

思春期の子どもたちは、体だけでなく心も大きく変化します。「特別な存在になりたい」という強い欲求とともに、周囲と比較したり劣等感を感じたりすることも。特に、親が子どもを否定的に評価したり、子どもの気持ちに無関心だったり、その逆に過保護・過干渉である場合、「自分は自分でいい」という健全な自我が育ちにくくなります。こうした子どもが困難に直面した際、心のよりどころを外部に求めることで、不安感から一時的に逃れることができます。しかし、その逃避先が「恋愛」や「理想の相手」だった場合、現実から目をそらし、内的な成長を妨げてしまう可能性があります。このような不安定な心理構造に加え、SNSのDMなどのやりとりがリマレンス的な思考をさらにあおります。例えば、既読になのに返信がなく「嫌われた?」と思い込み、強迫的な心理状態に陥ることも。このような状態になると、学校や家族よりも相手との関係が「人生の全て」になってしまいます。

親としてできること
 
ティーンの恋愛に干渉しすぎることは逆効果です。しかし、見守るだけでなく、現実への不安や恐れが「恋愛感情」にすり替わっていないか、子どもの心の動きを気にかけることは大切です。

1. 自己肯定感を育てる関わり方をする
子どもとの会話が親の意見やアドバイス中心になっていないか見直してみましょう。会話の8割は子どもの気持ちや意見を聞くことに費やし、子どもが「自分は大切な存在だ」と感じられる土台作りを。

2. 恋愛感情の健全さについて話し合う
「誰かを好きになること」は素晴らしいと肯定しつつ、「相手に執着して日々の生活がつらくなるなら、それは愛とは少し違うかもね」といった客観的な視点も伝えましょう。

3. SNSやスマホの使い方を一緒に考える
時間制限を設けるのではなく、なぜそれを見続けてしまうのかという不安な思いを否定せず、共感しながら聞いてあげましょう。

誰かを愛することは、人生の大きな喜びの一つです。でもその感情が、子どもの心のSOSのサインである場合もあります。親がリマレンスという概念を知っておくことで、子どもが恋愛依存に陥る前に気づき、優しく寄り添うことができるでしょう。思春期の子どもたちは、他者との関わりによって「自分は愛される存在だ」と知り、自分で自分を愛する方法を獲得していきます。だからこそ親は、子どもがいつでも戻れる心の安全基地となり、自らの足で世界へ踏み出し、主体的に人生を歩んでいけるよう、そっと支えてあげましょう。
 

参考文献
『Love and Limerence: The Experience Of Being In Love』(Dorothy Tenov著)

 

カサンドラ症候群とは? ASDとの関連と心のケア〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

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カサンドラ症候群とは? ASDとの関連と心のケア

「配偶者が子育てに協力してくれない」「気持ちを分かってくれない」といった経験はありませんか? 子育てには夫婦間の協力が不可欠ですが、パートナーと対話をすればするほど、相手にされなかったり逆ギレされたりする状況が続き、強い不安やストレスを感じているのであれば、それは「カサンドラ症候群」かもしれません。 

「カサンドラ症候群」とは、発達障害、特に「自閉スペクトラム症(ASD)」をもつパートナーとの関係において、自分の気持ちを理解してもらえず、精神的に孤立した状態を指します。国際的な診断基準に基づく正式な疾患名ではなく、2003年に心理学者により名付けられました。

ASDとカサンドラ症候群の関連 

ASDは、コミュニケーションの困難さや共感性の欠如、こだわりの強さなどを特徴とする発達障害です。人の気持ちが分からないので人が傷つくようなことを平気で言う、自分だけのルールに固執するなど、日常生活のあらゆる場面で問題が発生します。例えば、病気で寝ているのに「ご飯は?」と聞いてくる、就寝中なのに大きな音を立てる、自分は無駄な浪費を繰り返すのに相手には極端な倹約を強いたりするケースがあります。話し合いをしても平行線をたどることになり、パートナーは一方的に我慢するようになります。カサンドラ症候群の具体的な症状は以下の通りです。

• 不安、恐怖心、怒り、過覚醒:常に不安で警戒している状態
• 強い孤独感・絶望感:自分のつらさを誰にも理解してもらえないと感じる
• 抑うつ気分:自責の念や無価値感にとらわれて落ち込む
• 身体症状:不眠、食欲不振、頭痛やめまいなど自律神経の失調

子どものASDと配偶者のモラハラ 
 
子どもがASDと診断され、パートナーのモラハラ的な態度がASDの特性に起因していると気づくこともあります。ADHDには治療薬がありますが、ASDには特効薬がなく、根本的に治ることもありません。特に、社会的に成功している人は自分に問題があるとは思わないため治療は極めて困難です。さらに、ASDを持つパートナーの両親や兄弟も発達障害の傾向があり、非ASDのパートナーが一方的に責められる構図になりがちです。では、どうすれば自分の心を守ることができるのでしょうか。以下のような対処法を意識してみましょう。
 
カサンドラ症候群の対処法
❶ ASDの特性を理解する:
ASD当事者とパートナー双方がASDの特性について学び、双方の妥協点を見つけて具体的に書き出します。「パートナーが病気の場合、料理は自分で作る」「予定や要件はメールでやり取りする」「夜10時以降はヘッドホンを使う」など。トラブルが起こったらその都度、修正や改善策を模索します。

❷ 心理的境界線の構築:
周囲や友人から「問題のない夫婦なんかないわよ」「稼いでくれているだけでもいいじゃない」と言われ、一層落ち込んでしまう人もいます。精神的につらいときは、会話を一時中断し、自分の気持ちを優先してあげましょう。「自分の感じていることはおかしくない」と認めることが大切です。いったん落ち着いたら、「パートナーのせいで私は不幸だ」「この人が変わりさえすれば」といった相手にフォーカスする思考を少しずつ手放し、「自分が何をしたいか」に思考を移していきましょう。

❸ セルフケアと外部支援:
カウンセラーや家族の会、支援グループの掲示板などを活用し、横のつながりを強めて孤立感を軽減しましょう。「自分だけの時間」を確保し、思いっきり不満を吐き出せる場所を持つことで、客観的に自分の状況を把握できます。感情が適切に処理されると、パートナーと適度な距離を保てるようになります。

カサンドラ症候群は、責任感の強い人が陥りやすい心の危機です。あなたのつらさは「甘え」でも「わがまま」でもなく、その逆の「頑張り過ぎてない?」という心からのサインです。無理せず、あなた自身を大切にすることが、家族を守る一歩にもなります。まずは、「私は一人じゃない」と思える場所を見つけてください。そして、自分の心の声に耳を傾けてあげてくださいね。
 

子育てに生かす「動機づけの力」~マズローの欲求階層理論から学ぶ〜子どもとティーンのこころ育て

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子育てに生かす「動機づけの力」
~マズローの欲求階層理論から学ぶ

「うちの子、やりたいことがないんです」、「将来の夢が何もないのが心配で……」という悩みを持つ親は少なくありません。今回は、心理学者アブラハム・マズローの理論をもとに、やる気や動機がどこから生まれるのかを理解し、子どもの夢を見つけて応援する方法を紹介します。
 
マズローは、人間の基本的な欲求を5段階に分けた「欲求階層理論」を提唱しました。

①生理的欲求 (Physiological needs)

食事・睡眠・排泄など、生命を維持するための本能的な欲求。

②安全の欲求 (Safety needs)
心身の安全性や安定した生活など、安定した状態を保とうとする欲求。

③社会的欲求と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging needs)
「他者に受け入れられたい」という欲求。

④承認・尊重の欲求 (Esteem needs)
自分の価値を認められたいという欲求。自ら価値を認めたい「自己承認」と、他者から評価されたい「他者承認」の2つがあり、マズローは「他者承認」を求め続けることの危険性を指摘。

⑤自己実現の欲求 (Self-actualization needs)
自分の可能性を最大限に発揮し、充実した人生を送りたいという欲求。

「欠乏」からの動機か「成長」からの動機か

マズローは、「自己実現の欲求」以前の4段階の欲求を「欠乏欲求」と呼びました。これは、心の空白や欠乏感を埋めたいという欲求であり、「うつ ろな穴」と表現しています。不足感にさいなまれ、恐れや不安を感じている状態です。一方、「自己実現の欲求」は「成長欲求」と呼ばれ、自分の内側にある可能性を引き出したいという欲求です。自分の本当にやりたいことが明確で、結果や業績ではなく行動そのものに成長と喜びを感じます。例えば、「ゲームが好きだからプログラミングを学ぶ」、「Youtubeにハマって動画編集を始めた」などが挙げられます。
 
成長欲求に基づいて生きている人は、今この瞬間を楽しみながら成長し、困難に直面しても自分を信じて対処できます。逆に、欠乏欲求から行動している人は、社会的、経済的に恵まれていても、欲求不満や不安を感じて心身の不調に陥ることがあります。

自己実現型の人を育てる3つのステップ

子どもが自分のやりたいことや将来の夢を見つけ、自発的に行動するためには、成長欲求以前の4段階の欲求を満たすことが不可欠です。そのための3つのステップを紹介します。
 
① 生理的欲求・安全欲求・社会的欲求を満たす:子どもが安心感と愛情を十分に感じられるよう「今のあなたで十分だよ」と繰り返し伝え、長所・短所を含めてそのままを受け入れる。
 
② 承認欲求を満たす:子どもが「やってみたい」と思うことをサポートし、できた瞬間を一緒に喜び、結果よりも努力や成長を認める。
 
③ 失敗しても安心な空気をつくる:「失敗しても大丈夫」、「やってみてよかったね」と伝え、チャレンジする姿勢を応援する。
 
マズローは、当時の心理学が病理や障害に焦点を当てる中、創造性や喜びといった前向きな側面にフォーカスしました。そして、充実した内面世界を生きている人は、自己実現的人間だと気づいたのです。自己実現は必ずしも社会的な成功とは限らず、学業や職業に限定されたものでもありません。「理想的な母親になりたい」「趣味の分野で極めたい」といった、内側から湧き上がる望みであれば何でもいいのです。
 
