
時間のゆとりは 心のゆとり

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1851年に出版された、米文学を代表すると言われる『白鯨』は、どのようにして書かれたのか。そして『白鯨』のモデルとなった米国捕鯨史上最悪の海
難事故はどのように起き、乗組員たちはどのような体験をしたのか。本作は、事件の全容を再現して2000年の全米図書賞を受賞した歴史家ナサニエル・フィルブリックの同名の著書(邦題『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』)の映画化である。
物語は、『白鯨』を書いたハーマン・メルヴィル(ベン・ウィショー)が、1820年に起きた事故から30年後、唯一の生存者であるトマス(ブレンダン・グリーソン)を訪ねるところか始まる。酒浸りで、事件については誰にも語ったことのなかったトマスは、メルヴィルの懇願を受けて重い口を開き、悪夢のすべてを初めから語り始める。彼の話の中心にいたのは当時14歳だったトマス(トム・ホランド)が敬愛した一等航海士のオーウェン・チェイス(クリス・ヘムズワース)だった。
経験豊かなチェイスと捕鯨未経験の船長(ベンジャミン・ウォーカー)の対立から、巨大なマッコウクジラに襲われ船が沈没。3カ月以上も漂流を余儀なくされ、船員らが死亡した仲間を食べた、という厳しい生存体験が順次描かれていく。しかし、これが問題だった。最初から最後まで省略なしに事件の顛末が描かれているために、冗漫で陰鬱な印象なのだ。原作に忠実に描いたのかもしれないが、ヤマ場に欠け、漂流する船員らを追いかける鯨の不気味さの演出も盛り上がらず、一体何を描こうとしたのか掴みかねた。
監督は『ビューティフル・マインド』でアカデミー賞受賞、『アポロ13』や『ダ・ヴィンチ・コード』など秀作、ヒット作の多いロン・ハワード。実在した事件を描くことを得意としたハリウッドのベテラン監督なので首を捻ってしまった。彼は、無残な事件を経て深く傷を負った男たちのドラマとして本作を描くつもりだったのではないか。英国の実力派俳優を配した理由、鯨があまり登場しない理由もそこにあったのだろう。だが、鯨の巨大さと力強さを表現する場面がダイナミックで、船員らをのせた小舟の下を泳ぐ鯨を捉えた俯瞰のシーンなどは見応えがあり、鯨にドラマが食われた感は否めない。怒り狂い、人を襲う鯨という設定も、多くの鯨を殺して高価な鯨油を採取した19世紀の捕鯨者らの心象の反映ではないか、という気がした。ホリデー・シーズンにはやや重く古めかしい物語ではあった。
上映時間:2時間1分。シアトルはシネコン等で上映中。[新作ムービー]
蘇ったハングリー・スピリット
『Creed』
(邦題『クリード チャンプを継ぐ男』)

ボクシング映画は、主人公のボクサーが負け犬である方が断然に面白い。厳しい訓練の末にリングに上り、勝利することで逆転できる負の歴史。負荷が大きければ大きいほど、勝利の意味も大きい。さもなければボクシングはただの殴り合い、誰も主人公の戦いぶりに手に汗を握ったりはしない。
76年の映画『ロッキー』はその典型的な作品で、3日間で脚本を書き、主演に固執した無名の俳優シルヴェスター・スタローンと作品の大ヒットが、主人公ロッキーのありえない勝利と重なって「伝説的」な映画作品になった。 あれから40年弱、終わる終わると宣言しながらなかなか終わらないシリーズのスピンオフが本作。だが実はこれが、オリジナル第1作に迫る最上の出来栄えだった。
喧嘩ばかりしていた孤児アドニスは、彼が生まれる前に死んだ実父で偉大なプロボクサー、アポロ・クリードの妻メアリー・アン・クリード(フィリシア・ラシャド)に育てられた。成長したアドニス(マイケル・B・ジョーダン) は安定した職を辞め、メアリー・アンにボクサーになると宣言して家を出る。 彼が目指したのはフィラデルフィア、父の親友ロッキー・バルボア(スタローン) の元だった。ロッキーはボクシングを引退、亡くなった妻の名をつけたレストランを経営していた。そんな彼にアドニスはトレーナーになってくれと頼むのだった。
シリーズのファンなら第1作でロッキーを鍛えたトレーナー、ミックとの関係を想起するだろう。古ぼけたジムの看板も健在、有名なロッキースッテプでの走り込みから、ペットの亀まで登場し、物語はデジャブのように展開していく。だが二度塗り感は全然なかった。
引退したボクサーが彼を救うために死んだ朋友の息子をボクサーとして育てる。ロッキーの男気を見せる設定に加え、父を知らない孤独な若者が偉大なる「クリード」の姓を名乗る重圧と闘いながら成長していく物語で、『ロッキー』の持っていたハングリー・スピリットが鮮やかに蘇っている。
原案/脚本/監督は若干29歳のライアン・クーグラーで、前作で初長編『フルートベール駅で』で注目を浴びた気鋭の新星。 加州オークランド出身の彼は、実際に起きた殺人事件、同市のフルートベール駅で警官に射殺されたアフリカ系の若者の死に至るまでの姿を、あつい同胞愛をもって描いている。 『フルート…』で殺された若者を演じたジョーダンを、本作で再び起用し、俳優としての可能性を見事に引き出した。 『ロッキー』を見て育ったという監督が、原案を書きスタローンにアプローチ。 まさか、こんなバトンタッチがあるとはスタローンも予期していなかっただろう。 今や第1作のミックと同年齢となった彼の枯れた演技が素晴らしく、40年も同じ人物を演じ続けることで見せてくれた「あるボクサーの生涯」に喝采を送りたい。
上映時間:2時間13分。シアトルはシネコン等で上映中。
[新作ムービー]
10月19日、カナダ連邦下院議員を選出するため第42回総選挙が実施され、70年代前後にカナダの再構築に大きく貢献した故ピエール・トルドー元首相の息子、ジャスティン・トルドー氏率いる自由党が与党の保守党を蹴落とし圧勝、同党首が11月4日新首相に就任した。
首相の座に付くやいなや、G20首脳会議を皮切りに国際舞台にデビューしたトルドー氏は、同27日、マルタ島で行われた英連邦首脳サミット晩餐会において、エリザベス女王の60年以上にわたる王位への祝辞と、その間12代にもわたったカナダ首相とカナダへの支援に感謝し、乾杯の辞を述べた。それを受けて同女王は、「おかげで自分が年を取ったことを実感した」と、冗談で応えて会場を笑わせた。このエピソード、そして政治への前向きなイメージを演出した若くてイケメンな新首相の就任で、久しぶりに世界の目がカナダに注がれている。私にとっては、カナダ移住後初めての総選挙を目の当たりにし、興味しんしんで成り行きを見守った。
簡単に言うと、カナダ議会は元首国王(エリザベス女王)、そして上院と下院から成っており、議会の決定においては小選挙区制の投票によって決まる下院が優位にある。この小選挙区制というのは、例えばバンクーバーの我が住所だと、いわゆるバンクーバー・ダウンタウン地域が選挙区となり、ここから議員(Member of Parliament)1人が選ばれる。
カナダの主な政党は、自由党(中道左派・自由主義)、カナダ保守党(中道右派・保守主義)、新民主党(中道左派・社会民主主義)、ブロック・ケベコワ(ケベック州の地域政党)、緑の党(環境保護政党)がある。今回の選挙で自由党は184議席を獲得、次席のカナダ保守党(議席99)を大きく引き離した。選挙期間は通常の5週間より長い11週間。カナダ人は5週間でも長いと不満を述べているが、選挙の19カ月前にすでに12人以上が立候補宣言をし、今や連日候補者の動向がメディアを賑わしている米国の大統領選に比べれば、うんとリーズナブルに思える。

12月11日、シリアから最初の難民163名がオタワに到着。空港で迎えたトルドー新首相は最初に降機した難民に冬物のコートを差し出し、「ここがあなたの国だよ。もう心配ない」と述べた。米国ではシリアの難民受け入れに多くの政治家がその規制、時には拒否を要求しているのに比し、カナダは2月末までに25,000人の難民を受け入れる案が大きな反対もなく国民にも広く受け入れられている。父トルドーがロック・スターのような人気で世界中から注目された如く、グローバルな認識を持つ新首相はその指導力とカナダの立地を利用して、これからの政治、国際関係に大きな影響を与えてくれるのではと期待している。
[カナダで再出発]
アカデミー賞外国語映画賞を受賞した2009年の同名アルゼンチン映画のリメイクで、ジュリア・ロバーツとニコール・キッドマンの初共演で注目を集めている犯罪スリラーだ。
