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Author: 中出 修

福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748

新型コロナウイルス感染を防ぐチューイングガム?〜健康な歯でスマイルライフ

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

新型コロナウイルス感染を防ぐチューイングガム?

 ワクチンの普及により終息に向かっていると思われた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、変異ウイルスのオミクロン株の発生により、ワクチン接種完了者においてのブレイクスルー感染が相次いでいます。各国で感染者が急増するなど、また混沌とした状況になってきました。最近、ペンシルベニア大学を中心とした研究グループが、新型コロナウイルス感染を防ぐチューイングガムについて興味深い報告をし、注目を集めています(Molecular Therapy, https://doi.org/:10.1016/j.ymthe.2021.11.008.)。今回はこの研究を中心に書いていきたいと思います。        

研究の背景    

 新型コロナウイルスのヒトへの侵入は、アンギオテンシン変換酵素2(Angiotensin-Converting Enzyme2/ACE2)という、ヒトの上気道粘膜の上皮細胞のレセプター(受容体)を介することが多いとされます。つまり、ウイルスはこのレセプターにくっ付くことにより細胞内に侵入できるようになるのです。このレセプターのブロックに成功すれば、ウイルスの侵入をかなり防ぐことができるはずです。

 当然ながら、ACE2そのものが新型コロナウイルスがくっ付くのを妨害し、感染を防ぐ可能性も高いわけです。COVID-19患者においては、ACE2の活性が低くなっており、治療のひとつとしてACE2の注射も行われています。 

 今回の研究では、植物に遺伝子操作で作らせたACE2をチューイングガムに練り込むことにしました。そして、そのチューイングガムをかむことで唾液中の新型コロナウイルスが減少するか、感染防御に効果があるのかを、試験管実験を通して調べています。  

実験の方法と結果     

 まず、唾液の採取が行われました。新型コロナウイルスに感染し、入院した陽性患者の唾液と鼻咽頭の粘膜をぬぐったもの(Swabs)が使われ、同時に新型コロナウイルス陰性者のサンプルも採取されました。 

 チューイングガムに練り込まれた植物由来のACE2は、フラウンホーファーUSA社およびエアロファームズで遺伝子操作された大量のレタスから、ACE2を含んだタンパク質を分離させ、凍結乾燥により濃縮したものを使用しています。 

 その気になる結果ですが、ACE2入り (17.2mg/g)のチューイングガムをかんだ後の陽性患者の唾液は、事前に採取した陽性患者の唾液と比較して唾液中の新型コロナウイルス量が激減し、ウイルスあるいはウイルス粒子が上皮細胞内に入るのを防げたことがわかりました。 

 論文の著者らは、植物由来のACE2は比較的安価で大量に作ることができ、唾液中の新型コロナウイルスの感染力を弱め、ウイルスの細胞内への侵入を防止することも可能であるとしています。COVID-19を防ぐ手軽な方法として極めて有望であると考え、今後は本格的な治験を準備する意向のようです。       

まとめ     

 このチューイングガムの実用化が進めば、外食やイベント参加、歯科治療の前などに、マスク着用と並んで推奨されることもあるかもしれませんね。1日も早く、パンデミックが終わって欲しいものです。  

乳歯から精神疾患のリスクがわかる?〜健康な歯でスマイルライフ

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

乳歯から精神疾患のリスクがわかる?

  母胎への過度のストレスは、後の胎児の精神障害を引き起こしやすくする可能性があることが、最近の多くの研究から示されています。しかしながら、胎内環境を手軽な方法で客観的に測るための検査対象は、ほとんどありませんでした。そんな中、イギリスのブリストル大学の研究チームは、70本の乳歯におけるエナメル質の成長線とその後の精神疾患との関係を調べ、興味深い結果を報告しました(JAMA Network Open 2021;4(11):29129)。今回はこの研究を中心に書いていきたいと思います。        

研究の背景    

 アメリカでは今や、抗うつ薬が高コレステロール薬に次いで、処方せん薬交付の第2位になるほど精神疾患の増加は深刻です。学齢男子の7分の1がADHD(注意欠如・多動性障害)の診断を受けているほど、精神障害の罹患者数は多いのです。胎内環境は、後の精神疾患につながりやすく、妊娠中は過度のストレスを避けるべきであると多くの研究で明らかにされてきました。 

 乳歯や永久歯の一部には、エナメル質内にできる、出生線(Neonatal Line)と言われる成長線が存在します。これは、胎児の歯が成長している時に、出生時の胎児のストレスがエナメル質に刻まれるものです。今回の研究では、乳犬歯の出生線の幅とその前後の精神ストレス状態との相関を調べています。          

妊娠中のストレスが子どもの乳歯に影響     

 計70人の子どもの抜歯された乳犬歯(5〜7歳、男48.7%、白人94%、ブリストル生まれ)が調査され、各々の子どもの出生前と出生期における妊娠中の精神環境(その子の妊娠中あるいは妊娠直後にアンケートで回答したものを使用。ストレスにつながる出来事、精神病理的既往歴、周囲の不利益状態など)を確認しました。 

 その結果、子どもの出生前、出生期の妊娠中に人生において強度のショックとなる出来事(自己申告)、人生を通しての精神的問題、あるいは妊娠32週で不安、うつの症状が高まった状態があった母親の子どもでは、有意に乳犬歯の出生線の幅が広いことがわかりました。一方で、出生前後に恵まれた環境にあった母親の子どもにおいては、乳犬歯の出生線の幅が狭くなっていました。 

 乳歯の出生線の幅を調べると、その子どもの母親が妊娠中、どんな精神状態に置かれていたかが反映されることになり、後の子どもの精神疾患リスクを測る一助になる可能性も出てきました。      

まとめ     

 乳歯の出生線の幅が広いと子どもの精神疾患リスクが高い可能性があり、検査することで子どもの精神疾患の治療に役立てていけるかもしれません。まだまだバラつきが大きいので、今後もさらなる調査を続け、データを検討する必要があります。 

 乳歯を保存しておくと、DNAの抽出以外にも精神疾患のリスク判定など、さまざまなことに活用できるかもしれませんね。 

歯周病予防に有効な口腔ケア用品はどれ?〜健康な歯でスマイルライフ

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

歯周病予防に有効な口腔ケア用品はどれ?

 歯ブラシ、電動歯ブラシ、フロス、歯間ブラシ、ウォーターピック、マウスウォッシュなど、歯周病を予防するための口腔ケア用品はいろいろ挙げられます。しかし、本当に各々の有効性について科学的に証明されているのでしょうか? そんな疑問に答えてくれるような研究が最近発表され、注目を集めています。   

ニューヨーク州立大学バッファロー校の研究

ニューヨーク州立大学バッファロー校歯学部による研究(J International Academy of Periodontology 23(4):350-367,2021)で、フランク・スカンナピエコ教授らは、歯周病予防の口腔ケア用品に関して広範囲に文献検索を行い、各々について科学的に証明されているのかを検証しました。結果、手動の歯ブラシ以外で科学的に証明されている口腔ケア用品はひと握りのようです。

1.科学的に歯周病予防の有効性あり 

手動の歯ブラシ、歯間ブラシ、ウォーターピック、クロルヘキシジンや塩化セチルピリジニウム(CPC)あるいはエッセンシャルオイル(リステリン等)の入ったマウスウォッシュ 

2.科学的に証明されているとは言えない 

電動歯ブラシ、フロス、プロバイオティクス(乳酸菌などの補充療法)、サプリメントおよび上記以外のマウスウォッシュ 

3.使用に適さないもの 

トリクロサン: 歯磨き剤やマウスウォッシュに含まれ、プラークや歯肉炎を減らす効果がわかっているものの、口腔がんの発生や生殖機能に悪影響を及ぼすことが明らかにされ、アメリカでは使用禁止になっている。

結局、何を使えばいい?    

この研究結果が全てではありませんが、毎日の口腔ケアに役立てたいですね。以下に考察をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。 

●電動歯ブラシVS 手動歯ブラシ 

 多くの研究論文で、電動歯ブラシと手動歯ブラシにおけるプラークの除去率および歯肉の炎症の程度について比較検討していますが、そのほとんどが電動歯ブラシの優位性を認めていません。 

●フロスは必要か 

 今回の研究により、歯間ブラシ、ウォーターピックは、歯周病予防の観点から有効性が認められましたが、フロスに関しては有効性が認められていません。しかしながら、歯と歯の間のプラーク除去において、フロスは極めて有効なツールであり、虫歯予防に効果があると考えられるため、毎日使うべきでしょう。 

●マウスウォッシュの選び方 

 フッ素や過酸化水素水などが成分のマウスウォッシュに関しては、歯周病予防の観点からは有効性は認められなかったものの、クロルヘキシジンや塩化セチルピリジニウム(CPC)、リステリンなどの有効性が認められています。クロルヘキシジンは、歯科医が処方するマウスウォッシュに含まれますが、長期にわたり使用すると歯の着色につながるので注意が必要です。

歯抜けのホオジロザメには歯科医が必要?〜健康な歯でスマイルライフ

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

歯抜けのホオジロザメには歯科医が必要?