世界が急速に変わりゆく中、子どもが幸せで充実した人生を生きられる確実な方法は、自己実現的人間に育てること。マズローは、自己実現的人間を「人類を最も愛し、かつ個人の特性(個人の特徴や属性、個性)を最も発達させた人」と表現しています。そして、自己実現を目指す人は日常とは異なる深い感動や幸福感を覚える「至高体験」を得ることができ、その体験の中で夢中になり自我を忘れるような「忘我ぼうが」の状態に至ることもあるとしています。自分の個性を突き詰めて探求すると、最終的には「自我を忘れる境地に至る」とは興味深いものです。親子ともに、心の底にある自分の望みを大事にし、最高の幸福と充実を感じる人生にしたいですね。
 
参考文献

▪️承認欲求に苦しまない方法 ~自分を認める「自己承認」のススメ 
https://soysource.net/lifestyle/children_teen_kokoro/kokorosodate-11222024 

 ▪️子どもが進んで宿題をするようになる~マズローの欲求5段階説~ 
https://soysource.net/lifestyle/children_teen_kokoro/how-to-motivate-your-child-to-study 

 

見逃しやすい子どものうつ病:早期発見と対処法〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

見逃しやすい子どものうつ病:
早期発見と対処法

「最近急に怒りっぽくなった」「朝起きれずに遅刻が増えた」。こうした変化に戸惑う親は少なくありません。これらは単なる成長の一環と思われがちですが、実はうつ病の兆候である可能性もあります。この記事では、子どものうつ病の兆候や原因、早期発見のポイント、そして親ができるサポートについて解説します。 

近年、子どものうつ病が増加傾向にあることが、さまざまな調査から明らかになっています。2021年のデータによると、12歳から17歳の青少年の約500万人(20.1パーセント)が少なくとも一度は重度のうつ病を経験しており、有病率は男性(11.5パーセント)よりも女性(29.2パーセント)の方が高くなっています。さらに、うつ病を抱える未成年のうち60パーセントが治療を受けていないのが現状です(記事末①、②参照)。また、2023年には、12歳から17歳の約20パーセントにあたる530万人以上がうつ病、不安、薬物使用障害、自殺願望など精神疾患の診断されたという報告もあり(記事末尾③参照)、子どもたちに適切なメンタルヘルス支援が届くことの重要性が浮き彫りになっています。

大人と異なる子どもの症状

子どものうつ病は、大人とは異なる形で現れることが多いため、見逃されやすく誤解されやすい傾向にあります。以下のような兆候が見られる場合、注意が必要です。

認知・感情の変化
•イライラや怒り:ささいなことで泣き叫ぶ。怒りっぽくなる。
•興味・関心の喪失:遊びや学校生活に興味を示さなくなる。成績が落ちる。
•罪悪感や無価値感:自分には価値がないと感じるようになる。

行動の変化
•食欲・睡眠の変化:食欲がなくなる。朝起きれなくなる。
•身体的な不調:頭痛や腹痛を訴えるが、医学的な原因が見つからない。
•退行:夜尿症。親にしがみつく。以前できていたことができなくなる。

子どものうつ病の原因 

うつ病は、強いストレスが続くことによって心と体が耐えきれなくなり、一時的に心身の機能が大きく低下する状態ともいえます。心理面では自己評価が下がり、否定的な感情が続くようになり、身体面では自律神経のバランスが崩れてさまざまな不調が現れます。 

原因となるストレスには、家庭や学校での問題、差別や貧困といった社会的要因に加え、ストレス耐性に関わる遺伝的な要素も含まれます。例えば、繊細で敏感な性格の子どもは同じ出来事でも不安やうつを発症しやすくなりますが、家庭や学校が温かく安心できる環境であれば、心が安定し健全な自己肯定感を育むことができます。一方で、ストレスに強い性格の子どもでも、親から過度なプレッシャーや否定的な言葉が続くと、うつ病を発症するリスクが高まります。つまり、環境的要因と遺伝的要因が相互に作用し、さまざまな要素が絡み合ってうつ病は引き起こされるのです。

親ができるサポート

子どものうつ病には、早期発見と適切な対応が重要です。親ができることを紹介します。

① オープンなコミュニケーションを心がける:
子どもが安心して気持ちを話せる環境をつくりましょう。親から見てささいなことでも、子どもにとっては一大事かもしれません。「子どもの言動は全て学びの機会」と見方を変え、話をよく聞くことが大切です。

② 専門家のサポートを活用する:
うつ病は発症してしまうと、回復に長い時間がかかります。少しでも疑わしいと感じたら、早めに専門家の診断と治療を受けることが重要です。

親自身のメンタルヘルスを整える:
親が精神的に安定していることが、子どもにとっても安心感につながります。必要であれば親自身もセラピーを受け、ストレス管理や感情を安定させる方法を身に付けましょう。

ストレス対処法を教える:
困難に直面したとき、どうやって感情を整理し、ストレスに対応するかの具体的な方法を教えることが大切です。深呼吸やリラクゼーション法を取り入れたり、問題解決を一緒に考えたりする習慣をつけましょう。

子どものうつ病が増加しているという現実は、個人だけの問題ではなく、社会全体の在り方が影響を及ぼした結果ともいえます。「早く良くなってほしい」という気持ちは当然ですが、家庭や社会の在り方を見直す機会と捉えてはいかがでしょうか。回復には時間がかかるもの。焦らず、子どもの小さな変化や成長に目を向け、じっくりと寄り添いながら支えていく姿勢を持ちましょう。

1) Major Depression
www.nimh.nih.gov/health/statistics/major-depression?utm_source=chatgpt.com

2) The State of Pediatric Mental Health in America 2023 Report www.officepracticum.com/blog/the-state-of-pediatric-mental-health-in-america-2023-report/?utm_source=chatgpt.com

3)Depression rates rising in preteens. Mental fitness tools can help.
www.ama-assn.org/delivering-care/population-care/depression-rates-rising-preteens-mental-fitness-tools-can-help?utm_source=chatgpt.com


ティーンの自己肯定感を高める方法 〜ふたつの自己肯定感とは?〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

ティーンの自己肯定感を高める方法 
〜ふたつの自己肯定感とは?〜

自己肯定感が高い人は、目標達成に向けて積極的に行動し、仕事や生活の満足度、さらには全体的な幸福感が高いことが数々の研究で明らかになっています。自己肯定感とは何か、また子どもの自己肯定感を高めるためにどうすればよいかについて解説します。

ふたつの自己肯定感

自己肯定感とは、自分自身をどのように評価し、受け入れるかという主観的な感情です。個人の経験や信念といった「内部要因」と、家族や社会の評価などの「外部要因」が複雑に絡み合い、常に変動する動的な概念です。

自己肯定感は「全体的」なものと「条件付き」のものに分けられます。「全体的」な自己肯定感とは、特定分野や技能に限定されず、「自分そのもの」を認める感情です。いわゆる「自己肯定感が高い人」は、自分の長所も短所もひっくるめて「私はこれでいい」と思える人です。このような人は、自分にうそをつく必要がないため、難しい目標にも迷いなく挑戦し、成功しやすくなります。

一方、「条件付き」自己肯定感は、学力や運動能力、外見など特定分野での優劣を評価する感情です。「パフォーマンス・ベース」の自己肯定感とも呼ばれ、うまくいっているときは優越感を抱きますが、失敗すると劣等感を感じたり落ち込んだりします。これにより、失敗を恐れて挑戦を避けたり、過度に完璧主義に陥ったりすることがあります。一方で、劣っていると思う他者を見下すことで自分を保とうとすることもあり、感情が状況に左右されやすくなります。

SNSの与える多大な影響

現代のティーンは、他人の楽しそうなイメージが次々と投稿されるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にどっぷりと浸かり、「条件付き」自己肯定感が刺激されやすい環境にいます。米国の調査によると、13歳の女子の50パーセントが自分の体に不満を持ち、17歳になるとその割合は80パーセントに達します。整形手術を考えるティーンも増加しており、SNSの使用頻度が高いほど、心の健康が損なわれるとの報告もあります。SNS上では、自分の良い部分のみを見せ合う関係が生まれやすく、結果として表面的なつながりが増えます。そのため、本当の自分を見せられない孤独感からさらに「いいね」の数を求める悪循環に陥るリスクが高まります。

子どもの自己肯定感を高める具体的な方法

1.そのままの子どもを受け入れる

子どもの良い部分のみを認めても「全体的」な自己肯定感は育ちません。親が良かれと思って細かく指摘し続けると、子どもは「今のままの自分じゃダメ」と思い込んでしまいます。子どもの欠点を認め、「今のままのあなたで十分」「成績が良くても悪くても、あなたが大好き」と繰り返し伝えましょう。生きているだけでその子には価値があります。子どもの気持ちを受け止め、声を聞いてあげましょう。子どもにダメ出しをしたくなるときは、まずは自分自身の欠点や否定的な感情を受け入れることから始めてみてください。

2.子どもの良いところを30個リストアップ

子どもの存在そのものを認めたうえで、「頑張り屋」「きれい好き」など努力や好ましい特徴を30個リストアップし、本人に伝えましょう。そうすることで、子どもは自分の個性を認識し、自分はできるという自信につながります。結果として、自然とやる気が生まれ、将来の夢や目標に向かって行動する可能性が高まります。

3. SNSの使い方を見直す

現在の生活を見直し、親子で「デジタル・デトックス」に挑戦してみるのも効果的です。SNSを見ない日を作り、バランスの取れた食事や十分な睡眠を心がけ、信頼できる友人と会ったり趣味に没頭したりと、自分自身とのより深い関係を築く習慣を促します。

社会が目まぐるしく変貌を遂げる中、流されずに自分らしく生きていくためには、自分の欠点も受け入れる健全な自己肯定感が不可欠です。絵本作家ドクター・スースの言葉「際立つように生まれついたのに、なぜ周りに合わせようとするの?」のように、子どもは皆、それぞれに素晴らしい個性を持っています。それをそのまま認め、子どもが自分自身の個性を大切にする心を育てられるといいですね。
 

イネイブラーから脱却するために:自立を促す健全な関係の作り方〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

イネイブラーから脱却するために:
自立を促す健全な関係の作り方

親は子どもの幸せを願い、できる限りのサポートをしたいと考えるものです。しかし、そのサポートが行き過ぎるとかえって子どもの成長を妨げることになりかねません。今回は、「イネイブラー」という概念に焦点を当て、健全な親子関係を築き、子どもの自立を促す方法を紹介します。