FBI捜査官のジェス(ロバーツ)の最愛の娘が無残な遺体で発見された。ショックで呆然となるジェスに対して、犯人逮捕を約束する同僚レイ(キウェテル・イジョフォー)。彼は恋愛感情を抱くエリートの地方検事クレア(ニコール・キッドマン)と共に容疑者を特定するが、逮捕には至らなかった。そして13年後、FBIを辞めたレイが犯人を見つけたと言って、クレアとジェスの前に現れる。
主人公は執念の男レイで、彼は13年後もクレアへの感情を色あせずに持ち続けている。友への信義と恋愛という二つの強い感情に突き動かされる男の物語で、大枠ではオリジナルに近いが、本作では被害者家族でもあるジェスの物語が膨らんでいる。そのためオリジナルで貫かれていた犯罪捜査とロマンスの分けがたい緊張感と悲しみが希薄になってしまい散漫な印象。やはりハリウッドのリメイクはダメだな、と再確認した次第だ。
脚本/監督は『ニュースの天才』や『消されたヘッドライン』など政治スリラーの脚本/監督を手がけてきたビリー・レイ。ハリウッドの脚本家として第一線で書いてきた人だが、この脚本には首を捻ってしまった。犯人が釈放された理由があまりに不合理なのだ。たとえ時代設定が911直後で、テロの脅威が吹き荒れていた(現在もまた似たような状況になっているが)とは言え、ご都合主義感は否めない。現実感のある物語なのでこの小さな綻びは致命的で、衝撃的なエンディングの説得力にも影響が出ていたように思う。これはオリジナルにはなかったことだ。
とは言え見どころがないわけではない。共演場面は多くはないが、ロバーツとキッドマンが登場する場面には、互いに一歩も引けを取りたくないというライバル意識が感じられ、それが画面にしっかり映し出されている。美貌や親しみやすさで知られる二人だが、ベテラン俳優としての自負と本領を発揮する競演として見応えがあった。ちなみにキッドマンに共演の声をかけたのはロバーツ。好敵手こそが自分を高めてくれるということなのだろう。
上映時間:1時間51分。全米のシネコンで上映中。
[新作ムービー]

ベルビューのペルシア料理レストランカスピアン(Caspian )に行ってみました。
看板が目立たないこともあって場所は少し分かりにくいのですが、インテリアは豪華な雰囲気です。
ペルシア・中近東の料理の特徴は、サフラン、カルダモン、ターメリック、クローブ、シナモンなどのスパイスが使われていること。そして料理の代表はなんと言っても串刺し料理のシシカバブでしょう。同店のシシカバブは、ビーフ、ラム、チキンのひき肉、ビーフのひき肉から選べます。
この日は8人だったのでチキンのひき肉カバブ(Ground Chicken Kabob $17)、ラムシシカバブ(Lamb Shish Kabob $25)、ラムチョップ(Lamb Shishleek $26)をオーダー。肉がとても柔らかく、サイドの焼きトマトともよくマッチしてとても満足でした。

ナスのボラニ(Boorani Eggplant $8)はフライしたナスをヨーグルトとニンニク、ミントであえたディップのようなアペタイザー。抜群のおいしさでいくらでも食べられました。
今回一番好評だったのが、中近東・地中海料理でよく見られる、ブドウの葉でビーフ、ライス、パセリ等のスタッフィングを包んだドルマ(Dolma $7 写真上)。温かいアペタイザーで、添えられたヨーグルトソースにつけると上品な味。ワインなどにもぴったりのようです。
ザクロのモラセスとクルミ入りソースで煮込んだチキンのシチュー、フェセンジャン(Fesenjan $17)は、見た目は良くないのですが、食べるとなかなかのものでした。

メインの料理に頼んだのは、ビーフ、チキン、ラムの3種類の串焼コンビネーションのカスピアンスペシャル (Caspian Special $38 写真上)。シェアしたい時には一品ずつオーダーするよりお得になります。ちなみに一品ずつのお値段は、チキン(Chicken Kabobs $17)、ビーフサーロイン(Prime Sirloin Kabob/Barg $22) 、ビーフひき肉(Ground Beef Kabob/Koobideh $18)です。どの肉も上質で、スパイスも思いのほかマイルドなので、辛いのが苦手な方やお子さんでも食べることができます。
デザートに出てきたのは、サフラン、ローズウォーター、ピスタッチオ入りのペルシアン・アイスクリーム(Persian Ice Cream $6)。味については、ローズウォーターの香りに好き嫌いが分かれるのですが、異国のアイスクリームを知りたい方には、試していただきたい一品です。
ここは、本格的なペルシア料理を経験したい方におすすめの店と言えます。
毎週土曜日の夜は、ベリーダンスのライブあり(午後7時以降は13歳以上のみ)。
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●Caspian Persian Restaurant
1806 136th PL. NE, Bellevue, WA 98005
☎︎ 425-747-9500
営業時間:火~木 11:30am ~8pm、
金・土11:30am~9pm、日11:30am ~8pm
月 定休日
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[あまから会]
先月号に登場した韓国系移民のジェームズのおかげでキムチにはまっている。バンクーバーの韓国系食料品店「Hマート」やジェームズ行きつけの料理店のキムチは本格的だし、彼自身もうまいのを作る。夜食でさえお茶漬けの代わりにキムチが食べたくなり、体に悪いと思いつつもついキムチを皿に取り、冷凍しておいたご飯をチンしてしまう。でもキムチは納豆と同じく、最近、健康食として注目されている発酵食品なのだ。また、彼が育てた香りの強いエゴマの葉にニンニクや醤油、ゴマ、塩、ショウガ、トウガラシなどを詰めて重ねて炊いた「ケンニプ・チョリム」も乙な味。ビビンバに使われる赤い唐辛子味噌「コチュジャン」にも出合った。それを少しつけるだけでキュウリや白菜など生野菜がおいしく食べられる。

多趣味のジェームズだが、伝統朝鮮太鼓もそのひとつ。折しもこの夏バーナビー市で、「韓国伝統文化祭」が行われた。この時、彼が所属する太鼓グループが開会式前に演奏しながら会場を練り歩くことになり、彼の友人でカナダ人のゲリーと私が急遽、丈10フィートもあるバナーを振りかざして先導する役を引き受けたのだ。
後で知ったのだが、このイベントは8月15日の終戦日が韓国独立記念日「光復節」に指定されていることに関連して行われたのだった。日本の統治が終焉を迎えた日を記念した行事に、日本国籍の私とカナダ国籍のゲリーがバナーを振って支援したことの偶然にあっと気づいた愚かな私だが、さらに考えればこれは、一時期背を向けていた日本と韓国・カナダが今は極めて平和な関係を享受していることの証なのだ。
因みに韓国は朝鮮戦争勃発の折、カナダが南朝鮮支援のため米・英に次ぐ26,971人の兵士を派遣したことに感謝している。一方一部の地元韓国系グループでは、祭りの会場となった市営公園に慰安婦像を設置する運動を行っている事実もあり、日系グループがこれに反対している。バーナビー市議会ではこの要求を「不和が生じる可能性のある問題(potentially divisive issue)」と考え、まず当事者間で平和裏に話し合うことをすすめている。
ジェームズの出現がきっかけで、私の持つ対韓国・朝鮮のイメージは変わった。また日本が、多くの貴重な文化要素を学んだ朝鮮半島を35年間統治したことの是非についても考えさせられる機会を得た。平和な関係においても歴史が時々頭を持ち上げることを身近に知る経験であった。
[カナダで再出発]
映画史上最長のスパイアクション・シリーズ『007』の第24作目にして、ダニエル・クレイグを主演に据えたリブート・シリーズの4作目だ。
ボンドは生家スカイフォールで死亡した前任M(ジュディ・デンチ)の遺言に従い、ある男を探すためメキシコで単独行動をしていた。同じ頃ロンドンでは、国家安全保障局の新任トップ、C(アンドリュー・スコット)が膨大な監視システムを使った組織再編を始め、M16のM(レイフ・ファインズ)は、ボンドの暴走などを理由に00部門閉鎖の危機に直面していた。帰国したボンドはMから自宅待機を命じられるが、Q(ベン・ウィショー)とMの秘書マネーペニー(ナオミ・ハリス)の密かな助けを得て、ローマへと向かい、そこで探していた男スペクターのトップ、ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)を見つける。