人間とはかけ離れた構造、機能、システムを持つことが多い他動物の歯ですが、人間の歯の機能や歯の再生の研究に役立つことは少なくありません。今回はサメの歯を通して、われわれ人間の歯についても考えていきたいと思います。

インスタグラムで話題のサメの歯

 メキシコ、バハカリフォルニア州エンセナダの165マイル西に位置するグアダルーペ島で、多くの歯が抜けたホオジロザメが見つかりました。サンディエゴでサメ観察のケージ・ダイビングを提供するマーティン・グラフさんが、歯抜けのホオジロザメの写真をインスタグラム(@shark_diver_llc)に投稿してサメを診られる歯科医を募集し、大きな反響を呼んでいます。

 歯科医探しについては本気かジョークかわかりませんが、グラフさんによれば、これほどまでに歯の抜けたサメを見たことがないそう。いつ、どうして、このサメが歯を失ったかは不明とのことです。

サメの歯はすぐに生え変わる    

サメの皮膚はザラザラしていて、サメ肌と言われますが、この皮膚が口腔内のみ進化して歯に変わったのが、サメの歯です。サメは尖った三角形の歯を外から内へと何列も持ち、外側の2列くらいが捕食に使われます。2、3日ごとに生え変わり、内側の歯が順次外側に移動し、恒常性を保っています。サメの種類によりますが、6〜20列の歯が並び、中には3,000本の歯を持つサメも存在します。

 ホオジロザメの寿命は70年ほどで、歯は数万回生え変わるようです。歯が抜けやすい原因のひとつには、人間の歯と違い、歯を支えている歯槽骨や歯根膜がないことが挙げられます。サメはまるで使い捨ての歯のように、ダメになると置き換えるシステムを構築しており、それだけの歯を作る細胞を生涯持ちます。前述の歯抜けのサメについては、(1)つい最近、歯が多く抜けることがあり、再生がまだ間に合っていない、(2)歯の再生能力が高齢、病気など何らかの理由で低下した、などの可能性が考えられます。

われわれ人間の歯について考えよう    

サメの歯のほか、ネズミやウサギなど、げっ歯類の前歯、そしてカバやブタ、イノシシの犬歯、象の牙などは、無根歯または常生歯と言われ、絶えず伸び続けます。歯の長さは、硬い物を食べたり、硬い物にこすったりして調整しています。

 最も進化した生き物(?)と自負している人間ですが、歯に関しては、果たしてそうと言えるでしょうか。むしろ、顎が小さくなって歯の数は減る傾向にあり、歯の再生もほとんど期待できません。そこで人間は仕方なく、クラウン、ブリッジ、インプラント、義歯などの人工物で、歯の再生力の乏しさを補っているわけです。

 再生力に乏しいということは当然、毎日の口腔ケア、定期的な歯科健診が大切になってきます。一生物の歯を守れるよう頑張りましょう。

骨粗しょう症薬のビスフォスフォネートと歯科治療

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

骨粗しょう症薬のビスフォスフォネートと歯科治療

 患者さんが服用している薬剤の中で、歯科治療の際に注意すべき薬剤は数々あるのですが、その中でも近年服用が多くなっているなと感じる薬剤が骨粗しょう症の治療薬のひとつ、ビスフォスフォネートです。当院の患者さんも、特に40代以降の女性で服用する方が増えています。以前、このコラムでも取り上げましたが、アップデートすべき時期に来たと思われますので、今回は歯科治療における注意点を中心に書いていきます。     

閉経後の骨粗しょう症 

 骨は、身体を支えるのはもちろん、カルシウムの最大貯蔵庫でもあり、カルシウムの代謝において中心的役割を果たしています。骨の形態は、骨形成(骨芽細胞による)と骨吸収(破骨細胞による)を常に繰り返しながら保たれており、成人では1年間におよそ20〜30%ほどの骨が入れ替わるとされます。これを「リモデリング」と言います。

 女性は閉経時から閉経後にかけて女性ホルモンのエストロゲンの分泌が急速に低下し、その影響で骨形成と骨吸収のバランスが崩れ、骨吸収が優位になります。そのため、骨の密度が減少し、いわゆる骨粗しょう症が増える傾向にあります。男性にも主に高齢による骨粗しょう症は起こりますが、女性の3分の1以下に過ぎません。     

ビスフォスフォネートの作用   

 ビスフォスフォネートはピロリン酸の類似体で、体内に取り入れられると骨親和性が高く、骨に沈着しやすい性質を持っています。骨に沈着したビスフォスフォネートは、簡単に言うと破骨細胞が嫌いな物質です。

 破骨細胞はある種の酵素の使用により骨吸収を行うのですが、ビスフォスフォネートはその酵素の働きを阻害して骨吸収を妨げ、また破骨細胞の自爆死(アポトーシス)も増やします。その結果、エストロゲン低下によって骨吸収優位に傾いた状態を補整し、特に閉経後の骨粗しょう症を予防あるいは改善してくれます。      

ビスフォスフォネート投与の歯科的問題    

 歯科で問題となるのは、抜歯などの外科的処置後、治癒不全(顎骨壊死、下顎に多い)が起きやすいことです。それ以外の通常の歯科治療では問題ありません。原因は不明ですが、破骨細胞が骨の治癒にも重要な役割を果たしているのは間違いありません。ビスフォスフォネートは経口投与よりも注射投与した場合に抜歯後の治癒不全を起こしやすいと言われています。

 インプラント手術などは問題ないとする研究もあり、意見の分かれるところですが、われわれ歯科医もビスフォスフォネートを処方している担当医と連絡を取って、ビスフォスフォネートの休薬の検討について意見を聞くなど慎重になる必要があります。      

ビスフォスフォネート服用の注意点     

 ビスフォスフォネートの投与を検討する場合、できれば投与後の抜歯は避けたいので、歯科治療は完了させておきましょう。また、口腔の清掃状態が良くないと抜歯後の治癒不全も起きやすいため、歯科健診および歯のクリーニングを継続して行うようにしてください。 また、すでにビスフォスフォネートを服用している方は、歯科治療を受ける前に、必ず骨粗しょう症の治療を受けていることと、使用薬名、投与方法を歯科医に伝えましょう。

歯科医院での新型コロナ感染リスクはそれほど高くない?

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

歯科医院での新型コロナ感染リスクはそれほど高くない?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック宣言により、昨年の3月末から5月末まで、ワシントン州では緊急の治療を除いて原則、歯科診療中断となりました。当時は医療用のマスクやガウン、手袋などの防御具が不足しており、少しでも医科に供給するためとされていました。しかし、歯科診療で発生するエアゾール(固体または液体が分散し、霧状の微粒子となったもの)による新型コロナ感染の疑念がぬぐい切れていなかったことも要因のひとつと思われます。一方で、歯科受診を控えることで起こりやすいと言える歯周病の悪化は、むしろCOVID-19発症のリスクを高めるとする報告もあります。歯科診療における感染リスクについて、最近発表された興味深い研究がありますので以下に紹介していきます。    

歯科医院での感染リスクを調査

オハイオ州立大の歯周病学講座を中心とした研究グループから発表された論文(J Dental Res 100(8):817-823, 2021)を要約してみます。

①調査方法 

期間:2020年5月4日〜7月10日
対象:28人の歯科治療希望者。18歳以下、妊婦、抗生物質服用者、HIV感染者、COVID-19の感染歴または症状がある方は調査から除外した。
場所:オハイオ州立大学歯学部

②サンプル収集 

唾液:1ミリリットル
歯科治療台で用いられる水:1ミリリットル
歯科治療によるエアゾールのサンプル:歯科医および助手のフェイスシールド、患者さんのエプロン胸部の表面、診療室内で歯科治療台から6フィート離れた場所から、それぞれ集められ、ウイルスの同定(RT-PCRという手法による)および細菌の同定(16S rDNAの解析による)が行われた。

③結果  

(1)唾液と、エアゾールの各サンプルとの比較では、細菌の種類に明らかな違いが認められた。
(2)エアゾールの各サンプル中の細菌は、歯科治療台の水に認められた細菌と78%一致しており、残りの約20%は、唾液由来でなく、また水由来のものでもなかった(おそらく、空気中由来)。(
3)エアゾールの各サンプル中、唾液由来の細菌が検出されたのは、28人中8人にとどまっていた。
(4)参加者28人中、19人の唾液に新型コロナウイルスが認められた(無症状)が、エアゾールの各サンプルの中で検出されなかった。

調査結果から考察されること

歯科治療で発生するエアゾールの安全性については、いまだ議論の余地があるところだと思います。今回の研究によれば、そのエアゾールの発生源のほとんどは、歯科治療で使われる水である可能性が高く、唾液の比率は高いものではないようです。実際、新型コロナウイルスが確認された無症状の感染者であっても、治療後のエアゾールからウイルスは検出されませんでした。

まとめ

 歯科医の感染率は1%程度と一般の人々と比べても高くはなく、また歯科医院でのクラスター発生もほとんど報告されていません。この研究もそれを裏付ける結果となりました。しかし、サンプル収集時期は昨年の初夏とあり、デルタ株など感染力の強い変異ウイルスの比率が高くなっている現在とは状況が異なる可能性があります。今後も少しの油断も許されません。

 当院でも、常に患者さんの安全に万全を期して診療に臨んでいます。気持ちを引き締めて、感染対策に取り組んでいきたいと思います。  

歯周病と新型コロナウイルス感染症重篤化との関係

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

歯周病と新型コロナウイルス感染症重篤化との関係

 歯周病と全身疾患との関係については、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、誤飲性肺炎、ある種のがんなど、これまでも幾度となく取り上げてきました。一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、糖尿病、高血圧、心筋梗塞といった心血管障害などの基礎疾患あるいは高齢、肥満により重篤化しやすいことがこれまでの研究で明らかにされていますが、歯周病との関係はあまりわかっていませんでした。今年に入って、歯周病とCOVID-19の重篤化との関係を調査した研究が出てきており、注目されています。

歯周病がCOVID-19の重篤化に影響する?

 研究論文(J Clin Periodontol. 48:483-491, 2021)では2020年2月27日から7月31日まで、中東のカタールで歯科記録がある18歳以上のCOVID-19陽性患者568人において、歯周病の程度とCOVID-19の重篤化との関係について調べました。

 568人中40人がCOVID-19で合併症を伴った重症例であり、残りの528人は特に合併症もなく、重症化を示さず回復しています。歯周病の進行度は、レントゲンで確認できる歯の周りの歯槽骨が減少する度合いによって評価されました。性別、年齢、喫煙、糖尿病、肥満、その他の基礎疾患など、COVID-19の重篤化に密接に関係する要因は、統計的有意差を判定するうえで全て考慮、調整されました。

 その結果、歯周病の進行度とCOVID-19による(1)合併症、(2)死亡、(3)ICU入室、(4)人工呼吸器の使用などの重篤化の各々について、全て統計的な有意差を持って関連性が見られました。すなわち、重度の歯周病を患っている人ほどCOVID-19が重篤化する傾向が認められました。一方で、歯周病がないか、あっても軽度の方は、COVID-19の重篤化率は低いことが明らかになりました。

この研究から考えられること

歯周病は、糖尿病、循環器疾患、慢性呼吸器疾患、がんなどの非感染性疾患と密接な関係があるとの研究が蓄積されてきています。これらの疾患はNCDs(Non-communicable diseases)と言われ、世界の全死亡における最大の死因として問題視されており、歯周病を軽視すべきではないと認識する人は医学、歯学会でますます増えています。

 今回の研究で、歯周病がCOVID-19の重篤化のリスクファクターでもある可能性が示唆され、歯周病予防の重要性を再認識させられる結果となりました。日頃の口腔清掃の徹底と定期的な口腔検査および歯のクリーニングを継続し、全身の健康にもつなげたいものですね。

パンデミックで歯科受診できない子どもが増える?

