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Author: 長野 弘子

ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com 

ヤングケアラー~大人の役割を担う子どもたち~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

ヤングケアラー
~大人の役割を担う子どもたち~

ヤングケアラーという言葉があります。大人の代わりに掃除、洗濯、料理を行ったり、祖父母のお風呂や着替えの介助、下の子の世話をしたりなど、家族の介護や家事を日常的にせざるを得ない18歳未満の子どもを指します。家の仕事で手一杯になり、部活や進学をやむなく断念するケースも。安心感や愛情を得る機会に恵まれないまま成長し、人間関係や社会生活にも深刻な影響を及ぼすことが認識されつつあります。日本では、中学生の約17人に1人(5.7%)、高校生の約24人に1人(4.1%)がヤングケアラーとして1日平均4時間をケアに費やし、その3割は学校を休みがちに。また、アメリカでも140万人の未成年者がヤングケアラーに該当し、そのうちの40万人は11歳以下と推測されています。

これまで見てきた子どもの中にも、母親が父親から家庭内暴力(DV)を受け心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、代わりに小さな兄弟の世話をしている子、重度の障害を持つ兄弟の介護に加えて情緒不安定な親を精神的に支える子、病気の親の介護と家事をひとりで担っている子など、さまざまなヤングケアラーがいました。躁うつの状態を繰り返す双極性障害の親の面倒を見てきた子は、思春期に入ってからは湧き上がる怒りが抑えられず自傷や暴力行為に走り、「自分も親のようになるのが怖い」と涙ながらに語りました。また、精神疾患を持つ親の世話と勉強の両立に疲れ果てた高校生が、自殺を試みたこともありました。ヤングケアラーの多くは親子関係が逆転しており、自分よりも家族のニーズを先行させて自分の気持ちを抑え込んでいるので、「これが自分だ」という確固とした自我を形成することが困難になります。その結果、自他の区別があいまいで境界線のない「共依存」と言われる関係に陥りがち。「Enmeshed(網の目に絡まる)」な関係とも言いますが、家族が苦しんでいる時に自分が友だちと楽しむことに罪悪感を覚えたり、その逆に家族が自分の思い通りにならないと激怒したりと、人間関係の程良い距離感が保ちにくい状態と言えます。学校では明るく「普通」を装っていますが、辛い気持ちを誰にも打ち明けられず、ひとりで抱え込んでいる子どもも大勢います。

英国ではヤングケアラーに対する取り組みが30年前から進んでおり、2014年にはヤングケアラーの「支援を受ける権利」を認める画期的な法律が制定されました。現在では、休みがちだったり、宿題が出せなかったりする子どもに対して学校側は質問表を使って聞き取りをし、該当者を「ヤングケアラーズ・プロジェクト」と呼ばれる支援団体に紹介してさまざまな支援を提供しています。日本やアメリカでもヤングケアラーの認識が高まりつつあり、日本では今年5月、全国に「ヤングケアラー相談窓口」を設けることを発表。アメリカでも米若年介護者協会(AACY)などの支援団体やサポート・グループが地道な支援を続けており、今後は法的な基盤作りが求められます。

身近にヤングケアラーがいる場合、どうしたらいいでしょうか。まずは、その子の気持ちを聞いてあげること。自分が何をしたいかわからない子どもも大勢いるので、欲求を持つのは自然なことだと伝えてから「本当は何がしたい?」と聞いてあげるだけでも、子どもの気持ちは楽になります。遊びや食事などに誘って孤独感を和らげてあげるのもいいでしょう。また、勉強が遅れがちになるので宿題を手伝ったり、ストレスへの対処スキルを教えたり、ご飯を持たせるなど間接的に経済的援助をすることも大きな助けになります。

さらに、家族に支援を受ける必要性を理解してもらうことが大切です。子どもが家族の面倒を見る状況に一時的に置かれる場合もありますが、長期にわたり大きな負担を背負わされている場合、国際労働機関の規制対象である児童労働、またはネグレクトに該当する可能性があります。介護はれっきとした労働。本来家族の面倒を見るのは大人ですし、ヤングケアラーに支援の手を差し伸べるのも大人の仕事です。ひとりでも多くの子どもが支援を受け、彼らが自分自身の人生を謳歌できるよう切に願います。


*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

(リソース) 

米若年介護者協会(AACY American Association of Caregiving Youth 
https://www.aacy.org 

米ヤングケアラー・サポートグループ Young Caregivers Community – The Caregiver Space 
https://www.facebook.com/groups/745023718998556/ 

ワシントン州介護者支援サイト Support for Family Caregivers 
https://washingtoncommunitylivingconnections.org/consite/explore/support_for_family/ 

電話番号:1-855-567-0252 

(参考資料) 

厚生労働省:ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム 
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/young-carer-pt.html 

アメリカ心理学会:「お世話をする若者(Young Caregivers)」について 
https://www.apa.org/pi/about/publications/caregivers/practice-settings/intervention/young-caregivers 

NHK:ヤングケアラー支援の先進地イギリス ソール・ベッカー教授に聞く 
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20210430yc.html?f=wr-20210525yc 

反抗的な子〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

反抗的な子

「魔の2歳児」とも言われるイヤイヤ期。自我が芽生えた子どもが親に反抗し始め、バトルが始まる時期ですね。外出先でイヤイヤされて困り果てることも。けれど、こうした反抗は成長の証でもあり、大抵は3、4歳になる頃に落ち着きます。しかし、中には度を越すほど親に反抗して暴れたり、お友だちに乱暴をしたりと問題行動が続く子もいます。こうした子は、反抗挑戦性障害(ODD:Oppositional Defiant Disorder)に該当するかもしれません。

ODDを発症している子どもは、単に頑固で気難しいといったレベルではなく、半年以上ほぼ毎日のように癇癪を起こして暴れ回り、親や先生に反抗して物を壊したりルールに従わなかったりします。問題行動の起こる頻度や度合いが、その子の年齢や性別、文化的な基準と照らし合わせて明らかに逸脱しており、特定の人に対して強い恨みを抱き、執念深く攻撃したことが過去6カ月間に2回以上あるような場合、かかりつけ医や専門機関に早急に相談することをおすすめします。

典型的なケースを紹介しましょう。プリスクールや小学校低学年の頃から友だちとしょっちゅうけんかをして、先生から怒られると逆ギレや暴言、暴力も。親は子どもをコントロールしようと厳しくしつけますが効果はゼロ。周りからは問題児やいじめっ子としてレッテルを貼られ、親や先生たちの手に負えなくなって相談に来るというのがよくあるパターンです。発症が遅い子もいますが、遅くとも中学生までに兆候が表れます。子どもと話してみると、問題は全部、親や先生、友だちのせいで自分は被害者と感じている子が多いです。

アメリカ家庭医学会(1)によると、ODDの発症率は国や文化により大きく異なり、推定1〜16%と言われています。アメリカでは平均10.2%で、男性が11.2%と、女性の9.2%より若干多めです(2)。ODDは、遺伝的な要因と環境的な要因が合わさって発症するとされており、自閉症やADHD(注意欠陥・多動性障害)など発達障害の二次的な障害としても広く知られています。

ADHDの症状自体に「反抗的態度」はありませんが、衝動性が反抗的だと誤解を招き、叱責されやすく、否定的なコミュニケーションの仕方を学びやすいと言われています。家でも学校でも怒られっ放しだと、大人を敵と思い込み、自己否定して自暴自棄になるのは当たり前。ADHDの子どもの60%近くがODDを発症するという調査(3)もあるので、早めの療育と必要に応じた治療薬の投与が不可欠です。

さらに、ODDの子どもの3分の1が、より重篤な行為障害(CD:Conduct Disorder)を発症すると言われています。CDを発症した子どもは、家出、破壊行為、人や動物への攻撃、窃盗や万引きなどの反社会的な違法行為を繰り返すなど、社会規範から大きく逸脱します。少年拘置所に収容された10〜19歳の若者を調べた調査では、男子の62%、女子の59%がCDと診断されたという結果が出ています(4)。ADHDとODDの両方を発症している子どもはCDになりやすいほか、不安障害やうつ病も発症しやすいため、特に注意が必要です。(3)

なお、CDの子どものほとんどは改善しますが、大人になってから3分の1はさらに重篤な障害である反社会性パーソナリティー障害(ASPD)へと移行します。俗に「サイコパス」と呼ばれる人たちで、良心の呵責を全く感じないまま自分の利益のために他人の権利を侵害し、嘘や違法行為、衝動に任せての暴力沙汰や危険行為を繰り返すのが特徴です。

ASPDの効果的な治療法は残念ながらまだ確立されていないため、その治療は極めて困難です。ODDからCDへ、そしてCDからASPDへと悪化させないためにも、1日も早く専門機関に問い合わせて適切な治療を受けることが大切です。効果的な療法としては、子どもの感情コントロール力と問題解決スキルを高める認知行動療法、子どもの問題行動を減らすペアレント・マネジメント療法などが挙げられます(1)。ひとりで抱え込まずに周囲の理解と支援を仰ぎ、子どもの目線に立って少しでも生活が楽になる方法を作り上げていくようにしましょう。


*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

出典 

1)アメリカ家庭医学会:https://www.aafp.org/afp/2016/0401/p586.html 

2https://projects.iq.harvard.edu/files/nocklab/files/nock_2007_lifetimeprev_corr_persistence_dsm-iv_odd_ncs_jcpp.pdf 

3https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5610221/ 

4https://www.jwatch.org/na50892/2020/02/14/prevalence-psychiatric-diagnoses-adolescent-legal 

 

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ママ友との付き合い方 〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

ママ友との付き合い方

2020年4月、福岡県で当時5歳の男の子が餓死した事件で、今年の3月に母親とママ友だった女が保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕されました。元ママ友は言葉巧みに母親をだまして総額1,000万円以上を奪い取り、母子は食べ物もろくに与えられないまま子どもは痩せ細って死に至ったとのことです。この事件の詳細が明るみになり、多くの人が衝撃を受けました。夫と3人の息子と共に新築マイホームで幸せに暮らしていた彼女が、なぜひとりのママ友との出会いにより人生が急変し、全てを失うという事態に至ったのでしょうか。ママ友という独特の世界の中で浮かび上がってきた心理操作の手口とその予防策について考えてみました。

2016年4月、母親は子どもの通う公立の幼稚園で加害者の元ママ友と出会いました。彼女は「ほかのママ友があなたの悪口を言っている」とうそをついて母親の不安感をあおります。相手を不安にさせて判断力を奪うのは、心理操作の常とう手段。ママ友付き合いは子どもが絡んでおり関係を切るわけにもいかず、何とか周りとうまくやらなくてはいけないと母親は悩みます。その不安感につけ込み、「私は味方」とばかりに依存させ、母親の人間関係をひとつずつ断ち切りました。さらに「あなたの夫は浮気をしている」と吹き込まれた母親は2019年5月に夫と離婚。親族やほかの人間関係も全て遮断して環境をコントロールすることで母親は孤立し、真実を知ることができない状態に。

完全に孤立させると、いよいよ恐怖による支配が始まります。「自分の背後には暴力団とのつながりがあるボスがいる」と脅して、通帳や生活費を取り上げて経済力を奪いました。母親は極度の貧困と食事制限で正常な判断力を失い、生活の全てが「ボス」のグループに12台の監視カメラで把握されていると信じ込み、恐怖のどん底で加害者の言いなりになってしまいます。

ここで使われた心理操作の手口は、不安をあおり依存させ、周囲の人間関係を遮断して孤立させたあと、恐怖で相手の心を支配するというもの。ドメスティック・バイオレンス(DV)とも酷似しており、いったん支配・被支配の関係が築かれてしまうと、抜け出すのが極めて困難になります。これほどまでに極端なケースはまれですが、ママ友付き合いは子どもを介した狭い世界になりがち。子どものためにと相手に合わせたり、リーダー格のママの機嫌を損ねないように気をつかったり苦労も多く、関係がこじれると日々の生活が本当に辛いものになります。

それでは、ママ友と程良い距離感で良好な関係を保ちながら付き合うには、また、他人につけ込まれないためにはどうすればいいのでしょうか。まずは、人間は誰でもある一定の条件下に置かれると心理操作されてしまう事実を知っておくこと。「私は猜疑心が強いので絶対にだまされない」と自信たっぷりな人もいるかもしれませんが、実はそういう人こそだまされやすいのです。「絶対」という強い感情を持っている人ほど反応しやすく、不安をあおられた時に感情が先走ります。お人好しと言われてしまう真面目で誠実な性格の人も要注意。一度決めたら翻すのは良くないと考えるので、怪しい部分があっても無視して都合良く解釈する傾向にあります。また、自分で物事が決められず、必要以上に相手に合わせるタイプの人も他人に利用されやすくなります。

子どもを比較してマウントを取られたり、無理なお願いをされたりすることが多いと感じたら、思い切ってママ友と距離を取るのも手です。心理操作されないためには、そういう人と最初から関わらないこと。ですが、ある程度の関係を持ってしまうと、いきなり切るのは難しいかもしれません。会話の内容や量を自分で調整し、「孤立するのが怖い」など自分の不安な気持ちや依存心をそのまま認めてあげることが、他人に操作されないための第一歩です。そして、不安や恐れがベースになっている関係であれば徐々に関わりを減らし、安心して自分のままでいられる人との付き合いを大事にすることで、自然と価値観を共有できる人との付き合いが増えていきます。

子どもは親の背中を見て育つもの。自由に自分らしく生きている親を見て、子どももまた精神的に自立して他人に惑わされにくい大人へと育っていくことでしょう。


*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

コロナ禍で増えている女性の自殺~心のケアを大切に~

本誌連載コラム「子どもとティーンのこころ育て」を寄稿し、5月16日開催のソイソースによるZoomでのオンライン講座「あなたの子どもは大丈夫?子どもの自殺を予防するために知っておくべきこと」で講師を務めるワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラーの長野弘子さんに、コロナ禍が続く今、重要性を増している心のケアについて説明してもらいます。

新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした最大級の功罪は、「こころ」への影響かもしれません。世界各国で国民の精神状態の悪化が報告された2020年、日本も例外ではなく、過去10年間減り続けていた自殺者は11年ぶりに増加し、912人増えて2万1,081人となりました。特に女性の自殺が前年より935人も増えて7,026人となり、児童および学生は1978年から始めた調査で過去最多の1,039人を記録。社会的に弱い立場にいる女性や子どもへのしわ寄せが深刻な社会問題になっています。

自粛生活のストレスや生活苦で、夫婦仲が険悪になり家庭内暴力(DV)や虐待が増えたほか、子育ての悩みやワンオペ育児でさらに追い詰められる女性も増加。体の不調や家族の死、著名人の自殺報道など、さまざまな要因も重なり、うつ状態になっている人が大勢います。気分の落ち込みは自分で気付かないうちに悪化するもの。食欲や睡眠サイクルの突然の変化、何をやっても楽しく感じられない、感情のコントロールができないなどの状態が続くようなら、心が「もう限界!」とSOSの悲鳴を上げている段階かも。まずはストレスを減らし、心のケアを最優先にすることが先決です。

コロナ禍で特に浮き彫りになったのは、家族関係のストレス。NPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」によると、自殺が増えている女性の特徴としては、同居人がいる人と無職の人だそうです。責任感が強く相手に尽くすタイプの人ほど、家族のストレスをひとりで背負い込んでしまいがち。外で気晴らしもできずにストレスがどんどんたまっていき、我慢の限界を超えて怒鳴ってしまい、自己嫌悪の悪循環に陥ることに。

もし、配偶者や同居人が不機嫌になった時に、自分のせいだと感じたり、何とかしなきゃダメだと思ったりするようなら、その関係は「恐怖心(Fear)」、「義務感(Obligation)」、そして「罪悪感(Guilt)」から成り立っているかもしれません。世界的なベストセラー本『毒になる親』の著者でセラピストのスーザン・フォワード氏は、相手をコントロールする心理的圧力の手法として、それらの頭文字を合わせて「FOG」(霧)と名付けました。

たとえば、相手からの非難・怒り・離別が怖い(恐怖心)、料理・家事・子どもの世話をするのが私の役割(義務感)、望まない結果・相手の不機嫌な態度は私のせい(罪悪感)など、FOGを頻繁に感じるのであれば、DVのひとつである「心理的虐待」を受けている可能性があります。相手に尽くすことで自分の存在価値を見出す人と、相手に要求し続けることで自分を保っている人が一緒になると、お互いに相手にフォーカスし過ぎて、相手を責め、変えようと躍起になります。その状態で家に一緒にいる時間が長くなると関係は悪化の一途をたどり、身体的虐待や心の病気に発展することも。

