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Author: 湯原 葉子

連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。

歴史との向き合い方が揺らぐ

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


歴史との向き合い方が揺らぐ

日本社会で今、過去の「負の歴史」といかに向き合うかについての認識が大きく揺らいでいるのではないか、そう指摘するのが『歴史戦と思想戦/歴史問題の読み解き方』(山崎雅弘著、集英社新書)の著者である。タイトルにある「歴史戦」とは、南京虐殺や慰安婦問題など、歴史問題に関する中国や韓国からの批判を、日本に対する「不当な攻撃」と捉え、「日本は本来の歴史を取り戻す戦いに打って出るべきという考え方」だという。近年、こうしたスタンスによる書籍が数多く刊行されている。過去の歴史に関する、批判的な分析・検証などを軽視あるいは無視するような言説が広がっていることに、著者は強い危惧を覚えている。

『歴史戦と思想戦/歴史問題の読み解き方』(山崎雅弘著、集英社新書)

「日本は悪くない」といった「結論ありき」で、その結論に合う「事実」だけを集める、その結論に合うように「事実」を歪曲するなど、「歴史戦」論客が多用する手法や言葉のトリックについて検証する。

『ネトウヨとパヨク』(物江 潤著、新潮新書)は、ネット上での論争に相当なエネルギーを注力する「ネトウヨ」(「ネット右翼」)、「パヨク」(「左翼」をもじった)と呼ばれる彼らの行動原理や心理を読み解く。

『ネトウヨとパヨク』(物江 潤著、新潮新書)

著者によれば、どちらの言葉も、「悪口」としてしか使われないが、両極端と思われる「ネトウヨ」と「パヨク」のいずれも、従来からの「保守」と「リベラル」とは全く異なる。両者は、「対話ができない」「議論ができない」という点で驚くほど共通している。結論しかない主張を繰り返し、建設的な議論を妨げるという存在が、ネトウヨでありパヨクだという。そうした「対話不能」な彼らに向け、言論のルールをめぐる議論を根気強く続ける姿勢が著者にはある。無用な対立を避け、自由な言論を成立させるために必要なのは「ユーモアを忘れない」という工夫であり、余裕だという。

公文書である決裁文書の改ざんは、あってはならない、民主政治の根幹を揺るがす事態だ。『官僚制と公文書/改竄、捏造、忖度の背景』(新藤宗幸著、ちくま新書)の著者は、昨今次々と発覚する官僚による公文書管理のデタラメさは、「日本の官僚制の構造や行動を、問い直すべき時期に来ていることを示している」と主張する。日本の公文書管理に関する法制度の出発点は、「公文書とは何か」を、法的に明確に定義することにある。公文書管理システムの整備と共に、公文書の定義をより明確に定めるべき、としている。政権や各官僚機構から独立した中立的な公文書管理機関も必要だと訴える。

SFのような食の未来

 

『「食べること」の進化史/培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ』(石川伸一著、光文社新書)は、これからの100年、人間と食のあり方がどう変化していくかを考えるための1冊。

たとえば、家畜を飼うのではなく、特定の細胞を抽出・培養する「人工培養肉」が技術的に現実化してきている。「環境に優しい」と、一部の動物愛護団体やベジタリアンからも賛同を得ているという。一方で、これまでに見たことがない「人造肉」に対する嫌悪感や拒絶反応ももちろんある。

NASAが宇宙食として注目しているものに、3Dプリンタを使って、栄養素や食材をさまざまな形や食感で出力する、という技術がある。個人の体質や健康状態に合わせ、栄養が完璧に反映された「個別化食」が生み出される、そんな未来がやって来るのだろうか。手早く、簡単に、清潔に、完璧な食を。そうした要望に応じ、私たちの食とそれを支えるキッチンはどのようになっていくのか、考えていくのが興味深い。

『物語 ナイジェリアの歴史/「アフリカの巨人」の実像』(島田周平著、中公新書)では、圧倒的に多い人口(1億8,869万人:2018年現在、世界第7位)を抱え、経済成長も著しい、アフリカ大陸の中で大きな存在感を示すナイジェリアについて、サハラ交易時代から現代までの歴史をたどる。著者は、ナイジェリアのありようは、今後のアフリカの発展に大きく影響する、と予見している。今やナイジェリア一国の問題を超え、国際的な問題となっているイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」がこの国で誕生した背景についても解説する。

※2019年5月刊行から

期待される新しい天皇像と皇室の未来

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃期待される新しい天皇像と皇室の未来

5月下旬、改元後初となる国賓・アメリカ大統領を迎え、新天皇、新皇后両陛下の外交力に早くも注目が集まった。『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(西川 恵著、新潮新書)は新聞記者である著者が、日本にとって最強・最大の外交資産と言って過言ではない「皇室」の役割について論じている。著者は、平成の両陛下が積み重ねてきた皇室外交には、「和解」と「慰霊」というおふたりの思いが色濃く投影されてきた、と指摘する。令和の時代、皇室外交はどのような形になるのか、新天皇はこれからどのような天皇像を形成していくのか、その手がかりを、皇室外交の歴史を振り返りながら考察している。

『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(西川 恵著、新潮新書)

『番記者が見た新天皇の素顔』(井上茂男著、中公新書ラクレ)の著者も、新聞社で長く皇室担当記者を務めた皇室ジャーナリスト。新天皇が皇太子の時代から間近で見守ってきた立場から、節目節目での発言とその背景、発言に隠された思いに迫る。

『院政/天皇と上皇の日本史』(本郷恵子著、講談社現代新書)は、202年ぶりとなった生前退位と、上皇という存在について、その歴史から学ぶ。著者は、日本の天皇家が長きにわたって皇位継承を可能にしてきたのは、「天皇」の運用が非常に柔軟だったからではないか、中でも画期的だったのが、「院政」の開始だったのではないかと指摘する。

現在の皇室は、超高齢化・少子化、男女の役割の問題など、きわめて深刻な課題を一般の日本社会と共有している。「万世一系」とうたわれるような皇位継承をどのような運用で維持してきたのか。これまでの歴史を振り返ることにより、天皇制の未来を、今こそ真剣に議論すべきではないかと訴える。

┃「フェイク」に晒される危機

 

『フェイクウェブ』(高野聖玄、セキュリティ集団スプラウト著、文春新書)

今、インターネットの世界にあふれるさまざまな「フェイク」が、個人や企業を操り、情報や資産を奪おうとしている。『フェイクウェブ』(高野聖玄、セキュリティ集団スプラウト著、文春新書)は、誰もが被害者になり得る、サイバー攻撃の多様な手口を紹介する。インターネット上のさまざまな危機をゼロにすることは不可能に近い、と著者は警告する。日々受け取る膨大な情報の「向こう側」を想像し、リスクを少しでも小さいうちにコントロールし、大きなリスクにつながらないように心がけるしかない。

 

『なぜ人は騙されるのか/詭弁きべんから詐欺までの心理学』(岡本真一郎著、中公新書)は、人はなぜ騙されるのか、つまり人はなぜ判断を誤るのかを社会心理学の観点から分析する。詐欺や悪質商法のテクニックはどんなものがあるのか。私たちは広告・宣伝にどう踊らされているか。政治家の詭弁にはどのようなことが隠されているのか。蔓延するフェイクニュースを信じてしまう心理はどういうものなのか。人が複雑な情報をどう処理していくかという心理的なメカニズムや、それを利用した説得や誘導のテクニックを知ることは、騙されないためには非常に重要だ。世に蔓延するさまざまな「フェイク」へ対処できることはまだありそうだ。

神が人類を創ったとする「創造論」を支持し、「進化論は科学者のでっちあげ」と主張する人々がいる。トランプ大統領がその筆頭だが、地球温暖化の研究に根強い疑問を投げかけ、対策を先延ばしにしようとする人々もいる。

科学技術の発達に、一般の人々は適応できていないのではないか。新聞社の科学記者による『ルポ 人は科学が苦手/アメリカ「科学不信」の現場から』(三井 誠著、光文社新書)は、科学大国であるアメリカでのこうした根強い「科学不信」を中心にその背景を取材したものである。

『ルポ 人は科学が苦手/アメリカ「科学不信」の現場から』

科学者の側が、「知識がないことが問題」「事実は事実だ」という上から目線では、社会に広がる科学不信は払拭できず、懐疑的な人々との溝は深まるばかりだ、と指摘する。科学的知識のあるなしではなく、その人の考え方を支配している「心情的なバイアス」にも注目して、科学をめぐるコミュニケーションのあり方を探る。

※2019年5月刊行から(次号につづく)

 

 

「バブル」という呪縛

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃「バブル」という呪縛

『平成金融史/バブル崩壊からアベノミクスまで』(西野智彦著、中公新書)は、30年余りに及ぶ平成の金融動乱について、「失敗と実験」の連続だった、と振り返る。バブルに対する認識の遅れが問題の先送りと対策の後追いを招いた。当局者たちは後にバブルと呼ばれる株価や地価の急上昇への危機感が薄く、「バブルは必ず大暴落する」という歴史の教訓を生かせなかったうえ、「問題を先送りした」自覚を驚くほど持っていなかったという。その後、現代まで長引くデフレにより雇用環境が激変し、格差が広がり、寛容さを失っている社会。著者はこれら全ての遠因が「バブル」とし、平成の金融政策失敗の検証を続ける。

『バブル経済事件の深層』(奥山俊宏、村山 治著、岩波新書)は、バブル崩壊の経緯とその教訓を記録にとどめたいとする新聞記者ふたりの共著。バブル崩壊への対処を誤り、長引かせたことが現代日本に深刻な悪影響を与えているとして、4つの未曾有の経済事件を再検証する。崩壊を始めたバブルに当事者たちはどう向き合っていたか。時と共に記録の廃棄が進み、記憶も薄れ、当然ながら取材が可能な関係者の多くは鬼籍に入り、取材も困難になりつつある。一方で、事件の時効により「今だから言える」と得られた新証言もあるという。

『平成経済衰退の本質』金子 勝著(岩波新書)

「日本はもはや先進国とは言えない、衰弱する国である」と警告するのが『平成経済衰退の本質』(金子 勝著、岩波新書)。バブル時代、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と褒めそやされ、おごり高ぶっていた日本は、その後、今に至る30年で産業競争力は決定的に落ちてしまった。日本経済が直面する課題から目をそらさず、新しい産業構造への転換と格差の是正を同時に達成しなければならないと主張し、「ポスト平成時代」を切り拓くための6つの提言を行う。『1979年の奇跡:ガンダム、YMO、村上春樹』(南 信長著、文春新書)によれば、ちょうど40年前の1979年は、日本のポップカルチャーにとって画期的な年だったという。「機動戦士ガンダム」放映開始、YMO「テクノポリス」リリース、村上春樹デビュー、そしてアメリカの社会学者、エズラ・F・ヴォーゲル氏による『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラー第7位だったのもこの年である。これは副題に「アメリカへの教訓」とある通り、もともとはアメリカ人に向けて書かれたもの。内容よりも、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」というフレーズだけがその後ずっとひとり歩きし、多くの日本人がその言葉に酔いしれ、バブルを引き起こしたのは皮肉と言うほかない。

┃天皇の「おことば」の受け止め方

『「平成の天皇」論』伊藤智永著 (講談社現代新書)

『「平成の天皇」論』(伊藤智永著、講談社現代新書)では、202年ぶりという天皇生前退位が、現代日本にとってどういう意味を持つのか、という点に着目する。2016年8月、事実上の退位表明となる「象徴としてのお務めについてのおことば」で語られたメッセージとは何か。象徴天皇制を継承していくには、自分が今、次の天皇にバトンタッチする必要があると考えたからではないか、と指摘。象徴天皇制は、天皇と国民、両者の協力なしにはあり得ない。国民に対して、「天皇制とは何なのか?象徴天皇制を継承していく覚悟はあるのか?」と平成の天皇が問いかけたのが、あの「おことば」なのではないか、としている。私たちは、平成の象徴天皇に何を求めてきたのだろうか。『感情天皇論』(大塚英志著、ちくま新書)では、「平成の天皇」による象徴天皇としてのあり方を「感情労働」のようなもの、と定義。天皇や皇后その人の「個」は尊重しないまま、高い理想像を 要求する人々は象徴天皇制をどう考えているのだろうか。平成に形作られた象徴天皇と、これから模索されていくべき新しい時代の象徴天皇について考察する。

『昭和天皇最後の侍従日記』小林 忍(共同通信取材班著、文春新書)

『昭和天皇最後の侍従日記』(小林 忍、共同通信取材班著、文春新書)は、昭和49年から15年間にわたり昭和天皇に侍従として仕え、その後、香淳皇后に仕えた故・小林 忍氏が27年間にわたり手帳につづったメモに基づく。平成26年、宮内庁による『昭和天皇実録』が完成しているが、この「小林日記」は、その刊行後、遺族により新たに発見されたもので、貴重な「一次史料」。晩年まで戦争責任について苦悩していた昭和天皇のふともらした言葉、昭和天皇の容態が悪化し、いよいよ近付く「昭和の終わり」を小林氏が感じている様子などが記されている。

※2019年4月刊行から(次号につづく)

 

 

近現代史から各国の政情を読み解く

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃近現代史から各国の政情を読み解く

従来の世界史解説では、アジア史は東アジア、 東南アジア、南アジア、と地域別に語られることが多い。『アジア近現代史/「世界史の誕生」以後の800年』(岩崎育夫著、中公新書)は、アジア史を地域別、国別に語るのではなく、一体のものとして捉えようという試み。本書ではアジア史を約800年前、各地域の土着国家の盛衰とモンゴル帝国誕生の辺りから概観し、西洋諸国の進出、日本による占領支配、第二次世界大戦後の独立などを解説する。アジア域内の交流がどう行われてきたのか、西欧を中心とした「外部勢力」の影響がどのように起きていたのかを整理し、現代に至る各国の状況を理解していく。イギリスのEU離脱など混乱に至る現在のヨーロッパを読み解くのが『ヨーロッパ現代史』 (松尾秀哉著、ちくま新書)。第二次世界大戦の反省から、「和解」の道を歩むべく、各国で完全雇用、社会保障を発達させた福祉国家体制が成立した。その福祉国家からの「救済」から、こぼれ落ちた層の不満は、どのような形で噴出したか。 石油危機、冷戦の終結、グローバル化による過酷な経済競争を経て、現在のヨーロッパの人々が 政治不信に陥った経緯を、各国の政治状況と共に検討する。

『食の実験場アメリカ/ファーストフード帝国のゆくえ』(鈴木 透著、中公新書)

食に関しては後進国のように思われがちなアメリカだが、決してそうではないというのが『食の実験場アメリカ/ファーストフード帝国のゆくえ』(鈴木 透著、中公新書)。アメリカの食は、直接のルーツであるイギリスだけではなく、西洋・非西洋の食文化や移民の食文化の伝統を取り入れつつ、想像以上に複雑な変化を遂げて築き上げられたものだとし、食からアメリカ社会の変遷を振り返る。自由な発想で創作される「スシロール」や、穀物、豆や豆腐など植物性タンパク質、野菜、果物を組み合わせる菜食主義者に人気の「ブッダボウル」など、「ヘルシー、エスニック」というキーワードで人気を集める、アメリカならではの創作料理の魅力も紹介する。

 

┃日本の地方分権改革の「光と影」

『日本の地方政府/1700自治体の実態と課題』(曽我謙悟著、中公新書)は、私たちの社会や経済にとって大きなウエイトを占め、日常生活にも大きく影響を及ぼす「地方政府」の実態について改めて検討するものである。日本の都道府県と市町村については、「地方自治体」「地方公共団体」という言葉がよく用いられているが、著者はタイトルを始め、本書では一貫してあえて「地方政府」というあまり耳慣れない言葉を使用。私たちは、地方においては国が策定した政策を実施するのみの存在にあると、無意識のうちに考えているのではないか、と指摘昨今、毎年のように異常な豪雨が日本の各地で発生し、地すべりや土砂崩れによる甚大な被害が繰り返されている。

『宅地崩壊/なぜ都市で土砂災害が起こるのか』(釜井俊孝著、NHK出版新書)

『宅地崩壊/なぜ都市で土砂災害が起こるのか』(釜井俊孝著、NHK出版新書)の著者は、「想定外」の豪雨や地震によるこうした「宅地被害」は自然災害だと思われがちだが、決してそうではない、ということを本書で明らかにしていく。 高度経済成長期、丘の尾根をブルドーザーで削り、その土砂で谷を埋める、という大規模な宅地造成が行われてきた。こうした盛土による宅地 開発で地すべりが発生する危険性は当時も何人もの学者により指摘されていたが、好景気の中、そうした声はかき消されてしまっていた。昭和の遺産とも言える強引な宅地開発のひずみが、今後も地震や豪雨などをきっかけに土砂災害を起こす危険性を想定しておくべきだと訴える。