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パンデミックで歯科受診できない子どもが増える?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延が社会に与えている影響は計り知れません。デンタル・ケアも例外ではなさそうです。

つい最近、米国歯科医師会誌に、コロナ禍で経済的損失のあった家庭における医科および歯科の受診状況を調べた興味深い論文が発表されました。今回は、これを中心に書いていこうと思います。

研究の背景    

この研究論文(JADA2021: 152(5): 369-376)は「What is the association between income loss during the COVID-19 pandemic and children’s dental care?」と題し、ピッツバーグ大学歯学部とジャクリーヌ・ブルゲーテ氏などのリサーチによりまとめられたものです。パンデミックに付随した失業および収入減という環境にある中で、どのくらい歯科診療に行きたい子どもに(受診の必要があるにもかかわらず)応じることができなくなったかについては、これまでよくわかっていませんでした。

 こうした事情を背景に、ピッツバーグ市内の348家庭で2020年の6月25日から7月2日の期間、保護者の自己申告に基づき調査が行われました。すると、40%の家庭が失業または収入減などパンデミックの影響があったと回答しました。

医科より歯科がパンデミックの影響大     

論文では、経済的損失のあった家庭は子どもの医科診療および(新型コロナウイルス以外の)ワクチン接種が5%低いと報告されています。さらに、子どもの歯科診療では16%も低くなりました。この結果から、失業あるいは収入減という経済的損失と子どもの歯科未受診には、高い相関が認められます(危険率P=0.022)。

 パンデミックに付随した失業および収入減という環境下において、子どもが歯科診療を受けたい場合でも要求に応じることができなくなったケースは、医科診療の場合より3倍も高く、かなり日常的な現象になっていることがわかります。パンデミックによる子どもの歯科治療へのアクセス低下が続くのであれば、従来の診療方針とは異なっても、革新的な方法が求められます。たとえば、遠隔歯科治療(Teledentistry)、あるいはプライマリー・ケアの段階における予防処置などを用いて、歯科治療へのアクセスを向上させる必要があるでしょう。

まとめ     

コロナ禍で、子どもが歯科治療を受けたくても、経済的に受けさせてあげられない家庭が増えているようです。医科よりも影響を受けている可能性が高く、また、大人でも同様のことが考えられるため、新たな社会問題と言えるでしょう。経済的理由あるいは感染を恐れての来院の減少が健康の悪化につながらないように、業界はもちろん行政や民間も連携し、さまざまな策を講じて対処していかなればなりません。

歯科治療前にマウスウォッシュで口をゆすぐ理由

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歯科治療前にマウスウォッシュで口をゆすぐ理由

 コロナ禍に見舞われて1年以上が経ち、アメリカではワクチン接種も確実に進んでいますが、変異ウイルスの出現もあり、終息のめどはまだ立っているとは言えません。歯科でも院内感染の防止に取り組んでいます。歯科治療前の患者さんのマウスウォッシュ使用もそのひとつに挙げられますが、ニュージャージー州立のラトガーズ大学で興味深い研究論文が発表されましたので紹介したいと思います。      

マウスウォッシュの役割   

パンデミック以前から、歯科治療の際に細菌、ウイルスを減らし、室内への飛散を軽減する効果が期待できるとして、歯科治療前のマウスウォッシュを推奨する歯科関係者は少なくありませんでした。とはいえ、実際には徹底されていたとは言えない状況だったのですが、それがコロナ禍をきっかけに、ほぼ全ての歯科医院で歯科治療前にマウスウォッシュを使用してもらうように変わりました。アメリカの歯科医師会でも、歯科治療前にマウスウォッシュを使うことは新型コロナウイルスを不活化するのに有効であるようだと言われたのを契機に、昨年の春頃、徹底するように通達がなされました。

ラトガーズ大学の研究 (Pathogens 2021, 10(3), 272)     

ラトガーズ大学では、マウスウォッシュの主要製品である(1)リステリン、(2)コルゲートペルオキシル(1.5% オキシドール)、(3)0.12%クロルヘキシジン、(4)10%ポビドンヨード液(イソジンで知られる)を用い、それぞれの原液、段階的に薄めたものにおいて抗コロナ効果およびヒトの細胞毒性を試験管上で調べました。結果、それぞれの原液に加え、50%に薄めたリステリン、コルゲートペルオキシル、0.12%クロルヘキシジン 、および5%まで薄めた10%ポビドンヨード液も、新型コロナウイルスの感染力を完全に消滅させました

新型コロナウイルス感染対策に有効     

上記の中で細胞毒性が低いのは、リステリン、0.12%クロルヘキシジン、10%ポビドンヨード液、コルゲートペルオキシルの順でした。

 つまり、これら全てのマウスウォッシュは、たとえ唾液で薄められたとしても新型コロナウイルスの感染力をブロックするのに効果的ということになります。また、その中でも生体の細胞に優しいのは、リステリンとクロルヘキシジンであることが示唆されました。

まとめ     

歯科治療前のマウスウォッシュの使用は、コロナ禍における歯科治療の安全性向上に寄与する可能性が高いと言えます。歯科においては、マウスウォッシュの使用含め、患者さんにマスクをして来てもらう、院内の消毒を徹底する、待合室で患者さん同士が一緒にならないようにするなどして、引き続き感染防止に努めています。

新型コロナワクチンを接種して〜健康な歯でスマイルライフ

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

新型コロナワクチンを接種して

アメリカでは、着実に新型コロナワクチン接種が進んでいます。筆者は医療従事者として比較的早く新型コロナワクチン(モデルナ社)を打つことができました。今回はその体験を主に書いていきたいと思います。

ワクチン接種の予約はどうしたか?   

接種会場はワシントン州保健局のサイトで検索するとスムーズです(www.doh.wa.gov/Emergencies/COVID19/vaccine)。あるいは「Covid 19 vaccine near me」でGoogle 検索するのもいいでしょう。小生の場合は電話で予約を取りましたが、現在ではオンライン予約が多くなってきているようです。

モデルナ社ワクチン接種体験記      

●1回目

 歯科医院の全スタッフの予約が取れ、1月21日に1回目のワクチン接種を受けることができました。電話で質問した際、モデルナ社のものであることがわかっており、事前に病院のどこに行けばいいかという案内と共にモデルナ社のワクチン情報がメールで送られて来ました。当日は、医療関係者であることを示す身分証として、運転免許証を用意するように指示されました。

 接種会場に通された後、ワクチンを投与する方(小生の場合、薬剤師でした)から、ワクチンに関するもろもろの説明と、過去にひどいアレルギー反応があったか否かの質問を受けました。そして、ワクチンを左肩に筋肉注射されましたが、それほど痛みは感じませんでした。その場で、ワクチンを1回打った証明となるワクチンカードを渡されました。カードには、打った日時とワクチン会社名が記載されています。

 その後、会場内で15分間、待機するように言われました。ワクチンによるアナフィラキシー反応(即時型アレルギー)が出ないかどうかを確認するためです。正午くらいにワクチンを接種し、自宅に戻りましたが、特に問題は出ませんでした。しかし、夕方になり、注射部位辺りが少し痛くなり、腕が上がりづらい状態でした。翌日と翌々日は、腕が痛いのと少し身体がだるいかなという程度で、日常生活に支障を来すレベルではありません。以降はうそのように腕の痛みもだるさもなくなり、元の状態に戻りました。

●2回目

 2月27日の大雪の影響で1週間ほど予定が遅くなりました。注射は1回目よりも痛く、注射部位の痛みもすぐに起こりました。2回目接種の記録を記載してもらったワクチンカードを返却されると、1回目と同様にその場で15分待機して、アナフィラキシー反応が出ないことを確認した後、会場を出ました。

 その日は思ったほど副反応がなかったものの、翌日は多少の悪寒がして、身体がだるく、疲労感を感じました。発熱はありません。翌々日は午前中に倦怠感を覚えていましたが、午後には快調になり、注射部位の痛みもほとんど感じられませんでした。    

まとめ     

自分の副反応は比較的軽いもので終わったように思います。しかし、他のスタッフや友人の話を聞くと、2回目のほうが、発熱、関節痛、頭痛等の副反応が強く出る傾向があるようです。

 2回目のワクチン接種を終えても、以前と変わらぬ感染防御を心がけていますが、守られているという安心感があります。ご参考までに。

コロナ禍で虫歯が悪化? 〜健康な歯でスマイルライフ

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

コロナ禍で虫歯が悪化?

コロナ禍も約1年が経過し、社会の激動ぶりには驚くばかりですが、歯科の世界も大きく変化することを迫られているように感じます。まだまだデータが十分ではなく結論付けるのは早過ぎると言わざるを得ないのですが、今回はコロナ禍での歯科の現状について書いていきたいと思います。 

コロナ禍における現時点での歯科受診    

正確なデータは日米共に出ていないようですが、昨年の春、ロックダウンなどの影響で患者数が激減した歯科医院が多かったのは間違いありません。現在はというと、当院での経験、歯科医の友人の情報およびインターネットからの情報などから総合的に考えても、コロナ前の80〜90%まで戻ってきている歯科医院が多いようです。

歯科医師会等の勧告もあり、以前にも増して歯科医院における感染防御体制が強化されているのは間違いありません。具体的には、以下になります。

(1) 受付・待合室でのパネルや空気清浄機などの設置およびアルコール消毒の徹底。

(2) 患者さん同士が待合室で一緒にならないようにする。

(3) 患者さんおよびスタッフの体温を測定。患者さんの体温が37.5度以上の場合は診療を延期。スタッフに熱がある場合は仕事を休ませ、風邪の症状があればPCR検査を行い、陰性が証明されるまで業務を控えてもらう。

(4) 使い捨てのガウン、キャップ、フェイスガード、マスク、グローブの装備を徹底。

(5)1度使用した診療ルームは、30分程度は患者さんを入れないように心がける。次の患者さんは別の診療ルームで治療を行う。     

歯科を受診するリスクと受診しないリスク      

前述のような歯科医院側の対応もあって、患者さんが歯科医院で新型コロナウイルスに感染したと思われるケースは、ほとんど見かけません。コロナ禍での歯科診療に対する慎重な意見も、以前ほど聞かなくなっています。また、歯科従事者のワクチン接種もアメリカでは始まっており、歯科医院でコロナに感染するリスクはさらに下がるものと考えられます。

今、多くの歯科医が感じているのは、コロナ禍で歯科の受診を控える人が増えたせいか、虫歯が悪化し、歯が大きく壊れたり、歯肉が腫れたりして緊急で来院する患者さんが目立っているということです。コロナ禍で口腔内の環境が悪くなっているという科学的な根拠はまだ不十分なものの、その可能性は高いと考える歯科医は、筆者も含め少なくないと思われます。

まとめ     

コロナ禍では、虫歯など口腔内の環境が悪化している人が多いように感じます。

口腔内の環境の悪化により、新型コロナウイルス感染のリスクが高まる可能性を指摘する研究者もいます。日々の口腔清掃、歯科の定期健診を継続し、口腔および全身の健康の維持につなげることが大切と言えるでしょう。1日も早く、このコロナ禍が収束し、日常生活を取り戻せるようになるといいですね。

参考リンク:https://theharrispoll.com/americans-pandemic-mental-health/

キシリトールで下痢? 〜健康な歯でスマイルライフ

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

キシリトールで下痢?

