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コラム連載状態: 連載中

人との違いはあなたの才能

こんにちは、みやざきみわです。日本はまだ春の暖かさが訪ねて来てくれず、春らしさといったら春の行事ラッシュくらいのものです。我が家にも娘が3人おりまして、卒業式2回、入学式1回、留学1名、入社式1回、引っ越し2回と舌を噛みそうなほど、それぞれの子供のドラマと私も向き合っています。

春になると何かと子供の心配をするのが人の親というもの。これがリスの親だったら頭を抱えて「うちの息子どうしよう」なんて絶対に言いませんね。

子育ては誰もが未体験でスタートするわけですから、分からないことだらけです。かくいう私も、若い頃に人の意見に耳を貸しすぎて翻弄された時期がありました。何が正しいかなんて教科書はないのですから、自分が親にしてもらったことを同じように伝えようとして当然です。医者と同じように、前例に基づいたことをするのです。いや、するしかないわけですね。

それが習慣や礼儀であるなら良いのですが、人はつい自分に「こうあらねばならない魔法」をかけてしまいがちです。他の子供と成長を比べてしまったり、自分の親にしつけられたことを強いてしまったり、自分の後悔を子供で満たしたり。これは一見、親の愛なのですが、視点を変えたら「親の呪い」でもあると私は話します。

私がいつも言う言葉は「人との違いはあなたの才能」。例えば運動能力であったり、絵を描くことであったり、科学であったりと、人はさまざまな才能の袋をもってこの世に生まれてきているので、親が自分の経験値を子供に当てはめるのはやめてあげてください。あなたにとってのベストが、必ずしも子供にとってのベストとは限りません。

私の友人で、小さい頃はパイロットになりたかったけれど、お父さんに反対されて親と同じ道を歩んで、結果的に良かったと言う人がいます。けれど彼のように親の言うことに心から納得して満足している人は、残念ながらそんなに多くありません。

もうひとつ、あなたが幼い頃に嫌だったことを子供にはしないことです。親だから、子供だから「こうあるべき」を伝承しないで欲しいと私は思います。

子育ては「目を離さず手をかけず」。手をかけたい時でも、そこはぐっと我慢! 子供の才能はそれぞれ違います。人との違いを発掘する導き手となってください。時代は変わったのか、最近では子供の才能をすすんで発掘される親御さんも多く見受けられます。

もちろん子供だけでなくて、あなたの大切な人も同様ですよ。彼も彼女も、ご主人も、妻も、部下も、上司も、千差万別の資質だということを知ってお付き合いしてみてください。人との違い、自分との違いを発掘する「観察」をしてみてはいかがでしょう? その違いを認め合えるようになれば、最強のチームの成長です。観察という魔法は上手く使えば鬼に金棒になります。

さあ皆さん、どんどん相手を観察してみてください。苦手な人間関係も楽しくなれますよ。

[お役割]

シニア・テレビっ子、日本社会に物申す

ふと気づけば日本に15年も帰っていない。今年こそはと思いつつ、年が暮れてしまう。今や日本との交流は実の兄弟とその家族、2〜3人の友人のみとなり、縁が薄くなったこともある。しかし私の心はいつだって日本にある。
私の何よりの楽しみは、日本のテレビドラマや歌謡番組、情報番組を観ることだ。そんな「シニア・テレビっ子」の私が、テレビから感じる最近の日本事情について意見を言わせていただく。

テレビを観ているとまず目につくのが、日本の多くの政治家や年配歌手、大学教授までが髪を真っ黒に染めていること。身ぎれいにするのと、髪の色を老後も黒く保つのとは違う。顔にできた皺の数とつり合いが取れなくなって、不自然に感じられてならない。薄くなった髪が漆黒に染められ、その生え際に白髪が覗くに至っては何とも悲しく、肌に近い部分がレンガ色になっているのは摩訶不思議。髪を黒く染めるのは、若く見られたいと思う気持ちの現れなのだろうか。シニアになったら積み重ねた各自の経験を生かして、中身で勝負してほしい。かと言って八代亜紀のような茶髪もいただけない。どうせ染めるなら無難な黒や茶色ではなく、いっそ瀬川瑛子のド金髪や、美輪明宏のド黄色などにして、身なりにインパクトを加えるほうがずっと格好良い。

瀬川瑛子は決して趣味がいいとは言い難いが、年を取るにつれ自分なりの個性を出して居直っている彼女は立派で、かつ幸せそうである。特徴ある間延びした話し方と奇抜な衣装がアンバランスなのも面白い。シニアたるもの彼女のような姿を目指したいものだ。

私は連続ドラマを観るのも大好きだ。ドラマを見ていると、日本社会について考えさせられる。例えば最近終了した「砂の塔」。高層分譲マンションに引っ越してきた主人公家族の主婦が、同ビルの主婦連会長から目の敵にされるくだりに見られる、日本のいじめ社会だ。主人公の主婦の、日本人特有のナイーブさにイライラ、何とかしてよと思いつつ、ついつい続きを観てしまう。思うに日本は、かつて大ヒットしたドラマ「おしん」時代から何も変わっていないのではないか。

そして現代の日本世相が学べるのは、プロパガンダながらも面白く仕上がっているNHKの「Cool Japan」。北米に長く住んだ私は、この番組の外国人出演者が自身のお国事情と日本のそれを比較するのを聞いて、なるほどと思う。観るたびに日本の良さを再発見し、次回帰国の折にはぜひ体験してみたいと思う。

しかしこの番組の日本人司会者は、話しぶりが傲慢なのが非常に鼻につく。「おい、お茶、新聞」とでも言いそうな古い日本男性の癖をさらけ出しいて、まるで日本の嫌な面が映し出されているようだ。完全に時代錯誤とも言えるこんな男性が、きっと現代日本にはまだたくさんいるのだろう。

私のお気に入り番組「団塊スタイル」は衣食住にまつわるトピックを取り上げており、シニア・ライフを楽しむには欠かせない。男性司会者が髪を染めていないのは、シニア用番組にふさわしく好感が持てる。しかし残念ながら出演者であるシニアのほとんど、特に女性は全員髪を染めている。年の流れに逆らわず自然なシニア・ライフを楽しむような日本人は稀有に違いない。

さて、ひと通り日本社会に物申したが、ひとつだけ気になることがある。私の日本の友人や家族はみな口を揃えて「日本は変わったよ」と言うのだ。もしかすると私が感じている日本社会とは、テレビの中だけの世界なのかもしれない。時代錯誤はむしろ私のほう? シニア・テレビっ子、次回日本に帰る時は「浦島太郎」になっていないことを願うのみである。

[カナダで再出発]

時代性のある反戦映画 『Land of Mine』

『Land of Mine』
(邦題『ヒトラーの忘れもの』)

© Sony Pictures Classics

第二次大戦中ナチスに占領されていたデンマークの海岸には、ナチスが埋めた200万個もの地雷が残されており、戦後、その地雷の多くはドイツ人捕虜の少年兵たちによって撤去された。デンマーク人も知らなかった史実を元に再現されたヒューマンドラマ。本年のアカデミー賞外国映画賞にデンマークからノミネートされた他、世界各国の映画賞を多く受賞している秀作だ。

ナチスを心底憎んでいるデンマーク軍のラスムスン軍曹(ローランド・ムーラー)は、地雷撤去の監督として11人のドイツ少年兵を引き連れ、海岸線に赴任した。彼は危険な作業をする少年らに憎悪をむき出しにし、食事も与えず、日々奴隷のように扱った。そんなある日、一人の少年が地雷によって吹き飛ばされた。呆然とする少年たち。それでも、リーダー格のセバスチャン(ルイス・ホフマン)は、地雷を撤去してドイツに帰ろうと仲間を勇気づけるのだった。

ほぼ全員素人の少年たちを起用し、描かれる過酷な日々。あどけない顔をした少年たちが、命と隣合わせで作業する姿が痛々しく、見続けるのが苦しくなり始めた頃、物語に変化が起きる。それは鬼軍曹の心の変化として描かれ、本作の持つ大きなテーマへと繋がっていく。

憎しみは永遠に続くのか? 憎しみが理解へと変わることは可能なのか? 鬼軍曹の少年らへの態度の変化を通して、見るものの胸に迫る問いかけの数々。本作は古い歴史的事件を扱っているのではない、今まさに私たちが直面している難民問題やテロの脅威にまっすぐ繋がる問いかけをしている、そう感じざるを得なかった。

オリジナル脚本と監督はデンマークの気鋭マーチン・サントフリート。ドキュメンタリー映画出身で、劇映画としてはアルコール依存症の女優を描いた秀作『アプローズ(Applause)』がある。地雷撤去に関する本すら書かれていない現状の中で、実際に海岸線に行き、聞き取りをして脚本を書き上げた。捕虜に地雷撤去をさせたのは明らな違法行為であり、デンマーク戦後の暗部を自ら描き出した若きデンマーク映画人の気概が伝わる。時代性のある反戦映画の名画として、ぜひ推薦したい。

シアトルは17 日からSeven Gables Theatreで上映中。
上映時間:1時間40分

[新作ムービー]

大きな余韻の輪が心に広がる 『Moonlight』

『Moonlight』

©A24

マイアミでも貧困と犯罪が集中するリバティ・シティを舞台に、麻薬中毒のシングルマザーを持ったアフリカ系少年が、多くの困難をへて自己を見出す姿を詩的に描き出した作品。タレル・マクレイニーが書いた半自伝的戯曲を、同じ町で育ったバリー・ジェンキンスが脚色、監督し、本年度のアカデミー賞で8部門にノミネート、授賞式では発表間違えというドラマをへて作品賞を受賞した。低予算、独立系で製作された作品として快挙と言えるだろう。

物語は3部構成。その1は主人公の小学生時代。痩せて内気なシャロン(アレックス・ヒバート)はいじめの標的。ある時、母(ナオミ・ハリス)が麻薬を買っているディーラー、ファン(マハーシャラ・アリ、本作で助演男優賞受賞)に助けられ、以来穏やかにシャロンを導く彼が父のような存在となり、彼と彼のガールフレンド(ジャネール・モネイ)の家がシャロンの避難場所となる。