イネイブラーとは?あなたの愛が裏目に出る理由

「イネイブラー(Enabler)」とは、他者の問題行動を無意識に助長してしまう人を指します。特に親子関係においては、親が子どもを過度に甘やかしたり、困難から守りすぎたりすることで、子どもが自立する機会を奪ってしまうことがあります。 

親が「子どものため」と思って代わりにやってあげる行動が、かえって子どもの依存心を強め、自分で課題に向き合い乗り越える力を養うチャンスを奪うことになります。例えば、子どもが宿題を忘れたときに親が先生へ謝る、子どもの友人関係のトラブルに親が介入するといった行為が挙げられます。一見親切に見えるこれらの行動は、子どもに「自分で考え、行動する力は不要」というメッセージを与えてしまいます。


自立を促すためにできること

❶ 子どもに失敗する機会を与える:子どもが自立するためには、小さな失敗を経験し、それを乗り越える力を育むことが大切です。親が先回りして解決してしまうと、子どもは自分で考える力を養えません。失敗したときには、「どうすればいいと思う?」と問いかけ、自分で答えを見つけるサポートをしましょう。これにより、子どもは問題解決能力を身に付け、困難を乗り越えられるようになります。

❷ サポートは必要なときだけに:サポートをすること自体は悪いことではありません。ただし、そのタイミングが重要です。子どもが自力で解決しようとしている最中に介入するのではなく、本当に助けが必要な場面で手を差し伸べるよう心がけましょう。このバランスを取ることで、子どもは自分で解決する力を磨きつつ、必要に応じて助けを求める柔軟性も身に付けられます。

❸ 小さな責任を持たせる:家庭内で子どもに小さな役割を任せることも効果的です。例えば、食後の片付けやペットの世話など、自分の行動が役に立っていると実感することで、自己肯定感が高まります。お手伝いを嫌がる子には、まずは話を聞いてあげて気持ちを整理できるようサポートしましょう。嫌な気持ちをコントロールして物事を遂行する能力は、社会で自立して生きていくために欠かせません。


親としての役割を再定義する

イネイブラーから脱却するためには、親自身の意識を変えることが不可欠です。「何でも助ける人」から「見守り支える人」へと役割をシフトすることで、子どもの自立を促す環境を整えられます。親としての役割を再定義するポイントを以下に挙げます。

1.子どもの人生は子ども自身のもの
親は子どもの幸せを願うあまり、ついコントロールしたくなることがあります。しかし、子どもの人生は子ども自身のものです。「親の役割は子どもの人生を導くことではなく、見守り支えること」と意識することで、健全な距離感を保ちやすくなります。

2.子どものペースを尊重する
親はときに「もっと早く成長してほしい」「もっとこうしてほしい」と焦ることがありますが、子どもにはそれぞれのペースがあります。焦らず見守り、その成長を信じてあげることが大切です。

3.親自身も自立を目指す
親は子どもの幸せを願うあまり、ついコントロールしたくなることがあります。しかし、子どもの人生は子ども自身のものです。「親の役割は子どもの人生を導くことではなく、見守り支えること」と意識することで、健全な距離感を保ちやすくなります。

親が子どもを愛するがゆえにとっている行動が、ときに子どもの成長を妨げる「イネイブラー」になると知っているだけでも大きな違いがあります。親が自身の役割を「見守る人」として再定義し、子どもに失敗する機会を与え、小さな責任を持たせることで、子どもは自立した人生を歩む力を身に付けていきます。そして、親自身も子どもから自立して、互いに自分の人生を楽しめるような親子関係になるといいですね。
 

うちの子は大丈夫? ADHDとトラウマの関連性とグレーゾーンの支援方法〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

うちの子は大丈夫? ADHDとトラウマの関連性と
グレーゾーンの支援方法

子どもの言動に「これってADHDかも?」と悩んだことはありませんか? ADHD(注意欠如・多動症)は遺伝的要因や脳の働きの違いに起因する神経発達症ですが、近年ではトラウマとの関連性も指摘されています。本記事では、ADHDとトラウマに関する最新の研究を紹介するとともに、発達障害「グレーゾーン」の子どもへの具体的な育て方や支援方法をわかりやすく解説します。

ADHDとトラウマの意外なつながり

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の報告によれば、2022年時点でアメリカの3歳から17歳の子どもの約11.4パーセント*(1)がADHDと診断されています。また、離婚や家庭内暴力(DV)、親の死、家族の精神疾患などのトラウマを経験した子どもは、ADHDと診断される可能性が2.5倍高いことがわかっており、トラウマとADHDの間には顕著な関連性が示唆されています。*(2)

トラウマは脳に影響を与え、特に集中力や衝動抑制をつかさどる前頭前野の働きを低下させます。その結果、不注意や多動などADHDに似た行動が現れることがあります。ただし、これらの行動はトラウマによる反応であって、必ずしもADHDそのものではありません。

ADHDとトラウマの違い

1)症状の一貫性:ADHDの場合、家庭でも学校でも一貫して同じ行動特性が見られます。一方、トラウマが原因の場合は家庭や学校など特定の環境やストレス要因によって症状が現れます。

2)原因と背景:ADHDは遺伝的要因が約70パーセントから80パーセントと言われています。一方、トラウマは経験や環境による影響が大きく、幼少期にDVを経験した子どもは、注意力の低下や過敏な反応を示す確率が高いとされています。

グレーゾーンの子どもたちの育て方

ADHDとトラウマの診断基準に完全には該当しないものの、注意力や行動に課題が見られる子どもは「グレーゾーン」と呼ばれます。こうしたの子どもたちは適切な支援を受けられないことが多く、親子ともに不安感や疎外感を感じるケースが少なくありません。しかし、家庭や学校での対応や工夫次第で状況の改善が可能です。以下に具体的な育て方と支援方法を紹介します。

1 子どもの特性を理解する
グレーゾーンの子どもには、集中力が続きにくい、指示を忘れがち、感情の起伏が激しいといった特徴があります。まずは、どのような場面で課題が生じるのかを観察し、原因を特定しましょう。親だけでなく、学校の先生や専門家と情報を共有することで、より正確な理解が得られます

2 環境を整える
子どもが集中しやすく安心できる環境を作りましょう。
•スケジュールの視覚化:タスクや予定を視覚的に示すカレンダーやチェックリストを活用する。
•静かな学習環境:音や光などの刺激を減らす工夫をする。
•リラックススペースの設置:落ち着ける場所を用意する。

3 小さな成功体験を積む
小さな目標を設定し、それを達成したときに褒めることで自信を育てます。例えば「今日は10分間宿題に集中できたね」と具体的な行動を褒めると、子どもは達成感を得やすくなります。

4 コミュニケーションの工夫
子どもにとってわかりやすい指示を心がけましょう。
•短く具体的な言葉で伝える:「片付けて」ではなく「机の上の本を本棚にしまおう」と具体的に伝える。
•感情を言葉にさせる:「怒ってるように見えるけど、何があったか教えて」と声をかけ、気持ちを言葉で表現するよう促すことで、子ども自身が自分の感情を理解をしやすくなります。

5 専門家のサポートを活用する
発達障害グレーゾーンの子どもに特化した支援プログラムやカウンセリングを利用し、具体的なアドバイスや訓練プログラムを受けることも有効です。

子どもの「困った行動」に日々直面している親にとって、「どうしてうちの子だけ……」と孤独に感じる瞬間は少なくないかもしれません。何度試してもうまくいかず、自分の力不足を感じることもあるでしょう。しかし「完璧な親」である必要はありません。子どもの可能性を信じて一歩ずつ取り組む姿勢が大切です。一人で悩まず、周囲の支援を活用しながら、子どもと一緒に学んでいきましょう。
 
参照:

▪️約11.4パーセントがADHDと診断されています(1) 
www.mdpi.com/1648-9144/58/2/224 

 ▪️トラウマとADHDの間には顕著な関連性が示唆されています(2) 
www.hindawi.com/journals/jdr/2020/8843310 

参考記事 

(1)Data and Statistics on ADHD 
https://www.cdc.gov/adhd/data/index.html?utm_source=chatgpt.com 

 (2)Study Examines Link Between Toxic Stress and ADHD in Kids 
https://spectrumnews1.com/oh/cincinnati/health-and-medicine/2017/02/1/study-examines-link-between-toxic-stress-and-adhd-in-kids?utm_source=chatgpt.com 

 

子どもの「心の強さ」を育む ~幸せな人生を送るためには~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

子どもの「心の強さ」を育む 
~幸せな人生を送るためには~

幸せな人生とは、どんなものでしょうか? 不幸な出来事が一切起こらず、次から次へと幸運が舞い込む人生でしょうか? あるいは、経済的な豊かさや高度な身体能力、または芸術的才能に恵まれた人生でしょうか。しかし、周囲を見渡してみると、そうした条件を持たない人でも幸せに暮らしていることに気づきます。一方で、条件に恵まれているにもかかわらず不満を抱えた人もいます。この違いはどこから生まれるのでしょうか。 

幸せに生きる人に共通するのは、困難に直面しても諦めず、前向きに立ち向かう「心の強さ」を持ち合わせていることかもしれません。「心の強さ」は、私たちの「ものの見方」に深く関係しています。認知行動療法では、私たちが日頃考えている思考の基盤となる価値観や信念を「中核的信念(core belief)」と呼び、以下の3つに分類しています。

自己像 : 自分をどう捉えるか
世界観 : 他者や社会をどう見るか
将来像 : 自分の未来についてどう考えるか 

心が折れやすい人は、これらの信念が悲観的な傾向にあります。例えば、「自分は人に好かれない」「世の中は不公平だ」「未来には希望がない」といった否定的な思考です。このような信念が心の強さを損ない、困難を乗り越える力を奪います。

否定的な信念が及ぼす影響

1. 自己像 心が折れやすい人は、自分について厳しく否定的な見方をしがちです。例えば、「自分は失敗ばかり」「完璧でなければ価値がない」といった考えが典型です。こうした否定的な思考は、失敗の経験を過度に重く受け止め、次の挑戦への意欲を削いでしまいます。

2. 世界観 
他者や社会への見方が悲観的である場合、被害者意識が強まりやすくなります。「自分が不幸なのは他人のせい」「世の中は冷酷だ」と考えると、孤立感が強まり、他者との良好な関係を築くのが難しくなります。

3. 将来像 
未来への希望を持てない場合、「どうせ努力しても無駄」「歳を取るごとに価値が下がる」といった考えが生まれます。その結果、現状に不満を感じつつも変化を恐れ、停滞した状態に陥ります。