先日、日本語の無料Q&Aサイトで歯科のトピックを見ていたところ、「キシリトール入りのガムをひと粒食べたら下痢をしました。そういうことってあり得ますか?」という質問を見かけました。小生、キシリトールでは下痢の経験がないものの、他の甘味料入りチョコレートを少し食べただけで下痢をするので、興味深く拝読。そして今回、この話題を取り上げることにしました。

安全で虫歯予防に効果的とうたわれるキシリトールは、いろいろなサプリメントにも添加され、広く使われている甘味料です。下痢の問題を含めて、改めて解説していきたいと思います。

キシリトールとは?   

キシリトールは自然界に広く存在する糖アルコールの一種です。昔からフィンランドなどの北欧でシラカバやカシの木から取れる天然甘味料として知られていました。そのフィンランドで虫歯が少ないことがわかり、原因を探っていくうちにキシリトール摂取に行き着き、歯科でがぜん注目されるようになったのです。現在では、歯磨き粉、ガム、キャンディー、洗口液などの製品開発に応用されています。

キシリトールは砂糖と同じくらいの甘さがありますが、カロリーは砂糖の約3/4です。歯科でのメリットとしては以下が挙げられます。

1.虫歯の原因にならない(キシリトールは、食     べても酸が発生しない)。

2.唾液の分泌と再石灰化を促進し、虫歯になり     にくい口内環境を整えてくれる。

3.ミュータンス菌の増殖を防ぎ、健康な口内細     菌叢(さいきんそう)のバランス形成を促す。 

キシリトールの効果的な食べ方      

1日5グラム以上、回数を分けて朝昼晩と摂取するのが効果的です。キシリトール100%のガムなら、4粒程度です。2週間でプラークが減り始め、3カ月続けると虫歯のリスクが下がり、1〜2年続けると、その効果が持続すると言われています。

ただし、キシリトールを1度に大量(20〜30グラム以上)に食べると、お腹が緩くなってしまうことがあります。個人の体質によっては、ガムひと粒でも下痢をしてしまう場合があるかもしれません。これは、キシリトールやソルビトールのような糖アルコールは、小腸で消化、吸収がされにくいため、その吸収されなかった糖アルコールを一生懸命消化しようと腸管壁から水分が引き出され、大腸の中の水分が増加することで下痢をしやすくなるからだとされます。

なお、キシリトールは、犬などのペットには禁忌です。インスリン分泌を異常に促進させるため、低血糖を引き起こして死亡する例も報告されています。注意しましょう。

まとめ     

虫歯になりやすい方はキシリトールを有効に使うといいかもしれません。しかし、一方で体質的に合わず、少量でも下痢をしてしまう可能性もあり、その点は注意が必要です。

歯の根元にできる段差やくぼみの原因

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

歯の根元にできる段差やくぼみの原因

以前にもこのコラムで紹介した歯のくさび状欠損ですが、歯の痛みを伴い、歯の神経治療に至ったケースを2、3見かけたので、再度取り上げたいと思います。

今回は、その原因について、さらに深堀りして解説していきます。

歯のくさび状欠損とは?    

くさび状欠損とは、歯と歯肉の境目に位置する歯頚部という歯の根元で、歯質のくさび状のシャープな欠損(段差やくぼみ)が生じ、深く削れている状態を指し、細菌感染が原因で起こります。虫歯とは全く異なるメカニズムで起こるものです。

軽度のものは、治療の必要がないかもしれません。欠損部が深く、大きくなった場合には知覚過敏や虫歯になりやすく、もっとひどくなると歯が割れる原因になり、歯の神経(歯髄)に感染を起こすので治療が必要です。

歯のくさび状欠損ができる理由      

どうして起こるのか、いまだに全てわかっているわけではなく、専門家の間でも議論の的になっています。

昔は、摩耗が原因と言われ、歯ブラシによる強い力での乱暴な歯磨きなどで歯頚部の歯がすり減ると考えられていました。しかし、歯ブラシでいくら強く磨いても、このようなくさび状欠損はできづらい、あるいはできないことがわかってきました。

現在では、かんだり、食いしばったりする時の物理的なストレスが歯の中心部(歯頚部)に集中し、歯の根元のエナメル質およびその周囲の象牙質が破壊され、シャープなくさび状の欠損になるという説が圧倒的に支持されています。エナメル質はとても薄いため、物理的に弱く、また、歯の根元は硬さの異なる象牙質やセメント質と接している部分なので、力が加わった場合に2つの異なる材質間で大きなひずみの差が生じやすく、壊れやすいと考えられています。

くさび状欠損は歯の表側(唇や頬の側)にできることが圧倒的に多いのですが、これもまだ完全に原因がわかっているわけではありません。歯ぎしりや食いしばりによる力の集中が表側に多いと言われること、また、歯の裏側は唾液の量が5倍ほど多く、それにより守られていることなどが要因と見られています。    

歯のくさび状欠損の治療     

くさび状欠損に限らず、原因の除去が第一に行うべき治療ですので、原因がかみ合わせにある場合は、抜本的な治療は歯の矯正ということになります。

矯正治療が何らかの原因で患者さんに受け入れられない場合は、対症療法的な治療を考えます。ナイトガードのようなマウスピースで歯をガードしつつ、くさび状の欠損部をコンポジットレジンまたはグラスアイオノマーセメントなどの白い詰め物で修復する方法が一般的です。

矯正治療やナイトガードをしない場合、詰め物をしても遅かれ早かれ取れてしまう可能性が高くなります。 

Diagnostics 2019, 9(2), 43; https://doi.org/10.3390/diagnostics9020043

 

コロナ禍で顎関節症が増える?

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

コロナ禍で顎関節症が増える?

年末になってワクチン開発にひと筋の希望の光が見えてきた一方で、新型コロナウイルス感染症の勢いは、むしろ増しています。2020年ほど、波乱に満ちた1年はなかったという方も多いのではないでしょうか? パンデミックで世界が一変し、この先に不安を持つ方も少なくないでしょう。そんな中、イスラエルのテルアビブ大学とポーランドのヴロツワフ大学の共同研究により、不安と直結すると考えられている歯ぎしり、食いしばりの増加による、顎関節症および顎顔面の筋肉痛を発症する患者さんが増加しているとの報告がありました。今回は、この最新研究を中心に書いていきたいと思います。     

中年女性層に大きな影響か

イスラエルとポーランドで3〜5月の最初のロックダウン中、合計1,800人に顎関節症の症状(日中の食いしばり、夜間の歯ぎしり、顎顔面の筋肉痛など)のアンケート調査が行われました。結果を表にすると以下のようになります。

 

パンデミック前(%)

ロックダウン中(%)

全般の症状

35 47

日中の食いしばり

17 32

夜間の歯ぎしり

10 36

また、男女別、年齢別では、女性に多く、年齢は35〜50歳に多いことがわかりました。イスラエルとポーランドではコロナ禍によって感情的なストレスが増加し、その結果、顎関節症の症状が10〜25%増え、これらの症状がひどくなった割合も15%上昇していることが明らかになりました。

顎関節症の症状と治療

顎関節症の症状としては、顎関節や耳の痛み、または顎関節周辺の筋肉の痛みなどが見られます。また、顎関節が動かしにくい状態になり大きく口を開けづらい、あるいは口を開くときに耳の付け根辺りで「カクッ」「ゴリッ」といった雑音が聞こえるという場合も。その他、頭痛、肩こり、首の痛み、腰痛などを伴うこともあります。

顎関節症の治療には、薬物療法(鎮痛薬、抗うつ薬、筋弛緩薬など)、フィジカルセラピー(マッサージ、超音波、温熱など)、カウンセリング、スプリント療法(ナイトガード、マウスピースなど)、手術、日中食いしばらないように自分で心がけるといった、いくつかのアプローチがあり、これらを単独またはいくつか併用して治療を行います。

まとめ

コロナ禍では顎関節症も増えている可能性が考えられます。まずは、ストレスを抱え込まないことが大切です。前述の顎関節症の症状に思い当たった場合は、かかりつけの歯科医に相談することをお勧めします。

インターネット中毒は口腔の健康にも関係

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

インターネット中毒は口腔の健康にも関係

近年のインターネットの普及は、特に若い世代を中心に、ソーシャル・ネットワーク、ゲームなど目を見張るものがあります。このコロナ禍において、さらに加速しているのは間違いないところだと思います。一方で、日常生活が破綻するほどインターネットに依存した状態、いわゆるインターネット中毒の増加が社会問題となっています。最近、インターネット中毒が口腔の健康にも関係するという興味深い研究も出てきています。今回は、この話題を中心に書いていきます。   

インターネット中毒の影響

インターネット中毒とは、生活や仕事に不可欠ではないこと、たとえば、チャットやゲームなどのために、インターネットを毎日のように長時間にわたって使い続け、現実世界の生活に支障をきたすまでになっている状態、またはその人物を指します。過剰なインターネット利用が日常化する状況は容易に止めることができず、次第に個人的な苦悩を抱え、仕事、社会生活、経済の崩壊へとつながっていきます。

インターネット中毒は、ネガテイブな健康習慣、喫煙、アルコールや薬物の使用、不規則な食生活、過食、運動不足、不眠、うつ、引きこもり、医療への無関心などを引き起こし、健康に多大な悪影響を及ぼすことも少なくありません。具体的には、視力障害(スマホ近視/スマホ老眼)、スマホ巻き肩/スマホ肘、スマホ首、睡眠障害(生活リズムの乱れ、集中力低下)、指の腱鞘炎、指の変形(スマホの荷重を支える骨の変形)などを引き起こす可能性があることが指摘されています。

口腔の健康との関係は?