ティーン時代、シャロン(アシュトン・サンダース)へのいじめはエスカレートし、母の中毒もかなり進み、家は荒んでいた。そんな彼には心を許せる親友ケヴィンがいたが、彼への思いは友情以上のものだった。

青年となったシャロン(トレバンテ・ローズ)は麻薬ディーラーになっていた。ある夜、思い立って高校以来会っていないケヴィン(ジャハール・ジェローム)に会いに行き、彼への思いを伝える。

シャロンの成長の軌跡は、鬼の形相で罵倒する母や容赦のないいじめと暴力、ゲイの自覚とその孤独を生き抜くことであった。ジェンキンス監督はその厳しさを、ニコラス・ブリテルの美しいバイオリンの音色と、色彩豊かな映像を通して描き出していく。残酷なリアリティの美化? 否、そんな惨さの中でも、決して壊れなかったシャロンの魂の強さを描こうしたのではないだろうか。あまり似ていない3人の俳優がシャロンを演じていたが、それぞれの瞳に込められた魂は一つだった。監督は3部構成にした着想を侯孝賢監督の『百年恋歌』から得たと言っている。

最後にシャロンがケヴィンに伝えた彼の真実。その痛々しさに強く胸が打たれ、見終わって大きな余韻の輪が心に広がった。かつて、ゲイの少年が成長する姿をこんな風に描いた作品があっただろうか。『Fence』と対をなす2016年を代表する傑作として本作を推薦したい。

上映時間:1時間51分。
シアトルはSundance Cinemas Seattleで上映中。

[新作ムービー]

ルールの魔法

こんにちは、みやざきみわです。日本は立春を迎えました。2月3日の節分には「福は内~♪」と豆をまいて、これから始まる一年が災いの無い一年になりますようにと願うのです。日本には四季があり、立春、立夏、立秋、立冬によって季節が分けられます。中でも一番新しい季節、春の始まりが「立春」つまり2月4日です。節分とはその前日に祈る行事なのですね。

最近はコラムで恋ネタの話をすることが多いので「恋愛マスターですか?」なんて声をかけられて調子に乗っている私ですが、今回はちょっと離れて、豆まきの話をしたいと思います。

豆まきは日本の文化です。この話は日本神話である『古事記』の中に意味が書かれています。実は、豆は桃の代用品なのですよ。桃をまいたらあたり一面ひどいことになってしまいますものね、だから桃の代わりに豆を使ったのです。

日本古事記では、イザナギの神とイザナミの神が結ばれて国が生まれていくのですが、火の国を産んだ際にイザナミは死んでしまいます。黄泉の国へ行ったイザナミを諦めきれないイザナギの神は死後の世界を訪れて、そこで鬼に追いかけられてしまいます。その時に桃の実を投げてなんとか助かったのです。桃には邪気を払う力があるそうです。それにあやかり、邪気払いとして今でも桃を育てている地区もあります。

やっぱりまた恋愛の話に戻りますね。このイザナギとイザナミのカップルは、最初はまったく上手くいきませんでした。理由はイザナミから先に声をかけたから、つまり女性から告白したからだというのです。「やっぱり女性には男性から声をかけましょう」というストーリーなのです。男性リードには私も大賛成。文化や習慣の中で変化することも多々あるけれど、基本的な考え方は太古の昔からずっと受け継がれているのです。ありのままを推奨している私も、恋愛関係の相談には「男性がリードしないとダメ!」と伝えます。そこは譲れません。「自分の恋は私が先にアプローチしたんだけど…」と思った女性の方は、次回のデートで彼にもう一度告白してもらいましょうね。

平等というのは、人ぞれぞれの役割によって成り立つものです。男性は女性より重い物を持てるし、女性は細々とした部分を助けることができます。「男性がリードすべき」という考え方は、男性自身を守るルールであったり、女性の資質を守るものであったりするのではないかと私は思います。できないことを互いに補い合い、助け合うのも会社やチーム、夫婦や恋人にまで関係する「ルールの魔法」かもしれませんね。

追伸です。先日うちの家の金魚が新聞社に取材されました。その翌日にはYahoo!ニュースのトップを飾り、テレビ局が殺到し、一躍日本一の有名金魚になりました。金魚の人生、いや魚生も分からないものです。次号のソイソースで「きんちゃん」をご紹介しますので、楽しみにしていてくださいね。それではまた!

[お役割]

スノーバード

ジェームズと私

雨が多く寒いシアトルの冬はよく南方に行ってビタミンDの補給をしていたが、バンクーバーに移ってから新たな冬の過ごし方を発見した。今や我が第一趣味となったピックルボールをしに来る多くのシニアが「スノーバード」、つまり寒さを避ける鳥となって10月末頃から数カ月間アメリカ南西部に渡ってしまうのだ。

私の紹介でピックルボールにすっかりハマったジェームズと「冬は天気の良いところに行ってプレーしたい」と兼ねがね言っていた。すると年末にシアトルの旧友アドリアンヌからメールが届き「カリフォルニア州パーム・デザート近くのサン・シティーに宿を取ったから遊びに来ない?」とのお誘い。屋外ピックルボールも盛んとのこと。「隣に倣え」には抵抗を感じる自分だが、これぞシニアの特権とばかりに早速ジェームズとホテルを予約。1月末に8日間「スノーバード」体験をすることになった。

パームスプリングス空港に着くと、空がまぶしいほど青い。気温は7~18℃と多少寒いが、気持ちのいい快晴が連日続いた。やがて最高気温24℃の理想的な気候となった日にはジェームズと顔を見合わせ、成る程とうなずいた。

空港から東に約14マイルにあるパーム・デザート市は、コーアチェラ・バレーと称して米国西部で冬に最も温かいリゾート地。同バレー全域を通して毎冬10万人のスノーバードがやって来る。200以上のゴルフコースがあるが、最近ではリゾート内外にテニスコートを改造したピックルボールコートがどんどん増え、アクティブシニアの需要トレンドに応じている。

旧友アドリアンヌが選んだ「サンシティー・パームデザート(SCPD)」は55歳以上のみが入居できるゲーティッド・コミュニティで、カリフォルニアやアリゾナにある大手リゾートチェーンの一つ。約9,000人の住民の3分の1がスノーバードだと言う。リゾート内にはクラブハウスやレストラン、カラオケ、ゴルフ場などのスポーツ施設が整い、ハイキングや読書会など趣味のクラブが80以上。アクティブシニア用巨大リタイアメント・ホームだ。

ピックルボール狂の我々は、BC州からきている知り合いのスノーバードを連日訪ねてプレーしたり、コミュニティセンターや公園の公共コートを訪ね回って道場あらしを決行し、あっという間に8日間が過ぎた。来冬は最低2週間、できれば1~2カ月滞在したいものだとジェームズとうなずき合った。

[カナダで再出発]

ポジティブなメッセージが伝わる 『Hidden Figures』

『Hidden Figures』
(邦題『ヒドゥン・フィギュアズ』

© 20th Century Fox

米国初の有人宇宙飛行計画、マーキュリー計画に関わったアフリカ系女性計算手らの奮闘する姿を描いた伝記映画。アカデミー賞の作品賞にノミネートされ、大ヒット上映中の作品だ。

1961年有人宇宙飛行でソ連に遅れをとったNASAの前身NACA(全米航空諮問委員会)は、宇宙競争の真っ只中。グループの長アル(ケヴィン・コスナー)は所内で才能ある者を集めており、その一人に数学に優れた才を持つキャサリン・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)がいた。彼女はNACAのアフリカ系女性計算手だけで組織された部門から、エンジニアのメアリー・ジャクソン(ジャネル・モナエ)と共にアフリカ系女性としては初のグループへの参加を果たした。しかし、部門に残った事実上のリーダー、ドロシー・ボーン(オクタヴィア・スペンサー)は、昇進も昇給も認められずにいた。

作家マーゴット・リー・シェタリーが著した同名ノンフィクションの映画化で、もちろん実話。舞台は「有色人種」はトイレもカフェテリア、コーヒーポットも別々、という宇宙飛行を目指す場とは思えない差別がまかり通っていた時代。そんな状況の中で、機会を与えられた3人の女性を中心に、彼女たちが差別の中で、それぞれの能力を発揮していく姿を描いていく。

ジョンソンが重いノートを持って、有色人種用トイレのある施設まで走る姿が何度も登場し、彼女らの置かれた状態の大変さが描かれるが、焦点は差別待遇よりも彼女のがんばる姿にあるので、作品のトーンは明るく快活。ポジティブなメッセージがストレートに伝わってきた。

アフリカ系女性の部門で与えられた仕事だけをしていたジョンソンは、「コンピュータ」と呼ばれ、IBMが導入されると解雇予定の使い捨て要員だった。もしこの抜擢がなけば、彼女の才能は埋もれたままだったろう。また機会を与えられても、上司の妨害や差別待遇のストレスを跳ねのけねばならない忍耐力が必要なことなど、本作を通して人種に限らず、差別の持つ非人間性や無意味さが分かりやすく描き出されていた。

ちなみに、ジョンソンは1953年から退職する86年まで宇宙開発に携わり数々の功績を残した。現在98歳。健在である。映画化に際して「なんで私のことなんか映画にするの?」と聞いたという。淡々と数式を説き続けた彼女らしい発言という気がした。

上映時間:2時間7分。シアトルはシネコン等で上映中。

[新作ムービー]

Stoneburner〜食べ歩き「あまから会」のおすすめレストラン

地中海風のピザと手作りパスタが人気のレストラン「Stoneburner」はバラードのブティックホテル一階にあります。正面には炎の立つ大きな炉、高い天井は板張りのアーチ型、こげ茶色に塗られた太い柱と、クラシックで落ち着いた雰囲気です。

今回は、週末だけのブランチに行きました。オーダーはお料理4 品とデザートケーキ2品を選んで、7名でシェア。こちらのお薦めは石炉で焼いたピザなので、「ユーコンポテトとシャントレルマッシュルーム(Yukon Potato & Chanterelle Mushrooms $17)」と、ちょっと珍しい「ブレックファーストピザ(Breakfast Pizza $19)」の2種を選びました。どちらも薄型の生地でクリスピー、塩味が薄めなのも好評でした。生地の上にジャガイモの薄切り、卵2個とホームメイドベーコン、クリームソースがかかったブレックファーストピザは今回頼んだ中での一番人気でした。