『ともに生きる仏教/お寺の社会活動最前線』 (大谷栄一編集、ちくま新書)

『ともに生きる仏教/お寺の社会活動最前線』 (大谷栄一編集、ちくま新書)は、公共空間の場としての可能性を感じさせる「仏教の社会活動」をレポートする。今、「葬式」に頼らず、地域に開かれた活動が盛んな寺が注目を集めている。文化活動、貧困対策、子育てサポート、災害被災地支援など、さまざまなニーズに目を向けた活動を紹介する。寺すなわち「宗教(あるいは宗教団体) の社会貢献活動」が必要とされる、現代日本社会の抱える課題についても考えさせられる。

※2019年4月刊行から

 

「移民」国家をどのように設計するか

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃「移民」国家をどのように設計するか

『ふたつの日本/「移民国家」の建前と現実』 (望月優大著、講談社現代新書)の著者は、国のかたちが大きく変わろうとしている今、直視すべき現実を突き付けている。日本政府は長らく「移民」という言葉自体をタブー視し、意識的に避けてきた。街に暮らす外国人が増えてきているのを実感しながらも、短期労働のいわゆる「出稼ぎ」がほとんどなのでは、と思う人もいるかもしれない。しかし、「永住権」を持つ外国人に限ってみても、すでに100万人を超えているという。 在留外国人が増加する一方で、日本人は人口 減少が止まらない。国内における「外国人」の比重は、今後増えていくのは間違いない。さまざまな事情で公的教育を受けられずにいる、外国籍の子どもたちや外国にルーツを持つ「日本人」 の子どもたちの問題など、現時点で完全には可視化されていない深刻な課題もある。日本に「移民」はいない、という建前は今後通用しない。 移民の存在やその処遇をどうしていくべきか、 国家として具体的に向き合うべき時期に来ている、としている。

『ふたつの日本/「移民国家」の建前と現実』 (望月優大著、講談社現代新書)

大学など留学生を迎える立場にある人や、従 業員として外国人を雇用する立場にある人はもちろん、日常生活でのあらゆる機会を通じて外国人に接する場合に知っておくべき重要な基礎知識を解説しているのが、『知っておきたい入管法/増える外国人と共生できるか』(浅川晃広著、平凡社新書)である。国籍とは何か、「外国人」の定義、在留と帰化の違いなど、移民政策や外国人労働者問題を考える際に必要となる、法的な基礎知識についてわかりやすく解説する。外国人労働者は年々存在感を増し、人口減少・労働人口減少が深刻な日本社会にとって、すでに欠くことのできない存在となっていることは、さまざまな分野で実感されているだろう。外国人に関する制度設計のあり方は「国づくり」に直結する、と著者は指摘する。

┃変化を続ける時代 日本でトラブル続出

観光立国を目指す日本。しかし、紅葉シーズンの京都などを筆頭に、日本の至るところでキャパシティーをはるかに超えた観光客が殺到し、「観光公害」とも言うべき事態が起きている。有名な観光スポットはもちろん、これまで穴場とされていたスポットにもSNSの影響で多くの人が押し寄せるようになった。交通、景観、住環境などトラブルが続出して、地域住民の日常生活がおびやかされるようになる。

『観光亡国論』(アレックス・カー/清野由美著、中公新書ラクレ)では、世界の観光地で深刻な問題となっている「オーバーツーリズム(観光過剰)」について取り上げる。著者のひとり、アレックス・カー氏は、長年日本に在住する東洋文化研究家。世界のオーバーツーリズム対策の事例を紹介し、観光公害をポジティブに解決するための提案をする。

『観光亡国論』(アレックス・カー/清野由美著、中公新書ラクレ)

昨今、世界で急速に拡大しているシェアリング・エコノミー。民泊のAirbnbや、ライドシェアのUberなど多くのビジネスが登場している。しかし、日本では、各業界の既得権との調整やすみ分けの問題から、規制が強化されている。現状では、ライドシェアは違法な白タク扱い、民泊は「ホテル・旅館並みの営業は許さない」という方向だ。

『岩盤規制/誰が成長を阻むのか』(原英史著、新潮新書)の著者は、「日本経済を低迷させてきた最大の要因は、政府がビジネスを妨げてきたことにある」と指摘する。官僚機構が強い権力を持ち、 役所にいろいろとお伺いを立てなければ何もできない、「事前規制型」と呼ばれる行政体系から、「事後チェック型」への転換が提唱されながらなかなか進まない。めまぐるしいスピードで変化を続ける時代に、「岩盤規制」改革をどのように進めていくか、政府のあり方をどう変えていくか。 既存の規制体制では適合できない問題が続出している今、柔軟性とスピードが要求されるビジネスに対応できる経済特区など「規制の実験場」のような取り組みを世界に先駆けて進めることが、「第四次産業改革」へ対応するためにも急ぐべきだと主張している。

『岩盤規制/誰が成長を阻むのか』(原英史著、新潮新書)

※2019年3月刊行から

平成時代の皇室を振り返る

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃平成時代の皇室を振り返る

新元号「令和」の新時代幕開けに沸く日本。平成という時代を振り返ると共に、前天皇陛下その人について語る新書も刊行されている。

『平成の終焉/退位と天皇・皇后』(原 武史著、岩波新書)の著者は、平成とは、「天皇制の新たなスタイルが確立された時代である」と評している。著者は、平成最大の特徴として、天皇と皇后が常に行動を共にしてきたことを挙げ、天皇の傍らに寄り添う皇后の存在感にも触れている。皇太子妃時代から、夫を支え、3人の子どもを育て上げた核家族時代の「良妻賢母」、理想の女性として一定の役割を果たしていたことを評価しつつ、新時代になっても、「夫の一歩後ろを歩き、影ながら支える女性」が崇敬されることは負の側面もあ る、という指摘はなかなかほかでは見られない。新皇后には、キャリアウーマン出身の雅子さまにしかできない、新しい時代を担う女性としての積極的な発言を、と期待を寄せる。

『平成の終焉/退位と天皇・皇后』(原 武史著、岩波新書)

 

『天皇の憂鬱』(奥野修司著、新潮新書)は、平成時代の皇室は、それまでとは何が違ったのか、日本人にとって象徴天皇とは何かを考えさせられる1冊。ノンフィクション作家の視点から、前天皇陛下その人の「心模様」に迫り、語られることはない「葛藤」を読み解こうとしている。平成の象徴天皇とは、それまでと違って「国民に敬愛され る永遠のスターでなければならない存在になった」と著者は分析する。皇后と共に地道に積み上げてきた「象徴天皇としての活動」を振り返り、個としての前天皇ご自身の孤独を感じ取る。

『天皇の憂鬱』(奥野修司著、新潮新書)

 

『天皇の装束/即位式、日常生活、退位後』(近藤好和著、中公新書)は、誕生から崩御まで、節目ごとに定められた「天皇の装い」について専門家が解説する。明治以降、天皇の服装は「洋装を旨とする」とされたが、即位式など節目の儀式では、江戸時代までの天皇や周囲の人々と同様、奈良・平安時代以来の厳格な規定に従った「歴史的着衣」である「装束」を着ることになっている。現代まで皇室に引き継がれた装束の歴史を本書で確認しながら、歴史の節目となるビッグイベントでの新天皇、上皇それぞれの装束にも注目してみたい。

『天皇の装束/即位式、日常生活、退位後』(近藤好和著、中公新書)

『平成史』(保阪正康著、平凡社新書)の著者は、ノンフィクション作家。昭和史研究について多数の著作があり、その評価も高い。平成史を振り返る出発点として、2016年8月に「ビデオメッセージ」で生前退位の希望を国民に向け発信したことは、革命的な出来事であった、と指摘する。このビデオメッセージは、「8月15日の玉音放送」にも匹敵する、天皇の「血の叫び」のような、共通点があるとしている。時代が変化する中で、昭和の戦争がいかに語られてきたのか、昭和史との連続を踏まえて平成を振り返る。

┃日本経済は「停滞」だけの30年だったのか

『平成の通信簿/106のデータでみる30年』(吉野太喜著、文春新書)は、この30年間に何が起きていたのか、さまざまな角度からの「データ」で時代の変化を浮き彫りにしようという試み。

賃金や所得の変化など本書ではさまざまなランキングが紹介されているが、その背景に何があるのか、世界的な傾向か日本独自の傾向なのか、デー タを見比べながら参照していくと新たな発見がありそうだ。各分野、多岐にわたる指標はそれぞれ興味深いが、今後の日本社会にとって、世界水準に比して日本の「低迷」が特に深刻なのは、「18歳人口の減少」と、「教育費の公費負担額のGDP比が少ない」ことではないだろうか。

バブルの崩壊から「失われた30年」とも言われた日本経済。『日本が外資に喰われる』(中尾茂夫著、ちくま新書)は、不良債権処理ビジネスに詳しい著者が、ジャパンマネーはなぜここまで暴落したのか、当時の不良債権処理は適切だったのかを振り返る。世界経済の潮流が変化しても、いまだに日本人を呪縛するのが、戦前から続く「土地本位制」とも呼ぶべき土地担保信仰だと著者は指摘する。

「失われた○年」時代に唯一絶好調だった海外投資家たち。現在も、先物株式売買の中心地、大阪取引所で海外投資家が圧倒的比率を占めている点を著者は注視している。現在ブームとなっている観光立国化も、その内実を見てみると東京や大阪でインバウンド効果の恩恵を受けるのは、大手多国籍資本をバックにもつ外資系ホテルだという。

※ 2019 年 3 月刊行から(次号につづく)

これから必要とされるプログラミング思考とは

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃これから必要とされるプログラミング思考とは

2020年から、小学校でプログラミング教育が必修になる。文部科学省が想定する「プログラミング教育」とは、「プログラミング言語や、それを用いてプログラムを作るプログラミング技術を教えるもの」(狭義の「プログラミング教育」)ではない、と強調するのが『プログラミング教育はいらない/GAFAで求められる力とは?』(岡嶋裕史著、光文社新書)である。

『プログラミング教育はいらない/GAFAで求められる力とは?』(岡嶋裕史著、光文社新書)

著者は、最近話題のブロックチェーンなどの著書も多数ある、情報セキュリティーの専門家。一見、タイトルとは矛盾するようだが、プログラミング教育の小学校への導入自体には積極的な立場だという。必修化の主な目的は「プログラミング的思考」(広義のプログラミング教育)である、と文科省も明言している。

プログラミング的思考とは何か、プログラミング的思考を導入すれば論理的思考能力や問題解決能力が身に付くというがそれはなぜなのか、既存の教育では何が足りないのかを解説する。「GAFA」(Google、Amazon、Facebook、Appleの4 社)ではこれからどんな人材が求められてくるのかも予測しつつ、これからの学校教育のあり方を考える。

『その情報はどこから?/ネット時代の情報選別力』(猪谷千香著、ちくまプリマー新書)は、膨大な情報があふれる現代に必須な、「情報の海の泳ぎ方」を指南する。本書でも、まさに今世界中で問題となっているGAFAに触れる。GAFAとは、前述のように世界中で情報インフラの大きなシェアを占めているアメリカ資本のIT巨大企業のこと。多くの人がこの4社のサービスを毎日のように利用し、世界の膨大な量の情報は、このGAFAのインフラ上でやり取りされている。生年月日など基本的な個人情報から趣味、家族構成まで知られているにもかかわらず、「何も知らないまま」こうしたサービスを利用することに警鐘を鳴らす。

日々、空気のように周りを囲んでいるネットからの情報群によって、知らず知らずのうちに行動や考えを決められてはいないか。情報の海に溺れないため、自分に必要で、かつ正しい情報をどう選べば良いか。流れてきた情報を鵜呑みにせず、どれが、どこから、何のために発信されたものなのか、見極めることが大事と訴える。

ものすごいスピードで技術革新が進み、世の中は、より便利に、より速く、より効率的なものを求めるようになり、自動化、AI化の道を突き進ん でいくように思える。そうした流れがあるからこそ、これからは「不便益の時代」だと言う研究者がいる。『不便益のススメ/新しいデザインを求めて』(川上浩司著、岩波ジュニア新書)では、数値化できない、定量化できないものにこそ価値があるのではないか、という世の趨勢(すうせい)とは全く逆の発想を提示する。手間がかかったり頭を使わねばならなかったりする、だからこその益がユーザーにもたらされる。著者はそうした発想と、それを元にしたデザインを、「不便益デザイン」と呼び、世の中の不便だけど楽しい「不便益デザイン」を探して、勝手に「認定」したり新たな不便益デザインを考えたりしているという。

『不便益のススメ/新しいデザインを求めて』(川上浩司著、岩波ジュニア新書)

 

┃ ゲノム編集ベビーの誕生

『ゲノム編集の光と闇/人類の未来に何をもたらすか』(青野由利著、ちくま新書)

『ゲノム編集の光と闇/人類の未来に何をもたらすか』(青野由利著、ちくま新書)では、「遺伝子を狙い通りに切り貼りできる技術」として、ゲノ ム編集の利益と問題点を検証する。2018年11月、中国の研究者が「ゲノム編集した受精卵から双子の赤ちゃんを誕生させたと発表した」という ニュースは世界中に衝撃を与えた。人間を対象としたゲノム編集の安全性の問題、倫理的な懸念について今後本格的な議論がされようという矢先、突然の「ゲノム編集ベビー」誕生を発表した研究者は、世界中から批判を受けている。

著者は新聞記者で長く科学分野を専門に担当し、著作も多 い。ゲノム編集により、先天性の難病を受精卵の段階で回避することは技術的にはいずれ可能になるだろう。しかし、先天性の難病や遺伝性の疾患を根絶しようという発想が、優性思想とは違うと言い切れるのか、慎重に議論していくべきだとしている。

『科学と非科学/その正体を探る』(中屋敷均著、講談社現代新書)は、科学と非科学のはざま、「光」と「闇」の間のグレーゾーンに焦点を当てる。「科学的」なものと「非科学的」なものは、簡単に分けられるのだろうか。科学的な正しさで、現実の問題は何でも解決できるのだろうか。科学の万能性・絶対性が「無邪気に」信じられているような現代社会でこそ、科学と非科学のはざまの、複雑で曖昧な部分を考えてみることを勧めている。

※2019年2月刊行から

「失敗と挫折の30年」 平成を振り返る

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃「失敗と挫折の30年」平成を振り返る

平成も残りわずかとなって、さまざまな視点からの「平成史」や、平成という時代を総括する新書の刊行がここしばらく続いている。

『平成史講義』(吉見俊哉編著、ちくま新書)では、もうすぐ終わろうとする平成を「史」として語るには、まず「昭和の終わり」、つまり戦後レ ジームの終えんから始めなければならないとしている。戦後に形成された日本的なシステムを30年かけて失った時代の、挑戦の失敗と挫折の繰り返しを、さまざまな分野の第一人者が「若者の困難」や「中間層の空洞化」といった10のテーマで語る。

『平成の教訓/改革と愚策の30 年』(竹中平蔵著、PHP新書)の著者は、「失われた 30 年」と見るのは誤りだ、と主張する。「平成とは数々の政策と愚策がまだら模様を織りなした30年だった」としている。竹中氏が「改革」と評価している(自身が旗振り役となった)郵政民営化などの政策、住専に対する公的資金の注入などの「愚策」と批判するものそれぞれを、検証している。良い面と悪い面がまだらに共存していた30年というが、誰にとっての「良い面」か、ということについては評価が分かれて当然だろう。タイトルからして「お前が言うか?」と言いたくなる人も多いかもしれないが、平成の改革を振り返る1つの視点としては興味深い。

この30 年間、「難しいことをわかりやすく」を売りにしてきた池上彰氏が、ついに出した新書のタイトルは『わかりやすさの罠/池上流「知る 力」の鍛え方』(池上 彰著、集英社新書)。「わかりやすさの罠」とは、わかりやすい説明、耳に心地良い言葉だけを聞いて、「わかったつもり」に なり、自分で関心をもってニュースを見たり、新聞の記事を読んだりしなくなってきているという危うさのことである。

「単純な話をやさしい英語で話す」トランプ大統領の演説スタイルはまさに、「わかりやすさの罠」が世界の政治を変えた一例だ、と指摘する。「私の番組だけをみて、ああよくわかった、と満足してしまう人たち」に「わかりやすさ」のその先を知ってもらうにはどうしたらよいか、悩んでいるという。

変化の激しいこれからの時代こそ、自分の頭で考え、「わかったつもり」と「わかった」の間の深い溝を越えていかなければいけない、と訴える。

 