否定的な信念を変える方法:リフレーミング

心の強さを育むには、これらの悲観的な信念を手放し、より客観的で前向きな視点を持つことが必要です。その手法の一つが「リフレーミング(Reframing)」です。リフレーミングとは、視点を変えて悩みや問題を新しい枠組みから捉え直し、建設的な解決策を見つける方法です。

リフレーミングの例:

「自分は人に好かれない」→「苦手な人もいるが、多くの人と良好な関係を築いている」

「完璧でなければ価値がない」→「完璧でないからこそ人間らしく魅力的だ」

「成功しないと幸せになれない」→「成功していなくても幸せな人はたくさんいる」
 
こうした新しい考え方の枠組みを取り入れることで、現実をより柔軟に捉えられるようになります。

リフレーミングを日常に取り入れる 

リフレーミングをして考え方を変えた後は、その新しい考え方を行動に移しましょう。例えば、苦手な人について悩んでいることに気づいたら、その逆に自分の大好きな人に日頃の感謝の気持ちを伝えてみましょう。また、自分を他人と比較していることに気づいたら「自分と他人は別。比較する相手は昨日の自分のみ」と言い聞かせましょう。リフレーミングを実践していくと、自分がコントロールできるのは「自分の思考・感情・行動」のみということに気づき、他人と健全な境界線を引けるようになるでしょう。

人生に内在する不公平を受け入れる 

誰の人生にも、不幸や理不尽な出来事は必ず起こります。しかし、それらを嘆く代わりに、自分を成長させるチャンスだとリフレーミングすれば、自ずと望みや解決策にフォーカスできるでしょう。自分にできる行動を粛々と積み重ねていけば、自分への信頼や自信、また他者への感謝を感じる機会が増えるはずです。このようにして、自分の人生に意義を見出して丁寧に生きる人こそ、精神的に自立した人といえるでしょう。 

子どもが未来に希望を持ち、自立してより幸せな人生を歩む力を養うきっかけとして、親子で「心の強さ」を育むためにリフレーミングを実践してみませんか?


 

承認欲求に苦しまない方法 ~自分を認める「自己承認」のススメ~子どもとティーンのこころ育て

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アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

承認欲求に苦しまない方法
~自分を認める「自己承認」のススメ~

インスタグラムなどのSNSで「いいね」やコメントがたくさんつくとうれしいものですね。しかし、自分を認めてほしいという承認欲求が強すぎて、他人の評価に一喜一憂するようになると、逆に生きづらくなります。大人でもSNSから離れられない人が多い昨今、子どもたちが承認欲求の罠にはまって自分を見失わないために、親としてできることを探りました。

承認欲求とは、自分の価値を認められたいという自我の欲求です。アメリカの心理学者アブラハム・マズローは人間の欲求を5段階に分け、その4つ目に「承認の欲求」を位置づけています(注)。

承認欲求は、他者から認められたり尊重されたいという「他者承認」と、自分で自分の価値を認める「自己承認」の2つに分けられます。他者承認は、子どもが親に褒められたい、友人に受け入れられたいといった成長過程で生まれてくる自然な欲求です。他者から認められることで、次第に自分を認める自己承認の力が育っていきます。最終的には、人の意見も尊重しつつ、自分で物事を決定できる自立した大人になることが理想です。

しかし、幼少期から親や先生に否定され続けたり、思春期の多感な時期に友人からのいじめに遭ったりして「自分が嫌われている」と感じる体験が多いと、自分を受け入れる気持ちがなかなか育めません。こうした場合、他者承認への依存が強まり、他人の評価に左右されやすくなることがあります。以下の特徴を持つ人は、他者承認の欲求が強いといえるでしょう。

1)強い劣等感:人と自分を常に比較し、人の目を気にして失敗を恐れチャレンジを避ける

2)八方美人:自分の意見を隠して人に話を合わせ、気に入られようとする

3)強い自己顕示欲:自慢話や自分の話ばかりをし、人からの称賛を求める

4)情緒不安定:感情の起伏が激しかったり、逆に感情を極端に抑え込む

5)過干渉:自分の不安感を軽減するため、人に細かく指図して操作しようとする 

これらの特徴を持つ人には、「自分軸」ではなく「他人軸」で生きているという共通点があります。人からの評価に自己価値を委ねてしまい、相手の言動に振り回されることになるのです。社会的に成功している人でも「本当の自分を見せたら否定されるのでは」と思い込み、空虚感や孤独感を感じつつも周囲から期待される自己像を演じ続けている人が大勢います。過干渉な親のもとで育った子どももまた、常にダメ出しをされるので、自分を受け入れることが難しくなり、他者承認に依存しがちな大人になることがあります。 

他者からの評価に依存するのではなく、自分で自分を認める「自己承認」の力を身に付けることで、自由に生きられるようになります。自己承認とは「自分の長所も短所も含めて認めてあげること」です。しかし、多くの人にとって「自分の短所なんて認めたくない」と感じるのも事実。そこで、短所や失敗を認めるための具体的なステップをご紹介します。

1)感情を認める:自分の短所や失敗を考えた時に感じる嫌な感情に気づきます。否定的に捉えることはせずにただ観察し、感情がそこにあるという事実を認めます(例)心配性が自分の欠点と思っている場合、「私は不安を感じている」など自分の気持ちに気づきそれを認める

2)許す:
時間をかけて体の感覚を感じ、気持ちが落ち着くまで感じ切ります(例)「胸の辺りがモヤモヤする」「今この瞬間、この気持ちを感じても大丈夫」「嫌な気持ちだけど一生続く訳ではない」など語りかけ、落ち着くまで気持ちを感じる

3)理解:
なぜその気持ちになったのか、優しい視点から自分を理解してあげます(例)「将来を考えて不安になった。こどもや配偶者に不満をぶつけるより、自分にできることを書き出してみよう」など語りかけ、自分の気持ちに寄り添う

嫌な気持ちを感じ切って平常心に戻ると、最初は難しいかもしれませんが、次第に考え方が前向きに変わっていきます。自分の欠点や嫌な気持ちを認められるようになれば、子どもに対しても同じように優しい視点で子どもの欠点を受け入れることができるでしょう。それが子どもの自己承認の力を育てる一番の近道になります。親子共に、長所も短所も全てひっくるめた存在そのものを互いに認め合えるようになるといいですね。
(注)マズローの欲求5段階説:ピラミッド状の階層を成し、上に行くほど高次の欲求になる
  5)自己実現の欲求 (Self-actualization)
  4)承認の欲求 (Esteem)
  3)社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging)
  2)安全の欲求 (Safety needs)
  1)生理的欲求 (Physiological needs) 

思春期の問題行動の原因 ~そのとき、親に何ができるのか~子どもとティーンのこころ育て

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思春期の問題行動の原因 
~そのとき、親に何ができるのか~

思春期に入ると子どもが急に反抗的になり、親としては苛立ちや戸惑い、そして不安を感じることが多いでしょう。食事中もスマホから目を離さず、家の手伝いをしない。未提出の宿題が増え、成績も下がる。親子の間で喧嘩に発展するケースも珍しくありません。心身ともに急成長する多感な時期とはいえ、やり切れない気持ちになりますよね。今回は、思春期の子どもの問題行動の原因と、子どもと良好な関係を築くために何ができるかを探ってみました。 

10代という時期は、脳の司令塔である「前頭前野」が活発に機能し始める時期。自我が発達し、自分の意思で物事を決めようとするため、親との対立が避けられないことが多くなります。ある程度自分にできることとできないことの境界線が形成されると落ち着きますが、長期にわたり問題行動が続く場合は何らかの重大な原因があると考えた方がよいでしょう。原因を探ることをせずに、親が焦って表面の問題行動のみを正そうとすると、子どもは感情を押し殺すか、逆に爆発させて親子関係が悪化する可能性があります。問題行動の背景を理解し、解決に向けて支援することが不可欠です。

主な問題行動の原因

❶ 人間関係:友人や恋愛関係での悩み、学校や習いごとの先生とのトラブルなどで孤独感や疎外感を感じている

 いじめ・性的搾取・トラウマ:仲間外れにされたり、侮辱されたり、身体的暴力、いじめや性被害にあっている、トラウマ的な経験をした

 劣等感:学業やスポーツで成功しないと自分には価値がないと思い込み、他者と自分を比較して劣等感や過度のプレッシャーに苦しんでいる

 過干渉・過保護・無関心な子育て:親があれこれ口出ししたり、何でもやってあげることで反抗心や依存心が強まる。親が無関心な場合は、関心を引くために試し行動を繰り返す。

 家庭内の不和や精神疾患:夫婦喧嘩や引きこもり、精神疾患の家族により、怒りや不安、無力感を感じている

❻ 発達障害・学習障害:未診断・未治療の発達障害や学習障害が原因で、授業に集中できず、勉強についていけないことへの強いストレスや不満、怒りを感じている。 

こうした状態を放置しておくと、うつ病や不安障害、反抗挑戦性障害 (ODD) などの精神疾患を発症するリスクが高まります。 

それでは、事態を悪化させないために親にできることは何でしょうか? それは、子どもの気持ちをそのまま受け止め、「自分はこの世界に存在していいんだ」という安心感を育てることです。子どもは不安を感じると攻撃的または閉鎖的になることがありますが、安心感があれば心を開き、自発的に行動できるようになります。 

子どもの気持ちを受け止める準備として、まずはあなた自身の気持ちを否定せずに受け止める練習をしましょう。「不登校や引きこもりになったらどうしよう」「お酒やドラッグに手を染めないか心配」「夫が話を聞いてくれない」など思いつくままノートに書き出します。次に「子どもと笑ってご飯を食べたい」「穏やかに話したい」など、こうありたいという望みを書き出します。そして、自分にできることを書き出してみましょう。例えば「子どもの長所を毎日3つ伝える」などです。また、自分の思春期を振り返り、当時親にしてほしかったことやされて嫌だったことなどを書き出し、過去の自分の本音も受け止めてあげましょう。もしかしたら、思春期の頃のあなたと子どもとの共通点を発見するかもしれません。 