Breakfast Pizza $19
Breakfast Pizza $19

特製パスタも自慢のお店なので「カルボナーラ(Bucatini Carbonara $17)」も選びました。ラム肉のベーコン、オニオン、パルメサンチーズ、ポーチドエッグを混ぜ合わせたこのパスタは茹で加減も良く、もうひとつオーダーしたくなるほどの味でした。

Bucatini Carbonara $17
Bucatini Carbonara $17

最後に、シアトルではまだ扱っているお店が少ない「ダッチベイビー」を選びました。発祥はドイツのふわっとしたパンケーキで、これを食べ歩きしたいファンが当会のメンバーにいるくらいの、隠れた人気朝食です。「石炉で焼くダッチベイビー(Hearth Fired Dutch Baby $12)」はローストしたハニークリスプアップル、フェネル、レモン3 種入り。オリジナリティがあり良かったのですが、オーブンでなく炉を使っていたためか、オーダーしたひとつが焦げていたのがちょっと残念。

Hearth Fired Dutch Baby $12
Hearth Fired Dutch Baby $12

おすすめデザートの「チョコレート・キャラメル・ムースケーキ(Chocolate Caramel Mousse Cake $11)」は焼いたメレンゲとキャラメルポップコーンが添えられた、甘さ控えめで上品なデザートでした。

Chocolate Caramel Mousse Cake $11
Chocolate Caramel Mousse Cake $11

ディナーメニューやカクテルなどのアルコールも充実しているので、また夜にリピートしたいレストランです。

Stoneburner
5214 Ballard Ave NW, Seattle WA 98107
営業時間:
ハッピーアワー:毎日 3pm – 5pm
ブランチ: 土・日 10am – 3pm
ディナー: 日〜木 5pm – 10pm 
☎ 206-695-2051
www.stoneburnerseattle.com

[あまから会]

夢を追う 『La La Land』

『La La Land』

ミュージカル映画を観て、ワクワクと胸が湧き立つ体験を何度もした。『雨に歌えば』『パリのアメリカ人』『バンドワゴン』などハリウッド黄金時代を飾ったミュージカル映画の数々。本作はロサンゼルスを舞台に、売れないジャズ・ピアニストと女優の卵の出会いを描いたロマンチックなミュージカル作品で、歌も踊りも、作品のスケールも、先達の足元にも及ばない出来栄えではあるが、なぜか観るものを魅了する力があった。

まず冒頭のハイウェイのシーンでハートを掴まれた。渋滞した路上に数珠繋ぎになった車の間をぬって、歌い踊る人々をワンカットで一気に見せるシーン。軽やかな歌と複雑に構成されたダンス・ルーティーンを100人のダンサーらが見事に踊りきり、「これぞミュージカル!」の気概を見せるスタートだ。
そして、シーンの最後に主人公の二人、オーディションに向けてセリフの練習をするミア(エマ・ストーン)と、渋滞にイライラするセバスチャン(ライアン・ゴズリング)がそれぞれの車中にいて…。

その後、恋に落ちた二人は、甘く美しい時を分かち合い、見つめ合ううちに思わず歌い、踊り出す。ミュージカル映画の王道を行くたシンプルでドリーミーな物語だ。映画ファンならカラフルな衣装に『シェルブールの雨傘』を、ビタースィートなエンディングに『ニューヨーク、ニューヨーク』を思い出すかもしれない。本作は今や絶滅してしまったミュージカル映画への憧憬が
溢れている。

脚本・演出は『セッション』のデミアン・チャゼルで、32 歳の気鋭映画作家で、素晴らしい音楽の数々はチャゼルの大学同級生ジャスティン・ハーウィッツ。二人は現代を舞台にしたミュージカル映画を作ろうと奔走し、何度も挫折。14年の『セッション』の成功を得て、ようやく本作の製作が可能になった。そんなバックストーリーは、主人公ふたりの姿と重なる。

本作のためにピアノを特訓したゴズリング、ダンスの特訓を続けたストーン、共に健闘しているものの、歌も踊りもプロ級と言えない。だが、夢を追い続ける不器用な二人の真剣さはしっかりと伝わった。

本作は、ゴールデン・グローブ賞で作品賞を始め7部門で受賞後、アカデミー賞では『タイタニック』に並ぶ14部門でのノミネーションを獲得。本作でまだ3作目の新進チャゼル監督、夢の街ラ・ラ・ランドで夢を実現した人の一人と言えるだろう。

上映時間2時間8分。
シアトルはシネコン等で上映中。

[新作ムービー]

厳しい差別を生きた男の頑なさ 『Fences』

『Fences』
(邦題『フェンス』)

©️Paramount Pictures

劇作家オーガスト・ウィルソンの傑作舞台劇の映画化で、文句なしに2016年のベストワンにあげたい作品。主演は2010年に舞台でも同じ役を演じたデンゼル・ワシントンで、彼が久しぶりに監督もしている。

舞台は1950年代のピッツバーグ、清掃作業員のトロイ(ワシントン)は、彼を愛する優しい妻ローズ(ビオラ・デイビス、舞台でも同役を演じた)と慎ましく幸せな暮らしを送っている。そんな彼だが、息子たちとは対立を抱えていた。前妻との間に生まれたジャズプレイヤーのリオン(ラッセル・ホーンズビー)、そしてフットボール選手として大学からスカウトが来ているコーリー(ジョヴァン・アデポ)、彼はこの二人の夢をことごとく打ち砕いていたのだ。

音楽やスポーツなど先は見えている、地道な仕事を見つけろと主張する彼だが、その言い方には親の苦言を超えた激しさがあった。

かつて野球選手として活躍したトロイ。アフリカ系はメジャーでプレイできないという人種差別の時代に夢を砕かれた。日々清掃車に乗り、テレビすら買えない暮らしの中で家計を支えてきた彼には「何も信じない、夢など叶わない」という外界へのフェンスが作り上げられていた。

公民権運動が生まれる寸前に時間軸を合わせ、厳しい差別を生きた過去から抜け出せない男の頑なな生き方がくっきりと描き出される。見事としか言いようのない主人公トロイの造形と、饒舌な彼がまくし立てる屁理屈、ジョーク、皮肉、そして妻への甘い言葉の数々。その一言一言がワシントンから発せられる時、それはジャズでありブルースであり、音楽のような旋律を持って見るもの心に突き刺さってくる。今さらだが、彼の名優ぶりに瞠目した。いや名演は彼に限らない、夫を支えた妻を演じたディビスも、年長の清掃員を演じたスティーブン・マッキンレー・ヘンダーソンもみな素晴らしかった。

そんな彼らの名演を生み出した、優れた戯曲の持ち得る力を痛感した。言葉が生きて躍動し、嘘臭くも古臭くもならない奇跡。筆者には父権制社会の中で父性を押しつぶされたアフリカ系の男たちの慟哭が聞こえた。舞台の初演は87年でピューリッツァー賞、トニー賞、NY批評家協会賞などを受賞している。

米映画界はCGアクション映画が席巻しているが、そんな現状の中で意味深いドラマとして強い光を放つ本作。ぜひ映画館に足を運んで名作、名演の何たるかを体験してほしい。

上映時間:2時間19分。
シアトルはAMC系シネコンで上映中。

[新作ムービー]

心配と失敗との関係?

シアトルに住んでいた時、よくベルビューのゆきこさんのところにマッサージに通って疲れを癒していた。彼女に健康上の不安を訴えると、「武田さん、心配しすぎよ」とよくたしなめられたものだった。今でこそ自由気ままなシニアライフを送っている私だが、実は大変な心配性であったのだ。

在職中はつねに自分の言動に失敗がないかアレコレ考え、思い悩み、思い切ったことができなかったように思う。退職後は職場の掟に縛られることがなくなったわけだが、新たに得たはずの「自由」の範囲については今でも明確ではない。ただ確実に言えるのは、以前に比べて自分の言いたいことや不平をはっきり声に出せるようになった。

例えば私は、相手がビジネスであっても電話で質問することや、レストランのサーバーにオーダー以外のことを頼むのを躊躇してしまう性格だ。何事にも、相手とのやり取りで自分に落ち度はなかったか、嫌な思いをさせなかったかと後になってクヨクヨ考えてしまうのだ。
しかし今は、自意識を殺して「Just do it」と自分に言い聞かせることにしている。たとえ後悔するような結果になっても、過ぎたことだから仕方ないとすぐに忘れることができるようになった。私はそんな自分を無責任になったのだとは思わない。

私がただひたすらに失敗を恐れていたのは、日本社会全体が失敗を過度に嫌う傾向にあり、自分も知らず知らずのうちにその影響を受けていたからではないだろうか。いつも人から見られているという自意識が転じて、自分が他人の言動を見聞きする時も、まず人の荒探しをしてしまう癖がついていたように思う。
今思えば私が日本を出たのは、「よく失敗する自分に、日本社会の失敗を許さない重苦しい空気は合わない」と体感していたのも大きな理由のひとつだったかもしれない。

 

The Paul Tavai-Latta Polynesian Dancers of
Vancouver (est. 1971) Vancouver Kerrisdale
Beginner Class

友人がフラダンスを習っていて、先日そのお披露目会に行ってきた。しかしいつの間にか自分の目は「彼女は失敗しないだろうか」ということのみに焦点を当て、不安な面持ちで彼女の晴れ姿を見守っていたのだった。少し経ってからそのことに気がつき、「ああ、もう荒探しをする必要はないのだ」とあわてて頭を切り替えた。彼女は努力の成果を出そうと精いっぱい頑張っているのだから、失敗をとがめることなんかより、よくできたところを見るようにした方がお互い幸せなのだ。彼女は素晴らしい
ダンスを踊りきり、私は大きな拍手を贈った。

「失敗は誰でもするもの」ということが、私はこの年になってようやく理解できるようになったようだ。ということは、失敗してもそんなに後悔する必要はない、誰も初めから失敗しようと思って事に当たる訳ではなく、結果的に失敗に終わっただけ。遅ればせながら今後は、自分の失敗を責めないだけではなく、他人の失敗も責めないようにしようと思う。世間の祖父母が概して孫に甘いのに似てか、これも年の功というものなのだろう。

[カナダで再出発]

新しい年をより良くするために

A Happy New Year, 2017! みやざきみわです。本年もよろしくお願いします。みんなで今年も良い年にしていきましょう!