┃ 「承認欲求」という自分の中のモンスター

「承認欲求」という言葉は、昨今よく見るようになった。元来、他人から認められたいという気持ちを持つのは人間の正常な欲求のひとつである。『「承認欲求」の呪縛』(太田 肇著、新潮新 書)の著者は、「承認欲求」が強くなり過ぎ、「認められたい」思いがいつの間にか「認められねば」 に代わっていく状態を「承認欲求の呪縛」と名付けている。

著者は、個人と組織の関係についてを基本に、20 年以上も前から「承認」「承認欲求」についての研究を続けてきた。一連の研究の中で、これ まで彼は「承認欲求」という言葉をポジティブな意味でのみ使ってきた。しかし、本書では、時代の変遷と共にクローズアップされてきた「承認欲求」の負の側面を取り上げている。

倒産寸前の日産を再建させ、「カリスマ」として君臨していたカルロス・ゴーン氏の突然の失脚。昨年東京地検特捜部に逮捕され、108 日ぶりに保釈されたゴーン日産前会長は、4月4日に4度目の逮捕で再び勾留が決まった。「追放」までには何があったのか。『日産vs.ゴーン/支配と暗闘の 20年』(井上久男著、文春新書)では、長年自動車業界への取材を続けてきた著者が、その背景を振り返る。

仏外相が再逮捕と勾留を問題視するなど、国際社会も注視するこの「大事件」。日産の権力闘争だけにとどまらず、今後の日本の自動車産業の行く末も左右することは間違いない、としている。

※ 2019 年 2 月刊行から(次号につづく)

※2019年1月刊行から

 

排除の思想が社会を分断する

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。


┃ 排除の思想が社会を分断する

 

『アメリカの排外主義/トランプ時代の源流を探る』 浜本隆三(平凡社新書)

「アメリカ・ファースト」をうたい、自国第一主義を露骨に打ち出すトランプ大統領。過激な排外主義と保護主義の波はアメリカだけにとどまらず、世界中に広がりを見せている。

『アメリカの排外主義/トランプ時代の源流を探る』(浜本隆三著、平凡社新書)では、自国優先の姿勢が世界に広がっている背景を、アメリカの排外運動の歴史から学ぶ。社会に蓄積する不満が歪んだ形で表出すると何が起きるか。アメリカ北東部セーラムで起きた「魔女狩り」、ネイティブ・アメリカンへの迫害、白人至上主義を唱えた秘密結社KKKなどを例に、アメリカ史における排外主義が現代にどうつながっているかを考察する。

 

『リベラルを潰せ/世界を覆う保守ネットワークの正体』
金子夏樹(新潮新書)

同性婚や人工中絶の権利などをめぐり、今、世界は二分されつつある。性的マイノリティーの権利拡大など、多様性や個人の意思を尊重するグループ(リベラル)と、それに断固として反対するグループだ。

国や宗教の枠を超え、反リベラルを旗印に団結している保守ネットワークについて、『リベラルを潰せ/世界を覆う保守ネットワークの正体』(金子夏樹著、新潮新書)はその全貌を明らかにしていく。ロシアのプーチン大統領とトランプ大統領は、この「反リベラル」という価値観で、水面下でつながっている、と著者はいう。

トランプ大統領を熱烈に支持した「世界家族会議」などのキリスト教右派と、世界各国の反リベラル勢力との関係も取材している。価値観をめぐる議論は社会の二分化につながる。LGBTの権利拡大をめぐり社会の対立が深まりつつある日本も、他人事ではないと警鐘を鳴らす。

一方で、アメリカの若い世代を中心に、従来の左右対立の枠組みではとらえきれない新たな層、つまり「オバマにもトランプにも共感しない」立場がある。トランプ政権誕生後のアメリカ社会を取材し、その理念や実情を報告するのが『リバタリアニズム/アメリカを揺るがす自由至上主義』(渡辺 靖著、中公新書)である。

公権力を極限まで排除し、自由の極大化を目指そうとしている彼らの思想とはどのようなものか。自由市場・最小国家・社会的寛容を重んじるリバタリアンの立場、経済的には「保守」で社会的には「リベラル」という、こうしたイデオロギーは「日本には存在しないに等しい」としている。

 

┃ 平成の終わりに 「戦後」の総括

『硫黄島/国策に翻弄された130年』 石原 俊(中公新書)

『硫黄島/国策に翻弄された130年』(石原 俊著、中公新書)は、日米両軍の地上戦の場としてあまりにも有名な硫黄島の、戦前までの開発史、および戦後ほとんど語られてこなかった軍事占領史を描き出す。

長く無人島だったこの地は、大日本帝国の領有地となった19世紀末から1944年の島民強制疎開まで「南洋」入植地として発展した。硫黄島および北硫黄島の両島合わせて最大で1,200人の定住人口があったことは、あまり知られていない。

戦後、アメリカによる軍事占領下におかれ、1968年には小笠原群島・硫黄列島共に日本に返還されたが、日本政府はそのまま自衛隊による軍事利用を継続させ、2018年末時点でも島民全体が帰郷できない「異常事態」が続いている。硫黄島列島民が強いられてきた犠牲と苦難を多くの人に知って欲しいと著者は訴える。

『ミステリーで読む戦後史』(古橋信孝著、平凡社新書)の著者は、古典文学の研究者。戦後発表された日本のミステリー作品から、10年ごとに時代を振り返る、という文学史的にも新しい試み。

小説、中でも事件や犯罪を題材とするミステリーは、その時代社会が抱える問題や関心を鮮明に描き出してきた。昔の人気ミステリー作品を読めば、今とは異なる当時の価値観を知ることもできるはずだ。本書では、そうした時代の変化をたどるのに最適な作品が多く紹介されている。

『なぜ働き続けられない?/社会と自分の力学』(鹿嶋 敬著、岩波新書)では、男女共同参画という「理念」はどのように描かれ、なぜうまくいかないのか。男は仕事、女は家庭、などといった根強い「固定的な性別役割分担」という分厚い壁をどう乗り越えていけばいいか、統計データや女性たちの声、自身の経験も踏まえて現状の問題提起、未来への提言を記す。

 

※2019年1月刊行から

 

全共闘世代とは何だったのか

毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。

┃ 全共闘世代とは何だったのか

『歴史としての東大闘争/ぼくたちが闘ったわけ』
富田 武(ちくま新書)

今年は、1969年1月の「安田講堂事件」から50年という節目の年である。

東大闘争を始めとする大学闘争を総括する『歴史としての東大闘争/ぼくたちが闘ったわけ』(富田 武著、ちくま新書)の著者は、当事者として東大闘争にかかわり、その後大学で歴史を教える立場となった。

当時の「若者」たちはすでに「古稀」前後、今の大学生の祖父母世代となっている。「ぼくたち」はなぜ闘ったのか。歴史家として、また一当事者として、「東大闘争のリアル」を若い世代に伝えたいという思いで本書を執筆したという。

『1971年の悪霊』(堀井憲一郎著、角川新書)の著者は、1958年生まれ。1971年とは、京都の高校で3年生が紛争を起こした年。その直後に入学した著者は、自分たちの高校に機動隊員が突入するという事件を体験した2、3年生との温度差を感じながら高校時代を過ごしていた。自分が左翼思想についていけない、と感じたのはいつ、どんなきっかけだったのか。

反抗する若者たちとその周囲の大人たちが持っていた「社会の気分」、「少し若いの世代の気分」を40年以上経った今、振り返る。

┃ しゃべれないのは悪いこと?

『吃音の世界』
菊池良和(光文社新書)

『吃音の世界』(菊池良和著、光文社新書)は、自身が吃音者として悩み続けてきた体験と、医師としての専門的な立場から吃音についてさまざまな情報を提供する。

吃音者は日常のさまざまな場面で困難や不安を感じ、吃音を隠すために人知れず大変な苦労をしている。以前の著者は、吃音について誰にも相談できず、どもることは悪いこと、人に隠すべきことと思い込み、しゃべる場面を避け「死」も頭をよぎることすらあったそうだ。

著者によれば、吃音者にとって良い聞き手とは、「話している最中は邪魔することなく内容を聞いてくれ、話し終えたときに内容にきちんと反応してくれる人」。当たり前のことのようだが、そうではない人のほうが多いのだという。

『ブロックチェーン/相互不信が実現する新しいセキュリティ』 岡嶋裕史(ブルーバックス)

『ブロックチェーン/相互不信が実現する新しいセキュリティ』(岡嶋裕史著、ブルーバックス)は、ブロックチェーンという技術の特性、可能性、そして限界について、最小限の基礎知識を理解するための1冊。

ブロックチェーンという用語を一般の人が初めて耳にしたのは、ビットコインの不正アクセスという大スキャンダルがきっかけだろう。その結果、世間的には「ブロックチェーン=ビットコイン=暗号資産(仮想通貨)」という認識が色濃く残っているはずだ、と著者は指摘する。

実際にはブロックチェーンという技術は暗号資産以外の用途への応用も進められている。管理者がいなくても動く仕組みであるブロックチェーンは、「権力からの独立」、「濡れ手に粟」「マネーロンダリング」とセットで語られがちだ。

ブロックチェーンという技術がさまざまな分野に応用され、育っていくことになれば、こうした当初の印象を変え、変化に柔軟に対応していくことが求められてくる、と著者は指摘する。

『昆虫は美味い!』(内山昭一著、新潮新書)の著者は、食材として虫を採り、調理し、食べ続けている「昆虫食の第一人者」だという。食糧難の解決策のひとつとして、家畜に比べて環境への負荷が少ない、持続可能な食料としての可能性が昆虫にあるというのが著者の持論だ。実際、昆虫食については以前では考えられないほど関心・注目が集まってきているという。

昨今、野生鳥獣を食べるジビエ料理もちょっとしたブームになっている。人工化した食への違和感を感じている人が増えているからではないか、と指摘する。
野生鳥獣を食べるのはハードルが高いが、山菜採り、キノコ狩り、潮干狩りのように季節の野生の食材を食べることを楽しむ人は多い。伝統的にイナゴやハチを取って食べる地域もある。

そうした自然との触れ合いとして考えれば、昆虫食もそう特別なものではないのかもしれない。

 

※2019年1月刊行から(次号につづく)

生命倫理をめぐるさまざまな難題

┃ 生命倫理をめぐるさまざまな難題

生命の自己決定はどこまで許されるのか。また、認知症になった場合、事前に意思表明した安楽死を実行できるのか。年間6,000人を超える安楽死が実施されている「先進国」のオランダでも、現在この難問に直面しているという。

『安楽死・尊厳死の現在/最終段階の医療と自己決定』(松田純著、中公新書)では、「耐え難い苦しみが取り除けない場合に限り、安楽死を容認する」と、安楽死が合法化されているオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダの各国ごとの成立の背景、最新の事例を紹介し、さまざまな文化、宗教で議論され続けてきた「死ぬ権利」とは何かという重い課題に向き合う。オランダでは近年、認知症と精神疾患を理由とする安楽死件数の急増が懸念されており、その背景について論じている。

『なぜ人と人は支え合うのか』
『障害』から考える
渡辺一史(ちくまプリマー新書)

2016年、神奈川県相模原市の知的障害者施設で、元職員が入所者を次々と殺傷する事件を起こした。犯行に及んだ後「、障害者なんていなくなればいい」という趣旨の供述をしている。『なぜ人と人は支え合うのか/「障害」から考える』(渡辺一史著、ちくまプリマー新書)は、「障害者に生きている価値はあるのか?」という「問い」をどう考えたら良いか、障害者が生きやすい社会をつくることは、誰にとって「トク」になるのか、読者に考えさせる。「障害者はいなくなったほうがいい」と、普通の人は(心の中で思っていたとしても)口にはしない。しかし、「自分なら延命治療をしてまで生きていたくない」「認知症になって人に迷惑をかけるくらいなら、自分は死を選ぶ」「もし事故で半身不随になったら、自分なら安楽死を希望する」などと口にしたり書いたりする人は「非常に多い」と著者は指摘する。

『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』
佐藤眞一(光文社新書)

認知症は、現在はまだ予防法も治療法も確立されていない。今の私たちが取り組めることは、「コミュニケーション」というケアの質を高めることだ、と訴えるのが『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』(佐藤眞一著、光文社新書)。認知症の人が見ている世界とは、私たちが見ている世界とは異なるのではないか、という観点に立ち、「アルツハイマー型認知症」など代表的な4つの型の認知症それぞれについて、その特徴的な行動や心理を解説している。

認知症の人とかかわっていると、私たち自身の常識から考えて「なんでそんなことをするのか/言うのか」と思うような言動が多いだろう。著者が言うように、「認知症の人の立場に立って考える」というのは非常に難しいが、認知症の人との生活や介護を少しでも楽するヒントがいくつも見つかるのではないだろうか。

『老いと記憶/加齢で得るもの、失うもの』(増本康平著、中公新書)でも、加齢による記憶の衰えのメカニズムについて着目している。著者は特に、認知症予防の取り組みについて脳トレや各種訓練の効果について触れる。認知症スクリーニング検査に類似した課題を事前に練習するなど、訓練の内容によっては、仮に検査の点数が上がったとしても、「認知症の発見を遅らせる」ことにもなりかねないという。

認知症になることを過剰に恐れるのではなく、認知症になった後も生活の質をどうすれば維持できるのか、介護の問題をどう克服していけば良いかを社会全体で考えるほうが得策ではないか。老いを前向きに受け入れるヒントを提案する。

『「オウム」は再び現れる』
島田裕巳(中公新書ラクレ

間もなく迎える3月20日。多くの犠牲者を出した、あの地下鉄サリン事件から24年が経とうとしている。

2018年7月には、数々の凶悪事件を引き起こしたオウム真理教の、「教祖」麻原彰晃を始め、13人の死刑囚に対する刑が執行された。死刑の執行で、「オウム」を終わりにして良いのか。『「オウム」は再び現れる』(島田裕巳著、中公新書ラクレ)は、特に当時のことを知らない若い世代に向け、オウムのことを伝えていくための1冊となっている。

※2018年12月刊行から

広がり続ける格差

┃ 広がり続ける格差

『東京格差/浮かぶ街・沈む街』(中川寛子著、ちくま新書)は、2000年以前、2000年以降から現在、将来に分けて東京近郊の「街の価値」の変遷を検討する。便利な街、憧れの街(ブランド)、住民サービスが手厚く住みやすい街など、さまざまな指標で選ばれてきた都市の住環境。今後は災害に対する強さ、自治体の税収を左右する住民の年齢構造など、将来の持続可能性が街の「魅力」につながる時代となっていく、としている。

すでに人口減少の影響が出ている地方都市と違い、東京近郊エリア(本書で取り上げられているのは東京駅から主に40キロ圏)の格差はこれから如実に出てくるという。「住む」という一機能だけを持つ街、住人が均質化している街、その状態が長い間固定されている街、そうした「動きのない」街が今後、高齢化と共に沈んでいく危険性が高い、と警告する。

『老いた家 衰えぬ街』
住まいを終活する
野澤千絵(講談社現代新書)

全国各地で「空き家問題」が社会的な関心事となっている。『老いた家 衰えぬ街/住まいを終活する』(野澤千絵著、講談社現代新書)では、空き家の実態を調査していると、所有者自身が、対応したくても対応が困難な、複雑な理由を抱えていることがほとんどだという。著者は、親世代から相続後、処分するのをためらい「今はそんなに困っていないし、とりあえず置いておこう」となったままの実家を「問題先送り空き家」と名付けている。

今ある街を、将来世代にどうバトンタッチできるか、個人で、社会全体で取り組むべき「住まいの終活」の第一歩を提唱する。

『アンダークラス』
新たな下層階級の出現
橋本健二(ちくま新書)

『アンダークラス/新たな下層階級の出現』(橋本健二著、ちくま新書)は、将来の日本を考えるうえで避けては通れない、新しい階級社会の構造、特に「アンダークラス」と呼ばれる労働者階級の底辺について、データを基にその実態と窮状を明らかにしていく。従来の「資本家階級、中間階級、労働者階級」という階級のうち、労働者階級の底辺に、「アンダークラス」という階級が出現している、としている。

著者の算定ではアンダークラスに当たる人々は930万人いるという。その人々の平均年収は186万円となり、年収は年々減少し続けている。低賃金のアンダークラスの存在を前提として成り立つ経済の仕組み、巨大なアンダークラスを生み出す社会の仕組みをこのまま放置しておくと、日本社会は間違いなく危機的な状況を迎える。今、安定した職に就いている人々も、いつアンダークラスに転落してもおかしくない。他人事ではなく考えていくべき課題だと警告する。

 

┃ 宗教と熱狂

2018年は明治維新から150年目という節目の年に当たり、明治維新に関係する新書が多数刊行された。その華々しい「明治維新」の物語で、詳しく語られることがないというのが「廃仏毀釈」についてだと『仏教抹殺/なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(鵜飼秀徳著、文春新書)の著者は言う。