次に、子どもの表情やしぐさをよく観察してください。例えば、元気がないことに気づいたら「ちょっと疲れてる? 何かしてほしいことがあれば教えてね」と優しく聞いてみましょう。子どもが何も答えなかったとしても、親が気にかけていることは伝わります。問題行動を取る子どもほど、実は誰かの助けを求めています。急には変わらないかもしれませんが、本当に困った時に思い出すのは自分を信じて受け入れてくれる人です。今のままの子どもで100点満点というスタンスで、子どもが自立する力を信じてあげましょう。


 
 

 

嫌な気持ちは体に蓄積する!? ~神経系をコントロールする「ソマティック」の活用~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

嫌な気持ちは体に蓄積する!? 
~神経系をコントロールする
「ソマティック」の活用~

つい子どもに怒鳴ってしまう、パートナーの言動に怒りが収まらない、友人から言われた嫌な言葉を頭の中で繰り返してしまうなど、「頭ではわかっているけど止められない」経験はありませんか? 過剰反応してしまう場合、それは頭だけの問題ではなく、過去の体験が体に蓄積されて心と体を支配し、自律神経系が暴走している状態かもしれません。

生物学者であり心理学者でもあるピーター・A・リヴァイン博士によると、恐怖体験などのトラウマが原因で、危険が過ぎ去った後も体の奥に緊張が深く刻み込まれ、突然同じような感覚がよみがえったり、筋肉の硬直や痛みといった身体的な症状が現れることがあるされています。体に蓄積された緊張のエネルギーを解放するためには、認知を変える「トップダウン」のアプローチではなく、体に直接働きかけて神経系を落ち着かせる「ボトムアップ」のアプローチが効果的とされています。

身体感覚を通じて心の回復を目指す療法は、ギリシャ語の体を意味する「ソマ(soma)」に由来し、「ソマティック療法」と呼ばれています。ソマティック療法にはさまざまなアプローチがありますが、その中でもリヴァイン博士が1970年代から提唱している「ソマティック・エクスペリエンシング(SE™)」は、動物行動学や神経生理学、心理学などを統合し、「体の中に残った未処理の生理現象を完了させる」ことで心身の健康を回復する体系的なメソッドです。

博士は、動物は危険を回避した後に体を大きく震わせてエネルギーを放出し、体の緊張を解いて通常モードに戻ることに気づきました。一方、人間の場合、虐待やいじめなどの長期にわたる緊張状態から逃れることができないと、自然な回復が抑制されてしまうと考えました。今回は、体に閉じ込められた負の感情を解放するセルフヘルプの方法を紹介します。


1)安全基地:
心地よい場所や安心できる人物を思い浮かべ、体の感覚に集中します。親からの愛情をあまり感じられなかった場合でも、誰かに褒められた記憶や友人と笑い合った記憶、猫や犬と触れ合った楽しい経験などはあるでしょう。少しでもほっとした気持ちを感じられたら大丈夫です。「胸が温かい」「力が抜ける」といった体の感覚をゆっくりと味わいましょう。

2)嫌な感情の受容:
安全基地を十分に感じられるようになったら、次は嫌な感情を受け入れる練習をします。怒りや恐れ、無力感などの感情を否定したり押し殺したりすると、体に蓄積されてしまい、コントロールできないほど膨れ上がってしまいます。まずは、嫌な思い出の端っこにほんの少し触れるイメージをして、不快な感覚があれば、それをそのまま受け入れてみましょう。強烈な感情に押しつぶされそうになったら、安全基地に戻り、ほっとした体の感覚に戻ります。こうして負の感情を少しずつ受容することで、体の奥にたまった感情が解放されていきます。

3)ペンデュレーション(振り子):
1)と2)の相反する2つの体の感覚を、振り子のように行ったり来たりしてみましょう。感情を外に出せば出すほど心身が落ち着き、次第にリラックスした状態が長く続くようになります。このリラックス状態を「耐性領域」と言い、落ち着いて人と関わったり、ストレスに対処したりできる状態です。一方、怒りに任せて衝動的な行動を取ったり、頭が真っ白になったりする状態は、耐性領域を超えた過覚醒、低覚醒の状態。ペンデュレーションを繰り返すことで耐性領域が広がり、感情を爆発させたり、まひさせたりすることが少なくなっていきます。


焦らずに、少しずつゆっくりと進めることが大切です。「やってみたい」と思っただけで、すでに体が少し軽く感じるかもしれません。こうしたかすかな体感をじっくり味わうことで、感情の動きに敏感になり、安全基地の体感を呼び起こして、徐々に耐性領域にとどまることができるようになります。体の声に耳を傾けて、親子でお互いに心地よい感覚でいられる時間を増やしたいものですね。

 

参考文献

 

Waking the Tiger: Healing Trauma Paperback by Peter A. Levine 
Trauma and Memory: Brain and Body in a Search for the Living Past by Peter A. Levine 

 

「成功=幸せ」とは限らない?~子どもが将来ミッドライフ・クライシスに陥らないために~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

「成功=幸せ」とは限らない? 
~子どもが将来ミッドライフ・クライシスに
陥らないために~

社会的に成功し幸せな家族を築いているように見える人でも、実は心の中では満たされない思いや空虚感にとらわれている場合が少なくありません。彼らは知らず知らずのうちに「中年の危機(ミッドライフ・クライシス)」に陥っているのかもしれません。中年の危機とは何か、なぜ起きるのか、そして成長した子どもがそのような状況に陥らないために、親は何ができるのかを探ってみましょう。 

「中年の危機」とは、40~60歳前後にかけて経験する心理的危機で、1965年にカナダの心理学者エリオット・ ジャックス氏により発表された研究報告「死と中年の危機」で世に知られるようになりました。中年期は、人生の折り返し地点で心身が衰える一方、仕事の重圧や子育てのストレス、ローン返済や学費の支払いなど、人生で最も責任や悩みを抱える時期です。親や近しい人の病気や死を経験し、自分の死を意識し始めるのもこの頃。「このまま人生が終わってしまうのでは」という強い焦りや後悔の念を抱き、男性の場合は若い頃に憧れたスポーツカーを買い、家族を顧みず若い女性と浮気をするのが典型例。女性も閉経に伴う更年期障害、子どもが巣立った後の「空の巣症候群」、老化による見た目の変化などで気分が落ち込み虚無感に襲われることがあります。 

大多数の人が中年の危機に陥る可能性があると思われがちですが、MIDUS(中年期に関する全米初の全国調査) によると、中年の危機を経験する人は全体の10~20%に過ぎないと報告されています。研究によると、中年の危機に陥りやすい人にはある共通の性格的特徴があるとのこと。それは、不安やうつ病を発症しやすいとも言われる神経症傾向であり、具体的には以下の6つが挙げられます。

激情的:物事が思い通りに進まないとすぐ怒る。
心配性:起こってもいない事をあれこれ心配する。
悲観的:物事を悪い方に解釈し、根に持ちやすい。
快楽的:欲求やその場の状況に流されやすい。
自意識過剰:他人の目や世間体を気にし、敏感に反応する。
低ストレス耐性:予期せぬ事態や失敗を恐れて過度に緊張する。

子どもが神経症傾向になるのを回避するために、親にできることは何でしょうか。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の神経心理学のアラン・ショア博士によると、幼少期から怒鳴られて育った子どもは危険を察知する脳の部位である扁へんとう桃体が敏感になり、神経症傾向が強まるそうです。子どもを大声で叱っている人はなるべく声を抑えることから始めましょう。もし怒りを抑制できない場合は、自身の激情的な傾向を認め、自分を変えることから始めましょう。子どもと適切な距離を置き、怒りの制御は自分の課題と言い聞かせましょう。 

子どもに「もっと頑張って」、「あなたのためよ」と親の期待や価値観を押し付ける過干渉は、子どもが失敗を極度に恐れる完璧主義、もしくは無気力で引きこもりがちになるリスクを高めます。また、必要以上に保護して失敗しないように先回りする過保護な親も、子どもを物事が思い通りに進まないとすぐ怒る激情的で自己中心的な性格にする傾向にあります。過干渉や過保護は親の支配欲や不安感の表れであると理解し、セルフヘルプ本や本コラムの過去記事(2020年5月15日号の「不安な気持ちを減らす方法」)などを参考にして不安感を減らしましょう。親が子どもの自主性を尊重して本人に任せれば任せるほど、子どもは自分の感情をコントロールできる自律的な大人へと成長していくでしょう。 

神経症傾向の遺伝率は40~60%とされており、遺伝と環境の相互作用により形成されます。自分の性格は親の影響を受けていることに気づき、まずは自分が親から受け取った負の遺産をなくすことから始めましょう。新しい目標や夢の実現に向けて行動したり、変化を受け入れ、柔軟で楽観的なものの見方を取り入れたり、交友関係を広げたり、自分の本当にしたいことを始めましょう。

人生で一番苦労の多い中年期に親が輝いて人生を楽しんでいると、子どもも同じように「中年になっても人生は楽しい」という確信が深まり、楽観思考に変わっていきます。まずは自分が変わり、親子ともに中年の危機をチャンスに変えて大きく成長していけるといいですね。



 
 
参考文献・記事

 

▪️第1パラグラフ:「死と中年の危機(ミッドライフ・クライシス)」
Death and the Mid-Life Crisis By Elliott Jaques 
https://pep-web.org/browse/document/IJP.046.0502A 

▪️第3パラグラフ:MIDUS(中年期に関する全米初の全国調査)
Midlife as a Pivotal Period in the Life Course: Balancing Growth and Decline at the Crossroads of Youth and Old Age 
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4286887/ 

▪️第4パラグラフ:神経症傾向が強まるそうです
THE EFFECTS OF EARLY RELATIONAL TRAUMA ON RIGHT BRAIN DEVELOPMENT, AFFECT REGULATION, AND INFANT MENTAL HEALTH (Page19) By ALLAN N. SCHORE 
www.allanschore.com/pdf/SchoreIMHJTrauma01.pdf 

▪️参考記事
不安な気持ちを減らす方法 ~認知の歪みに気付こう~ 
https://soysource.net/lifestyle/children_teen_kokoro/children-teen-kokoro-32/ 

子どもとちゃんと会話できていますか? ~大切な親子のコミュニケーション術~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

子どもとちゃんと会話できていますか? 
~大切な親子のコミュニケーション術

ゆっくり過ごせる夏休みは、親子でいろいろなことを語り合って心の絆を深めたいものですね。だけど実際には、子どもが癇かんしゃく癪を起こしたり黙り込んだりして「こんなはずじゃなかった」とがっかりすることもしばしばです。今回は、心理学者のトマス・ゴードン博士が提唱する『親業』にもとづく、子どもの心を開くためのコミュニケーション術を紹介します。ゴードン博士は、親が子どもを変えようとして、以下の12の対応をすると親子関係が悪化すると述べています。「宿題」を例に挙げて、これらの12の対応を紹介します。