まずは、自分がFOGに支配されていないかどうかを冷静に考えてみましょう。FOGから解放されて自由になるためには、フォーカスを相手から自分に戻し、自分に対する優しい視点を持つこと。具体的には、「自分の気持ちがいちばん大事」と繰り返し、不安や恐れを感じたり落ち込んだりしても、解釈を入れずに嫌な気持ちをそのまま受け止めます。ペットや赤ちゃんを見て、「話せない、勉強ができない、仕事をしていない」から「役立たず」だとは思わないでしょう。何をしていても「かわいいな」と思えるはず。その優しい眼差しを、自分にも向けてあげましょう。

我慢していること、嫌なことに対しても「したくないよね」と気持ちを認めてから、「どうする?」と自分に問いかけ、行動を決めるだけでも自己コントロール感が高まります。変えるのは自分でも他人でもなく、自分に対する眼差しだけ。それだけで、心の中が自由になり、FOGが育ちにくくなります。そうすると、自分の欲求や望みがもっと出てくるので、相手の否定的な言動に過度に振り回されないようになるでしょう。ひとりひとりが自分の気持ちを大切にし、優しい眼差しを持ってコロナ禍を乗り切りたいですね。

子育て法ウェビナーのお知らせ
「あなたの子どもは大丈夫? 子どもの自殺を予防するために知っておくべきこと」
5月16日(日)1pm~2:30pm
本コラム執筆者の長野弘子さんを講師に迎え、上記のウェビナーを行います。
申し込み・詳細はソイソースのウェブサイト(http://soysource.test-alba.com/seattle-event/hiroko-nagano-event)にて。
料金: $20

 

参考リンク 
(1) 令和2年中における自殺の状況 (厚生労働省自殺対策推進室/警察庁生活安全局生活安全企画課) 

https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R03/R02_jisatuno_joukyou.pdf  

(2) 自殺総合対策の推進に関する有識者会議 (厚生労働省社会・援護局総務課自殺対策推進室) 

https://www.mhlw.go.jp/content/000732328.pdf 


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急増するアジア人に対するヘイトクライム~自分や子どもを守るためにできること~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

急増するアジア人に対するヘイトクライム ~自分や子どもを守るためにできること~

アジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が、世界各地で急増しています。シアトルでも今年2月25日に、シアトル東部の公立高校教師である日本人女性・那須紀子さんが、見知らぬ男にいきなり襲われ、石の入った靴下で顔面を強打され、鼻や頬など広範囲にわたり骨折し、歯も破折。頬や口、目の周りが黒く腫れ上がるほどの重傷を負いました。

那須さんは当初、この暴行をヘイトクライムと結び付けて考えてはいなかったものの、防犯カメラの映像で一部始終を見たあと、「これはヘイトクライムだ」と確信したそうです。近くにいた非アジア人のパートナーをわざわざ避け、那須さんに狙いを定めて襲いかかったからです。身体的・精神的な苦痛と恐怖を考えるとやりきれない気持ちでいっぱいです。一日も早い回復をお祈りすると同時に、こうした悪質なヘイトクライムが私たちの誰にも起こり得ると認識を改め、対策を取ることが不可欠と考えます。

ヘイトクライムとは、人種や民族、宗教、性的志向など特定の集団に属する人に対しての差別心が元になって引き起こされる嫌がらせや脅迫、器物損壊、暴力行為などの犯罪行為全てと定義されています。アジア系の人権団体「ストップAAPIヘイト」によると、新型コロナウイルスの流行を機にアジア人差別が急増し、昨年3月19日から今年2月28日までの間に、「ウイルスは国へ帰れ!」、「地獄に堕ちろ」などの差別発言や暴力行為を含めた約3,800件のヘイトクライムが報告されました。さらに、女性は男性より約2.5倍近くも被害に遭っており、女性であるだけで差別や憎悪の標的になりやすい危険な状況に置かれていると言えます。予防策と対処法を知っておきましょう(日本語訳パンフレット「ヘイトクライムを通報する方法」より抜粋:www.hatecrimebook.com)。

ヘイトクライムの予防策

  • 治安の良くない場所、人影のない場所、夜の外出を避ける。
  • 人の往来のある大通りや、明るい場所を選んで歩く。
  • 貴重品や高価なアクセサリーなどは目立たないようにし、走りやすい靴を履く。
  • 周りの様子に注意しながら移動し、護身用の催涙スプレーやアラーム、笛を携帯。
  • 家族や友人に外出先を伝えておき、よく知らない場所は事前に道順を調べておく。
  • 目印となるような建物(レストラン、消防署、警察署など)を覚えておく。
  • バスや電車に乗る際、バス停では1人で待たない。車内では運転手の近くに座る。
  • おびえて周りを過剰に見渡すことはせず、自信のある態度を心がける。
  • 高齢者は、買い物に付き添いを頼むか、オンラインでの買い物に変える。
  • 助けを求める英語のフレーズを覚えておく。

ヘイトクライムの被害に遭った際の対処法

  • その場を離れる、相手から逃げる、遠ざかる。
  • 相手の感情を刺激しないよう、言い争いを避ける。
  • 周囲の人に状況を説明して、助けを求める。大声で「Help」と叫ぶ。
  • 暴行を受けたら、どんな物を使っても防御する、何が何でも抵抗する。
  • バスなどで嫌がらせにあったら、運転手にすぐ報告する。
  • けがをしたら警察に911通報する。
  • 加害者の特徴を書き留める(目、皮膚、毛髪の色、ひげ、体型、背丈、服装、アクセサリー、声音、年齢、刺青や傷跡の有無など)。
  • バス路線、交差点、自動車の車種やナンバー、事件の詳細、警察官の名前やケースナンバーなども書き留める。
  • 現場の警察官が報告を受け付けなかった場合、警察署に行って報告し、コピーをもらう。

差別問題は、非常に根が深い問題です。アジア人とひとくくりにして差別して欲しくないと思う方もいるかもしれませんが、文化の違いを尊重できない人がヘイトクライムを起こすので、リスクは同じと思ったほうがいいでしょう。ニュースやドラマ、映画、日常会話でのステレオタイプ的なジョークや偏見、誰の心の中にもある差別心、これらは独立した問題ではなく全てつながっています。社会的に軽視されている個人や集団は、社会不安の高まる情勢で不満や怒りのはけ口にされやすく、より悪質で暴力的なヘイトクライムの犠牲者となるのです。

できることはたくさんあります。嫌なことを言われたら、これまでのように笑って済ませず、毅然とした態度で「やめてください」と伝え、自分が受けた差別体験を家族や友人と共有しましょう。恐れずに声を上げることが、周囲の人々の意識を変え、ひいては子どもを守り、共生へと導く次世代を育てる一歩につながります。

子育て法ウェビナーのお知らせ
「あなたの子どもは大丈夫? 子どもの自殺を予防するために知っておくべきこと」
5月16日(日)1pm~2:30pm
料金: $20
本コラム執筆者の長野弘子さんを講師に迎え、上記のウェビナーを行います。 申し込み・詳細はソイソースのウェブサイト(http://soysource.test-alba.com/seattle-event/hiroko-nagano-event/)にて。
 

参照リンク:

(1) 那須さんの事件を報道した、3月3日付けの地方テレビ局「KIRO7」のニュース 
https://www.kiro7.com/news/local/northshore-educator-seriously-injured-possible-hate-crime-attack/264KWNL3VBE5RB2KVMH6FE3H5U/ 
 
(2) STOP AAPI HATE NATIONAL REPORT  
https://secureservercdn.net/104.238.69.231/a1w.90d.myftpupload.com/wp-content/uploads/2021/03/210312-Stop-AAPI-Hate-National-Report-.pdf 
 
(3) パンフレット「ヘイトクライムを通報する方法」(「How to Report a Hate Crime」の日本語訳) 
https://www.hatecrimebook.com 
 
(4) その他のリソース 
シアトル警察署:ヘイトクライムの被害を報告するためのサイト 
https://www.seattle.gov/spd-safe-place/report-a-hate-crime 
 
アジア系および太平洋諸島系アメリカ人問題のためのワシントン州委員会 
https://capaa.wa.gov/resources/report-hate-discrimination/ 
 
ワシントン州人権委員会 
https://www.hum.wa.gov/hate-bias-crimes-in-housing 
 
アジア系の人権団体「ストップ・AAPI・ヘイト」 
https://stopaapihate.org 


*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

毒親 ~モラハラで育てられた子どもたち~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

毒親 ~モラハラで育てられた子どもたち~

Withコロナの生活も早1年、自粛生活で家にいる時間が増えたことで絆が深まった親子もいれば、その逆にイライラが募り一触即発になっている親子もいます。子どもへの怒りが止められず、毎日のように怒鳴ったり怖い顔をして子どもを叱っていたりするとしたら、それはしつけではなく、言葉や態度による精神的な暴力「モラルハラスメント(モラハラ)」かも。この機会に、自分がモラハラで子どもを支配する「毒親」になっていないかチェックしてみましょう。

「毒親(Toxic Parents)」とは「子どもの人生を支配して子どもに悪影響を及ぼす親」を示し、サイコセラピストであるスーザン・フォワード氏により1989年に提唱された概念です。子育てをする中で、誰もがついカッとなって子どもを怒鳴る場面はあるでしょう。けれども、それが毎日のように繰り返され、親の権威を振りかざして子どもを執拗に苦しめているようであれば、毒親の可能性が高いと言えます。

フォワード氏の著書『毒になる親 一生苦しむ子供』では、毒親のタイプを「過干渉」、「ネグレクト(育児放棄)」、「暴力や性的虐待」、「精神障害」の4つに分けていますが、この中でもいちばん多いのが「過干渉」タイプです。子どもに大きな期待をかけ、失敗を許さず、世間に自慢できるような「良い子」に育てようとします。ハードルの高い要求を突き付け、「ほら早くしなさい! あなたのせいで遅れちゃうわよ」、「また宿題の前にゲームして! 何度言ったらわかるの?」、「ほんとに自分勝手なやつだ。それでもお兄ちゃんなのか」、「こんなこともできないのか? 何をやってもダメだな」と人格を否定したり罪悪感を植え付けて子どもを思い通りに動かそうとしたりします。

こうした親の特徴として、劣等感が強く、自分と他人との境界線が曖昧で、世間体や「〜すべき思考」が強い人が挙げられます。そのため、子どもを自分の満たされない感情のはけ口として使ったり、他人と張り合うためや世間に自慢するための道具にしたりします。問題なのは、親は自分が毒親であることに気付かずに、自分の子育ては正しいと信じ込んでいることです。

毒親に育てられた子どもは、自分よりも親が大事だと洗脳され、親と同じように劣等感が強く、世間体や他人の評価を異常に気にする子になります。完璧でないと意味がないと思い、心の中はいつも不安におびえ、周りに嫌われないために相手に必死に合わせようとします。大人になっても自信が持てずに、いつも自分を誰かと比べて落ち込み、相手の顔色をうかがうのに忙しいので「今ここ」を素直に楽しめません。帰ってからも自分の言動が誰かの気に障っていないか悩むことも。また、自分よりも他人を上に位置付けているため、親と似たようなモラハラ気質の人に対しても「全て自分が悪いんだ」と思い、好都合のターゲットにされやすく、仕事や恋愛関係でも苦労することに。

子どもを産んでからは、満たされなかった欲求を子どもで満たそうとしますが、子どもは逆に欲求を満たして欲しい側。思い通りにはならないため、結局は絶対的優位に立つ親が子どもを支配する形になり、毒親の連鎖が子どもへも引き継がれていくのです。

こうした負の連鎖を断ち切るためには、怒りの根底には親や配偶者への行き場のない復讐心があると、まず認めること。「寂しい」、「不安でたまらない」、「誰からも愛されない」など子ども時代に感じていた辛い気持ちをノートに書き出し、「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ」と優しく語りかけましょう。犬や猫などの動物は、話せなくても社会の役に立っていなくても、ただかわいいもの。それと同じ優しい目で自分を見てあげてください。

自分に寄り添い、気持ちが満たされていけばいくほど、精神的に自立して他人と境界線を引けるようになり、子どもをひとりの人間として尊重できるはず。毒親やモラハラ配偶者に対しても、自分の気持ちを大切にしていくと、罪悪感を植え付ける相手の言動に違和感を覚えるようになります。まずは、自分の考えや気持ちを尊重して、自分のニーズにフォーカスすることから始めてみましょう。

参考リンク: 『毒になる親 一生苦しむ子供』スーザン・フォワード (著) 
英語版 
https://www.amazon.com/gp/product/0553381407/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=1789&creative=9325&creativeASIN=0553381407&linkCode=as2&tag=lifeful-20&linkId=c1732f03c1e15589f827cacd7bcfabca 
 
日本語版 
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4062565587/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4062565587&linkCode=as2&tag=dsbdigsqublo-22&linkId=744c44486a8524f9d25c482dfc068d57 


*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

親は何ができる?何をしてはいけない?性被害に遭った子どもへの対応

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

親は何ができる? 何をしてはいけない? 性被害に遭った子どもへの対応

コロナ禍で遠隔学習になり、家の中で逃げ場を失った子どもが性被害に遭うケースが多数報告されています。

アメリカでは18歳になるまでに女子の4人に1人(https://www.cdc.gov/violenceprevention/childabuseandneglect/childsexualabuse.htmlが、男子の6人に1人(https://www.jimhopper.com/topics/child-abuse/sexual-abuse-of-boys/statistics-on-sexual-abuse-of-boys/)が性被害に遭うとされ、悲しいことに加害者のほとんどが家族や親戚、託児所の職員、教会関係者など子どもがよく知っている人物。被害者の7割が大人になるまで誰にも打ち明けられずに長期化するケースが多いのです。表面化しない理由のひとつに、加害者が贈り物などを与えたり褒めたりして特別扱いする「グルーミング」と呼ばれる手法で、子どもの心を巧みに操作することが挙げられます。

子どもは性的行為が愛情に基づく特別なものと信じ込み、その反面、汚いことをしているという罪悪感にも苛まれます。また、加害者は子どものネガティブなイメージを周囲に植え付け、子どもの主張を周囲が退けるよう仕向けながら、子どもには「自分の言うことなど誰も信じない」、「自分が家族を不幸にしてしまう」、「家を追い出されてしまう」などの強い無力感や恐怖心を抱かせて支配します。

ほとんどの子どもは加害者に逆らえません。被害は繰り返され、長期化すればするほど心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの重篤な精神障害に発展する可能性が高くなります。また、思春期以降は、年下の子どもや付き合っている相手に性的暴行を行うなど加害者になる場合や、自己破壊的な性的逸脱行動を取る場合も。

では、どうしたら子どもの性的虐待被害に気付けるのでしょうか。性的虐待を受けた子どもの特徴として、6歳以下だと分離不安や不眠・仮眠のほか、元気がなくぼーっとしたり、不適切な性行動を取ったり、性器や性器周辺の違和感・痛みを訴えたりすることが挙げられます。7〜12歳は不安やうつ症状のほか、性的なものへの強い回避やこだわり、登校拒否、学業成績の低下、問題行動、自傷行為や希死念慮が見られることも。13〜18歳は12歳までの症状に加えて、家族と会話せずひきこもりになる、薬物やアルコールの乱用、強い自己嫌悪や自責感ほか、自殺未遂にまで追い詰められる場合もあります。

子どもが上記の症状に該当した場合、落ち着いた態度で子どもに「誰かに体を触られて気持ち悪かったり、痛かったり、怖い思いをしたことがある?」、「裸の写真やビデオを撮られそうになったり、見せられたり、体を触るように言われたことはある?」などと聞きます。答えが「イエス」だった場合、「いつ、どこで、誰に、何を、どのように」という客観的な事実を聞き取ります。「お父さんに?」、「○○を触られたの?」などの誘導的な質問は避けましょう。

子どもの多くは口止めされているため、最初は否定するか、「友だちの話だよ」、「少し触られただけ」などと被害を小さく見せようとします。また、勇気を出して性被害を打ち明けても、親が信じてくれなかったり逆に狼狽したり落ち込んだりすると、子どもは絶望感や羞恥心から撤回し、被害がなかったと嘘をつくこともあります。「あの人が? 信じられない」、「本当にそんなことがあったの?」、「なぜ逃げなかったの」、「すぐに話してくれれば良かったのに」などの否定的なコメントは、絶対に言わないでください。子どもの心の傷をさらに深める結果になってしまいます。

いかなる状況下であっても、子どもは100%守られるべき存在であり、子どもに一切の責任はありません。子どもの話をどんな小さなことも全て真摯に受け止め、「話してくれてありがとう」、「気付いてあげられなくてごめんね」、「つらかったね」、「もう何も心配ないからね」、「あなたがいちばん大事だよ」と、子どもの傷を少しでも癒す言葉をかけて抱きしめてあげてください。その後は速やかに警察、児童相談所、医療機関へ連絡して指示を仰ぎ、検査と治療を受けましょう。未成年者の性被害対応機関には、ハーバービュー・センター(性的暴行&トラウマ:
☎206-744-1600)やシアトル・チルドレンズ保護プログラム(☎206-987-1193)などがあります。被害を受けている子どもの心の苦しみは計り知れません。こうした子どもたちが一刻も早く支援を受け、前向きに生きられるようにと切に願います。

ワシントン州にある性被害対応機関 
https://www.aap.org/en-us/advocacy-and-policy/aap-health-initiatives/Child-Abuse-and-Neglect/Pages/State-Information.aspx?liid=50 

子ども時代の性被害のおよぼす影響 
https://www.acog.org/clinical/clinical-guidance/committee-opinion/articles/2011/08/adult-manifestations-of-childhood-sexual-abuse 

性被害を受けた子どもへの介入法 

*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

コロナ禍で学ぶ環境が激変 子どもたちの気がかりは?