明治新政府は天皇を中心とする祭政一致の国づくり、神道国家を目指したため、長い歴史の間、神道と混じり合ってきた仏教を明確に切り分ける必要があった。神社と寺社を分離する神仏分離令という一連の政策が出された後、市民を巻き込んだ激しい仏教排斥運動は、新政府のコントロールをも超え、文化財破壊にエスカレートしていった。ジャーナリストの著者は僧侶としての顔も持つ。日本各地に足を運び、仏教迫害という「黒歴史」の痕跡をたどる。

『巡礼ビジネス』
ポップカルチャーが観光資産になる時代
岡本 健(角川新書)

アニメ映画など、物語の舞台となった場所に多くの人が訪れる、「アニメ聖地巡礼」という行動は、従来の「観光」をどう変えていくか。『巡礼ビジネス/ポップカルチャーが観光資産になる時代』(岡本 健著、角川新書)では、「観光学」と「メディアコンテンツ学」の両面から、アニメや映画が中心となるポップカルチャーが、いかに観光「資源」となっているか、現状の課題点、将来あるべき姿も含めて考察する。

アニメに限らず、ドラマや小説の舞台をめぐったり、作者ゆかりの地を訪ねる「コンテンツ・ツーリズム」は、観光ビジネスにおいて重要な要素となる。これまでは観光資源と考えられなかったような場所に多くの人が集まると、地域住民とのトラブルなどマイナス面も、もちろん起こり得る。国内外の観光客に向けた情報の発信方法や地域でのルール策定なども重要だと提案している。

※2018年12月刊行から(次号につづく)

 

老い支度とは何か

┃ 老い支度とは何か

『百まで生きる覚悟』
超長寿時代の「身じまい」の作法
春日キスヨ(光文社新書)

人生100年時代、と言われる現代に多くの高齢者が望むのは「ピンピンコロリ」。「終活」という言葉も一般的になり、自身の葬式や墓についての希望を書き残す人も増えている。『百まで生きる覚悟/超長寿時代の「身じまい」の作法』(春日キスヨ著、光文社新書)の著者は、こうした「終活」ブームの割には、「ピンピン」と「コロリ」間の時期、つまり自分が誰かの世話にならざるを得ない時期が来ることに向き合っている高齢者は少ないのではないか、と指摘する。70代から80代の「昭和生まれ」世代は、「子どもの世話にはなりたくない、なれない」と言う人が多い。健康増進に熱心に取り組み、趣味や友人との交流にエネルギーを注ぐ元気な高齢者世代だが、老い衰える姿に向き合うことは避け、「暗いことは考えたくない」「成り行き任せ」にしがちである実態を、さまざまなインタビューから明らかにしている。これからは、いざ倒れたときに頼れる親族がそもそもいない、そういう人も増えてくる。本当に必要な「老い支度」とは何か、何から備え始めたら良いのか、高齢者自身も、支える世代も現実的な面から考えておく必要がある。

『自炊力/料理以前の食生活改善スキル』(白央篤司著、光文社新書)はタイトル通り、料理「以前」のところから始められる、食生活改善のための提案を盛り込んだ1冊。自分ひとり分の食事を手軽に、好きなように調達できるスキルを身に付けることは、慣れれば決して難しいことではない。ライフスタイルに合わせて自炊のハードルを下げることは、長い人生を生きていくうえで誰にとっても必須のスキルだとしている。日本人は、毎日完璧な栄養バランスを、と気にし過ぎたり、手間ひまかけた食事を用意しなければならないと思い込み過ぎたりしているのでは、とも指摘している。

 

┃ 就職氷河期世代の貧困

『ルポ 中年フリーター』
「働けない働き盛り」の貧困
小林美希(NHK出版新書)

現在の労働市場において、新卒採用は空前の「売り手市場」となっている。一方で労働市場において忘れられ、見過ごされている問題がある。『ルポ 中年フリーター/「働けない働き盛り」の貧困』(小林美希著、NHK出版新書)で取り上げられている、就職氷河期時代に社会に出て、正社員になれずに現在「中年フリーター」と呼ばれるようになった人たちの存在だ。日本では、新卒時に正社員になれなかった者は、そのまま非正規の職に就くことが多い。かつて新卒時に就職氷河期を経験した世代が今、中年(35歳から54歳)の年齢になった。好景気に見放された「中年フリーター」たちは、不安定な雇用、過酷な労働環境で働かざるを得ない。当事者への取材と、各種統計とを併せて紹介し、近い将来、社会保障制度を根本から揺るがしかねない、見えざる貧困問題について警鐘を鳴らす。

『給食の歴史』(藤原辰史著、岩波新書)は、学校給食の歴史を振り返る、ありそうでなかった1冊。ある人にとっては楽しみであり、ある人には苦痛だったかもしれない給食という時間。多くの人がさまざまな「思い出」を持つ学校給食だが、普通の人は自分が通った地域の給食しか知らない。日本の教育にどのような影響を与え続けてきたのか、諸外国の「給食」と比べ日本の給食にはどんな長所と短所があるのかなど、知っているようで知らない給食の歴史を振り返る。貧困児童への配慮、食物アレルギーへの対応、給食の合理化と質の確保の問題、調理員の待遇など、給食に関連する現在進行中のさまざまな課題についても触れる。

 

┃ 世界はアフリカをどう見ているか

『改訂新版 新書アフリカ史』
宮本正興、松田素二(講談社現代新書)

『改訂新版 新書アフリカ史』(宮本正興+松田素二編、講談社現代新書)は、20年ぶりに改訂されたアフリカ入門書の決定版(初版は1997年)。この20年間、世界の中でも特に大きな変貌を遂げたアフリカ現代史部分を大幅に加筆し、その他の記述に関しても、新しい知見や主張に基づいて内容を全て見直したという。

初版が刊行された頃の20世紀末のアフリカは、相次ぐ内戦、飢餓や貧困、HIV/エイズの蔓延、環境破壊など、「絶望の時代」と考えられていた。それが21世紀に入り、アフリカは「成長する大陸」として、国際的に確固とした地位を得ている。金、ダイヤモンド、石油、レアメタルを始めとする豊富な天然資源と、世界平均の2倍以上の割合で人口が増加する「若さ」が、アフリカの経済成長を牽引している。一方で格差の拡大と固定、環境破壊は前世紀に引き続き深刻な課題でもある。アフリカ市場で圧倒的存在感を増している中国の戦略にも注目し、世界はアフリカをどう見ているか、今後アフリカはどう変化していくのか、さまざまな視点から考察する。

※2018年11月刊行から(次号につづく)

 

AIによって変わる世界

┃ AIによって変わる世界

『AIが変えるお金の未来』
坂井隆之・宮川裕章
+毎日新聞フィンテック取材班(文春新書)

フィンテックの最先端を取材し、その将来を展望するのが『AIが変えるお金の未来』(坂井隆之・宮川裕章+毎日新聞フィンテック取材班著 、文春新書)。フィンテックとは最新の金融とITが結び付いて生まれた、新たな技術革新を表す造語だ。フィンテックは単に新しい金融サービスを生み出すだけではなく、社会のあり方にも変化を及ぼそうとしている点が重要だという。

銀行や保険会社はビジネスモデルの変革を余儀なくされている。AIが顧客の信用力を分析し、スコアによって融資の金利が変わるサービスも始まっている。こうしたサービスでは顧客自身の個人情報そのものが価値を持つことになる。フィンテックの利便性と、その代償となるさまざまなリスクについても検討する。

中国政府が、ビッグデータで国民ひとりひとりの生活を監視していることはよく知られている。顔面を認識できる精密な防犯カメラが全土津々浦々に設営され、SNSの監視も徹底。共産党の脅威となる人物は徹底的にマークされている。『AI監視社会・中国の恐怖』(宮崎正弘著、PHP新書)の著者は、習 近平国家主席を「デジタル皇帝」と呼び、中国は、「人類未踏のデジタル全体主義国家と
なった」としている。

中国が目指すのは、ジョージ・オーウェルが1949年に発表した近未来小説『1984』で描いた、謎の独裁者「ビッグブラザー」が支配する世界のようだ。凄まじいスピードで進化するAIは「フェイクニュース」を発信する能力を持ち、政府が莫大な投資をして進めるAIロボットの開発が行き着くところは、AI搭載兵器である。一方で日本のデジタル社会での「あまりに平和ボケしている」無策ぶり、とりわけサイバー危機への対応の遅さが浮き彫りになっている。

『フェイクニュース』
新しい戦略的戦争兵器
一田和樹(角川新書)

『フェイクニュース/新しい戦略的戦争兵器』(一田和樹著、角川新書)の著者はサイバー関連企業の経営に携わった後、サイバーミステリーを中心に小説の執筆活動を始めたという人物。「フェイクニュース」と言えば、これまで語られてきたのは、「ネット上での捏造されて拡散されたニュースや情報」であり、これに対してはしかるべき機関が「ファクトチェック」を行って真偽判定をする必要や、個人の情報リテラシーを上げることの重要性が言われてきた。

本書で紹介される「フェイクニュース」とは、もっと大規模なものだ。「組織的に世論操作を仕掛けるために広い範囲で大規模に行われるフェイクニュース」。つまり、今や国を挙げて、フェイクニュースを使ったネット世論操作に取り組んでいるのだという。日本もその例外ではない。フェイクニュース=ネット世論操作は、兵器を用いた以外の戦争、「ハイブリッド戦」の枠組みで考える必要がある。ファクトチェック組織を置く、事業者が管理を厳しくする、そういったことで解決できる話ではない。フェイクニュースやネット世論操作は、世界で起きている大きな変化の兆しでしかない、著者はそう警告している。

 

┃ ファーウェイ事件は序章? 緊張感を増す米中関係

『習近平と米中衝突』
「中華帝国」2021年の野望
近藤大介(NHK出版新書)

『習近平と米中衝突/「中華帝国」2021年の野望』(近藤大介著、NHK出版新書)と『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』(細川昌彦著、光文社新書)はいずれも、トランプ大統領と習 近平国家主席による米中衝突について予測し、日本のとるべき道を考察している。

『習近平と米中衝突』の著者、近藤氏は、「貿易戦争→先端技術覇権戦争→軍事衝突」へと米中関係がエスカレートしていくのかどうか注視すべき、と指摘している。おそらく2019年夏、中国通信大手企業のファーウェイが5Gスマホを発売する頃が分岐点になるのではないかと著者は予測しているが、本書の刊行後、2018年12月1日に、ファーウェイのCFOがアメリカの指示によりカナダで逮捕されるという事件が起きている。トランプ政権がまずは「ファーウェイ潰し」に全力を挙げてきていることは間違いなさそうだ。

米中関係の緊張がその次の段階「新冷戦」に進むかどうか、緊張の行方を読み解くために、読んでおきたい2冊である。

※2018年11月刊行から(次号につづく)

 

外国人が見た日本、日本人の自意識

┃ 外国人が見た日本、日本人の自意識

『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』
J・ウォーリー・ヒギンズ(光文社新書)

『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』(J・ウォーリー・ヒギンズ著、光文社新書)は、新書サイズではもったいないほどの、贅沢で濃密な写真集である。著者のヒギンズ氏は1927年生まれのアメリカ人で、鉄道写真家として「鉄道ファン」の間では有名人の、いわば元祖「撮り鉄」。駐留米軍軍属として来日後は、国鉄の国際部門に所属し、90代の今なお現役でJR東日本の顧問を務めているという。

ここにまとめられた昭和30年代の382枚の写真は、全国津々浦々で撮影された6,000枚以上の写真から選りすぐられたもの。当時としては大変に贅沢品だったため、日本ではほとんど使われていなかったカラーフィルムで色鮮やかに残されている。友人の影響で興味を持つようになったという路面電車や、当時まだかろうじて現役だった蒸気機関車に夢中になる、著者自身の影も見え隠れするようだ。

『外国人が見た日本/「誤解」と「再発見」の観光150年史』(内田宗治著、中公新書)は、明治から現代まで、外国人観光客が見てきたもの、日本人が見せようとしてきたものの変遷をたどる。

日本の魅力とは何か、外国人観光客は何を求めて日本にやって来るのか。日本人にとっては「なぜそこが?」と意外に思うほど知られていないような場所にも、外国人に人気のスポットがあることを紹介し、現在の観光事情やその課題点にも触れていく。

『「武国」日本/自国意識とその罠』(佐伯真一著、平凡社新書)は、日本は「サムライの国」である、という自国意識について検討している。現代の私たちは、日本を「平和的で、穏健な、おとなしい国である」と感じている人が多いのではないかという。その一方で、男子サッカーの代表チームを「サムライ・ブルー」と呼ぶように、戦国時代や江戸時代の武士を描く大河ドラマが人気を集めるように、「サムライの国」という自国意識も持っている。私たちが「伝統」と思っているものは、古来の伝統なのだろうか。自国意識はどう育てられてきたのか、という変遷をたどっていく。

 

┃「パパ活」とは?

『パパ活の社会学』
援助交際、愛人契約と何が違う?
坂爪真吾(光文社新書)

毎月刊行される新書のタイトルから、耳にしたことがない「新語」や、今流行しつつある新しい社会現象を知ることも多い。最近の例では、『パパ活の社会学/援助交際、愛人契約と何が違う?』(坂爪真吾著、光文社新書)にある、「パパ活」という言葉である。パパ活とは、「若い女性が年上の男性とデートをして、その見返りに金銭的な援助を受けること」だという。多くの人は本書のタイトル通り、「昔流行した、愛人バンクや援助交際と何が違うのか?」と疑問に思うのではないだろうか。

男性のほうが10歳~20歳ほど年上というように、パパ活を成立させている要因は、男女間の経済格差と精神年齢の格差である。不安定な仕事にしか就けない若年女性のセーフティーネットになり得るのか。男女それぞれの意見を紹介する。同じ著者による『「身体を売る彼女たち」の事情/自立と依存の性風俗』(坂爪真吾著、ちくま新書)は、性風俗で働く女性たちの抱える課題と悩みを切り口に、現代の若者たちが広く共通して抱えている問題を明らかにしている。著者は、風俗業界で働く女性たちに向けた、無料の生活相談、法律相談事業にも取り組んでいる。さまざまな事情から「昼間の仕事」に就けない、就かない女性たちだが、生活保護などの社会的支援を受けるよりも、搾取されることの多い「身体を売る」働き方のほうを選ぶ、というのはなぜなのか。一見不合理な選択に見えても、「プライベートに踏み込まれたくない」といった、彼女たちなりの合理的な選択の結果によって「生活保護を選ばない」ことが多い、と指摘している。

『ペットと葬式』
日本人の供養心をさぐる
鵜飼秀徳(朝日新書)

『ペットと葬式/日本人の供養心をさぐる』(鵜飼秀徳著、朝日新書)は、葬儀や墓など、従来のしきたりや形式にとらわれず葬祭が簡素化していく風潮の昨今、一方で盛んになって来ているペット向けの葬祭ビジネスと、それらが求められる背景を分析する。従来、「犬猫(畜生)は人間とは別」と一線を引いて来た仏教界だが、時代の求めに伴いペットの供養についても柔軟に対応しようとしている。ペットの供養のみならず、人形やペットロボット、針などの身近な道具まで、生物でも非生物でも、魂が宿るとされてきたあらゆるものを「供養」してきた日本人独特の文化について考えていく。今、供養と呼ばれているもののほとんどは本来の意味の「供養」というよりは、イベントに過ぎないのではないか、という指摘も興味深い。

※2018年10月刊行から

 

ヒスパニック系だけではない「不法移民」

┃ ヒスパニック系だけではない「不法移民」

『移民国家アメリカの歴史』
(貴堂嘉之著、岩波新書)

『移民国家アメリカの歴史』(貴堂嘉之著、岩波新書)では、そもそも「移民国家とは?」という原点に戻り、アメリカの歴史を移民から読み解く。本書で著者は特に「包括」と「排除」の両方の歴史を持つ、日系人を含むアジア系移民に着目している。戦後のアジア系移民は、全体としてはそれまでの偏見を克服し、社会的成功を勝ち取った成功者も多い。

もちろんアジア系アメリカ人の全てが成功者と言うのには無理がある。「不法移民」はヒスパニック系だけではなく、その1割ほどはアジア系が占めている事実をまずは確認しておくべきだ、と著者は記している。

『ルポ 不法移民とトランプの闘い』
1100万人が潜む見えないアメリカ
(田原徳容著、光文社新書)

読売新聞ロサンゼルス特派員による『ルポ 不法移民とトランプの闘い/1100万人が潜む見えないアメリカ』(田原徳容著、光文社新書)は、現在のアメリカのルポ。トランプ大統領の就任後、強制送還、入国制限の実施で「不法移民」に対する圧力が強まっている。著者は、南のメキシコ国境、北のカナダ国境を取材し、そこに集まる人々の声を聞き取る。日系人強制収容の悲劇の歴史が、75年目の今どう語り継がれているか。トランプの大統領令を「75年前の歴史の再来」と警戒し、差別的対応を改めさせようという声の中心に、多くの日系アメリカ人たちがいることを示唆している。