1)命令「宿題やりなさい」
2)警告「やらないとゲームできないよ」
3)義務付け「宿題はやるべきだ」
4)助言「簡単な宿題からしてみたら?」
5)正論「宿題やれば成績上がるよ」
6)批判「頑張れない子はダメね」
7)侮辱「お兄ちゃんはできたのにね」
8)分析「できないのはSNS依存だからかも」
9)同情「宿題たくさんで可哀想」
10)尋問「まだやってないの? 何度言わせるの?」
11)機嫌とり「やらなくてもいいよ」
12)皮肉「友だちと遊ぶ時は元気よね」


上記の対応よりも子どもを傷つけてしまう危険なコミュニケーションがあります。それが、以下の「無視」、「仕返し」、「嫌がらせ」です。

「無視」不機嫌な態度で、ため息をついたり聞こえないふりをする。
「仕返し」スマホやiPadを取り上げるなどの罰を与える。
「嫌がらせ」家族や友人に「この子は何度言ってもやらないのよ」と悪口を言う。

こうした対応を繰り返していると、子どもは腹を立てて反抗するか、親に何を言っても無駄と口を閉ざしてしまいます。また、自己肯定感が低下して無力感が強くなり、心の病気にもかかりやすくなります。

それでは、どういった対応をすればよいのでしょうか。それは「能動的な聞き方」をすることで、親が自分の話を理解してくれたと子どもが感じるように、子どもの話をしっかりと聞くことです。具体的には「相手の言葉を繰り返す」、「まとめて言い換える」、「相手の気持ちをくむ」ことです。次は、同じように宿題を例に挙げて、「能動的な聞き方」を使った親子の会話を紹介します。


子ども「宿題やりたくない」
親「そうなんだ、宿題やりたくないんだね」(相手の言葉を繰り返す)
子ども「うん。もうわかっている内容だからやっても無駄なんだ」
親「内容を理解しているから、やる必要がないと思うのね」(まとめて言い換える)
子ども「うん。それに出しても先生が点数つけ忘れることもあるし」
親「そっか、頑張って出しても点数がつかなかったらガッカリだね」(相手の気持ちをくむ)


能動的な聞き方と甘やかしは似て非なるものです。能動的な聞き方は子どもとの境界線を明確に引き、子どもを理解することに焦点を置きます。子どもは自分の気持ちを聞いてもらえるので、尊重されたと感じて自己肯定感が高まります。これにより、自分で物事を決め、その決定に責任を持つ自立的な思考が育っていきます。また、自分の気持ちを大切にできるので、相手の気持ちも尊重できます。その逆に、甘やかしは子どもとの境界線が曖昧で、子どもの気持ちに迎合して言いなりになっている状態。子どもが「宿題やりたくない」と言った時に親が「やらなくてもいいよ」と許可すると、子どもは自分の行動に責任を取らなくてもよくなります。

アドラー心理学では、問題の責任は誰に帰するかを考えて、その問題の当事者を見極める「課題の分離」を説いています。宿題をやらないことの結果は子どもに帰するので、宿題は子どもの課題になります。親が12の対応を使い子どもを操作すると、子どもの問題解決能力を奪い依存心を強め、その結果「とにかくやりなさい」、「自覚が足りない」などとさらに12の対応で追い詰めることに。親が子どもの話を否定せずにじっくり聞くことで、子どもは自分で考え行動するようになります。もし子どもの方から「宿題を手伝ってほしい」と言ってきた場合は、子どもが自分で問題解決しようと模索している証拠。必要に応じて手伝ってあげることで信頼関係が強まります。

この夏休みに能動的な聞き方を活用し、子どもの本音にとことん付き合って親子の絆を深めていけるといいですね。

 
 
参考文献

 
▪️トマス・ゴードン著「親業―子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方」 
https://united-states.kinokuniya.com/bw/9784479012320 
 

夏休みに子どもが犯罪に巻き込まれないために知っておきたい「ダークウェブ」の存在〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

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夏休みに子どもが犯罪に巻き込まれないために
知っておきたい「ダークウェブ」の存在

「ダークウェブ」の存在をご存知ですか? 「ダークウェブ」とは、グーグルやヤフーなどの通常の検索エンジンではアクセスできないウェブサイトのことです。匿名性が高いことから、麻薬をはじめ、ハッキングツール、小児性愛者向けのマニュアルにいたるまで取引され、人身取引の温床にもなっており、悪質かつ危険なサイトが多数存在しています。

私たちが通常アクセスしているウェブサイトは「サーフェスウェブ(表層ウェブ)」と呼ばれており、全体のウェブコンテンツのわずか4%にしか過ぎません。残りは「ディープウェブ(深層ウェブ)」と言われる検索エンジンにインデックスされていないコンテンツです。これらのほとんどは、企業や学校などのイントラネットや顧客・加入者向けサービスをはじめとするIDとパスワードで保護されたコンテンツです。こうしたディープウェブの中でも、さらに特別なツールを使わないとアクセスできない匿名性のきわめて高いものを「ダークウェブ」と言い、全体の6%を占めると言われています*①。

ダークウェブにアクセスする一番有力なツールは「トーアブラウザ(Tor Browser)」と呼ばれるブラウザで、米海軍調査研究所により2000年代初頭に開発された匿名性の高い通信規格「オニオンルーター(Tor:The Onion Router)」を実装しています。このブラウザは何層にもわたって暗号化されているため動作が遅く、検索もダークウェブに対応したダックダックゴー(DuckDuckGo)などの特定の検索エンジンを使う必要があります。ダークウェブは、その全てが有害なサイトではなく、言論の自由が制限されている独裁国家の政治活動家やジャーナリストなどが安全に情報を共有するためのプラットフォームとして機能しているものもあります。

2009年に匿名で決済が行えるビットコイン暗号通貨が登場したことにより、ダークウェブ上での闇取引が急増しました。違法商品の典型例としては、住所や電話番号、社会保障番号などがセットになった個人情報、銀行や各種サイトの認証IDとパスワード、偽造クレジットカード、違法薬物、銃器、児童ポルノコンテンツなどが挙げられます。個人情報は大人だけではなく、未成年者のデータも大量に出回っています。2021年のNBCニュースの調べによると、米国の小学校や高校1,200校以上の生徒の個人情報がダークウェブで出回っていることが明らかになりました。*②  いったん流出したデータは削除できません。小学生の息子名義でカードや車のローンが組まれた被害も出ているほか、性犯罪やサイバー犯罪にさらされるリスクが大幅に上がることも危惧されます。

子どもをダークウェブから守るために、私たちができることは何でしょうか。まずは、ダークウェブの存在を知らせて、絶対に関わらないことを教えましょう。興味本位でアクセスするだけで多数のマルウェアに感染し、個人情報を抜き取られ脅迫された事例もあります。怖がらせる必要はありませんが、年齢に合わせてインターネットには危険な場所もあることをしっかりと認識させ、ペアレンタル・コントロールや監視アプリをつけるとよいでしょう。

また、子どもがコンピューターを使っている様子をよく観察し、怪しい行動がないか確認しましょう。例えば、人が通るとスクリーンやブラウザを閉じたり、深夜や早朝に誰かとやり取りをしてたり、見慣れないブラウザやアプリを使用している場合は要注意。説明のつかない収入があったり、何かを隠すような行動が見られた場合には、懸念を正直に伝え、子どものブラウザ履歴、検索ワード、スマホのテキストや写真を見せてもらいましょう。子どもへの郵便物があれば、配送元を確認し、子どもがパッケージを開ける時に中に何が入っているか確認するようにします。

目的は、子どもの行動をコントロールすることではなく、子どもを守ることです。子どもにダークウェブについてどう思うかを尋ね、家族で話し合い、子どもの価値観や道徳感を再確認しましょう。自ら適切な判断ができるよう導くと同時に、問題や悩み事があったらいつでも親に相談するよう促すことで、親子の信頼関係を築く機会にしていけるといいですね。
 
参考文献

① 個人情報5ドルで売買、「ダークウェブ」驚きの実態 
https://toyokeizai.net/articles/-/737931?page=2 

 ② Hackers are leaking children’s data ― and there’s little parents can do 
https://www.nbcnews.com/tech/security/hackers-are-leaking-childrens-data-s-little-parents-can-rcna1926 

参考記事: 2023 Was The Worst Year Yet For Data Breaches in Every Way―Except One 
https://www.pcmag.com/articles/2023-was-the-worst-year-yet-for-data-breaches%E2%80%8B 

 

子どもの不登校に向き合う 〜さまざまな選択肢を知ろう〜 子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

子どもの不登校に向き合う
〜さまざまな選択肢を知ろう〜

コロナによる休校措置から学校が再開して数年が経ちますが、日米ともに不登校の子どもの数は急増しています。厚生労働省によると、日本の小中学校における不登校児童生徒数は10年連続で増加し、2022年度には前年度から22.1%増の29万9048人、全体の3.2%となり、過去最多を更新。いじめや自殺者数も過去最多となりました。アメリカでも、コロナ前は全体の約15%だった不登校の生徒数が、2021-22年度には約28%に急増し、2022-23年度には26%と高止まりしています。

不登校を減らす取り組みを行っているアメリカのNPO「アテンダンス・ワークス」によれば、不登校の原因は「障壁」、「嫌悪感」、「無気力/無関心」、「出席への誤解」の4つのカテゴリーに分類されます。「障壁」は、発達障害をはじめ不安定な家庭や地域犯罪率など個人および環境を含めたさまざまなハンディ。「嫌悪感」は、いじめや人間関係、宿題などさまざまな理由により起こる不安感や嫌な気分。「無気力/無関心」は、ストレスが限界に達して心がまひしたり無気力になっている状態。「出席への誤解」は、兄弟の面倒を見たり家事を手伝う必要があり学校に行く優先順位が低くなっている状態です。