ファンならブロフェルドはお馴染み、初期の『ロシアより愛をこめて』など7作に登場した世界征服を狙う犯罪組織スペクターのトップ、ボンドの宿敵である。『オースティン・パワーズ』のDr. イーブルは彼がモデルで、パロディ化されるほど荒唐無稽な人物でもあり、ブロフェルドの登場によって新シリーズの中では最も旧作『007』に近い印象の作品になっている。
前作『スカイフォール』はイアン・フレミングの原作から離れたオリジナル脚本で作られ、ボンドの生い立ちやMとの関係などドラマとしての面白さが魅力となって大ヒットしたと思うが、本作では再びスピディーなアクションとカー(アストンマーティンDB10、ジャガーC-X75)チェイス、美女(レア・セドゥ、モニカ・ベルッチ)で見せるボンドに立ち戻っており、これが失望につながった。
どんな美女もボンドにコロリ、乱闘をしていたかと思うと次のシーンではタキシード姿、どこからともなく飛行機に乗って現れる、という無茶苦茶さはボンド映画の決まり事だが、なぜか非現実性が気になった。それは前作がボンド映画としては上出来だったから出てきた当然の不満だ。監督は前作と同じサム・メンデス、脚本も前作を書いたジョン・ローガンなので人間的ボンド像が描かれていた前作を継承する内容を期待していたのだが……。車と美女が同列であるような旧態依然としたボンド映画ならもう見なくても良いという気にさせられた。
蛇足だがネットで本作について調べていたら、ベルッチがボンドガールとしては最年長であったという記事が何度も出てきた。こういうことがニュースになるということ自体もゲンナリである。
上映時間:2時間28分 シアトルはシネコン等で上映中。
[新作ムービー]
冷戦時代を振り返る意味
『Bridge of Spies』
(邦題『ブリッジ・オブ・スパイ』)

スティーブン・スピルバーグ監督の最新作は、13年の『リンカーン』に続く実話に基づいた歴史ドラマだ。
米ソ冷戦下の57年、保険専門の弁護士ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)は、ソ連のスパイとして逮捕されたルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護を任される。戸惑うジェームズだったが、検察側が被告の権利を無視した公判を強行するのに対して、断固とした弁護をし、死刑から被告を救う。だが、スパイを弁護したとして世論の轟々たる非難を浴びてしまう。
60年、ソ連を偵察飛行していた米のスパイ機U-2が撃墜され、パイロットが捕虜となる。これを機に米ソ二国は秘密裏に、服役中のルドルフとパイロットの交換交渉を始め、またしてもジェームズが交渉の矢面に立つことになる。
前半ではジェームス自身が書いた弁論が再現され、被告の権利を守るという彼の弁護士として立場と主張を見せていき、後半はベルリンに舞台が移り、厳しい環境下でスパイ交換交渉に当たるジェームスの様子が描かれていく。政治的スリラーの側面も持った作品だが、過度にスリルに陥ることなく、軽いユーモアを交えながら最後まで歴史ドラマとしての枠を保ち、安定感のある作品となった。本作のハンクスははまり役過ぎて面白みに欠ける嫌いがあったが、彼だからこそ演じられる誠実な弁護士の説得力は否定できないものがあった。
全編を通して背景からセット、通行人の衣服や仕草に至るまで50~60年代という時代が丁寧に再現されていることもあり、シドニー・ルメット作品などの懐かしいハリウッド映画を見ているよう。米国の良心を描いた名作『アラバマ物語』を思い出してしまった。
スピルバーグ監督は、SFやアクションなど娯楽映画で大ヒットを飛ばしてきた人だが、近年はドラマをじっくり描く、手堅くオーソドックスな演出で見せる作品が多くなり、映画監督として演出の幅を広げている感がある。この変化が「円熟」などではないことを祈りたい。脚本はマット・チャーマンの書いたオリジナル脚本に、ジョエル&イーサン・コーエンが改訂を加えている。
ソ連の原爆投下を想定して米国の子どもたちが机の下に隠れるなどの避難訓練をする映像が登場するが、それがバカバカしい空騒ぎに見えるのは半世紀という時を経たせいなのだろう。今はISILの脅威。この脅威にはかなりのリアリティがあるが、果たして半世紀を経たらどうなのだろう。米国では「冷戦に米は勝利した」と言う人がいるが、勝ったのではなくソビエトの崩壊は内部から起きたのだ。そんなことを振り返ってみると、今、ヒットメーカーであるスピルバーグ監督が冷戦時代を描く意味は大きいと言えるのではないだろうか。
上映時間:2時間21分。シアトルはシネコン等で上映中。
[新作ムービー]
終わりの見えない戦い
『Sivcario』
(邦題『ボーダーライン』)

『Sicario』 (邦題『ボーダーライン』) 『灼熱の魂』で世界の注目を集めたカナダのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の最新作。『Sicario』の意はヒットマン、殺し屋だ。米国とメキシコの国境地帯 を舞台に、麻薬カルテル捜査のダークな実態を描いた犯罪スリラーの秀作だった。
FBI捜査官ケイト・メイシー(エミリー・ブラント)は、自分の追っていた事件がメキシコの麻薬カルテルと深い関係にあったことを知る。カルテルのボ スを追うCIAのマット・グレーバー(ジョシュ・ブローリン)は、麻薬捜査に無知のケイトを彼の特殊部隊に呼び入れ、コロンビア人のコンサルタント、 アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)と合流。彼の指示に従って、メキシコの犯罪地帯フアレスに乗り込んでいく。だが、捜査の実態は国境も法律も無 視する無謀極まりないもので、理想家肌のケイトはマットらのやり方に抗議。怪しげなアレハンドロの存在にも疑問を抱いていく。
物々しい重装備でフアレスに乗り込むオープニング20分が秀逸だ。未知の捜査に挑むケイトと共に、いつ何が起きるのか予想がつかない、現地の警察さ え信用できない無法地帯に向かう。バックに流れるアイスランドの音楽家ヨハン・ヨハンソンの重い旋律が張り詰めた感覚を盛り上げ、この部分だけでも 犯罪映画としては第一級の出来栄えだ。
脚本はTV俳優でもあるテイラー・シェリダンが、自分が育ったテキサス国境地帯でリサーチをして書き上げた。カルテル同士が覇権を争う熾烈な闘争が 続くフアレスの現状は凄惨さを極め、ほぼ本作で描かれている通りらしい。一人のボスを捕えても、別のカルテルが台頭するだけの話で、水際で麻薬組織 を追う米国側の捜査も、組織の撲滅ではなく麻薬の流れを掴み、監視する程度のことしかできないようだ。
そんなグレーエリアに迷い込んだケイトは、捜査官としてのモラルの葛藤を続け、アレハンドロの正体も分からず、法も犯罪も、善も悪も境目が見えなっ ていく。ブラントが激しいアクションを切れよく見せる一方で、葛藤する内面的演技にも冴えを見せ、去年の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』より さらに演技の幅を広げた感がある。
ヴィルヌーヴ監督は人間のグレーな部分に関心があると言う。衝撃的な『灼熱の魂』や前作『プリズナーズ』でも、善悪判断が下せない領域に入りこんで いく人々を描いていた。そんな彼にとって、終わりの見えない麻薬カルテルとの闘いの現実は、まさに彼らしさが生かされる題材で、才気を充分に発揮し た作品になっている。
上映時間:2時間1分。シアトルはシネコン等で上映中。
[新作ムービー]
「遠くの親戚より近くの他人」とはよく言ったもので、65の齢で新しい国に移住するはめになった一人暮らしの自分には、信頼できる友人関係を築くこ とが最重要必須項目と考えたが、この年で心の通う友だちができるかどうか……。
そんな不安も手伝って、まだシアトルで勤務中だった2013年夏、バンクーバーの東隣にあるバーナビー市のイベント「日系祭り」に行った。会場で出 会ったのが、東北大震災犠牲者支援の寄付集めをしていた仙台出身のミチコさんだ。日系一世のシニアには珍しく流暢な英語を話し、気さくで自由な雰囲 気を醸しだしている。思い切って「祭りが終わったら夕食でも」と誘ってみた。果たして彼女がカナダで最初の友人となった。