私の住む伊勢には、日本平和を祈る神宮があります。日本人にとっては氏神様と言っておかしくない存在だと私は思っています。昔は「一生に一度はお伊勢参り」などと言ったそうですが、今の時代は交通の便もよくなって通いやすくなりました。年末年始には多くの人に訪れていただきまして、とても賑やかになります。

そんな伊勢神宮には、あるウワサがあります。祀られているのがアマテラスという女の神様なので「カップルで来ると別れるらしい」と言う人がいるのです。実際そんなことはあり得ないと思うのですけどね。国の平和を祈ってくれるほどの神様が、人を不幸にするわけがないのですから。

そういったウワサが生まれるのは、人の意識がそこに向いているからに過ぎません。事前に「別れるらしい」と耳にしていた場合、たまたまその話に当てはまった人だけが際立って記憶されてしまうのです。意識は気になることに対して集中するので、まるで確率が高いかのように感じられます。

さらに、意識が集まることで自然とそのような人が集まってきたりもします。意識はとても重要なトリガーになります。いわゆる引き寄せの法則ですね。「伊勢神宮に行くと別れるよ!」と私が告げるのと「一生円満になるよ!」と告げるの、あなたはどちらが良いですか?

 

年始になるとあちらこちらで「今年の運気」という特集を目にします。意識が高くなるコメントは良いけれど、中には運気が悪いとか。そんな言葉には惑わされませんように。
人の言葉に左右されるのは、今年からはもうやめましょう。人生はあなたのものであって他人のものではありません。困ったときに案をもらったり、同調を求めるのは良いけれど、ネガティブな予言なんて必要ありません。

人間と言うのは素晴らしい生き物で、意識次第で自分の姿すら変えられるんです。毎日「ウエストくびれる、くびれる」なんて思っていると本当にくびれるんだから。根拠のない話を意識に入れず、いつも自分の意識を高く持ちましょう。いや、あなたも気を付けなさいよ! って私もよく自分に言い聞かせてますけどね。

あなたの今年なりたい姿は何ですか? 日々意識してみてください。なりたいあなたを作るのは、自分自身の意識なのです。

せっかくなので今年の暦を私も伝えさせていただくと、皆さんに新しい良い流れが始まってますよ。素敵な自分に変化する年! 人生は意識次第で白馬に乗った王子様がやってきます。王子様は恋人なのか、ビジネスチャンスなのか……それはあなた次第です。

さあ、なりたい自分になれる魔法の年の幕開けです。今年もみやざきにお付き合いください。よろしくお願いいたします。

[お役割]

シリーズ初めての観客も楽しめる 『Rogue One: A Star Wars Story』

『Rogue One: A Star Wars Story』

©Walt Disney Studios Motion Pictures

『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフ作品で、タイムラインは『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の寸前。宇宙は帝国軍の闇に包まれ、反乱軍が反撃を狙っていた頃、拠点デススターの設計図を奪うために数人のローグ(ごろつき)が帝国軍に挑む。

スカイウォーカーもハンソロも登場する以前で、中心人物はデススターを設計したゲイレン・アーソ(マッツ・ミケルセン)の娘ジン(フェリシティ・ジョーンズ)と、彼女を助ける4人の男たち(ディエゴ・ルナ、ドニー・イェン、チアン・ウェン、リズ・アーメッドイ)と辛口のドロイドK-2SOで、ジェダイは登場しない。つまりはヒューマン・パワーで、この困難な戦いに挑んだ者たちの物語である。

ジェダイの登場しない作品は本作が初めてだが、『新たなる希望』に出ていた人物や戦闘機も当時のままで登場というファンサービスは徹底している。監督は14年の『Godzilla』をヒットさせたギャレス・エドワーズ。

驚いたのは帝国軍の将軍を演じた故リチャード・カニングハムが出ていたこと。彼に似た俳優を使い、その後CGで処理したようだ。高齢の俳優のシワを消して若い頃の顔を作り出すCG処理は何度も見ていたが、今や死んだ俳優も生き返らせることができるようになった。これについては倫理的疑問が投げかけられている。

特筆したいのは、主人公がシリーズ初の女性であることと、脇の俳優たちの国際性と多彩さ。デンマーク人のミケルセンに始まり、メキシコ人のルナ、パキスタン系英国人のアーメッドイ、イェンとウェンは中国人で、ゲリラ戦士にフォレスト・ウィテカーなど、人種的多様性を重視したキャスティングになっていた。スピンオフだからこそ出来た配役で、白人ばかりの77年『新たなる希望』と比べると隔世の感がある。ファンサービスに徹しているが、スピンオフなのでシリーズ全部をフォローしていない観客も楽しめる内容で、それが功を奏してか16年の興行成績第2位を記録、『スター・ウォーズ』強しを証明した。ちなみに15年に公開された『スター・ウォーズ /フォースの覚醒』は全世界で2兆ドルを稼ぎ出している。

これら全てを配給したのはディズニー。今やピクサーやルーカスフィルム、マーベルコミックを傘下に収め、16年に大ヒットした作品の大半を配給した。ディズニー、映画界の帝国軍という趣ではないだろうか。

上映時間:2時間13分 
シアトルはシネコン等でスタンダード、3D両バージョンで上映中。

[新作ムービー]

愛猫フジの九生

17 年半前、シアトルの旧友スティーブとコロンビア川沿いをドライブしていた時に、ふとペットショップに立ち寄った。10匹ほどの子猫がいるオリに近づくと、シマ模様の一匹が私に駆け寄ってくる。数年前に愛猫が他界して以来、もう猫は飼わないと心に決めていた私だが、スティーブが「こんな子を捨ててはおけない」と言い張るものだから、つい決心が揺らいでしまった。おでこに富士山のように白く尖った模様があることから「フジ」と名付け、段ボールの箱に入れて連れ帰った。

それから2年後、フジは3週間ものあいだ行方不明になった。ほうぼう探しても見つからず諦めかけていた頃、ハウスメイトが向かいの家のおばあさんと車庫の前で立ち話をしていたら「ミャー、ミャー」と鳴き声がする。ガレージを開けるとドアの上からフジが飛び出した。帰還したフジは少し痩せていたが、元気に水をがぶがぶ飲んだ。
おそらくガレージの天井の棚に乗ったものの降りることができなくなったのだろうと皆で推測。この隣人はめったに車に乗らないので、ガレージを開けることは稀だったらしい。でも飲まず食わずで一体どうやって3週間も生きられたのか。

6年前には、シアトルで勤務しつつ、退職後移住するために3年半かけてやっと取ったカナダ永住権を維持するため、BC州のホワイトロックに毎週末通い始めた。それから3年以上もの間、ペットキャリーに入って片道3時間の車の旅を文句も言わずについて来てくれたフジ。生まれつき心雑音を持っていたにも拘らず、病気もせずに良き伴侶でいてくれた。

ところが半年ほど前、急にフジのおしっこの量が増えた。診断に行っても目立った病気は発見されず、苦しむ様子も見せないまま数カ月が経った。やがて砂箱以外でおしっこをしだし、尿道炎と膀胱炎にかかっていたことが分かった。2度にわたる抗生物質投与の甲斐もなく、徐々に弱っていくフジ。苦しむ前に安楽死させようとずっと前から決めていたが、いざとなると気が引ける。さんざん迷った挙句、ついに獣医に電話をかけた。少しでも安らかな最期を迎えられるように、獣医に家まで来てもらう。注射を受ける時はフジを抱きしめていたかったが、医師からフジの身体を抑えているようにと指示されてしまった。フジは静かに眠りについた。

火葬場にて、ジェームズが段ボールを白い和紙でおおって作ってくれた棺の中で、冷たく横たわるフジと再会。美しい毛並は生前のままなのに悲しそうに眼を閉じている。別れを告げて自分でオーブンに入れた。スティーブの提案で、フジの灰はすぐ近くの公園の「藤」の苗木の根元に撒くことにした。この藤の木は我がコンドの真下にある。スティーブが近々バンクーバーを訪れた折に一緒に行こうと言ってくれた。

[カナダで再出発]

島を救う果敢な少女の物語 『Moana』

『Moana』
(邦題『モアナと伝説の海』)

©Walt Disney Studios Motion Pictures

ポリネシアを舞台にした大ヒット中のディズニー・アニメだ。主人公は海と深い関わりを持つ村のチーフの娘モアナ(アウリイ・クラヴァーリョ)。大きな瞳に褐色の肌、ふっくらとした体型が愛らしい少女だ。ある時、彼女の島の植物が枯れ、魚が消えるという生存の危機が迫ってくる。祖母(レイチェル・ハウス)から島民の歴史を聞かされたモアナは、島を救うため一人で航海へ。島の呪いを解く力を持つ半神マウイ(ドウェイン・ジョンソン)を見つけ出し、彼と共に危険な冒険の旅を始める。

吸い込まれそうな青い南太平洋の海を背景に、賢く果敢な少女と動く刺青を彫った半神が歌い、笑わせ、軽妙なアクションを見せてくれる上出来のアニメ。娯楽作品としては、文句のつけようがないが、ポリネシアの人からは、島々によって異なる伝説をゴチャ混ぜにしているという指摘も出ている。

ディズニー側は、これまでで最も現地の文化や伝統に忠実に作るべく取材し、多くの現地アドバイザーが参加して製作したと言い、確かに着衣などのディテールはよく描けていた。しかし、何人現地アドバイザーがいたとしても、作り手はディズニー。文化やジェンダーに細心の配慮をするのは、当たれば莫大な利益になるアニメ商品を作っていたからだろう。