インターネット中毒と口腔の健康の関係については、これまでいくつかの研究報告(韓国:2018、サウジアラビア:2020)があります。これらの研究から、インターネット中毒の状況では、

(1)睡眠中の歯ぎしりが増える
(2)歯科のチェックアップを怠る
(3)歯磨きの回数が減る
(4)歯肉出血や不健康な歯肉が増える
(5)歯痛の増加
(6)口臭の増加
(7)未治療の虫歯の増加

などの傾向があることがわかってきました。インターネット中毒は、喫煙、アルコールや薬物の使用、不規則な食生活、医療への無関心などを引き起こすわけですから、口腔の健康に悪影響があるのも容易に想像がつきます。

まとめ

インターネットがますます世の中の生活に欠かせなくなっていく現代社会。しかし、何事も「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」です。インターネットにのめり込み過ぎて身を滅ぼすことがないよう、自戒の念も込めて、気を付けたいものですね。

緑茶を飲む社交的な高齢者は歯が健康?

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

緑茶を飲む社交的な高齢者は歯が健康?

お茶というものは、水を除くと世界で最も摂取されている飲み物と聞きます。そんなお茶の中で、緑茶が飲まれている割合は20%程度に過ぎません。しかしながら、緑茶は全身のみならず口腔の健康にもさまざまな有益な作用が報告されており、このコラムでも何度か取り上げてきました。今年に入り、東北大学で緑茶にまつわる興味深い研究が発表されました。今回はこの研究を中心に、緑茶の歯における有益な効果について書いていきたいと思います。   

緑茶の主な成分と健康効果

緑茶に含まれる成分には、以下のように健康に有益な効果がさまざま示唆されています。特に下線のあるものが口腔関係です。

①カテキン類:ポリフェノールの一種。抗酸化作用、抗菌作用、血中コレステロールの低下、がん予防、抗インフルエンザ作用、血圧上昇抑制、抗肥満作用、虫歯予防、歯周病予防、口臭予防。

②ビタミンC:抗酸化作用、免疫力アップ、コラーゲン形成促進による皮膚粘膜の健康維持。

③カフェイン:疲労感の除去、覚醒作用。

④テアニン:お茶のうまみ成分。神経細胞保護作用、リラックス作用、認知症予防。

⑤フッ素:虫歯予防。

⑥ビタミンE:抗酸化作用、生活習慣病予防。

⑦タンニン:渋み成分。整腸作用、抗酸化作用、生活習慣病予防。

⑧サポニン:殺菌・抗菌作用、抗インフルエンザ作用

緑茶と社交と残存歯数の関係

東北大学は今年3月に高齢者の緑茶摂取と歯の本数、交友ネットワークの多寡に関する調査を行いました(Int J Environ Res Public Health. 2020 Mar; 17: 2052)。その結果、緑茶を1日に4杯以上飲む高齢者は、緑茶を飲まない高齢者に比べ、約1.6本多く歯が残っていることが明らかになりました。1カ月に会う友人・知人の数が少ないほど、緑茶と残存歯数の関連が強い傾向でした。また、1カ月に10人以上の友人に会う高齢者は、友人にあまり会わない高齢者に比べ、約2.6本多く歯が残っていました。緑茶を1日4杯以上飲み、会う友人・知人が多いことは、自分の歯を多く残すことにつながり、歯の健康に有意義であることが示されました。 

まとめ

緑茶と社交性は歯の健康にも重要なようです。一方、あまり濃い緑茶の取り過ぎは、睡眠障害、歯の着色、ある種の薬の作用を妨げるというマイナスな面も考えられます。薬を飲む時は緑茶でなく、水を使いましょう。緑茶を正しく上手に使って、全身および口腔の健康に役立てたいですね。

中高年の歯の変色はテトラサイクリン歯?

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中高年の歯の変色はテトラサイクリン歯?

先日、前歯を中心に黄色から灰色の変色が見られる患者さんを診察しました。歯科医ならピンとくるテトラサイクリン歯、すなわちテトラサイクリンという抗生物質の副作用で歯が永久的に変色してしまったケースと思われました。このテトラサイクリン、歯科ではこの副作用のせいで実に有名な存在なのですが、悪い作用ばかりではありません。今回はテトラサイクリンと歯科との関わりについて書いていきたいと思います。    

テトラサイクリン系抗生物質の副作用

テトラサイクリン系の抗生物質は、ニキビなどの皮膚、腸管系、呼吸器系、尿路系、生殖器系、リンパ系など、実にさまざまな臓器、組織の感染症に使われている抗生物質です。

テトラサイクリンは、妊婦や8歳未満の子どもへの投与は禁忌とされています。妊娠中の場合は、胎児の骨や乳歯に障害が出る場合があるからです。また、永久歯の形成期である出生直後から8歳頃までにテトラサイクリン系の抗生物質を投与された場合も永久歯の着色を起こすことがあるとされています。

テトラサイクリン系の抗生物質は、かつてはマイコプラズマ肺炎や百日咳の特効薬、また風邪薬のシロップとして用いられてきました。しかし、歯に変色を生じることが認められ、これらの治療にほとんど使われなくなっています。1970年代ごろにはよく使われていたため、テトラサイクリン歯は40代〜50代の方によく見られます。

テトラサイクリンは鉄や亜鉛、カルシウムと結合しやすいという性質があるため、形成中の歯に含まれるカルシウムと結び付き、象牙質やセメント質の中に沈着して着色が起こります。この着色は永久的で、着色の程度はテトラサイクリンの量、投与期間や投与時期によって軽度から重度までまちまちです。

テトラサイクリンの歯科での良い作用

歯科ではテトラサイクリンの副作用がまず思い浮かぶのですが、一方で好ましい作用もあります。今から30年ほど前、テトラサイクリンには、骨の吸収や破壊に関係する酵素である、コラゲナーゼやメタロプロテナーゼの働きを阻害するという作用があることがわかりました。歯槽骨を破壊する歯周病の予防や治療には極めて良い作用であり、歯周ポケットにミノマイシンなどのテトラサイクリン系の抗生物質の局所投与が広く使用されています。

テトラサイクリンにより変色した歯の治療

それでは、テトラサイクリンで変色した歯を審美的に改善するにはどのような方法があるのでしょう? 軽度であれば、歯のホワイトニングが効果的です。しかし、重度であれば、ホワイトニングよりもセラミックベニアクラウンなどで治療しないと改善されない場合もあります。また、ホワイトニング後にベニアクラウンを装着するのがベストなことも。歯科医と最善の方法を検討してみるといいでしょう。

ビフィズス菌が虫歯に関係?

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ビフィズス菌が虫歯に関係?

腸内細菌の善玉菌として知られ、発酵乳製品にも広く添加されているビフィズス菌(Bifidobacterium)。最近、東北大学で、ビフィズス菌が小児の虫歯に関係するという研究成果が発表されました。今回はこの研究について書いていきたいと思います。   

東北大学の研究

今年5月、東北大学歯学部の研究グループは、重度の小児う蝕(虫歯)患者から特徴的に検出されることが知られているビフィズス菌の虫歯誘発機能の一端について明らかにしました(Frontiers in Microbiology, 2020)。ビフィズス菌は主に腸内に生息し、酸性化することで良好な腸内環境を作る善玉菌として有名ですが、近年の研究により、口腔内、特に重度の小児う蝕患者から多く検出されることが明らかになってきていました。

その原因を解明すべく、今回の研究では、ビフィズス菌を代表的なう蝕関連細菌であるストレプトコッカス・ミュータンス菌と比較検討しました。

子どもの虫歯予防に見直しが必要か

研究の結果、ビフィズス菌は糖をエサに4:1の割合で酢酸と乳酸を産出し、代謝産物は酢酸が主体だとわかりました。一方、ミュータンス菌は主に乳酸を産生します。pHの低い酸性環境下では、酢酸のほうが歯の内部に浸透しやすいことが報告されています。つまり、ビフィズス菌のほうが、酸性の条件下では、より深い虫歯を誘発しやすい可能性が高くなると、研究グループは考察しています。

また、ビフィズス菌はブドウ糖(グルコース)よりも乳糖(ラクトース)をエサにしたほうが、糖代謝の効率を促進し、より多くの酸を産生することも明らかになりました。小児期は乳糖を多く含む母乳や牛乳をよく口にしていることから、乳児のう蝕予防法について、再考する必要がありそうです。

フッ素の虫歯予防効果にも影響

う蝕の予防法のひとつとして挙げられるフッ化物の利用についても、こんな報告があります。フッ化物の利点とされる、細菌の糖代謝に関わる代謝酵素の働きを阻害し、酸の排出を抑える働きについて、ビフィズス菌においては、酸産生を完全に抑えることができなかったというものです。

つまり、ビフィズス菌が関係した虫歯には、フッ素の効果が半減する可能性があると言えます。

まとめ

腸内細菌の善玉菌であるビフィズス菌は、多くの発酵乳製品に含まれています。これらを口にしてそのまま寝てしまうと、そのほとんどに砂糖も含まれることから、特に小児においては深刻な虫歯を引き起こす可能性も否定できません。

子どもを寝かしつけるのにこのような製品を使うのは、やめたほうが良さそうです。くれぐれも気を付けましょう。

免疫抑制剤が歯周病を改善させる?

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

免疫抑制剤が歯周病を改善させる?

日々、患者さんの口腔内を診ていると、歯周病が免疫と関わっていることを実感させられます。歯周病の原因は大部分が口腔内細菌によるものと考えられていますが、同じように口腔内をきれいにしても、患者さんによって歯肉の炎症度合いは実にさまざまです。歯周病体質はやはりあるのだと、歯科医なら誰しも感じていると思います。ラパマイシン(またはシロリムス)という臓器移植の際に拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤がありますが、これがマウスの寿命を長くし、しかも歯周病を改善させるという研究論文が最近ワシントン大学において発表されました。このラパマイシンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に有効である可能性を示唆する論文も出ていて、とても興味深いのです。今回は、免疫抑制剤と歯周病の関係を中心に新型コロナについても書いていきたいと思います。

マウスにおけるラパマイシンと歯周病に関する研究(eLIFE:April, 2020)

歯周病は年齢と共に進行する病気と言えます。一方、免疫抑制剤として知られるラパマイシンは、生後20カ月の高齢マウスに投与すると、マウスの寿命を28~38%延ばすことが知られています。ワシントン大学の研究グループは、寿命を長くする、すなわち老化を抑制する薬剤は、歯周病の進行を遅らせるのではないかと考え、ラパマイシンが高齢マウスの歯周病に及ぼす影響について調べました。 この結果、ラパマイシンを投与されたマウスは、投与されていないグループと比べ、有意に歯槽骨の量が増加。歯肉の炎症の程度も少なく、口腔細菌の構成においても健康なグループに見られる構成になっていることが明らかになりました。この研究から、老化を遅らせるような薬剤は歯周病治療に有用となる可能性が見込まれます。しかし、ラパマイシン自体は副作用も多く、長期にわたって使用すると感染に弱くなり、また糖尿病の発生も増やすので、実際のヒトにおける使用には、多くの克服しなければならない課題が残されています。