『限界の現代史/イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序』(内藤正典著、集英社新書)は、第二次世界大戦後、かろうじて世界を安定させてきたシステムと秩序の「限界」が来ている現状を、歴史と地理の両面から解説していく。

┃ 懸念される健康格差の拡大

環境により健康寿命が違う、いわゆる健康格差の拡大が明らかになりつつある。その差は、本人の努力だけでなく、社会環境の影響や、子ども時代の貧困も大きな影響を及ぼしていることもある。『長生きできる町』(近藤克則著、角川新書)の著者は医師。予防医学の視点から、健康格差を拡大させないために必要なまちづくり、「暮らしているだけで長生きできるまち」の実現に向け、さまざまな対策を提唱する。

『健康長寿は靴で決まる』
(かじやますみこ著、文春新書)

超高齢社会に向け、健康長寿を延ばすために老若男女誰もが手軽に取り組めるのが「歩く」こと。しかし、足に合わない靴を履いて歩くと、健康寿命を延ばすどころか逆に縮めることにもなりかねない、と警鐘を鳴らすのが『健康長寿は靴で決まる』(かじやますみこ著、文春新書)である。足に合わない靴を長年履いていると、骨格の崩れやひずみが足だけでなく腰や膝、股関節の負担となり、高齢になるにつれ歩行や日常生活にも支障が出てくる。糖尿病を患っている人には、靴ずれをきっかけに足の潰瘍や壊死、下肢切断につながるリスクもある。

3D計測による足型の作成、在庫を持たないネット販売、特注のソールなどで、個々の足にフィットした靴を、手に届く価格で販売することは不可能ではないはず。大量に製造して安く売る(多くは破棄される)という、これまでの靴業界のビジネスも大きく変えていく時代なのでは、としている。

『ビンボーでも楽しい定年後』(森永卓郎著、中公新書ラクレ)の著者は、昨年還暦を迎えた。中学・高校の同級生が一斉に定年を迎える年になると、現役時代と比べ所得格差が一気に拡大しているのを実感しているという。こうした定年後格差が今後いっそう広がると予想される中、「年金の範囲内」で生活する術をどう整えていくか、お金がなくても楽しめる生きがいをどう見つけていくか、具体的な提案をしていく。著者が『年収300万円時代を生き抜く経済学』を刊行してベストセラーになったのは2003年。あれから15年、著者の予測は当たるどころか、年収300万円もあれば、「ビンボー」とは見なされない時代にすでになっているのである。

『100 万円で家を買い、週3 日働く』(三浦 展著、光文社新書)は、さらに若い世代の「お金をかけずに豊かで幸せな生活を実践」しようとする人々の事例。著者は2005年に刊行した『下流社会/新たな階層集団の出現』で、「1億総中流社会」はじきに消滅し、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、いずれもが低い「下流」層が日本でも増えていることをさまざまなデータから示して大きな反響を呼んだ。本書では、モノや土地の所有にこだわらず、地位やカネだけに価値を見出すのではない、新しい層の若者たちの価値観や彼らの生活に目を向けている。

※2018年10月刊行から

 

新たなステージに立つ宇宙開発

┃ 新たなステージに立つ宇宙開発

『宇宙はどこまで行けるか』
ロケットエンジンの実力と未来
小泉宏之(中公新書)

宇宙開発競争が今、大きな変革期を迎えている。これまでの宇宙開発は、国の威信をかけ、政府系宇宙機関と大企業が中心となって進められるものだった。近年、多数の大学やベンチャー企業などが参入し、新たなビジネスの場として注目を集めるようになった。『宇宙はどこまで行けるか/ロケットエンジンの実力と未来』(小泉宏之著、中公新書)では、「はやぶさ」プロジェクトに携わった著者が、宇宙開発の最前線を紹介する。

注目を集めているのは、米国の民間ロケット打ち上げ企業、「スペースX」社である。IT企業の創始者が立ち上げたこの会社が重要視するのは「コスパの高さ」。打ち上げ数を増やし、打ち上げロケット一部の再利用に取り組むなど、これまでの宇宙開発の常識を打ち破り、低コスト化を目指している。

大学入試センター試験、いわゆる「センター試験」は、2020年1月の実施を最後に廃止される。このあと新たに導入される「大学入学共通テスト」では、試験の内容が大幅に変更されることが決まっている。

『国語教育の危機/大学入学共通テストと新学習指導要領』(紅野謙介著、ちくま新書)は、すでに全国の高校生を対象に試行された「プレテスト」と「新学習指導要領」を詳細に分析し、慌ただしく、強引に進められようとしている改革の問題点を洗い出す。

2018年、小学校で道徳が正式な教科となった。2019年には中学校でも教科として道徳が教えられることとなる。正式な教科名は、「道徳科」ではなく、「特別の教科 道徳」というものである。

『誰が「道徳」を殺すのか/徹底検証「特別の教科 道徳」』(森口 朗著、潮新書)は、教育評論家である著者が、戦後70年、道徳教育が教科として正式に認められるまでの経緯を解説する。道徳は何を教え、何を教えないのか。宗教教育と道徳教育はどう違うのか。教育勅語の内容とも比較
し、さまざまな課題を明らかにしている。

2020年からは、小学校で英語が教科として正式に教えられる。『子どもの英語にどう向き合うか』(鳥飼玖美子著、NHK出版新書)は、英語教育の専門家の著者から、子どもたちの保護者に向けて書かれたもの。現在の英語教育はすでに親世代の頃と様変わりしており、大人たちが自分が受けた英語教育を思い出して判断すると、子どもを誤った方向に導きかねない、と指摘する。これからの時代、子どもたちに必要な英語力は何か、冷静に考えてみてはどうかと提案している。

┃ 日本と世界で激動の年、1968年に何があったのか

『世界史のなかの文化大革命』
馬場公彦(平凡社新書)

『世界史のなかの文化大革命』(馬場公彦著、平凡社新書)は、その発動から50年経った現在も、本国では研究を公開することも、公の場で語ることも禁じられたままにある「文化革命」を振り返る。ただし本書は、文革について、「中国現代史におけるある特殊な10年間の災厄」という従来の受け止め方とは違う視点を持つ。50年前の1968年、世界同時多発的に若者たちの反乱が起こったのはなぜか。文革の発端として、1965年にインドネシアで起きた「9.30クーデター」(1965年10月1日未明)から描くという、これまでにない試み。

1968年は激動の年で、世界の若者が旧世代と闘った。その年、日本では何が起きていたのかを独自の視点で切り取っているのが『1968年』(中川右介著、朝日新書)。今から50年前に大衆が夢中になった音楽、漫画、映画それぞれの動向に着目している。

『薬物依存症』
シリーズ ケアを考える
ちくま新書)

『薬物依存症/シリーズ ケアを考える』(松本俊彦著、ちくま新書)の著者は、薬物依存症治療の専門家。薬物依存症というと、薬物に縁がない大多数の人は、覚せい剤や大麻、危険ドラッグなど「違法薬物」を思い浮かべることがほとんどだろう。だが、昨今の日本で覚せい剤に次いで問題となっているのが、うつ病患者などに処方される「睡眠薬、抗不安薬」や「市販の感冒薬や鎮咳薬、鎮痛薬」といった、「違法ではない」薬物の乱用や大量服薬にあるということは、もっと知られるべきだろう。

※2018年9月刊行から

 

「働き方改革」で得をするのは一体誰だ

┃「働き方改革」で得をするのは一体誰だ

『「働き方改革」の嘘』
誰が得をして、誰が苦しむのか
久原 穏(集英社新書)

『「働き方改革」の嘘/誰が得をして、誰が苦しむのか』(久原 穏著、集英社新書)の著者は、政府主導で進められている「働き方改革」について詳細に検証する。一見、「長時間労働の是正」や「同一労働同一賃金の導入」など、働く人にとってメリットが多いと思わせるような内容だが、実態は必ずしもそうではない。政府がなぜ「働き方改革」を言い出したのか。本来労働問題を扱う厚生労働省ではなく、経営サイドに立つ経済産業省主導で進められてきたことからも、その狙いは明らかだと指摘する。「働き方改革」という名目で雇用制度を無理矢理につくり変えるのは政府のなすべきことではない、と厳しく批判している。

『中高年に効く! メンタル防衛術』(夏目 誠著、文春新書)の著者は、精神科産業医として40年の長きにわたって日本の職場を見てきている。ここ10年ほどの間、日本の会社の職場環境は大きく変わり、職場の空気、人間関係の変化がメンタルヘルスにも大きな影響を与えていると指摘する。

日本の職場はかつてと比べて格段に「労働密度」が上がり、人手不足により余裕がない状況にある。業務とは関係のない「雑談」が消え、「雑務」が減ったことで、職場にゆとりが消え、メンタルヘルスから見ても非常に懸念すべき状態にあると指摘する。

『50歳からの孤独入門』
齋藤 孝(朝日新書)

『50歳からの孤独入門』(齋藤 孝著、朝日新書)は、人生の後半戦、50歳からの日々をより良く生きるために必要なことについて、著者自身の実感を込めて提言する。「現実と上手に折り合いをつけること」「もう競争には参加しなくてもいいと思うこと」「孤独や退屈に慣れること」などを挙げる。

著者が「あまり軽く考えないほうがいい」とあえて取り上げているのが、中高年の恋愛について。中高年の恋愛、特に50代を超えた男性は、自分が「モテない」ということを認識し、自分の立場をしっかり見つめ直したほうがいい、と指南する。

┃2025年、中国の「紅船」は襲来するのか

『二〇二五年、日中企業格差』
日本は中国の下請けになるか?
近藤大介(PHP新書)

『二〇二五年、日中企業格差/日本は中国の下請けになるか?』(近藤大介著、PHP新書)は、中国問題に詳しいジャーナリストが、アリババ、テンセント、ファーウェイ、DJI等々、世界市場を席巻しつつある中国IT企業の最先端事情を分析している。本書では、習 近平政権が推進しようとしている、「2025年までに中国が世界NO.1の製造強国になる」ことを目指す「中国製造2025」という計画の全貌を解説する。

この計画がもし実現すれば、中国はアメリカを超える経済強国となるが、その時日本はどうなるか。ビジネスの世界で、「考え抜いてから進む」日本に対し、「常に爆走しながら考える」中国式で、IT技術を駆使した製造業やAIをフル活用したサービスは、私たちの想像をはるかに超えるスピードとスケールで進化を遂げている。キャッシュレス化が遅れている日本市場を開拓し、日本企業の買収を本格化させようとしている、かつての黒船ならぬ「紅船」の襲来に、日本はどう対処したら良いか、考えさせられる。

『中国経済講義/統計の信頼性から成長のゆくえまで』(梶谷 懐著、中公新書)は、世界第二位のGDPを誇る中国経済の現在と今後の課題を分析する。

序章からずばり、「中国の経済統計は信頼できるか」と題し、「中国のGDP統計は擬装されているのではないか」、「実際は世界第三位ではないか」という疑問に対し、詳細に解説していく。著者の見解としては、現在の中国の経済統計には、「過大評価」「地方レベルでの統計数字の虚偽報告」などさまざまな点で精度に問題があるのは事実だが、あくまで「誤差の範囲」である、としている。

日本と中国の経済関係を考える際に、「中国GDP統計はデタラメ」と思い込むのではなく、冷静に議論するための材料として知っておくべきだとしている。

※2018年9月刊行から(次号につづく)

無実の罪を「自白」する心理メカニズム

┃無実の罪を「自白」する心理メカニズム

人はなぜ、やってもいない罪を「自白」するのか。なぜ冤罪(えんざい)が生まれるのか。『虚偽自白を読み解く』(浜田寿美男著、岩波新書)の著者は、心理学鑑定の第一人者として、40年にわたり虚偽自白の問題と格闘してきた。「虚偽自白」とは、無実の人が自ら犯人だと「偽り」、やってもいない犯行を「ことば」で語ることである。足利事件、狭山事件、袴田事件などの重要な事件で、第一線で心理学鑑定を行ってきた経験を基に、虚偽自白が生まれる捜査の過程に生じる構造的な問題について追究する。

冤罪がなくならない背景には、「無実の人の虚偽自白」への無理解がある、としている。無実の人が虚偽の自白をするなどあり得ない、多くの人の常識ではそう考えられるだろう。本書では、「常識」の向こう側にある落とし穴を解き明かしていく。無実の人が冤罪に巻き込まれていくさまざまな過程は、誰にとっても他人事ではないと考えさせられる。

『日本型組織の病を考える』
村木厚子(角川新書)

2009年、郵便不正事件で厚労省局長時代に逮捕された村木厚子氏は「偽の障害者団体の金儲けのために偽の証明書を発行」したという罪に問われた。『日本型組織の病を考える』(村木厚子著、角川新書)では、「やってはいないことをやったと言わないこと、うその自白調書を取られないこと」という、極めて当たり前に思えることをやり通すことの難しさが、当時の詳細なエピソードと共に語られている。昨今、官僚による公文書の改ざん、隠蔽といった、「信じられないような不祥事」が相次いでいる。いったん組織として方針が定まると間違ったと思ってもなかなか止めることができないし、引き返すこともできない。そうした「日本型組織」の限界について、硬直した組織をどう変えていくべきかを語る。

『こうして知財は炎上する』
ビジネスに役立つ13の基礎知識
稲穂健市(NHK出版新書)

情報化社会の急速な発展により、知的財産権をめぐる状況は大きく変動している。「知的財産権のことを知らないと、『やけど』をしかねない時代となった」。こう警鐘を鳴らすのが、『こうして知財は炎上する/ビジネスに役立つ13の基礎知識』(稲穂健市著、NHK出版新書)の著者である。一般的な解説書では、知的財産権について「著作権、商標権、特許権」などと、各権利別に説明されていることが多い。本書では、そうした知的財産権の基本を押さえたうえで、別々に発達してきた複数の知的財産権が互いに絡み合う、複雑な事例を中心に解説している。

また、法的には問題はなくても「炎上した」事例を紹介し、その背景にも触れる。法的には「セーフ」な事案であっても、もめ事を起こすリスクを考えて必要以上に萎縮したり、スポンサーへの過剰な「忖度(そんたく)」が行われたりする局面が増えている、と指摘する。一般の人も、感情に流されてヒステリックに騒ぎ立てないよう、「知財リテラシー」を身に付けて欲しいとアドバイスする。

┃まだ解明されていない「土」の謎

『土 地球最後のナゾ/100億人を養う土壌を求めて』(藤井一至著、光文社新書)の著者は、「土」の研究者。研究のため、ただひたすら土を掘ると本人は言う。いかにも地味な分野のようだが、極北の永久凍土から、砂漠や熱帯雨林の土まで、スコップ片手に文字通り泥にまみれ、世界各地を飛び回る姿は、冒険家のような一面もうかがわせる。地球上の土は大きく分類すると12種類しかないという。毎日の食卓を支え、増え続ける世界人口を支えることのできる、「肥沃な土」「いい土」の条件とは何か。農産物の収穫量を上げ、良い土壌が生まれるための条件、土壌改良の技術についてなど、実はまだあまり知られていない「土」の重要さを熱く語る。

『フォッサマグナ』
日本列島を分断する巨大地溝の正体
藤岡換太郎(ブルーバックス)

日本列島の地質について、さらにスケールの大きい話題を取り上げているのが『フォッサマグナ/日本列島を分断する巨大地溝の正体』(藤岡換太郎著、ブルーバックス)。「フォッサマグナ」は、今から140年ほど前、古代ゾウの化石を発見したことで有名になったドイツの地質学者、エドムント・ナウマンにより命名された巨大地溝。現在に至っても、その成り立ちは謎に包まれ、どこまでがフォッサマグナなのかについても、まだはっきりとはしていないという。日本列島の成り立ちを考えるうえで欠かせない、巨大な構造の謎についてチャレンジし始めている研究者が、世界中で増えているという。

※2018年8月刊行から

平成とはどんな時代だったのか

┃平成とはどんな時代だったのか

『10代に語る平成史』
後藤謙次(岩波ジュニア新書)

ある年齢以上の人々にとって「平成」は、当時官房長官だった故小渕恵三氏が掲げた「平成」という書の映像から始まっているのではないだろうか。『10代に語る平成史』(後藤謙次著、岩波ジュニア新書)の著者は、元時事通信社の記者。昭和が終わり平成が始まったその日、小渕氏の元号発表にも立ち会っていた。激動の30年間を振り返り、何があったのか、社会はどう変わったかを、新しい時代を支える若い人たちにわかるように解説している。