カナダ移住後、今年で50年を迎えた70歳過ぎの彼女は、週2、3回はジムで1時間半エクササイズした後、さらに1時間泳ぐという健康シニア。その面持ち も年齢を感じさせない。おまけに週一回はグラウス・マウンテン(Grouse Mountain)の急坂を一挙に上りきるほどエネルギッシュ。趣味は社交ダンスと クラシック音楽を聴くこと。今は独身だが、最初のご主人との間にできた3人の子どもを途中から一人で立派に育てたしっかり者で、不動産の斡旋、日本 人相手の旅行ガイド、筆跡鑑定と、育児のためには何でもこなして、今は孫が4人もいる。現在、数カ月前ダンスで知り合った素敵な彼氏と熱烈恋愛中。 彼女に誘われて私も1月から社交ダンスを習うようになり、はまっている。元気な彼女は年上にも関わらず、私が年老いて病気になったら世話をする、と 言ってくれる。
ミチコさんの紹介で、元米国人でリタイヤした美術館学芸員トム、自然治療の博士号を持つアントニーと知り合った。日本びいきの彼らとは意気投合し、 彼らが始めたブッククラブにも入ることになった。
そして、この夏登場したのがジェームズ。韓国系帰化移民の彼は日本式指圧を韓国で習得したマッサージ師。世話好きな彼は周りの人たちの面倒をよく見 る。ロブソン通りに面したパブリック・マーケット内に17年間クリニックを設けており、近所を歩くと多くの人が彼に挨拶をする。陶芸や絵をたしなむ など多趣味で、社交ダンスの達人。ミチコさんと始めたダンス会で知り合って以来、我が練習の成果が試せるダンス・イベントにも連れていってくれる。 職場の周りには韓国料理店が一軒おきにあり、おかげで今まで知らなかった本物の韓国料理にも出会えた。食べ物に喜びを感じる私は本当にありがたく 思っている。
[カナダで再出発]
どこかスノッブなイメージがある美術界は、奇妙で滑稽な事件が起きやすい業界のようだ。本作の中心人物は贋作家のマーク・ランディス。彼は自分の描いた贋作画を富豪の慈善家を装って、無償で美術館に寄贈し続けた男である。15世紀の聖画像からピカソ、スヌーピーの線画まで多種多様なテクニックをマスターした彼の贋作は完璧。偽物の疑いを持つ美術館や学芸員がいないまま、なんと過去30年間、米国20州にわたる中型美
館にさまざまに身分を偽って、寄贈を続けていたのである。ところが、FBIは彼を逮捕することが出来ない。なにせ彼は一度も自分の贋作で金銭を得たことがなく、犯罪に当たらないと言うのだ。
彼はなぜこんな行動をし続けたのか? 天才詐欺師か、愉快犯か、それともパフォーミング・アートティストか。大方の予想を裏切るランディスの行動の謎をひも解いていく異色のドキュメタリー映画で、美術好きの人なら特に楽しめる作品だろう。
監督のサム・カルマンとジェニファー・グラウスマンは、2011年にランディスを取り上げたニューヨーク・タイムス紙の記事を読んで強い関心を持ち、彼へのインタビューを皮切りに、贋作作りに没頭する日常と彼の贋作を見つけた元美術館員の執念、ランディスの作品を集めた展示会に至るまでの過程を見せていく。
ランディスはティーンの頃に分裂症や人格障害などの精神疾患を患い、長年入院生活を続けた。退院後に写真や美術の勉強をし、画商をしていた時期もあったようだが、再度の入退院後に贋作製作と寄贈にハマってしまった。「寄贈すると美術館の人に敬意をもって扱われるのが良かった」と言う。現在は教会の神父を装って贋作寄贈を続けているが、誰も彼を止めることが出来ない。
精神科に通院を続ける彼には贋作寄贈への罪悪感はゼロ、理屈で正当化しようという意思もない。彼は自宅ベッドの上で、古い映画のビデオをつけたまま、力むことなく贋作を量産する。そんな楽し気な彼を見ていると、贋作贋作と騒ぐのは高名な画家の作品が権威と金を生み出す美術界の理屈であり、ランディスにとってこれは、単なるクラフトでホビーに過ぎない。出来たものを人にあげて喜ばれるならどこが悪い、という気にもさせられる。常識の帽子を脱いで、ちょっとクラクラしながら彼の話に耳を傾けてはどうだろう。
「シニアにも負けず」
カークランドのヒースマンホテル(The Heathman Hotel)のアフタヌーンティーは、2年ほど前に期間限定で始まったようですが、好評のため継続されて、現在も優雅なお茶会を楽しむことができます。小ぢんまりしていますが、静かでゆったりしたホテルロビーでのアフタヌーンティーです。ちょっとお洒落してお出かけください。
まず最初に、茶葉の入った瓶が出てくるので、それぞれの香りを楽しみながら自分好みのお茶を選びます。お茶は、オーガニックのイングリッシュブレックファースト、ベルガモットオイルが控えめでライトな味のアールグレイ、ジャスミン・ダウニーパール、カモミール・シトロン、オーキッド・ウーロン、アフリカンアンバー、パッションフルーツの味がするグリーンティーパッション、バーベナミント、ほうじ茶の9種類。ハチミツ、ハーフ&ハーフ、レモン等も添えられていました。
そして、アフタヌーンティーといえばコレ! ポットに入ったお茶と一緒に、セイボリー(Savory)、スコーン(Scone)、スイーツ(Sweet)が3段のスタンドに美しく盛りつけられて出てきます。
一番上の段のセイボリーは、カレーチキン&アーモンド、スモークサーモン&ハーブクリームチーズ、ハムサラダ、デビルドエッグなどの軽食系6種類。次の段はチェリーとアプリコットのスコーン、マドレーヌ、ブラックベリージャム、クレームフレーシュ。そして一番下が、ベリークリーム・ロールケーキ、チョコレートタルト、レモンクリーム入りジンジャーパフ、チョコレート・クリンクルケーキなど8種類ものスイーツ!
この日の参加者の間でセイボリーの一番人気は、カレー味にレーズンのようなほんのりとした甘みが感じられるカレーチキン&アーモンド。キューカンバー野菜カップも色鮮やかで人気でした。
スイーツ、スコーン共に甘すぎず、見た目も美しくて「可愛いお菓子を見ているだけで幸せ」という女性メンバーばかりということもあり、楽しく優雅な時間を過ごしました。
日本人には量が多いので、スコーンはお持ち帰りにするといいかもしれません。
[あまから会]
今やiPhoneに依存し、手放せなくなってしまっている人も多いのではないだろうか。今この原稿をiMacで書いている筆者もアップル依存度の高い人間の一人。生まれて初めて手にしたPCはMacintosh 512K。親しみやすいアイコンとマウスを使って絵が描けることに感動、以来アップル以外のPCを使ったことがない。
本作は、そんな私たちとこの機械との関係について考えさせてくれるドキュメンタリー映画だ。フォーカスはアップルの創業者、天才的起業家スティーブ・ジョブズ。アップルカルトと呼ばれる献身的利用者を惹きつけた彼のカリスマ性と、反面の独善性や冷酷さなどについては、すでに多くの本や映画、ドキュメンタリーなどで知られている。本作は語り尽くされた感のある彼の物語の二度塗りを極力避けながら、ジョブズの人間的暗部、起業からの足跡、そして彼の生み出した製品と企業倫理の関係を追って実に興味深いものがあった。
監督はアレックス・ギブニー。アフガニスタンのタクシー運転手の拷問死を扱った『Taxi to the Dark Side(邦題:「闇」へ)』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したベテランの社会派ドキュメタリー映画監督だ。本作では山崎裕が撮影監督を担当し、ジョブズが愛した日本の風景が美しい映像として何度も登場し目を癒してくれる。
ジョブズは復帰後の97年、移民労働者の組合を作ったシーザー・チャベスやキング牧師などを使った広告「Think Different」で企業イメージを決定づけ、アップル社は大躍進を続ける。だが、近年になってiPhoneを作る中国の工場での劣悪な労働状態や労働者の頻繁な自殺が報道された。ジョブズは禅に興味を持ち何度も訪日、その影響は彼の製品の持つシンプルなデザインに反映されているが、鏡のように美しいiPhoneの画面を実現するために使われる毒性のある薬品とそれを扱う労働者たち。これは「Think Different」のキャンペーン・イメージと相反するものだ。
他国の若者の奴隷的労働の上に成り立つ私たちの手の平の自由iPhone。そしてiPhoneのリングトーンに無意識に反応して依存度を高める利用者。私たちはiPhoneやiPadで信じられないほどの自由を得たが、その反面どんな自由を奪われてきたのだろう? その問いかけこそ「Think Different」なのではないだろうか。