免疫抑制剤と新型コロナ

最近、ラパマイシンを始めデキサメタゾンなどの免疫抑制剤が新型コロナ罹患者の致死率を下げるという研究も出てきており、これらの薬剤に注目が集まっています。新型コロナ感染による体内の過剰免疫反応(サイトカインストーム)を免疫抑制剤が抑えることによって、重症化しても改善効果が期待できると言われています。    

まとめ

歯周病の治療には、原因である細菌をコントロールすることが大切とされてきました。しかし、今後は免疫からのアプローチが治療のカギとなる可能性がありそうです。

ワシントン州でも歯科診療再開の動き

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ワシントン州でも歯科診療再開の動き

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、ワシントン州においては3月23日に自宅待機命令が出され、歯科診療も緊急の治療を除き、約2カ月間の営業自粛が続いていました。そして5月18日、通常の歯科治療が再開となりました。再開に当たっては、これまでの歯科医院における対応とは異なる点が、いくつか出てくるかと思います。今回は、再開後の歯科での新しい取り組みについて書いていきます。

待合室での対応

患者さん同士の接触を可能な限り避ける対策が取られます。待合室に入る人数を可能な限り少なくする必要があり、本人のみか、多くても同伴者ひとりまでの入室となるでしょう。他の同伴者は車で待機、または別の場所で待ってもらうことになります。次の患者さんにしても、待合室にいることは原則なくなり、車内か別の場所での待機をお願いします。前の患者さんが完全に退出してから、お呼びする形になると思います。

予約や受付の方法

待合室が混み合わないように、患者さんひとりひとりにゆとりを持たせる予約の取り方に変更されます。受付では体温測定を実施し、37℃(98.6℉)以上ある方、および風邪症状のある方には、受診を控えてもらいます。また、診療室に入る前に、手指の消毒もお願いすることになります。    

歯科治療での新型コロナ感染リスクは?

院内では待合室、診療室のドアノブ、テーブル、椅子などのアルコール消毒を徹底します。待合室での密集を防ぐこと、また院内の消毒を徹底することで、患者さんの感染リスクは低く抑えられると考えます。歯科医療従事者は手袋、マスク、ファイスシールドなどで万全を期すため、患者さんが歯科医療従事者から新型コロナに感染するリスクはほとんどないはずです。 歯科診療によるエアロゾル発生が懸念されています。しかし、この感染リスクは、むしろ歯科医療従事者側に対するものです。エアロゾルに関しても、診療後のアルコール噴射や診療室の消毒を徹底すること、そして次の患者さんに別室を使ってもらうことで、感染を防ぐことができると考えています。

われわれ歯科医療従事者は、インフルエンザや血液を介した感染症などのリスクに常々さらされており、いかなる感染症にも対応すべく滅菌消毒には十分注意してきました。このコロナ禍の状況では、マスクの質を高めたりフェイスシールドを装着したりと、感染防御レベルをさらに上げて対応します。患者さんはもちろん、歯科医療従事者自身においても、安全を守ることを最優先に診療を行いますので、安心して歯科医院に来てもらえればと思います。 

まとめ

口腔環境の悪化は、全身免疫の低下につながります。つまり、歯科治療には新型コロナ感染予防の側面もあるのです。私自身、2カ月もの間、通常の歯科診療、定期検診などはできずにいました。当院で皆さまと再会できる日を楽しみにしています。  

フロスの習慣や歯科健診と口腔細菌の関係

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フロスの習慣や歯科健診と口腔細菌の関係

歯ブラシ、フロスで口の中をきれいに保ち、定期的に歯科健診を受けることが全身の健康につながると、このコラムでも繰り返しお伝えしてきました。最近、コロラド州立大学で、こうした口腔衛生の習慣と口腔内の細菌に関する興味深い研究が行われましたので、新型コロナウイルス感染症の続報も含め、書いていきたいと思います。

コロラド州立大学の研究の概要

コロラド州立大学の研究(Scientific Report 10:2133, 2020)で、デンバーの博物館において366人(181人の成人と185人の未成年)の頬粘膜をぬぐって検体採取を行い、口腔内の細菌について調べた結果は以下の通りです。

① フロスを使用するグループは、フロスをしないグループに比べ、細菌の多様性が低かった。
② 成人において、過去3カ月以内に歯科を受診したグループは、受診しなかったグループに比べて細菌の多様性が低く、12カ月以上歯科を受診しなかったグループとの比較では、トレポネーマ(歯周病を引き起こす有力な細菌のひとつ)の出現率が低かった。
③ 未成年のグループにおいては、肥満があるとトレポネーマの保有率が高かった。
④ 同居する家族間で、保有する細菌の構成が類似していた。

この研究結果は、フロスなどの口腔衛生の習慣および定期的な歯科健診が健康維持にとって重要であることを示唆しています。また、未成年においては、肥満が歯周病のリスク要因となり、肥満の防止は口腔内の健康にも良い影響をもたらすことがわかります。

BCGは新型コロナウイルス感染予防になる?

BCGは結核の予防接種ですが、新型コロナウイルス感染を防ぐ効果が噂されています。BCG予防接種を行う国のほうが、行わない国に比べて新型コロナウイルスによる死亡者数が少ない傾向が見られるからです。しかし、まだ科学的結論には至っていません。臨床試験の結果を待たないと、はっきりしたことは言えないようです。   

新型コロナウイルスと嗅覚・味覚の異常

嗅覚異常や味覚異常が起こったことがヒントになり、新型コロナウイルス感染を発見できたという報告が相次いでいます。この嗅覚や味覚の異常は必ずしも新型コロナウイルスで特徴的というわけではなく、インフルエンザにも見られる症状のひとつです。ただ、新型コロナウイルスが蔓延しているこの時期に起こった場合は、新型コロナウイルス感染を疑っていいのかもしれません。  

ワシントン州における歯科の現状

州政府の命令により、歯科の診療に関しては5月18日まで、緊急の症例を除いて歯科の診療は停止されています。今後、感染状況次第で歯科治療も日常を取り戻すと思われますが、州政府の緩和措置があっても、ビジネス再開の時期については各診療所で判断が異なるでしょう。診療所によっては感染防御用の装備が不足していたり、スタッフの確保に問題が生じたりする可能性も考えられるからです。  

新型コロナウイルス感染症と歯科(その2)

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出 修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

新型コロナウイルス感染症と歯科(その2)

新型コロナウイルス感染症は欧米でも猛威を振るい、大混乱の日々となっています。新たな感染症ひとつで、ここまで全世界が激変するとは予想だにしていなかったのではないでしょうか。

影響は歯科医の仕事にも及び、3月19日より2カ月間、緊急の歯科治療(痛み、感染を伴い、3〜6カ月程度治療できないと身体に問題が起こると思われるケース)を除いて、クリーニングなどルーティンの口腔ケアは当面行わないよう、ワシントン州から命令が出されています。医療機関で感染防護のためのマスク、手袋、ガウンなどが不足しており、その対策としての措置ですが、不便をおかけすることがあるかもしれません。今回は、新型コロナウイルス感染症と歯科に関して、前回に引き続き書いていきたいと思います。

イブプロフェンで症状が悪化する?

最近、イブプロフェン(Ibuprofen、Advil、Motrin)についての情報が錯そうしています。国際保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染症では症状を悪化させる可能性があるため、イブプロフェン服用は控えるよう呼びかけていましたが、後に十分なエビデンスが得られていないとし、控える勧告はしないと方針を変えました。いずれにせよ副作用はあるので、解熱目的であればアセトアミノフェンを使ったほうが安全だと思われます。 

新型コロナウイルスが恐れられている理由

ちょっとタチの悪い風邪やインフルエンザの一種くらいに捉えるなら、確かに健康な人にとっては1、2週間で治る疾患と言え、何も恐れることはないのかもしれません。しかし、何が怖いかと言えば、(1)未知の疾患であること、(2)高齢者や基礎疾患を持つ人は肺炎に移行し、重篤化しやすいこと、(3)まだ有効な薬が見つかっていないこと、(4)予防のワクチンが見つかっていないことだと思います。感染力がインフルエンザよりも強いと思われますので、このウイルスが地球上から完全に消滅することは難しく、インフルエンザのように来年以降も感染は小規模で起こる可能性が高いと言われています。

他の呼吸器系ウイルス疾患のように、高温多湿に弱い傾向があるかもしれないので(否定的意見も多い)、地域によっては夏にかけてウイルスの勢力が弱まる可能性も考えられます(まだ確証は得られておらず、冷房により高温多湿の効果がなくなる恐れも)。何はともあれ、1日も早い終息が望まれるのは間違いありません。 

緊急の場合、歯科治療はどうする?

こんな状況下でも、歯が痛い、歯肉が腫れた、クラウンが壊れたなど、困ったことは起きるものです。このような場合は、かかりつけの歯科医院に相談してください。臨時休業中にどのような応対ができるかは歯科医院にもよりますが、まずは希望を伝えましょう。また、緊急の歯科受診とならないように、日頃の歯ブラシ、フロスなど家庭での口腔ケアはいつも以上に気を付けたいものです。 

新型コロナウイルス感染症と歯科

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

新型コロナウイルス感染症と歯科

中国湖北省武漢で発生したとされる新型コロナウイルス(COVID-19)感染症が世界的な広がりを見せています。日本でも、ここワシントン州でも、市中感染のステージに突入し、国を挙げて感染拡大の防止に取り組んでいます。歯科が治療の主体となる疾患ではありませんが、無関係と言い切れません。今回は新型コロナウイルス感染症を取り上げ、考えられる歯科との関連も書いていきたいと思います。

新型コロナウイルスと感染経路

コロナウイルス(Coronavirus)は、哺乳類や鳥類に病気をまき散らすウイルスのひとつで、ヒトにおいては風邪を含む呼吸器感染症を引き起こします。中でもSARS、MERSおよび今回のCOVID-19 のような新型ウイルスは、重篤な呼吸器感染症につながり、場合によっては死に至ることがあります。ウイルス粒子の特徴的な外観(王冠または太陽コロナを連想させる周縁)からその名が付き、ウイルスは二重構造の脂質の膜を有するためアルコールで壊れやすく、アルコール消毒が有効です。