本作が『風の谷のナウシカ』の物語とよく似ていると思ったら、監督の一人のジョン・マスカーは、ジブリのヒロインに強く影響を受けたと言っていた。だが、ナウシカとモアナは、似て非なる主人公だ。モアナの決して凹まない快活さには、果敢な少女の最大公約数的イメージが凝縮されている。つまり、誰がみても好感度抜群なのだ。それに比べてナウシカにはどこか悲痛な懸命さがあり、個性があった。それは宮崎駿という作家の想像力の中で醸成された少女の像であり、アドバイザーなどとは無縁に造形されものだ。本作は見ていて実に楽しいし、ホリディシーズンを彩る娯楽作品をクサすつもりもないが、感動という体験から遠いのは、こうした作られ方の違いがあるからなのかもしれない。

ポリネシアの少女と言えば、2002年のニュージランド映画『クジラの島の少女』がある。感動とはこういう映画を見て体験するものではないだろうか。

上映時間:1時間43分。シアトルはシネコン等でスタンダード、3D両バージョンで上映中。

[新作ムービー]

愛のための闘い 『Loving』

『Loving』

©Focus Features

1958年のバージニア州。アフリカ系のミルドレッド(ルース・ネッガ)と白人のリチャード(ジョエル・エドガートン)が恋に落ちた。だが、二人が暮らす州では異人種間の結婚は禁止。彼らはワシントンDCで結婚後、バージニア州内で新生活を始め、ミルドレッドは妊娠した。そんなある晩、警官が夫婦の寝室に現れ、二人を逮捕した。異人種間結婚の罪を犯したからだ。刑務所行きを逃れるため、二人は罪を認め、25年間の州外退去を受け入れることに。

本作は、この夫婦が1967年に最高裁で同法の違憲を勝ち取るまでを描いた実話である。だが、9年間にわたる公判の経緯をたどる法廷ドラマなどではなく、長く厳しい道のりを耐え抜いた夫婦のドラマとして描かれている。タイトルのLovingは夫婦の姓であり、本作のテーマだ。

脚本・監督は『MUD マッド』で注目を浴びたジェフ・ニコルズ。今春公開された秀作『ミッドナイト・スペシャル』では切ない親の愛を描いたニコルズが、本作では夫婦の愛をじっくりと描き出し、前作に引けをとらない優れた作品を生み出した。彼の作品群の中では拍子抜けするほど静かな物語で、南部の人種差別を描いた映画作品だが、銃撃や焼き討ちなどの暴力も一切描かれない。脚本を書くにあたって2012年の同夫妻を描いたドキュメンタリー映画『The Loving Story』を参考にし、法廷論争などの派手さを退け、できる限り夫妻の実像と日常に忠実な内容を心がけたという。

ひんぱんに描かれる3人の子どもたちの姿。小首を傾げて静かに語るミルドレッドと黙々と建築現場で働き続ける無骨なリチャード。主演二人の好演もあり、彼らの平凡な日常描写を通して、二人が守ろうとしたものがしっかりと伝わる。

離婚を勧める友人に「自分は絶対に離婚しない」と言い切るリチャード。逮捕時は恐れおののくだけだったミルドレッドは、年を経るごとに芯の強さを持ち始め、ついにケネディ司法長官に手紙を書いて、違憲裁判のきっかけを作っていくのだ。後年、歴史的な判決を勝ち取った彼女は「わたしたちは、法律を変えるために闘ったのではなく、愛のために闘っただけ」と発言している。歴史を変えてきたのはこういう人たちなのかと、目の覚める思い。大統領選後のショックから少しだけ抜け出せた気がした。

上映時間:2時間3分。シアトルはLandmark系のTheatre で上映中。

[新作ムービー]

心の隙間

こんにちは、みやざきみわです。
日本は冬が訪れました。伊勢には星の光を遮る程の明るい建物もありませんので、こぼれんばかりの星につい手を差し出してしまいます。伊勢に来る機会がありましたらぜひ、冬の夜空を見上げてみてください。

さて、「相手を知り理解する事が大切」とお話ししている十三導ですが、「お人好しを目指せ!」とか「相手を理解して我慢しろ!」といってるわけではありません(笑)。他人からの影響で苦しんでいる方のご相談はかなり多いです。影響を受ける=人に寄り添いやすい、という意味で、そういう方が心を痛めているのはおかしな話です。そんな方に少しでも楽になってもらえたらと、今日は「隙間」のお話をしたいと思います。

「人から良く思われたいだけじゃないの?」なんて言われて傷ついた事ありませんか? 八方美人とか勝手なネーミングをもらいますよね。でもそうではありません。仲違いがとても苦痛という資質を持った人はいるのです。人にとやかく言われても、生まれ持った資質なのだからと、お気楽に考えましょう! それに、この世に必要ない人なんていなくて、色んな人が存在してくれなきゃ困るのです。
人はちょっとモチべーションダウンすると心に隙間が出来ます。そこに他人の負のエネルギーが勢いよく入ってきて、さらにダウンします。それを回避するには地面の亀裂(隙間)をイメージして、「そこには絶対に入れないぞ!」とイメージシミュレーションするのも効果があります。
人の意見を聞くのはとても大切ですが、時にはぶれない自分を取り戻す事も大切です。もしあなたが新しい事にトライした時には、色んな人のアドバイスが入ってくるでしょう。気持ちがアップするアドバイスならナイスですが、「失敗しないか?」と不安を煽る意見も出てくるでしょう。そうすると「これでよいのかな?」となります。この「ひるみ」も隙間です。そうすると不安が隙間から一挙に入ってきてしまいます。本末転倒な考えが脳裏を暴走して、「そもそも自分は何をしたかったのか?」までぶれそうになります。そういう時は「そもそも私はどうしたかったのか?」 と自問して自分を取り戻しましょう。
これも例えなのですが、私のAmazon販売サイトに本の評価を書く場所がありまして、娘の誹謗中傷が書かれた事がありました。本の評価と娘は関係ないので、私にしては思い切った行動に出ました。中には私が行動すると再投稿や、ネット上で炎上するかもしれないと心配してくれた人もいましたが、これも一種の「ひるむな!」の合図だと私は思っています。見えない相手に怯えるのは、自分の為にも家族の為にもならないと思ったからです。目をそむけて良い事といけない事を見極める強さも隙間を作らない方法です。

人に翻弄されるのは心に隙間が出来た時です。隙間を作らない事。そしてひるまない事。そもそも論を思い出す事。これだけでもきっと楽になれますよ。
今現在ダウンしているあなたにメッセージでした。

[お役割]

東海岸ダンス・クルーズ

今や我がシニア・ライフの良きサイドキックとなったジェームズは社交ダンス歴10年。以前のクルーズでコンテストに優勝したこともあってまた行きたいと言っていた。ミチコさんのすすめで2年前から習っている筆者もその気になり、エクスペディア代理店を経営するダンサー仲間のジョンに相談。それならと、彼自身が最近乗った、ダンス・フロアがうんと広いキナード社の「クイーン・マリー2」をすすめられ、東海岸に飛んでニューヨークからケベック・シティーまで1週間のダンス・クルーズに行くことになった。
元英国籍の「クイーン・マリー2」。乗船客の半数弱になる900数名が英国サウスハンプトンで乗り込んできた。大西洋を渡ってきた英国住民で、その英語も出身地によってアクセントが違い、理解しにくい。そんなこともあって、40人以上同船した日本人とロビーで会うと自然と話しかけたくなる。「三重県から来た田舎者です」と上品な婦人が謙遜するのが清々しく思えた。
伝統スタイルを維持するこの歴史的クルーズ船では夕食時に夜会服等の着用が義務付けられている。筆者は最初、休暇中にかしこまった服装をするのは結婚式や葬式に行くようでいやだったが、これからも時折いるだろうと思い、ハドソンズ・ベー・カンパニーで黒のスーツを新調。クルーズが始まって、蝶ネクタイをつけて、まるでアカデミー賞発表会にでも出席した気分で毎夜夕食会場に入ると、まんざら悪い気はしない。正装すれば不思議とお互いマナーや言葉遣いなども上品、丁寧になってしまう。たまにはこういうのもいいか。
社交ダンスは毎夜、夕食とショーが終わった9時前後から歌手付きの生演奏で始まる。フロアは踊り慣れたダンサーが多く、自信のないダンサーは出遅れる。単身客には、船会社と契約したダンス・ホストのボランティア男性5人が、女性の相手をするようになっている。ジェームズが「これなら自分にぴったり」と、ホスト役のボランティア職に興味を示し、迫る退職後はダンス・ホストをして世界中を無料クルーズしたいと言う。

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我々は幸いにも、それぞれのレベルにあった踊り相手をトロントからやってきたフレンドリーな中国系グループに見つけた。彼らとは日中もプールサイドでピンポンを楽しむなどして遊び相手に事欠かない。やはりアジア人とは気が合うようだ。クルーズが終わりに近づくとタレント・ショーが開催され、ジェームズとトロントから来たイライザでルンバを披露することとなった。僅か15分のリハーサルにもかかわらず、自分もいつかはこうなりたいと思わせるような見事な踊りを見せてくれた。

[カナダで再出発]

幽体離脱するスーパーヒーロー 『Doctor Strange』

『Doctor Strange』
(邦題『ドクター・ストレンジ』)

Walt Disney Studios Motion Pictures
Walt Disney Studios Motion Pictures

『アヴェンジャーズ』などを生み出したマーベル・コミックのスーパーヒーローの一人がドクター・ストレンジだ。このラインの映画化は増え続け、今やハリウッド映画はスーパーヒーローものオンパレード。興行的にも大成功が続いている。本作もその流れの一つだが、この主人公は異色で、目を見張る特撮映像と適度なユーモアと共にかなり楽しめる作りになっていた。
天才的な脳神経外科医スティーブン・ストレンジ (ベネディクト・カンバーバッチ)が交通事故に遭い、手が自由に使えなくなった。絶望のどん底で、チベットに奇跡的な治療法があることを知り、カトマンドゥへ向かう。そこで本物の魔術を使うエンシェント・ワン(ティルダ・スウィントン)と出会い、厳しい修行の末にストレンジは3次元世界の常識を超える超常能力を身につけていく。
医師として論理的世界しか信じなかった主人公に、手が動かない理由はマインドにあると諭すエンシェント・ワン。彼女に「目を開け」と言われ、胸をひと突きされると、彼の肉体から幽体が飛び出す。幽体離脱を通して驚異的な異次元世界を体験した彼は、兄弟子バロン・モルド(キウェテル・イジョフォー)に導かれ、傲慢だった自分のあり方を振り返っていく。
『マトリックス』を彷彿とさせる意識覚醒の物語が前半で描かれ、後半はエンシェント・ワンの高弟で奥義を書いた文書を盗んだカエシリウス(マッツ・ミケル)らが使う3次元を歪める魔術との対決へと展開していく。
この映像が素晴らしかった。『インセプション』で初登場したパリの街が上下へと動き出す特撮技術がさらに進化した形で、ニューヨークの摩天楼が上下左右に動き出してエッシャーの絵画のような世界が生まれ、その中を魔術師らが縦横無尽に動き回るのだ。ワクワクする映画体験であった。
監督はホラー映画を多く手がけてきたスコット・デリクソン、製作者のケヴィン・ファイギは『マトリックス』のファン自称。意識の覚醒に関心のある人は楽しめるかもしれない。
カンバーバッチを始めメインに欧州の実力派俳優を配して、作品を引き締めていたように思うが、チベットの魔術師役に白人女性を配したのはいかがなものか。とはいえ、平然と人種差別を口にするドナルド・トランプが大統領になる米国の一面の本音を知れば、何をか言わんやである。