ジョブズの娘を産んだが長年認知を拒否された女性が「彼は人間と関係を作るのが難しい人だった」とコメントしていた。彼には人と自分を繋げるものとして機械が必要だったのかもしれない。目の前にいる人との会話をせず、iPhoneを見続ける人々を大量に生み出したジョブズ、彼ら彼女らこそジョブズの子どもたちに見えてくる。
上映時間:2時間7分。シアトルはSeven Gables Theatreで上映中。
[新作ムービー]
バンクーバーはシアトルとは一味違った水の都で、特にダウンタウンは三方が海に囲まれた半島になっている。その西半分はスタンレーパーク(Stanley Park)で占められ、中間地点には庶民的なエスニック・レストラン等がひしめくデンマンストリート(Denman St.)が、集合住宅街を左右に擁して南北に走る。さらに東に行くと高層ビル街のシティーセンターとなる。
この半島の周り一帯には「シーウォール(Seawall)」と称する海辺の散策・自転車/スケート道が設けられており、北側のコールハーバー(Coal Harbour)から、スタンレーパークをぐるっと反時計回りに行ってフォールスクリーク(False Creek)の東端で時計回りに逆転し、キツラノビーチ(Kitsilano Beach)まで全長22kmの道のり。コースが平坦で自転車道と歩道が分れていて歩きやすいので、家族連れやカップルにおすすめの散歩道だ。
例えばフォールスクリーク(False Creek)の北側に位置するイエールタウン(Yaletown)から西に向かって歩き始めると、グランビル・マーケットやサイエンスワールド等、両岸の観光スポットを繋いでのどかに回遊する水上タクシーや、カヌー、ヨット、ドラゴンボートなどで賑わう水面が楽しめる。さらに進むとスタンレーパークに入り、半島の西端をぐるっと回って半島の北側に移る。コールハーバーまで来ると、北にそそり立つ山々、南には近代高層ビルを頂きながら整った歩道がさらに続き、行く手にはカナダプレース独特の白い5大テントが見え、その両側に巨大クルーズ船でも停まっていれば「これぞバンクーバー」と思わず唸ってしまうほどの豪快な夏の景色が楽しめる。
スタンレーパークを車で北に突き抜けてライオンズゲート橋(Lion’s Gate Bridge)を渡り、左に曲がればウエストバンクーバー。ここにもシーウォールがあり、西はダンダレーブ(Dundarave)から東はジョンローソン(John Lawson)各公園まで1.5kmの歩道が延びている。ここからは東にイングリッシュベイ(English Bay)とライオンズゲート橋、そしてダウンタウンの高層ビル街の景色が海の北側から楽しめる。帰りには、無料駐車ができるパークロイヤル・ショッピングセンターで、最近の米ドル高を利用して買い物をするのも一案(ちなみに、米国に持ち帰ることができる免税品合計額は、48時間以上滞在し前回の訪問から1カ月以上経過した米国居住者は800米ドルまで、そうでない場合は200米ドルまで) 。
[カナダで再出発]
ヒマラヤ山脈の中でも切り立つ頂上と垂直の壁で知られる7000m級のメル-中央峰シャークスフィン(形がサメのヒレに似ている)。その登頂に2度に渡って挑んだ3人の登山家、コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズタークを追ったドキュメンタリー映画だ。撮影はナショナル・ジオグラフィックなどに寄稿する著名な山岳写真家でもあるジミーとレナン自身が担当、2人が自らの登山の様子を追った厳しい様子と、息をのむ絶美のメルの映像に圧倒される山岳映画だった。
メルへの登頂は日本の馬目弘仁率いる鱶鰭同人会など世界中の登山家によって成し遂げられているが、頂きへ直上する最難ルートは複雑で危険性が高く未登峰だった。08年に最初の登頂に挑んだ3人は8日分の食料だけで17日も登頂を続けた。
当時20代だったレナンは、素手で岩登りをするフリークライマーとして知られ、高山登頂は未経験だったが、ベテラン登山家でエベレスト登頂を何度も経験しているコンラッドの誘いを受けて参加。厳しい初登頂に苦戦を強いられる。ジミーは06年にエベレストに登頂し、頂上からスキー滑降をした経験もあるほどのアスリートでコンラッドにとっては命を預けあうパートナー。この2人が若いレナンを支えつつ登頂を続けたが悪天候に見舞われ、頂上100mを目前にして断念。そして11年に再度挑戦をすることになるのだ。
この3年間にジミーとレナンの身に降りかかった悲惨な事故。奇跡としか言いようのない生還の記録も克明に撮影されており、身体的心理的障害を乗り越えていく登山家という強靭な生き方が描かれていく。監督はジミー・チンと彼の妻でドキュメンタリー映画作家のエリザベス・チャイ・バーサリー。登山家を支える妻たちの毅然たる心情も記録されている。
登山家には必ずメンターが必要であること。コンラッドもメンターと共に登山することで経験を積んだ。そのメンターの事故死、信頼するパートナーの事故死を乗り越えて今のコンラッドがいる。事故と死と隣り合わせに生きるのが登山家なのだろう。そんな彼らを見ていると、なぜ登るのか?は愚問と感じられた。
ちなみに、ヒマラヤ山脈はブータン、中国、インド、ネパール、パキスタンにまたがり、カラコルム、ヒンドゥークシュ、天山、崑崙などの山脈を含み、7,200m以上の山が100峰もある一大山脈。エベレストは最高峰ではあるが、未登峰の困難を極める頂きは多い。登山家が後を絶たないわけである。
上映時間:1時間30分。シアトルはLandmark’s Guild 45th Theatreで上映中。
[新作ムービー]

ライト・ヘビー級のチャンピオン、ビリー・ホープ(ジェイク・ジレンホール)の盛衰の物語。
タイトルを防衛し、彼を支える美しい妻モーリン(レイチェル・マックアダムス)と一人娘レイラと豪邸に暮らすビリーは、成功の頂点にいた。しかし、あるパーティーで新進ボクサーの挑発を受けて乱闘となり、その騒ぎの中でモーリンが銃弾を受けて死亡。失意のどん底に落ちたビリーは酒浸りの自暴自棄となり、狡猾なマネージャー (50セント)からも見放され、破産へ。レイラは児童保護施設に預けられ、文無しになったビリーは、トレーナーのティック(フォレスト・ウィテカー)のジムを訪ねるのだった。
ここから先は予想通り。頂点からどん底へ、そしてまた頂点を目指す……。『ロッキー』などで語り尽くされたボクシングものの王道と呼べるストーリー展開で、やや拍子抜けしてしまった。なぜなら、ジレンホールは作品選びがうまいからだ。去年の『ナイトクローラー』に始まり『ミッション: 8ミニッツ』『ゾディアック』など、犯罪もの、心理サスペンス、SFまで意欲的な話題作に多く主演、本作にもクリシェ(月並み)以上のドラマを期待していた。
とはいえ、渾身の力を込めてボクサーを演じたジレンホールの演技は特筆に価する。前作『ナイトクローラー』で激やせの後、腹筋くっきりの見事なボクサー体型に体を作り、パンチングボールからフットワークまで敏捷なボクサーの動きを見せ、主人公の物語よりもジレンホールの役に傾ける情熱に打たれてしまった。
最近、『Champs』という米国のボクシング業界のドキュメンタリー映画を見たが、マイク・タイソンなどこの業界にはビリーのような盛衰の物語が後を絶たない。この傾向は、野球やフットボールなど他のプロスポーツと比べても顕著で、プロモーターが強大な力を持ち、選手が業界によって保護されていないことに理由があるらしい。選手の9割はかつかつの生活、反面1試合で何百億ドルという金が動く落差。テニスなどと比べて貧しい階層の出身者が多いのも特徴で、ハングリーなボクサーの盛衰の物語は現実であり、クリシェと言われようと繰り返し映画として描かれていくに違いない。
監督は『トレーニングデイ』などハードなアクション映画を得意とするアントワーン・フークア。ラストのファイトでビリーがカメラに向けてパンチを打つシーンが秀逸だ。脚本はTVドラマ『サン・オブ・アナーキー』の脚本や監督を担当してきたカート・サッター。
上映時間:2時間3分。シアトルはシネコン等で上映中。
[新作ムービー]

