ネットの深海に住む怪魚
『Tickled』

インターネットを使った悪質ないじめ/サイバー・ブリーイング。本作に出てくる「いじめ」もその一つなのだろうが、敵の正体も理由も見えない新手の個人攻撃で、ネットの深海に住む毒性のつよい怪魚のような不気味さがある。ニュージーランドのジャーナリスト、デヴィド・ファリアーがこの怪魚に触れてしまった。
彼はエンタメや風変わりなニュースを専門にするリポーターで、「くすぐりガマン競技(Competitive Endurance Tickling)」というビデオをネット上で発見。手足を拘束された若い着衣の男性一人に対して、数人の若い男性が彼をくすぐるという、スポーツ性のない競技風の動画に首を傾げた。どことなくセクシュアルなのである。ファリアーは興味を抱き、主催者にインタビューを申し入れた。ところが返事は、ファリアーがゲイであることをあざけり、訴追の準備があるという陰険な内容。その異様な攻撃性には何かあると直感した彼が、この「競技」の実態を追っていくドキュメンタリーが本作だ。監督はジャーナリスト本人であるファリアーと、ITに精通した友人ディラン・リーブの2人。共に映画作りは始めてで、超のつく低予算でカメラワークはブレブレだったりするが、謎だらけの「競技」の真相に迫っていく手探り感がスリリングで新鮮だった。
競技に参加したスポーツマンタイプの青年の証言にゾッとなる。公募に応じると2000ドルの金と旅費が送付され、ロスに集合。高級ホテルに宿泊しながらのスタジオ撮影には変な感じは全然なかった。撮影理由が「軍事目的」と聞いて嘘だと思ったが、金に困っていたので応じた。そして一年余後、彼はその時の動画をYouTubeで発見して驚愕、差し止めてもらった。すると主催者側から脅迫メールが届き、ありとあらゆる動画サイトに彼のビデオがアップされ、仕事先へも「彼はくすぐりフェチのゲイ」というメールが送られてきた、というのだ。
なぜ? 何のため? 金のためではない。個人的に関係のない青年を追い詰めて何の得になるのだろう? 当然誰もが思うことであり、ファリアーらは、次々と送られてくる陰険な脅迫メールや訴追通知に屈せず、黒幕を追いかける。そして見つけた怪魚の正体は?
金で人を釣り上げ、弱みをつかみ、それをネタに彼らを脅し、窮地に追い込む。そのパワーとコントロールに自己確認と快感があり、それらを得るための金に糸目はつけない。そんな怪魚がネットの深海に潜んでいる。ちなみに競技主催者のJane O’ Brien Media のサイトは現在も堂々とアップ中。くれぐれも怪魚に触れないことだ。
上映時間:1時間32分。
シアトルは1日よりLandmark’ s Guild 45th Theatreで上映中。
[新作ムービー]














ボンドは生家スカイフォールで死亡した前任M(ジュディ・デンチ)の遺言に従い、ある男を探すためメキシコで単独行動をしていた。同じ頃ロンドンでは、国家安全保障局の新任トップ、C(アンドリュー・スコット)が膨大な監視システムを使った組織再編を始め、M16のM(レイフ・ファインズ)は、ボンドの暴走などを理由に00部門閉鎖の危機に直面していた。帰国したボンドはMから自宅待機を命じられるが、Q(ベン・ウィショー)とMの秘書マネーペニー(ナオミ・ハリス)の密かな助けを得て、ローマへと向かい、そこで探していた男スペクターのトップ、ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)を見つける。

1996年に日本の女性登山家、難波康子を含む8人の犠牲者を出したエベレスト大量遭難を題材にした劇映画だ。エベレストは世界最高峰、映画『Meru』で紹介したような強靭な登山家らが挑む山と思っていたが、現状はビジネス化が進み、営業公募隊に参加するとプロの登山家の指導下、アマチュアでも登頂が可能だという。この遭難はそんな公募隊に起きた惨事だった。
館にさまざまに身分を偽って、寄贈を続けていたのである。ところが、FBIは彼を逮捕することが出来ない。なにせ彼は一度も自分の贋作で金銭を得たことがなく、犯罪に当たらないと言うのだ。



ブリテイン(1893年~1970年)が書いた自伝的同名小説(邦題『青春期の遺言:1900-1925年の自伝的記録』)の映画化。オーソドックスな語り口で、戦争の衝撃と胸が張り裂ける喪失の悲しみを描いた優れた反戦映画として推薦したい。監督はTVでの経歴が長いジョン・ケント。ヴィキャンデルなど人気の高い欧州の若手俳優たちが好演している。