天皇陛下は即位後、全都道府県を2巡している。皇太子時代にも1巡しているので、3巡していることになるのだという。もちろん、諸外国への訪問も相当多い。『象徴天皇の旅/平成に築かれた国民との絆』(井上 亮著、平凡社新書)の著者は、「これほど国内外を旅してまわった日本人はほかにはまずいないのではないか」としている。

著者は、日本経済新聞で長く宮内庁を担当した記者で、天皇、皇后両陛下の国内外の旅に同行した経験を持つ。両陛下の旅を報道する際には、おふたりの動向が中心になるが、本書では、全国各地、迎える地域の人々の様子、警備の実情など、周辺の「風景」をも伝えようとしている。皇室報道に携わる者の役割として、天皇・皇后のお人柄が伝わる心温まるエピソードを紹介しつつも、天皇の政治利用が行われていないか、皇室外交が「外交カード」のように使われることがないかをチェックする重要性を著者は強く意識してきた。若い世代の記者たちの間には、権力を監視する意識が希薄になりつつあるのではないか、という懸念を表明している。

『上皇の日本史』(本郷和人著、中公新書ラクレ)は、200年ぶりの天皇譲位となる生前退位を目前に注目を集める、「上皇」という日本独自の地位について、歴史上どのような例があったのかを歴史研究者が解説。外国では、退位した王や皇帝に特別な呼称は用いない。「上皇」とはどんな存在だったのか。古代から近代天皇制まで、天皇と政治の関わりの歴史を振り返る。

┃本当の「働き方改革」に必要な意識改革

『メールに使われる上司、エクセルで潰れる部下』
利益生むホントの働き方改革
各務晶久(朝日新書)

「働き方改革」が叫ばれているが、その言葉ばかりがひとり歩きしているのではないか、と指摘するのが『メールに使われる上司、エクセルで潰れる部下/利益生むホントの働き方改革』(各務晶久著、朝日新書)。政府は、長時間労働の防止や賃金引き上げ、労働生産性向上などを掲げるが、本書では日常業務ですぐ取り組めるような「労働生産性向上」に的を絞っている。

具体的な例も紹介されている。たとえば、ある企業では、ソフトウェアと定点カメラを用いて徹底的に業務の分析を行い、管理職、一般社員それぞれにどの業務・作業に時間を取られているかを検証している。管理職は部下からの報告メールには原則として返信しない、社内メールは「お疲れさまです」などの挨拶を禁止して用件のみを伝える、などのルールを策定し徹底させただけで、大幅に労働時間を削減できたという。

本書での成功例は、ITシステムによる業務効率化ではなく、一見小さなことも多い。AIなどに頼らずとも、仕事のやり方を抜本的に見直し、意識を変えるだけで生産性を上げる余地がまだまだある、と指摘する。業務改善で得た利益を提案者に還元するなど、コスト改善のインセンティブを高めるアイデアも紹介している。

『英語教育幻想』
久保田竜子(ちくま新書)

『英語教育幻想』(久保田竜子著、ちくま新書)の著者は、米国やカナダの大学で教鞭を執ってきた言語教育学者。日本から派遣された英語教員の研修にも携わる。グローバル化が進み、英語教育の重要性が叫ばれている日本では30年ほど大学・学校での英語教育を「強化」しようという動きが続く。「英語学習はできるだけ早くから」「ネイティブ・スピーカーから学ぶのがいちばん」「英語は英語で学ぶべき」など、英語教育における一般的な思い込み、つまり「幻想」の数々が、かえって日本人の英語をダメにしているのではないか、と検証している。2020年の大学入試改革を前に盛り上がる、
官民挙げての英語ブームに振り回されないためにも冷静な議論をと訴える。

※2018年8月刊行から(次号へつづく)

グローバルに注目を集めるK-POPの魅力

┃中露に挟まれた日本の立場

『ロシアと中国 反米の戦略』
廣瀬陽子(ちくま新書)

『ロシアと中国 反米の戦略』(廣瀬陽子著、ちくま新書)は、米国一極支配に対抗する、という共通目標を持っている中国とロシア、2つの大国の思惑と熾烈な駆け引きについて解説する。

今、リアルタイムで動いているのが、中国の「一帯一路」「新シルクロード構想」、ロシアの「ユーラシア連合構想」であり、中露の思惑が交錯し、著者によれば「微妙に対立しながら協力を続けている」状態だという。両大国に挟まれた日本はどうしていくべきか。中露関係については「蜜月は偽装されたものであり、その賞味期限はいつまでか」ということを常に考える必要がある、と指摘する。

『自動運転「戦場」ルポ』
ウーバー、グーグル、日本勢─クルマの近未来
冷泉彰彦(朝日新書)

『自動運転「戦場」ルポ/ウーバー、グーグル、日本勢─クルマの近未来』(冷泉彰彦著、朝日新書)では、2018年現在における、「自動運転車」にまつわるさまざまな現場を、在米ジャーナリストが取材、レポートしている。

完全な自動運転を目指し、バラ色の未来を夢想するシリコンバレー(IT巨大企業)と、クルマ社会の維持を求めるデトロイト(自動車製造業界)の間には、今はまだ大きな落差がある。大きな可能性と同時に、さまざまな困難を抱えている自動運転の実用化は、どこまで進み、人々はどこまで自動運転を受容できるか。自動運転という文明はどうあるべきか、それを支えるインフラはどうあるべきか。自動車産業で高い競争力をもつ日本こそ、自動運転の未来について、もっと積極的に提言していく必要があるという。

『物語 アラビアの歴史/知られざる3000年の興亡』(蔀 勇造著、中公新書)は、アラビアの歴史を通観する、ボリュームのある1冊。約3000年にわたる歴史の中で、イスラームの勃興が世界史の大きな転換期となったことは間違いない。しかし、これまで「それ以前」、すなわち先イスラーム期のアラビア史についての概説は、日本にはほとんどなかったという。先イスラーム期(紀元前9世紀前後から西暦7世紀ごろ)、イスラーム期(ムハンマドが布教を開始する西暦7世紀ごろから現代)の2つに分けられる大きな歴史の流れを軸に、石油資源で繁栄する現代につながる諸民族、諸国家の興亡を描く。

┃グローバルに注目を集めるK-POPの魅力

2012年以降、日韓関係の悪化と共に韓流ブームは去った、と思われていた。しかしK-POPは今、日本の若者の間だけではなく、グローバルに発信され人気を集めているという。『K-POP/新感覚のメディア』(金 成玟著、岩波新書)は、世界が注目するひとつのジャンルとなったK-POPの誕生から現在まで、韓国社会と音楽産業がどのように変容してきたかを、韓国生まれの著者が論じている。

著者は、韓国が国を挙げて、いち早くデジタル音楽市場に合わせて業界を再編してきたことも、K-POPの世界発信を後押ししていると指摘する。CDにこだわらず、生産・流通のプロセスをデジタル・マーケットを中心に再編し、海外市場をターゲットにした活動を積極的に繰り広げた。iTunes、YouTubeといった「新しいプラットフォーム」を活用し、グローバルに情報を発信し続けている。K-POPを通じて映し出されるソーシャル・メディア時代の音楽空間とは何か、ポップとは何か、世界的に支持され注目を集めるK-POPの「新しさ」とは何なのかを紹介する。

『日本百銘菓』
中尾隆之(NHK出版新書)

『日本百銘菓』(中尾隆之著、NHK出版新書)では、観光や出張の土産、里帰りに欠かせない日本全国の銘菓の数々の中から、自ら食べ歩き、取材を重ねてきた著者の独断で「これぞ」と選び抜いた100品を紹介している。

歴史ある老舗の和菓子や、最近人気の和洋折衷菓子もある。生姜、黒砂糖、柚子、ニッキ、梅、抹茶
など、香りの記憶がよみがえる。次々と新商品、期間限定商品が生まれては消えていくお菓子の世界だが、味も包装も「変わらない」「変えない」ことが重要な、銘菓特有の世界は一種独特だ。仙台の「萩の月」、札幌の「白い恋人」など、今では全国で知られる人気菓子がヒットするきっかけが「飛行機の機内食に採用」だったというのが興味深い。

※2018年7月刊行から

まだ語られていない悲劇

┃まだ語られていない悲劇

『ベニヤ舟の特攻兵』
8・6広島、陸軍秘密部隊レの救援作戦
豊田正義(角川新書)

神風特攻隊と呼ばれる航空特攻隊の悲劇は、毎年のように映画やテレビの題材となり、多数の関連本が生まれている。その一方で、ほとんど知られていない特攻隊「水上特攻隊」がある。この悲劇を伝えようとするのが『ベニヤ舟の特攻兵/8・6広島、陸軍秘密部隊㋹の救援作戦』(豊田正義著、角川新書)である。広島で原爆が投下された日、瀬戸内海にある江田島の幸ノ浦基地では、ベニヤ板製の舟で敵に突撃する「水上特攻隊」という日本陸軍の秘密部隊が訓練を行っていた。彼らは原爆投下から30分後に、軍部の命令により真っ先に救援活動を行う。多くの隊員が被曝して「原爆症」を発症しながら、秘密部隊ゆえ被曝の事実を認定しようとしない国と戦い、そして周囲の露骨な被爆者差別と戦ったあげく、「被曝体験は墓場まで持っていく」と、黙ってこの世を去って行った。本書は元特攻兵による「オーラル・ヒストリー」という方式をもとにしている。戦争体験者からの談話を直接聞き取って記録できるのは、もう待ったなしの状態だ、と著者は言う。

『日本軍ゲリラ 台湾高砂義勇隊/台湾原住民の太平洋戦争』(菊池一隆著、平凡社新書)は、南洋ジャングルで日本軍の一員として戦った台湾原住民(高砂族)から見た太平洋戦争の記録である。日本植民地時代、日本人、台湾人(現在の本省人)から差別され、底辺に追いやられていた高砂族。その主な7種族のうち、本書では中心となったタイヤル族に特に注目する。著者は台湾へ取材に行き、高砂義勇隊としてニューギニア戦線を戦ったタイヤル族たちからも当時の体験を聞き、これまでにオーラル・ヒストリーとしてまとめている。戦後長い間、彼らは日本軍での経歴を封印しなければ台湾では生きていけなかった。台湾人元日本兵士の戦死傷補償問題、南洋での戦没者遺骨収集に関する問題など、戦後73年を経ても日本がまだ解決できない重い問題についても触れている。

 

┃「戦争体験」の格差

『保守と大東亜戦争』
中島岳志(集英社新書)

『戦争体験と経営者』(立石泰則著、岩波新書)の著者は企業取材歴40年のノンフィクション作家。彼らの「戦争体験」の有無が、経営者としての経営理念に大きな影響を与えているのではないか、と考えたという。徴兵はされずに、国内で空襲などの戦時経験をした者と、戦地に赴き、死と背中合わせの日々を送った者との違いは大きい。たとえば有力政治家を父に持つセゾングループの堤 清二氏は徴兵経験がなく、ダイエーを立ち上げた中内 功氏は、一兵卒として満洲やフィリピンなどに赴き過酷な戦争体験を持つ。経営者たちの戦争体験は、人生、経営理念にどう影響を及ぼしたのか。取材の過程で聞き取ってきた、戦争に対する彼らの肉声を伝えている。『保守と大東亜戦争』(中島岳志著、集英社新書)は、戦中派保守の残した文章、回想録を読み直し、戦中派保守の論理とは何だったのかを読み解く。そのうえで、保守派=戦争賛美、大東亜戦争肯定論という見方に疑問を呈している、現
代の視点では同じように保守論客とされる立場の言論人でも、大東亜戦争開戦を20歳以上で迎えた世代の価値観と、開戦当時10歳前後で軍隊や戦場での体験を持たない世代の価値観は、決定的に異なるのではないか、としている。戦中派保守の論客は、軍国主義や超国家主義に強い嫌悪感を示していた。すでに鬼籍に入った彼らの言葉こそ、今向き合うべきではないかと著者は強く訴える。

『「右翼」の戦後史』
安田浩一(講談社現代新書)

『「右翼」の戦後史』(安田浩一著、講談社現代新書)では、日本の右翼の歴史を紐解き、これまで国家権力は時の右翼とどう折り合いをつけ、その存在を許容してきたのかを振り返る。この数年、マ
イノリティーに対するヘイトスピーチを繰り返し、差別や偏見を煽るネット出自の「極右」、ネット
右翼(ネトウヨ)と呼ばれる層が跋扈(ばっこ)している。差別デモに参加する地方議員や差別発言を繰り返す国会議員も増えている。日本社会の「極右化」が加速しているのではないか。著者はそう
した危機感をもとに、戦前・戦後の「右翼」と今の「ネトウヨ」とは何が違うのかを論じている。

※2018年7月刊行から(次号につづく)

「死を笑う」のはタブーか

┃「死を笑う」のはタブーか

『すごい葬式』笑いで死を乗り越える 
小向敦子(朝日新書)

高齢社会による「多死社会」のこれから、葬儀や墓など死にまつわる事象をこれまで通りに行おうとすると、社会もわれわれもパンクしてしまうのではないか、と指摘するのが『すごい葬式/笑いで死を乗り越える』(小向敦子著、朝日新書)。「死と笑い」という、一見タブーな組み合わせだが、「笑う」ことの作用が、死の恐怖や悲しみに有効なのではないかと訴える。

『住まいで「老活」』(安楽玲子著、岩波新書)では、人生100年時代に、老後の自宅での暮らしを安全で快適にするための住まいの改善ポイントを紹介している。正しい知識があれば、健康寿命を延ばし、「寝たきり」を防ぎ、室内の徘徊など認知症の周辺症状を減らすことも可能であるという。

介護の重症化を防ぐことで、「老後破産」の危険も防げる。著者は、住宅改修アドバイザーとして要介護者の自宅を訪問してきた経験から、当事者、介護者、家族にとっても暮らしやすい住宅改修の基本について紹介している。

重い病気になった時、患者の私たちはどうすれば良いか。『賢い患者』(山口育子著、岩波新書)の
著者は、認定NPO法人「COML(コムル)」の理事長として、患者が主体的に医療に参加するため、
患者や家族からの電話相談に応じるなど、患者の立場から、医学教育に携わる活動を行っている。
COMLが活動を始めた1990年は、「インフォームド・コンセント」の重要性が言われるようになったばかりの頃。それから28年、時代の変化と共に、患者を取り巻く環境は激変している。

以前とは逆に、さまざまな情報が専門知識のない患者にも与えられ、判断を迫られる場面も多い。医者と患者のコミュニケーションの問題など、新たな課題も多く見受けられるという。患者とその家族からの電話相談、自身や親しい人の闘病経験から見聞きしたさまざまなケースを紹介し、医療者に「自分のいのち」を全てお任せするのではなく、主体的に医療に参加する「賢い患者」であることの重要性と難しさについて考えさせられる。

『住まいで「老活」』
安楽玲子(岩波新書)

 

┃終着駅から始まる旅

『素敵な石ころの見つけ方』
渡辺一夫(中公新書ラクレ)

自他共に認める「世界一の温泉大国」である日本。温泉旅行や心身を癒す効能をテーマにした書籍は数多くあふれている。しかし、日本人はいつ頃から温泉を利用していたのか、今も残る温泉地はいつから始まったのか、など文献史料に基づいて温泉の歴史が書かれている本は意外なほど少ない。

『温泉の日本史/記紀の古湯、武将の隠し湯、温泉番付』(石川理夫著、中公新書)は、そんな温泉の歴史をたどる1冊。『日本書紀』に登場するほど古くから親しまれている道後・有馬・白浜温泉や、「温泉」という言葉が日本で初めて残された『出雲国風土記』、『万葉集』にも登場する温泉地などを紹介する。古来から入浴・温泉文化が普及した背景に、日本の気候風土に加え、入浴や温浴を奨励する仏教の普及があったのではと指摘する。現代の観光資源としての温泉の実態と課題についても触れている。

『ニッポン 終着駅の旅』(谷川一巳著、平凡社新書)は、普通なら行き止まりの、鉄道終着駅から
始まる旅の記録である。終着駅から先には本当に何もなく、その先はどこへも行けず、同じ路線を戻ることになる駅もある。しかし、実はバスやフェリーなどを乗り継ぐと、新たな旅が続けられる場所も多いという。全国津々浦々、さまざまな理由で終着駅になった場所を訪れ、地形の複雑な日本ならではの終着駅の旅情を語る。

旅先で拾ったきれいな石ころを持ち帰る人がよくいる。拾った本人には特別な石かもしれないが、他人から見ればあくまでそれは「石ころ」でしかないことも多々ある。『素敵な石ころの見つけ方』(渡辺一夫著、中公新書ラクレ)の著者は、釣りで出かけた川原で足元の石ころを拾い上げた時から、その魅力と面白さに夢中になり、「理想の石ころ」を探して各地の川原や海岸を旅するようになった。「旅に出たならこの石を探せ」という、地域別の石ころ探しのガイドもある。川原や海岸へ、時間を忘れて石ころ拾いに出かけてみたくなる。