シアトル在住時の一時期、ハイキングを趣味としていた。ピーク時には週末のみならず平日5時に仕事を終えてからも、片道4マイルのマウント・サイ(Mt. Si)を1時間35分で登り、懐中電灯をともして下山したし、「パシフィック・クレスト・トレイル(Pacific Crest Trail)」の北端、レイニーパス(Rainy Pass)からカナダのマニングパーク(Manning Park)までの70マイルを、35ポンドのバックパックを背負って5日間で歩くほどで、足には自信があった。
急坂を休まずに歩いていると「自分は老いても永遠に山登りができるだろうな」と買い被るほどの高揚感を味わったものだ。10年ほど続けたが、1987年に初めて一戸建ての家を買ってからは維持に時間をとられ、ハイキングはたまにしか行けなくなった。
バンクーバーに越してからハイキングをする友人ができ、「かつて味わった高揚感を再び」と、最近山歩きを再開した。まず、これを登らなければバンクーバーっ子ではないと言われる「グラウスマウンテン(Grouse Mt.)」にいきなり挑戦。ここは45度の傾斜が続くトレイルで、苦行を意味する「グラウス・グラインド(Grind)」という呼び名が付いている。標高1,127メートルの山の、ゴンドラの下を上るコースで片道2.9キロメートル、高度853メートルを一挙に上る。まるでごつごつ岩でできた階段のようなところだ。トレーニングのため早足で登る人が多く、もたもたできない。毎年10万人が登っており、スピードに挑戦する人たちも多く、トレイルのスタート地点と終点に設置されたタイマーに専用のカードをかざすと自分の時間が記録できる。このコースは歩いて下山することが禁止されているため、下りは10ドル払ってゴンドラで降りるようになっている。
一挙に上ったもののさすがに往年のようにはいかず、心臓がどきどきし始めた。「これはやばい、ちょっと無理かな」と考えて、もっと優しいコースから徐々に始めることにした。
次に行ったのが、グラウス・マウンテンよりは優しいがその分距離が長い(往復9キロ)マウント・シーモア(Mt. Seymour)。このコースは市内から車で約1時間、ノース・バンクーバーをさらに北に行く。標高1,499メートルの第1ピークまで登れば360度の素晴らしい景色が楽しめる。
次回は子ども連れなどでも気軽に行けるおすすめのハイキングコースをいくつかご紹介したい。
[カナダで再出発]
1914年、上流家庭で育った21歳のヴェラ・ブリテイン(アリシア・ヴィキャンデル )は、女子の高等教育に否定的な父の反対を押し切って念願のオックスフォードのサマーヴィル・カレッジへ入学する。だが、その直後に第一次大戦が勃発し、恋人のロナルド(キット・ハリントン)、弟エドワード(タロン・エガートン)、幼馴染のジェフリー(ジョナサン・ベイリー) が次々と軍隊に志願。ヴェラも大学を辞め、看護師として志願して前線の病院へ。そこで多くの悲惨な負傷兵を目撃/看護し、戦争の実態を知る。そんな頃、エドワードが病院に運ばれて来た……。
ブリテイン(1893年~1970年)が書いた自伝的同名小説(邦題『青春期の遺言:1900-1925年の自伝的記録』)の映画化。オーソドックスな語り口で、戦争の衝撃と胸が張り裂ける喪失の悲しみを描いた優れた反戦映画として推薦したい。監督はTVでの経歴が長いジョン・ケント。ヴィキャンデルなど人気の高い欧州の若手俳優たちが好演している。
原作は第一次大戦後、反戦平和主義者として活動したブリテンの原点となる痛恨の体験を綴ったもので、英国では反戦文学として今も読み継がれているようだ。戦争の実態を若い女性の視点で語っており、郷静子が書いた小説『れくいえむ』を思い出した。立派な軍国少女が空襲で家族や友人たちを続けて失い、絶望と孤独の中で死を待つ姿を透明感のある筆致で書いた反戦文学の傑作で、1973年の芥川賞を受賞している。
本作でやや驚いたのは、第一次大戦の勃発で英国の上流家庭の青年たちが「戦地に行くことは名誉」と即志願をしていたこと。米がイラクに侵攻した時も、多くの若者が志願=名誉と感じて戦地に向かった。兵士として戦地に赴くことを名誉と感じる感性は、教育によって刷り込まれるものだろう。ヴェラ自身も弟の志願を支援して父を説得、この体験が彼女にとって生涯にわたる悔恨へと繋がっていく。
筆者は日本の平和憲法の下、戦争放棄を謳う日本の憲法は世界に誇るべきものと思い、戦争=悪と感じてきた。今、そんな日本が安全保障関連法案を通して大きく変わろうとしている。「国際平和支援法」など、いかにも平和貢献という羊の衣を被っているが、下に何が隠れているのか。戦争によって富を得ようとする狼の姿が見えて仕方ない。
上映時間:2時間9分。シアトルはGUILD 45TH TWIN THEATRES、MERIDIAN 16で上映中。
©Sony Picture Classics
[新作ムービー]
ラベナの住宅街の一角にある「Zouave(ズアーヴ)」 は、フレンチ&イタリアン料理を出す家庭的な小さなレストランです。店の名前でもあるズアーヴとは、フランスのベルベル人で編成された軍隊の精鋭部隊のこと。メニュー構成は、同部隊が活躍した1830 年から1962 年のイタリアとフランスの料理をベースに地中海テイストも加わってユニークです。

席は、できれば夏の夜を満喫できるパティオを確保してください。テーブル数は大小取り混ぜて9 つ。近所の住人がカジュアルな装いでそのまま入って来られる気軽さで、ライブなどもあるようです。
パスタメニューが豊富で、グルテンフリーにも対応。毎週替わる「今週のスペシャル」から、サーモンとパスタのコンビネーションを注文。サーモンが焼き加減が完璧で大正解! もうひとつはサーモンが乗ったサラダで、ボリューム満点。イカ、エビ、ホタテが入ったブイヤベース風スープは、あっさりしたトマトベースで、海の幸の香りとコクがたまらないと好評でした。
トマトソースで味付けされたナスのパルメジャン(Eggplant Parmigiana)は、ポレンタ添え。ナスの味わいがしっかりして食べ応えがあります。サーモンのペンネ(Penne Salmon)は、軽いクリームソースであえたペンネにグリンピースとスモークサーモンを合わせた一品で、癖もなく日本人好みのあっさりとした味。ペンネプタネスカ(Penne Puttanesca)は、オリーブを加えたトマトソースのペンネでスパイシー。エビとチキンから選べます。
デザートには、某クチコミサイトでアメリカ人から「スーパースイート!」と書き込みがあったティラミス(Tiramisu)にあえて挑戦。他にも、キャラメルバニラのジェラート(Gelato) とカヌーリ(Cannoli)をオーダー。フタを開けてみると、超甘かったのはジェラートで、アイスクリーム以上に濃厚でした。カヌーリの中には、リコッタチーズより重いカスタードのようなクリームにチョコレートチップが入っていてピスタチオが散りばめられていました。問題のティラミスは、ほどよい甘さで一番おいしくいただきました。
この日は、料理、飲み物、デザート、チップ、税込みで1 人平均約20 ドル。
The Zouave Restaurant
2615 NE 65th St., Seattle
☎ 206-525-7747
www.zouaverestaurant.com
営業時間:5pm ~ 10pm
月 定休
[あまから会]
今年のサンダンス映画祭でプレミア上映され、観客の人気を集めたインディーズの作品。ノリの良いヒップホップの楽曲にのせて、ロス郊外イングルウッドの犯罪多発地区で暮らすアフリカ系の高校生が巻き起こす事件をユーモアたっぷりに見せる出色のコメディ作品だった。