バス運転手のシングルマザーと暮らすマルコム(シャメイク・ムーア)はハーバードを目指す高校生。オール A の成績を自慢するうぬぼれ屋でかなりなオタク、学校ではいじめっ子の標的だ。そんな彼とつるむ気弱なジブ(トニー・レヴォロリ)と、鼻っ柱の強いレスビアンのディギー( キーアージー・クレモンズ)の 3 人はパンクバンドを組んでいた。 たまたま行ったパーティで銃撃戦が始まり、近所にウヨウヨいる麻薬ディラーの 1人ドム(エイサップ・ロッキー)の扱う麻薬をある重要人物に届ける羽目になるが、その男から受け取りを拒否されて愕然。しかし、頭の良いマルコムたちは、金の経路が掴めないビットコインを使ってネットで麻薬を売ることを思いつき……というお話。 成績優秀でもハーバードなどには絶対行けないと教師から釘を刺されたマルコムだが、ぜんぜん負けていない。窮地をチャンスに変えようと奮闘する彼とダチ公たちの関係が気持ち良く、物語もテンポよく動いて軽快だ。 貧しいアフリカ系高校生のステレオタイプを打ち壊す型破りなキャラクターばかりで、マルコムは 90 年代のヒップホップ音楽とファッションにハマっているし、彼らを助ける白人ハッカーが親しみを込めて「niggas」と言うとディギーから平手打ちが飛ぶし、ディーラーが集まれば戦争とオバマ政権への不満タラタラ、などディテールに新鮮な時代性が反映されて楽しいことこの上ない。エンディグではしっかり作り手のメッセージも伝わってきた。 脚本/監督は 99 年の『T h e Wo o d』でデビューしたリック・ファミュイワ。一貫して独立系、アフリカ系の若者たちの堅い絆で結ばれた友人関係をコメディタッチで描いてきた。本作はその中でも最良の出来栄えではないだろうか。 ナイジェリア出身の一世で、本作の舞台となるイングルウッドで育った。マルコムは監督自身の分身でもあるのだろう。寡作の人だが、作る作品ごとに全米黒人地位向上協会から作品賞にノミネートされてきた。製作者にはアフリカ系シンガー、ファレル・ウィリアムス、ショーン・コムズ、俳優のフォレスト・ウィテカーの名が並び、彼の作家性をしっかり支えている。 上映時間:1時間 43 分。シアトルはシネコン等で上映中。 [新作ムービー]
公開1週目で興行 成績一番に躍り出たメリッサ・マッカーシー主演のスパイ・コメディで、批評家の評価も上々。ヒットした『ブライズ メイズ 史上最悪のウェディングプラン』で注目を浴びて以来、主演作でベストワンは本作が初なので、彼女の代表作になるだろう。 主人公は、ハンサムなスパイ、ブラッドリー(ジュード・ロウ)を助ける凄腕のアナリスト、スーザン・クーパー(マッカーシー)。しかし、ブラッドリーは核兵器を隠し持つ武器商人のレイナ(ローズ・バーン)に殺されてしまう。彼の亡き後、核兵器の所在を探すため、レイナに顔の知られていないスーザンが覆面スパイとなってパリへ。ところが、自信満々のハードコア・スパイ、リック(ジェイソン・ステイサム)は、彼女の潜入に不満を持ち、潜入先に出没しては嫌味を言いまくるのであった。 オープニングから『007』シリーズの臆面もないパクリで始まるが、本作の大きな見どころはマッカーシーとステイサムの丁々発止の舌戦だ。無口なアクション・スターのイメージが定着しているステイサムだが、本作では自らをパロって「オレは怖いものなしなのダ」の大ボラ話を吹きまくってマヌケぶり全開、たぶん彼の主演作5本分ぐらのセリフを喋っていたのではないだろうか。絶妙な配役だ。 絶妙と言えばお高く止まった嫌味な女役が板についてきたバーンも適役で、スーザンに意地悪爆弾を炸裂させる。しかし、どの舌戦も邪気がないところが本作の良さで、こういう笑いは希少。監督のポール・フィグの脚本に負うところが大きいだろう。 マッカーシーとフィグのタッグは『ブライズメイズ……』に始まって3作目。毒気ゼロの舌戦の楽しさは前ヒット作『デンジャラス・バディ』でも証明済だが、マッカーシーを荒っぽい刑事として描き過ぎて楽しさが半減していた。しかし、本作はグレードアップ。彼女を有能で洗練されたスパイと設定し、周囲からはボコボコにされても自虐に陥ることなくはね返し、最後まで楽しく笑わせてくれる。 また、スーザンの塩辛いボス役を演じたアリソン・ジャニーや、すっとんきょうな同僚を演じた英国の人気コメディアン、ミランダ・ハートも共にベテランらしい達者な笑いを提供、マッカーシーを盛り上げていた。 主人公の大きな体の滑稽さで笑わせるドタバタ・コメディが多い中で、フィグの演出はその難を避け、マッカーシーのコメディアンとしての最良の部分を引き出すことに成功したと言えるだろう。二人の次回作が待たれてならない。 上映時間:1時間57分。シアトルはシネコン等で上映中 [新作ムービー]