上映時間:2時間31分。シアトルはシネコン等で2D、3D両バージョンで上映中。

[新作ムービー]

Omega Ouzeri〜食べ歩き「あまから会」のおすすめレストラン

今、シアトルで一番おいしいギリシア料理店と評判の、キャピトルヒルのオメガウズリ(Omega Ouzeri)に出かけました。

今回は年2回行われるシアトルレストランウィークの3コース($32)を利用。ほとんどの料理は通常メニューでオーダーできます。どれも満足のいくおいしさでしたが、特に地中海料理らしいものを選んでご紹介します。値段はレギュラーメニューのものです。

グリーク サラダ(Horiatiki $11)
グリーク サラダ(Horiatiki $11)

スターターにあった、ハーブレモン入りヨーグルトソースをつけていただくスクワッシュとリークのフリッター(Kolokithokeftedes $10)、大きなフェタチーズの乗ったグリークサラダ(Horiatiki $11)は、皆でシェアしながら楽しめるアペタアイザーです。

オクタポーディ(Octapodi $19)
オクタポーディ(Octapodi $19)

オクタポーディ(Octapodi $19)はグリルしたタコの足一本にヒヨコマメとカラッと揚げたシャロットを添えたもの。日本人にはオーダーしていただきたいお料理です。タコはとても柔らかく、酢の効いたソースがかかっています。この店はオープンキッチンで、お客様に見えるように食材がディスプレイされています。アイスの上に乗った新鮮なタコの大きさにびっくり。

グリルしたラム肉のミートボール(Keftedakia $15)
グリルしたラム肉のミートボール(Keftedakia $15)

グリルしたラム肉のミートボール(Keftedakia $15)は、シシカバブのような食感で、さっぱりしたギリシャヨーグルトソースとミートボールがマッチ。ラム好きの人におすすめです。
このキャンペーンだけのコースのようでしたが、グリルした大きなエビ、子イカ、サフラン、ハーブ、それにケファロティリ(kefalotyri)というギリシャの黄色いチーズが入ったシーフードリゾット(Kritharoto Me Garides)は、ぜひレギュラーメニューに加えて欲しい絶賛の一品でした。

デザートのチョコレートバクラバ(Chocolate Baklava $9)は、ギリシャの代表的なデザートにチョコレートが入ったもの。
またグリークハニーとシナモンのギリシャの代表的なドーナツ(Loukamades $9)は、地味ながらも皆が喜んでいただいたデザートでした。

Omega Ouzeri
1529 14th Ave., Seattle ☎︎206-257-4515
営業時間:月~土5pm~10pm、日5pm~9pm
ハッピーアワー:5pm~6pm、9pm~10pm
www.omegaouzeri.com

[あまから会]

空を飛ばないスーパーヒーロー 『The Accountant』

『The Accountant』
(邦題『ザ・コンサルタント』)

©Warner Bros. Pictures
©Warner Bros. Pictures

自閉症児が成長し、数学に天才的才能を持つ公認会計士になった。表向きは地味で平凡な町の会計士だが、本職は犯罪組織のフリーランス会計士として莫大な報酬を得、しかも凄腕のスナイパー、殺しのエキスパートでもあった。
ベン・アフレックが主人公の会計士クリスチャン・ウルフに扮したアクション・サスペンス作品だ。他者とのコミュニケーションに障害を持つ男が犯罪組織の会計士という設定がユニークで、彼がどのように危険な犯罪者らと仕事をするのか、想像しただけでも充分興味深い物語が書けたように思うが、殺しのエキスパートという側面も加えたために、かえって面白味に欠けてしまったように思う。
導入部で描かれる自閉症児だったウルフの辛い子ども時代。母の家出や軍人だった厳しい父に格闘技を仕込まれた過去を経て、細部へのこだわりの強い日常を送るウルフの孤独な日々と、そんな彼と犯罪組織との関係を追う財務省犯罪捜査部のキング(J・K・シモンズ)らの動き。同時にウルフはロボット工学企業の会計改ざん調査を請け負い、経理担当のダナ(アナ・ケンドリック)に親しみを感じていくが、真相究明が近づくと調査打ち切り。ウルフとダナに危険が迫り、暗殺組織との銃撃アクションが繰り広げられ……。ハードボイルドかと思うとコミカルだったり、ロマンチックだったり、凸凹したトーンに鑑賞疲れを感じた。

見終わってみるとコミック・アクションのジャンルの作品と合点がいった。大富豪のバットマン、数学の天才アカウンタント、空を飛ばないだけで盛りだくさんなフォーマットは同じ、だからバットマンを演じたアフレックが主演したのかと妙に納得してしまった。
オリジナル脚本は『ジャッジ 裁かれる判事』のビル・ダビューク。監督はギャヴィン・オコナー、秀作『ウォーリアー』や『プライド&グローリー』など兄弟の確執を描いた作品を2作監督している。本作にも主人公の弟が登場するが、盛りだくさんな要素の一つという物足りなさがあった。
謎を残すエンディングは次回作を予想させるが、もし作るのなら、ぜひ数字の天才と犯罪組織とのミスマッチなやり取りを描いて欲しい。

上映時間:2時間8分。シアトルはシネコン等で上映中。

[新作ムービー]

心が動くことには『人ありき』

こんにちは、みやざきみわです。
このコラムを書き始めて半年以上になります。先日、初めてファンレターなるメールを頂きました。コラムもですが、講演会などでもとかく一方通行になりがちです。ですから、メールとはいえ人と人の言葉がその間を行き来すると心が温かくなりますよね。いつも読んでくださっている方の顔が見える気がします。ありがとうございます。
今日は、いつもお伝えしている「心が動くことには『人ありき』」についてお話しをしたいと思います。ちょっと経営バージョンです。

先日、経営者の方々ばかりの講演会にお呼ばれしまして「部下の能力の引き出し方」というお題をお願いされました。そこで質問をしました。「あなたの大事な部下がプレゼンから帰ってきました。あなたならどう声をかけますか?」という内容です。答えは二択で、「①結果を聞く」「②緊張したかどうかを聞く」としました。①の答えは結果にフォーカスしたか、②の答えは人にフォーカスしたかという、上司と部下の関係のありかたを現しているのです。これからは人の心にフォーカスする時代です。

ある企業でとても頭のよい青年がいまして、面談で「10年先の会社の将来を考えてるからこそ僕は部下にあえて厳しくしているのです!」と話された時に、確かに強い志は素晴らしいけれど、何かが違うと思いました。立派な仕事やマニュアルが出来たとして、それを実践するのもすべて人なので、心通わなければ何にもならないと思うのです。
若者を育てる過程の中で、それはただの甘やかしだとか、面倒だ、という声もあがってきます。
その時に私は講演でどう答えるかというと、次のような話をします。日本で誰もが知っているポッキーと言うチョコ菓子があります。そのチョコの売り上げをさらったのがiPhoneなのです。ポッキーは昔の女子のコミュニケーションツールだったわけです。分けっこしてコミュニケーションしていたわけです。そこで「じゃみなさんはiPhoneを使いこなせますか?」と聞きます。私は使いこなせません! だったら誰に聞くのが早いか? 私なら子どもに頼ります。
若者という人財は企業にとっても新しい歴史への発想をもつ宝物なのです。要するに「消費者のニーズに応えていくには自社の若者を大切にしましょう!」というオチなわけです。その大切な「財」の宝物を育てるとことは国にとっても社会にとっても大切なことなのです。
コミュニケーションの形がiPhoneというデジタルに変化しようと、それを使いこなすのは人なのです。人がついてくる人財に自分もならなければ会社は発展しません。「人ありき」。人の心しか人は動かせません。
若者に例えましたが、どんな人もこの世界に不必要な人はいなくて、それは一つのパズルが出来上がるようなものなんだと思います。

読者からの質問を受付けます。

みやざきみわさんに相談したいことを書いてEメールで、件名欄に「お役割り相談」と書いて、下記のメールアドレスにお送りください。紙上でお答えします。内容は問いませんが、編集しますのであらかじめご了承ください。匿名にしますが、質問を送られた時点で紙面掲載を了解されたものとします。
oyakuwari@gmail.com

[お役割]

TVジャパン

退職してバンクーバーに移ってから初めて「TVジャパン」を購入した。それまで日本のドラマは、役者の演技がわざとらしい、ニュースは話し口調も内容も固くてつまらない、と決めつけていたのだが、耳が遠くなり、はっきり発音されない近頃の英語ドラマや映画のセリフが早口で聞き取れないこともあり、日本語番組を試してみることにしたのだ。

最初に目に入ったのは昔日本で見ていた『笑点』。このロングラン番組はマンネリともとれるが、同じことの繰り返しはペットの犬猫も好むように、結構快適。私も同じ事務所に40年近くも飽きずに通ったのは動物だからであろう。笑いは健康にいいと聞いているので、昼食時や就寝前に見て、ひとりでゲラゲラ笑う。小話はあらかじめ準備してあるのだろうが、即興と思われる言い回しや頓智がたまらなく面白いし、出演者の小気味よい関東弁は関西便のお笑い番組と違って「どぎつさ」がないので耳に心地よく、さらに、英語番組と違って話の背景がよくわかるので記憶の奥の方から笑いが込みあがってくるのがたまらない。