バス運転手のシングルマザーと暮らすマルコム(シャメイク・ムーア)はハーバードを目指す高校生。オール A の成績を自慢するうぬぼれ屋でかなりなオタク、学校ではいじめっ子の標的だ。そんな彼とつるむ気弱なジブ(トニー・レヴォロリ)と、鼻っ柱の強いレスビアンのディギー( キーアージー・クレモンズ)の 3 人はパンクバンドを組んでいた。 たまたま行ったパーティで銃撃戦が始まり、近所にウヨウヨいる麻薬ディラーの 1人ドム(エイサップ・ロッキー)の扱う麻薬をある重要人物に届ける羽目になるが、その男から受け取りを拒否されて愕然。しかし、頭の良いマルコムたちは、金の経路が掴めないビットコインを使ってネットで麻薬を売ることを思いつき……というお話。 成績優秀でもハーバードなどには絶対行けないと教師から釘を刺されたマルコムだが、ぜんぜん負けていない。窮地をチャンスに変えようと奮闘する彼とダチ公たちの関係が気持ち良く、物語もテンポよく動いて軽快だ。 貧しいアフリカ系高校生のステレオタイプを打ち壊す型破りなキャラクターばかりで、マルコムは 90 年代のヒップホップ音楽とファッションにハマっているし、彼らを助ける白人ハッカーが親しみを込めて「niggas」と言うとディギーから平手打ちが飛ぶし、ディーラーが集まれば戦争とオバマ政権への不満タラタラ、などディテールに新鮮な時代性が反映されて楽しいことこの上ない。エンディグではしっかり作り手のメッセージも伝わってきた。 脚本/監督は 99 年の『T h e Wo o d』でデビューしたリック・ファミュイワ。一貫して独立系、アフリカ系の若者たちの堅い絆で結ばれた友人関係をコメディタッチで描いてきた。本作はその中でも最良の出来栄えではないだろうか。 ナイジェリア出身の一世で、本作の舞台となるイングルウッドで育った。マルコムは監督自身の分身でもあるのだろう。寡作の人だが、作る作品ごとに全米黒人地位向上協会から作品賞にノミネートされてきた。製作者にはアフリカ系シンガー、ファレル・ウィリアムス、ショーン・コムズ、俳優のフォレスト・ウィテカーの名が並び、彼の作家性をしっかり支えている。 上映時間:1時間 43 分。シアトルはシネコン等で上映中。 [新作ムービー]
若い頃は「60歳になったらもう立派な老人」と思い込んでいたが、いざ60歳になって友人たちに還暦祝いをしてもらった時は、照れくさいだけで一向に老人になったという自覚は湧かなかった。だが振り返ってみると、シニアライフへの序曲は50歳からすでに始まっていたようだ。
かつて、50歳でボーリングのシニアリーグに入れるようになり「自分はグループの中で最も若いから有利だ」とは思ったが、自分がシニアの仲間入りをしたのだとは微塵も思わなかった。また、55歳になったある日、病院の食堂のレジ係に「あなたはシニア?」と聞かれて「えっ?」と聞き返したこともある。そして60歳になると、シアトル住民ならだれでも市からもらえるシニア優遇「ゴールドカード」を手に入れた。これを携えて水族館(無料)や動物園などでシニア割引の特権を享受。さらに62歳になると映画館の入場料も割引され、「これは凄い」と思ったりはしたが「まだまだ 自分はシニアではない」と、現実と自覚が結びつかないのである。
さて65歳を過ぎると年齢的には、もう押しも押されもせぬシニア。電車やバスに乗るとシニア割引が利き、バンクーバーの固定資産税もぐんと安くなり大いに嬉しいのだが、その反面、今まで自分が座ることは許されない、と信じて座らずにいた「シルバーシート」については、それが自分のためにあるのだとは依然として思えないのである。
だから、若い人が私の顔を見るなり即座に席を譲ってくれるのにはありがたいやら悲しいやらでつい「No, thank you」と言ってしまうが、「せっかく譲ってくれたのだから座った方が相手に親切」と考え直して座ることもある。また、自分とさほど年齢が変わらないと思える人が「どうぞ」と譲ってくれる時はショックだ。ただし、譲ってくれた人は次の駅で降りることが多いのが、せめてもの救い。
昔から歌好きの私は、TVジャパンの歌謡番組を全部見ているが、五木ひろしや小林幸子など顔馴染みの歌手達が60代になっても髪を黒く染めて元気で、ほとんど昔のままのイメージで歌っている。また70、80代になった北島三郎やマヒナスターズ、この間はかつて「寅さん」の妹役をしていた倍賞千恵子が、しわを気にする様子もなく声量たっぷりに続けて歌っている。髪こそ染めたくないが「私も負けてなるものか」と勇気づけられるのだ。
[カナダで再出発]
公開1週目で興行 成績一番に躍り出たメリッサ・マッカーシー主演のスパイ・コメディで、批評家の評価も上々。ヒットした『ブライズ メイズ 史上最悪のウェディングプラン』で注目を浴びて以来、主演作でベストワンは本作が初なので、彼女の代表作になるだろう。 主人公は、ハンサムなスパイ、ブラッドリー(ジュード・ロウ)を助ける凄腕のアナリスト、スーザン・クーパー(マッカーシー)。しかし、ブラッドリーは核兵器を隠し持つ武器商人のレイナ(ローズ・バーン)に殺されてしまう。彼の亡き後、核兵器の所在を探すため、レイナに顔の知られていないスーザンが覆面スパイとなってパリへ。ところが、自信満々のハードコア・スパイ、リック(ジェイソン・ステイサム)は、彼女の潜入に不満を持ち、潜入先に出没しては嫌味を言いまくるのであった。 オープニングから『007』シリーズの臆面もないパクリで始まるが、本作の大きな見どころはマッカーシーとステイサムの丁々発止の舌戦だ。無口なアクション・スターのイメージが定着しているステイサムだが、本作では自らをパロって「オレは怖いものなしなのダ」の大ボラ話を吹きまくってマヌケぶり全開、たぶん彼の主演作5本分ぐらのセリフを喋っていたのではないだろうか。絶妙な配役だ。 絶妙と言えばお高く止まった嫌味な女役が板についてきたバーンも適役で、スーザンに意地悪爆弾を炸裂させる。しかし、どの舌戦も邪気がないところが本作の良さで、こういう笑いは希少。監督のポール・フィグの脚本に負うところが大きいだろう。 マッカーシーとフィグのタッグは『ブライズメイズ……』に始まって3作目。毒気ゼロの舌戦の楽しさは前ヒット作『デンジャラス・バディ』でも証明済だが、マッカーシーを荒っぽい刑事として描き過ぎて楽しさが半減していた。しかし、本作はグレードアップ。彼女を有能で洗練されたスパイと設定し、周囲からはボコボコにされても自虐に陥ることなくはね返し、最後まで楽しく笑わせてくれる。 また、スーザンの塩辛いボス役を演じたアリソン・ジャニーや、すっとんきょうな同僚を演じた英国の人気コメディアン、ミランダ・ハートも共にベテランらしい達者な笑いを提供、マッカーシーを盛り上げていた。 主人公の大きな体の滑稽さで笑わせるドタバタ・コメディが多い中で、フィグの演出はその難を避け、マッカーシーのコメディアンとしての最良の部分を引き出すことに成功したと言えるだろう。二人の次回作が待たれてならない。 上映時間:1時間57分。シアトルはシネコン等で上映中 [新作ムービー]
ゆるゆると動く三角関係
米国インディ映画らしいラブ・コメディで、脚本/監督はアンドリュー・ブジャルスキ。この名前で「ほーっ」と思う人はかなりの映画通だ。 舞台はヘルス・ジム、主人公は3人。離婚後、突然大富豪になってしまったダニー(ケヴィン・コリガン)と、彼の美人トレーナーのキャット(コビー・スマルダーズ)、そしてジムのオーナーでキャットの元カレ、トレヴァー(ガイ・ピアース)だ。 豪邸に一人で住み、金の使い方が分からないダニーは、健康的な身体を作ろうとキャットを個人トレナーとして雇うが、ピザなど食べてやる気を見せない。やる気まんまんのキャットは我慢強くダニーの元に通うが、ある晩ダニーの誘いに乗って一夜を共に。その後、トレーニングよりも彼女に執着を見せるダニーに嫌気がさしたキャットは逃げ出し、彼女とは元よりワケありだったトレヴァーは客である富豪のダニーを逃したくないし、キャットの気持ちも気になって仕方がない……。 キャットをめぐる三角関係の話だが醜い嫉妬劇はなく、恋の行方というよりは3人の関係がゆるゆると動くロープのように変化していく様子が描かれていく。「ねえ、メイクアウトしない?」と大声でトレヴァーに声をかけるキャットのサバサバした様子など、今時のジムを舞台にした大人同士の出会い/関係ってこんな感じかもしれない。セリフのおかしみ、リアリティこそが本作の身上だ。 ブジャルスキは「マンブルコア(台詞をもごもご喋る映画のスタイル)の父」と呼ばれ、2000年代のインディ系映画の一つのジャンルを代表する監督だ。マンブルコアの特徴は低予算で素人の役者を使い、若い主人公らの狭い日常世界を描くというもので、莫大な予算と特撮を駆使して作られるハリウッド映画のアンチとして、生まれるべくして生まれたジャンルと言えるだろう。 本作はそんな彼の作品の中ではベテラン俳優を使っている点で新境地と言えるが、主人公たちがマンブルしている感じは初期の作品と驚くほど似ている。なるほどブジャルスキはこういう世界を描きたかったのか、と納得。巧い役者を使ったことで、彼の作品世界がくっきり立ち上がった。 ブジャルスキは、インディ系でスタートしてハリウッドの大作へと「ステップアップ」していく監督が多い中で、独自の世界を守りつつ、少しづつ自分の世界を広げていくタイプのようだ。先輩には『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイターがいる。好みが明確に分かれるジャンルであるが、これからのブジャルスキ監督がちょっと気になってきた。 上映時間:1時間45分。シアトルは5日からSundance Cinemas Seattleで上映中。 [新作ムービー]