不登校の典型的な例は、真面目で頑張り屋だけど融通が効かない性格で、勉強や友人関係でつまづくと切り替えができずにこだわり続け、不安症状や身体症状に発展するというものです。朝起きられない、学校に行く前に泣いたり癇癪を起こす、車から降りることができない、授業の途中で体調不良になり早退するといった行動が頻繁に見られるようであれば、子どもはすでに相当なストレスを抱えています。まずは「学校に行かなければダメ」という思い込みをいったん手放し、休ませてあげましょう。

日本政府も2016年には「不登校を問題行動と判断してはならない」とし、2017年には不登校児童生徒を学校に戻すことが目標ではなく「社会的に自立すること」と方針を転換しました。子どもの気質やニーズによっては、少人数制や柔軟性のある代替プログラムの方が合っているかもしれません。幸いなことに、アメリカでは多くの代替プログラムが提供されていますので、制度を知っておくだけでも安心でしょう。以下、ワシントン州教育委員会が認可している主な制度です。


私立学校:
少人数制、モンテッソーリやシュタイナー、キリスト教など、特定の教育・宗教理念やアプローチに基づいて運営されていたり、少人数で手厚いケアが受けられるなど質の高い教育を提供。

ホームスクール:
主に親が家庭教師となり子どもたちに教育を施す。カリキュラムや教材は家庭で選択され、学習環境は子どものニーズに合わせて調整される。

オルタナティブスクール(フリースクール):
従来の学校教育に代わる教育プログラムを提供する学校。例えば、アートや音楽、野外での体験学習など自由な校風の学校が多い。

オンラインスクール:
主にオンライン指導を通じて基礎教育プログラムを提供。さまざまな科目やレベルの教材が提供されており、自分のペースで学習できる。

ホームホスピタル:
身体的または精神的な障害や病気のため、推定4週間以上学校に通うことができない生徒向けに、自宅や病院での学習指導が提供される。

オープンドアプログラム:
学校を中退、または21歳までに高校を卒業する見込みがない16~21歳までの若者を対象とした教育プログラム。


なお、アメリカでは、義務教育下の児童の不登校は違法であり、ワシントン州では月15日以上の無断欠席で提訴される可能性があるので注意が必要です。スクールカウンセラーに現状を正直に伝え支援を求めたり、連絡を取り合い良好な関係を保ちましょう。子どももつらいですが親も不安でいっぱいです。サポート・グループやカウンセリングなどを活用して苦しい気持ちを共有し、孤立しないことが大切。社会が大きく変化するなか、求められる人物像も大きく様変わりしています。子どもがどの道を選ぶにしても、自分で考えて選択することが自信につながります。人生に遠回りはないので、将来的に自分の居場所を見つけて自立することを一番の目標として、焦らずじっくり支援していきましょう。

 

子どもがきちんと宿題に取り組むようになる方法〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

子どもがきちんと宿題に取り組むようになる方法

「親に言われなくても進んで宿題をやってほしい」というのは、子育てのよくある悩みですよね。子どもに任せていたら全然やっていなくて、叱ってけんかになり、お互い嫌な気分になることも。今回は、「自己決定理論」をベースに、子どもが自発的に宿題に取り組める方法を考えてみました。

やる気のメカニズムを説いた自己決定理論は、アメリカの心理学者、エドワード・デシ氏とリチャード・ライアン氏によって提唱されました。ひと口にやる気と言ってもさまざまあり、3つの心理欲求、「自律性」(自分で決めて行動する)、「有能感」(自分には力がある)、「関係性」(自分は他者に尊敬され認められている)がどのくらい満たされているかで自己決定の度合いは異なるとしています。具体的には、以下の6つの種類に分かれます。

1. 無動機(Amotivation)
やる気がなく、他者からも何も言われないので行動しない状態。例:宿題はやりたくないし、親も何も言わないのでやらない。

2. 外的調整(External)
やる気はないが、他者から報酬と罰を与えられて行動する状態。例:宿題はやりたくないけれど、親から怒られるのでやらなきゃいけない。

3. 取り入れ的調整(Introjected)
やる気はないが、行動の価値は理解し、他者の目を意識して行動する状態。例:宿題はやったほうがいいが、やりたくない。でも、教室で恥ずかしい目に遭うのでやる。

4. 同一化的調整(Identified)
その行動の価値を理解し、自ら進んで行動する状態。例:宿題はやったほうがいいのでやろう。

5. 統合的調整(Integrated)
その行動が自分の夢や目標と直結するので、自らやりたいと思い、行動する状態。例:医者になりたい。そのために勉強しよう。

6. 内発的動機付け(Intrinsic)
その行動自体が楽しいので行動する状態。例:勉強は好き。だからやりたい。

この6つの動機付けのうち、2から5までは行動の理由が外部から来ている「外発的動機付け」です。やる気、生産性、幸福度は6の内発的動機付けに向かうほど高くなり、その逆にストレスや燃え尽き症候群の値は1の無動機に近づくほど高くなります。

理想は内発的動機付けに従って子どもが自発的に勉強することですが、実際には勉強そのものが好きな子どもはあまりいません。そこで、その手前の4(同一化的調整)と5(統合的調整)をいかにうまく使って子どものやる気をアップさせるかがカギに。

この2つの動機付けは、やる気、生産性、幸福度が内発的動機付けとほぼ同じ度合いであるという結果が出ています。つまり、将来の夢や目標を明確に持つ子どもは、楽しいから勉強している子どもとほぼ同じ結果を出すことができます。

親の役目は、子どもの夢や目標を思いっきり応援してあげることと言えますね。また、なぜ宿題をするのか、学校や勉強の必要性について、子どもとじっくり話し合い、子ども自身が納得することで、子どものやる気も高まります。

逆に、好きなことに対して報酬を渡すなど、2(外的調整)を使うとアンダーマイニング効果につながり、やる気が損なわれる可能性も。楽しい気持ちが阻害され、幸福感が低下するので避けたほうが無難です。お金や物などの報酬は、興味のない活動に興味を持たせるために限定して使いましょう。

最近では、マインドフルネスとやる気の関係についての研究も進んでいます。マインドフルネスにいる状態の人ほど、行動自体を楽しむことができる内発的動機付けの値が高いという結果が出ています。「今ここ」の状態に意識を向け、そのままの自分を肯定的に受け入れることで自律性が高まり、自己決定の度合いが強くなるからです。さらに、やる気と幸福感が高まるだけでなく、他者への思いやりと利他的な行動も増えるとのこと。

今この瞬間の子どもをそのまま受け入れつつ、子どもの夢や目標を応援し続けることが、内発的動機付けを高めるいちばんの方法と言えます。やはり、子育てに近道はないようです。



 

参照

(1)Connecting motivation, awareness, values, and thriving: New research from Self-determination theory
https://www.youtube.com/watch?v=LHQv7FU8Atw

(2)夏休みを最大限に生かして子どものやる気を引き出す方法~子どもとティーンのこころ育て 
http://soysource.test-alba.com/lifestyle/children_teen_kokoro/kokorosodate-0609/  

(3)頭をスッキリさせて「今」にフォーカス! マインドフルネスの正しい実践法~子どもとティーンのこころ育て 
http://soysource.test-alba.com/lifestyle/children_teen_kokoro/kokorosodate-0112/ 

(4)Mindfulness and Motivation: A Process View Using Self- Determination Theory 
https://selfdeterminationtheory.org/wp-content/uploads/2021/07/2021_RyanDonaldBradshaw_Mindfulness_Manuscript.pdf 

シアトル石川県人会による能登半島地震の被災地支援イベント〜みんなの広場

シアトル石川県人会による
能登半島地震の被災地支援イベント

2月11日に、バション島のムカイ・ファームにて、能登半島地震の被災地支援イベントが開催された。元日に起きた地震では、多くの方々が家族や友人を失い、生まれ育った地域が一瞬で破壊され、仕事や学業も中断せざるを得なくなった。2月19日現在、内閣府と石川県の発表によると、石川県で241人の死亡が確認されたほか、9人の安否が不明のまま、住宅の被害は7万棟を超え、能登地方を中心に2万3,000戸以上が断水、1,100戸が停電、避難所利用者は1万2,524人に上る。 

シアトル石川県人会代表の舟木拓也さんが、現地の被害状況を報告

同イベントはシアトル在住者の有志から生まれた。主催者のルークあゆみさんは羽咋はくい 市の出身で、年末年始の帰省中に被災。「息子と里帰り中でした。壺や額が落ちて壊れましたが、家族は無事。断水の6日間は自宅の井戸水を近所の人と分け合いました」と振り返る。ルークさんとシアトル石川県人会を立ち上げ、代表を務める舟木拓也さんの実家は能登半島先端の珠洲すずし  市にあり、地震で大きく損壊した。両親は今も避難所生活を余儀なくされている。現況を少しでも知ってほしいという思いから、企画と準備を進めてきた。 

会場のムカイ・ファームは、日系2世のマサヒロ・ムカイ氏が父親から受け継いだイチゴ農園を飛躍的に拡大させ、1930年代当時、画期的だった冷凍フルーツの技術を開発し、その分野の先駆者となった。現在、ムカイ邸とその日本庭園はNPO団体が管理・運営する。イベント当日はリヤ・クオ理事長が登壇し、その歴史について話した。 

真剣に聞き入るイベント参加者

在シアトル日本国総領事館の角 潤一主席領事も駆け付け、挨拶と乾杯の音頭を取った。ご自身のイラクやアフガニスタンなどの紛争地での経験から、能登半島地震で被災された多くの方々の中でも、とりわけ警察官や消防士など同じく公務を担う方々への思いを語り、シアトル石川県人会の会員第1号にも名乗りを上げた。同発会式では、舟木代表が写真や地図で地震の状況を説明、支援の必要性を訴えた。また、学生時代の友人が帰省先の珠洲市で最愛の妻と子ども3人を土砂崩れで亡くしたと語った。聴衆からため息が漏れ、聞いているだけで、もし自分の家族が、子どもが、と考えると、胸が締め付けられる思いだった。 

そして最後は、世界的に有名なバイオリニスト、橋森ゆう希さんによるチャリティー・コンサート。橋森さんは東日本大震災の際、シカゴでさまざまなチャリティー企画を実施するなど被災地支援に積極的に携わった。今回の能登半島地震では、姪2人が石川県の祖父母宅で被災。2016年に起きた熊本地震では、熊本在住の義父が被災し、家中がめちゃくちゃになったそう。多忙なスケジュールの中、チャリティー・コンサート出演を快諾した橋森さんと共演するのは、ピアニストのフディエフ希美のぞみさんだ。心打つ感動の調べに、観客席からはすすり泣く声も聞こえた。今回のイベント立ち上げ人のひとりで、ラ・レーチェ・リーグのリーダーを務める光岡いずみさんは、「生きる力と希望へのエネルギーをいただきました。今ここでできることを少しでも続け、自然豊かな能登の復興を願います」と述べた。 