次に、子どもの頃『小年探偵団』を見て不思議な魅力を感じたことを覚えているせいか、刑事ものの『相棒』も気に入った。主人公の元歌手、水谷豊が立派な紳士となって英国風の紅茶椀セットを器用に使って気取って飲んだり、話し方が普通の刑事ものと違って上品かつ丁寧だったりと、今風の工夫が凝らされている。
最近では、不良高校生がブラスバンド部に入って更生して行く様子を描いた『仰げば尊し』も面白かった。かつて大ヒット曲を歌った寺尾聡がシニアになって好演。決まり文句がしつこく続いて陳腐ではあるが、泣かされてしまった。かつては若かった見慣れたスターが今は白髪、しわしわの顔で活躍してくれているのは励みになる。

一方、時代劇は、日本伝統の男女・上下関係が個性を無視して厳しく定められているのが嫌なので見ない。しかもこの人間関係は現代ドラマにもしばしば反映されていて、日本社会がいまだに女性の地位や役割を決めつけていることや、人は皆いつか結婚することが理想と思われていることなど、生涯独身でリベラルなわが身にはしっくりとこない。
そういうこともあってか、女性が活躍するドラマは痛快だ。昨シーズンワクワクしながら見た連続ドラマの一つは、顔の表情は変えないまま目つきだけで強さ、優しさ、うれしさ等を演じてしまう女優が主人公の『家売るオンナ』。知らないうちに売買物件を調べ尽くして難儀な物件でも成功裏に売ってしまう。その背景に、買い手のいろんな家庭事情が反映されていて、彼女から家を買うことで皆幸せになってしまうという「慈善」行為が仕組まれていることで、視聴者は晴々とした気分になる。もう一つの『営業部長・吉良奈津子』は、強い女性が世に出ることを嫌がる男たちの策略にかかりそうになる主人公に視聴者はハラハラさせられるが、最後には今の日本社会を逆手にとって成功してしまう。

人は年齢を重ねると母国語に頼るようになると言う。私は23歳まで日本に住んだ後、英語の生活が45年になるが、いまだに若い時に身に付けた日本文化、社会の背景が英語圏のそれよりよく理解できるのはなぜだろう。

[カナダで再出発]

江戸を生きた若い女絵師 『Miss Hokusai』

『Miss Hokusai』
(邦題『百日紅~ Miss HOKUSAI ~』)

©GKIDS
©GKIDS

天才絵師、葛飾北斎をして「余の美人画は、お栄に及ばざるなり、お栄は巧妙に描きて、よく画法にかなえり」と言わしめた彼の三女お栄。絵師として父の代筆をしていた23歳の頃のお栄(杏)が、父(松重豊)と居候善次郎(濱田岳)と暮らす日々を背景に、葛飾一門の自由な気風に憧れる新進絵師、歌川門下の国直(高良健吾)が登場したり、不可思議な幽霊話や色街での一夜などのエピソードを散りばめた江戸情緒豊かな大人向けアニメ作品だ。
太い眉に、自分を俺と呼ぶぶっきらぼうな性格、およそ「娘らしく」ないお栄の、偉大なる絵師である破天荒な父とのデリケートな関係、目の不自由な妹への優しい思いやりなどを丁寧に描きつつ、江戸という時代をキリリと生きた一人の若い女性像が見事に描き出され秀逸だった。
原作は1983年から4年間連載された杉浦日向子の名作漫画『百日紅』で、監督は原恵一。『クレヨンしんちゃん』『河童のクゥと夏休み』などをヒットさせてきた人で、『百日紅』は連載当時から魅了されており、映画化は念願だったようだ。アニメ制作は日本のTVアニメなどを数多く作ってきているProduction I.G、脚本はベテラン丸尾みほだ。
本作を通して、お栄にダブルように見えてきたのが、生みの親である杉浦日向子の存在感。時代考証を専門的に学び、浮世絵からイメージした漫画作品で注目を浴び、漫画以外にもエッセイ、小説など多くの著作を残している江戸文化のエキスパート。江戸時代、女たちはどんな風に着物を着ていたのかを正確に再現した描写など多くの功績がある。05年に46歳で逝ったことが惜しまれてならない。
またこの機会に、父北斎の死後、葛飾応為として画業を続けたお栄の作品にもに触れてみてはどうだろうか。父の言う通り美人画に生き生きとした画才を発揮し、夜の景観『夜桜美人図』『吉原夜景図』など浮世絵としては珍しい光を取り入れた幽玄な傑作がある。
才能豊かな女性作家が再現した女絵師の物語、ジブリ以外にも優れた日本アニメがあることを再確認させてくれた。

上映時間:1時間33分、英語字幕付き。
シアトルはSIFF Cinema Uptownで28日から11月3日まで上映予定。

[新作ムービー]

STATESIDE〜食べ歩き「あまから会」のおすすめレストラン

キャピトルヒルの話題のベトナムレストランです。大きな店ではないので今回はメンバー10名で出かけました。オーナーシェフ、エリック・ジョンソンさんは、アメリカ人ながら、パリ、上海、香港で修行されたという経歴の持ち主。
メニューは幾つかをオーダーしてシェアするのがいいと思います。私たちも10 種類ほどオーダーしましたが、どれもおいしく合格点!
いくつかご紹介すると、一番人気は、キャラメルフィッシュソースにマリネされた豚肉と春巻きハーブ入りバーミセリのバンチャハノイ(Bun Cha Hanoi $19)。クリスピーダックフレンチロール(Crispy Duck Fresh Roll $9)は、ダック料理にありがちな甘みを、ほどよく控えた味付けで、中は温かく食感も申し分なし。

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上:Bun Cha Hanoi $19 下:Crispy Duck Fresh Roll $9

マニラクラムは、一見するとボンゴレスパゲッティーのようですが、ワインではなく紹興酒のアサリ蒸しは新鮮で大きく、そして味わい深く、魚介類好きに大人気。

Penn Cove Manila Clams $12
Penn Cove Manila Clams $12

グリル・トリチップ・ステーキ(Grilled Tri Tip Steak $25)。見た目も味もアジアとステーキのステキな融合。ショウガとキノコのソースが肉の旨味を引き出して、ご飯にも合いそうなメニューでした。

Grilled Tri Tip Steak $25
Grilled Tri Tip Steak $25

デザートのバニラダックエッグ・カスタードは、上に乗っているフランス風ウエハースと、下のカスタードがとてもよくマッチ。

vanilla-duck-egg-custards-min
Vanilla Duck Egg Custard $8

また、サイドディッシュのジンジャーライス(Ginger rice $4)はハマりそうだという声もありました。
週末ブランチも好評なので、次回ぜひ挑戦してみたいと思っています。

STATESIDE
300 E. Pike St., Seattle ☎︎206-557-7273
営業時間 ディナー: 毎日 5pm~10:30pm
     ブランチ:土・日 10am~2pm
www.statesideseattle.com

[あまから会]

頑固で不機嫌な孤老のコメディ 『A Man Called Ove』

『A Man Called Ove』
(邦題『幸せなひとりぼっち』)

©Music Box Films
©Music Box Films

最愛の妻に先立たれ失意のどん底にいる頑固な老人を主人公に、信じられないような傑作コメディが生まれた。スウェーデンで大ベストセラーになったフレドリック・バックマンの同名小説の映画化である。
公共住宅に何十年も住む59歳のオーヴェ(ロルフ・ラスゴード)が主人公。彼は自ら課した住宅地内の安全整備を点検する仕事を毎日欠かさず、異変があれば住民に注意する、という迷惑な頑固オヤジ。45年勤めた会社をクビになったばかりで、半年前に逝った妻の墓参りでは、後を追う約束をしていた。
いよいよ実行の時、窓から異変が見えた。
隣りに越してきた若い夫婦が無茶な駐車をしているのだ。思わず下手な駐車を注意しつつ、彼らを助けるはめに。以来、この賑やかな一家と親切でお節介な若い妻がをオーヴェの生活を乱し始める。
必ず中断されてしまうオーヴェの自殺とそのたびに回想される彼の過去。滅多に笑うことがなかった優しい父、やや偏屈だった彼を丸ごと愛してくれた妻との出会い、その後の幸福な暮らしとある事件。彼の回想と日常に持ち込まれるトラブルを通して、彼の心の変化が描かれていく。
「スウェーデン人なら車はサーブ」というオーヴェと、ボルボにしか乗らない親友である隣人との意地の張り合いなど、頑固オヤジらしいエピソードもたっぷり。人生に起きる悲劇と喜劇を絶妙に前後させながら、雲がすこしづつ晴れ山の全体像が見えていくように、オーヴェの人生が見えていく優れた演出で、2時間足らずで一人の男の生涯を垣間見た気にさせられた。監督・脚本を担当したハンネス・ホルムは、大ヒット小説の映画化にやや気おされたと謙虚なコメントをしていたが、これぞ映画演出のお手本と言える。
オーヴェは地域の安全監視を一人でやっていた訳で、かつてはどんな町内にも一人くらいそういう人がいたのかもしれない。原作のヒットの影には孤老を生かす地域コミュニティへの渇望のようなものある気がした。だが現実はカメラが私たちの暮らしを監視し、孤老を生かす道は荒れたまま。本作を見て泣いたり笑ったりしながら、「見果てぬ夢」という思いがよぎったことも確かだった。

上映時間:1時間56分。シアトルは25日よりLandmark’ s Guild 45th Theatreで上映中。

[新作ムービー]