※2018年6月刊行から

「先送り」システムの限界と未来の日本

┃「先送り」システムの限界と未来の日本

『未来の中国年表』近藤大介(講談社現代新書)
超高齢大国でこれから起こること

『未来の中国年表/超高齢大国でこれから起こること』(近藤大介著、講談社現代新書)は、2017年にベストセラーとなった『未来の年表』(河合雅司著、講談社現代新書)と同様に、「人口の観点から未来を予測する」という手法で、人口統計データをもとに超高齢化が進む中国社会の今後30年を予測している。

日本が直面している高齢化のマイナス面は、推定人口13億9千万人超、日本の約11倍の人口を抱える世界一の人口大国に、日本と同じようなスピード、日本の約10倍の規模で押し寄せている。日本と違うのは、2015年まで続けられていた「一人っ子政策」の影響で、男女比率のゆがみが生じていることである。本書の「未来年表」では、「2020年には、適齢期の男性が女性よりも3,000万人も多くなる」と予測し、どのような社会現象が起きるかを大胆に予想している。

2036年、日本の限界が訪れる。元経産省キャリア官僚がそう警告しているのが、『逃げられない世代/日本型「先送り」システムの限界』(宇佐美典也著、新潮新書)である。年金、安全保障、財政赤字……。2030年半ば、つまり団塊ジュニア世代が高齢者になる頃には、「問題はわかっているけれど対策が講じられない」と先送りにされてきたさまざまな課題が限界を迎え、国際社会の中での日本の影響力も相当低下し、本格的な苦難の時代を迎えると予測している。

『逃げられない世代』宇佐美典也(新潮新書)
日本型「先送り」システムの限界

タイトルの「逃げられない世代」とは、現在20代から30代(1979年から98年生まれの世代)、団塊ジュニア以降の世代であり、1981年生まれの著者もその世代に含まれているという。これまでなぜ問題が「先送り」にされ続けてきたか、将来の危機にどのように備えていくべきかを論じている。

 

┃持続可能な医療とは

『警備ビジネスで読み解く日本』
田中智仁(光文社新書)

高齢化により、日本の医療費は年々増加しており、その6割から7割は高齢者の医療費となっている。しかし、一部を除きそれを支えているのは現役世代の拠出する税金や保険料によるものである。医療費の増大は現状では将来世代に借金のツケをまわすことになるが、医療産業は今後最大の「成長産業」でもあり、国際競争力や雇用の面でも、医療費の規模を小さくすることが望ましいとは一概に言えない。

『持続可能な医療』(広井良典著、ちくま新書)では、これから人口減少、低成長時代に突入するに当たり、医療費の配分(社会全体の中で医療費にどれだけの資源やお金を配分するか、医療費の中でどの分野に資源を配分するか)について、持続可能な医療という観点から検討すべきだと提言する。

『金融政策に未来はあるか』(岩村 充著、岩波新書)では、バブル崩壊後、後に「失われた20年」と言われるまでになった長い不況は何だったのか、日本人がなぜ「失われた」時間と感じたのかを分析している。著者は、敗戦後の日本の経済復興を「日本人の努力と資質による」と記憶し、その成功体験を忘れられない人々は、「日銀がもっと上手に金融政策を運営していれば、これほど苦境に陥らなかったはずなのに」と不満に感じていたとしている。「失われた20年」というよりは、「日銀が失わせた20年」という思いが、この言葉の根底にあると指摘している。

オフィスや商業施設、工事現場など、近頃は、あらゆる場所で警備員の姿を目にする。『警備ビジネスで読み解く日本』(田中智仁著、光文社新書)は、ここまで身近な存在でありながら、あまり知られていない、警備ビジネスの実態と課題について研究している。今、警備業界にとって最も大きな課題は、間近に迫って来た2020年のオリンピック・パラリンピック。

大幅な人員増が求められる中、警備・案内ロボットの運用、AIによる防犯システムの運用や、警備体制の把握も進められている。AIやロボットに警備員は取って代わられるのか、実用化に当たって懸念されることなどを論じている。

※2018年6月刊行から(次号につづく)

政府の対策を待っていては間に合わない人口減問題

┃政府の対策を待っていては間に合わない人口減問題

『コンビニ外国人』
芹澤健介(新潮新書)

『未来の年表2/人口減少日本であなたに起きること』(河合雅司著、講談社現代新書)は、人口減少社会でこれから起きることを年表形式で「具体的に」示し波紋を呼んだ『未来の年表』の第2弾。少子高齢化が進み、街に高齢者があふれ返る。街で、家庭で、職場で、具体的にどのような問題が起き得るのか。顧客のほとんどが高齢者になると、小売業やサービス業にはどのような発想の転換が求められてくるのか。『未来の年表』第1弾では、さまざまなデータ予測を基に「2033年には3戸に1戸が空き家に」などの警告が示された。本書では、政府や自治体をあてにするのではなく、個人や企業が自分たちで今からできる、人口減少の影響をできるだけ回避するための対策を提示している。

『定年準備/人生後半戦の助走と実践』(楠木新著、中公新書)は、昨年4月に刊行され大きな反響を呼んだ『定年後/50歳からの生き方、終わり方』に続く、「実践編」。人生100年時代、とも言われる今、定年後の充実した生活、「人生後半戦の助走」には45歳くらいから、本当にやりたいことを見極め、意識的に準備することが重要だとしている。シニア社員や、定年退職者への取材を重ね、定年という区切りで、自分をどう取り戻すか、そのための準備をどうすべきかの実例を、できるだけ具体的に紹介していく。

最近、コンビニやスーパー、居酒屋などで外国人スタッフが増えていると、つくづく実感している。私たちが一般には目にする機会の少ない、工場、農場、介護施設などでも、外国人労働者の数は近年急増しているという。『コンビニ外国人』(芹澤健介著、新潮新書)では、都会の24時間営業のコンビニを中心に、人口減、高齢化が進み、外国人労働力なしでは成り立たなくなりつつある日本の現状を報告する。本書によれば日本はすでに世界第5位の「外国人労働力の流入国」になっているという。公式にはまだ「移民」が認められていないはずの日本で、なぜそのようなことが可能なのか、「留学生」や「実習生」というシステムのからくりと闇の部分に着目する。

 

┃子どもの命を社会がどう守るか

『ルポ 児童相談所』
大久保真紀(朝日新書)

悲惨な児童虐待死事件が報道されるたびに、世間の批判を集めるのが児童相談所である。『ルポ児童相談所』(大久保真紀著、朝日新書)では、急増する児童虐待事件に、児童相談所はどう対応しているのか、現場を取材し、スタッフの実情を報告する。虐待を繰り返す親から子どもを守るために、法律で変えられることはないのか、警察や公的機関の「介入」はなぜ困難なのか、構造的な課題に切り込んでいる。そもそも、児童虐待の防止にかける予算が、諸外国に比較して少な過ぎるところがこの国の大きな問題である。解決の糸口はまずはそこから、ということが本書を読むとわかる。

『なぜ、わが子を棄てるのか/「赤ちゃんポスト」10年の真実』(NHK取材班著、NHK出版新書)は、育てられなくなった子どもを匿名で(罪に問われずに)放棄できる日本で唯一の施設、熊本県の私立病院に設置された「こうのとりのゆりかご」(通称「赤ちゃんポスト」)について取り上げたNHKの番組を書籍化したもの。本書によればこれまでに預けられたのは130人。賛否両論あるこの施設の開設から10年を迎えたこれまでの軌跡や、預けられた子どもたちのその後についてなどを取材している。「赤ちゃんポスト」は、子どもを育てられない、と追いつめられた親たちにとって最後のとりでであるが、自分勝手な「安易な利用」と考えられるケースも多々あるという。さまざまな事情で子どもを育てられない親は、子どもの命を守るためにも行政に相談し、しかるべき施設に託すべき、と多くの人が考える。国もそうした立場をとる。しかし「赤ちゃんポスト」に入れるしかない、という人がこれだけいる、そのことも真実だ。

『自己実現という罠』
悪用される「内発的動機づけ」

榎本博明(平凡社新書)

学業や日常生活を犠牲にして家族の介護を行う若者の負担と孤独を取り上げる『ヤングケアラー/介護を担う子ども・若者の現実』(澁谷智子著、中公新書)。「やりがいのある仕事につくべき」「仕事で自己実現すべき」と、いかに多くの人々を過重労働へと駆り立てているかを警告しているのが『自己実現という罠/悪用される「内発的動機づけ」』(榎本博明著、平凡社新書)。「失われた20年」という時代に重なって生きるアラフォー女性の受難を見るのは『非正規・単身・アラフォー女性/「失われた世代」の絶望と希望』(雨宮処凛著、光文社新書)。以上3冊のタイトルはいずれも、「個性を大事に」「仕事で輝くべき」「家族のケアは家族がすべき」などと教育されてきた「優しい」世代が、自分を犠牲に生きるしかない現代日本を象徴している。過酷な受験戦争、就活競争を
強いられながら、働く、結婚する、子育てをする、という「普通の幸せ」を手にすることが困難な時
代に生まれた人々の今後はどうなるのか。そうした世代の「犠牲」を前提に成立している日本のこれからに大きな不安を感じてしまう。

※2018年5月刊行から

環境保護の動きは今、どうなっているか

┃環境保護の動きは今、どうなっているか

『EVと自動運転』 クルマをどう変えるか
鶴原吉郎(岩波新書)

『EVと自動運転/クルマをどう変えるか』(鶴原吉郎著、岩波新書)は、今「100年に一度」の大きな転換期を迎えつつある、自動車産業の最前線を紹介する。著者は、この大きな変化のキーワードに、「電動化」「自動化」「コネクテッド化」を挙げている。「電動化」とは、EV(電気自動車)に代表されるように、これまでのエンジンからバッテリーで動くモーターへと置き換わっていく動き。「自動化」とは、センサーや人工知能を
搭載して、人間のドライバーを必要としない自動運転車への進化の動き。さらに、「コネクテッド化」とは、クルマをインターネットに常時接続させることによって、これまでなかったような機能やサービスを利用できる
ようにする動き、だという。クルマの技術革新は、安全性能や環境性能の進化をもたらすだけにとどまらず、人々とクルマの関係を変えていくかもしれない。その変化の最先端を見ている世界の巨大企業(自動車メーカーだけにとどまらない)は何を狙っているのか。自動車産業の現在と未来を読み解く。ペットボトルや古紙、そして金属類から古着まで、各種リサイクルは、「環境にやさしい」取り組みだとされ、日本では資源品の分別収集が積極的に行われている。国内で回収された資源品のうち、国内で再使用・再生利用されているのはごく一部で、その多くは海外に輸出されている。古紙や廃プラスチック、鉄スクラップなどの再生資源は、今や輸出の主力品のひとつとして考えられているほどだという。

『リサイクルと世界経済』 貿易と環境保護は両立できるか
小島道一(中公新書)

『リサイクルと世界経済/貿易と環境保護は両立できるか』(小島道一著、中公新書)は、現状の「リサイクル」は、「環境にやさしい」どころか、輸出先で環境汚染を生むこともあるという現実を突き付けている。海を越えて遠く運ばれている再生資源や中古品(国際リサイクル)は、リサイクルの過程で環境汚染を生じさせたり、中古品の品質が悪く廃棄せざるを得なかったりと、問題が発生していることもあるという。こうしたことで、中古品や有害廃棄物の国際移動には、国際的なルールや規範が作られ
るようになってきた。これまで世界中から廃プラスチックを輸入してきた中国が、2017年に公害対策のため輸入規制に踏み切ったことの影響も、これから出てくるだろう。本書では、長く「国際リサイクル」研究に携わり、アジアを中心に現地調査も重ねてきた著者が、国際リサイクルの現状と課題について解説する。環境汚染などの問題を起こさずに、国際リサイクルを進め、資源の再生利用を持続させるために必要なことは何か解説する。

┃世界経済と日本の立ち位置

『新貿易立国論』
大泉啓一郎(文春新書)

かつて「貿易立国」モデルで成功した日本が、「復活する」ために必要なことは何か。『新貿易立国論』(大泉啓一郎著、文春新書)は、中国やASEAN諸国といった、新興国・途上国に追い上げられている、今の日本の立ち位置を正しく理解するために必要な実情について解説する。21世紀に入り、新興国・途上国の大都市は新たな成長段階に突入している。しか
し、成長の牽引役、つまりビジネスの主戦場は「新興国・途上国」そのものではなく、「新興国・途上国」の大都市であることに注意が必要だ、と著者は指摘している。たとえば、インドの経済躍進を牽引するほど急成長しているバンガロールという都市が、「インドのシリコンバレー」と呼ばれるようになった戦略とは何か。国別の統計数字だけでは読み切れない、都市や地域ごとの成長戦略を学び、これからの日本が取るべき新しい貿易戦略について考察する。『ヨーロッパで勝つ! ビジネス成功術/日本人の知らない新常識』(塚谷泰生著、ちくま新書)の著者は、商社マンとして長くヨーロッパでの取り引きに携わった後に現地で起業している。これまで、日本企業は「日本の製品は良い。良いものは売れるはず」と頭から思い込んで来たが、その精神では今後世界市場では勝負できない、と指摘する。今、ヨーロッパ市場では中国やアジア諸国の台頭が著しい反面、日本の存在感が「本当に薄くなってきている」。その危機感が、現地で暮らす人々に共通してあるという。今後、ヨーロッパ市場でのビジネスを攻略するためには、日本の常識を押し通し、「日本ブランド」に固執するのではなく、現地のニーズを知り、現地の契約条件に柔軟に合わせることが必要だ、と訴える。

※2018年5月刊行から(次号につづく)

声の魅力

┃声の魅力

『声のサイエンス』あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか
山崎広子(NHK出版新書)

「声」とは何か、魅力的な「声」とは何か。言葉や話す内容ではなく、実は「声」そのものによっ
て、私たちの行動は大きく支配されている、というのが『声のサイエンス/あの人の声は、なぜ心
を揺さぶるのか』(山崎広子著、NHK出版新書)。自分の声、特に録音した自分の声が「嫌い」だと
言う人は多いがそれはなぜなのか。声という音が心身に与える影響について調査研究を続けてきた視点から、自分の声の、他者および自分自身への影響力について考えていく。

人々は周囲の環境に「無意識に」自分の声を適合させているという。著者はさまざまな人の声を分析しているが、最近、若い女性の話し声が異常に高くなってきているのが気になっているそうだ。諸外国に比べて異常なほど高い作り声で話す日本女性が多いのは、今の日本が女性が「素の自分」でいられない社会だということを示しているのではないか、と危惧している。

『日本人のための声がよくなる「舌力」のつくり方』
声のプロが教える正しい「舌の強化法」
篠原さなえ(ブルーバックス)

『日本人のための声がよくなる「舌力」のつくり方/声のプロが教える正しい「舌の強化法」』(篠原さなえ著、ブルーバックス)の著者は、アナウンサー、声優、ナレーターなどの「声のプロ」やその卵たちへの指導を手がけて来た。自分の声や話し方に対してコンプレックスがある人への指導を通して見えてきたのは、滑舌に必要なのは「舌の力」=舌の筋力だという。日本語を発音するために必要な、舌に関する知識と努力(トレーニング)によって喋る声を変え、自信を取り戻すことができる、としている。

一方、滑舌や発音の問題に関わる鼻、歯並び、舌の機構にはトレーニングでは解決できないものもある。従来「鼻づまり」や「舌足らず」など、「生まれつき」のものとして見過ごされて(諦められて)きたことが、今日では医学的に解決可能な方法もあると紹介している。発声・滑舌など自分の声に悩みを抱えている人だけでなく、子どもを持つ親、子どもたちを指導する立場にある多くの人に向けて書いている。

今、若者が憧れる人気職業のひとつと言われるのが声優だ。『声優/声の職人』(森川智之著、岩波新書)では、人気・実力ともトップクラス、30年以上第一線で活躍を続ける著者が、身近なようで実はあまり知られていない「声優」の仕事の舞台裏を明かす。著者は、海外映画の吹き替え、アニメ声優、ナレーション、ゲーム、スマホアプリ、CMなど、さまざまなジャンルで活躍する傍ら、声優事務所の社長や、声優養成所の講師として育成の仕事も行っている。人気声優がアイドル並みに「表舞台」で活躍する昨今の風潮も否定はしないものの、声優はあくまで声だけで勝負する職人的な仕事であることを強調している。その技術を磨くために最も重要なのは、台本を読み解く「読解力」つまり「日本語力」だという。非常に説得力がある。

 