コロナ禍で学ぶ環境が激変
子どもたちの気がかりは?

学校生活での友人との交流がなくなって孤独感や不安感を感じる状態が長期化したことで、うつ症状を訴える「コロナうつ」の子どもが増えています。本誌連載コラム「子どもとティーンのこころ育て」を寄稿する長野弘子さんに、コロナ禍での子どもたちへの影響と家庭でできるケアについて聞きました。

心身に影響を受ける子どもたち

米疾病対策センター(CDC)によると、2020年4〜10月に自殺未遂やパニック発作などで救急病院を訪れる未成年者の数は、2019年と比較して5〜11歳は24%、12〜17歳は31%増加(1)。カイザー家族基金の昨年7月中旬の調査では、大人の53%が「精神状態が悪化した」と回答(2)し、家庭内暴力や児童虐待件数も増え、家の中でおびえながら暮らす子どもの増加が懸念されています。Withコロナの時代においては親子共に心の健康をまずは最優先課題として、子どもからのSOSサインにいち早く気付き、迅速に対応することが大切です。

子どもは大人と異なり、言葉でうまく気持ちを伝えられないため、かんしゃくを起こしたり身体症状となって表れたりすることもしばしば。ティーンの場合、まずは食事や睡眠時間の乱れから始まります。日中ぼーっとして気だるそうにしていたり、怒ったり、泣き叫んだりと情緒不安定に。具体的には以下のような反応が表れたら注意が必要です。

親はどう対応すればいい?

以下のチェック項目にある症状は、慢性的なストレスや環境の変化により誰にでも表れるストレス反応ですので、短期間であれば心配する必要はありません。小さい子どもの場合はスキンシップや一緒にいる時間を増やして、愛情と安心感をたくさん与えてあげましょう。不安感や悲しい気持ちを否定せずに受け入れ、好きな物や遊びを書き出すなど楽しい気持ちを感じる時間を意識して増やすといいですね。また、適切な距離を取りながら友だちと外遊びをしたり、家族で散歩したりするのも、ストレスを発散できる方法です。

ティーンの場合は、まず親が気遣っていることを伝えましょう。機嫌の悪い時やゲームの最中などは避け、おやつの時間や夕食後などくつろいでいる時間を見計らって、「最近、ご飯の時しか部屋から出て来ないね」、「元気がないように見えるけど大丈夫?」など懸念を伝えます。無理に答えさせようとせず、相手の話を傾聴して「あなたは大事な存在だよ」というメッセージを伝えることが大切です。また、自分自身や周囲が体験した、心の病気や挫折から立ち直った話などを共有するのも、子どもに希望や安心感を与えます。

ただし、もともと不安が強く繊細でストレスに弱いタイプの子で、2週間以上複数の症状が続き、悪化しているようであれば、不安障害やうつ病などに発展する可能性も。かかりつけ医や専門機関に相談し、希死念慮や自傷行為などを調べて、適切な措置を取るようにしましょう。身体的暴力や強迫行為などで本人や家族の安全が脅かされている場合は、警察に電話するか近所の救急処置室に連れて行くなど迅速に対応してください。

子どもにこんな様子が見られたら要注意

幼児〜小学生

  • ちょっとしたことでぐずる、わがままになる
  • 泣くなどかんしゃくを起こすことが増える
  • 指しゃぶりなどの赤ちゃん返り
  • 親にまとわりつくなど甘えた言動が増える
  • 食欲の増加や減退
  • 頭痛や腹痛、吐き気を訴える
  • 夜の寝つきが悪くなる、怖い夢を見る
  • お漏らし、おねしょ(夜尿)
  • 元気がない、疲れやすい
  • 手洗いを何度も繰り返すなど過敏に反応する
  • 新型コロナに関する遊びを頻繁にする

中学生〜高校生

  • 集中力や記憶力の低下
  • 学習意欲の減退、学校成績の低下
  • 睡眠時間や生活リズムの乱れ
  • 食欲の増加や減退
  • 頭痛や腹痛、吐き気を訴える
  • 元気がない、疲れやすい
  • 部屋にこもりがちになり、家族や友人と会話をしなくなる
  • イライラして暴言を吐いたり物に当たったりする
  • 自分に対して否定的な言葉を頻繁に使う
  • 手洗いを何度も繰り返すなど過敏に反応する
  • お酒やドラッグ、処方されていない薬の使用

これまでの「すべき思考」を手放す

今の状況に大勢の人が不安を感じていますが、特に不安を感じやすい人は、未知の状況に対して否定的に考える「思考のクセ」があります。こうした思考のクセは遺伝的な気質に加えて、家庭や社会環境から影響を受けて作られ、自分ではなかなか気付きにくいもの。この機会に、親子で思考のクセを知り、不安感を減らす考え方を身に付けましょう。

よくある否定的な思考のクセが「すべき思考」です。これは、期待されている言動を実行すべきという考え方で、それができないと自他を責め、ますます不安や焦燥感を強めてしまいます。たとえば、親が宿題やお手伝いができなかった子どもにイライラして、「なぜちゃんとできないの」と怒ってしまう場合、「宿題やお手伝いはきちんとすべき」という「すべき思考」があり、現実にはそうなっていないので嫌な気持ちになります。

親がイライラして怒っているのを見るだけで、子どものストレスホルモンは上昇し、不安感が高まります。まずは、立ち止まって深呼吸。友人には使わないような強い口調だと思ったら、友人に話すような穏やかな口調で子どもに話しかけるよう意識してみましょう。

親子でできるストレス軽減法

自分の考え方や思考のクセを客観的に見つめるために効果的なのが、「マインドフルネス」です。ひと言で言うと、「今ここ」に集中すること。五感に意識を向けてありのままを感じ、自他への批判や評価、過去の後悔や未来への不安、執着心などの否定的な心の声を静め、不安感や焦燥感を減らし、ストレスに強い脳を作り上げます。効果的なマインドフルネスの方法に「ボディー・スキャン瞑想」があります。3分ほどでできますので、子どもと一緒にぜひ試してみてください。

ほかにも、子どもと一緒にキャンドルの火をじっと1分間見るだけでも、気分が落ち着き、集中力もアップします。ご飯を食べる時に目を閉じてじっくり味わう、シャワーを浴びる時に肌にお湯の当たる感覚を意識する、掃除や料理などの家事、スポーツなどに没頭する行為もマインドフルネス。五感の感覚を研ぎ澄ますと、世界が新鮮に見えてきて、通常は気付かない自分の思考のクセをキャッチできるようになります。「過去の嫌なことばかり考えている」、「将来の心配ばかりしている」など、自分の思考のクセに気付いたら、五感の感覚に意識を戻すだけでも否定的な心の声が静まります。

ボディー・スキャン瞑想


1.
楽な姿勢で椅子に座り、目を閉じ、ゆっくり深呼吸をし、酸素が自分の体に入ってくる感覚、また息を吐くたびに体がリラックスしていく感覚を感じる。

2. 足の裏から徐々に体全体をスキャンしていき、カーペットや床に足がついている感覚、重さ、圧力、温度などを感じる。

3. 椅子に接している太ももの裏側、背中の感覚、お腹に注意を向け、呼吸を続ける。

4. 順番に、手と腕、肩、首、喉、顔にも意識を向けていく。

5. 最後に全身を感じたまま呼吸を続け、十分リラックスしたところで目を開ける。

親もつらい!時には子どもより自分のケアを優先に

コロナ以前から、現代社会に生きる私たちは人間の生来的なバイオリズムから大きく外れた多忙な生活をしてきました。文明病とも言える不定愁訴や心身症は、やることが多過ぎて脳が休めず、神経が常に戦闘モードになり、疲弊している状態。これまでの生活を見直して、本当に大事なものだけを手元に残し、味わう時期に来ているのかもしれませんね。

社会からの「〜すべき」という要求に合わせようとするのではなく、まずは自分が自分の支援者として、心の声を全部受け止めてあげましょう。「いつも頑張ってるね」、「もう十分だよ」など自分に語りかけて、好きなことやリラックスできること、やってみたいことをリストアップしてみましょう。

お風呂にゆっくり浸かる、ヨガ、瞑想、アロマ、音楽や映画鑑賞など、ひとりですぐに実践できることは意外とたくさんあります。親がセルフケアを優先してリラックスすると、子どもの心も自然と緩んできて、自分を大切にし、自分のやりたいことにフォーカスする思考のクセが身に付いてきます。すると、親が口うるさく言わなくても自発的に物事を考えて行動するようになります。親子共にWithコロナ時代の今こそ、「すべきこと」から「やりたいこと」へ、人生をシフトさせる絶好の機会だと捉えたいですね。

長野弘子■ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(MA, MHP, LMHC)。ニューヨークと東京で出版事業に携わった後、東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。ノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手メンタルヘルス機関で5年間勤務し、独立。大人から子どもまで、さまざまな心の問題を抱える多くのクライアントに対してセラピーを提供している。

hiroko@lifefulcounseling.com
www.lifefulcounseling.com

文献リスト:

(1)Mental Health–Related Emergency Department Visits Among Children Aged <18 Years During the COVID-19 Pandemic — United States, January 1–October 17, 2020

https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6945a3.htm

(2)The Implications of COVID-19 for Mental Health and Substance Use

https://www.kff.org/coronavirus-covid-19/issue-brief/the-implications-of-covid-19-for-mental-health-and-substance-use/

  • Centers for Disease Control and Prevention. (2021, Jan). COVID-19: Coping with stress. Retrieved from https://www.cdc.gov/
  • Cherry, K. (2020, April). Verywell mind: How social support contributes to psychological health.  Retrieved from https://www.verywellmind.com/
  • Diamond, S. A. (2008, June). Psychology Today: Essential Secrets of Psychotherapy: The Inner Child; Has your adult self spent time with your inner child today? Retrieved from https://www.psychologytoday.com/us/blog/
  • Earley, J. (2009). Self-Therapy: A step-by-step guide to creating wholeness and healing your inner child using IFS, A new, Cutting-Edge Psychotherapy. (2nd). Larkspur, CA: Pattern System Books.
  • Kapil, R. (2019, June). Five tips to help teens cope with stress. Mental Health First Aid. Retrieved from https://www.mentalhealthfirstaid.org/
  • Neff, K. (2015). Self -Compassion: The proven power of being kind to yourself. New York, NY: William Morrow.
  • Ozbay, F., Johnson, C. D., Dimoulas, E.,Morgan, III, C. A., Charmey, D., and Southwick, S. (2007). Social support and resilience to stress. Psychiatry (Edgmont), 4(5), 35-40. Retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2921311/
  • Therapist Aid. (2017). Stress management tips. Retrieved from https://www.therapistaid.com/ Tips for managing stress and anxiety with COVID-19 [handout]. (2020). Counseling Center, Shoreline Community College, Shoreline, Washington.
  • (2020). Ways to manage stress. Retrieved from https://www.webmd.com/

その勉強は本当に子どものため?「教育虐待」にならないよう気を付けたいこと

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

その勉強は本当に子どものため? 
「教育虐待」にならないよう気を付けたいこと

学校の成績や宿題、ゲームの時間などをめぐり、親子で言い争いになった経験は誰にでもあると思います。子どもへの期待は家庭によってさまざまですが、成績が振るわないと怒鳴りつけたり、子どもが嫌がっているのに勉強や習い事を無理強いしたりするのは「教育虐待」に当てはまるかもしれません。

教育虐待とは、教育熱心な親による過度な教育やしつけ、体罰のことで、 2011年に日本子ども虐待防止学会武蔵大学の武田信子教授が「子どもの受忍限度を超えて勉強させる」行為は教育虐待に当たると発表しました。日本では、2016年8月に父親が中学受験を控えた小学6年の長男を刺して死亡させた事件があり、教育虐待の例として大きく報道されました。父親は、日常的に長男を包丁で脅しながら勉強をさせていたそうです。

これは極端なケースですが、アメリカでも親の意向を押しつけるケースは珍しくありません。成績がオールAでないとスマホやゲームを禁止する、兄弟やクラスメートと比較して嫌味や小言を言う、「なぜこんなのもできないの」と頭や体をたたく、口答えを許さず長時間説教する、「あなたの将来のため」、「自分がやるって言ったんだよね」と正論で子どもを追い詰めるなど、さまざまな形で見受けられます。

教育虐待をする親の特徴としては、自身が高学歴または社会的地位が高い、その逆に学歴コンプレックスがあり子どもに過剰な期待をする、または子どもに執着することで満たされない気持ちを埋めるなどが挙げられます。いずれにしても、厳しいしつけや過干渉の根底にあるのは、子どものためと言いながら、本質は親のエゴや欲求を満たそうとする精神的な未熟さと支配欲です。

親の期待に応えないと愛されないという「条件付きの愛」で育てられた子どもの多くは、親の価値観を絶対と信じ込み、自分はダメな存在だと無意識に責めて無理な努力を続けるか、激しく抵抗する、もしくは諦めて無気力・無関心になります。前述の父親から刺されて死亡した男の子も、母親が「一緒に逃げよう」と言ってもそれを拒否して毎日必死に勉強していたそうです。

子どもをありのまま受け入れているかどうか、冷静に考えてみましょう。自分の価値観に子どもを当てはめ、子どもを変えようとしていませんか。ギリシャ神話に出てくる強盗、プロクルステスは、旅人を家に招き入れ鉄の寝台に寝かせ、旅人の体が寝台よりも長い場合は足を切断し、その逆に短い場合は体を無理に引き伸ばして殺しました。もし、思い通りにならない子どもの学習態度や成績にイライラして、怒鳴りちらす日々が続くのであれば、それは教育熱心を通り越して教育虐待と言えます。

とは言っても、「うちの子は放っておくと宿題をやらない」という家庭も多いと思います。解決策としては、親子で話し合って最低限のラインを決めること。子どもの言い分をしっかりと聞いて、決められた量の宿題が終わったらゲームをしていいなど、親子共に納得できるルールを一緒に決めます。米教育協会では、学年の数に10分をかけた数字(1年生は10分、2年生は20分……12年生は120分)が家庭で宿題に費やす1日の時間としています。ただこの数字はあくまで目安であり、子どもによってかなりの個人差があります。宿題が終わらずに子どもの心身に多大な影響が出ているようであれば、発達障害や学習障害の可能性もあるので、まずは学校の先生に相談してみましょう。

そもそも「何のために勉強するのか」というしっかりとした目的意識がある子どもは進んで勉強します。物事の動機付けには、やりたくてやる内発的なものと、やらなくてはいけない外発的なものがあります。宿題を「将来の夢や目標に近づくため」の手段と捉えられたら、子どもは外部からの報酬や罰を必要とせず自発的に勉強できるようになります。

いずれにしても、子どものやりたいことを尊重することが、自己肯定感が高く他人の気持ちを尊重できる、精神的に自立した大人になるための近道です。親の期待通りには育たないのが子どもというもの。子どもを変えようとせず、「子どもが親の意見を聞くかどうかは子どもが決める」と、子どもを一人の人間として尊重し、温かく見守っていきましょう。

*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

「やめて」と言える心の強さ ~子どもが自分の意思をきちんと伝えられるように~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

第39回 「やめて」と言える心の強さ ~子どもが自分の意思をきちんと伝えられるように~

もし、自分の子どもが、体を触られたり、嫌なことをされたりしそうになった時、少しでも嫌だと思ったら毅然とした態度で「やめて」と言えるでしょうか。性的同意に関する議論は、ハリウッドの大物プロデューサーによる性的暴行に端を発した「#MeToo運動」の効果もあって世界中に広がりました。性的同意だけではなく自分の意思に反することに対して、相手にきちんと断ることのできる心の強さは、いじめの被害者にならないために、さらには大人になってからもパワハラやセクハラの被害者にならないためにとても重要です。今回は、子どもが自分の意思を堂々と伝えられるよう、またその逆に、自分の欲求を強要する加害者の側にならないためにどうすればいいかを考えてみましょう。