遺伝子の解析から、SARSウイルスとの類似性が認められ、由来はコウモリと言われますが、コウモリからヒトへの感染経路の途中で介在するであろう動物は、現時点では明らかにされていません。飛沫感染や接触感染が主な感染経路で、ヒトからヒトへの感染が認められ、感染力は強く、インフルエンザの2、3倍とされます。インフルエンザの死亡率0.1%に対し、新型コロナウイルス感染症の場合は2%程度(インフルエンザの20倍)で、免疫力の弱い高齢者を中心に比較的肺炎に移行しやすいのが特徴です。厄介なのは、その症状が多様で、潜伏期間も1〜24日と幅があり、症状が出ない陽性患者からもウイルスは排出され、他人に感染させることがあります。

最近では、感染力の弱いS型(30%)と感染力の強いL型(70%)に分類できるとの報告もあり、ウイルスが感染途中で変異する可能性も示唆されています。

新型コロナウイルス感染予防法

通常のインフルエンザウイルスと同様の感染予防法が有効と考えられています。手指を石けんと温水で洗い、アルコール消毒も併用するとなお良く、うがい、外出先での良質なマスク着用なども予防策として挙げられます(ただし、マスクの有効性に関しては結論が出ていません)。人混みを避けることも重要で、十分な睡眠を取り、普段から免疫力を高める生活習慣を心がけることも大切だと思われます。

歯科の観点から予防するには

ウイルスは、痰やだ液でベタベタの環境でより長く生存できるため、予防には石けんでの手洗い、手指および周囲をアルコールでよくふき取ることです。また、口腔衛生が良い方がインフルエンザにも肺炎にもかかりにくいと言われており、口腔衛生の徹底は新型コロナウイルス予防にも有効と考えられます。

皆さま、くれぐれも注意してください。この感染症が1日も早く終息することを願うばかりです。

ルートキャナルの外科的治療法

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

ルートキャナルの外科的治療法

ルートキャナルは、虫歯が深くなった場合など、歯の神経部分(歯髄)が死んだり、炎症が強くて回復の見込みがなかったりしても、自分の歯を残せるようにする治療法です。歯のかむ面に穴を開け、そこから歯根の中を掃除したうえで密閉します。しかし、治療後に感染を起こすケースが20〜30%もあります。感染が起きた場合、再びルートキャナルをやり直すほか、歯肉を開けて歯根の先端から感染源を取り除いてから歯根の先端を密閉する、外科的な方法も考えられます。今回は、このルートキャナルの外科的治療法について詳しく説明します。

どうしてルートキャナル後に感染?

治療後に感染を起こす場合、以下のような要因が考えられます。

  1. ルートキャナル自体が解剖学的に複雑。枝分かれ、わん曲、ループ状などが多く見られ、感染源が取り除き切れていないことがある
  2. ルートキャナル治療の最後の段階で密閉する際の状態が良くない
  3. 歯根の先端の外側に繁殖する細菌が感染源となっている
  4. 歯根の先端にうみの袋(のう胞、Cyst)ができ、そこが感染源になっている

 これらの要因が多く組み合わされるほど、難しい症例ということになります。

ルートキャナルを外科的に治療するには

ルートキャナルの外科的治療は、歯根の先端からアプローチする方法が一般的で、歯根の先端を少量カットする手術(歯根端切除術、Apicoectomy)をします。従来のルートキャナルの密閉に使われた材料も少量取り除き、新たにその部分を密閉(逆根充、Retrograde Filling)します。密閉する材料は、MTAセメントや、接着性の高いレジン(4メタレジン、スーパーボンドなど)が使われます。この外科的治療法で、難しいルートキャナルも完治するケースが70〜90%あると言われています。

抜歯してインプラントか、ルートキャナルか

ルートキャナルの外科的治療法ではなく、抜歯してインプラントという選択もできます。これは、自分の歯にこだわるのか、より成功率の高い治療法(ただし、技術者によるところが大きい)を望むのか、予算はどうするのかで変わってきます。詳しく説明を受けてから決めるしかありません。インプラントにしても、十分な骨の量が必要なので、抜歯後の骨の量を予測できないといけません。ルートキャナルの外科的治療法で再感染が起きた場合、さらに歯根を根元からカット(歯根切除術、Root Amputation)したり、抜歯して感染源を取り除いてから再び元の位置に戻す意図的再植術を行ったりすることが、まれにあります。しかし、歯を残したいなら十分検討に値する治療法なので、歯科医に相談すると良いでしょう。

まとめ

いずれにせよ、ルートキャナルが絡む治療には、さまざまな選択を迫られることが少なくありません。歯科医に相談しながら治療することが重要と言えます。

抜歯後はドライソケットに注意

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

抜歯後はドライソケットに注意

皆さんは抜歯後に起こり得るドライソケット(Dry Socket)という言葉を聞いたことはありますか? 抜歯した後には骨の凹み(抜歯窩)ができ、その凹みは血の塊である血餅で満たされます。この血餅が、抜歯後の治癒には重要な役割を果たします。ですが、いろいろな理由で抜歯後の凹みに血餅ができず、むき出しになった骨が過度の炎症や感染を引き起こし、激しい痛みに襲われることがあります。この治癒不全の状態を、ドライソケットと呼びます。そんな、起こって欲しくないドライソケットについて、今回は書いていきたいと思います。

ドライソケットの発生率

下顎の埋伏智歯部(親知らず)や臼歯部(奥歯)の抜歯で起こりやすいのですが、通常は5%程度と言われています。喫煙者に多く、男女共に起こり得ますが、どちらかと言うと女性に起こりやすい傾向があります。

ドライソケットの原因

下記のような原因が考えられます。

1.血液の供給不足

下顎の智歯部などの局所麻酔には通常、血管収縮薬が入っており、過度の使用により出血が抑制され、血餅ができにくくなります。抜歯で免疫力が低下すると感染が起こりやすくなり、ドライソケットになる場合があります。下顎の智歯部に関しては骨が緻密で、血管が比較的乏しく、抜歯自体も大掛かりな手術になることが多いので発生率は高まります。また喫煙は、ニコチンなどにより血管を収縮させ、血餅をできにくくします。

2.血餅の流出

過度のうがいや飲み物を飲む際のストローの使用により、抜歯窩の血餅が流出する恐れがあります。うがいは優しく行い、ストローの使用は避けるなどの注意が必要です。

3.血餅の溶解

女性ホルモン、エストロゲンの影響。特に避妊用ピルの服用は大きな要因となり得ます。女性は生理周期によって、排卵前にエストロゲン、排卵後にプロゲステロンという2つのホルモンが分泌されます。生理中は、このホルモン分泌が2つとも低下し、抵抗力が大きく落ち込みます。そのため、時期的に抜歯には適しておらず、抜歯窩の感染や炎症からドライソケットにもなりやすいと言えます。また、避妊用ピル(女性ホルモンのあるもの)は血栓の誘因になり得る一方で、血餅を溶かすように働くものもあります。避妊用ピルを服用している場合、服用開始から1〜3週目は抜歯を避け、3〜4週目の休薬時期に抜歯するのが賢明です。

まとめ

女性は生理周期を考慮し、ピルを服用している人は服用を中断して抜歯する(特に下顎の智歯部の場合)など、ドライソケットを予防するための抜歯計画をおすすめします。今回の情報を頭の片隅に入れておき、抜歯の際には注意するようにしてください。

アメリカの歯科保険最新事情

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出 修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

アメリカの歯科保険最新事情

国民皆保険の日本と違い、アメリカの歯科保険は一部の例外を除き、雇用者を通して、あるいは個人で契約する任意保険であることはご承知の通りです。日本のように政府の基金に請求する保険と異なり、保険の適用範囲はひとりひとり違うため、個々に調べるだけでも歯科医院は多大な労力を払わざるを得なくなっています。最近は、ワシントン州でよく利用される保険会社であっても、こちらがあ然とするような支払い例が出てきています。今回はその辺りを書いていきたいと思います。

インプラント上のクラウン作製の例

歯周病専門医から紹介のあった患者さんに、インプラント上のクラウン作製を依頼されました。事前に保険を調べたところ、インプラント上のクラウンだと50%を保険でカバーするとの返答があり、患者さんにも支払いについて説明をしました。治療を開始し、無事クラウンを作製したところで保険会社に請求すると、治療が安価な局部入れ歯相当の金額に減額された分しか払ってもらえませんでした。支払いの明細には、トータルで3歯以上の欠損があるケースでは、局部入れ歯の金額しか保険では支払われないとの注意書きが添付されてきました。このようなルールは事前に通知されたわけでもなく、今回の支払いの明細で初めて知ったことでした。ちょうど友人の歯科医も同じようなことが起こって憤慨していました。保険会社は突然のルール変更や支払額の減額を事前の通達なく突然行うことがあり、われわれ歯科医を困惑させるのです。支払われない分は患者さんの負担増となりますので、いちばんの被害者は患者さんということになるのかもしれません。

アメリカの保険会社は、非営利団体ではなく営利団体なので、会社の儲けには非常にシビア。経営者のトップの給与さえ会社の利潤の大小に大きく左右されるのでしょう。加入者の利益よりも自分たちの利益が最優先という現実を踏まえ、くれぐれも保険会社を選ぶ際は注意してください。

保険加入後に待機期間がある場合も

個人加入の歯科保険に多いのですが、治療したいことがあって急いで歯科保険に加入しても、受けたい治療に1年間の待機期間(Waiting Period)が設定されていることがあり、すぐに保険でカバーできないケースが少なくありません。待機期間とその対象になる治療について、歯科保険加入時にどうなっているのか事前に知っておく必要があります。保険会社から十分に説明されないことも考えられるので、自分の希望や状況に合致している保険なのかよく調べてから加入するようにしましょう。

まとめ

歯科保険でカバーされると思っていても、治療内容によっては保険会社の判断によってカバーされないこともあります。かかりつけの歯科医院とも相談して、最適な保険に加入するようにしましょう。ケースによっては、保険に加入しないことも含めて十分な検討が必要かと思われます。

歯の神経治療(ルートキャナル)で歯の寿命が縮む?

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日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

歯の神経治療(ルートキャナル)で歯の寿命が縮む?

「歯の神経治療が必要です」と言われて喜ぶ方はまずいないでしょう。「痛い」、「高額」というイメージがある一方で、歯の寿命が短くなることを恐れる方もいます。今回は、その辺の話題について書いていきたいと思います。。

歯の神経治療と歯の寿命

歯髄は、歯の中心部にあって、歯に栄養を供給し、歯の知覚や歯(象牙質)の再生に関わる組織です。虫歯が深くなり、歯髄まで及ぶと、いわゆるルートキャナルで歯髄を除去し、密閉する処置が必要になります。歯髄がなくなると、歯はまるで枯れ木のように年々脆くなります。そのため、多くのケースで土台(ポスト)を作り、クラウンを被せる治療が併せて行われます。

歯の神経治療の成功率は100%ではなく、アメリカで80%程度、日本ではそれよりもはるかに低いと言われています。歯の神経は枝分かれし、複雑な3次元構造を持つことが少なくありません。そのため、ルートキャナルを行った部分を消毒して感染源を完全に密閉することは容易でなく、成功率を下げています。また、ルートキャナル後、歯が抜歯に至るケースの多くは歯根の破折です。特に歯根部入り口の歯の削除量を多くすると歯が薄くなり、歯根の破折のリスクが高まります。昔のルートキャナルの治療では大きく削ることが多かったのですが、最近ではそれは良くないとの考えが浸透してきています。

自分の歯を残すか? 抜歯してインプラントか?