右から、ルークあゆみさん、橋森ゆう希さん、角 潤一主席領事、フディエフ希美さん、リヤ・クオ理事長、舟木拓也さん、筆者、光岡いずみさん

また会場では、義援金集めのため、白富士酒造が日本酒と酒粕を無料で提供。冨沢真理さんは、福島県双葉町で創業300年以上続く冨沢酒造店の長女だ。2011年の東日本大震災で被災し、数々の困難を乗り越え、ウッディンビルで酒造りを再開。震災から10年以上の歳月を経て、シアトルの地酒「SHIRAFUJI」として生まれ変わった。冨沢さんは「東日本大震災の時は世界中の方々から応援してもらった。今度は私たちが返す番。微力ながらサポートしたい」と話す。東日本大震災の被災地支援活動を長年行うソングス・オブ・ホープの本多ゆかさんは、その酒粕を使ったパウンドケーキを振る舞い、好評を得ていた。 

着付け担当の津岡昌子さんを始め、日系団体や学校関係者の方々、会場手伝いのボランティアの皆さん、一人一人の思いが集結した素晴らしいイベントとなった。当日の寄付金は約900ドル、ゴーファンドミーでは約500ドル、現在計3,000ドルを超える義援金が集まっている。 

シアトル石川県人会では、今後もムカイ・ファームでのイベントを通じて復興支援を続けていく予定だ。入会や会場手伝いのボランティアなどに興味のある方は、ルークさん(ayuayusnake@gmail.com)まで連絡を。

(長野弘子/シアトル)

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気付かないうちに感情を押し殺していない? 「知性化」の弊害〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

気付かないうちに感情を押し殺していない? 
「知性化」の弊害

子どもが怒り、泣き叫ぶのを強く叱ったり罰したりすると、無意識に怒りや悲しみなどの感情を遮断してしまい、感情表現がうまくできず、思春期や大人になってうつや不安、パニック発作などのさまざまな心の病気を起こす可能性があります。今回は感情をため込んでしまう防衛規制、「知性化(Intellectualization)」について紹介します。

防衛規制とは、心理的ストレスから人間の心を守るために必要な手段で、精神分析学の父であるジークムント・フロイトが提唱した概念。防衛規制は娘のアンナ・フロイトにより細分化され、「知性化」もそのひとつです。事実を説明し、論理的に分析を行うことで、何も感じないようにする無意識の防衛メカニズムです。つらく苦しい気持ちを閉じ込め、客観的事実の追求や状況観察などにエネルギーを費やします。

例えば、深刻な病気の診断を受けた人が治療法や体験談を調べ続けたり、告白して断られた人が「振られる確率は成功する確率よりも高いんだ」と統計的な事実を語ったりします。聞いている側は「まるで他人事のようだ」と思いますが、本人は知性化に気付いていない場合がほとんどです。

知性化の防衛を過度に使う人の多くは、子ども時代に怒りや悲しみなどの気持ちを表現すると、親から頭ごなしに叱られた経験をしています。機嫌を損ねないよう、親の行動を観察、分析するのに集中しているため、自分が今どう感じるかという体の感覚に注意を向ける余裕はありません。

また、愛情ある家庭環境でも、「泣いたらダメ。笑っていなさい」などと、親から怒りや悲しみといった負の感情を否定され、無理してでも良い気分であるかのように振る舞うことを奨励されると、嫌な気持ちを感じるのは悪いことだと思い込み、回避しようとします。その逆に、情緒不安定な親の元で苦労して育った子どもも、親を反面教師として知性化を強める傾向にあります。

知性化は必ずしも悪いものではなく、感情に振り回されずに社会生活を円滑に進めるための大事なスキルです。十分に発達しないと、人とトラブルを起こしたり、誰かに依存したりしてしまう場合も。一方、知性化を多用し過ぎても、感度が鈍くなり、嫌な気分どころか良い気分さえ、あまり感じられなくなります。好きなことをしているはずなのに楽しめない、ドラマや映画を観ても感動できないなど、周りの人たちからは「知的だけれど面白味のない人」という印象を持たれます。充実した生活を送っているようで、空虚感を埋めるためだけに約束を詰め込んでいる人も大勢います。そうした人は、深い感情のつながりを無意識で求めているので、近い存在に対してはため込んだ不安や怒りを爆発させ、支配的になる傾向が見られます。

知性化を多用して自分の心を守ってきた人は、心の奥底にため込んだ感情の上に大きな知性化の重しが乗った状態。いきなりその重しを取り除くのは難しいかもしれません。まずは、ほっとできる場所で、自分の体の感覚を解釈なしにただ感じることから始めましょう。このコラムでも紹介したマインドフルネスの呼吸やボディー・スキャン瞑想などで、緊張した部分や重い部分がないかどうか、体感を探ります。それを感じれば感じるほど、体の奥底から湧き上がってくる感覚をただ味わえるように。この感覚こそ、「今ここ」や「ありのまま」の状態、つまり自然や生命のエネルギーそのもので、その体の感覚に名前を付けて言葉で表現したのが「感情」です。

より感情が豊かになれば、人生も豊かになります。子どもには、「どんな気持ちもあなたに必要なもの。今の自分の気持ちを思いっきり味わおうね」と教えましょう。嫌な気持ちも十分に聞いて、一緒に感じてあげてください。こうして親子で日々、心の結び付きを深め、お互いに人生を豊かにしていけるといいですね。

 
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もし子どもがポルノを見ていたら? ~急増するオンライン・ポルノ依存~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

もし子どもがポルノを見ていたら?
~急増するオンライン・ポルノ依存~

インターネット上のコンテンツの実に12%近くがポルノ・コンテンツであることをご存じですか? ほとんどのポルノ・サイトは年齢制限が自己申告なので、誰でも簡単にポルノを閲覧することができます。10代の若者の約70%が、少なくとも週に1回はポルノを閲覧しており、ポルノを最初に見る平均年齢は9~13歳と低年齢化しています。

ティーンになると性に興味が湧くのは自然なことですが、大量のポルノ・コンテンツは発達段階の脳にとって刺激が強い分、依存症になりやすいと言われます。また、性に対する否定的な価値観や行動パターンが生み出されることがあります。オンライン・ポルノが青少年の心と体にどんな影響を与えるのか、そして親はどう対処すればいいかを探ってみましょう。

アメリカの性に関する学術誌で2023年6月に発表された調査により、上位3位に当たるポルノ・サイトは、AmazonやNetflix、Yahoo、TikTokなどの有名サイトよりも月間訪問数が多いことが明らかになりました。例えば、Xvideosの訪問数は、Amazonより7億回、TikTokより9億回、Netflixより15億回多かったそうです。

ポルノ視聴はコロナ禍で急増し、「ポルノデミック」とも呼ばれています。ポルノを常習的に視聴すると耐性がついて、女性蔑視や暴力的な描写、小児性愛その他の過激なコンテンツを求めるようになっていきます。そのため、通常の性行為では興奮できない勃起不全(ED)などの脱感作(感覚に慣れて反応しないこと)も起きやすいようです。

複数の研究で、ポルノを一定期間視聴した場合、ポルノを見なかった人に比べて、男性では女性に対する冷淡さが増し、レイプをそれほど重大な罪ではないと考え、夫婦以外の性行為や過激なプレイに寛容な傾向があるとのこと。さらに、結婚は時代遅れとする人がポルノを見なかった人の2倍になり、男女共に子どもを持ちたい欲求(女性では娘を持ちたい欲求)が減少したと報告されました。

脳が未発達の子どもへの影響はさらに大きいと懸念されます。依存症の難しい点は、最初は「快感」を求めて行為を繰り返すのですが、耐性ができてエスカレートし、行為をやめると「不快」な離脱症状に苦しめられることです。最後には、快感はなくただ不快を抑えるために依存するように。以下のような兆候が見られるなら、子どもがオンライン・ポルノに依存している可能性は高いでしょう。

■ ポルノ閲覧を止めたくても止められない
■ より強い刺激のものを次々と求める
■ 成績が落ち、友人関係や学校生活に悪影響が出る
■ これまで打ち込んでいた趣味や活動への興味をなくす
■ 気分のいらつきや落ち込みを感じる
■ 自分とは年齢が大きく離れた大人や子どもに性的な関心を持つ
■ 性的な画像やテキストを頻繁に送受信している

それでは、私たちはどのようにして子どもを守れば良いのでしょうか? すぐにできることは、デジタル機器全てにペアレンタル・コントロールを付けること。そして、子どもが見ているコンテンツに興味を持ち、それがどんなものかを確認しましょう。

子どもがポルノを見ていることを知っても、怒るのではなく、まずは落ち着いて話を聞いてください。どのようにしてサイトを知ったのか、どんな内容でどう思ったかなどを聞き、話し合いの場とします。そして、子どもの話を十分に聞いたあとで、ポルノは大人向けのものであり子ども向けに作られたものではないこと、ポルノに登場する行為は演技で実際とはかけ離れたものであること、出てくる人の体型も現実を反映していないことを教えましょう。そのうえで、相手を大事にする気持ちや関係性が最も大切で、相手の嫌がることは絶対にしてはいけないということ、また、同意の必要性、性病のリスク、事件に巻き込まれる危険性、避妊の仕方などについても伝えるようにします。

ポルノを含め、性的なことに関して親がオープンに話すほど、子どもは性について適切な判断をする可能性が高まります。バレンタインデーを前に、性に関して親子で話してみるのはいかがでしょうか。
 

参考文献・リンク


(1)『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学 
by ゲーリー・ウィルソン (著), 山形浩生 (翻訳)  Format: Kindle Edition 
 
(2) But Do Porn Sites Get More Traffic than TikTok, OpenAI, and Zoom? 
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00224499.2023.2220690 
 
(3) The Impact of Pornography on Children 
https://acpeds.org/position-statements/the-impact-of-pornography-on-children 
 
(4) Pornography Use Among Young Adults in the United States 
https://ballardbrief.byu.edu/issue-briefs/pornography-use-among-young-adults-in-the-united-states