もともと不安が強い子やハイリー・センシティブ・パーソン(HSP)とも言われる繊細な子は、自分の意見を人前で言うことが苦手で、人間関係においても受け身で相手を拒絶することがなかなかできません。こうした性格は、生まれ持った気質、生育環境、文化的背景などが合わさって形成されます。子どもの性格を知ることからまずは始めましょう。性格診断で幅広く使われているのが、「ビッグファイブ性格特性」です。これは、5つの性質から性格を分析するもので、具体的には、

1)開放性(Openness to experience)
2)誠実性(Conscientiousness)
3)外向性(Extraversion)
4)協調性(Agreeableness)
5)繊細性(Neuroticism)

の5つの因子から構成されます。オンライン(https://openpsychometrics.org/tests/IPIP-BFFM/)でも診断できます。

開放性は、好奇心の強さや芸術的な感性、新しいアイデアや物事への柔軟性を示し、開放性が高いと好奇心が旺盛でクリエイティブ、低いと用心深く保守的という傾向があります。誠実性は、自分を律して着実に目標達成する責任感の強さを示し、誠実性が高い人は仕事や勉強熱心で他者からの信頼もあつく、低い人は直感や感情に従って突発的に行動するタイプです。外向性は社交性や積極性を示し、高い人は外向的で他者との関わりを積極的に好み、低い人は内向的で内気なタイプ。協調性は他者への配慮を示し、高い人は思いやりがあって友好的、低い人は他者に対して批判的で競争心が強い傾向があります。最後の繊細性は、ストレス耐性と情緒の安定性を示し、高い人は緊張や不安、怒りを感じやすく、低い人は情緒が安定しておりネガティブな感情をあまり感じません。

いじめを受ける子どもの多くは、外向性のスコアが低く繊細性のスコアが高い傾向にあります。このような内気で繊細な子は、自分の考えや感情を毅然とした態度で相手に伝える自己表現のスキルを身に付ける必要があります。まずは、親がアドバイスを与える前に、子どもが自分で考え、自分で決めるという機会を増やしてあげること。自分で決めたらその責任は自分で負う必要があるので、不安が強い子は親に頼りがち。「自分で決めなさい」と突き放すと不安が強まるので、命の危険や犯罪行為に関するもの以外は、少しでも意思表示ができたら共感してほめてあげてください。親がダメ出しをし過ぎると、子どもは自分の考えに自信が持てず、自分の意思を相手に伝えることが苦手になります。その結果、相手を避けたり逆に依存したり、コントロールされたりと人間関係で苦労する可能性が高くなります。嫌な気持ちを聞いてあげたあとで、「どうなったらいいの?」と希望を聞き、そのために子ども自身に何ができるかを考えてもらいます。多くの場合、相手に意思表示をする必要性も出てくるので、自己表現スキルの練習にもなります。

その逆に、いじめる側の性格的な特徴としては、外向性のスコアが高く協調性のスコアが低い傾向にあります。自我が強く相手の気持ちが理解しにくい子に対しては「相手はどんな気持ちだったと思う?」など、共感性を高める質問を増やしましょう。また、断られることと自分の価値とは何の関係もないことを教え、相手の気持ちを尊重することの大切さを繰り返し伝えましょう。子どもたちが大きくなった時、互いの意思を尊重して認め合うような生きやすい社会が実現できるといいですね。

*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

それって回避行動? 〜依存症になりやすい思考パターン~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

第38回 それって回避行動? 〜依存症になりやすい思考パターン~

遠隔学習が定着する中で、オンラインでの授業を集中して聞くことが苦手で宿題も遅れがちになっている子どもが大勢います。わかっていても食生活や生活習慣を変えられない、締め切りギリギリまで仕事を始めないなど、大人でもやりたくないことは先送りにしがちです。こうしたやるべきことを先送りしにしたり、問題から目を背けて目先の物事に没頭してしまったりすることを「回避行動」と言います。回避行動を続けていくと気付かないうちに未解決の問題が増えていき、さらに回避するという悪循環のパターンに陥ってしまいます。子どもがこうした問題回避の思考パターンを身に付けないようにするには、どう接すれば良いのでしょうか。

回避行動には、5つの種類があります。1つ目の「状況回避」は、居心地の悪い状況を避けること。大勢の人が集まる場所を避ける、嫌いな先生やクラスメートがいる授業を休むなどが挙げられます。2つ目の「認知的回避」は、繰り返し浮かんでくる嫌な考えや記憶から逃れるため、自分に忘れるよう言い聞かせたり、ほかのことを考えて気をそらしたり空想したりすることです。3つ目の「防衛的回避」は、恐怖心から脅迫的に同じ行動を繰り返し、問題に正面から向き合うことを無意識に回避することです。前回の記事で紹介した手洗いなど度を超して繰り返す強迫性障害も、防衛的回避に当てはまります。4つ目の「身体的回避」とは、嫌な気持ちを感じるのを避け続けた結果、そのストレスが動悸や目まい、頭痛、腹痛、慢性的な疲労感などの身体的な症状となって現れることです。5つ目の「代替的回避」は、悲しみや恐れなどの否定的な気持ちを感じないように感情を麻痺させたり、ほかのもので代替したりすることです。典型的な代替物や代替行為として、食べ物、お酒、薬物、買い物、ギャンブル、仕事、恋愛などが挙げられます。また、死別や事故などによる強い悲しみや悔しさに向き合うのを避け続けると、怒りが代替的な感情としてこみ上げてきて、ささいなことで怒鳴り散らしてしまう場合も。

回避行動は、人が成長していく発達過程でそれぞれ取り組むべき問題から目を逸らし、その解決を先送りにする行為とも言えます。大人になると責任も増えるだけではなく複雑になります。先送りにすればするほど問題は雪だるま式に膨れ上がり、そこから一時的に楽になるため薬物などに依存する危険性も高くなります。特に、薬物依存は依存が始まった年齢で精神的な成長が止まってしまうと言われており、インディアナ大学で心理学と脳科学を教えるリチャード・ローズ名誉教授の研究によると、成人前にお酒や薬物を乱用した人は精神的な成熟を果たせず、社会に出てからの失業率や犯罪率が高くなり、不安定な生活を送るリスクが高まるという結果が出ています。トラウマを抱えて苦しむPTSDもまた、発症する原因のひとつに、トラウマに関する記憶や感情を避けて考えないようにすることが挙げられます。苦しい気持ちを避けるのは一時的な解決法であり、避け続けると逆にパニック発作、極度の不安、解離症状などが悪化します。

それでは、子どもが嫌な気持ちや自分の課題に対して避けることなく正面から向き合える成熟した大人になるために、親はどのように導いてあげれば良いのでしょうか。まずは、子どもが難しい課題に直面したり、嫌な気持ちを感じたりした時、それを受け止めてあげることです。「どうしてやってないの?」と非難する代わりに、「頑張ってやろうとしたんだね」など共感的な言葉がけをするだけで、自然と嫌な気持ちが消えて、自ら問題に取り組む姿勢が生まれてきます。子どもがひとりで解決できない場合は、手を差し伸べることも必要です。たとえば、宿題やお手伝いなどの課題ができない場合、つまずいている点を探し解決策を一緒に考えてあげることで、子どもの問題解決能力が育っていきます。こうして課題をやり遂げるたびに経験と知識が増えていき、自分はできるという自己効力感が育っていきます。子どもに根気強く課題に取り組むスキルを教えて、これから直面する多くの困難を乗り越えていけるような精神的に成熟した大人へと成長して欲しいものですね。

見えないウイルスに不安 〜手洗いや消毒、外出を気にし過ぎてしまうのは強迫性障害?~

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アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

第37回 見えないウイルスに不安 〜手洗いや消毒、外出を気にし過ぎてしまうのは強迫性障害?~

コロナ禍で、私たちの生活スタイルは大きく変わりました。どの国でもマスクや消毒剤、体温計などの売り上げが爆発的に伸び、外出先ではマスク着用、家に帰ると手洗いや消毒をする習慣がアメリカでも定着しました。特に気にする人は、外出するたびにガレージで服を着替えて即シャワー、荷物も全て消毒するほどの徹底ぶりです。けれど、感染予防として政府や保健機関で奨励している予防対策と比べて、度を越して過剰な対応をしているようなら、強迫性障害(OCD:Obsessive–compulsive disorder)の疑いがあるかもしれません。

OCDとは、考えたくないのにある特定の考えが何度も頭に浮かんで来て、それを消し去ろうと何度も同じことを繰り返してしまう病気です。同じ考えを繰り返す「強迫観念」と、同じ行為を繰り返す「強迫行為」があり、自分でもおかしいと思いながらも、特定の考えや行為から抜け出せずに苦しみ、日常生活にも支障を来します。典型的なものでは、汚れが気になり何度洗ってもまだ汚れている気がする「不潔恐怖」、重い病気にかかってしまうかもしれないと異常に恐れる「疾病恐怖」、家のカギをかけたかコンロの火を消したか何度も確認してしまう「確認行為」、他人にケガをさせてしまうかもしれないと不安になる「加害恐怖」、順序通りにものを並べて片付けておかないと強い不安に襲われる「不完全恐怖」、不要なものを捨てられない「保存強迫」などです。また、家族に対しても過剰な手洗いや掃除を強制したり、外出を制限したりする場合も多く、これらは「巻き込み型」と呼ばれています。家族が協力すればするほど、本人の症状は逆に悪化していき、要求もエスカレートしていきます。

OCDは、人種や性別に関わりなく人口の約2〜3%が発症すると言われており、珍しい病気ではありません。多くは10代〜20代前半に発症します。小さな子どもの中にも、ミニカーを正確に並べたり、道路のタイルで特定の色を避けたりする子がいますが、次第になくなる場合がほとんどなので、あまり心配する必要はないでしょう。ちなみに、犬や猫などの動物にも、ストレスなどから強迫的に毛づくろいをしたり、繰り返し鳴いたり唸ったりするOCD的な行動が見られます。

本人も異常だとわかっていて止められないのが特徴で、コロナ禍になってからは、1日50回以上手洗いをする、車の窓を開けられない、感染が怖くて外出できないといった人もいます。また、新型コロナに関する悲観的なニュースばかりを追いかけて不安を募らせる人も。こうした行為は、「絶望(Doom)」と「画面のスクロール(Scrolling)」を組み合わせて「ドゥームスクローリング(Doomscrolling)」とも呼ばれています。米疫病対策センター(CDC)の調査によると、コロナ禍うつや不安、薬物に苦しむアメリカ人が急増し、6月末には全体の40%に上るという結果も出ています。特に18〜24歳の若年層が影響を受けており、ドゥームスクローリングによってさらに不安やうつ傾向が増加していると考えられています。

OCDを発症しているのではないかと不安に感じる方、また、どこまでが適切な感染予防の行為かわからないという方もいるでしょう。対策としては、自治体や保健機関など信頼できる情報源のガイダンスに従い、過剰な手洗いや消毒を行わないようにすること。米疫病対策センターでは、外出後、咳やくしゃみ、鼻をかんだ後、調理前、食事前、顔を触る前などに、石けんで手を20秒洗うことを推奨しています。それ以上は過剰に手洗いをしないこと。また、不安をあおるニュース記事もできるだけ見ないようにして、1日10分程度に抑えるといいでしょう。基本は、強迫観念は避けようとせずに受け入れること、強迫行為は抵抗してその行為を減らしていくことです。自分で過剰だとわかっていても、繰り返し手を洗うのが止められないといった状態が続いているようなら、かかりつけ医や専門機関へ相談することをおすすめします。

安楽死について子どもと一緒に考える

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第36回 安楽死について子どもと一緒に考える

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者女性の依頼を受け、薬物を投与して安楽死させたとして2人の医師が逮捕された事件が、日本社会に大きな衝撃を与えています。生きる権利だけではなく、尊厳を持って死ぬ権利も認めるべきだという安楽死や死の自己決定権について、この機会に子どもと一緒に考えてみましょう。

安楽死には、大きく分けて2通りあります。ひとつは、治る見込みのない終末期の患者に対して薬などを与えて死に至らしめる積極的安楽死(医療援助死)、もうひとつは胃ろうなどの延命治療をしない消極的安楽死(尊厳死)です。

日本でも消極的安楽死は認められており、患者本人または家族が明らかな意思表示をすれば、医師は延命治療をしないか中止しても殺人罪には問われません。しかし、積極的安楽死はいまだ法的に整備されておらず、1995年の横浜地裁判決で出された4つの条件を満たす場合のみ例外的に認められています。それらは、死期が迫っている、耐えがたい肉体的苦痛がある、ほかに苦痛を緩和する方法がない、患者の明らかな意思表示があるというものです。

今回の事件は主治医でもない医師ですから、病状や治療の経過、死期や苦痛の度合いなどを正しく判断することはできず、これらの要件を満たすのは到底難しいと言えます。ちなみに逮捕された医師のひとり、大久保愉一容疑者は自身のツイッターで、漫画『ブラック・ジャック』に登場する安楽死を請け負う医師、ドクター・キリコに何度も言及し、「俺がもしも開業するなら、ドクターキリコしかないな」などとつぶやいていたそうです。漫画に出てくるキリコの安楽死の3条件は、回復の見込みがない、生きているのが苦痛、本人が死を望んでいるというもので、くしくも横浜地裁の4条件のうちの3つに当てはまります。

アメリカでは、ここワシントン州を始め、オレゴン、コロラド、バーモント、カリフォルニア、ハワイ、モンタナ、メイン、ニュージャージー、そしてコロンビア特別区で安楽死が認められています。州によって多少の違いはありますが、安楽死が認められるには、治療は不可能、耐えがたい苦痛に苛まれ余命半年以下であると2人の医師に診断される必要があります。医師の立ち合いは必要なく、処方された致死薬を自ら飲みます。1998年から2017年までの間に、アメリカでは4,249名が安楽死の薬を処方されました。世界では、スイス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ、オーストラリアなどが安楽死を認めており、国によって医師が致死薬を注射する、薬を処方するなどの違いがあります。スイスでは民間の安楽死団体があり、日本を含めて安楽死が認められていない海外からの会員も多数います。

安楽死は、個人の意思をどこまでも尊重する個人主義、合理主義的な欧米人の価値観から導き出された究極の自己決定権とも言えます。ただ、どの範囲まで安楽死を認めるのかという基準は、文化や宗教、社会的な価値観によっても大きく異なります。たとえば、スイス、オランダ、ベルギーでは安楽死の対象者に心の病気も含めており、オランダでは2017年に自閉症を含む83人の精神疾患を持つ患者が安楽死しています。さらに、ベルギーでは2014年に安楽死が全ての年齢で合法となり、これまでに9歳、11歳、17歳の子どもの安楽死が実行されました。しかし、本当は生きていたいのに、経済的な理由や周囲へ迷惑をかけたくない気持ちから死を選んだ患者もいるかもしれません。また、耐えがたい苦痛に苛まれている終末期の患者と、自身を認識できなくなる前に安楽死を選ぶ認知症患者、PTSDや自閉症などの精神疾患者を同じ基準で判定してもいいのかどうか、という疑問も残ります。今回の事件も、難病に苦しむ患者の救いが安楽死だけだったという点が問題であり、命を延ばす治療だけではなく、縮める治療に関しても社会全体で考える時期に来ているとも言えるでしょう。

死を考えることは、生を考えること。コロナ禍の今、死について話す機会を設けて、生きるとは何か、命の尊厳とは何かを子どもと話し合ってみてはいかがでしょうか。

子どもの思春期とどう向き合うか ~脳とホルモンの激変期~

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第35回 子どもの思春期とどう向き合うか ~脳とホルモンの激変期~

あんなに甘えん坊だったわが子が、思春期に入ると暴言を吐き、生活も昼夜逆転してゲーム三昧……。ちょっと注意したら「ウザい」とブチ切れるなど、あまりの豹変ぶりに戸惑うばかり。「私の子育てが間違っていたのかしら」と自分を責めたり、毎日のようにけんかになって将来を不安に思ったりという方は大勢いることでしょう。でも、反抗期は子どもが成長するために通らなければならない道。反抗期に冷静に向き合い、わが子を自立した大人へと導くにはどうすればいいのでしょうか。

思春期は、成長ホルモンと共に性ホルモンが大量に分泌され、子どもから大人の体へと急激に変わっていく時期。思春期の始まりは男女共に早くなりつつあり、平均で女の子は9歳9カ月、男の子は11歳6カ月から始まります。身長は、女の子は3、4年かけて15〜35センチ伸び、男の子は4、5年かけて20〜40センチ伸びます。健やかな成長のために欠かせないのが睡眠ですが、思春期の子どもは睡眠ホルモンのメラトニンが出るのが大人より2時間ほど遅いため、夜更かししがちで生活のリズムも狂いやすくなります。

私たちの脳の働きは大きく「興奮」と「抑制」に分けられますが、思春期の脳は主に興奮状態。この「興奮」の働きは生まれた時から発達して子ども時代に完成するのに対して、「抑制」は少しずつしか発達せず、完成するのは何と20代後半。ティーンになると常にイライラして危なっかしい行動に走るのは、アクセル全開でブレーキの効かない車のようなものと考えると納得がいきますね。