抜歯の判断は、非常に難しいものです。これまでの歯科医や患者自身の経験、好み、歯周病の状況など、自分の歯が今後どこまで残せるかという予後判断に加え、経済状況が左右するように思われます。抜歯してインプラントにする利点は、成功率が高いことかもしれません。ルートキャナルのように、再感染してやり直すリスクが比較的低いのです。しかし、手術が必要ですし、自分の歯のように歯根膜という歯と骨との間のクッションがないので、噛む衝撃が直接骨に伝わります。また、歯根の形状も自然の歯より小さくなりがちで、小さな歯根から一気に歯冠部にかけて広がる不自然なクラウンの形状になることが多いという欠点もあります。利点と欠点を踏まえたうえで、自分の歯をルートキャナルで残すか、インプラントにするかを判断することになります。

まとめ

確かに、浅い虫歯治療で済んだ歯よりも、歯の神経治療をすると歯の寿命が短くなると言えます。大きく深い治療では、歯も脆くなることが多いからです。今は材料も進化し、むき出しになった神経の部分を消毒し、生体親和性の高いセメントで密閉すると、ルートキャナルを回避できる割合が増えてきました。しかし、感染がすでに歯髄の深部にまで及んでいる場合は、ルートキャナルとなります。早め早めの治療で、ルートキャナルを回避することが賢明であることは間違いありません。

なぜトップアスリートの口の中は不健康なのか

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なぜトップアスリートの口の中は不健康なのか

トップアスリートは一般の人々よりも多く歯を磨くにもかかわらず、口腔の健康状態は必ずしも良くないとの驚きの結果が、最新のイギリスの研究により報告されています。今回はこの話題を中心に書きたいと思います。

研究の概要

『ブリティッシュ・デンタル・ジャーナル』(227:P276~280、2019年*)によると、ユニバーシティー・カレッジ・オブ・ロンドン歯科部門の研究チームは、11種目における男女352人のオリンピック選手とプロのアスリート(サイクリング、水泳、ラグビー、サッカー、ボート、ホッケー、セーリングなど)に口腔内検査を実施。虫歯、歯周病、歯の酸触症について調べました。研究者は、同時に聞き取り調査を行い、歯と歯肉を健康に保つためにしていることについて情報を収集しました。

その結果、ほぼ半数となる49.1%において、未処置の虫歯、初期の歯肉の炎症が見られ、しかも32%はそのためにトレーニングやパフォーマンスに悪影響が出ているとの報告がありました。一方で、彼らの口腔衛生のための習慣に関しては、一般人よりもむしろ良かったのです。検査を受けたトップアスリートで1日2回の歯磨きが94%、フロス使用が44%だったのに対し、一般人は1日2回の歯磨きが75%、フロス使用が21%という結果に。また、彼らは喫煙せず、日々の食生活も一般人より健康的でした。

それなのに口腔内に問題がある理由については、トップアスリートが定期的に摂取しているスポーツドリンク(87%)、エナジーバー(59%)、エナジージェル(70%)などが歯のダメージを引き起こしているのではないかと考察しています。

*Volume 227 | British Dental Journal (nature.com)

この研究からの教訓

いくら歯磨きやフロスを頑張っていても、スポーツドリンクやエナジーバーなどを頻繁に摂取すると、歯や歯肉の健康には相当悪影響を及ぼします。こうした製品には砂糖が多く含まれており、そのほとんどが強酸性のため、歯のダメージにつながってしまいます。

また、カフェインが含まれる場合も多く、カフェインによる唾液分泌減少から、口腔乾燥症を引き起こしている可能性もあります。口腔乾燥症になれば、虫歯にも歯周病にもかかりやすくなります。

対策として、これらの製品を利用する頻度や時間の軽減、高濃度のフッ素入り歯磨き剤の使用などが求められます。

まとめ

スポーツ界で活躍するトップアスリートと歯科の連携も、これからより進むでしょう。トップアスリートの口腔状態を守る改善が急務だと考えます。

前歯をぶつけて歯が抜けてしまった時の対処法

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前歯をぶつけて歯が抜けてしまった時の対処法

転倒事故や自転車、けんかで、あるいは野球やフットボールなどの試合や練習中に、前歯をぶつけることがあります。抜けた場合の正しい対処法はどうなんでしょう? 今回は、歯の外傷で歯が脱臼して抜けた場合を想定して書いていこうと思います。

ぶつけて抜けた歯をどうするか

抜けた歯は、すぐに家庭の冷蔵庫にある冷たいミルクの中に入れましょう。浸透圧が体液に似ていて、歯の周りの細胞が生きた状態で保てます。水で洗わないほうが無難で、もし洗うなら、5秒以内にすべき。水に長く浸すと浸透圧が低過ぎて、細胞が死んでしまいます。また、歯を乾燥させるのも厳禁。やはり歯の周囲の細胞が死んでしまいます。

冷えたミルクの中に抜けた歯を浸し、歯科医院になるべく早く行くのがベストと言えます。温かいミルクよりも若干良い状態が保てるとの報告もあります。生理的食塩水や歯専用の保存液(Hank’s balanced salt solution)より、むしろミルクのほうが良いと言われています。ミルクがない場合は、抜けた歯を下唇と舌の前の間に入れ、飲み込まないよう注意しながら、歯科医院に駆け込むといいでしょう。唾液の中に浸した状態も悪くはないのです。

歯科医が口腔内を精査し、レントゲン検査なども行い、歯を戻せると判断した場合は、歯の再植治療が可能です。通常は歯を生理的食塩水(場合によっては抗生物質を添加)で軽くすすぎ、歯を元の位置に戻して周囲の歯と固定し、歯の動揺が収まるまで(通常2、3週間)固定し続けます。抜けてから再植までの時間が短ければ短いほど、また年齢が若いほど、再植の成功率は高くなります。歯の周りの靭帯である歯根膜、歯の中の神経である歯髄が、再植後も生き続ければ、完全な成功と言えます。生き続けない場合は、後に歯根が吸収されたり、歯の神経治療が死んでルートキャナルが必要になったりします。歯根の吸収が著しいと、後に抜歯に至ることも。抜けた歯の歯根の一部が体内に残った場合も、あきらめることはありません。あとで神経治療が必要となるかもしれませんが、そのまま歯を戻し、再植が成功する可能性もあります。

しかしながら、このように抜けた歯をいい状態で持っていっても、歯科医の判断によっては、自分の歯の再植を快く思わず(後の神経治療、歯根の吸収の可能性を憂慮)、人工歯根を使った治療を選択するかもしれません。あらかじめ、再植治療をやっているか問い合わせ、場合によっては他の歯科医院を受診する必要も出てくるでしょう。その点はご注意を。

まとめ

歯の再植で行くかインプラントで行くかは、それぞれの利点・欠点を歯科医からよく説明してもらい、自分で最終判断できる状況が望ましいように思います。ちなみに、いわゆる出っ歯の人は歯の外傷を起こしやすい? 答えはイエスです。転倒の際に前を打ちやすいので、歯の外傷を起こしやすいと言えます。そういった意味でも、歯の矯正治療が望まれます。

アルツハイマー発症時期は歯磨きの習慣次第!?

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アルツハイマー発症時期は歯磨きの習慣次第!?

歯周病は、アルツハイマー型認知症と関係がありそうだという話題は、これまでも何度か取り上げました。さらに有力な研究が出てきていますので、今回はこの話題を再度掘り下げたいと思います。

アルツハイマー型認知症とは

高齢者における認知症の原因として、現在最も割合が高いのがアルツハイマー型です。日米それぞれの患者数は400万人を超え、世界では約2,700万人が罹患していると報告されています。今後、世界的に平均寿命が延びるにつれ、2050年までに患者数は現在の3倍に達するとされ、その予防と治療は大きな課題です。

アルツハイマー型認知症は、認知機能や記憶を制御する脳の領域に影響を与える進行性の脳障害です。記憶(特に近時記憶)を始め、学習・判断・コミュニケーション能力が徐々に破壊されていきますが、これは神経細胞が死滅し、認知機能障害が発生するためです。主な原因としては、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質が凝集して構成される老人斑が脳神経細胞外に沈着すること、また高リン酸化により神経細胞の軸索機能(神経細胞の通信回線に相当する箇所の機能)の維持に必須なタンパク質であるタウ・タンパク質の異常が引き起こされ、脳神経細胞内で神経原線維変化(神経細胞を支える繊維組織の変化)が起こることが挙げられています。

患者の脳内で歯周病発症の有力な細菌を発見

 2019年1月、米ルイビル大学のヤン・ポテンパ博士らの研究チームは、アルツハイマー型認知症患者の脳組織を調べ、慢性歯周炎の原因として最有力の細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌が確認されたと学術雑誌『サイエンス・アドバンシーズ』で発表しました(*)。同研究では、患者の脊髄液中からもポルフィロモナス・ジンジバリス菌のDNAが検出されたとの報告もあります。さらに脳内には、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌が産生する毒性タンパク分解酵素、ジンジパインも確認されており、そのレベルは、アルツハイマー型認知症と関連のある異常タウ・タンパク質やユビキチンとの相関が認められたとしています。また、研究チームでは、マウスの口内にポルフィロモナス・ジンジバリス菌を感染させたところ、6週間後には脳内でポルフィロモナス・ジンジバリス菌が確認され、脳内のアミロイドβも著しく増加したとのことです。

*Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains: Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors | Science Advances (sciencemag.org)

まとめ

今回の研究は、歯周病とアルツハイマー型認知症との因果関係を完全に証明するには至っていませんが、歯周病の悪化がアルツハイマー進行につながる可能性を示唆するものです。 一方で、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌の毒素に対するワクチンの開発なども進められており、今後の研究の進展に期待が高まっています。

いまだ歯周病は、人類で最も蔓延した感染症であることに変わりありません。日頃から口腔清掃と歯科の定期検診を欠かさず、歯周病の予防に努めたいものですね。