頑張り過ぎない

こんにちは、みやざきみわです。
昨日シアトルに到着して、トム・ハンクスとメグ・ライアンが映画で使ったというお店でクラムチャウダーを食べてきました。シアトルという街が本当に大好きな私は、滞在1日にしてすでにいずれ帰国せねばならない事に寂しさを覚えております(笑)。
こちらに来る前にようやく日本も秋らしくなって、不思議な事に9月になるとそれ相応の風が吹きます。人もそんな風に、その時々に相応の暮らしができると良いですね。
私事ですが6月に父が他界しました。医者の宣告もあり、覚悟はしておりましたが、たとえ覚悟していたとは言え、自分の価値観を作ってくれた人であり、私の成したささいなことでも大手柄のように喜んでくれる唯一の存在がなくなるのは寂しいことではありました。しかし、そのことを通してたくさんのメッセージももらいました。
父は会社経営を50歳半ばで引退して、60歳から神主デビューをし、人のために尽す人生を最後に選んだのです。その志は尊敬はしておりましたが、病院に行きますと最後の頃にもまだ、人様の縁談や家相などの相談を気にかけているので「お父さんさ! 人のことは、今はとりあえずもういいんじゃないかな」と声をかけました。「もうそんな場合じゃないのに、いい加減にしないと」と心で思ったのです。しかし父が旅立ってしまうと、「お父さんは、どこまでいっても人が幸せになる姿や成長が好きなんだから、あんな言葉をかけないほうがよかったな」と思いました。
ところが50日祭(法事)の時に母が、父は最後に「人のことばかりしすぎた」とつぶやいた、と言ったのです。それを聞いたとき、高度成長期を支えてきた時代の人ほど頑張る傾向にあるけれど、父のように第一線を退いて穏やかな神の道を選んでも「せねばならない」という固定観念は抜けないのだなと思いました。
このたびの父のことで私が感じたことなのですが、私がお付き合いをする働く男性の方々もよくこう言われます。「仕事だからしょうがない」。このしょうがないを聞く度に悲しい気持ちに襲われます。この世からどうしたら「しょうがない」がなくなるのだろうと。
もしかしたら「しょうがない」と「せねばならない」は同じ意味あいかもしれません。「しょうがない」と口にしているだけで、実は仕事が大好きでしょうがない人もいらっしゃるでしょうけれど。
仕事というのは達成した時の喜びを大きく感じられるために途中経過に困難があるのであって、それも角度を変えるとご褒美みたいなものだと私は思ってます。そもそも仕事を通した世の中への自分のお役割が明確で、そのお役割が自分の相応であれば、「しょうがない」はなくなるかと思うんです。こう言うと「頑張るな」というように聞こえるかもしれませんが、そうではなくて、頑張るのはいいのだけど、「自分の体調に見合っているか、生活のリズムに合っているか?」
いろんな「見合っているか」を確認しつつ、相応の仕事をしてもらいたいなと願っているだけです。
分相応というのは不平等な意味合いに取られがちですが、自分に見合うという言葉です。常に自分にバランスのよい生き方を目指してもらうと良いですね。
私は父のことで新しい役割を見つけました。頑張りすぎている人って自分では気がつかないので、私が後ろから肩を叩いて「頑張り過ぎ注意」を教えてあげよう、などと思った次第です。

[お役割]

カルガリーでカウボーイ文化を見た

7月半ばアルバータ州カルガリーを訪れたら、スタンピードの真っ最中。10日間の開催期間中にカルガリーの人口100万人を超える入場者を誇る「地上最大のアウトドアショー」だ。カウボーイたちが自慢の腕を競い合う各種ロデオ・イベントの他、コンサートやパレード、農業関連コンテスト、幌馬車レース、先住民関連展示などもあって盛り上がる。
ライトレールに乗ってダウンタウンに繰り出すと通行人や店員がにわかカウボーイ・カウガールに成りすまし、車を閉め出した道路にパティオ席を設けたレストランやカフェも皆満員。路上では、ライブのカントリー・ミュージックに合わせて「カウガールズ」が踊る。

カルガリーのカウガールズ
カルガリーのカウガールズ

カウボーイは米国の専売特許と思われがちだが、カナダにもテンガロン・ハットからシルバー・スパーに至るまで、正真正銘のカウボーイ文化が存在していることを目のあたりにした。我々もカウボーイ気分にあやかろうと、アルバータ・ステーキ老舗のHy’s Stakehouse本店でひれ肉ステーキを食べ大満足。
翌朝、シアトルから遠路車で北上してきた旧友スティーブの運転で一路カナディアン・ロッキーへ向かい、モレーン・レイクを訪れた。氷河湖の背景には、かつてカナダ紙幣の絵柄にも採用された「テン・ピークス」がそびえ立ち、猛々しい。周辺には遊歩道の他、トレイルも整備されている。美しい湖水から山々が垂直に伸びるカナディアン・ロッキー独特の風景は多くあれど、それぞれが違った雰囲気を持っていて観光客の心を捉えて離さない。
そこから再び西へ。BC州のヨーホー国立公園のキッキングホース峠(標高1,627m)を通る。園内の国道にほぼ並行して通っているカナディアン・パシフィック鉄道は、BC州がカナダ連邦に所属した1871 年の約10年後に開設されたものだが、坂道が急すぎて事故が多発したこともあり1909年にルートを変更し、後に国の史跡に指定された螺旋形の特殊な長いトンネル2つが建設されている。国立公園案内所に入ると藤村知明さんという日本人スタッフが案内役を買って出てきた。この鉄道が開設されたことで、BC州が初めてカナダ中東部と結びつくことができたと言う。藤村さんは近くに住む雪崩の研究家で、峠で多発する雪崩を計画的に未然に爆発させて被害を軽減する手段を、雪崩が起こってからしか対処しない日本に紹介しようと努めておられる。達者な英語で自身の目的を話してくれる藤村さんの真剣な目は逞しく、こんなところにも日本人がいて活躍してくれていると知ってとても嬉しくなった。

[カナダで再出発]

「ヒーロー」の実像 『Sully』

『Sully』
(邦題『母よ』)

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2009年1月、USエアウェイズの旅客機がニューヨークのハドソン川に不時着した。あの奇跡的事件のその後に焦点を当てたスリリングなドラマで、監督は米国映画界の名匠の一人クリント・イーストウッドだ。
物語は不時着に成功、搭乗員を含めた155名全員の生存が確認された数時間後から始まる。国家運輸安全委員会が、機長チェズレイ “サリー” サレンバーガー(トム・ハンクス)と副機長のジェフ・スカイルズ(アーロン・エッカート)を呼び出し、空港に戻らず着水を選んだことに疑問を投げかけたのだ。コンピュータのシュミレートでは空港に無事戻れたとの結果、また機長らが主張する両エンジン停止も証明されず、サリーらは危険で無謀な選択をしたとの疑惑を追及され、窮地に追い込まれる。
サレンバーガーの著書を元に、トッド・コマーニキの脚本で再構成された「その後」から始まる物語。厳しい追及が続く査問会で、断固たる意見を主張するサリー。物語はレコーダーに残された不時着までの数分の再現を通して最高潮に達していく。
96分という短い時間で過不足なく見せてくれた事件のあらまし、その無駄のない演出は、86歳のイーストウッド監督の最良作の一つと言えるだろう。
また主演のハンクスも適役だった。ヒーロー好きの米国人にとって、事件は「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、サリーは瞬く間にヒーロー扱いされていたが、本作のサリーは違っていた。常に冷静沈着、自身の仕事に自信をもつプロで、仕事と家庭を大切にするどこにでもいる人、どこかハンクスのイメージとも繋がる。
最後に、査問会で偉業を讃えられたサリーが、自分だけでなしえた偉業ではなく、沈着に行動した搭乗員や駆け付けた船の素早い救助など、この奇跡を支えた多くの人がいたことを指摘する。それは謙遜ではなく、事実だったのだろう。
彼は著書の中で、事件がリーマンショック直後に起きて、皆人々が人間の強欲さやエゴに辟易としていた時期に、皆が力を合わせた救出劇があったことは人間への信頼を回復する機会になった、というようなことを書いている。確かにそうだった。サリーは、慧眼の人でもあったようだ。

上映時間:96分。シアトルはシネコン等でスタンダード、IMAX両バージョンで上映中。

[新作ムービー]

風化する暗い過去に立ち向う 『The People Vs. Fritz Bauer』

風化する暗い過去に立ち向う
『The People Vs. Fritz Bauer』
(邦題『アイヒマンを追え!』)

©Cohen Media Group
©Cohen Media Group

1957年のドイツ、検事長のフリッツ・バウアー(ブルクハルト・クラウスナー)の元に一通の手紙が届いた。ブエノスアイレスに元ナチス親衛隊アドルフ・アインヒマンが潜んでいるというのだ。アイヒマンはユダヤ人数百万を強制収容所へ送った男で、戦後行方をくらましていた。だが、国も法曹界もナチの過去を忘れたいというムードに覆われ、犯罪追求への意欲を失い始めていた。しかし、ユダヤ人として長年国外亡命を余儀なくされたバウアーは、追求の手を緩めなかった。
実話を元にした劇映画で、ドイツ映画賞の作品・監督賞など6つの賞を得た力作だ。物語は、戦後12年、薄れていくナチ犯罪への関心に対して、執念を燃やすバウアーが、若い検事カール(ロナルト・ツェアフェルト)と共に、イスラエルの諜報機関モサッドとも手を組み、アインヒマンを特定していく様子をサスペンスフルに描いていく。その過程で、カールを通して同性愛行為を犯罪とする当時の法律のあり方も描かれ、時代の特質が立体的に浮かび上がって興味深い。監督・脚本はテレビで長い経歴を持つラース・クラウメだ。
ドイツでは、ここ数年アイヒマン裁判(『ハンナ・アーレント』『アイヒマン・ショー』)やアウシュヴィッツ裁判(『顔のないヒットラーたち』)に題材を取った秀作映画が作られている。ドイツの暗い過去と向き合おうという作品群で、本作もその一つ。バウアーの孤独な闘いを通して、古い傷は早く忘れたいという当時の空気がよく伝わってきた。
同時に、本作を見ながら、瞬く間に風化していく福島原発事故のことを思った。嫌なことは早く忘れたい、というのが人の常なのか。しかし、福島の子どもたちに甲状腺癌が増えている。起きたことをなかったことにすることはできない。
最後に、私怨でナチを追ったのではないバウアーの信念が伝わる言葉を引用したい。「我々の過去との和解は、我々自身を、我々の社会に潜む危険な要素を、とりわけ冷酷な非人間性全てを法の審理にかけることを意味する」

上映時間:1時間41分。シアトルは2日からLandmark’s Seven Gables Theatreで上映中。

[新作ムービー]