また、親から作られた自己像から脱皮して、自分の力で少しずつ自我同一性(アイデンティティー)を確立していくのもこの時期。「自分とは何者なのか」、「何のために生きるのか」などを自分に問いかけ、他人から認められたいという承認欲求も強くなります。人間関係や習い事などで挫折や失敗を繰り返して傷付きながらも自我の危機を乗り越え、これが自分なんだという確固とした価値観や生き方を身に付けていきます。

この時、親の役割としては、口を挟む回数をなるべく少なくして見守ることです。親の価値観を押し付けたり、正そうとしたりすればするほど子どもは反発します。また先回りして手助けし過ぎると、自主性や規律性を身に付ける機会が奪われてしまいます。盗みや自他を傷付ける行為、ドラッグ依存など、これだけは絶対にダメというリミットを設定し、それ以外は子どものやりたいことを尊重しましょう。反抗期のない子どもの中には、親の価値観とほとんど同じで反抗の理由がない、または性格が穏やかな子もいますが、支配的な親や過保護で操作的な親の元で反抗できなかった子どももいます。こうした子どもは大人になってから反抗期がやってくる可能性があります。衝動的に仕事を辞め転職を繰り返したり、無気力で引きこもり状態になったりと、体は大人でも中身は興奮と抑制の均衡が保てない10代の脳のままで自我が確立していない苦しい状態です。

まずは、自分の子育てを振り返ってみて、子ども扱いしていないか、頭ごなしに「ダメ」と言っていないか、イライラして子どもに当たっていないか考えてみてください。困ったことに、子どもの思春期と母親の更年期は重なる場合が多く、更年期症状がひどければひどいほど子どもの自我の確立が妨げられるという調査もあります。意識的に自分の時間を作り、好きなことをして子どもとちょっと距離を置くだけで、ストレスが減って楽になります。

昔の日本では男子が成人になる「元服」は12〜16歳で行われており、髪を結い服も改め、周囲から公人として認められることで、大人としての自覚が芽生え自然と立ち居振る舞いも変わったそうです。周囲から大人扱いをされ、話を聞いて丸ごと受け入れられると、子どもは自分でやりたいことを見つけて夢に向かって自発的に動き出していくものです。あと数年で子どもは巣立ちます。細かいことにはグッと目をつむり「頼りにしてるよ」、「いつも頑張ってるね」など心の栄養になる言葉をたくさんかけてあげてください。子育ての集大成とも言えるこの時期、子どもと一緒に親もまた人間的に大きく成長できるといいですね。

性教育は心を生かす命の教育 ~親は子どもにどう伝えるか~

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第34回 性教育は心を生かす命の教育 ~親は子どもにどう伝えるか~

新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした二次的な影響はさまざまな分野に広がっていますが、そのうちのひとつが性をめぐる問題です。日本では、休校や自粛要請などで居場所や収入を失う若者が増え、望まない妊娠をするティーンが急増しています。途上国ではより深刻で、国連人口基金(UNFPA)の調査によると、新型コロナによる経済的な困窮から18歳未満で結婚をする「児童婚」が今後10年で1,300万件も増加し、ロックダウンが6カ月におよぶ場合は4,700万人もの女性が避妊具や薬を入手できず、望まない妊娠は700万件増、女性への暴力が3,100万件増という衝撃的な予測もなされています。

子どもの性を狙う犯罪に巻き込まれないようにするには、親はどのように子どもと向き合えばいいのでしょうか。性教育とは、単に性行為や性感染症、避妊の方法を教えるだけではありません。家庭や社会での男女平等、性の多様性、商品化された性についてもオープンに話し合い、命の大切さや人間としての尊厳を子どもが培っていくための命の教育とも言えます。実際に各国の研究で、性教育により相手を思いやる慎重な態度が育まれ、性交年齢も遅くなるという結果が出ています。

ネットやメディアで性情報が氾濫する現在、性教育は思春期になって始めるのでは遅過ぎます。国連による「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では性教育は5歳から推奨され、フランスやスイスなどでは何と3歳からスタート。年齢に合わせた内容で、まずは自分の体を大切にすることから教えます。たとえば、男女の体の作りは違っていること、違っていても平等であること、ほかの人が見たり触ったりするのを拒んでいいこと、触られて嫌なときは大きな声で「ノー」と言うこと、大事な部分を触られた場合は信頼できる大人に言うことなどを教えます。また、トイレに行く際には「プライベートタイムは邪魔しないでね」と伝え、自分の体だけではなく、ほかの人の体も大切にすることを伝えましょう。

5歳頃には「わたし/ぼくはどこから来たの?」と疑問を持つ子どももいます。植物は種から芽が出て、動物はお母さんのおなかの中で赤ちゃんが育ち、全ての命は生まれてくるものだと教えましょう。国連のガイダンスによると、5〜8歳で赤ちゃんが生まれる過程と、こうした行為は自然で健康的なものであることを教えます。また、オンラインで裸の写真を見たときなどには「これは大人向けで、子どものためではないんだよ」と教えましょう。異性を好きになる人もいれば同性を好きになる人もいて、いろんな形の家族があっていいなどと寛容性について話し合うことも大切です。

ガイダンスでは9〜12歳に、性行動、妊娠や出産の知識、性感染症、避妊器具の使用法などを教えます。思春期に入るこの時期に日米の学校で性教育の授業をしますが、家庭でも「相手を思いやる心がいちばん大事」、「性的な行為にはお互いの同意が必要」と繰り返し話すことが重要です。裸や下着姿の写真を送るように迫られたり(セクスティング)、同意のないまま体を触られたり、デートレイプの被害者になるのもこの頃から急増します。

アメリカでは12歳以上で毎年45万人近くが強姦や性的暴行の被害に遭っており、その9割近くが女性です。ミソジニー(女性蔑視)を助長しかねない暴力的なポルノや商品化された性が社会にあふれ、被害者の多くはこうした価値観を無意識に心の中に取り込み、自分を責め、誰にも言えずに苦しみます。ハリウッドの元大物プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタイン被告による性的暴行から#MeToo運動が沸き起こったのはほんの2年半前。日本でも性被害者が警察に通報するのはわずか4%と言われており、表面に現れる事件はまだまだ氷山の一角だと思っていいでしょう。男女問わず「あなたは大切な存在だよ」と繰り返し子どもに伝え、自己肯定感が高まれば、「自分の体もほかの人の体も大事」と自然に思えるものです。性という漢字は「心が生きる」と書きます。自分が次の世代に命をつないでいくためのかけがえのない存在だと、子ども自身が感じられるようにしっかりと伝えていきましょう。

ストレスのない親子関係作りに笑いのパワーを活用

子どもとティーンのこころ育て

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第33回 ストレスのない親子関係作りに笑いのパワーを活用

新型コロナ禍により「ニューノーマル」と言われる新しい生活様式への適応が迫られる中、多くの家庭から悩みが聞こえてきます。長引く休園・休校で家にいる小さな子どもへの対応に困っていたり、学校からのメールが多過ぎて全部を細かく読んで子どもの課題をサポートするのが困難だったり。そして、虐待やドメスティック・バイオレンス(DV)の恐怖におびえながら、行き場がなく困っている人も少なくありません。今回は、ストレスを減らして、毎日を少しでも楽しく平和に過ごすための子育てのコツをご紹介します。

最近、心の底から思いっきり笑ったのはいつですか? 笑いには、ストレスを解消して免疫機能を高める絶大な効果があることがわかっています。笑いにより、通常の呼吸の3倍量の酸素が体内に取り込まれ、ガン細胞やウイルスを退治する50億個のナチュラルキラー(NK)細胞が活性化。脳の働きが活発になり、記憶力もアップします。血行を促進し、自律神経のバランスを整えるほか、モルヒネの6倍以上の強力な鎮痛作用を持つ脳内の神経伝達物質、エンドルフィン分泌を促します。

笑いを表現する言葉には、大笑い、高笑い、爆笑、愛想笑い、薄笑い、作り笑い、冷笑、嘲笑、苦笑、微笑、照れ笑いなど30語ほどあり、笑いの役割も楽しさ、面白さ、社交、緊張緩和、攻撃など多岐にわたります。ユーモアのセンスのある人は知能指数が高いとの調査結果も。医療の現場では、小児病棟を訪れて子どもたちを笑わせ、元気付けるクリニクラウン(臨床道化師)という職種があります。これはアメリカ人のパッチ・アダムス医師が始めたもので、ロビン・ウィリアムス主演で映画化もされています。大声で笑いながらヨガを行うインド発祥の「笑いヨガ」も世界中に広がっており、私自身、以前体験した際には心身共にスッキリ軽くなり、笑いのパワーを実感しました。

お金もかからなくて効果絶大な笑いのパワーを子育てにもぜひ活用しましょう。たとえば、人差し指を横にして口に挟むジェスチャーをしながら、「こうすると嫌な気持ちが消えて楽しくなるよ」と言うと、大抵の子どもはまねをして笑い出します。表情筋から脳に笑顔のシグナルが送られることで、脳が楽しいという感情を感知する「顔面フィードバック仮説」に基づくもので、顔だけではなく体の動きも感情に影響を与えることがわかっています。

実際、両腕を高く上げたり腰に手を当てたりといった強そうな「パワーポーズ」を2分間キープするだけで、男性ホルモンのテストステロンが20%増加し、ストレスホルモンのコルチゾールが25%減少するため、前向きな気持ちになります。その逆に、体を縮めて弱々しいポーズを取るとテストステロンは10%減少し、コルチゾールは15%増加するそうです。親子でパワーポーズを取るのを習慣にするのもいいでしょう。また、子どもと一緒にため息を数回大きく「はぁ〜」とついてみてください。不思議と元気がなくなってきます。次に、「はっはっは〜」と大声で笑うフリをしてみてください。実際に笑ったのと同様の効果が現れ、元気が戻ってきます。気難しいティーンに対しても、「最近見た面白いミーム(インターネットで流行中のネタ)を教えて」と聞くだけで、返事が返ってこなくても頭の中で楽しいことを考え始めているはずです。

人間の脳には、相手の気持ちや行動を、自分自身の反応であるかのように感じるミラーニューロンという細胞があります。この脳細胞により、親が楽しい気持ちでいると子どもも楽しくなり、その逆にイライラしていると子どももイライラしてきます。子どもやパートナーがムスッとして不機嫌な様子でも、自分は笑おうと決めて楽しいことにフォーカスすると気持ちが軽くなります。気分が落ち込んで笑う余裕なんてないと思っている人もいることでしょう。暗闇の中にいるように不安を感じる時もあると思います。しかし、闇にほんの少しでも光が差し込めば、そこはパッと明るくなります。誰かに頼るのでなく、自分が光になると決めて、フリでもいいので大きな声で笑ってみましょう。笑うと表情筋が鍛えられて美容効果にもつながります。笑顔の人は好感度が高いという調査結果も。まずは率先して、笑いのパワーを活用してみてはいかがでしょうか。

ピカケスクール主催!子育て法ウェビナーのお知らせ
ピカケスクールが本コラム執筆者の長野弘子さんを講師に迎え、以下のウェビナーを行います。申し込みはinfo@pikakeschool.comにて。

1回目 ■6月13日(土)1pm~2pm
「マインドフルネス 〜ストレスを減らして楽しく子育て」

2回目 ■6月27日(土)1pm~2pm
「コロナ疲れに負けないメンタル・タフネス 〜レジリエンスを育む子育て法」

料金:1回分$12、2回分$20
詳細: www.pikakeschool.com/copy-of-for-adults

不安な気持ちを減らす方法 ~認知の歪みに気付こう~

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第32回 不安な気持ちを減らす方法 ~認知の歪みに気付こう~

新型コロナウイルスの猛威は、病気や健康に対する概念だけではなく、これまでの社会のあり方や価値観、私たちの生き方までをも大きく変えようとしています。こうした時代の転換期だからこそ、沸き起こる不安感を減らして、毎日を少しでも楽しく生きる術を身に付けたいですね。

私たちはなぜ不安を感じるのでしょうか。不安とは、未来の出来事や他人の気持ちなど、自分ではわからない未知の事柄に対して否定的に考えることから生まれます。否定的な考えに固執する傾向が強ければ強いほど不安感も強くなります。こうした思考パターンは「認知の歪み」と言われ、遺伝的な気質に加えて、家族や社会環境から影響を受けて作られます。ですが、自分ではなかなか気付きにくいもの。たとえば、ピンク色のサングラスをかけて世界を見ると、世界がピンク色に見えてしまうように、私たちは思考というフィルターを通して世界を解釈しているのです。心配事の9割は実際に起こらないとも言われています。不安感を減らすには、まずは自分の認知の歪みを知り、その思いぐせを正していくことが大切です。

認知の歪みで典型的なのが「〜すべき思考」です。これは、期待されている言動を実行しなくてはいけないという考え方で、それができない場合に自分や他人を責めたり、いら立ったりします。自分も他人も批判的に見る傾向が強く、「きちんと」などの言葉をよく使います。たとえば、子どもに「もっときちんとしなくちゃ」、「ちゃんと宿題したの?」などと言っていることに気付いたら、できたことに焦点を当て、「これだけできれば十分」、「宿題はできたかな」など、言い方を変えるだけでも不安や焦燥感が軽減します。

次に「マイナス化思考」が挙げられます。これは、良いことが何度あっても素直に受け止められず、悪いことがひとつでもあると「やっぱりダメなんだ」と思い込んでしまう考え方です。褒められても素直に喜ぶことができず、相手の真意を疑ってしまいます。こうした傾向のある人は、不信感が強く、他人に本音を言えないので、ストレスも溜まりがち。自分の本音をノートに書く、褒められたら素直に「ありがとう」と言うなど、少しずつ自分を受け入れていくといいでしょう。

不安感を完全に消し去ることはできませんが、不安を感じたら「人生は筋書き通りにいかないから面白い」、「これは思いぐせに気付く大きなチャンス!」と捉えるようにし、不安な気持ちを減らすのに効果的な以下の3つのステップも試してみてください。

1) 深呼吸し、自分の中に優しいお母さんや先生のような存在がいると想像して、不安な気持ちを聞いてあげる。最悪の事態を想像して、その時の気持ちを感じてみる。たとえば「経済的に苦しくなって家を手放す」、「病気になり自分や家族が死ぬ」と考えると、不安でどうしていいかわからなくなるなど。

2) それが起きる確率は何%か、そうならないよう今できることは何か、それが起きた時に自分はどう対処するか、それが起きたことによる学びは何かをノートに書き出し、今できることを実行する。

3) 自分にとって最高の状態は何かを想像し、それが実現した時どんな気持ちになるかを感じてみる。その状態に近付くために今できることは何かをノートに書き出し、実行する。

コツは、不安な気持ちを否定せずに「そうだよね、不安だよね」と認めてあげてから、自分に何ができるかを客観的に考えること。そうすると、自分でも状況を改善する方法が必ずあることに気付きます。このステップを繰り返すことで、認知の歪みも少しずつ修正され、次第に自己コントロール感、自己肯定感も高まります。他人の言動に過度にフォーカスして嫌な気持ちになることも減るでしょう。不安を感じるのを避けると、逆に不安感はどんどん募っていき、ストレスや緊張から免疫機能や自律神経を狂わせて病気にかかりやすくなります。個人レベルの話だけではなく、国家レベルでも不安感は分断や争いをもたらします。不安感を減らして、毎日を少しでも楽しく生きることで、社会全体に信頼と協力の輪を広げていけるといいですね。

パンデミックの恐怖に打ち勝つには ~「自己コントロール感」を高めよう~

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アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

パンデミックの恐怖に打ち勝つには ~「自己コントロール感」を高めよう~

新型コロナウイルス感染拡大の影響で私の勤務するエージェンシーも閉鎖され、緊急の場合を除いてクライアントと直接会うことはできなくなり、電話やメールなどで対処している状態です。クライアントの中には、日が経つにつれて日常生活のリズムも崩れ、先行きの見えない不安感やストレスが相まって親子げんかがひどくなり、「もう無理!」と音を上げる家庭も。心ないアジア人差別のニュースを耳にしたり、身近なところでも「ウイルスを広めるな」と子どもが言われたという話を聞いたりと、日本人コミュニティーにもパンデミックの恐怖が広がっているのを感じます。

世界がグローバル化し、人や物の移動が激しくなるにつれ、感染病を含む予測不能な事態は今後も増えてくることが予想されます。その中で、落ち着いて冷静に対処し、自律的に問題を解決していくことのできる子どもに育てる秘訣は何でしょうか。それは、「自己コントロール感」を高めてあげることです。一般的に、自分自身や周囲をコントロールできているかどうかという「自己コントロール感」が高い人ほど、ストレス耐性が高く、不慮の事態に柔軟に対応できると言われています。自己コントロール感が高い人の特徴としては、1)やりたいことや目標がはっきりしている、2)その目標を達成するための計画を立て、状況に合わせて柔軟に変更することができる、3)自分の置かれている状況を受け入れることができる、です。つまり、常に自分に何ができるかを考えて行動し、目標の達成が難しくなった時には柔軟に代替案を見つけられる人とも言えます。コントロールできない状況下では解釈を変え、失敗した時も何を学んだかという肯定的な側面を探し出すことができるので、気分の落ち込みからいち早く立ち直ることができます。