昨年秋にオープンしたレストラン、ウィラクォチャ・ペルーキッチン(Wyraqocha Peruvian Kitchen) のハッピーアワーに行ってみました。店名は、「風と水」という意味だそう。カラフルな毛糸アートがポイントのインテリアで、小皿料理もオシャレ。女性に好まれそうなお店です。ハッピーアワーのお値段は一品$5 ~ $8 とリーズナブル。カクテルは10 種類($6~8)と豊富です。
ハッピーアワーメニューから注文した食べ物は、ペルーのガカモレにディップして食べるチーズ揚げワンタンのテケノス(Tequenos $5)、チキンとビーフの2種類ありライムを絞りかけて食べると美味なミートパイのようなエンパナダス(Empanadas $6)、参加者に大好評だったトウモロコシ添えの焼き鳥アンティクーチョ・デ・ポロ(Anticucho de Pollo $8)ーーちなみにペルーではアンティクーチョといえば牛の心臓の串焼きのことだそうです。そして、ペルー産の紫芋とチーズのサラダのパパ・ア・ラ・フアンカイナ(Papa a la Huancaina$5)、アヒの辛さに好みが分かれたもののこの日一番人気だったフライドバナナのスティック添えムール貝のライムジュース漬けチョリトス・ア・ラ・チャラカ(Choritos a la Chalaca$8)、黄色いアヒソースが添えられたイカのフライ(Fried Calamari $5)。
このほかにもメインディッシュからイカ、エビ、貝、タコ、白身魚の入ったミクストセビチェ(Mixto Cebiche $18)を注文。飲み物では、ピスコサワー、チチャモラーダ(紫芋の飲み物)、インカコーラ(黄色いコーラ)など珍しいものがありました。
デザートにキャラメルとクッキーのサンドイッチ、アルファホレスボックス(Alfajores Box $7)をいただきましたが、ペルーっぽい箱が可愛らしく、味もおすすめです。ペルー料理は、どれもさっぱりとして日本人の口に合うのが特徴です。
Wyraqocha Peruvian Kitchen
110 Central Way, Kirkland, WA 98033
☎ 425-602-7397
wyraqocha.com
営業時間:火~土 ランチ 12pm~3pm、ハッピーアワー 3pm~6pm、ディナー 6pm~10pm。日 12pm~4pm。月 定休
シアトル近郊在住の日本人が月1 度集まっていろいろなレストランを食べ歩きする「あまから会」の代表。2004 年に発足。会員は40 人以上。同じ店には2 度行かないのがルール。
入会問合せ先:amakaracity@hotmail.com
バンクーバーの街中には桜が4万本以上も植っているそうで、言われてみると我が住居の周りの街路樹もほとんどが桜。花見の名所も多く、スタンレーパークやクイーンエリザベスパークなどはピクニックにも最適だ。
4月12日、「バンクーバー・チェリーブ ロッサム・フェスティバル」の一環としてバ ンデューセン植物園で行われた「桜デー・ジャパンフェア」に初めて行ってみた。バ ンクーバーの桜祭りは、市内の公園やアート・ギャラリー等を会場に4月いっぱい各地でいろんな行事が開催される。例年は吉野種が満開になるのに合わせて夜間イルミネーションも行われるが、今年は2週間も早く開花したため、寒山などの八重桜 を見ながらとなった。
シニア料金11ドルを払って受付の建物に入ると、「バンクーバー生け花協会」の作品が置かれた一室があり、別の一角には切り絵などの工芸品、日本茶、抹茶入り生チョコレート等の販売に交じって在バンクーバー日本国総領事館がテーブルを構え、日本紹介の無料パンフを配ったりJETプログラムの説明を行ったりしている。シアトル総領事館在籍中にはシアトルの桜祭りに主催者側の一員として40年近く関わってきたので懐かしく思い出したが、今年はビジターとして訪問するのと、初めてのバンクーバーの桜祭り体験ということと相まって気分はウキウキ。
同フェアには日本食レストラン10軒も参加し、4月中は「桜メニュー」と銘打って「桜ロール鮨」、「春のデザートと桜茶」などの特別メニューが提供された。メイン広場に向かう途中には、木材工芸、日本酒の試飲会、俳句講座、アニメやTVジャパンのテントがあり、見慣れたアニメのキャラクター 衣装をまとった若者が集まっていた。芝生の真ん中に設置されたステージでは若い女性が日舞を披露中。食べ物の屋台、フードトラックが10軒以上並んでおり、どこも大忙し。私は懐かしさも手伝って、たこ焼き(6個 $5)と、タコの代わりにエビとホタテ貝が入った「大阪焼き」(7個 $7)を買って昼食代わりにした。「大阪焼き」は聞いたことがなかったので「大阪名物?」と尋ねたら独自の発案といわれ苦笑い。まあそれもいいではないの。
昼食後は、バンクーバーで人気の居酒屋「Guu」のシェフがオリジナルスープ の調理方法を英語で教えるデモンストレーションを、最前列に座って見学。ここで教わったチキン、野菜、和風スープ3品の作り方を、忘れる前に我が家で作って試食してみたく、シアトルの友人の来訪を手ぐすね引いて待っているところ。
[カナダで再出発]
『Avengers: Age of Ultron』
マーベルコミックスのスーパーヒーローを集めて、地球破壊を目論む敵と闘うという内容で全世界で大ヒットとなった 2012年の『アベンジャーズ』の続編だ。内容は変わらず、前回の敵はロキという宇宙人だったが、今回の敵は高度に発達した人工知能ウルトロン(声:ジェームズ・スペイダー)だ。 地球の危機を救うためアイアンマン(ロバート・ダウニー・J r)、キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)、ハルク(マーク・ラファロ)、ソー(クリス・ヘムズワース)、ブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)、ホークアイ(ジェレミー・レナー)が結集。と、聞こえは良いが、ヒット作を連発しているマーベル・スタジオズもネタ切れ、スーパーヒーローの叩き売りか、という先入観をもった 1 作目だったが、意外と面白かった。
『A Girl Walks Home Alone at Night 』
そんなある晩、彼女は、父の介護をしながら愛車を友に生きる若者アラシュ(アラシュ・マランディ)と出会い、2 人は恋に落ちていく……。 物語を語ろうというより、出口のない小さな町で生きる閉塞感や憂鬱を、優れた映像感覚とレトロなムードたっぷりに見せていく作品だ。バンパイアを主人公に据えることで鮮烈でホラーっぽいテイストも加味されてはいるが、ホラー映画とは言えないだろう。 若い女は、ウェイトレスでも住んでいそうな貧しげな部屋で、ヒップなポスターや装飾に囲まれ一人暮らし。夜な夜な太いアイラインを引き、ストライプの Tシャツを着て夜の町へ出かける。バンパイアは昼間、棺桶で 寝ているはずだが、イランのバンパイアはアパート住まいだ。 それにしてもイラン女性がまとうチャドルをバンパイアの衣装に使ったアイディアは卓抜している。あの真っ黒で大きな布の下に何が潜んでいるのか? 想像力がぐんぐんと広がり、飛躍していく。 脚本/監督は英国生まれで米国育ちアナ・ リリー・アミルプールで、本作が初長編作品。イラン女性が初めて作ったバンパイア・ウェスタンという触れ込みだが、私見を言えばフェミニスト・バンパイア・ウェスタンである。彼女の餌食になるのは、女に暴力を振るう男や買春をする男で、孤独な売春 婦アティには親近感を抱き彼女の部屋まで ついていく。この先どうなるだろうと思ったあたりで男との恋へと転じて、平凡な着地点にストン。これはちょっと残念だった。せっかくチャドルをまとったバンパイアを造形したのだから、あの布の下にため込まれてきたイランの女達の思いをもっと表現して欲しい気がしてならなかった。 イランの女性監督作品というとパリ在住のマルジャン・サトラピの『ぺルセポリス』が以前話題になったが、作品としては本作の方がオリジナリティがあって刺激的ではあった。 上映時間:1 時間 44 分。DV D もしくはiTune Movie などのオンライン・ストリーミング視聴可能。 [新作ムービー]