米国インディ映画らしいラブ・コメディで、脚本/監督はアンドリュー・ブジャルスキ。この名前で「ほーっ」と思う人はかなりの映画通だ。 舞台はヘルス・ジム、主人公は3人。離婚後、突然大富豪になってしまったダニー(ケヴィン・コリガン)と、彼の美人トレーナーのキャット(コビー・スマルダーズ)、そしてジムのオーナーでキャットの元カレ、トレヴァー(ガイ・ピアース)だ。 豪邸に一人で住み、金の使い方が分からないダニーは、健康的な身体を作ろうとキャットを個人トレナーとして雇うが、ピザなど食べてやる気を見せない。やる気まんまんのキャットは我慢強くダニーの元に通うが、ある晩ダニーの誘いに乗って一夜を共に。その後、トレーニングよりも彼女に執着を見せるダニーに嫌気がさしたキャットは逃げ出し、彼女とは元よりワケありだったトレヴァーは客である富豪のダニーを逃したくないし、キャットの気持ちも気になって仕方がない……。 キャットをめぐる三角関係の話だが醜い嫉妬劇はなく、恋の行方というよりは3人の関係がゆるゆると動くロープのように変化していく様子が描かれていく。「ねえ、メイクアウトしない?」と大声でトレヴァーに声をかけるキャットのサバサバした様子など、今時のジムを舞台にした大人同士の出会い/関係ってこんな感じかもしれない。セリフのおかしみ、リアリティこそが本作の身上だ。 ブジャルスキは「マンブルコア(台詞をもごもご喋る映画のスタイル)の父」と呼ばれ、2000年代のインディ系映画の一つのジャンルを代表する監督だ。マンブルコアの特徴は低予算で素人の役者を使い、若い主人公らの狭い日常世界を描くというもので、莫大な予算と特撮を駆使して作られるハリウッド映画のアンチとして、生まれるべくして生まれたジャンルと言えるだろう。 本作はそんな彼の作品の中ではベテラン俳優を使っている点で新境地と言えるが、主人公たちがマンブルしている感じは初期の作品と驚くほど似ている。なるほどブジャルスキはこういう世界を描きたかったのか、と納得。巧い役者を使ったことで、彼の作品世界がくっきり立ち上がった。 ブジャルスキは、インディ系でスタートしてハリウッドの大作へと「ステップアップ」していく監督が多い中で、独自の世界を守りつつ、少しづつ自分の世界を広げていくタイプのようだ。先輩には『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイターがいる。好みが明確に分かれるジャンルであるが、これからのブジャルスキ監督がちょっと気になってきた。 上映時間:1時間45分。シアトルは5日からSundance Cinemas Seattleで上映中。 [新作ムービー]
マーベルコミックスのスーパーヒーローを集めて、地球破壊を目論む敵と闘うという内容で全世界で大ヒットとなった 2012年の『アベンジャーズ』の続編だ。内容は変わらず、前回の敵はロキという宇宙人だったが、今回の敵は高度に発達した人工知能ウルトロン(声:ジェームズ・スペイダー)だ。 地球の危機を救うためアイアンマン(ロバート・ダウニー・J r)、キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)、ハルク(マーク・ラファロ)、ソー(クリス・ヘムズワース)、ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)、ホークアイ(ジェレミー・レナー)が結集。と、聞こえは良いが、ヒット作を連発しているマーベル・スタジオズもネタ切れ、スーパーヒーローの叩き売りか、という先入観をもった 1 作目だったが、意外と面白かった。
そんなある晩、彼女は、父の介護をしながら愛車を友に生きる若者アラシュ(アラシュ・マランディ)と出会い、2 人は恋に落ちていく……。 物語を語ろうというより、出口のない小さな町で生きる閉塞感や憂鬱を、優れた映像感覚とレトロなムードたっぷりに見せていく作品だ。バンパイアを主人公に据えることで鮮烈でホラーっぽいテイストも加味されてはいるが、ホラー映画とは言えないだろう。 若い女は、ウェイトレスでも住んでいそうな貧しげな部屋で、ヒップなポスターや装飾に囲まれ一人暮らし。夜な夜な太いアイラインを引き、ストライプの Tシャツを着て夜の町へ出かける。バンパイアは昼間、棺桶で 寝ているはずだが、イランのバンパイアはアパート住まいだ。 それにしてもイラン女性がまとうチャドルをバンパイアの衣装に使ったアイディアは卓抜している。あの真っ黒で大きな布の下に何が潜んでいるのか? 想像力がぐんぐんと広がり、飛躍していく。 脚本/監督は英国生まれで米国育ちアナ・ リリー・アミルプールで、本作が初長編作品。イラン女性が初めて作ったバンパイア・ウェスタンという触れ込みだが、私見を言えばフェミニスト・バンパイア・ウェスタンである。彼女の餌食になるのは、女に暴力を振るう男や買春をする男で、孤独な売春 婦アティには親近感を抱き彼女の部屋まで ついていく。この先どうなるだろうと思ったあたりで男との恋へと転じて、平凡な着地点にストン。これはちょっと残念だった。せっかくチャドルをまとったバンパイアを造形したのだから、あの布の下にため込まれてきたイランの女達の思いをもっと表現して欲しい気がしてならなかった。 イランの女性監督作品というとパリ在住のマルジャン・サトラピの『ぺルセポリス』が以前話題になったが、作品としては本作の方がオリジナリティがあって刺激的ではあった。 上映時間:1 時間 44 分。DV D もしくはiTune Movie などのオンライン・ストリーミング視聴可能。 [新作ムービー] 