それとは逆に、うつ傾向のある人は自己コントロール感が低いという調査結果が出ています。自分の力ではどうしようもないものに焦点を当てるので、無力感や絶望感を感じやすくなります。ニュースを見過ぎるのも、コントロールできない状況にフォーカスしているので無力感に陥りやすいでしょう。人間関係においても、自己コントロール感が低い人は自分よりもまず相手に焦点を当て、相手を支配しようとしたり、その逆に相手を過剰に優先して自分を犠牲にしたりと、「共依存」になりがち。暴力や正義、地位などで相手を支配するDV、モラハラ、パワハラで傷付けられる側が、「子どものため」、「あの人は私がいないとダメになる」などと思い込んでいるのも、共依存の典型例と言えます。他人にすぐ腹を立て、周囲の人間をコントロールしてしまう人は、無意識下では自己コントロール感が低く、常に不安と恐れを感じている状態です。今回のパンデミックでアジア人に対して差別的な言動をする人もまた、自分ではコントロールできない他人や状況に執着する自己コントロール感が低い人たちなのかもしれません。

自己コントロール感は、子どものやる気や学校成績にも関係しており、コントロール感が高い子どもほどやる気が高く、課題に積極的に取り組むという調査結果が出ています。自己コントロール感の高い子に育てるためには、好きな物や、やりたいことを肯定的に聞いてあげ、「本当にしたいことは何?」「あなたにできることは何?」など、その子がやりたいこと、できることに焦点を当てること。また、「この失敗から学んだことは何?」など、プラス解釈の考え方に導いてあげるのも大事。勉強が遅れて焦っている、友人と遊べずにストレスを感じている時など、「そうだね、不安になるよね」、「本当に退屈だよね」などと気持ちを受け止めたあとで、「この状況でもできることは何?」、「逆に良かったことは何?」と聞いて、勉強の目標や新しいことに挑戦する計画を立てるのもいいですね。実際にやるかどうかより、「自分が決めたんだ」というコントロール感のほうが実は大事で、そこから生まれる自己肯定感や前向きな気持ちが免疫機能を高めることもわかっています。手洗いなどの感染予防と共に、この機会に子どもの自己コントロール感を高める会話の習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。

ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)

「ほかの子と比べて、うちの子は育てにくい」と感じたことはありませんか。たとえば、寝つきが悪い、よく愚図る、音や匂いなどに敏感、服がチクチクするのを嫌がる、繊細で気疲れしやすいなど。これらに当てはまれば、あなたのお子さんは「ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)」かもしれません。HSCまたはHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)とは、生まれつき感受性が高く、「人いちばい敏感な人」のことで、90年代にエレイン・アーロン博士によって提唱されました。障害ではなく生まれ持った性質であり、人口の15〜20%に見られ、100種類以上の動物にも同じような性質が発見されています。

アーロン博士によると、HSCまたはHSPには4つの特徴があります。

1) 深く考える:人の心や状況を裏まで読み取り、直感的に かつ総合的に考える。

2) 過剰に刺激を受けやすい:五感が過敏で、通常の何倍も の刺激を感じる。

3) 共感力が高い:他人の痛みや喜びを自分のことのよう に感じ、影響を受けやすく感情反応が強い。

4) ささいな刺激を察知する:人の表情や声色、物の動きや 様子など、微妙な違いに気付く。

アーロン博士のウェブサイト(http://hsperson.com/test/highly-sensitive-child-test/)にあるHSCチェックリストで、23個中13個以上当てはまれば、HSCの可能性が高いでしょう。ちなみに、私の子どももHSCで、赤ちゃんの時は寝かしつけが本当に大変でした。トイレの流す音を怖がったり、料理の味が混ざるのを極端に嫌がったりするほか、図形や色のわずかな違いを瞬時に察知します。中学生になった今でも、映画館は音と光の刺激が強過ぎて行きたがらず、伸縮性のないシャツやデニムジーンズなども苦手で着ることができません。

HSCは、感覚が過敏でこだわりが強いところから発達障害と間違われがちですが、社会性や共感性という観点で発達障害とは大きく異なります。HSCの子は、共感力を司る脳神経細胞であるミラーニューロンが発達しており、相手の気持ちや周囲の状況を読み取るのが得意です。一方、発達障害の子はミラーニューロンの活動が低く、相手の気持ちを読むことが苦手。また、HSCはおとなしくて内向的な子と思われがちですが、実は3割のHSCは好奇心が旺盛で新しいことも大好き。冒険や刺激を求めて積極的に行動する「ハイ・センセーション・シーキング(HSS)」型と呼ばれます。HSS型の子は集団生活にも適応し、外交的で自分の意見もはっきり言えます。

とはいえ、大多数のHSCは学校では強い刺激にさらされて気疲れし、中にはストレスから不登校になる子もいます。「わがままばかり言って!」とつい怒りたくなるし、周囲からも「親が甘やかすからだ」と思われて落ち込むことも多く、HSCの子を育てるのはひと苦労です。もともと生まれ持った性質なので、しつけで変えられるものではありません。それでは、どういった子育てが効果的なのでしょうか。

HSCは他人の言葉や表情にひと際敏感に反応します。親が垣間見せるがっかりした表情やため息で「自分はダメな存在なんだ」と落ち込み、自己肯定感が下がります。ましてや怒鳴られたりすると恐怖心が募り、トラウマになって心身に不調をきたすケースも。だけど、敏感なのは否定的な態度だけではなく、肯定的な態度にも当てはまります。なので、とにかくほめて育てることが大切です。「あなたは私にとって大切な存在。今のあなたで100点満点。そのままでいいよ」というメッセージを繰り返し伝え、子どもの心に安心感を与えてあげましょう。そうすることで、情緒が安定して自己肯定感が高まり、子どもはHSCの4つの特徴を長所として受け止めることができます。HSCの持つ豊かな感受性、創造力、共感力を最大限に引き出せるような子育てができるといいですね。

養子として育つ子どもたち

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アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

養子として育つ子どもたち

アメリカで生活していると、周りに養子として育った人や養子を育てている家庭がとても多いのに気付かされます。2010年の米国国勢調査のデータによると、アメリカでは25世帯に1世帯の家庭で養子縁組をしており、年間約13万組の養子縁組が成立しています。現在、養子として育てられている子どもは約150万人おり、実に約50人に1人の子どもが養子という計算になります。一方、日本では2014年の国勢調査によると婿養子などの成年養子を除いた養子縁組は513組のみ。この差はどこから生まれてくるのでしょうか。

いちばん大きな違いは、アメリカでは虐待育児放棄、逮捕などのさまざまな事情により、子どもを手放す親が非常に多いこと、そして、それを支える里親制度が確立していることが挙げられます。里親制度とは、親と一緒に暮らすことのできない子どもをほかの家族が受け入れる制度で、年間約45万人の子どもが里親に育てられています。米政府の調査によると、保護される児童数は年々増加の一途をたどり、2000年から2017年までの間に保護された子どもはなんと500万人近くにも。その主な原因に薬物問題があり、鎮痛剤として出回っているオピオイドの急激な蔓延が特に悪影響を及ぼしています。実際、薬物関連で保護される児童は2000年の15%から2017年には36%と倍以上に膨れ上がり、オピオイドの濫用が深刻なオハイオ州では全体の半数にも達します。

て、こうして養子縁組をした子どもに対して、実親について話すことを「真実告知」と言いますが、いつ真実を告げるのかはとても重要になります。一般的に、早めに真実を伝えるほうがショックや不信感が少ないと言われています。最近は、実親との関係をオープンにして、対話や対面の機会も設ける「オープン・アダプション」が主流です。事実を隠しても後々明らかになるからです。年齢に応じて、事実を肯定的に受け止めるような伝え方をする工夫が求められ、たとえば母親が薬物中毒である子どもに対しては、「あなたを生んだママは悪いお薬を飲んで、病気になってあなたを育てることができなくなってしまったの。あなたの今のママは、ずっとあなたと一緒だから安心してね」などと、わかりやすく伝えること。1度きりではなく、折に触れて話題にし、子どもの不安な気持ちを優しく受け止めることが大切です。里親養子のほかにも、私的な機関を通して国内の子どもを養子にするケースや、海外から養子を迎える国際養子がありますが、人種や文化が異なる場合は特に早めに告知したほうがいいでしょう。国際養子の場合は、実親の情報が少ないこともあり、子どもの自我形成において多大な影響を与える可能性もあります。子どもと一緒に生まれた国の文化を調べたり、その国へ旅行をしたりするなど、理解を深める努力が不可欠でしょう。

養子として育つ子どもは、全体的に不安やうつADHD(注意欠如・多動性障害)、問題行動や愛着障害などの割合が高いと言われています。その一方で、養子を育てている家庭は全般的に経済力があり教育水準も高く、何かしらの問題を感じたら専門機関に相談する割合が高いという「紹介バイアス」、また、養子ということで学校や医療機関が問題を重視しがちな「確証バイアス」などが調査結果を左右しているとも言われています。養子として育つ子どもたちと接していて強く感じるのは、家族を家族たらしめるものは血のつながりではなく、どのようにして心の絆を深めていくかという絶え間ない努力であるということです。傷を負った子どもの中には、心を固く閉ざし、反抗的態度や問題行動などの試し行為を繰り返す子もいます。だけど、ありのままのその子を受け入れ、その子の幸せを心の底から願う養親の根気強い愛情により、子どもは自分が特別で大切な存在であると少しずつ感じられるようになっていきます。こうして、お互いを大事な存在だと思い、うれしいことも悲しいことも真っ先に共有したいと思える関係が築けたら、それはまぎれもない家族。こうして困難を乗り越えて育った子どもたちが、さらに多様な価値観を受け入れる社会を形成していくことを期待したいですね。

 

家庭内暴力を生まないために~反抗期の子どもへの接し方~

子どもとティーンのこころ育て

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家庭内暴力を生まないために~反抗期の子どもへの接し方~

昨年11月にカリフォルニア州で起きた高校乱射事件の犯人は、日米ハーフの16歳の高校生でした。勉強もできる優等生で、周囲は驚きを隠せず、米日系人社会にも大きな衝撃を与えました。しかし実際のところ、彼を取り巻く家庭環境は複雑で、アルコール中毒の父親から日本人の母親は繰り返し家庭内暴力(DV)を受け、2016年に離婚。2017年には父親が心臓発作で死亡しています。16歳の高校生自身、2015年に母親への暴力で逮捕されたことがあります。彼の行為は決して許されるべきではありませんが、多感な思春期に恐怖に満ちた環境に置かれた彼の絶望的な精神状態を思うとやり切れない気持ちになります。

特に、思春期の子どもは何を考えているかわからず、意思の疎通が大人のようにはできません。いきなりわめき散らしたり、物を破壊したりなど理不尽な行動に出られると、こうした事件も他人事とは思えず、「わが子が犯罪を起こしてしまったらどうしよう」という不安が脳裏をよぎります。「私の子育てが間違っていたのかも」と落ち込み、イライラするのは、反抗期の子どもを持つ親の多くが体験すること。けれど、辛いのは親だけではありません。子ども本人も苦しんでいます。思春期の子どもは、体の急激な変化に心の成長がついていけずに戸惑っている状態。勉強に追われてストレスは溜まる一方なのに、親からはまだまだ子ども扱いで、友だちとの付き合いや同調圧力に悩み、理性的な判断を司る脳の前頭前野が未発達なため、衝動的な行動に陥りがちです。発達心理学者のエリクソンによると、およそ12歳から18歳までの青年期は自立した大人になるためのアイデンティティー確立の時期。この時期に親が対応を間違えると、深刻な怒り、劣等感罪悪感などを抱え、「自分がどんな人間で、何をしたいのかわからない」という「同一性拡散の危機」を迎え、対人不安、無気力、回避行動や問題行動につながり、最悪の場合は暴力沙汰にまで発展しかねません。

思春期の反抗には、大きく分けて社会への反抗と権威への反抗の2種類があります。社会への反抗は、社会の常識・規範・社会問題や矛盾などに疑問を抱き、既存のシステムに反発する行為です。公共の場での迷惑行為、器物損壊、学校をさぼる、ドラッグ使用や飲酒、万引きなどの問題行動がこれに当たります。また、権威への反抗は、上下関係で上の立場にいる人への不服従であり、いちばん身近にいる権威者である親に怒りをぶつけてきます。具体的には、暴言を吐く、会話をしない、無視する、部屋にこもる、物を壊すなど。反抗的な行動に男女間の差はさほどありませんが、男の子は会話をしない、部屋にこもる、物を壊す、女の子は暴言を吐く、無視をする場合が多いとされています。

それでは、反抗期の子どもにどのように接すればいいのでしょうか。大切なのは、子どもをひとりの人間として信用し、見守ってあげること。守るべきルールは最小限に絞り、破った場合は頭ごなしに叱らず理由を聞いて、互いの合意点を探りましょう。子どもの非行は国や文化の違いにかかわりなく、ルールが多い、罰則が厳しいといった状況や、親が子どもに無関心なほど悪化し、親への反抗は、親が子どもの服装や趣味にまで細かくかかわる過干渉タイプほど激しくなるという調査結果が出ています。ほかの子どもや自分の若い頃との比較、長時間の説教はNGと心得て、ご飯はきちんと準備して、「あなたを信用しているよ。何があってもあなたの味方。話はいつでも聞くよ」と、安らぎの場所を与えることです。ただし、子どもの怒りが常軌を逸しており、自傷・他傷行為をする、これまで楽しんでいたものに興味をなくして部屋に長時間引きこもる、ドラッグ使用や飲酒、万引きなどの行為を繰り返す場合は、できるだけ早く主治医や専門機関へ相談しましょう。いずれにしても、子育ても反抗期もいつかは終わりが来ます。子どもを自立した大人へと導くためには、自分自身も子離れする必要があります。子どもは巣立っていくものと日々意識して、子どもと一緒に過ごせる今この瞬間を大切にしたいものですね。

引きこもり~隠れた発達障害を見逃さないで~

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引きこもり~隠れた発達障害を見逃さないで~

令和元年もあと少しで終わりを迎えようとしています。日本の1年を振り返ってみると、51歳の引きこもり男性による川崎市登戸通り魔事件、東京都練馬区の元官僚による44歳の引きこもりの息子殺害など、引きこもりにまつわる事件が平成の負の遺産として浮き彫りにされた年でした。引きこもりとは、近所の店などに行く以外はほとんど自室や家から出ない状態が6カ月以上続いている場合と定義され、90年代後半から増加し続け、日本全国で100万人以上いると推測されています。引きこもりは若者だけの問題ではなく、むしろその高齢化が危惧され、今年3月には中高年層の引きこもりを対象とした初の調査結果が発表されました。それによると、40歳以上の引きこもりは61万人以上、7割以上が男性で、7年以上引きこもっている人は半数に上るという実態が明らかに。70、80代の高齢の親が40、50代の子どもの面倒を見る「7040」「8050」問題は、令和に託された重い課題だと言えるでしょう。

引きこもりは、就職氷河期世代やインターネットの影響という社会的な側面が強調されがちですが、その理解には心理的な側面も含めた多角的な視点が必要です。2003年には厚生労働省による最初の対応ガイドラインが発表され、その解決には専門的な心のケアが必要であるとの認識が広まりました。精神科医の齊藤万比古(さいとうかずひこ)氏によると、引きこもりの人々はほぼ100%何らかの精神障害を患っている可能性があり、山梨県立精神保健福祉センターの調査でも、引きこもりの患者の約30%に発達障害、24%に不安障害、18%にパーソナリティー障害、14%にうつ病、8%に統合失調症の症状が見られました。

引きこもりの3人に1人は発達障害の可能性があるという結果は重大です。特に、ADHD(注意欠如多動性障害)や高機能自閉症など知的障害を伴わない場合、家族や本人も気付かずに性格的なものとして見過ごしているケースがあります。発達障害を持つ人は、自己抑制機能が低くストレスに弱いので、恐怖や不安感をより強く感じ、うつ病や不安障害、依存症などの二次障害を併発しやすくなります。なんとか高校や大学まで行ったとしても、就職して社会人になってから対人関係で問題を起こすなど、仕事が続かず引きこもりになる人も。発達障害との認識がないまま、親が世間体を気にして子どもを責めるようなことがあると、子どもはさらに追い詰められて孤立し、最悪の場合は暴力沙汰にまで発展しかねません。