┃歴史の視点を変えてみる

『明治の技術官僚』近代日本をつくった長州五傑
柏原宏紀(中公新書)

『戦国日本と大航海時代/秀吉・家康・政宗の外交戦略』(平川 新著、中公新書)では、戦国時代の
日本史と世界史の接点に着目している。史料をもとに、「豊臣秀吉はなぜ朝鮮に出兵したのか」、
「徳川家康はなぜ鎖国をしたのか」、「日本はなぜスペインやポルトガルの植民地にならなかったのか」などの謎を解き明かす。不毛な争いを繰り返していたかに見える戦国時代だが、ヨーロッパ人による植民地支配に対抗できる軍事力を備えることができた時代、と見ることもできる。朝鮮出兵は日本にとって侵略という負の遺産でもあるが、そこで発揮された国力によって、日本の植民地化を防ぐことにつながったのではないか、という分析も可能だという。視点を変えることで可能になる、歴史の新たな見方を示している。

ひと昔前まで、江戸時代の日本の科学については、鎖国のため長期にわたり停滞していたとしてあまり評価されていなかった。『江戸の科学者/西洋に挑んだ異才列伝』(新戸雅章著、平凡社新書)の著者は、洋楽史や科学史研究から、江戸時代の科学事情を検討し、西洋に遅れてはいたものの、すでに相当の水準にあったことを明らかにする。平賀源内、関 孝和、緒方洪庵ら11人の江戸時代の科学者の生涯を紹介し、明治維新後に近代科学が花開く礎となった天才たちの魅力に迫る。

『明治の技術官僚/近代日本をつくった長州五傑』(柏原宏紀著、中公新書)は、幕末にイギリスへ密航し、帰国後は日本の近代化に大きな役割を果たした長州藩出身の5人(井上 馨、伊藤博文、井上
勝、遠藤謹助、山尾庸三)に着目する。先に帰国することとなった井上 馨、伊藤博文のふたりは後に有力な政治家として歴史に名を残した。残る3人は比較すると知名度が低いが、海外で得た理系知識や技術の専門性を生かし、新政府において官僚となって活躍した。彼らの負の側面にも目を向けつつ、近代国家形成において長州五傑が果たした役割を改めて評価している。

※2018年4月刊行から

国民投票法の致命的な欠陥

┃国民投票法の致命的な欠陥

 

『広告が憲法を殺す日』
国民投票とプロパガンダCM
本間 龍、南部義典(集英社新書)

憲法改正をめぐる国民投票は「圧倒的なカネと広告に支配されることになる」と警告するのが『広告が憲法を殺す日/国民投票とプロパガンダCM』(本間 龍、南部義典著、集英社新書)だ。著者のひとり、本間氏は大手広告代理店の博報堂出身であり、広告代理店を通じたカネの動きを知り尽くしている。海外の多くの国では国民投票に対しての広告が原則禁止となっているが、日本では広告規制が現状ではほとんどなく、有償CMが流し放題になっていると指摘する。

「このまま国民投票が行われたらどうなるか」ということを、国民投票の諸制度について詳しい南部義典氏と共にシミュレーション。より公平な形を作るルールはどうあるべきかなど、具体的に提案をしていく。

『カミングアウト』
砂川秀樹(朝日新書)

近年、LGBTという言葉が知られるようになり、性的少数者に関わる話題を耳にする機会が増えてきた。日本でもようやく、同性カップルのパートナーシップを認める法的制度などが動き始めつつある。それでも、性的少数者である当事者たちは、「本当の自分を知って欲しい」という気持ちと、「知られたら拒絶されるのでは」という気持ちの中で葛藤し続けているのは昔も今も変わらないようだ。『カミングアウト』(砂川秀樹著、朝日新書)では、カミングアウトをめぐり、当事者と当事者の家族たちの心の葛藤を、性的少数者である自らの経験も踏まえて、いくつかのストーリーとして紹介する。

カミングアウトとは、自分が性的少数者であることを誰かに話すということ。カミングアウトされたことを本人の同意なく誰かに伝えてしまう「アウティング」は、時に自殺などを引き起こすほど深刻な問題だということを知っておきたい。

これからの時代、教育現場で性的少数者についてどう扱っていけば良いか、子どもから、あるいは生徒からカミングアウトを受けた場合の対応をどうするかなど、社会全体で配慮すべき課題も紹介されている。

『サイコパスの真実』
原田隆之(ちくま新書)

人はなぜサイコパスになるのか。サイコパスは治るのか。最近では「サイコパス」を扱った本が多く出され、ちょっとしたブームにもなっているという。『サイコパスの真実』(原田隆之著、ちくま新書)は、犯罪心理学の専門家が、最先端の知見に基づき、サイコパスの正体に科学的に迫ろうとした1冊。サイコパスとは、ひと言でいうと「良心を欠いて生まれた人々」である、と著者は言う。映画や小説などで扱われることも多く、冷徹な知能犯、連続殺人事件の犯人のような特殊な例を想像することが多い。しかし、圧倒的大多数のサイコパスは、犯罪者ではないことがほとんどで、企業の経営者、政治家、アーティスト、科学者など成功者にも多いタイプとも言える。一見、魅力的であるが他者に対しては傲慢な、「マイルド・サイコパス」について特に詳しく紹介している。

今のところ、サイコパスの治療法や予防法は見つかっていない。表面的にカリスマ的魅力があり、響きの良い、強い言葉を操るようなサイコパス。彼らを政治的指導者として選ばないようにすること。周囲ができることはそれくらいかもしれないとしている。

 

┃過去に立ち返り、日本の現状と未来を考える

『日本統治下の朝鮮/統計と実証研究は何を語るか』(木村光彦著、中公新書)は、1910年から1945年まで日本が朝鮮半島で行ったことは「収奪」だけだったのか、と改めて問う。日本統治と、今日に至る韓国の発展、北朝鮮の国家建設とのつながりはどうなのか。また、朝鮮統治は日本にとって経済的にどのような利益・不利益があったのか、経済学の視点からその実態を検証していく。

帝国日本が残した産業遺産を見ると、電力・鉄道・港湾などのインフラ、鉱物資源、工業設備の多くは、北朝鮮に存在し、それが今日の核開発の礎ともなっているのではないか、と著者は指摘している。最新の経済統計データを基に、日本の遺産が韓国・北朝鮮両国に与えた影響を検討する。

AIやブロックチェーンの台頭で、アメリカや中国を中心に、ビジネスモデルの大転換が起きている。『「産業革命以前」の未来へ/ビジネスモデルの大転換が始まる』(野口悠紀雄著、NHK出版新書)では、世界経済の現状と未来を理解するためには、産業革命「以前」の大航海時代のヨーロッパに立ち返ることが必要だ、としている。

新しい技術を活用して新たな産業革命が起きようとしている今、大きく立ち後れている日本が、この現状を脱するためにはどうしたら良いか。国、企業、個人それぞれが、考え方、行動を変化させていくべきだと主張している。

※2018年4月刊行から

 

政教分離と信教の自由は両立可能か

┃政教分離と信教の自由は両立可能か

『ライシテから読む現代フランス』
政治と宗教のいま
伊達聖伸(岩波新書)

『ライシテから読む現代フランス/政治と宗教のいま』(伊達聖伸著、岩波新書)は、厳格な政教分離を共和国の理念とするフランスで、信教の自由と政教分離は矛盾しないのかなど、さまざまな葛藤を紹介する。

ライシテとは、「フランス独特の厳格な政教分離」とも言われ、公立校でイスラム教徒のスカーフを禁止するなど、他の国には例を見ない。大統領選の主要な争点にもなった、政教分離に対する寛容と厳格さのバランスについて考えていく。

『マーティン・ルーサー・キング』
非暴力の闘士
黒崎 真(岩波新書)

『マーティン・ルーサー・キング/非暴力の闘士』(黒崎 真著、岩波新書)は、非暴力を訴える、貧困のないアメリカの実現を願って活動を続けたキング牧師の生涯をたどる。今日、多くの人が思い浮かべるキング像は、1955年~65年の南部公民権運動を指導した際の姿、有名な「私には夢がある」演説、ノーベル平和賞を受賞したカリスマ的指導者像としてのキング氏である。

しかし、著者は、こうしたキング像は、政治的に無害な、万民に受け入れやすい「公的記憶としてのキング」である、と指摘する。キングは、ベトナム戦争の際に反戦表明をしたが、黒人の地位向上のためにも戦争協力は欠かせなかったこの時代、連邦政府を敵に回したキングは一転して非難の的となった。貧困根絶の取り組みも生涯続けていたが、そうしたキングの活動は、当時の政府にとって不都合があったばかりでなく、その後、歴代大統領たちによっても「なかったもの」とされている。暗殺から今年で50年の今、現大統領自ら、アメリカ第一主義と人種偏見の発言を繰り返している。アメリカはキングの「夢」からむしろ遠ざかっているのではないか、と著者は指摘する。

『スポーツ国家アメリカ/民主主義と巨大ビジネスのはざまで』(鈴木 透著、中公新書)では、野球、アメリカンフットボール、バスケットボールといったアメリカ生まれの競技(著者は「アメリカ型競技」と呼ぶ)を中心に、スポーツがこの国のあり方にどう影響を与え続けているかを考察している。

人種の壁、女性差別の壁とスポーツはどう向き合ってきたか。巨大放映権ビジネスはスポーツに介入し、ルールの変更もたびたび行われている。スポーツ、特にアメリカ型競技の成り立ちから、アメリカという国を新たに捉え直そうとする斬新な視点である。2019年のラグビー・ワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのホスト国として、スポーツを社会の中でどう位置付けていけば良いか、身近な問題として考えるきっかけにして欲しい、としている。

┃AIをどう理解していくか

『高校生のための ゲームで考える人工知能』
三宅陽一郎、山本貴光(ちくまプリマー新書)

新書に限らず、さまざまな分野・角度から「AI」をテーマにした書籍は続々と刊行されている。『高校生のための ゲームで考える人工知能』(三宅陽一郎、山本貴光著、ちくまプリマー新書)は、ゲームのキャラクターの人工知能という「具体例」を使ってAIについて理解してみようというもの。

著者のふたりは、共に気鋭のゲーム・クリエイター。コンピューター・ゲームは、コンピューターの性能が格段に向上したことで、複雑で大規模なゲーム世界をリアルタイムで動かせるようになった。ネットワークにつながることで、たくさんのプレイヤーが同時に遊ぶことも当たり前になってきている。プレイヤーを飽きさせない状況の変化や物語をどう作り上げていくか、若い世代に向け、最先端ゲーム開発の舞台裏を紹介している。

『教養としてのテクノロジー/AI、仮想通貨、ブロックチェーン』(伊藤穰一、アンドレー・ウール
著、NHK出版新書)は、新しいIT用語が次々と登場し、理解できないために「自分とは関係ない」と
思っている人のための1冊。AI、仮想通貨、ブロックチェーンなどに代表されるテクノロジーは、全ての人が技術的な仕組みを理解するのは難しいかもしれないが、「教養」というレベルで理解していくことが、現代社会を生きていく上では必須である、と著者らはいう。

「労働」や「国家」、「資本主義」、「教育」は新しいテクノロジーの登場により、どう変化していくのか、変化の激しい時代に日本人はどう変わるべきなのかを訴えかける。『ゆるいつながり/協調性ではなく、共感性でつながる時代』(本田直之著、朝日新書)では、肩書きが重要視される昭和的なつながりと比較して、SNS時代に必要な「ゆるいつながり」とは何かを論じている。AIには真似できない、自分ならではの価値をどう磨き、楽しく生きていくか。「人脈」という従来の言葉では表せない人間関係の新しいあり方を模索している。

※2018年3月刊行から

 

検閲とは無縁のままの日本でいられるか?

┃検閲とは無縁のままの日本でいられるか?

『空気の検閲』
大日本帝国の表現規制
辻田真佐憲(光文社新書)

『空気の検閲/大日本帝国の表現規制』(辻田真佐憲著、光文社新書)では、帝国日本の表現規制、検閲の現場について詳しく検証。公権力が、明文化された法令や規則に基づいて表現内容を審査し、不適当と認めるものに発表禁止などの規制を行っていたものがいわば「正規の検閲」である。一方で、タイトルにある「空気の検閲」とは、出版人や言論人とやり取りしながら、当局の意向を「忖度」させ、自己規制や自己検閲を行うように誘導したものを指す。現場に空気を読ませ、忖度させることで検閲のコストを下げ、法制度が時代に追い付かないことで法の抜け穴ができてしまうことを防ぐ狙いがあったのでは、と著者は指摘。現代日本も、空気や忖度に基づく表現規制とは無縁ではないのではないか、と危惧している。

『陰謀の日本中世史』
呉座勇一(角川新書)

『陰謀の日本中世史』(呉座勇一著、角川新書)の著者は、『応仁の乱』(中公新書、2016年)が大
ベストセラーになったことで一躍有名になった歴史学者だ。「本能寺の変には明智光秀のほかに黒幕がいた」といった歴史の「陰謀説」が大好きな日本人。専門家の間では定説となっている最新学説をもとに、数々の「トンデモ陰謀説」を論破していく。ひと目で荒唐無稽とわかるような説の間違いを証明しても、学会では研究業績にならないため、専門家はあえて相手にしないようなところがある。「陰謀論」が後を絶たないのは、黙殺してきた歴史学会にも責任があるのでは、と指摘している。

『英国公文書の世界史/一次資料の宝石箱』(小林恭子著、中公新書ラクレ)では、さまざまな調査目的のために世界中から多くの人々が訪れる、英国国立公文書館(英公文書館)を取り上げる。幅広い分野にわたる一次資料が保管され、誰でもしかるべき手続きを取れば閲覧できるようになっている。本書では、夏目漱石のロンドンでの足跡を示す下宿記録、原爆開発に関する覚え書き、英国調査団の詳細な報告による原爆投下後の広島・長崎の光景、ビートルズ来日報告書など、日本に関わる公文書や、大英帝国から東西冷戦までの英国の歴史にまつわる文書などを紹介している。公的記録を残し、保管していくことの重要性がクローズアップされている今、英国と日本両国の、公文書に対する「本気度の違い」について考えさせられる。

┃アップデートしたい生物学の知識

『大人の恐竜図鑑』(北村雄一著、ちくま新書)で紹介される、「恐竜には羽毛があった」「恐竜の祖先は鳥」「ティラノサウルスは直立できない」などの「恐竜についての最新の学説」は、最新の図鑑を読んでいる子どもたちから見れば当たり前の内容が多いかもしれない。著者はサイエンス・ライターであり、図鑑などのイラストも描く。著者の子ども時代、ティラノサウルスといえばゴジラのように上半身を起こしてしっぽを引きずる姿で描かれていた。恐竜学者による最新の学説と矛盾しない形で、一般の人々のイメージとかけ離れない程度の復元図を描く。著者がこの難しい問題にどう対応
しているかという解説も興味深い。

『鳥! 驚異の知能』
道具をつくり、心を読み、確率を理解する
ジェニファー・アッカーマン(ブルーバックス)

脳があまりに小さく軽いので、「愚か」と考えられてきた鳥たち。しかし近年の研究では、霊長類に近い知性を持つ鳥もいる、ということが知られてきているという。『鳥! 驚異の知能/道具をつくり、心を読み、確率を理解する』(ジェニファー・アッカーマン著、鍛原多惠子訳、ブルーバックス)では、多様な環境で生き延びてきた鳥類が、どのように「複雑」な認知能力を獲得してきたのか、鳥は私たちが思うよりずっと賢いのではないか、とさまざまな例から紹介している。鳥のさえずりにはその地方により「訛り」がある、という研究なども面白い。

『絶滅危惧の地味な虫たち/失われる自然を求めて』(小松貴著、ちくま新書)によれば、日本には、名前が付いているものだけで3万種近く、推定上は10万種にも上る昆虫がいる。そうした昆虫の多くが、人間による環境破壊に伴い、生態がよく知られないままにひっそりと姿を消している。環境庁の作成する「絶滅が危惧される」レッドデータブック/レッドリストに載る昆虫のうち、保護活動の対象になりやすいのは人気が高いチョウやホタル、カブトムシなどの大型甲虫ばかり。著者は、それら「人気者」以外の、小さくて地味、キモい、虫愛好家や研究者たちさえ調べたがらない「いかにもどうでもいいような風貌」の昆虫に注目している。

『生物学の基礎はことわざにあり/カエルの子はカエル? トンビがタカを生む?』(杉本正信著 、岩波ジュニア新書)は、古くから伝わる「ことわざ」を題材に、現代人が知っておくべき生物学の入り口へと誘う試み。昔の人々から受け継いで来た「人生の知恵」であることわざの多くに、遺伝や進化、免疫の仕組み、生物多様性など、生物学の本質を突いたものが数多く見られて興味深い。

※2018年3月刊行から