それでは、どういった対応が必要になるのでしょうか。まずは、引きこもっている状態は心の問題であると認識して早急に専門機関に相談することです。本人が頑なに支援を拒んでいる場合、家族がセラピーを受けることでも環境や状況が改善します。ありのままの自分が受容されたと感じて安心感を得ると、何かをしたいという意欲が芽生えてくるので、当事者グループや地域支援センターなどから少しずつ社会参加を進めていきます。そして、最終的には本人と家族の納得する形で解決の糸口を探ります。たとえば、不登校の場合は学校に戻るだけが解決ではなく、ホームスクールや高卒認定試験を取得する、家族と一緒に食事をして対話をするなら同居を認める、在宅ワークをするなど、解決の形は家族によってさまざまです。

視点や解釈を変えることで、問題だと思っていたものが長所に変わる場合もあります。たとえば、今年9月に国連で地球温暖化対策を訴える演説を行い、注目を浴びた16歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんは、自閉症であることを公言し、自閉症は障害ではなく「スーパーパワー」だと語っています。グレタさんは、強迫性障害や場面緘黙症を併発しながらも、強いこだわりや二極思考といった自閉症的な特徴を生かして世界を動かしたのです。

「一人ひとりが、それぞれの花を大きく咲かせることができる」ようにという意味が込められた令和の時代。どんな人も独自のスーパーパワーを持つという視点に立ち、いろんな生き方を受け入れる人が増え、成熟した社会へと成長できるといいですね。

児童虐待の真実~負の連鎖を防ぐために~

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アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

児童虐待の真実~負の連鎖を防ぐために~

愛するわが子を虐待し、最悪の場合には死に至らしめる……。日本でも虐待死のニュースが絶えず報道されるようになっています。昨年3月に起こった東京都目黒区の5歳女児、そして今年1月の千葉県野田市に住む小学4年生女児の虐待死は、日本の社会に大きな衝撃を与えました。今年6月には児童虐待防止法および児童福祉法の改正法案が可決され、子どもへの体罰を禁止し、児童相談所の体制が強化される改正法が、来年4月にようやく施行されます。ただ、虐待死はその親だけの問題ではなく、深刻な社会問題として捉えるべきでしょう。親がここまで追い詰められた背景、学校や周辺住民の不適切な対応、支援体制の不備など、さまざまな要因が複雑に絡み合って起きるものだからです。

児童虐待には、大きく分けて身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクトの4種類があります。身体的虐待には、殴る、蹴る、激しく揺さぶる、息を塞ぐ、やけどを負わせる、拘束する、包丁や銃で脅すなどの行為が含まれます。しつけ目的でお尻を軽く叩くなどの行為は、ワシントン州でも違法ではありませんが、頻繁に叩くなど、子どもが怯える場合は虐待とみなされます。多くの調査で、体罰は子どもの自尊心を傷付け、親子間の信頼関係を損ねるので百害あって一利なしという結果が出ています。体罰の代わりに、タイムアウトを活用しましょう。これは、問題行動があるたびに、その場から離れた場所にひとりで一定時間座らせ、落ち着かせるという、アメリカでは一般的なしつけの手法です。

性的虐待には、性器を見せる、触る、触らせることや、強姦、性的暴行といった性的搾取行為はもちろんのこと、アダルトビデオの映像を子どもの前で観るなどの性的な刺激を与える行為も含まれます。子どもの脳は善悪を判断する機能がまだ発達していません。観たり聞いたりしたことを遊び半分で行い、児童相談所に通報されるケースもあるので配慮が必要です。また、性的虐待を受けた子どもは深刻な精神障害を抱える確率が高くなります。加害者のほとんどは家族や知り合いであるため、子どもが親戚やコーチなど特定の人物を避けたがる場合、まずは何が起こっているのか優しく話を聞く姿勢が大切です。

心理的虐待には、暴言を吐く、無視する、脅迫や恫喝をする、差別的な対応をする、さらに、片方の親の極端な悪口を言うなどの行為も当てはまります。直接的に子どもが暴力を受けていない場合でも、目の前で配偶者を怒鳴ったり暴力を振るったりすると、子どもは強い不安感を感じて心身に不調をきたす恐れがあります。これは面前DV(ドメスティック・バイオレンス)と呼ばれ、心理的虐待に含まれます。警察庁の調べによると、日本では面前DVの通報が毎年増え続け、昨年には6年前の約7倍にまで増加。面前DVも虐待であると認識されたことで、通報が増えたと考えられます。

ネグレクトは、食事や衣服を与えない、長時間放っておくなどの育児放棄や監護放棄であり、件数的にはいちばん多い虐待です。私が働くクリニックでも、DVにより心身に不調をきたし育児ができない状態の母親が何人も来ています。悲しいことですが、DV被害者であっても、ネグレクトとして通報する場合も。そこには、DV被害者が子どもを虐待し、その子どもが大人になってDV加害者になり、配偶者や子どもに暴力をふるうという負の連鎖が見えてきます。

DVと虐待、支配と被支配という負の連鎖を断ち切るためには、自分や配偶者の言動が少しでも虐待に当たると感じたら、まずはやめようと決心することです。子どもや配偶者へのイライラが募る場合、怒りは期待の裏返し、つまりは支配欲だと認識し、相手への期待値を低くすること。どうしても抜け出せないと感じたら、友人や家族、学校、専門機関に相談してください。子どもには、目上の人の言動を全て鵜呑みにせず、少しでも疑問や不安を感じたら信頼できる大人に相談するよう教えましょう。虐待で苦しむ子どもをひとりでもなくすためには、虐待に関する知識を共有し、地域全体で子どもを守るという認識を強めることが大切です。

2歳までに決まる愛着スタイル~安全基地を作るために~

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2歳までに決まる愛着スタイル~安全基地を作るために~

子どもやティーンにとって、心の通じ合った友人は、学校生活を送るうえでなくてはならない不可欠な存在です。けれども、仲の良い友だちができにくい、トラブルに巻き込まれやすいという子どもも中にはいます。実は、こうした対人関係のパターンは、親子の関係を繰り返していることが多いのです。

心理学の権威であるジョン・ボウルビィ医師は、赤ちゃんが養育者とのやり取りで作り上げる感情的な結び付きのことを「愛着」と定義し、生後6カ月から2歳頃までの間に形成されるとしています。自分で歩けるようになる1歳前後に、子どもは自分の親を心の「安全基地」とみなし、親がそばにいると周りのものを探索し始めます。そして、不安になると親の元へ戻り、安心したらまた外の世界を探索するのです。この養育者の反応と子どもの生まれ持った性格が相まって、子どもは対人関係に対する基本的なパターン「内的作業モデル」を身に付け、大人になっても無意識に活用していきます。愛着のスタイルには次の4つのタイプがあります。

  1. 安定型:子どものニーズを敏感に察知して愛情深く接する親に育てられ、心に確固とした安全基地が築かれています。自己肯定感が高く、他者も信頼でき、成長すると積極的に人間関係を築いていきます。

  2. 回避型:子どもが泣いても無視し、体に触れることのない育児放棄に近い親、もしくは逆に過干渉やしつけに厳し過ぎる親から育てられると、自分も他人も信頼することができなくなります。自分の気持ちがはっきりわからず、感情表現が苦手に。大人になると、一見自立しているように見えますが、実は人と深く関わることが怖くて他者と距離を取りがちです。

  3. 不安型:親の都合や気分で子どもへの対応がころころ変わる一貫性のない子育てにより、親の対応が予測できず、見捨てられるかもしれないという不安を常に持っています。自分の気持ちよりも親の顔色や反応をうかがって行動し、自分の欲求が満たされないため自己肯定感は低く、人からの否定的な反応に敏感で傷付きやすくなります。成長すると、満たされない気持ちや不安感から逃れるために、友人や恋人に依存し、周囲に過剰に適応してストレスを溜め込む傾向があります。

  4. 無秩序型:精神状態がきわめて不安定な親や、虐待する親から育てられたことで、安心な場所であるはずの家庭が逆にとても危険な場所になっている状態。回避型と不安型が混ざり合い、親に甘えたいという気持ちと怖くて逃げたいという相反する感情が、子どもを混乱させて無秩序な行動パターンを生み出します。親に甘えたかと思うと、急に攻撃的もしくは無関心になり、深刻なケースでは愛着障害の診断が下されることも。大人になり親と同じような行動を繰り返す傾向にもあります。自分の親のようになりたくないと思いつつ子どもを虐待したり、大切な人を攻撃したり脅したりと、感情の抑制ができずに周囲を振り回します。

2~4は、子どもの心に安全基地が築かれなかった不安定な愛着スタイルです。そうならないように、子どもの心に安全基地を築くにはどうすればいいのでしょうか。まずは、子どもの要求にしっかり応え、不安に感じているときには「大丈夫だよ」、「大好きだよ」という安心、愛情のメッセージをたくさん送ってあげることです。

大人になってからでも、安全基地を自分で作ることは可能。回避型の場合、自分で意識して人に甘えたり、頼みごとをしたりするといいでしょう。また、不安型の人は「自分は自分、他人は他人」と他者との境界線を引き、相手に頼る前にひと呼吸置いて、自分でできることはやってみて、自他共に完璧を求めないようにすること。自分に対しても子どもに対しても、無条件の愛情を注いであげることが安全基地を築くためには大切です。「今この瞬間、ここにいるだけで100点満点」、「私はひとりぼっちじゃない。私には私がついている」と毎日言い聞かせて、心の安全基地を自分で育ててあげましょう。

クラス替えの憂鬱~適応障害~

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クラス替えの憂鬱~適応障害~

新学期が始まって、子どもたちも新しいクラスに慣れてきた頃でしょうか。中には、新しい環境になかなかなじめずに苦労している子どももいるかもしれません。先生が厳しかったり、クラスにいじめっ子がいたりした場合はなおさらです。未知の状況に対して、誰もがある程度は不安や緊張を感じますが、ストレスを溜め込みやすい性格の場合、放っておくと悪化してしまうことも。学校に行く前に頭痛や腹痛、吐き気がしたり、泣き叫んだりする、反抗的になる、元気がなくなって無気力になってしまうなどの症状が続き、それが悪化しているようなら、適応障害を発症している可能性があります。

適応障害とは、環境の変化にうまく適応できずに、ストレスから心身のバランスが崩れて日常生活を送ることが困難になる疾患です。引っ越しや就職、結婚など、誰にでも起こり得る環境の変化から3カ月以内に症状が表れます。ストレス要因がなくなると、約6カ月以内に症状は治まると言われています。日本でも五月病という言葉がありますが、進学やクラス替えなどの環境の変化にうまく対応できずに、適応障害を発症している可能性が高いでしょう。また、環境の変化には、学校だけではなく、地震や火事などの災害、犯罪被害、事故、離職、夫婦の不仲、離婚や死別なども含まれており、複数のストレスが重なっている場合もあります。大人でも気付かないことが多く、頭痛や不眠などの体の不調から病院に行ったら、実は離婚や離職によるストレスから適応障害を発症していたといったケースも珍しくありません。

大人の場合、ストレスの発生源から逃れることもできますが、子どもの場合は自分で環境を大きく変えることは難しいので、新しい環境に慣れなくてはいけないと無理をしがちです。こうして学校や家庭で多くのストレスにさらされたまま適応障害を発症し、気付かずに対策を取らないでおくと、うつや不安障害、PTSDなどに発展する危険性があります。外界との接触を嫌がり、無理やり連れ出そうとすると性格が豹変して非常に攻撃的になり、不登校やひきこもりになる子どももいます。

特に、真面目で努力家、几帳面で完璧主義、責任感が強くて周囲の人に気を使いやすい「良い子」ほど適応障害やうつ病になりやすいと言われています。こうした性格は「執着性格」や「メランコリー親和型」とも呼ばれ、ストレス耐性が弱く、自分のダメな部分に目を向けてマイナス思考になりがちです。このタイプの子どもは多くの場合、表面上は落ち着いて見えるため、親ですら気付かないことも少なくありません。本人は不安感や無力感、自責の念を誰にも言えずに非常に苦しんでいます。希死念慮(死にたい気持ち)も適応障害の患者の25%に見られるので、早期のサインを見逃さず、医療機関や専門機関に相談することをお勧めします。

治療法としてはまず、取り除くことのできるストレス因子は除去すること。子どもの気持ちを十分に聞いてあげてから、ストレスの発生源を自覚させてその解消に取り組みます。たとえば、いじめっ子がクラスにいる場合は、先生と連絡を取り合っていじめ防止に努め、子どもには毅然とした態度を取るよう練習することで社会スキルを身に付けさせます。それと同時に、環境の変化にうまく適応できるような新たな考え方ができるよう促します。ストレスの発生源を全て除去することができない以上、ストレスに適応できる強い心「レジリエンス(精神的回復力)」を持つことが重要。具体的には、感情コントロール、自尊感情、自己効力感、楽観性などを高めるためのサイコセラピーを行います。困難やストレスの多い状況に陥っても、柔軟に対応して自分の力に変えていけるような心のあり方を構築していきます。

家庭でも、子どもの気持ちを聞いてあげる時間を増やし、子どものできている部分に目を向けることで、「やればできるんだ」という自己効力感を身に付けさせることができます。目まぐるしく変化する社会に柔軟に対応できるレジリエンスのある人間に子どもを育てるために、親子共に楽観思考で生きたいものですね。

朝食習慣で脳が発達し、学力もアップ!

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朝食習慣で脳が発達し、学力もアップ!

シアトルの短い夏、子どもたちは親の疲労を物ともせず、旅行にサマー・スクール、友だちとの外遊びなど、思いっきり楽しんでいることでしょう。でも、休みの間は生活リズムがどうしても乱れがち、という家庭も少なくないのでは? もしかしたら、朝食を食べる時間がない日もあるかもしれませんね。生活習慣と脳の発達は密接に結び付いており、特に朝食の有無は子どもの脳の発達と学力に大きな影響を及ぼすとされています。

文部科学省の調査によると、朝食を毎日食べている子どもは、食べていない子どもに比べ、全ての学年と教科で成績が高かったそうです。また、東北大学の調査によると、偏差値65以上の大学に入学した人の割合では、朝食を毎日食べる人と食べない人では何と10%近くの差があったとのこと。脳の神経細胞(ニューロン)はブドウ糖を栄養にしているので、良質の炭水化物をしっかり取っておかないと、脳が栄養不足になり、集中力や記憶力が大幅に低下します。

アメリカの調査でも同様の結果が出ており、朝食抜きのグループでは情報処理能力や空間認識能力の低下が見られました。さらに、朝食の種類と成績も関連しており、オートミールと市販のシリアルを食べさせた調査では、シリアルを食べた子どもは集中力が持続せず、オートミールを食べた子どもに比べてテスト結果が悪くなりました。油と砂糖がたっぷり入ったドーナツやマフィン、甘いシリアルなどは、食後の血糖値の上下が急激で集中力を低下させるので、避けたほうが良さそうです。さらに、朝食のおかずの数と頭の良さの関連性を調べた調査では、おかずの数が多いほど認知発達テストの指数が高く、主食だけではなく、さまざまな栄養を含んだバランスの良い食事により脳が発達するという結果が出ています。

家族で一緒に食事を取る子どもは、野菜や果物の摂取量が多く、肥満およびうつ症状が少ないことも知られています。いちばん大事なのは、一緒に食べる時間や回数よりも、食事の際の楽しい雰囲気。特に、中学生は親から繰り返し注意を受けると愛情を感じられずに精神状態が不安定になりがちです。食事中、親は聞き上手、褒め上手に徹して、子どもと一緒に楽しく食べることが大切です。

脳の司令塔とも言える前頭前野ぜんとうぜんやのニューロンの大きさが急激に発達するのは、11歳から18歳くらいまで。中学・高校の時期に質の高い朝食をしっかり食べて、午前中から集中できるかどうかが、前頭前野の持つ「実行機能」を鍛えるカギとなります。実行機能とは、目標に向かって自己をコントロールしながら計画的に課題を実行する能力のこと。集中力、注意の切り替え、自己抑制、目標設定、計画、段取り、実行、時間管理、感情抑制、柔軟性、作業記憶(作業が終わるまで一時的に情報を記憶する力)、メタ認知(物事を客観的に把握する力)などのさまざまな能力が含まれます。実行機能は、子どもが将来的に社会人として組織やコミュニティーの中で自立した人生を送るようになるためにも不可欠。これらの機能が未発達のままだと、能力があり努力はしていても長続きしなかったり、やるべきことはわかっているのにやらなかったり、何度注意されても同じ間違いを繰り返したりしてしまいます。ちなみに、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の子どもは実行機能の中でも集中力、自己抑制、計画、作業記憶が約3割遅れていると言われています。ADHDの場合、たとえば7年生(12・13歳)で授業はよく理解できるけれど、授業中に友人にちょっかいを出したり、課題を頻繁に忘れたりするなら、これらの実行機能が3年生(8・9歳)の発達段階にあると考えると、より理解が深まります。

子どもの健全な脳の発達を促して実行機能を高めるためには、前頭前野のドーパミンを増やすこと。楽しいことを考える、運動をする、人と会話をする、料理をする、噛む回数を増やす、音読をするなど、さまざまな方法があります。この夏休み、ぜひ時間を作って、子どもと一緒に朝食を作り、楽しい会話をしながらよく噛んで一緒に食事する時間を増やしてみてくださいね。

事件に巻き込まれた子どもの心のケア

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

事件に巻き込まれた子どもの心のケア

銃社会のアメリカでは、連日どこかで銃乱射事件が起きており、その数は年々増え続けています。銃により命を失う0~19歳のアメリカ人は年間2,900人近くにも上り、負傷者は1万5,600人、銃撃の現場に遭遇する子どもは年間300万人もいます。

日本でも最近、スクールバスを待つ児童らが殺傷されるという凄惨な事件が起きましたが、子どもたちが受ける心の傷は計り知れないものがあります。もし自分の子どもや身近な人たちが、こうした殺人や事故、自殺の現場などに遭遇してしまった場合、どうすれば良いのでしょうか。

人間は、事件や災害などの恐ろしい体験をすると、その惨劇のシーンを何度も思い浮かべたり、不安感でニュースをずっと見続けたりします(侵入思考)。また、悪夢を見たり、特定の音や光をきっかけに体験が鮮明によみがえったり(フラッシュバック)、小さな子どもの場合は乱暴な遊びを繰り返し行い、恐怖体験を再現します(再体験)。また、感覚がとても過敏になり(過覚醒)、イライラして不安な気持ちが強くなると赤ちゃん返りをすることも(退行)。こうした神経過敏な状態が続くと疲れ果ててぼーっとしたり、現実感がなくなり集中できない状態になったり(解離)、事件や災害などを思い出させるような場所や状況を極度に避けます(回避)。

子どもは大人と違って因果関係を理解することが苦手です。交通事故で家族を失った子どもが、「自分のせいだ」と強い罪悪感に見舞われ、「自分は悪い人間だ」と自分を否定し、「誰も信じられない」と人間不信に陥るケースもあります。事件のあと、数カ月経っても、こうした症状が続くようであれば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症している可能性も。早めに主治医や専門機関に相談することをおすすめします。

子どもの心の回復を促すためには、まずは安全で安心な場所を確立することが必要となります。「怖かったね。もう大丈夫だよ」、「もう悪い人はつかまったから安心だよ」といった子どもの年齢に合わせた言葉をかけ、抱きしめてあげるといいでしょう。

子どもが安心できるようになったら、次の段階として体の緊張状態をほぐすためのリラックス法を行います。たとえば、深呼吸では息を吐く時間を長めにすると、副交感神経が優位に働き、落ち着きます。また、体を緊張させてから一気に緩めることでリラックスを促す筋弛緩法も効果的。体が落ち着いてくると、心の扉が開き、怖い体験を遊びや夢の中で再現し始めます。このときに一緒に遊び、怖い夢の話も聞いてあげることで、子どもの悲しみや怒りが処理されていきます。また、退行は回復のプロセスなので、思い切り甘えさせてあげてください。少しでも親から離れることができたら、たくさん褒めてあげるといいでしょう。

心身のコントロールがある程度できたら、次は回避対象に向き合い、恐怖反応を少しずつ減らしていきます。ここで恐怖を避けるとPTSDを引き起こすリスクが高まります。怖くても回避せずにきちんと直面し、それを繰り返して恐怖反応を消去することが大切です。たとえば、学校で銃乱射事件が起きた時などは、学校に戻るのは勇気がいります。ですから、学校は安全な場所だと言い聞かせ、子どもが学校に行けたら、恐怖と直面できたことを褒め、徐々にチャレンジの範囲を広げていきます。

心の回復には、長い時間がかかります。今年3月、フロリダ州の高校で、生徒2人が1週間以内に立て続けに自殺しました。その高校では昨年2月に17人が死亡するという銃乱射事件が起きており、自殺した生徒の1人はサバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)に苦しめられていました。同じ週、2012年にコネチカット州の小学校で起こった銃乱射事件で娘を失った父親もまた自殺するという痛ましいニュースが流れました。負の連鎖を止めるためには、恐怖心、無力感、罪悪感、孤独感など、これらの事件が心に与える影響の大きさを深く理解し、心の回復についての正しい知識をコミュニティー全体で共有して実践することが必須と言えるでしょう。

親子で考えるアメリカでのNGワード

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

親子で考えるアメリカでのNGワード

子育てで頭を悩ませるもののひとつが、言葉使いです。汚い言葉や攻撃的な言葉を、友だちから、あるいはメディアから、子どもはたくさん覚えてくるようになります。日本で子どもたちが使う汚い言葉は、「バカ」や「アホ」、「死ね」など比較的限られていますが、アメリカでは特定の人種や民族、性的マイノリティーを侮辱し、罵倒する言葉もたくさんあります。こうした汚い言葉は「swear word」や「profanity」と呼ばれ、公共の場で使うと大ひんしゅくを買うので要注意です。

ハーバード大学の認知心理学者兼言語学者、スティーブン・ピンカー博士によると、こうしたNGワードは大きく5種類に分けられるとのこと。1. 宗教的な意味合いを持ち、恐怖心をかき立てる言葉:hell(地獄)、damn(罰を科す)など、2. 排泄物を示し、嫌悪感をもよおす言葉:shit(糞)、piss(尿)など、3. 死や病気を示す言葉:die(死)、sick(病んだ)など、4.性的な言葉:fuck(性交の俗語)、bitch(女性への侮蔑語)など、5.特定の人種や性的嗜好の人を貶めるような言葉:N-word(黒人への侮蔑語)、faggot(男性同性愛者への侮蔑語)などがあります。2はS-word、4はF-wordとも呼ばれます。

通常の言語処理は主にブローカ野(や)やウェルニッケ野(や)を中心とした左脳で行われますが、こうしたNGワードは怒りや不満などきわめて強いネガティブな感情と関わっており、主に感情を司る扁桃体で処理されます。ネットやゲーム依存の患者を調べた研究では、NGワードを聞いた時の扁桃体の反応が通常の人よりも強く、感情を抑制する機能が低いとする報告もあります。

抑制機能がもともと低かったのか、依存するにつれて機能が低下するのかは不明ですが、感情の抑制機能が弱く攻撃的な言葉を使いがちな人もいることを念頭に置いて、子どもがオンライン・ゲームをしている時の言葉使いを確認することも必要でしょう。また、トゥレット障害や、その他の脳の障害または損傷などで、本人の意思とは無関係に汚い言葉を発する場合もあります。

それでは、子どもがこうしたNGワードを使う時、親はどうすれば良いのでしょうか。まず、友だちが使っているのを聞いて意味もあまりわからずに面白半分で使っている場合、頭ごなしに叱るより、それが良くない言葉だと教える必要があります。また、怒って親に向かって「死ね」などの暴言を吐く場合には、子どもは理性を司る脳の部分が未発達なうえに善悪の判断がついていないので、最初から否定せずに、まずは子どもの気持ちを汲み取ってあげることが大切。そのあとで、「ひどい言葉を使ったのは、そこまで怒っていたからなんだね。でも、ママは傷付いたよ。今度から言わないでくれるとうれしいな」など、こちらの気持ちを伝えると良いでしょう。

しかし、NGワードが相手を侮辱するために意図的に使われたのであれば、毅然とした態度で厳しく諭します。その言葉を使ったら、相手がどのような気持ちになるのかを考えさせましょう。

最近の傾向としては、宗教的意味合いのNGワードのほか、SワードやFワードも徐々に許容されつつあるようです。一方で、特定の人種や性的嗜好の人を貶めるような言葉は、それがどんな場所であっても社会的に厳しい制裁を受けることになります。

実際に、今年だけでも天気予報士やバーテンダー、マクドナルド社員などが人種差別発言により解雇されています。昨年はミネソタの大学教授が黒人作家のジェームズ・ボールドウィンの著書を引用した際に黒人に対する差別表現をそのまま読んだために停職になりました。行き過ぎた言葉狩りという批判もあるものの、歴史的背景を考えると敏感にならざるを得ないでしょう。

日本でも、数年前にお笑い芸人が黒塗りメイクをしたことで世界中から批判が殺到しました。インターネットで情報が瞬時に拡散される現在、日本の話だからでは済まされません。子どもには、多文化共生の時代に生きる姿勢と言葉使いを今のうちからしっかり教えることが大切でしょう。

5歳から悩む子ども 〜LGBTQコミュニティーとこころの問題〜

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

5歳から悩む子ども ~ LGBTQ コミュニティーとこころの問題 ~

ある日、クリニックに通う元気いっぱいの5歳の男の子が、ピンク色のスカートをはいて来ました。お母さんによると、店で強くせがまれてしぶしぶ買ってあげたら、学校にもその格好で行くので困っているとのこと。

昔から、女の子っぽい服や遊びに興味を持つ男の子や、外を駆け回ってスポーツに興じる男勝りな女の子は、学年に何人かはいたものです。こうした子どもたちの中のごく一部には、身体的な性別とジェンダー・アイデンティティー(性自認)に先天的な違いのある「トランスジェンダー」が潜んでいます。

彼らは第二次性徴が始まる思春期になると、心と体の性別のずれに深く苦しみ、多くがうつ状態になり、自殺を考えるまで追い詰められます。アメリカに推定140万人いるとされるトランスジェンダーの自殺未遂率は41%にも上り、アメリカ全体の平均自殺未遂率(1.6%)の約30倍。精神的な苦痛を軽減して、自分らしく幸せに生きるためには、早期介入と周囲の温かい支援が必要です。

トランスジェンダーのほか、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルなど多様な性のあり方を総称した言葉である「LGBTQ」は2000年代初頭から急速に浸透していき、今では多くの人々に受け入れられています。ちなみに、Q は特定の性のあり方にとらわれないという意味の「Queer」や自分でもはっきりわからない状態の「Questioning」を意味します。

現代の性のあり方は、男と女という2種類に単純に分けられるものではなく、身体的な性別、性自認、そして性愛・恋愛の対象を示す性的指向のスペクトラム(連続体)上にあるとされています。体の性には男性、女性、インターセックス(非定型の性発達)があり、性自認にはシスジェンダー(体と心の性別が同じ人)、トランスジェンダー(体と心の性別にずれのある人)、ノンバイナリー(男性でも女性でもないと位置付ける人)、ジェンダーフルイド(男性と女性の間を自由に行き来する人)などがあります。

なお、トランスジェンダーの中で、体の性は女性で性自認は男性の人を「FtM」、体の性は男性で性自認は女性の人を「MtF」と呼びます。また、性的指向には、異性愛者、同性愛者、両性愛者、無性愛者、全性愛者(二元的な性別にこだわらない人)などがあります。いろいろありすぎて混乱しそうになりますが、自己紹介の際に「My preferred pronouns are she/her/hers.」など、性自認を示す代名詞を定義するのは一般的になり、中には「They/their/theirs」と呼ばれるのを好む人もいます。

LGBTQ 人口は年々増えており、アメリカでは成人の 4.5% に当たる約1,100万人に上ります。同性婚も2000年代初頭から西欧を中心に合法化が進み、2015年には全米で同性婚が合法化されて大きなニュースとなりました。

その一方で、根強い宗教的偏見と差別がいまだに存在しているのも事実です。同性間の性行為を違法とするソドミー法は、2003年に撤廃されるまで13州で存在していました。また、トランプ大統領は2017年にトランスジェンダーの人々の米軍への入隊を認めないとし、米国防総省は4月12日、米軍入隊を原則禁止する新たな基準の適用開始を発表しました。こうした時代の流れに逆行するような政策は、LGBTQコミュニティーに対する偏見を助長し、彼らを深刻な危機にさらすことになりかねません。

LGBTQの人々は、実際にその多くが学校でいじめを受けたり、偏見により失業したりしたことがあるほか、性的暴行や暴力を振るわれた経験も持っています。性自認や性的指向は、子育ての仕方や環境とは関係がなく先天的なものであるため、子どもを頭ごなしに否定し、「矯正」しようとするのは逆効果です。トランスジェンダーの人々の自殺未遂率も、家族から拒否された場合は6割にも達し、家族が肯定的に受け入れた場合は4%までに減少します。

もしも自分の子どもがそうかもしれないと思った場合、最初から認めることは難しいかもしれませんが、まずはその子をその子たらしめている個性のひとつだと考え、専門機関へ相談するなど支援態勢を整えることが大切でしょう。

親は 4 タイプいる!あなたの子育てスタイル診断

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

親は4タイプいる!あなたの子育てスタイル診断

子育てをしていると、いろんな問題や悩みが出てきて「どう向き合えばいいの」と、途方にくれる時もありますね。子育ての学校などがあればいいのですが、大抵は自分が育った家庭での育児スタイルを繰り返してしまいます。

だけど、理想的な育児スタイルを知り、実践することで、子どもが自らの意識を高め、自立へと向かっていく可能性がグンと上がります。発達心理学者のダイアナ・バウムリンドは、親の役割を、1)社会性を高めるルール設定、2)情緒の発達のための感情サポート、の2つに大きく分け、その度合いにより以下の4つのタイプに分類しました。あなたはどのタイプに当てはまるでしょうか。

厳格(Authoritarian)タイプ

まず、厳格(Authoritarian)タイプは、ルールを設定したら有無を言わせず子どもを従わせ、飴と鞭を使い分けて子どもをコントロールします。子どもの気持ちを考えようとせず、「とにかく言うことを聞きなさい」と言うのがこのタイプ。子どもが言うことを聞かないと力でねじふせようとします。

ひと昔前の日本の父親像、もしくは最近のタイガー・マザーと重なりますが、こうした親に育てられた子どもは、情緒的な成熟や自立心に欠けるため、礼儀正しく成績優秀であっても心の奥底では自分に自信がなく、不安感の強い人間に育ちます。無意識で常に人の顔色をうかがい期待に応えようとするか、あるいは人の気持ちが理解できない傲慢で支配的な人、反抗的な人間になる可能性も。

迎合(Permissive)タイプ

その逆に、迎合(Permissive)タイプは、ルールの遵守よりも子どもの気持ちを優先し、子どもの要求に簡単に応えてしまいます。親子というよりも友だちに近く、問題のある行動に対して毅然とした態度を取ることができません。「まだ子どもなんだから」、「やりたくないならやらなくてもいいよ」と言うのがこのタイプの親で、子どもとの対立を避けてリ ミットを設定できません。

子どもは駄々をこねれば許して もらえるので、親を自分の思い通りにさせようと次第に支配的になります。自分のやりたいことを優先して学校の規則を無視したり、最後まで物事をやり遂げられる粘り強さに欠けるため成績もふるいません。将来的には、衝動的で誘惑に負けやすく、自己中心的で人間関係にトラブルを抱えやすい人になります。

尊重(Authoritative)タイプ

上記の2 つのタイプの中間で、理想的な育児スタイルなのが、尊重(Authoritative)タイプ。子どもの気持ちを尊重したうえで、ルールの必要性をきちんと説明し、自発的に判断するよう導きます。ルール作りを子どもと一緒に行い、「これについて、どう思う? どう感じる?」と聞くのがこのタイプの親。

子どもの気持ちを受け入れるのと同時にリミッ トも設定するため、子どもは安定した枠組みの中で育ち、規範意識や自立心が育っていきます。将来的には、高い自己評価を持ち、他人の考えも尊重しながら自ら考えて行動するこ とのできる精神的に成熟した人間に育ちます。

育児放棄(Neglectful)タイプ

最後に、育児放棄(Neglectful)タイプは、文字通り子どもに対して興味や関心がなく、ルールも愛情もないまま、衣食住だけを与える親です。育児全般の知識がない、仕事が忙しく子どもとの時間が少ない、ストレスで子どもの気持ちを考える余裕がない、などもこのタイプになりがちです。「子どもが何をしているかよく知らない」と言う人はこのタイプでしょう。こうした親に育てられた子どもは、自己評価 がとても低く、寂しさから非行に走ったり、うつ病などの精 神疾患にかかる可能性がとても高くなります。

一方が厳格タイプ、もう一方が迎合タイプでバランスが取れている家庭もあれば、タイプが異なることで夫婦や親子間 の軋轢を生む場合もあります。厳格タイプに育てられた人 が、その真逆の迎合タイプになってしまう場合も。また、も ともと不安を感じやすい抑制型の気質を持つ子どもは、子育 てのスタイルにさらに影響されやすいとのこと。あなたは どのタイプでしたか。自分が厳格タイプだと思うなら、子ど もの気持ちを尋ねることから、迎合タイプなら子どもと共に ルールの見直しから始めてみてはいかがでしょうか。